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《注》 本作品は,『夢の続き・・・ A-Version』を読まれた後に読むことを推奨します。
夢の続き・・・ S-Version
目覚まし時計に起こされる前に,僕は眼を醒ました。
時計は6時25分を示している。だいたいいつも起きる時間だ。僕は目覚ましが騒ぎ始める前に,そのボタンを押した。
『さて,起きなきゃ。』
僕は制服に着替え,簡単に身だしなみを整えると,朝御飯の準備をするため台所へと向かった。
料理はいつも,お昼のお弁当の準備から始める。お弁当が冷めちゃうのは仕方ないけど,朝御飯は出来立てを食べて欲しいから,なるべくミサトさんやアスカがテーブルに着く時間に合わせて仕上げる。
『今日のお弁当のおかずは,久しぶりにアスカの好きな唐揚げにしようかな。』
一人台所に立つ僕は,そんなことを口にしながら作業に取り掛かった。
10分ぐらい経った頃,背後に気配を感じて僕は振り向いた。そこには,寝起きの
まま僕のことをボッと見ているアスカがいた。
『あ,アスカ,おはよう。』
めずらしくボーッとしている無防備なアスカを見て,思わず頬がゆるむ。
『お,おはよう,バカシンジ。』
アスカの返事がちょっとどもってる。まだ寝ぼけてるのかな?
『今日は早いんだね,どうしたの?』
何気なくそんなことを聞いたあとで,しまったと思った。
アスカの機嫌をそこねちゃったかな?
『べ,べっつに,な,何となく目が覚めたから・・・。』
アスカの様子がちょっとおかしい。
心なしか頬が赤いような・・・・。
『と,ところで,今日のお弁当のメニューはなに?』
アスカはその状況を誤魔化すように,パッと僕の手元を覗き込んでくる。
あっ,なんか甘い香りが・・・・。これってアスカの匂い?
そんなことを思った瞬間,妙に意識してしまった。
僕の手元を覗き込んでいるアスカの顔は,僕の顔と20cmも離れていない。頬に血が昇るのが分かった。
『きょ,今日はアスカの好きな唐揚げだよ。最近,作ってなかったからね。』
何とか動揺しているのを誤魔化そうとしたが,その努力も虚しく,口をついて出た
のはうわずった声だった。
僕の様子に気が付いたのか,アスカの頬が赤く染まった。
『ア,アタシ,シャワー浴びてくるわ。』
アスカは,パッと身を引くと,ちょっと慌てたように言った。
うっ,アスカに意識したこと気付かれちゃった・・・。
『えっ,う,うん。あっ,と・・,じゃあ,朝御飯の時間,少し早くした方がいい?』
僕の方も何とか話しをそらそうと,そんなことを言う。
『そうね,シャワーの時間,延ばすから・・・,10分くらい。』
『わかったよ。』
アスカはそのままバスルームに向かっていった。
ふぅーーーーう。
大きく息をつく。
女の子って・・・,みんなあんないい匂いがするんだろうか・・・・。
そんなことを思ってしまった自分に気付き,真っ赤になってしまう僕。
『へ,変なこと考えてないで,早くお弁当,仕上げなくちゃ。』
誰が聞いてるわけでもないのに,言い訳するように,そんなことをつぶやいていた。
今日の朝御飯は,カリカリのベーコンエッグにレタス中心の生野菜サラダにした。もちろん,ご飯とお味噌汁が中心だ。アスカが来た頃はパンの時もあったけど,最近はほとんど和食になっている。僕とミサトさんが和食の方が好きだからだけど,アスカも別に文句も言わないので,和食は嫌いじゃないんだろう。
今日はめずらしく,ミサトさんまで自分から起きてきた。アスカがシャワーから出てくる前に,すでに今日2本目のエビチュを飲み始めている。
あっ,アスカが戻ってきた。
軽く上気した頬を見て,僕の心臓の鼓動が再び速くなっていく。
どうしちゃったんだろう,今日は。アスカのこと・・・妙に意識しちゃってる。
