アスカはスクッと立ち上がる。
そしてシンジに向き直ると改めて挨拶する。
その中で、一ヶ所だけアクセントを強調した・・・・
「これからよろしく!シンジ!」
「しかしシンジの奴、どないしたんやろ」
シンジの住むマンションのエレベーターに乗っているトウジとケンスケ。
「学校休んでもう3日だよ」
チン!
軽やかな音を立てて二基のエレベーターのドアが開く。
反対側のエレベーターからヒカリが降りてきた。
「あれ?イインチョやんか」
「あら、2バカじゃない」
トウジはそれを聞くとガクッとくる。
「あんなあ、イインチョ・・・・ワシらたいがい3人でつるんどる。もう一人はもちろんシンジや・・・・なんでワシとケンスケをくくって”2バカ”なんや?・・・・言ってみりゃあシンジも入れて”3バカ”やろうが」
ヒカリは大きなため息をひとつ。
「あのねえ・・・・碇君は、成績優秀、スポーツ万能、人当たりも良くてみんなに好かれてるわよね?」
「そうやな」
「そんな碇君にどうして”バカ”なんてあだ名を付けられるのよ?」
「シンジって勉強も出来るのか?」ケンスケがちと的外れなことを聞く。
「知らないの?・・・・碇君、転校してきてから学年トップをキープしてるのよ?」
博士号まで持っているシンジには中学校の試験はどのように思えるのだろう?
「ふえー・・・・知らなかった・・・・」
「そーいやイインチョ、なんでここにおるんや?」
「惣流さんのお見舞い。あなた達こそどうしてここに?」
「碇君のお見舞い」
三人は通路をテクテクと歩いて、”葛城”と表札の掛かったドアの前で止まる。
「「「なんでここで止まるの(んや)」」」
なぜか同時にチャイムを押してしまう三人。
「「はぁーい」」ドアの向こうからは重なった声が聞こえてくる。
それを聞いて、トウジとケンスケは怪訝そうに顔を見合わせている。
プシュッ!
ドアが開くと、そこには揃いの服を着たシンジとアスカがいた。
思いっきり引くトウジとケンスケ。
「ウッ・・・・裏切りモン!」
「い、今時ペアルック・・・・・イヤーンな感じ・・・・」
そう言われて自分達の格好に気がつく二人。
レオタードにTシャツ。
「似合う?」これはアスカ。
ヒカリはワナワナと震えている。
「ふ・・・・フケツよ!二人とも!!」
「「なにが?」」
「『なにが?』じゃないでしょう!」ヒカリは泣きながらイヤイヤしている。
「あら、いらっしゃい」
反対側の通路からミサトが現れた。
傍らにレイを連れている。
トウジは一歩進み出て背後の惨状(?)を示し、
「これは一体、どーゆーコトか説明してください」
「わはははははは!」「あはははははは!」
部屋の中は笑いの渦が巻き起こっている。
「そんならそうと、はよ云うてくれりゃあよかったのに」トウジが笑いながらつっこむ。
「で、ユニゾンはうまくいってるんですか?」
「ご覧の通りってトコかしらね」
リビングの中央ではシンジとアスカがツイスターをしている。
点数も表示されるようで、コンスタントに90点台前半をたたき出している。
端から見ればなかなか息はあっているように見える。
「えー調子やないですか」
だが、ミサトの顔は晴れない。
「うん・・・良いとは思うんだけど、これじゃダメなのよ・・・・今回要求されてるのは”完璧な”ユニゾンなのよ」
その証拠にシンジとアスカの顔もどこか苛立たしげだ。
一通り終わったところでミサトが二人に声を掛ける。
「一休みしましょう・・・・外の空気に当たってきなさい」
「ふん!」
「クソッ!」
捨てぜりふが二人の精神状態を表わしている。
「集中力は必要だけど、適当に力を抜くことも知っておかないと本番前に倒れちゃうからね」
シンジはそれを聞いてフッと肩の力を抜くと、アスカを促して外へ出る。
「実際んトコ、どーなんでっか?」
トウジが心配そうにミサトにたずねる。
「んー・・・アスカの方はまあ、ちゃんとリズムを守ってシンちゃんに合わせようとしてるから問題ないのよねぇ・・・・問題があるとすればシンちゃんの方ね」
「碇君が?」学校での立ち回りを見て、てっきりアスカがシンジの足を引っ張っているのだろうと予想していたヒカリはビックリする。
