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 鐘が時を告げる。

 凍み入るように鐘の音が聖堂に鳴り響く。

 よく油が引かれているのか、扉が音もなく開く。

 外界から一気に差し込まれた光と共に、二人の男女が聖堂内に足を踏み入れた。

 一歩、また一歩と、滑りそうなまでに磨かれた石床の上の赤いバージンロードを、ゆっくり確実に踏みしめながら二人が歩む。

 脇に立ち並ぶ参列者達が思い思いの言葉を二人に投げかける。

 そして二人は、神父の前の所定の位置で歩みを止めた。







 参列者のざわめきも収まり、一同の視線が今日の主役達に向けられた。

 「古の習わしに従い、指輪を交わして婚姻の誓いとなす。カリオストロ公国大公息女、アスカ・ド・カリオストロよ、この婚姻に同意するか・・・・・・意義なきときは沈黙をもって答えよ」

 粛として声ない場内。

 司祭が十字を切って口を開いたその時。

 「異議あり」

 思い声が響きわたった。

 「この婚礼は欲望の汚れに充ちているぞ」

 「小父様!!」







 ・・・も、妄想。

 何?このアタシが緊張しているの?

 足が油断すると震えはじめてしまう。

 目の前に立つ神父様が問いかけ始めた。

 「碇シンジ。汝はこの者を妻とし、いつの時も助け合い、慈しみ、愛することを誓いますか」

 背筋を伸ばして脇に立ち、正面を見据えたシンジがはっきりと、通る声で答えた。

 「はい」

 胸の鼓動が早くなる。

 わ、わ、わ、頭の中が真っ白になってきた。

 その時シンジがアタシの小指をそっと摘んでくれた。

 それだけなのにすっかり落ち着いてしまうアタシ。

 コントロールされてるみたい。

 「惣流アスカ・ラングレー。汝はこの者を夫とし、いつの時も助け合い、慈しみ、愛することを誓いますか」

 声が出ない。

 一言で良いのよ、出てこいアタシの気持ち。

 口が開いた。

 でも出ない。

 答えなさいアスカ。

 「はい」

 何人の人が聞こえただろう。

 俯いたアタシの口から絞り出された言葉。

 朱色に染まった頬をした小さな女の声を。

 らしくないらしくないらしくないわ。

 こんなのアタシらしくない。

 わかってるのに、わかってるのに。

 押し潰されそう。

 いつものアタシはどこ行ったのよ。

 神父様の声がうつろに響いてくる。




 「・・・指輪の交換を」




 横から差し出された指輪を摘んだ。

 NERVの退職金の一部を下ろして買った指輪。

 あんな高い買い物は初めてだったわ。

 ってシンジが先じゃないの、なんでアタシが指輪を持っているのよ。

 シンジが左手を取り薬指に指輪を差し込んでくれた。

 アタシの右手の中で握りしめられる指輪。

 何事もなかったようにシンジの左手薬指に指輪をはめ込む。

 この野郎、笑っちゃって、気がついていたわね。

 アタシもにっこりと微笑み返す。

 シンジの笑みがちょっと引きつったものになった。

 あらら、感情が出ちゃったわ。

 なんにも知らない人たちは微笑み会う二人の姿に、おおっ、とか言ってるけど。




 「誓いの口づけをもって、婚姻の証とする」




 口づけって・・・キスのことよね。

 シンジがアタシを優しく見つめている。

 あ、やばい。

 ダメ、出る。

 シンジを見ていたら涙が一気に溢れ出した。

 こんなに幸せなのに。

 幸せすぎて泣くこともあるのだと、アタシは初めて知った。

 シンジがそっと涙を拭ってくれた。

