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壁を睨むシンジの横顔は、まさしく”男”・・・・・いや、”兵士”のそれだった・・・・・・・・・






















It’s a Beautiful World
第10話「デプス」
(A−part)



























「シンジと買い物だから楽しいんだけどねぇ・・・・」

町中をシンジと連れだって歩くアスカだったが、どこか表情が冴えない。

シンジの左腕にぶら下がっているアスカの視線を追うと・・・・

右腕にぶら下がっているレイの姿が見える。

真ん中のシンジは歩きにくくてしょうがない。

さっきも、

「あー・・・・歩きにくいからさ、もうちょっと離れて歩かない?」

というシンジの提案も、

「「だめっ!!!」」と、即座に却下されてしまった。

そんなわけでシンジは見目麗しい少女二人に両脇を固められて歩く羽目になった。

しかも繁華街を。

人目を引くこと甚だしい。

町ゆく人から好奇の視線が向けられる。

いや、正確ではなかった・・・・

女性からは少女二人に、男性からはシンジにそれぞれうらやましそーな視線が飛んでいる。

三人は修学旅行のための買い物に来たのだ。




ちなみにシンジはかなりゆったりした黒いジャケットを羽織っている。

腰にぶら下げているHk・M23・・・・ソーコムを隠すにはこれぐらいでないと隠しきれないのだ。

45口径の軍用拳銃は隠すところを苦労するほど大きい。





「行けるかどうかまだわからないのに・・・・」

シンジがつぶやく。

「どうしても行くのよ!オキナワでスキューバしたいんだから!(ホントはシンジと一緒にしたいんだけど)」

「・・・・碇君と一緒に行きたい・・・・」

アスカとレイはそれぞれ、どーしても行きたいようだ。

そして三人はデパートのスポーツ用品売場の一角へ。

「いぃ!?・・・・ここって水着売場じゃないの!」

しかも女性用の水着しか並んでいない。

男性が立ち入るにはチト勇気がいるところだ(下着売場よりはマシだろうが)。

「シンジー・・・これなんかどう?」

アスカが持ってきたのはワインレッドのビキニ。

「ちょ、ちょっとそれは・・・・」さすがに引くシンジ。

「えー!?・・・・今時これくらいあったりまえよお」

「・・・・碇君・・・・どう?」

おずおずとレイがハンガーに掛けられた水着を持ってくる。

それは真っ白なワンピースタイプ。

シンジは大きくうなずく。

「うん・・・・よく似合うと思うよ」

当然アスカは面白くない。

「むう・・・・ファースト!試着するわよ!」

そう言い放つとレイを引っ張って試着室に入る。















試着室のカーテンが閉められると、シンジは顔付きを一変させる

感情を消し去った冷徹な表情に・・・・

アスカとレイは気付いていないが・・・・



尾行されていた。



それも一人ではなく数人のチームで。

諜報部の監視の目をくぐり抜けながら尾行しているのだ。

かなりの手練だろう。

シンジは周囲に全神経を払いながら試しに水着売場を離れてみる。

すると尾行者はシンジのあとをつけているようだ。

何も気付かないフリをして、デパートの従業員用階段に入る。

そして入ってすぐのところにある段ボールの影に隠れる。

音もなく階段への扉が開かれる・・・・・

入ってきたのは20代後半と思われる特徴のない、どこにでもいそうな青年だ。

「・・・・・・・・・」

周囲を見渡しているようだ。

「チッ!・・・・」それだけ吐き捨てると着ているジャケットの袖口を口元に持ってくる。

「こちら”5”・・・・目標”T”をロストした」どうやら袖口に通信機が仕込んであるらしい。

”T”とは”Third”のことか。

「・・・・ああ、そうだ・・・・”F”と”S”については”7”が監視中だ・・・・」