「ええ・・・・シンちゃんは責任感が強いから・・・・『どうにかしなきゃ』って逸る気持ちがリズムを狂わせてると思うわ」
シンジとアスカはコンビニでジュースを買い込んでトボトボと歩いていた。
「アスカ、ごめんね・・・・」シンジがぼそりとつぶやく。
わかっていたのだ。
自分が訓練において邪魔になっていることに。
「・・・・・・・・・・・・」
アスカはあえて何も言わない。
そうこうしている内に二人は公園に着いた。
デートスポットとして有名な『街の見える丘公園』だ。
ここからは第三新東京市が一望できる。
すでに太陽は大きく傾いてオレンジ色の光を放っている。
シンジが俯いたまま口を開く。
「もし、このままの状態が続くようなら・・・・ミサトさんに言って初号機には綾波に乗ってもらうよ」
「!?」
シンジは基本的にローンウルフなのだ。
自分一人でなんでもしてきた。
そしてそのことはシンジに自信を与えていたのだが・・・・
それがここへ来て裏目に出た。
シンジは自力で物事を解決してきた代償として、他人との協調ということをあまりしたことがない。
「・・・・シンジ・・・・」アスカがそんなシンジの肩に手を置く。
「お笑いだよね・・・・自分ひとりでなんでもやってきたつもりだったけど・・・・肝心な時に役立たずだなんて・・・・」
「違う!シンジは役立たずなんかじゃない!!」
アスカがシンジの言葉を遮るように叫ぶ。
「?」
シンジは不思議そうな表情でアスカを見る。
会って間も無いアスカがそんなに自分のことを知っているとは思えない・・・・そんなことを表情が物語っている。
アスカはその表情を読み取り、言葉を選びながら喋る。
「シンジ・・・・話してよ」
「何を?」
「アンタが知ってる、アタシみたいな娘の事よ」
「ああ、そのこと」
シンジは急に話が切り替わったので不思議そうな顔をしている。
「・・・・会ったことはないんだけどね・・・・きっかけはインターネットなんだ」
シンジがひとこと話すたびにアスカはどきどきしていた。
「会った初めの時はものすごくキツい娘だなあって思ったんだけど、そのときちょうど心理学の勉強を始めたばかりで、チャットに出てくるその娘の文章を見ているとわかるんだ」
「なにが?」
シンジはちょっと逡巡する。
これから先を言って良いかどうか迷っているのだ。
「安心して。この場での話は口外しないわ」
シンジはホッとしたように、
「・・・・傷を負ってるんだよ・・・・心にね」
「・・・・・・」
「だから、僕がその傷を癒す手助けが出来れば、と思ったんだ・・・・」
「で、うまくいったの?」
「わからない・・・・ここの所メールを出しても返ってこないんだ・・・・なにかあったのでなければいいのだけれど・・・・」
遠くを見つめるようにしてつぶやくシンジ。
こんな所にもシンジの優しさがあらわれる。
アスカは胸の辺りが熱くなるのを感じていた。
そして言葉を紡ぐ。
「ふーん・・・・最後のメールは?」
「えーと・・・アスカに会う直前かな」
「なんて書いてあったの?」
「近々日本に行くから案内しろって」
それを聞くとアスカはシンジの耳元に唇を寄せる。
「じゃあ、今度の日曜にでも案内してよね♪」
シンジの知性あふれる脳細胞がフル回転しても、状況把握に5秒。
「ええええええええ!!!!!!!!」
「なんか昨日からそればっかりね」アスカが微笑みながらいう。
「だ、だって・・・・」
続く言葉が出てこないシンジ。
アスカはシンジを見つめているが、その瞳が急に潤んだかと思うとボロボロと涙がこぼれる。
するとアスカはシンジに抱き着く。
声を上げて泣きながら・・・・
「逢いたかった・・・・逢いたかったよぉ!・・・・」
普段の気の強いアスカからは想像もつかない情景だ。
これがシンジがアスカと長い間メールをやり取りした成果だ。
シンジはそんなアスカの背中に腕を回して優しく抱き締める。
「僕もだよ・・・・やっと逢えたね」
アスカはシンジの胸で泣くだけ泣くと落ち着いたようだ。
シンジの胸から離れるが、まだその瞳は真っ赤だ。
頬にも涙が残っている。
シンジが両手の親指でアスカの涙を拭う。
「・・・・アスカはいつからわかってたの?」
