「ファースト・・・アタシ達も待機してるからさ、心配ないわよ」
アスカも極力レイの気分を軽くしようと努めている。
「綾波・・・・何かあったら必ず助けるから、安心して」
シンジも力強く励ます。
レイはそんな二人に微笑みながら、
「・・・・・・・・・ありがとう・・・・・・・」
《エヴァ零号機、初号機及び弐号機到着しました》
浅間山の火口付近に設けられた急ごしらえの指揮所にアナウンスが響く。
「3機ともその場で待機」
前回同様、前線指揮車から指揮を執るミサトがテキパキと指示を出す。
「レーザーの打ち込みとクレーンの準備、急いで」
「了解」
零号機の沈降を容易にするために溶岩の中にレーザーで”道を作るのだ。
《うっわー・・・・すんごく暑そう・・・・》弐号機が火口から身を乗り出してのぞき込む。
「そりゃそうだ、なんせ溶岩なんだからな・・・岩をも溶かす程の熱量さ」
いつの間にか加持が指揮車に乗り込んでいる。
「ちょっとアンタ!邪魔よ」取り付く島もないミサト。
「作戦が始まれば言われなくても出ていくさ・・今はまだいいだろう?」
「・・・・フン!・・勝手になさい!」
大げさに肩をすくめる加持。
シンジは視界(モニター越しに、だが)に何かが映ったことを感じ取り、すかさずモニターの倍率を上げる。
「・・・・」
そこに映ったのは”UN”のレターが入った戦闘爆撃機・・・しかも3機。
《なによ、アレ?》アスカも気付いたようだ。
《UNの空軍が空中待機してるらしいわ》リツコが答える。
《この作戦が終わるまでね》マヤが補足説明する。
「・・・・保険、ですか・・・・」シンジがつぶやく。
《察しがいいわね、シンジ君。その通りよ・・・私達が要請したものじゃないけどね》
《どういうこと?》
わけがわからない、といった様子でアスカがたずねる。
《私達が失敗したときに備えて、という理由かしらね、あの爆撃機はN2爆雷を積んでるハズよ・・・・UNの独断ね》
《なによそれぇー!?》
アスカが憤慨するのもムリはない。
「はぁー・・・・」大きくため息をつくシンジ。
何百年、いや・・・何千年経っても、人間の敵は正体不明の使途などではなく、同じ人間に違いない。
人間同士の裏面の戦いに比べれば使徒との戦いなど・・・・・
ただ、勇敢で有能であれば良いのだから。
「ああ、それなら大丈夫よ。たぶんね」
ミサトがモニターを見たまま振り返りもせずに言う。
「・・・・・」リツコは納得しない。
「な、なによ・・・そのジト目は・・・」
「ミサト・・・アナタさっきどこかに電話してたわよね・・・」
「ああ、ちょっと知り合いの所にね」
ミサトがゲンドウばりの不敵な笑みを浮かべる。
「・・・・?」まだリツコは納得しない。
《あ》
シンジが素っ頓狂な声を上げる。
「どうしたの?シンジ君」
《あれを見て下さいよ》
そう言って初号機の腕が上空を指し示すと、そこでは新たに4機の戦闘機が現れて、先の戦闘爆撃機を蹴散らしている。
「??・・・どうなってるの??」偽らざるリツコの心境。
4機の戦闘機は簡単にUNの戦闘爆撃機を追い散らすと、上空で大きな旋回をはじめた。
「葛城さん、上の連中から通信が入ってます」
マコトがヘッドセットを差し出す。
「繋いで頂戴」
差し出されたヘッドセットを受け取って頭に装着する。
《こちらは航空自衛隊所属機、ネルフ聞こえますか?》
スピーカーとミサトのヘッドセットからパイロットであろう、若い男性の声が聞こえる。
「こちらネルフ、感度良好です」
《邪魔者は追っ払いました・・・自分たちは作業が終わるまでここで目を光らせます》