そんなことを考えている内に,ミサトさんがアスカに声を掛けていた。
『あらぁ,アスカ,今日はどうしたのぉ?こんなに早く起きてるなんて。』
『別になんでもないわ。たまたま眼が覚めちゃっただけ。』
ミサトさんが絡もうとしたが,めずらしくアスカが相手にしない。
ちょっと不思議に思いながらも,口を挟む。
『ほんと,いつもこうやって,二人とも自分で起きてくれるとありがたいんですけ
ど・・・。』
そんな僕の言葉に対し,アスカは聞こえないふりをして,逆に聞き返してくる。
『さぁて,シンジ,今日の朝御飯はなに?』
『ベーコンエッグとサラダ。アスカのは,ベーコン,カリカリにしといたよ。』
『さぁっすが,シンジ。良く分かってるじゃない。さぁ,食べましょ。』
朝御飯の時間が10分早かったので,僕達はそのまま,いつもより10分早くマンションを出て,学校に向かった。少し時間に余裕があるので,いつもはさっさと歩いていくアスカもちょっとのんびり歩いているようだ。
僕にはこれぐらいのペースがちょうどいいんだけどなぁ。
なんとなく気持ちに余裕が出来て,朝の空気を感じとれる。
ただ歩く速度をゆっくりとしただけで,こんなに気分が違うなんて。
そんなことを考えていたら,アスカが話しかけてきた。
『ねぇ,シンジ。今日もいい天気ね。朝日が気持ちいいわ。』
『そうだね。』
自然に答えが出る。アスカも何となく穏やかな雰囲気になっているのが感じ取れる。
めずらしく朝から落ち着いた感じ。
こんなのも気持ちいいな。そう思ったら,思わず口にしてしまった。
『なんか・・・,こんなのもいいね。』
『えっ?』
僕がポツリともらした言葉に,アスカがびっくりしたように大袈裟に反応する。
どうしたんだろう,アスカ・・・。何か気に障るようなこと言ったかな・・。
『ゴ,ゴメン。』
思わず謝ってしまった。ほとんど条件反射だな。なんで謝るんだろう。
そう思った瞬間に,やっぱりアスカが怒ってしまった。
『べ、別に,変なこと言ってないでしょっ!なに,いちいちあやまってんのよ、 もう。』
『う,うん。』
せっかくアスカといい雰囲気だったのに・・・。
あっ,僕,やっぱりアスカのこと意識してる。
思わず顔が火照っていくのを感じて,アスカにそれを見られないように顔を背けた。その視線の先に,蒼銀の髪をした女の子の姿が目に入る。
綾波だ。
彼女は僕とアスカの方をチラッと見た後,なにも言わずに学校の方に歩いていく。
いつもはアスカと一緒にいるのを見られても何とも思わないのに,今日はやけに恥
ずかしく感じる。何でだろう?
そんなことを考えた時,アスカが突然,叫んだ。
『バカシンジっ!!なに,ファーストのことボッと見てんのよ!今は,ア・タ・シと一緒にいるのよっ!バカにすんじゃないわよ!』
そのまま横にあった公園の中に駆け込んでいく。
なんで?
誤解だよ,アスカ!
僕はアスカのことを考えて・・・。
僕にしてはめずらしく,迷わずアスカのことを追いかけていた。
待ってよ,アスカっ!!誤解だよっ!!
心の中で叫びながらも,懸命にアスカを追いかける。
アスカに追いついたのは奇跡のようなものだった。
思わず強く右手首を掴んでしまった。
『ア,アスカ,待ってよ。誤解だよっ!』
『な,なにが誤解なのよっ!』
『僕は,別に,綾波のこと見つめてた訳じゃないよ。ちょ,ちょっと考え事してて。』
『別にファーストなんか関係ないわよっ!』
アスカは僕の手を振りほどこうと,身をよじる。その勢いに引かれて,体勢を崩した。
しまった!!
バランスを崩した僕達は,絡み合いながら,そばにあった大きな木にぶつかった。
うっ・・・,こ,この体勢は?!
僕は両手を木についていた。そしてその間にアスカ。
まるでアスカを口説こうとしているかのような体勢だ
い,いくら偶然とはいえ・・・,ど,どうしよう?!
