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みんなのお正月
【前編】 2016年12月31日 大晦日
コンセプトは 『よりLASに,そしてみんなが幸せな世界!』
ここは,サードインパクトの後に復興した世界。
LCLから戻ってきた人類の心がちょっぴり補完された世界。
碇ユイと惣流・キョウコ・ツェッペリが無事にサルベージされた世界。
綾波レイと渚カオルが人類とともに共存する世界。
加持リョウジも葛城ミサトも無事に生き残った世界。
そして・・・・
碇シンジと惣流・アスカ・ラングレーが仲良く暮らす世界。
2016年12月31日。大晦日。
碇シンジは,昼前になってやっと起き出してきた。両親と一緒に暮らすようになってから家事はユイにまかせっきりにすることが増え,最近は朝も起きられなくなってきている。
『ふぁぁぁ,ねむ〜〜っ。』
大きな欠伸をしながら,裸足でペタペタと廊下を歩いていく。
ダイニングキッチンの方から,料理をする音が聞こえてきているが,ゲンドウが台所に立つわけがないから,ユイかレイ(多分,前者だろうけど)が何か作っているのだろう。そう考えたシンジは,寝起きのぼさぼさの髪のままダイニングに入っていく。
『母さ〜ん,朝御飯,というか,昼御飯になるのかなぁ,どっちでもいいけど,何か食べるもの・・・』
『バカシンジったら,なに今頃起きてきてんのよ。今,何時だとおもってんのぉ。』
『あれっ,アスカ,こんなとこで何してんの?』
『何してんのとはなによ,失礼ねぇ。』
そこにはユイと一緒に,流れるような蜂蜜色のロングヘアーと生命力に溢れる蒼い瞳を持つ美少女が,いつもの腰に手を当てたポーズで立っていた。廊下から響いた欠伸の声を聞いて,待ちかまえていたようだ。
しかし,聞く人が聞けば,その口調には以前のような突っかかるような調子はなく,むしろ恋人をたしなめるような,甘えたような感じがにじみ出ているのが分かるだろう。
しかし,シンジの顔は,思わずひきつってしまう。
『きょ,今日,なんか約束してたっけ?』
頭の中で必死に記憶を探っているようだが,思い浮かばない。
もし,約束を忘れてたとなると,あとでどんなことになるか分かったものではない。以前なんか,待ち合わせに15分遅刻した時は,公衆の面前で,
「信じらんないっ!私との約束を忘れてたなんてっ!!もう,わたしのこと,愛していないのねっ!!」
などと,泣き真似をしながらすがりつかれた。
周りから浴びせられる白い視線や,ひそひそ囁かれる声の中で,彼は延々と彼女に愛(謝罪?)の言葉を囁かされることとなった。
『何言ってんのよ。今日はおばさまのお手伝いに来たの。お節料理を作るって聞いたから,ぜひ見せてもらいたいと思って。』
その言葉を聞いてホッとしたとともに,少し余裕の出来たシンジは,ようやく彼女の格好に注意がいく。今日のアスカは,ピンク色のフリルのたくさんついた可愛いエプロンをつけている。
(か,可愛い・・・)
シンジはしばし呆然と,アスカのエプロン姿に見とれる。
『なにボォーッとしてんのよ。』
『えっ・・,いや・・・,え,エプロン,変えたんだ・・・。そ,その・・に,似合ってるよ,とっても。』
『えっ?!』
アスカは思わず,自分の姿に目をやる。
そのエプロンは,半年ほど前からちょくちょくと料理の修行に来ているアスカに,クリスマスプレゼントとして,一週間前にユイが贈ったものだ。シンジがそのエプロンを見るのは初めてであった。
『そ,そう?ちょっと可愛いっぽすぎてアタシには似合わないかと思ったんだけど・・・。』
『そんなことないよ!ほんと,絵本から抜け出してきたみたいで・・・とっても可愛いよ。』