「ありがとう、助かるわ」
《こっちもUNには煮え湯を飲まされてますからね》
「それじゃ、何かあったら連絡します」
《成功をお祈りします》
「ありがとう」そう言うとミサトは剥ぎ取るようにヘッドセットを外す。
「ミサト?・・・・・・」リツコがジト目でミサトに詰め寄る。
「な、なによぉー・・リツコったら怖い顔しちゃってえ」
「・・・・・・野分一佐ね・・・・」
リツコが低くつぶやくとミサトは笑みを大きくする。
「当たりぃー」
クレーンから青白い光が溶岩に向かって放たれる。
《レーザー、作業終了》
《進路確保!》
「D型装備、異常なし」
《零号機、発進位置》
クレーンにぶら下がった零号機(D型装備装着)が火口の真上にくる。
「了解・・・・」指揮車のミサトは準備がすべて完了したことを確認する。
「レイ、準備はどう?」
レイは静かに答える。
「・・いつでも」
ミサトはそれを受けて一つうなずく。
「発進!」
クレーンが動き出し、ミシュランマンのようになった零号機がゆっくりと溶岩へ降りていく・・・・
「零号機、溶岩内に入ります」
《・・・碇君・・》
インカムからレイの声が聞こえてきた。
「なに?綾波」
インカムからはレイのちょっとためらうような声が・・・
《・・・いってきます・・》
「ふふっ!・・・・気をつけてね」
サン・ディエゴ海軍基地、アメリカ合衆国西海岸
「大佐、本当にコイツで目的地まで行くんですかい?」
フォート・ブラッグ陸軍基地から引っぱり出されたデルタ・フォースは、太平洋岸最大の海軍基地に来ていた。
もっとも、セカンドインパクト前のサン・ディエゴとは規模も目的もかなり違ってきている。
セカンドインパクトで壊滅状態に陥った西海岸でここだけが大規模な復興の対象になったのだ。
そしてそんな彼らが連れてこられたのは潜水艦岸壁。
「どうした、軍曹、船はキライか?」
「好きだったら海軍に入ってますよ・・・・そこまで隠密理にしなきゃいけないんですか?」
彼らの日本までの移動手段として提供されたのが目の前の黒い固まり。
「オハイオ」級弾道ミサイル原子力潜水艦のネームシップ、「オハイオ」
1981年就役。
ハッキリ言って浮いているのが不思議なぐらいの老朽艦である。
セカンドインパクトによる国際情勢の激変にともなう弾道ミサイルの価値の低下(各種N2兵器の実用化も要因の一つである)で港で腐りかけていたこの船に、主戦力のほとんどを国連軍に持っていかれた合衆国海軍が目を付けた。
トライデントSLBMやそれに関する機材等を全ておろした「オハイオ」は約100名の武装兵員と多くの機材を積載することができる輸送用原潜なのだ。
今のところ太平洋に1隻、大西洋に1隻配備している。
「まあ、コイツは我々特殊部隊のために改装されたようなモンだからな・・・静粛性も高くなってるらしい・・・静かに近づけるんだ、コレに勝ることはないだろう?」
「日本・・・あ、いや・・・目的地には国連軍基地なんかもあるんでしょう?その中に紛れ込むことはできないんですか?」
「最初はそれも候補の一つだったんだがな。あっちの警察やらなんかが監視していた場合のリスクを考えるとな」
「・・・まあ、構いませんが・・・・潜水艦で運動不足になるコトだけが心配ですな」
「訓練通りにやる、俺達にできるのはそれくらいだ」
「・・・・・・・」
「さあ、軍曹。ならず者共をさっさと乗船させてくれ」
「了解しました」
「現在、深度170・・・・沈降速度20・・・各部問題なし」