おそらくレイとアスカのことだろう。

「・・・・・・・了解・・・・・”7”と合流して監視を続ける・・・・」

シンジは腰からソーコムを引き抜いて男の後ろに音を立てずに近づく。

そして後頭部に銃口を向けて・・・・






「そこまで」






その声を聞いて件の男は死ぬほど驚いたらしい。

慌てて振り向く。

そして黒い銃口と対面する。

「ウッ!!」

「動かないで下さいね・・・・・まだ死にたくないでしょう?」表情を消したシンジが冷たい声でいう。

すると男はバカにしたように、

「ハン!・・・・ガキの玩具じゃないぞ、それは?・・・・撃てるのか?」

「試してみますか?」

そう言ってシンジはソーコムのLAM(レーザー・エイミング・モジュール)を作動させる。

男の眉間に紅い点があらわれる。

「!!!」

そしてシンジは畳みかける。

「さあ・・・・あなたは僕の目を見ていると眠くなります・・・・だんだんと・・・・」

男はシンジの瞳から視線を剥がそうとするが、目の前の銃口と紅い光が心理的なプレッシャーになっている。

「眠くなります・・・・立っていられなくなります・・・・・さあ、もう眠りましょう・・・・」

シンジが囁きかけるように言うと、男の瞼がゆっくりと降りてくる。

「・・・・おやすみなさい・・・・」

最後にシンジが囁くと、男は前のめりに倒れようとする。

「おっと!」

シンジが受け止めて壁際に座らせる。

「さあ・・・・あなたは誰ですか?」

シンジは心理学を学んだときに、催眠療法も学んでいる。

催眠療法を扱うには催眠術の術も知らなければならない。

その応用だ。

このように簡単にかかるようなものではないが、シンジには出来るのだ。

男は自分の名前をうとうとした声音で答える。

「それではあなたは何者ですか?」

「・・・・・・・・・フリーの調査員・・・・・・・」

「なにを調べていたんです?」

「・・・・・・・・・中学生三人の履歴調査・・・・それと24時間の監視・・・・・・」

「クライアントは?」

「・・・・・・・・・・スパングルド・インターナショナル・・・・・・」

「なんの会社ですか?」

「・・・・・・・・・・外資系の総合商社・・・・・」

『あとでミサトさんに聞いてみるかな』

「では、あなたのような人はあと何人いますか?」

「・・・・・・・・・・・・1チーム5人が4チーム・・・・20人だ・・・・」

「皆さん雇われているんですか?」

「・・・・・・・・・・・・」男は眠そうにこっくりとうなずく。

シンジは聞くことは聞き終えた、とばかりにひとつ頷く。

「・・・それでは、あなたは扉が閉まる音がしてしばらくすると目が醒めます」

男は完全に寝入っている。

「目が醒めたとき、あなたはこのやりとりをきれいさっぱり忘れます」

そういうとシンジはゆっくりと立ち上がり、階段から立ち去る。

大きく開かれた扉がゆっくりと閉まっていき・・・・・無機質な金属音を立てて完全に閉まる。





「・・・・・・あれ?・・・・オレいつのまに寝たんだろう?・・・・おっかしいな・・・・」





男は首をひねりながら立ち上がり、仲間と合流するために歩き出す・・・・・




















勢いよくカーテンが開かれ、水着の美少女二人があらわれる。

「じゃじゃーん!どお、シンジぃ♪」アスカの見事なプロポーションに朱のビキニが良く映えている。

「・・・・・・・・・・・・・・」レイは真っ赤になっている。

しかし、レイもその細身の体に、まるで彼女のためにあつらえたとしか思えない純白の(透けない)ワンピースがよく似合っている。

プロポーションこそ、わずかにアスカの方が上かもしれないが、レイからはそれを補って余りあるほど清楚な魅力が溢れ出ている。

シンジは少女二人の水着姿を見て真っ赤になりながらも、

「うん・・・・よく似合ってるよ、二人とも」

その心のこもった賛辞を耳にすると、アスカとレイはほんのりと頬を桜色に染める。