「んーとねえ・・・・直感としては逢った瞬間かしら・・・・『どこかで逢った気がする』ってね」
「あ、それなら僕も同じだ」
「ふふふ!・・・・やっぱりアタシ達は出会う運命だったのよ」
シンジはそれには答えず、アスカの手を握り締める。
アスカは真っ赤になるが、誤魔化すように、
「あ、いっけない・・・・あんまりサボってるとミサトが角出すわよ」
「そうだね・・・・いまなら100点出せそうな気がするよ」
「当ったり前じゃない!アタシ達は最強のコンビよ!」
胸を張ってアスカが断言する。
「じゃあ、帰ってみんなに最強たる証を見せてあげようか?」
シンジが笑いながらいう。
アスカはシンジに飛びついてその腕にしがみつく。
「うん!」
家に帰った二人は当然のごとく100点を連発してミサトを驚かせた。
それよりもなによりも、アスカが『ふにゃぁ』とした表情でシンジにぴったりくっついているのを見て皆はさらに驚いた。
そして対抗意識を持ったのか、レイがアスカとは反対側のシンジの側に寄り添って離れなかった。
ケンスケはそれを見て、
「なんでアイツばっかりぃ・・・・」
それはもう、まるで血の涙を流さんばかりに。
シンジとアスカは翌日からさらに特訓を始めるのだが・・・・
はっきり言って6日間もいらなかった。
なにせ、やろうと思えばすべての動作を完璧に合わせることが出来る。
音楽に合わせ、ツイスターの上で踊る、踊る。
寸分たりとも狂いはない。
ミサトが二人にリビングでダンスを踊らせたら、ステップなど全く知らないのに見事にこなした。
双子でもこうはいかない、というぐらいに。
予想外に順調に進んだので最終日には実際にエヴァを使用した訓練も行った。
ネルフ本部内、第二実験場。
「ねえ、ミサトぉ」弐号機のエントリープラグに収まったアスカ。
隣には初号機がいる。
《なに?アスカ》
「動きを合わせるのはもーいーんじゃないのぉ?」
《・・・・じゃあ何するのよ?》
「こうするのよ!」アスカはそれだけ言い放つと、初号機の腕を取る。
「あ、アスカぁ!?」初号機のシンジは面食らいながらもしっかりついていく。
あろうことかアスカは2機の汎用人型決戦兵器を使ってダンスを始めた・・・・
「シンジ!ケーブル切り離すわよ!」
「おっとっと!」
シンジはなんとかアスカの動きについていく。
いきなり腕を取られて引っ張られれば誰でもこうなってしまうだろう。
そして、一瞬の後に落ち着く、
「うまくついていけるかわからいけど・・・・いつでもいいよ!」
確かにアンビリカル・ケーブルを繋いだままでは踊れるはずもない。
《アンタ達、本気!?》ミサトがインカム越しに悲鳴を上げる。
「当然!」「まあ、いいじゃないですか。これぐらい」
後始末を手配するミサトは頭を抱えている。
「へー・・うまいですねぇ・・・二人とも」
マヤが暢気にいう。
「エヴァでタンゴねぇ・・・・マヤ、一応データを取っておいてね」
初号機と弐号機は音楽が聞こえてきそうな程見事な踊りだ。
「じゃ、音楽かけまーす」なにをトチ狂ったか、本当にミュージックをスタートさせてしまうマコト。
スピーカーから流れ出てくるのは・・・・タンゴといえばコレ。不朽の名曲「El・choclo」
テンポのよいリズムが実験場を満たす。
初号機は見事に弐号機をリードしている。
「・・・・いや・・・・ねえ・・・・見事ってーのはわかるけど・・・・なんかヘンな感じよねぇ・・・・」ミサトの感想。
ミサトの言うとおり見事なことは見事なのだが、華麗なステップを踏む度に管制室にまで震動がくる。
「コレ一曲でやめときなさいよ!」
そしてその日の夜・・・・・
「シンジぃー・・・ミサトは?」
バスルームから上がったアスカはタオル一枚という過激な格好で歩き回る。
シンジは極力そちらを見ないようにしながら、
「シゴト。今夜は徹夜だってボヤいてたよ」
それを聞いたアスカは、まるで獲物を見つけた豹のようにニヤリと笑う。
「じゃあ今夜は二人っきりってワケね!」
「今夜も何も部屋に入ったらずっと二人きりじゃない」
一週間前から二人は同じ部屋で暮らしている。
アスカはベッドに、シンジは床に、だが。
ミサトはこの状態をどう見ていたのか?