レイの目に映るモニターは灼熱の紅い世界を映し出していた。
「視界はほぼゼロ・・・・CTに切り替えます」
モニターが一瞬で切り替わる。
「CTでの透明度は約120・・・・」
いつもと変わらぬレイ。
「深度400・・・450・・・500・・・550・・・600」
機械的に読み上げられる深度。
「900・・・950・・・1000・・1020、安全深度オーバー」
高圧によってそこら中から何かがきしむ音などがレイの耳にも届く。
「深度1300・・・目標予測地点です」
「レイ、何か見える?」
《反応無し・・・・見あたりません・・・・》
「思ったより・・・対流が早いようね」
リツコがモニターを見つめたまま厳しい表情を崩さない。
計算の誤差によって危険な状況に陥るのは、ここにいる面々ではなく、レイなのだ。
「再計算、急いで」やはりモニターに視線を釘付けにしたミサトが、声音も厳しく命令する。
そして彼女は大きく息を吸い込むと冷徹な作戦指揮官の仮面をかぶる。
「作戦続行・・・・再度沈降・・・・レイ、お願い」
無線で帰ってきたレイ返答は、簡潔なモノだった。
「了解」
「深度1480、限界深度オーバー!」
ミサトは動かない。
「限界深度、プラス120」。
零号機の機体に衝撃が走り、D型装備にムリヤリ後付けされたプログナイフが落下していく。
「エヴァ零号機、プログナイフ喪失」
「限界深度、プラス200」
「葛城さん、もうこれ以上は!・・・・今度は人が乗っているんですよ!」
マコトの意見具申にもミサトは眉一つ動かさない・・・・だが、
『・・・アタシはこんなところでなにやってんのよ!!』ミサトのココロの声。
ユウジの顔をはじめてみたときに向けられた、あの軽蔑のこもった視線が思い出される。
だが、口からはそれとはまったく正反対の言葉が出てくる。
「・・・この作戦の責任者は私です・・・・続けて下さい」
《大丈夫です・・・まだ、いけます》
か細いが、力強いレイの声。
それを聞いてミサトは歯を食いしばる。
「深度1780、目標予測修正地点です」
零号機のモニターに黒い物体が映った。
《目標を視認》
「捕獲準備」
零号機が持つキャプチャー(檻)が展開する。
「お互い対流で流されているから、接触のチャンスは1度しかないわ」リツコが注意を促す。
《了解》
この場で一番冷静なのはレイかもしれない・・・・
「目標接触まで、あと30!」
《相対速力2.2・・・・軸線整合・・・》
檻を構えた零号機がゆっくりと黒い”蛹”に近づいていく・・・・
そして接触。
檻は電子の柵をを張り巡らせ、”蛹”を閉じこめる。
《キャプチャー展開・・・・目標、捕獲しました》
”ほぉ”という安堵のため息が指揮車のそこかしこから漏れた。
「よくやったわ、レイ・・・・だけどまだ終わってないわ」
そう、これから地表まで浮上しなければならないのだ。
《はい・・・・これより浮上します》
これまでとは逆に、クレーンが巻き上げられていく。
「綾波、大丈夫?」心配そうなシンジの声。
《大丈夫・・・・ありがとう、碇君》
この暑さでも顔色一つ変えないレイが頬を紅くする。
「ファースト?・・早く上がってきなさいよ。近くに温泉があるらしいから入りに行くわよ!」
《・・・温泉?・・・》
「アンタ、温泉も知らないの!?・・・・地熱で暖められた天然のお風呂よ・・・・気持ちいいんだから!」
《・・・・碇君も、行くの?》
「温泉なんて久しぶりだからね、僕も行くよ」
《・・・一緒に入ってくれるの?・・・・お風呂・・・》
がくっ!