実際,美しくなったと言っても,まだどこかあどけなさを残したその少女には,お人形に着せるようなフリフリの可愛いエプロンもしっかり似合っていた。
母親と暮らすようになって一人で強がることをやめた少女は,年相応のふるまいをするようになり,時には以前よりむしろ幼く見えることもある。特に母親や,シンジ,ユイなどと一緒にいるときはそれが強かった。
『ありがとう,シンジ・・・。』
『い,いや,僕は,お,思ったことを言っただけで・・・。』
『うれしい・・・。』
そのまま二人はお互いに真っ赤な顔で俯いてしまう。
『はいはい,二人がおアツイのはよぉーく分かってるから。』
そこへユイが絶妙のタイミングで突っ込みを入れる。
シンジとアスカははじかれたように顔を上げると,あたふたと弁解を始める。
『そ,そんな,おばさま,わたし達は・・・』
『か,母さん,なに言ってるんだよ!』
(ほとんど恋人同士のような間柄になっても,まだ初々しさが残ったままね。二人とも,まだまだお子様なんだから。)
あたふたしている二人を優しい眼差しで見つめながら,心の中でクスッと微笑む。
『ほら,シンジ。レディの前よ。きちんと顔,洗ってきなさい。』
そこでシンジは,やっと自分が寝起きのままアスカの前に立っていることに気がついた。
『あっ,ちょ・・っと・・・か,顔あらってくる。』
慌ててシンジは洗面所に向かう。
『もう,おばさまったら・・・』
アスカはまだ真っ赤な顔をしながら,上目遣いでユイを見上げる。アスカの身長はかなり伸びているが,まだまだユイには及ばないので,自然と見上げる形になる。
アスカはほっぺたをちょっぴり膨らませているが,それもご愛嬌だ。
『ほらっ,そんな膨れっ面しないの。せっかくの可愛い顔なんだから。』
そう言いながら,両手でアスカの頬を優しく包む。
洗い物をしていたのでひんやりとした手が,熱くなった頬に気持ちいい。
『・・・はい。』
アスカは柔らかな感触に身を任せながら,気分が落ち着いていくのを感じる。
母親のキョウコと一緒にいるのとは違った安心感が,心を満たしていく。
(シンジの優しいのって,ユイおばさまに似たのかな・・・。)
そんなことがふと頭に浮かんだ。
そんな時,廊下からペタペタという足音とともに,大きな欠伸の声が聞こえてきた。
その発信源の人物が,ダイニングキッチンの入口に姿を現す。
『ユイ,朝御飯,というより昼御飯か。何か食べるものはないか。』
現れたのは,寝起き姿のその家の主だ。
その姿と言葉に,一瞬,見つめ合ったユイとアスカが,プッと噴き出す。
『? 何がおかしいのだ。』
頭にクエスチョン・マークを付けたゲンドウが首をひねる。
『いいえ,なんでもありませんよ。すぐ準備しますから。それよりもアナタ,レディの前なんですから,まず顔を洗ってきて下さい。』
『んっ? あぁ,分かった。』
まだ不思議顔のゲンドウが洗面所に向かっていく。
その後ろ姿を見送りながら,二人の女性はクスクスと微笑む。
同じ言葉が二人の口から出る。
『『やっぱり,親子よねぇ。』』
同じ感想に,また二人で見つめ合って,クスッと笑う。
『じゃぁ,黒豆と昆布は少し煮てればいいから,先に男どもの御飯の用意をしちゃいましょうか。』
『はいっ。』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
サードインパクトの後,ネルフは国連直属の研究機関となり,生体化学や電子関係およびその融合分野を中心に,今までエヴァの開発で蓄積されてきた技術を民生用に展開する研究を行っている。
総責任者は碇ゲンドウ,その補佐が冬月コウゾウの体制はかつてと変わっていない。一方で,実働部門は女性が中心を占めている。生体化学部門の責任者が碇ユイ,その補佐に惣流キョウコが付き,電子関係および生体・電子融合部門は赤城リツコが責任者となっている。ちなみに情報統括部門は加持リョウジ,渉外部門は葛城(加持)ミサトが担当している。