実を言うと・・・・まったく気付いていなかったのだ。
シンジの性格から考えて、アスカに部屋を明け渡して自分はリビングで寝ているだろうと独り決めしていたのだ。
「ま、まあそれはそうだけど・・・・」
『邪魔物がいない!今夜こそはシンジの布団に!』
こんな事を考えているとはシンジは夢にも思わない。
「さ、明日は早いだろうからもう寝ようよ」
シンジがそういうと、アスカは待ってましたとばかりに、
「そうね!寝ましょ!」危うくスキップしてしまいそうになるのをなんとか堪えながらベッドに潜り込んだ。
シンジはなにかイヤな予感がしたが、とりあえず床に布団を敷いて電灯を消して眠りに就く。
1時間後
「シンジー・・・・もう寝た?・・・・」
シンジから返事はない。
もう完全に熟睡したようだ。
アスカはそーっとベッドを抜け出すと、とりあえずシンジの枕元へ。
シンジの顔をまじまじとのぞき込む。
シンジの顔を見ていると、自分の顔がほころんでくるのがわかる。
「ふふっ!・・・・・シンジに出会う前のアタシだったら・・・・こんな気持ちになんかゼッタイならなかったろうな」
アスカはそういいながら、布団に潜り込もうとして掛け布団をめくったその瞬間!
「きゃあ!!」
完全に熟睡していたはずのシンジがいきなり起き上がり、アスカの腕をひねり上げて組み敷いてしまった。
「いたたたたたた!いたぁい!!」
腕を背中にひねられるのは結構痛い。
「あれ?アスカァ?」半分寝ぼけた声で。
どうやらアスカを”敵”と認識していたようだ。
「『あれ?』じゃないわよ!早く離してってば!!」
シンジはアスカの腕を解放すると、
「あんまり驚かせないでよ・・・・おやすみぃー・・・・」
そういうとシンジは頭を枕に落として寝てしまう。
アスカが気付いた時には既に寝息を立てていた。
「・・・・アンタってどんな生活送ってんのよ!?」
それはもう、阿修羅のごとき生活である。
「はー・・・痛かった・・・・」
手首をさすりながら改めてシンジの隣に潜り込む。
その時一瞬アスカの脳裏に閃いたのは。
『このまま裸で潜り込んで明日の朝、「責任取ってね♪」とにじり寄る』という過激なものだった。
しかし、あまりにも露骨なのでその案は自分で却下した。
とりあえず今はシンジの隣で眠るだけで我慢しておくことにした。
シンジと向かい合うようにして横になるアスカ。
シンジの寝顔がすぐそこにある。
「ふふ!・・・・寝てるとカワイイわね」
喉元過ぎれば熱さ忘れる。
手首の痛みをもう忘れたようだ。
シンジの唇がイヤでも目に入ってくる。
意識してはいないのだが、だんだんと自分の顔がシンジのそれに近づいていく。
「・・・もう・・・・起きてこないわよね?」
シンジに対する言葉というよりも、自分への確認の言葉のようだ。
アスカの動悸はみるみる速くなり、頭に血が上ってくる。
数ミリづつ、じりじりとシンジの唇を目指すアスカ。
あとほんのわずか、というところで・・・・
「うーん・・・ムニャ・・・・」シンジの口から寝言が漏れる。
アスカは口から心臓が飛び出しそうになった。
「ムニャ・・・・あ・・・・・」
『あ?』
「・・・・あすかぁ・・・・ムニャムニャ・・・・・くぅー・・・・」
シンジはそれだけの寝言を漏らすと、また安らかに眠ってしまった。
アスカはというと・・・・
泣き出しそうなほど瞳を潤ませていた。
顔は・・・・というよりも体中が上気している。
シンジを今すぐ抱き締めたい、という衝動を必死に抑えていた。
気を抜くと手が動いてしまいそうになる。