 そしてアタシの顎をそっと摘み上へ向けると、唇を合わせてくれた。

 だんだんと気持ちも収まりはじめ、心に余裕が生まれてきたアタシはちょっといたずらをした。

 シンジの顔が耳朶まで朱に染まる。

 だらしないわね、ちょっと舌を絡ませただけなのに。




 アタシ達は参列者の方へ向いて深々とお辞儀をした。

 拍手が沸き起こりアタシ達を祝福してくれる。




 ヒカリが泣いている。

 鈴原がなんか叫んでいる。

 メガネが写真を撮りまっくている。

 カヲルが・・・暴れている。

 レイが必死に取り押さえようとしているわ。

 僕のシンジ君をどうするつもりだって?こうするのよ。

 アタシはシンジに抱き付くと再び熱い口付けを送った。

 横目で見ると、あ、倒れ込んだ。

 ばーか。




 げ、司令が笑ってる。

 もう司令じゃないのよね、お義父様なのよね。

 慣れそうもないわ。

 しっかし、あの笑い方は犯罪よね。

 一言で表現すると、”不気味”。

 その隣でリツコが微笑んでいる。

 やっぱりあの噂は本当なのかしら。

 副司令が、オペレーターの三人が、笑顔で拍手をしている。




 ん。

 あれ?

 ミサトは?

 シンジを肘で突つくと、ミサトの所在を尋ねた。

 シンジが首を傾げる。

 どこに行ったのかしら。

 アタシ達を祝福して欲しいのに。

 いた。

 いつのまにかあんな隅っこに行っている。

 全く大人げないわね。

 いくら自分より15歳も若いアタシ達が結婚したからといって、いじけることないじゃない。

 まいっか、後でプレゼントをあげるから。




 「こんちきしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 あ、吠えた。




 「異議あり異議あり異議あり異議あり異議あり!!この婚礼は欲望の汚れに充ちているんだぁ!!」

 一番汚れてるアンタが言うか。




 大馬鹿二人はほっといて、アタシ達は神父さまの祝福を受けた後、出口へ向かってバージンロードを再び進み始めた。

 女の子達が先を争って外へ出て行く。

 さーて、最後のショータイムよ。




 教会の入り口の階段上に立ち、下にいる人達を見下ろす。

 どこに投げようかなっと。

 ミサトは・・・いた。

 一瞬息が詰まった。

 こ、恐い。

 鬼?

 あれが鬼なの?

 吊り上った目を血走らせ、両手を広げていつでも走り出せる体勢を取っている鬼がそこにいた。

 思わずシンジにしがみついてしまう。




 シンジが身を震わせた。

 鬼に気がついたのね。

 「戦闘力15000?そんな馬鹿な!?」

 は?何の世迷言を言ってんのよ。




 女の子達のボルテージが上がってきた。

 早く投げないと暴動が起きそうね。

 ミサト、これがあたしからのプレゼントよ。




 アタシの手から放たれたブーケは、狙い違わずミサトの頭上へ飛んでいった。

 両手を振り回して周りに人を近づけないようにしている。

 鬼畜?

 高く舞い上がったブーケが落下し始める。

 ミサトが宙を歩く。

 エアウォーク!?

 そしてその手の中に目標を納めようとした瞬間。




 手は空を切り、地面とキスをするミサト。

 アタシはしっかりと見た。

 金髪の女がミサトの足を掴んで引きずり降ろした瞬間を。




 高らかに笑うキンパ・・・リツコ。

 その手中にはブーケがしっかりと握り締められていた。

 ・・・やばい、二人共ぶっ飛んでる。

 ミサトが雄叫びをあげる。

 人がここまでの域に達することができるの?