そんなこともあって,今,碇家と惣流家は,国連管轄の同じ建て屋の中にある。ネルフ関係者用に準備されている,かなり設備のいいマンションだ。
ドイツにいるアスカの父親が再婚してしまっていることもあって,惣流親子は日本で暮らすことにした。もっとも,娘のアスカがそれを強く希望した(というか一人でも日本に残ると主張した)という理由が大きい。いずれ帰化する予定という話もある。そして,今,碇家のキッチンで用意されているのは,両家の分のお節料理であるのだ。
シンジに会いにちょくちょく碇家に来ていたアスカは,すっかりユイのことが気に入ったようで,師匠として仰いでいる節がある。というのも,穏やかな物腰ながらきめるときはきめる態度と,バリバリの研究者でありながら家事も一級品というのが,アスカの理想像にぴったりと当てはまった,ということらしい。
(その裏で,どうやら男をうまく操縦することも見習いたいと思っている気配もある。なにせ,あの碇ゲンドウを尻に敷いているのだから・・・。)
そんなこんなで,最近は,よくユイの下で料理の特訓をしているようだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しばらくして,シンジが戻って来た。
『母さん,レイは?』
『あの子はとっくに出かけましたよ。お買いものに行くんですって。渚君と一緒かしらね。』
『なんか,ヒカリ達と一緒に出かけたみたいですけど。』
『あら,そうなの。てっきりデートかと思ったのに,それは残念ねぇ。』
綾波レイは碇家の養女となり,碇レイとなった。表向きはセカンドインパクト以降の混乱で孤児になったことにし,それを引き取る形で碇家の一員となった。しかしながら事情を知らない人は,ユイとレイが並んで歩いているのを見ると良く似た親子だと言うし,シンジとレイが双子だと思い込んでいる人もいる。(それも無理はないのだが・・・)
すべての役目を終えたレイに,ゲンドウとユイは,普通の人間として自分のために生きることを望んだ。そんな両親の希望を受けて,レイはまだ口数は少ないものの感情の起伏も徐々に豊かになってきており,2,3年後には普通の女の子と変わらなくなるだろうと思われている。
彼女が急速に人間味を身につけ始めているのは,碇家の3人の努力のみならず,感情の起伏がやや激しいアスカが一緒にいることが多分に影響しているのではないかと,シンジなどは考えている。
いずれにしても,最近は頻繁にショッピングやデートなどにも出かけるようになってきたのは,ユイやシンジにとって喜ばしいことだった。
ちなみに,レイのデートの相手は,かの渚カヲルである。サードインパクトの直前でシンジを励ました二人は,お互い同じ境遇にあったことや,シンジが間に入って取り持ったこともあって,二人で出かける機会が増えた。しかし,アスカに言わせると,
『あの二人,デートに行って何してるのかしらね。二人とも,とても愛を囁くなんて柄じゃないような気がするんだけど。』
ということになる。
加えておくと,渚カヲルは赤城リツコの家に居候という形で同居している。
『あなたたちは出掛けないの?』
『今日はアタシがお節料理の手伝いがあるんで。』
『手伝わなくても大丈夫よ。気にしないで,出掛けてきていいわよ。』
『いえ,アタシがやりたいんです。それにみんなとは,明日,初詣に一緒に行く約束をしてますんで。』
『そう?じゃぁ,今日はばっちりと教えてあげなきゃね。』
シンジは,お味噌汁を口にしながら,そんな二人のやり取りを横目で見る。