その時,アスカの眼の端に,微かに滴が光っているのに気付いた。
アスカ・・・泣いてるの?
『アッ,アスカッ・・・』
思わず,強く彼女の名前を呼んでしまったが,そのままどうしようもなく固まってしまった。
その時,アスカがゆっくりと目を閉じた。
こ,これって?!まさか?!
胸の鼓動がアッという間に跳ね上がる。頭にカーッと血が昇る。
いつもだったら何も出来ないはずなのに,何故か身体が動いた。
ゆっくりとアスカの顔に近づいていく。
・・・・。
柔らかな感触。
ア,アスカと・・・キス・・しちゃった・・・。
そのまま僕は,アスカの柔らかい感触を感じていた。
リリリリリ・・・
ジリジリジリジリジリ・・・
んっ?何か遠くでベルか何かが鳴ってるような・・・。
ジリジリジリジリ!!!!
ガバッ!!
僕は布団を吹っ飛ばすようにして眼を醒ました。
慌てて目覚まし時計を止める。
胸がまだドキドキしてる。
い,今のは・・・・夢? 全部?
周りをゆっくりと見渡す。ここは僕の部屋。
時計を見ると,6時半を示している。いつも起きる時間だ。
はぁっっっっっ・・・。さっきのはやっぱり夢だったんだ・・・。
思わず,大きな息をつく。
そうだよなぁ,アスカがあんなことするわけないもんなぁ。
でも・・・。リアルな夢だったな・・・。
この間の夜の感触はまだ憶えている・・・・。
『やっぱり,実際に経験すると,夢もリアルになるのかな。』
そんなことをつぶやいてから,ハッと時計を見直す。あれからすでに5分過ぎている。いけない,早く起きなくちゃ。
僕はベッドから起き出して,軽く身支度を整えると,お弁当と朝御飯の準備をするためにダイニングキッチンに向かった。
まずはお弁当の準備からだ。
朝御飯はなるべく作りたてを出すために,後で作るから。
さて,今日のお弁当,何にしようかな。
そう考えたとき,今朝の夢のことが思い浮かんできた。
そう言えば,夢の中では唐揚げだったな・・・。
唐揚げはアスカの大好物だ。
最近,作ってなかったし・・・,唐揚げにしようか。
お弁当の準備が終わりに近づいた頃,背後に人の気配を感じた。
まさか,夢と同じようにアスカが自分で起きてきたのかな?
ちょっとだけ期待を込めて振り返った。
そこには,寝起きのままの様子でアスカが僕のことを見つめていた。
『あ、アスカ、おはよう。』
何故だか僕は嬉しくなって,アスカに微笑みながら声を掛けた。
『お,おはよう,バカシンジ・・・』
アスカの返事がちょっとどもってる。そんなところもさっきの夢とおんなじだ。
僕はちょっとドキドキしているのを感じていた。
この後,僕は,夢の中でなんて言ったんだっけ・・・。確か・・・
『今日は早いんだね,どうしたの?』
アスカは一瞬,ニコニコしながらうんうんと頷いたが,次の瞬間,慌てたようにしゃべり出す。
『べ,べっつに,なんでもないわよ!偶然よ,ただの,ぐ・う・ぜ・ん!別に変な夢,見たからじゃないわよっ!!』
ドキッ!!