これを聞いていた全員がズッこけたというのは別の話。
「ファ、ファ、ファーストぉ!?・・・・なに大ボケかましてんのよ!・・男女が入る風呂は別々!常識よ!」
するとレイは幾分寂しそうに、
《・・・・そうなの?・・・》
「そうなの!・・・・そりゃあアタシだってシンジとお風呂に入ってみたいけどさ」
「アスカぁ!?なに言ってるんだよぉ!?」初号機のエントリープラグで真っ赤になるシンジ。
「緊張がいっぺんに解けたみたいね・・・」そういうリツコの顔にも安堵が現れている。
「そお?」
「あなたも今日の作戦、怖かったんでしょ?」ミサトに目を合わせて言う。
「・・・まぁね・・・ヘタにに手を出せば”アレ”の二の舞だもんね・・・・」
「・・・セカンドインパクト・・・・二度とごめんだわ」
二人とも今のシンジ・アスカ・レイの年代にセカンドインパクトに遭遇した。
それは二人の心に深い傷跡を残している。
ミサトがそれに対して何か言おうとした時、
警報が大音量でがなりだした。
《クッ!・・・・キャプチャー内のエネルギー量が爆発的に増加中・・・・緊急事態を宣言します》
緊急事態らしくない、レイの平静な口調。
「マズイわ!羽化をはじめたのよ!計算より速すぎるわ!」リツコが信じられない、というようにモニターを見つめる。
「キャプチャーは!?」ミサトが叩きつけるようにたずねる。
「とてももちません!」
「緊急事態を承認!捕獲を中止、キャプチャーを破棄!!」
零号機からキャプチャーが切り離される。
「作戦を変更!使徒殲滅を最優先!・・・・零号機は撤収作業をしつつ、戦闘準備!」
《了解・・・・しかし、武装がありません》
「シンジ君!」
言わずもがな。
シンジは既にプログナイフを投げ込むところだった。
「てやあぁぁぁぁ!!」
そして投下・・・・だが、溶岩の中を自由落下で落ちるスピードは非常に遅い。
「零号機の正面から使徒が接近しています!」
「レイ!避けて!」
《バラスト破棄!》
バラストを破棄したおかげで使徒は紙一重で零号機の股の下を通過する。
「使徒、再び接近します!」
「ナイフは!?」
「到着まで10!」
使徒の2回目の攻撃とナイフ到着は同時だった。
激しい衝撃と共に零号機は使徒にしっかりと掴まれてしまう。
《くぅっ!・・・・》
衝撃にクラクラしながらもレイはナイフを使徒の体に叩きつける。
が、特殊装甲板ですらなますに刻んでしまう筈のプログレッシブ・ナイフがはじき返されてしまう。
「これだけの環境下に耐えられる構造・・・・プログナイフじゃダメだわ!」
「ではどうすれば!!」
意外なところからの通信が入ったのはその時だった。
《”JSS−01”よりネルフ・・・・これより照射を開始する》
5分ほど前。
はるか九州の南にある種子島でも浅間山の状況は把握していた。
UNの爆戦を蹴散らした空自の戦闘機、その中に情報収集任務の機体を混ぜてあったのだ。
「三佐、どうやらうまくいきそうですよ」
「ふん、終わるまではわからないわよ」
宇宙開発事業団、種子島宇宙センター内にある”JSS−01”管制室。
といっても、省力化につとめたため(そして秘密保持のため)人員は5人しかいない。
半数は自衛隊からの出向者だ。
そして今は2人しかいない。
操作だけなら1人で十分なのだ。
「まあ、野分さんから気を抜くなと釘刺されてるしね・・・・全部終わるまではここを離れられないわよ」
”三佐”と呼ばれた女性はけだるそうに髪を掻き上げる。
「確かに・・・・三佐、緊急事態!」
「どうしたの!」
「コイツを見て下さい」
ディスプレイが切り替わり、零号機に襲いかかる使徒が映し出されている。
「チッ!・・・いわんこっちゃない・・・・DEWSの準備は?」