ユイとアスカは,本当の親子のように仲がいい。
そんな光景を見てるとホッとする。
(あれ? なんで僕は,母さんとアスカの仲がいいと安心するんだろう・・・。)
無意識に将来のことを考えているのかも知れないが,そんなことはシンジにとってはまだ思いつきもしないことだった。
『さて,次はブリの照り焼きと鯛の塩焼きを作ろうかしら。』
『なんでブリと鯛なんですか?』
アスカは,料理の由来から教えてもらっているようだ。
『鯛はね,めでたいと掛けてるのね。それでブリは出世魚だから出世しますようにって。』
『しゅっせうお?』
『そう,出世魚。成長するにつれて名前が変わる魚よ。旦那様が出世できますようにって願いを込めて作るの。』
『ふぅ〜〜ん,じゃあ,シンジにはたくさん作ってあげなきゃね!』
そう言いながら,いたずらっぽい目でシンジの方をチラッと見る。
シンジはその言葉に味噌汁を噴き出しそうになる。
『ングッ・・・。ア,アスカ,それどういう意味だよ。』
『あらぁ,言われなくちゃ分からない?』
『うっ,そ,それは・・・』
シンジをやりこめたアスカが,フフンと鼻を鳴らす。
しかし,次の瞬間,
『そうよねぇ。将来のことを考えれば,旦那様には出世してもらわないと困るものねぇ。』
ユイの言葉にアスカは真っ赤になってしまった。
テーブルの方では,同じようにシンジも真っ赤になっている。
『お,おばさま・・・そ,そんなこと・・・』
『じゃぁ,ブリの方はアスカちゃんに任せようかしら。』
『えっ?!』
『照り焼き。心を込めて作ってね。』
『は,はいっ!!』
頬を上気させたまま,ユイの言葉に元気にうなづくアスカが眩しく見える。
そんな姿に,シンジは思わず声を掛けていた。
『じゃ,じゃぁ,アスカ,頼むよ。』
『うん・・・。』
一転して,真っ赤になってはにかむアスカ。
チラッとシンジの方を見て,目が合ってしまうと,慌ててキッチンの方に向きかえった。料理の邪魔にならないように髪を結わいているので,真っ赤になったうなじの部分が見える。そんなアスカの後ろ姿を見つめながら,シンジはボーっと考えていた。
(はにかんだアスカ・・・,とっても可愛いな。しかもあの格好だとなおさら・・)
『アスカちゃん,今日の夜は年越しそばを食べるから,キョウコさんと一緒にうちにいらっしゃい。』
『としこしそば?』
『そう。大晦日の夜にね,お蕎麦を食べるの。それが年越しそば。』
『はいっ,分かりました。』
(今年の最後はアスカと一緒にいられるんだ。)
ユイ達の会話を聞きながら,そんな幸せをシンジは噛みしめていた。
次の瞬間,振り向いたユイがシンジにウインクする。
(み,見透かされてる・・・。でも,ありがとう,母さん。)
『ふっ,シンジ,ユイに感謝するんだな。』
いつの間にか後ろに立っていたゲンドウの言葉に,シンジは一段と真っ赤になった。
前編 あとがき
なんだか説明部分が多すぎて,みょーに長くなってしまいましたんで,いったん切ります。
イマイチ,LAS度が低いなぁ・・・。コンセプトで打ち出したくせに。後編はもっと頑張りますんで,続きも読んで下さい。 ^^;)
ぜんさんの『みんなのお正月』前編、公開です。
素晴らしいコンセプトですね!
そのコンセプト通りの幸せな世界(^^)
アスカとシンジがとってもラブラブで幸せなのは当然(^^;
LASものでは忘れられちゃ憂いも幸せだ−−
彼女の相手をしているカヲルも幸せだよね。
そして、
カヲルを預かっているリツコも幸せ!?
嫁と姑が仲のいい碇家(^^)
将来も幸せ〜
さあ、訪問者の皆さん。
明るい新年、ぜんさんに感想メールを送りましょう!
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