び,びっくりしたぁ。きゅ,急に夢の話しを出してくるなんて・・・。
で,でも,アスカが僕があんな夢見たの知ってるわけないし・・・。
『ゆ,夢?ア,アスカ,なんか変な夢でも見たの?』
赤くなってくる頬を気取られないように,アスカに水を向ける。
次の瞬間,アスカの顔は真っ赤に染まっていた。
どうしたんだろう,アスカ。急に真っ赤になっちゃって・・・。
『べっつに,何も変な夢なんか,アタシはこれっぽっちも見てないわよ!』
アスカの様子・・・やっぱりおかしい。アスカも何か夢を見たんだろうか。
そんなことを考えていたら,アスカが急に話題を変えた。
『そ,そんなことはいいから,今日のお弁当のおかずはなんなのよ?』
『きょ,今日はアスカの好きな唐揚げだよ。最近,作ってなかったからね。』
答えながらも,僕の胸の鼓動は高鳴り,顔に血が昇っていくのが感じられる。
夢の中と同じように,僕の手元を覗き込んだアスカの顔が,僕の顔の間近にある。
あっ,甘い香り・・・。
夢の中でもアスカの柔らかな香りを感じたはずだが,それは匂いがする,と頭の中でイメージしただけだったのだろう。
実際に女の子の甘い香りを感じた僕は,目の前がクラッとするのを感じた。
思わず,アスカのことを抱き締めたくなる。
こんなこと思うなんて・・・。
自分の中で生じた衝動に戸惑いながら,それを必死でこらえた。
次の瞬間,ハッとなったアスカが素早く身を引く。
うっ,まさか・・・ばれてないだろうな・・・。
僕は内心,冷や汗をかきながら,アスカの次の行動に備える。
い,いきなり平手打ちはないよね・・・。
予想とは違って,頬を真っ赤に染めたアスカは,僕から視線を逸らすように俯いている。
『ア,アタシ,シャワー浴びてくるわっ。』
『えっ,う,うん。』
良かったぁ・・・。
と,ホッとした瞬間,そのアスカの行動もやはり夢と同じだということに気が付いた。
慌ててその場から逃げようとするアスカに,僕は声をかける。
『あっ,と・・,じゃあ,朝御飯の時間,少し早くした方がいい?』
『えっ,じゅ,十分くらいねっ。』
夢の中と同じアスカの返事。
僕は,また,無意識に夢と同じ答えを返していた。
『わかったよ。』
シャワワワーーーーーッ・・・
お風呂場から聞こえてくるアスカのシャワーを浴びている音を聞きながら,ぼんやりと考えていた。
今までの展開・・・・今朝方に見た夢と・・・ほとんど同じだ。
ひょっとして・・・このまま同じようにやっていけば・・・,ア,アスカと・・・。
さっきの夢の最後のシーンを思い出す。
僕は自分が真っ赤になっているのを自覚していた。
まさかとは思うけど・・・,でも,ひょっとしたら・・・。
微かな期待。
それで今日の朝御飯のメニューが決まった。
『よしっ,今朝のメニューは,カリカリのベーコンエッグに生野菜サラダだ。』
これで奇跡が起これば・・・。
僕はそんなことを考えながら,朝食の準備を始めた。
出来たご飯をテーブルに運んでいると,第一の奇跡が起こった。
ミ,ミサトさんが自分で起きてくるなんてっ!?
『ふぁぁぁーーーーーっ,シンジくぅーーん,おはよぉーーーー。』
大きな欠伸をしながらミサトさんがダイニングに現れた。冷蔵庫からエビチュを取り出すと,一気に飲み始める。
『ぷっはぁーーーーっ,クッーーーーー,人生,この時のために生きてるようなものよねぇ。』
毎朝,よく同じ台詞を言うな,と思ったが,口には出さなかった。それよりも,起こるはずのなかった第一の奇跡が起こったことに,僕の期待はますます膨らんでいった。
そうこうしている内に,アスカがシャワーからあがってきた。すでに起きてきているミサトさんを見て,ビックリしたような表情になったまま固まっている。
『あらぁ,アスカ,今日はどうしたの?こんなに早く起きてるなんて。』
先に声をかけたのはミサトさんだ。
『ミサトには関係ないでしょ!!アンタこそ今日はなんでもう起きてんのよ!』
いつもより過剰な反応をするアスカを,僕は不思議に思った。
どうしたんだろう,アスカ・・・。
『んんーーーーっ,なーーんか,目が覚めちゃったのよねぇー。』
ミサトさんは大人の余裕で突っかかってくるアスカを軽くかわす。
何とか場を治めようと,僕も言葉をかける。
『ほ,ほんと,いつもこうやって,二人とも自分で起きてくれるとありがたいんですけど・・・。』
思わず言ってしまった台詞だが,やっぱり夢と同じになった。
これは偶然と言うのか,それとも・・・・。
ひょっとしたら僕って・・・,いつも同じことしか言ってないのかな。
そんな下らないことを考え始めた時,アスカの声が聞こえた。
『シンジっ!今日の朝御飯はなに?!』
僕の答えなんか待たずに,アスカはすでにテーブルの上を覗き込んでいる。
そこまですれば聞かなくったって分かるだろうに・・・。
朝食のメニューを覗き込んだアスカの動きが暫し止まる。呆然とテーブルに並んだ
朝御飯を眺めている。
どうしたんだろう・・・,夢と同じメニューなのに。気に入らなかったのかな。
ちょっと心配になったが,アスカはすぐに何も言わずに席に付き,朝御飯を食べ始めた。
僕たちは,やっぱりいつもより十分早くマンションを出た。
どちらが言い出したわけでもないが,二人ともお互いの様子を伺いながら,合わせるように,同じ時間に立ち上がっていた。
朝のさわやかな空気の中を,僕とアスカはゆっくりと歩いていく。
ここまでは,まだ夢の中の通りに行っている・・・。
どうする?