コンソールに付いている男性はごくっとつばを飲み込む。
「いつでも照射可能です」
ムリもない。
彼らがおこなおうとしているのは一昔前なら、サイエンス・フィクションの題材とでもされるモノだったからだ。
D E W S
指向性エネルギー兵器システム。
地球低軌道上に打ち上げられた多目的ステーション”JSS−01”に備えられた主戦兵器のことだ。
現在は技術的冒険を避ける、という意味合いでX線レーザーが組み込まれている。
ちなみに”JSS−01”自体に人員は配置されていない。
突貫工事で建造したため、(そしてDEWSモジュールが最優先されたため)まだ居住空間が無いのだ。
「あの、なんとかフィールドとかいうヤツは?」
「今のところ確認できません・・・・ネルフの”人形”があれだけ接近していることを考えると、張ってないのでは?」
「そう願いたいわね」
「出力はどうします?」
「・・・そうね・・・・なんせ相手は溶岩の中だからね・・・・かなりのエネルギーロスを見込まないと」
「計算させます」
「急いでね」
その間も状況は進行しているようだ、とうとう零号機が使徒に掴まってしまっている。
「精密照準モードでいくわ・・・1mのズレも許されないわよ」
「了解」
「計算の方はまだなの?」
コンソールの男性はそれには答えず作業を進める。
じりじりするような数秒が流れた。
「計算、及びインプット終了!いけます!」
「ネルフに通告しなさい!」
「了解!」かれはいくつかのスイッチを入れる。
「”JSS−01”からネルフ・・・・これより照射開始する」
後に彼女は、自分の一言が世界のパワーバランスをひっくり返したのだと自覚することになる。
「照射開始!!」
X線レーザーは不可視光線だ。
つまり目に見えない。
しかし、大気中の塵やその他の物とぶつかることによって光ることがある(エネルギーロスをしている証拠でもあるが)
今がそれだった。
その色は見る人、見る角度によって様々に変わった。
後にシンジが語った、”虹色”というのがもっとも適切だろう。
その虹色の光は瞬く間に地表に到達すると、衝撃波を残して溶岩に突入した。
溶岩に当たったからといって爆発はしない。
爆縮破砕が起こるのはとてつもない出力で照射したときだけだ。
今回狙ったのは融解穿孔。
当たった物を片っ端から溶かしながら貫通する、という効果だ。
溶岩なら、はなから熔けているから穿孔は容易だ(エネルギーのロスは当然あるが)
レイの視点から見ると、突然の出来事だった。
使徒の堅い外郭に手こずっていると、まず頭上で何かが光った。
その光はすぐにモニター一杯になり、何も見えなくなった。
そして衝撃が来た。
使徒が突っ込んできたときよりもさらに激しい衝撃に、レイは何とか耐えた。
おそるおそる目を開けると、そこにはコアを貫通された使徒が、ゆっくりと崩れ落ちるところだった。
「!!!」驚きを隠せないレイ。
しかし、まだ終わっていなかった。
断末魔のあえぎと共に使徒が伸ばした腕が、ケーブルにひっかかり、それをあらかた引きちぎってしまったのだ。
使徒はそれを最後にボロボロになりながら沈降していった・・・・
ケーブルをちぎられ、冷却液の供給も止まった零号機に周囲の高圧が襲いかかっていた。
D型装備の外板は次々にひしゃげていく。
そして、辛うじて繋がっていたケーブルが徐々に切れ目を大きくしていく。
「・・・・碇君・・・・ごめんなさい・・」
レイは諦観と共につぶやく。
「帰れそうもない・・・・」
そして無情にもケーブルは切れた。
”落ちる”感覚がレイを包む。
が、
今度は急制動の感覚が走る。