自分の体を抱きしめて耐える。
アスカは深呼吸をして気を落ち着かせると、シンジから少し離れる。
『今日はこのまま寝よう』
そう考えてそのまま目をつむる。
目をつむったら、なぜか気分が高揚してきた。
いうなれば”幸せな高揚”というものだろう。
アスカは14年間生きてきて、これほど幸せな気分になったのは初めてだった。
睡魔が襲ってきてアスカの意識を奪う直前、最後に思ったことは・・・・
『・・・・今日はいい夢が見られそうね・・・・』
明けて翌日。
再生が終了した使徒はミサトの読み通り、今度はネルフ本部に向ってまっすぐやってくる。
「ねえ・・・・音楽はタンゴでいくの?」ミサトが少し不安そうにたずねる。
《いいわよ、なんでも》
《ええ、今なら何が来ても大丈夫ですよ》
「あ、そう・・・・・んじゃあ訓練の最初でやった曲を使うわ」
「目標、ゼロ地点に到達します!」モニターを凝視していたシゲルが叫ぶ。
「んじゃ行くわよぉ・・・・外部電源、パージ」
その声と共にアンビリカル・ケーブルがソケットごと切り離される。
ミサトは小さく息を吸う。
「発進」
運搬用カタパルトで2機のエヴァがはじき出されると同時に音楽が始まる。
ピアノの音が聞こえてくると、初号機と弐号機はいつものように地表で止まるのではなく、そのままの勢いで空中に放り出されていた。
1回転して棒状のモノを投げる両機。
使徒はなんなくそれを払い落とす・・・・が、
地面に突き刺さった二本の棒に光のスクリーンが張られ、使徒を両断する。
次の瞬間、使徒は二体に分離していた。
ピアノ以外の音が聞こえるようになると、初号機はパレットガン。弐号機はポジトロン・ライフル(ネルフ製、野戦仕様)を撃ちまくっていた。
効かないのは先刻承知。
目眩ましである。
二体の使徒がこちらを向くと2機とも武装を放り出す。
そして使徒の目(?)が光り、怪光線が飛んでくると、それをバック転でかわす。
バック転の最後でそれ自体がスイッチになっている踏み板に飛び乗ると、1200pの厚さを誇る特殊装甲板が一瞬のうちにせり上がり、光線をブロックする。
大きく歪んだ装甲板の裏にセットしてあったパレットガンを取り出して射撃。
使徒が弾幕をかわすようにして飛び上がると、2機のエヴァは転がるようにして退避。
今までエヴァがいたところが装甲板ごとズタズタに切り裂かれる。
曲がクライマックスに近づいた事を確認するとミサトは援護射撃を命ずる。
山肌や、ビルの谷間から打ち出されるミサイル。
周囲の地形が変わるほどの量が放たれる。
隙を見た初号機と弐号機は素早くそれぞれが使徒の眼前に位置すると、渾身の右アッパー。
そして寸分の狂いもなくタイミングのあった上段の回し蹴り。
吹き飛ばされた使徒はたまらず1個の個体に戻る・・・・
しかし、コアの融合は間に合わない・・・・
「チャンス!」「好機!」
アスカとシンジはそれぞれ一言だけつぶやくと、その場から一気にジャンプする。
初号機の右足、弐号機の左足が狙うところは・・・・もちろんコア。
融合までコンマ1秒というところで、紫と紅の足は見事にそれを蹴り抜く。
使徒が受け止めきれなかった運動エネルギーは、惰性という形で山をかけのぼり・・・・
山の頂点あたりに達したところで・・・・・爆発。
《エヴァ両機、確認!》
発令所の大型モニターには巨大な爆発坑のふちに立つ初号機と弐号機を映し出していた。
シンジとアスカは爆発前、惰性が無くなる直前に使徒の体を蹴るようにしてジャンプし、距離をとったのだ。