この期に及んで,僕は少し怖くなってきていた。
もし,本当に夢の中と同じ様な状況になったとして・・・,アスカにキスしていいんだろうか・・・。
確かに夢の中のアスカは,僕を受け入れてくれた。でも,夢ってものは自分の願望が出るものだって言うし・・・。
あれは僕が望んでいることで,もし本当にそんなことしたら,アスカに嫌われちゃうんじゃないか・・・。
でも・・・・,でも・・・。
そんなところにアスカが声を掛けてくる。
『ね,ねぇ,シンジ。今日もいい天気ね・・・。』
途中までは夢とおんなじ台詞だったが,アスカの台詞はそこまでで途切れた。
アスカの様子も何か変だ。
さっきの台詞,下手な役者が台詞を棒読みしてるみたいだし,声もうわずってるような・・・。
『そ,そうだね。』
それに対する僕の返事もやっぱり棒読みの台詞みたいだった。
うっ,意識しちゃって夢の通りに行かない。どうしよう・・・。
そのまま僕たちは,お互いのことを妙に意識してしまって,会話はそこで途切れてしまった。
ああっ,もうだめだ・・・。これじゃ,夢のとおりには行かない。
そう思ったあとで,夢の中でのその次のシーンを思い出してみた。
そう言えばここで綾波が出てきて,その後アスカが・・・。
そう思って,微かな期待を込めて周りを見回すと,30mほど先を歩いていく蒼銀の髪を持つ少女の姿が目に入る。
まだ,続いてる?!
そう思った僕は,アスカが何か言っていたのも耳に入ってなかった。
と,突然,アスカが身を翻すと,無言で公園の方に向かって走り出した。
瞬間,そのことに気付いた僕の身体は,反射的にアスカのことを追いかけていた。
夢で見てたから反応できたのか,それとも自分自身の気持ちが反応したのか,自分でも分からなかったが,とにかく,アスカを全力で追いかけた。
アスカ,アスカ,アスカ,アスカ・・・。
アスカの背中を追いかけながら,心の中で彼女の名前を叫ぶ。
もう少し,あとちょっとで追いつく!
『アスカッ!!待ってよ!』
アスカの右手首を掴む。
やっと捕まえた!!
『な,なんでっ!?』
振り返ったアスカは,そう一言言ったまま僕を睨み付ける。
その綺麗な蒼い瞳が,涙で濡れている。感情が高ぶっているのか,掴んだ右手がぶるぶると震えている。
アスカっ!!