見上げると、B型装備のままの弐号機が零号機をしっかりと掴んでいた。
零号機のモニターにアスカの顔が現れる。
「ファーストぉ?・・・・ダメよお・・・こんなカッコイイことをアタシ抜きでやるなんて許さないんだから」
「弐号機パイロット?・・・・・・」
「あー!ダメダメ!!・・・・アタシにはちゃんとアスカっていう名前があるんですからね!」
小さなウィンドウの中のアスカは大きく微笑んでいる。
それにつられてレイも笑みを漏らす。
「私も・・・・”ファースト”じゃないわ、レイよ」
「むう・・・・なかなか負けん気が強いわね」
「はいはい、二人ともそこまで」
シンジの声が聞こえてきた。
「いくら女の子とはいえ、二人分を支えるのはちょっと骨なんだけどな」
そう言われてはレイは上を見上げる。
溶岩のためにハッキリは見えないが、弐号機の腕を掴んでいる初号機の姿がわかった。
「・・・・碇君・・・・」涙がにじんでくるのがわかったが、止められなかった。
「なーに言ってんのよぉ・・・・シンジは男でしょぉ!」
「男女差別はしない主義なんだ」シンジも軽口を返す。
「ありがとう、碇君・・・・・それに・・・・」
レイはちょっと口ごもる。
「アスカ・・・・ありがとう・・・・」
「少ない戦力がさらに少なくなったらこっちが困るじゃない!」
それがアスカの照れ隠しというのはレイにもわかった。
「さ、早く上がって温泉に行こうよ」
「そーだ!温泉温泉ー♪」
レイはもはや涙がこぼれ落ちるのを止められなかった。
今まで、悲しくても嬉しくても涙を流したことはほとんど無かった。
レイは今はじめて知ったのだ。
涙を流すことの喜びを。
「三佐、ネルフからです”協力ニ感謝スルガ、次カラハ優シクヤラレタシ”です」
「なーにいってんだか・・・・緊急でしょうが」
「溶岩にX線が突入するとき衝撃波でも食らったんじゃないですか?」
「ま、そんなとこでしょうね」
「本庁(防衛庁)への報告は?」
「んー・・・一応は済ませたんだけどね」
{?」
「いないのよ、野分一佐」
「一佐が本庁にいないってのも珍しいですね」
「視察に出かけたらしいんだけどね」
「視察?・・・どこです?」
「さあ?私にも教えてくれなかったわ」
「はぁー・・・・極楽極楽♪」
温泉につかって至極ご満悦のアスカ。
「・・・・・・・・・・・・」
お湯のためだろうか、頬をほんのり桜色に染めてレイ。
彼女も満更ではないようだ。
「風呂は命の洗濯、っっていうぐらいだからね!」頭の上に手拭いを乗っけたミサトもご機嫌だ。
「ふーん・・・ミサトの場合は”風呂とビールは命の洗濯”、じゃないの?」
アスカが意地悪く聞く。
缶ビールを片手に持つミサトとしてはぐうの音も出ない。
「あはははは・・・・・まあ、そうとも言うかも」
「はぁ・・・・こんなのじゃ加持さんも逃げるわけだわ」
「あんなのどうでもいいのよ!・・・・いざとなったらシンちゃんに貰ってもらうから♪」
温泉の淵に腰掛けていたアスカはズッこけて温泉の中に落ちて頭までつかってしまう。
「ゲホゲホッ!・・・・ミ、ミサト?・・・自分の歳、わかってるの!?」
「いいのよん、愛があれば年の差なんて!」
「よくなぁーい!!!」
「・・・・・・・・・・・・・」
レイも冷たい視線をミサトに送っている。
ある意味こっちの方が怖い。
「や、やぁねーレイ、冗談よ・・冗談」ミサトが冷や汗を垂らしながら言い訳する。
「シンジーぃ!聞いてよぉー!ミサトったらトチ狂ってるのよー」
アスカが風呂を分ける塀越しにシンジに呼びかける。
が
「あれ?」返事が返ってこない。
「ああ、シンちゃんなら電話が掛かってきて、ちょっと出かけるって言ってたわよ」
「んもう!そーゆーコトはもっと早く言いなさいよ!」