「じゃあ、着替えなよ・・・そろそろ食事にしよう」

「「うん!」」




















三人はデパートの最上階にあるレストランに足を運んだ。

「さて、何を食べようか?」

周囲には高級フレンチレストランから、中華まで色々な店がある。

「フランス料理がいい!」アスカが元気良く提案する。

「こんな真っ昼間から?」

「いいじゃない、食べたいんだから」

「綾波は?」

シンジが尋ねると、レイは

「碇君と同じ物でいい・・・・」

と、囁くようにつぶやく。

シンジはそれを聞いてため息を一つ漏らす。

「綾波?・・・・ダメだよ、そういうのは・・・・自分が何を考えてるか、何をしたいのか、それを人に伝えるのも重要な事なんだからね」


「・・・・・・・・」

これまで自分の考えをほとんど持たずに生きてきたレイには少し酷かもしれない。

だが、これを見逃していたらレイはいつまで経っても成長しない。

おそらくシンジへの依存をますます強くしてしまうだろう。

それではいけないのだ。

レイもいつかは自立しなければならない。

そんな時に普通の女の子として生活できるようにシンジは手助けをしている。

普通、シンジぐらいの年齢ではそこまでやろうとは考えない。

しかし、ネット学生時代から”ソウル・ヒーラー”(魂の癒し手)の尊称をつけられたシンジに中途半端なことはできなかった。

「さ、綾波・・・何が食べたい?」

「・・・・・・・・・・」レイは黙ったまま指を指す。

そこは中華料理店だった。

シンジはアスカの口元に顔を寄せると、小声で、

「アスカ・・・・ここは譲ってくれないかな?」と囁いた。

アスカは話の内容よりも、シンジの息が耳にかかるのを心地よく感じていた。

ちなみにアスカはシンジから、レイが少し変わっている事を教えられている。

そして、決して彼女を見下すようなことはしないように、とも。

「ま、いーわよ・・・・中華の方がリーズナブルだしね」

そういうとアスカはレイの手を取る。

「さ、行くわよ!・・・・ところでアンタ何が食べたいのよ?」

「・・・・ラーメン・・・・」

「へえー・・・・なんか意外な気がするけど、アタシもラーメン好きだしね!」

シンジの心配は杞憂だったようだ。


アスカとレイは結構いいコンビだ。

シンジは二人の後ろをゆっくりとついていく・・・・


































「えぇー!!!」

夕食時の葛城家。

シンジ、アスカ、ミサトに加え今日はレイもいる。

シンジが夕食に招待したのだ。

そんな時にミサトから意外な(シンジは予想していたが)発言が飛び出した。

「修学旅行に行っちゃダメぇー!?」

「そ」

あまりにもさりげなく言うミサト。

これでアスカが収まるはずが無い。

「どうして!?」

「戦闘待機だもの」

「聞いてないわよ!」

「今言ったわ」

噛み合っているようで噛み合っていない二人の会話。

「誰が決めたのよ!?」

「作戦担当の私が決めたの」

アスカは肩をプルプルと震わせると、

「シンジー!!・・・・なんとか言ってやってよぉー!!」

シンジは手に持った湯飲みをすすっている。

「まあ、予想はしてたから驚かないけど・・・・しょうがないね」

確かに少し頭をひねればこの事態は予想できる。

使徒の襲来時期がわからない時にわざわざこっちから戦力ダウンさせることはない。

仮にシンジが指揮官でも同じ決断をしただろう。

「えぇー!?」アスカは心底がっくりきている。

「・・・・・・・・」言葉にはしないがレイも隣に座るシンジのシャツをギュっと握り締めている。

シンジはそんなレイの手を優しく握りながらアスカにいう。

「アスカ・・・・ミサトさんだってこんなこと好きでやってるんじゃないよ・・・・上からの命令ってことにしとけば角も立たないのにわざわざ憎まれ役をしてるんだから・・・・ですよね?ミサトさん」