「シンちゃーん・・アスカー・・・だいじょうぶー?」
ミサトがあまり心配してなさそうな声でたずねる。
《ええ、僕の方は機体共々問題ありません》
《アタシの方もオールOKよ!》
「じゃあ、そこで少し待っててね。回収班を行かせるわ」
《あ、ミサトぉ・・・・アタシ、シンジの所に行くから・・・・あとヨロシク!》
「・・・へ?・・・」
そして弐号機は腕を初号機の肩に置く・・・・
「弐号機のエントリープラグが排出されます」
「ええぇ!?・・・・ちょっとアスカ!なにするつもり!?」
「か、葛城さん・・・・アレ・・・・」
真っ青になったマコトがそう言って指さしたのは、エヴァ両機を映し出している大型モニター。
「なに?」
「アスカちゃんが・・・・」
「・・・げ!!」
プラグから這い出たアスカは弐号機の腕を伝って初号機に向かっているのだ。
落下したら命はない。
「ああああああ!!!」
だが、皆がオロオロしている間にアスカはひょいひょいと2機の間を渡り終える。
すぐに初号機のエントリープラグも排出される。
ハッチを開けて中に飛び込むアスカ。
「アスカ!!」シンジが珍しく怒鳴る。
笑顔で迎えてくれると思っていたアスカはちょっとビクッとする。
「なんであんな危ないことするの!?・・・・落ちたら死んじゃうんだよ!」
シューンとなるアスカ。
「ご、ごめん・・・・シンジの顔が見たかったから・・・・」
シンジは怖い顔をしてアスカを睨んでいたが、ふっと表情をゆるめ、微笑む。
「もうあんな真似しちゃダメだよ?」
アスカはパッと笑うとシンジの胸に飛び込む。
「えへへー・・・・シンジ!やったね!」
「ん、まあ・・・・とりあえずはOKかな?」
「んもー・・・”とりあえず”ってなによぉー」
『ゴロニャン』という擬音が聞こえてきそうなほど、シンジの胸の中で丸くなるアスカ。
一方、発令所では・・・・
『なによあの赤毛猿は!私達のシンジ君にベタベタしてぇ!!!』ネルフ本部内秘密結社『シンジ君の貞操を守る会』の皆様の怨嗟の声。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」レイの殺気のこもった、それでいてどことなく羨ましそうな視線。
「あいやー・・・・」これからあの二人の保護者になるのかと思うとちょっぴり頭の痛いミサト。
『アスカ・・・・あなたには新薬の実験台になってもらいましょうねぇ・・・・フフフ』リツコの(ある意味”いっちゃった”)思考。
『『はあ・・・・14歳の子供が彼女持ちで、なぜオレには彼女がいない!?』』オペレーターの野郎二人組、魂の叫び。
『きゃあぁー!純愛だわあ!』なにか勘違いしているマヤ。
アスカはこの暴挙(?)により数多くの敵を作ってしまったのだが・・・・
「ねぇ、シンジぃ」
「なに?」
「んふふー・・・呼んだだけぇー!」
目尻を下げまくってシンジの胸に顔をこすりつけている現状では他のことはどうでもいいらしい・・・・
精密検査も済んで家に帰ってきたシンジ。
時刻は午後7時。
まだ検査の終わっていないアスカを待っていようかと思ったが、実戦でのデータ量が少ないアスカは長くかかるとのことで、夕飯の支度も考えて先に帰ってきた。
ミサトは残務処理に追われて今日は遅くなると伝言があった。
「さーて・・・今日は使徒撃滅記念だから少し豪華にいこうかな?」
冷蔵庫を眺めつつそんなことをつぶやくシンジだが・・・・
・・・・・・・・ピンポーン・・・・・・・・
玄関のチャイムが鳴る。