浅間山のすぐ近く。
とある部隊の駐屯地。
秘密基地と言った方が適切かもしれない(陳腐かもしれないが)
ユウジはお忍びでここに視察に来ていた。
途中でシンジに電話を掛けて一緒に連れてきている。
「よう」
「一佐、お久しぶりです」
ユウジは立ち入りが厳しくチェックされているそこに入ると、迷彩服を着た男性の出迎えを受けた。
「コロンビアから戻ったばかりだというのに悪いな」
「いえ、大したことはないですよ」
どうやら二人は知り合いらしい。
迷彩服の男性はシンジを見ると、
「この子が例の息子さんですか?」
「いや、息子じゃあ・・・・」
「はい、そうです!」シンジがユウジの声をかき消して元気よく答える。
「ははは、元気がいいなあ・・・・ここは久しぶりだろう?」
そう、シンジもここに来るのははじめてではない。
「そうですね、しばらく訓練していないんで腕はなまってると思いますが」
「話半分に聞いておくよ、キミの噂は聞いてるからね」
そこでユウジがコホンと一つ咳払いする。
「どうだ、みんな元気でやってるか?」
それを聞くと迷彩服の男性はすこし顔を歪める。
「コロンビアで”あいつ”が死にました」
ユウジはそれを聞いて天を降り扇ぐ。
「・・・・いい奴から先に死んでいく・・・・生き残るのはオレみたいなのばっかりだ」
「そうかもしれません・・・・あ、そうだ」そこで男性は口調を変える。
「”バッド・カルマ”・・・・あ、いや、佐藤三佐が会いたがっていましたよ」
「なんだ、アイツはまだそのコードを使ってるのか」ユウジは少し微笑む。
「昔からなんですか?」
「ああ、オレがキミの立場・・・・”オメガ1”だったときからそうだ」
そういうと二人は少し声を出して笑う。
三人はそのまま基地内を歩き、大きな建造物 巨大な倉庫に入る。
そこには屋内にCQB訓練(近接戦闘訓練)設備があった。
様々な形の建物、倉庫、飛行機、船、その他様々な人工物の実寸模型が所狭しと置かれている。
そして、あちこちから銃声が響いてくる。
「訓練は行き届いてるらしいな」ユウジがざっと回りを眺めていう。
シンジも銃声に驚くそぶりは見えない。
「見てみますか?」
「そうさせてもらおう」
三人は訓練施設の中の一つに踏みいる。
すると中には銃を構えた人間が描かれた標的が立てられている。
「さて、お手並み拝見だな」
ユウジがそう言った瞬間、黒づくめの男達が別の入口から乱入してきて短機関銃を撃ちまくる。
シンジは飛び交う銃弾を完全に無視しているようで、伏せることすらしない。
ユウジにいたっては、懐からタバコを取り出して火を付けている。
黒づくめの男達は標的全てに弾を叩き込んだ事を確認すると、
「クリア!」
と叫んだ。
すると、どこからともなく拍手が聞こえてくる。
ユウジだ。
「お見事」
男達は被っていた黒いフードを取る。
「小松!オマエまだいたのか!?」
「小松さん!」
ユウジとシンジは男達の中の一人に近づくと嬉しそうな声を出す。
「一佐もお元気そうで・・・・シンジ、久しぶり」
小松と呼ばれた男はにやりと笑って右手を差し出す。
ユウジはその手を握り返す。
彼はシンジがここにいたとき、専属のコーチをしていたのだ。
だが、そんな彼らを怪訝そうに見る者もいる。
「小松さん、誰です?この子」
顔が扁平気味の男がたずねる。
「あ、そうか・・・田中は知らないんだな・・・・論より証拠だな、田中・・・制圧しろ」
「はい?・・・・本気ですか、小松さん」
「おう、本気も本気、やってみろ」
シンジはユウジと話していてこちらを向いていない。
「んじゃまあ・・・」
田中と呼ばれたその男は、軽く腕をひねり上げようとシンジの腕を取ろうとしたが・・・・