「え!?・・・・・あぁ・・・・まぁね」

急に話を振られたミサトはちょっととまどう。

というより『そこまでバレれてるか』といった感が強い。

「・・・・そっか・・・・そーよね・・・・ごめんね、ミサト・・・・怒鳴ったりして悪かったわ」

「いいのよ・・・・アナタ達の楽しみを奪ったのは事実だしね」

『しっかし・・・・ドイツで初めて会った時のアスカはクソ生意気な子だったけど・・・・』

そんな事を考えるとミサトはアスカとシンジ、そしてレイを順番に見つめる。

『レイもシンちゃんに会うまでは感情があるなんて思わなかったもんね・・・・』

アスカはシンジの隣に座ってからずっと顔が赤い。

レイはシンジの側にいられるだけでいいようだ。

シンジは両隣に座る二人の少女に優しく微笑んでいる。







『ま、ね・・・・シンちゃんだったら大丈夫よね』





























『PRRRRRRR!』



シンジの耳に受話器から呼出音が聞こえる。

ミサトに聞こうと思っていた事を、それよりも適任者がいることに気付いてこうして電話している。

《はい、もしもし》

「加持さんですか?・・・・碇シンジです」

電話の相手   加持リョウジは少し驚いたようだ

《シンジ君か・・・・よくこの携帯の番号がわかったな?》

彼の携帯電話の番号はごく限られた人間しか知らない。

シンジはちょっと笑う。

「僕が加持さんについてなにか知る術は一つしかないでしょう?」

それを聞くと加持は受話器の向こうでため息を漏らした。

《葛城の奴か・・・・・ったく・・・・で?一体なんだい?》

「ちょっとお聞きしたいことがあるんです」

《女の子の扱い方か?》

受話器を持ったままガクッとなるシンジ。

「いや、そうじゃないんですが・・・・・・・・・加持さん、”スパングルド・インターナショナル”っていう会社をご存知ですか?」

《・・・・・・シンジ君、その名前をどこで?》

「ええ・・・・ちょっと関わりが出てくるかもしれないので」

《今、どこから電話している?》

「盗聴でしたら問題ないですよ、インターネットを使って全世界の24のサーバーを経由した上でイスラエルの軍専用防諜回線を借りて掛けてますから・・・・・・イスラエルの方は気付いてないでしょうがね」

だが加持はいい顔をしない。

《だが、俺の方はただの携帯電話だ・・・・》

「加持さん第三新東京市にいるんですか?」

《ああそうだが》

「じゃあ大丈夫でしょう・・・・この前リツコさんに聞いたら第三新東京市には通話をキャッチしたらそれを暗号化するシステムがくまなく張り巡らしてあるらしいですよ」

《ふむ・・・・まあそれなら・・・・で?なんだったっけ?》

「”スパングルド・インターナショナル”」

《ああ、そうだったな・・・・・・まあ、深くは聞かないが・・・・気を付けろよ、その会社は表向きは北京に本社がある総合商社だが・・・・実体は諜報機関の下請けだ》

「下請け?」

《そう、下請けだよ・・・・・ちなみに同じような形態で似たような会社があと二つある》

「二つ?」

《一つはスイスに本拠を置く”スター・コーポレーション”・・・・一応表では中堅のヘッジファンドになってるが・・・・裏でやってるのは”スパングルド”と大差ない》

「・・・・・・・・・・」

《そしてもう一つは南米コロンビアにある”バナー・システムズ”だ・・・・・・ここは他の二つよりもタチが悪い・・・・表ではただの貿易会社だが・・・・北米・南米地域の諜報活動の他にセカンドインパクトでも生き残ったコロンビアのケシ畑から採取されるヘロインを全世界にばら撒いている・・・・・今や世界中のヘロインの消費量の50%はここが流しているものだ》

「・・・・・・・・・・・!・・・・・・・・・・・そうか・・・・」

《気付いたかい?》
                                                    星条旗
「ええ・・・・でも、気付いてくださいって言わんばかりのネーミングですね・・・・”スター・スパングルド・バナー”なんて」