そんな彼女の様子を見て,思わず抱き締めたくなったが,グッとこらえた。
その間に,自分を取り戻したアスカは,僕の手を振りほどくように身体をひねる。
その反動で,目元から透明な滴が周囲に飛び散った。
『なんでなのよっ!!』
『アスカっ!落ち着いて!別に綾波はなんでもないよっ!!たまたま,歩いてるところが目に入っただけだよっ!』
僕は必死にアスカを説得する。
なんで,アスカが急に駆け出した理由を,綾波のことだと思うんだろう。
夢の中みたいに,そんなこと言ったわけでもないのに・・・。
そう思うどこかで,それが正しいと確信していた。
『なっ,なんでファーストがでてくんのよっ!!!』
アスカは否定する。でも僕は続ける。
『だって,アスカ,僕が綾波の方を見てて,アスカの話しを聞いてなかったと思ったから,怒ったんだろ?それは違うよ!』
『何が違うのよっ!!』
アスカがさらに強く身体をよじった瞬間,僕はバランスを崩し,僕たちはもつれ合いながら,近くの大きな木にぶつかった。
なんで,こんな非力なんだっ!
一瞬,自分で自分に腹が立つ。
でも,次の瞬間,僕は自分のおかれている状況を把握した。
夢と同じ・・・。
アスカが木を背中にしてもたれかかり,僕の両手は,彼女の両側を挟んで閉じ込めているように木についている。
こ,この体勢は・・・・,夢と・・おんなじだ・・・。
ハッと思わず息を呑む。アスカも同じなのが分かった。
胸の鼓動が高まる。
僕の心は,もう決まっていた
『アスカ・・・』
彼女の名前を呼ぶ。切ない気持ちが高まる。
アスカと・・・・キスしたい。
僕たちはお互いを見つめ合った。
涙で濡れているアスカの蒼い瞳が揺れている。
僕はゆっくりと目を閉じた。
顔をアスカに近付けていく。
アスカはそのまま動かない。
唇に柔らかな感触が拡がっていく・・・。
アスカと・・・キスしちゃった。
『アスカ・・・』
僕が声を掛けると,アスカはゆっくりと眼を開いた。
その時僕は,アスカと初めてキスした後の彼女の行動を思い出していた。
あの時は・・・いきなりうがいしに行かれたっけ・・・・。
僕はどんな顔をしていたのだろう?
一瞬,アスカの表情が曇ったのが分かった。
アスカ・・・やっぱりだめなの?
しかし,次の瞬間,彼女は僕に向かってニッコリ微笑んだ。
『ほらぁ,バカシンジっ!!早くしないと学校に遅れるわよっ!!』
そう言って,彼女はパッと身を翻すと,僕の腕をすり抜けて公園の出口に向かって走り出した。
えっ?!どういうこと?
『ちょっ・・,ま,待ってよ,アスカぁ!』
僕は慌てて彼女を追いかける。
ホッとしたような,訳が分からないような,不思議な気分だった。
『でも・・夢のとおり,アスカとキス出来た。』
口の中でポツリとつぶやく。
さっきの感触がよみがえってくる。
『ヨシっ!』
僕はこみ上げてくるものに耐えきれずに,思わず,右手をグッと握り締めた。
青い空の下,朝のさわやかな空気に包まれた公園の中で,生まれて初めてとも言える充実感を,僕は感じていた。
終
あとがき
この話しは,A-Versionと併せて二つでワンセットになってます。よく使われる手法ですが,同じ出来事をシンジとアスカのそれぞれの心から見て書く,というパターンですね。最近,モノローグ形式で書くことが多く,むしろそっちの方が書きやすくなってしまってます。そろそろ限界が見えてきたかな。反省,反省。
こんな作品でも,感想なんか送ってくれると嬉しいです。文句や『俺ならこうする』ってやつでも結構です。よろしくお願いします。
ぜんさんの『夢の続き・・・』S-Version、公開です。
シンジも同じ夢を見ていました(^^)
夢の中でのアスカとのキス。
同じように経緯する現実を
いぶかしながらも、
無意識的、意識的に夢に近づけようとする・・
アスカちゃんと同じでした(^^)
ラストシーンが
”好きな人とのキス”なのですから、
やっぱりそうしちゃいますよね(^^)/
この先は二人のアドリブ・・・
きっと
さらに甘く、幸せなものになっていくことでしょう−−。
さあ、訪問者の皆さん。
二つの方向からラブラブを描いたぜんさんに感想メールを送りましょう!
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[ぜん]