 暴風の中心がだんだんと近づいてきた。

 「シンジ逃げるわよ!!」

 手に手を取ってアタシ達は走り出した。

 大好きなあの映画のエンディングみたいに。




 背中に阿鼻叫喚の雨あられ。







 二大怪獣大戦争。




 とは、逃げ遅れたヒカリから聞いた。




 結局ブーケはゴミと化したらしい。







 一時間後のパーティ会場は怪我人だらけだった。




 ミサトとリツコの有り様はというと・・・、良く言ってもホームレス。




 アタシ達は、今までありがとうと、ボロボロのミサトに言って、抱きしめた。

 ミサトは泣いていた。

 感極まって泣いていたのだ、と思いたい。




 その後パーティは荒れに荒れた。

 もはや言うべき事は何もないわ。







 シンジとようやく二人きりになれたのは、深夜三時。

 明日は・・・もう今日か、新婚旅行に旅立つ。

 ヨーロッパ各地二週間の旅。

 学校は試験休みに入っているから、ゆっくりと観光することができる。




 疲れた。

 ホテルの一室でアタシ達はくつろぎ始める。

 ベッドに腰掛け、シンジにもたれかかる。

 しばらくそのままでいると、体勢を直したシンジが正面から見据えてきた。

 「これからもよろしく」

 ちょっと味気ないけど、シンジらしい言葉だった。

 「末永いお付き合いを」

 なんか取り引きみたいね。

 「アタシの全てをシンジに奉げます」

 と言い直した。

 「僕の全てをアスカに奉げます」

 シンジが返してくる。

 そしてアタシ達の距離がゼロになった。
















 「・・・・・・・・・あ」
















 「・・・・・・アスカ」













 「・・・・・・シンジ」































 その夜は一睡もできなかった。


















































最終話 All you need is love.



















 3 years later.










 泣き声がする。

 誰、誰が泣いているの?

 ちらつく意識の中でそんなことを思う。

 アタシの名前を呼んでいる。

 シンジ?

 目を開けると、そこにシンジが立っていた。

 アタシは白い部屋のベッドに横たわっていた。

 ここはどこ?

 「アスカ」

 シンジの声がする。

 アタシの男。

 アタシだけの男。

 「・・・シンジ」

 声に出して呼びかけた。

 よく見るとシンジがベッドの脇に座っていた。

 「よく頑張ったねアスカ」

 そう言うとシンジは、アタシのおでこにキスしてくれた。

 「二日間眠りっぱなしだったから、すごく心配した」

 そう言うと今度は唇を重ねてきた。

 ・・・ん、ん、ん。




 「ご覧、僕達の子供だよ」

 長いキスの後でシンジが壁際を指差す。

 備え付けのモニターの中に赤ん坊がいた。

 しかも二人。

 ・・・そっか、無事に産まれたんだ。

 アタシ達の赤ちゃん。

 「双子だったの。道理で辛かったわけね」

 アタシ達の子供。

 アタシ達が産まれてきた証がそこにあった。

 過ごした年月がそこにあった。

 「男の子と女の子だよ。男の子の髪の毛と眼の色は夜の空色。女の子の髪の毛と眼の色はアスカ色」

 シンジがまだ見てない赤ちゃん達の特徴を説明してくれる。

 「アスカ色って何よ?」

 微笑みながらアタシは言った。

 「アスカ色はアスカ色だよ」

 そう言うとシンジは手を握ってきて微笑み返した。




 アタシ達がこの先何年生きられるかは解らない。

 一つ解っていることは、アタシがこの男に生涯連れ添うということだ。

 シンジも同じことを思ってくれているはず。

 もう不安にはならない。

 愛する男がいる。

 愛する子供がいる。

 仕事も面白いし。

 人生楽しそう。




 今アタシは世界一幸せな女だということを実感した。




 赤ちゃんに名前付けてあげなきゃね。

 シンジの顔を見つめながら思った。

 男の子は・・・。





ver.-1.00 1999_02/06 公開
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 後書き




 ようやく完結しました。

 まさかここまで引っ張るとは・・・。

 第一作”GRADUATE”発表時、評判が良かったため図に乗ってしまい、急遽連載の形を取ってしまいました。

 コンセプトはひたすら甘く。

 MILOに砂糖山盛り五杯分くらい甘く。

 Boy‘s ○e...よりも甘く。

 LAS人としてLAS物以外は書く気がなかったので(これからも)体質的に受け付けない方もいらしたでしょうが、ご容赦ください。



 ”Both Wings”と並行して連載していたため、かなり不定期になってしまったことをお詫びします。

 基本的に僕の書くシンジ&アスカは強いです。

 へたれではないです。(あくまで基本的に)