《連中の頭の中なんてわからないが・・・・抑止効果でもあると思ってるんじゃないのか?》

「抑止効果?」

《アメリカが世界を支配しているという幻想を他に強制する、ってぐらいの意味合いさ・・・・詳しいことは今度会った時にでも話すさ》

「ええ、お願いします」

《んじゃな・・・・葛城によろしく伝えてくれ》

シンジはそれを聞くとくすくす笑う。

「それは加持さんが自分で言った方がいいんじゃないですか?」

加持が苦笑しているのが受話器越しでもわかる。

《まいったな・・・・一本取られたかな?・・・・今度アイツに会った時にでもな・・・・それじゃ》

「ありがとうございました」

電話が切れるのを待ってシンジも受話器を置く。








「・・・・・・・・・アメリカ合衆国・・・・・か・・・・・」





























《浅間山の観測データは可及的速やかにバルタザールからメルキオールへペーストしてください》

端から見れば忙しそうに見えるネルフも四六時中忙しい訳ではない。

特に発令所に詰めているオペレーター達はそれぞれが好きなことをして暇を潰している。

マヤは恋愛小説を読み、

マコトは笑いを堪えながら漫画を読む。

シゲルは時折鼻歌を歌いながらギターを弾く真似をする。

彼らがこんなお気楽なことをやっていられるのも、ネルフが誇るスーパーコンピューター”MAGI”があるからだ。

大抵の作業は”MAGI”がこなしてくれる。

人間が行うのは最終的なチェックだけだ。

不確定要素が幾重にも絡まる使徒迎撃戦などは話が別だが。









「修学旅行?・・・・・・この御時世にノンキなものね」

発令所でコーヒーをすするリツコがあきれたようにつぶやく。

「こんな御時世だからこそ、遊べる時に遊びたいのよ・・・・シンちゃんは何考えてるのかイマイチ掴みきれないけどね・・・・」

同じくコーヒーカップを握るミサトがポツリという。

「あら、そんなことじゃ保護者失格じゃないの?」

もちろん冗談で言っている。

「思春期の男女を二人も預かってればナーバスにもなるわよ!」

ミサトもそこら辺は良く分かっているので軽く受け流す。

「まあ、それはいいとして・・・・・・・どうしたのよ、例の半同棲状態は?」

「それよ、それ!・・・・聞いてよぉ!」













時間はさかのぼる。

「さ、今日はもう遅いから寝なさい」

ある日の夜半。

ゲームをしていたアスカとシンジにミサトがそう声を掛ける。

「「はーい」」

そう返事をして立ち上がった二人はためらうこと無く一つの部屋に入ろうとする。

「?・・・・・・ちょっとシンちゃん?」

「はい?」

「なんで一緒の部屋に入るわけ?」

「なんでって・・・・この前の使徒が来た時からこの部屋で寝てるんですけど・・・・ミサトさんもあの時言ったじゃないですか『これから一緒に暮らしてもらいます』って・・・・」

その言葉を聞いた時のミサトのショックといったら・・・・

まるで頭の上から金属製の”たらい”が落ちてきたようなものだろうか?

数分かけてショックから立ち直ったミサトは二人を呼んでその日のうちにシンジを部屋から出すことで落ち着いた。

アスカはそれはもう、かなりゴネたが。












「ま、当然ね」

「当然なんだけど・・・・アスカをなだめるのに苦労したわよ」

「でしょうね、あの娘もシンジ君にべったりだものね」

「そーなのよぉー・・・・・・ん?・・・・あの娘”も”って?」

首をかしげるミサト。

「レイよ・・・・あの娘もシンジ君がお気に入りみたいだからね」

「なぁーるほどぉー・・・・・・あ、レイで思い出した・・・・この前話した事、どう?」

「レイの引越しの件?」

「そ、シンちゃんからも頼まれてるしね」

「レイについては司令の許可をもらわないといけないから・・・・今すぐ、というのはムリね・・・・でも早い内になんとかするわ」

「お願いね」

「それにしても本気なの?・・・・これで三人目よ?」

「まあ、ウチはもう空き部屋がないから空いてる両隣のどっちかってことになるでしょうし・・・・それにね、今でさえ二児の母みたいなもんなのよ?・・・・一人くらい増えたってどーてこと無いわよ!」

それを聞いてリツコは猫のような笑みを浮かべる。

「いたらない母親よね?」

「大きなお世話よ!」































ネルフ本部には指揮機能、EVA運用機能の他にも様々な付帯設備がある。

大きいところではネルフ所属の通常部隊(戦車大隊と機動歩兵大隊)用の駐屯地。

中ぐらいでは産婦人科から形成外科まで、ありとあらゆる医療を提供できる総合病院。

そして小さいところでは職員のレクレーション用の保養施設。

チルドレンの三人は級友達を空港まで見送ったのち、そんな保養施設のなかの一つ、室内プールに来ていた。

「シンジ、こんなところまで来てなにやってるのよ?」

水着姿のアスカが声を掛ける。

プールサイドのテーブルで、シンジは制服のままノートパソコンを広げている。

「ん・・・・ちょっとね、キャンセルのメールだよ」

「キャンセル?」

「そう・・・・オキナワで回ってみたいところがあったから、ダメモトで予約しておいたんだけど・・・・やっぱりダメだったからこうしてキャンセルしてるの」

アスカはにっこり笑う。

「なーんだ、シンジだって行きたかったんじゃないの」

シンジもつられて笑う。

「そりゃそうだよ・・・・オキナワなんて行ったこと無いしね」

「ふーん・・・・・」

「全てが落ち着いたらさ、みんなでどこかに遊びに行こうよ」

「いいわね、それ!」

そんな会話をしていると静かに泳いでいたレイがプールから上がってくる。

「ね!ファーストも行くでしょ?」

「?」

いきなり話を振られても何の事だかわかるわけがない。

シンジはくすくす笑いながら、

「綾波・・・・機会を見つけてどこかに遊びに行こうって話をしてたんだよ」

「遊びに?・・・・・・どこへ?」

「うーん・・・・さっぱり思い付かないけれど・・・・楽しそうなところ、かな?」

「・・・・・・・・碇君も一緒?・・・・・・」

おずおずとレイが聞く。

「もちろん!」犯罪的といってもいい笑顔を浮かべてシンジが答える。

「・・・・・・・・・・・・・」レイは顔を紅くして俯いてしまう。

そんな様子を横目で見ていたアスカは、

「ちょっとファースト?・・・・一人占めは許さないわよ?」

目を三角にしている。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」レイも負けじとアスカの目を見つめたままひるまない。