「・・・?・・・・こんな時間になんだろう?」
エプロンを身につけながら玄関に向かうシンジ。
「はーい」
「クロ○コ宅配便でーす」
玄関が開き、緑のストライプの作業服を着た青年がやや大きめな荷物を差し出す。
温州みかんと側面にでっかく書かれた段ボール箱だ。
「碇さんですか?」
「はい、そうです」
「じゃ、ここにハンコをお願いします」
「はいはい」
伝票を受け取って判を押す。
「はい、どーもありがとうございました!」
「ごくろうさまー」
みかん箱の段ボールを抱えて自室まで運ぶ。
「結構重たいなあ・・・・みかんってこんなに重かったっけ?」
伝票を見ると、差出人は・・・・野分ユウジ。
それを見て何かイヤな予感がするシンジ。
とりあえず段ボール箱を開くと、中からほぼ同じ大きさのジュラルミンケースが出てきた。
さらにイヤな予感が増すシンジ。
ケースを開く・・・・・・・・・
そこにあった物に驚きはしたが、見慣れない物ではなかった。
角張ったグリップ。
長く伸びたスライド。
螺旋の刻み込まれた銃口。
見やすい照星。
弾倉からのぞく短く太い弾。
側面に刻まれた『Hk』のロゴ。
アメリカに行った時にこれの分解結合、射撃は死ぬほどやらされた。
SOCOM
合衆国の特殊戦軍団がドイツ、ヘッケラーアンドコッホ社に製作を依頼した特殊部隊専用サイドアーム。
Hk、Mk23。(※)
通称SOCOM PISTOL(ソーコム・ピストル)。
45ACPの死の使いをはじき出す自動拳銃だ。
銃本体の他にも予備の弾倉、消音器、アタッチメントのレーザーポインター、ホルスターなどが入っていた。
中には手紙などは入っていなかったが、シンジにはわかった。
これを使用しなければならない事態が近づいているのだ・・・・・
重くて扱いにくいシロモノだが、技量があれば問題はない。
シンジにはもちろん”死神”仕込みの技量がある。
シンジはソーコムを取り出す。
その顔付きはアスカなどに見せている優しいシンジの顔ではなかった。
弾倉を一つ取り出してグリップに叩き込む。
金属がこすれあい、ぶつかり合う音が静かな部屋に妙に響く。
レーザーポインターも取り出してセッティングする
コレは試射を行って調整をしなければならない
それが終わると、スライドを思い切り引いて、離す。
スライドは勢いよく戻り、1発目が薬室に装填された・・・・
スタンディングでソーコムを構える。
レーザーポインターも動かす。
壁に紅い点があらわれる。
今、トリガーを引けば、壁には0.45インチの穴が空くはずだ。
壁を睨むシンジの横顔は、まさしく”男”・・・・・いや、”戦士”のそれだった・・・・・・・・・
あ・と・が・き
みなさまこんにちわです。
P−31です。
Bパートをお届けします。
さて・・・・相変わらず、戦闘シーンへっぽこですね(笑)。
ヘタなんです。許して下さい(爆)。
それと、アスカ様もどんどんへっぽこになっていくよーな気がして・・・・なんででしょう?(笑)
あんまりこんなこと言うとまたボコボコにされますのでこのへんにしときます。
最後には男らしいシンジ君も(ちょろっと)見れましたね。
さて、ここでお詫び。
諸般の事情により12月中旬まで更新ができなくなります。
大変申し訳ありません。。
ですが昔から「働かざる者食うべからず」と申します。
そーです、仕事しに行くんです。
今度は海外へ行くので長めです。
では、次回予告ぅー・・・・の筈なんですが、今回は諸般の事情によりお休みします。
それでは!第10話でお会いしましょう。