「うわぁ!?」
逆に腕を取られ、脚を払われ、自分が制圧されるハメになった。
「あたたたたたた!!!」
「ご、ごめんなさい!・・・急だったんで手加減できなくて・・」
固めていた腕を解いて助け起こしながら謝るシンジ。
「どーだ、田中?わかったか?」
「あーいてえ・・・・強いのはわかりましたけど・・・・何者なんです?」
田中は小松とシンジにそれぞれ視線を投げる。
「俺達の仲間さ」
「他の連中もまだいるのか?」
ユウジが小松に声を掛ける。
「いや、一佐が知ってるのは・・・もう私とあと、平岡・・・・それに隊長くらいですかね」小松はユウジ達をここまで案内した男性をちらりと見る。
や
「それに・・・・班長が先日コロンビアで殺られました」
「聞いたよ・・・・惜しい男を亡くした・・・」
「それで一佐、用向きは何です?・・・ただ遊びに来たワケじゃないでしょう?」
「おう・・・・佐藤が来たら詳しい説明をするが、一仕事やってもらいたいことがある」
「想像するに、キツい仕事ですね?」
それを聞くとユウジは鼻を鳴らす。
「オメガの仕事でキツくない事があるのか?」
「ちがいないですね」
オメガ・フォース
それが彼らの部隊名である。
アメリカ合衆国、ワシントンDC
合衆国大統領は、午前中のスケジュールを一部キャンセルし、統合参謀本部議長の報告を受けていた。
「サン・ディエゴにデルタが到着いたしました。今夜半にも彼らを乗せた原潜「オハイオ」が出港する予定です。
陸軍出身の議長は言葉に自信を覗かせながら報告する。
「作戦のスタートは?」頬杖をついた大統領が聞く。
「・・・・・・大統領、我々にとって作戦は既にスタートしています」
「ああ、済まなかった・・聞き方が悪かったな」
数々の欠点を持つ大統領だが、自分の誤りを素直に認める・・・少ない美点の一つだった。
「”向こう”での実際の行動はいつからなんだ?」
「「オハイオ」が目的地近海に到着した後は現場指揮官に一任します」
「ではこちらからすることはもう無いわけだな?」
「はい、向こうでは潜入工作員とデルタの連携が鍵になります・・・その為に自由裁量を現場に与えました」
「そうか・・・・あとはただ待つだけだな」
「その通りです、大統領」
大統領はしばし目をつむって瞑目する。
と、目をつむったまましゃべりはじめた。
「この作戦・・・・”オペレーション・1”というのでは面白くないな・・・・もっと”らしい”作戦名はないか?・・・・もっとも、正式な記録に残せるわけではないが」
議長はしばし考えた後、答える。
「・・・・”アイアン・フィスト”・・・・」
それを聞いた大統領はちょっと考える仕草をする。そして、
「良い名だ」
そして彼は立ち上がる。
「対ネルフ特殊作戦の正式呼称はオペレーション、”アイアン・フィスト”だ」
あ・と・が・き
みなさまこんにちわです。
P−31です。
第10話Bパートをお届けします。
とりあえず、今回はいきなりいいわけから・・・・
えーと、作中に出てきましたレーザーの描写、
おそらくまるっきりまったくインチキだと思います。
作者が完璧な文系人間なんで、こーゆー描写は嘘が多分に入っていると思います。
さて、次回は今まであれだけ伏線を張りまくってしまった11話です。
ひょっとしたらいつものA、Bパートだけでは収まらないかもしれません。
広げた風呂敷を畳むにはそれぐらい必要かも(笑)
さてさて・・・・次回予告は今回もすっ飛ばしまして・・・
今年の「めぞんエヴァ」への投稿はこれが最後になります。
こんなくっだらねぇSSを読んで頂いてありがとうございます。
年が明けたら、またお会いしましょう。
では!