「まあまあ・・・・みんなで行けばいいじゃない・・・・・・ね?」

話の論点がつかめていないシンジだが、一応なだめ役に回る。

一瞬だけシンジに顔を向けた二人はまたお互いを見る。






「ファースト!・・・・負けないからね!」




「・・・・・・・・私も・・・・・・・・負けない・・・・・・」



























「これが浅間山から送られてきたデータです」

リツコがそういうと、平面スクリーンに浅間山の火口が映る。

発令所の奥に設けられている会議室に集まったのは4人。

冬月、リツコ、マヤ、シゲルだ。

ゲンドウはこの場にはいない。

そしてミサトやマコトの姿も見えない。

「で?地震研の報告にあった不審な影というのは?」

冬月が場を代表して質問する。

「こちらでも確認できました・・・・その上で火山学の権威に極秘裏に質問したところ、『このようなものが通常の火山活動で発生するとは考えにくい』との回答でした」

「ふむ・・・・・・”MAGI”は?」

「フィフテイ・フィフティです」

「現地へは?」

「既に葛城一尉が到着しています」











建設省地震研究所、浅間山分室。

研究所というよりも噴火予想所といった趣の場所にミサトは来ていた。

到着するなり地震研が保有する耐熱、耐圧の高性能観測機を借り受けて火口から潜らせている。

目的はもちろん地震研のデータにあった”影”の正体を見極めるためだ。

「もう限界です!」観測機の状態が表示されるディスプレイを見ていた所員の一人が悲鳴を上げる。

彼を咎める事は出来ない。

今、観測機は安全深度をとっくに越えてまだ潜り続けているのだ。

「いえ・・・あと500、お願いします」

淡々と答えるミサト。

彼女はマコトの座るコンソールを後ろから眺めている。

しばらくその状態が続いたが、

《深度1200・・・・耐圧隔壁に亀裂発生》というアナウンスが響く。

「葛城さん!!」

「壊れたらウチで弁償します。あと200」

あくまでも冷静かつ沈着なミサト。

だがマコトの声を聞いて緊張する。

「モニターに反応!!」

「解析開始!」間髪いれずに命令するミサト。

マコトの指がリターンキーを叩くと瞬時に解析が始まる。

だが、観測機の方も最早限界だった。

なにかが潰れ、ひしゃげていくような音がスピーカーから聞こえたかと思うと、破裂音がしてそれきりスピーカーは沈黙した。

アナウンスが状況を要約する。

《観測機、圧壊・・・・爆発しました》

「解析は!?」

「ギリギリで間に合いましたね・・・・パターン青です」

ミサトは表情を険しくする。

「間違いない・・・・・・・・使徒だわ・・・・」

そして振り向いて室内にいる全員に伝える。

「これより当研究所は完全閉鎖、ネルフの管轄下となります・・・・一切の入退室を禁じた上で過去6時間以内の事象は全て部外秘とします」

そしてマコトに視線を合わせる。

「日向君、本部に事の次第を報告して」

「了解」

「あと・・・・碇司令にA−17を申請してちょうだい・・・・大至急ね」

マコトは息を呑む。

ネルフが持っている各種権限をさらに3倍増しにする特別法、”A−17”