 シンジは好きな女のためにより格好良く、より優しくなっていきました。

 アスカは好きな男のためにより女の子らしく、女らしく、可愛くなっていきました。

 ほとんどがアスカの一人称で語られたこの弊作ですが、恋する乙女の淡い女心が少しは表現できたかな、と思っています。

 本当は産まれた子供は一人で、ヘテクロミアだったというような設定にしようと思ったのですが、けびんさんの”二人の補完”で先越されてしまったんで、かぶらないように設定を変えてしまいました。

 別にかぶってもええよ、という返答は貰ったんですが、さすがにできませんわ。



 題名はどうやってつけてるのかと、以前御質問があったのですが、基本的に歌です。

 ”GRADUATE”はサイモン&ガーファンクル。

 ”All you need is love.”はBEATLESから。

 歌の名前じゃないのもありますけどね。

 銀英伝から取ったものや、曲名を無理矢理英語標記にしたのもあったりして。



 今回多数の方からたくさんのメールを頂きました。

 この場を借りて御礼を申し上げます。

 ありがとうございました。

 マジ力づけられました。

 これからも引き続きよろしくお願いいたします。



 投稿ばかりしていて、HPの更新をここ何ヶ月かしていないのに気がついて青ざめてたりして。

 もうすこししたら更新します。



 次回お会いするのは”Both Wings”になります。

 このシリーズはもう書きません。

 ”Both Wings”も次回で第一部完結です。

 終了ではないです、第二部もあります。

 ちょっと置いておいて中編の連載を、と思っています。



 それでは二月中にまたお会いしましょう。

 余談ですが、昨年中に終了予定が、一月中予定になり、結局二月。

 クズっすね。

 それでわ。




 今回執筆中にジャイアント馬場さんの訃報を聞きました。

 この場をお借りしてご冥福をお祈りします。



 ZERO










 第壱拾回へっぽこおまけ




 「私の人生って一体・・・」




 「シンジ君の大馬鹿野郎〜!!」

 「うっさいボケ!」

 ちょろちょろしている渚とかいうガキに、ギャラティカマグナムを叩き込む。

 「ぐふっ!」

 むなしい、むなしいわ。

 「きのおーのずぼんはーもーおはーけーなーい」

 クスン。

 くっそおリツコがあんな手段に出るとは・・・。




 3 years later.




 「あの子達に子供が産まれた!?夫婦だからってやって良いことと悪いことがあるのよ」

 「良いに決まってるでしょ、ミサトもさっさと結婚して子供作れば良いじゃない」

 「相手がいないのよ」

 「なんか悪いわね先越しちゃったみたいで」

 「こら、おおっ!?やるっつーならいつでもやってもいいのよあたしゃ」

 「ゲンちゃんが待ってるから帰るわ、ばーいびー」

 ・・・リ、リツコまで。




 3 years later and more.




 「あ、ミサトおばちゃんだぁ」

 「ちがうよ、いきおくれのみさとおばちゃんってゆーんだよ」

 「「ねー」」

 ぷっちーん。

 あの色狂い夫婦・・・殺す。




 ママン、ママン、幸せの青い鳥ってどこにいるの?







 世界で一番不幸な女であることを実感した今日この頃。







 だっふん。













オチなし







劇終






 ZEROさんの『All you need is love.』公開です。





 中学校から始まった Sweet Ten 。
 ついに完結(^^)



 言葉が出てこないアスカちゃん。
 緊張にガチガチのアスカちゃん。

 らしくない?

 いやいやいえいえ、
 これも一つの。


 とても素敵な式で時でした〜


 区切りで
 更にへの始まりですね。



 ず〜っと幸せな二人を感じます☆





 さあ、訪問者のみなさん。
 ついに完結ZEROさんに感想メールを送りましょう!









 はじめアスカとシンジが20歳。
 アスカとシンジの15歳年長。

 それから3年経過。
 さらにその時産ませた子供がきちんとしゃべるまで。

 あぁミサトさん・・・・






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