ネルフが発足してから実際にこれが適用された事は無い。

その権限の範囲があまりにも広範囲に及ぶからだ。

「りょ、了解」





























「これが使徒?」

会議室に設けられたスクリーンに映し出される。

集まったチルドレン達にリツコが現状を説明している。

「そうよ。まだ成体になっていない、サナギのようなものね」

それを聞いてシンジには一つの疑問が浮かんだ。

『今までの使徒はまがりなりにも”外”から本部へ向ってきた・・・・・・一体この使徒はいつから地殻層の中にひそんでいたんだ?』

シンジの疑問はもっともなものだが・・・・今の彼に答えを導き出す事は出来ない。

シンジの知性が問題なのではない。

与えられている情報量がごく限られたものだからだ。

ジクソーパズルも、まずパズルを与えられなければ組み上げる事は出来ない。

そんなシンジをよそにリツコは話を進める。

「今回の作戦は使徒の捕獲を最優先とします」

『捕獲!?』シンジは目を剥く。

それに気付いたのだろう、リツコが補足説明する。

「シンジ君ならわかると思うんだけど・・・・私達は使徒の情報、特にメカニズムなど何もわかっていないのが現状なの」

「・・・・・・・・・・」

「生きた使徒のサンプルは現在の研究を飛躍的に前進させるわ・・・・そうすればもっと有効な対策も編み出せるかもしれない・・・・」

リツコはそこでため息をつく。

「なんのかんのといっても・・・・危険な目に会うのはあなた達なのだから・・・・偉そうな事言えた義理じゃないわね」

シンジは表情を緩め笑顔を浮かべる。

「そう思ってもらってるだけで十分ですよ・・・・・ただし」

「?」

「出る時には僕が行きます」

それを聞いたリツコはばつの悪そうな表情になる。

また一つ、忌まわしい現実を告げねばならない。

「今回のステージで予想されるのは・・・・大気中や海中では考えられない程の高熱、高圧なの・・・・エヴァの標準装備とも言えるB型装備ではそれに耐えられる時間は長く見積もって数分というところなの」

「じゃあ、特殊装備ですか?」

「ええ・・・・耐圧・耐熱・対核防護服・・・・局地戦仕様のD型装備を装着することになるわ・・・・・・・ただ、問題が一つ」

「?」

「D型はE計画が始まった当初に試作の意味で製作されてそれっきりなの・・・・だから1セットしかないわ」

「・・・・・・・ということは?」

「D型はプロトタイプ・・・・・つまり零号機でしか運用できないの」

「!!・・・・・じゃあ僕が零号機で・・・・」

”出ます”と言いたかったのだが、横から伸びてきた手がシンジを制止した。

「綾波!?」

「構いません・・・・・・私が出ます」少しヒートしかけたシンジとは対照的なレイの口調。

シンジも、こと二人の少女の事になるといつものポーカーフェイスではいられないようだ。

「・・・・ありがとう・・・・レイ」リツコが少し頭を下げる。

「・・・・大丈夫です」ほんの少しの笑みを浮かべるレイ。

『ファーストの笑顔ってキレイよねぇ・・・・あれは反則だわ!』

ヘンなことを考えるアスカ。

「じゃあリツコさん・・・せめて・・・・」

「わかってるわ。初号機と弐号機もサポート役で出てもらいます・・・・総力戦よ」

シンジはそれを聞いて少し安心したのか、ほっとしたような表情だ。

「ファースト・・・アタシ達も待機してるからさ、心配ないわよ」

アスカも極力レイの気分を軽くしようと努めている。

「綾波・・・・何かあったら必ず助けるから、安心して」

シンジも力強く励ます。

レイはそんな二人に微笑みながら、






「・・・・・・・・・ありがとう・・・・・・・」










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1998+12/17公開
ご意見・ご感想・ご質問・誤字情報・苦情(笑)などはこちらまで!



あ・と・が・き

みなさまこんにちわです。

P−31です。

ひっじょーに遅くなりましたが・・・・第10話Aパートをお届けします。

これからしばらくは長めの仕事も無いので腰を落ち着けて連載に取りかかれそうです。

こんなへっぽこですがこれからもよろしくお願いします。


P・S Kazさーん、こっちは更新しましたよぉー(謎&爆)









 P−31さんの『It's a Beautiful World』第10話Aパ−ト、公開です。




 おっ
 レイちゃんも葛木家にやってくるのかな?


 シンジ・アスカ・レイの3人。
 中学生を3人。

 食事の用意から、
 洗濯
 掃除
 etc

 年頃の男っの子と女の子。


 ミサトさんは大変だぁ



 ・・・
 ミサトさんは今まで何もしていないし、
 この先もしそうにないし、

 別に大変ではないかも(笑)



 シンジにお任せ
 お気楽〜

 でしょう・・・


 保護者。。。。




 さあ、訪問者のみなさん。
 帰還P−31さんに感想メールを送りましょう!




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