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みんなのお正月
【後編】 2017年1月1日 元旦
コンセプトは 『よりLASに,そしてみんなが幸せな世界!』
2017年1月1日元旦。晴れ。
シンジ達は,近くにある神社に初詣に来ていた。
一行は全部で8人。碇シンジ,惣流・アスカ・ラングレー,碇レイ,渚カヲル,鈴原トウジ,洞木ヒカリ,相田ケンスケそして山岸マユミである。順序を見てもらえば解るとおり,それぞれカップルになっている。そう,長き冬に耐えてきた相田ケンスケ君にも可愛い彼女が出来た。大人しい性格のその少女は,さりげない優しさと他人との距離の取り方を心得ている少年に好意を持った。まだ恋人未満という感じだが,最近よく一緒にいるようだ。
というわけで,仲良しグループみんなで待ち合わせて,ようやく神社に到着したところである。ちなみに,女性陣は皆,晴れ着を着ている。そのせいか,集団としてかなり華やかになっており,人々の注目を集めていた。ヒカリとマユミもそれなりに可愛い部類に入る方だったし,アスカとレイにあっては言うまでもないだろう。金髪碧眼および蒼髪赤眼の日本人離れした容姿の彼女らが晴れ着を着てれば,かなり目立つ。
しかし注目を集めるのはそれだけではなかった。男性陣も負けず劣らずで,渚カヲルは言うに及ばず,シンジもかなりハンサムと言っても差し支えないし,背が高くいかにもスポーツマンできりっとした顔のトウジも目立つ方だった。周りを歩く人々は,ほとんどが彼らの方を振り返った。
しかし彼ら自身は,周りのことはほとんど気にせずに,神社の石段を昇りながら,楽しくおしゃべりをしている。
『でも,碇君達が遅刻してくるなんて,珍しいわよね。』
『そうですね。碇君,寝坊でもしたんですか?』
『シンジ君が時間に遅れるなんてことはまずないから,きっと惣流さんが何かしでかしたんじゃないのかい。』
『渚っ,あんたねぇ!』
『しかし,惣流のせいで遅れたゆうなら,シンジも同罪ちゃうんか。なにせ,夫婦は一心同体っちゅう・・』
ガツンッ!!!
みなまで言い終わらないうちに,トウジは派手な一撃をすねに受けて,うずくまった。さすがのアスカも,着物だと攻撃可能な範囲が限定されるらしい。
『クーーッ,カッコだけはお淑やかになっても,中身は全然変わっとらんやないか。』
『ぬぅわんですってぇ!』
『アスカっ,やめなよ!トウジ,大丈夫?』
『シンジっ,もとはと言えばアンタが悪いんでしょっ!!』
『うっ・・そ,それは・・・』
『ええっ,じゃあ,今日の遅刻の原因は碇君なの。』
『珍しいじゃないか。シンジ,一体,どうしたんだ。』
『えっ,い,いや,た,大したことじゃないんだ。気にしないで。』
何故かシンジは,顔を赤くしてうろたえている。
『レイちゃん,知らない?出るときはいたんでしょ。』
『わたし,知らない。渚君と待ち合わせてて,先に出て来ちゃったから。でもお兄ちゃんはその時,もう準備出来てたように見えたけど。』
『シンジはねぇ,アタシの晴れ着姿のあまりの美しさに・・・』
『アッ,アスカッ!!!』
慌ててシンジはアスカの口を塞ぐ。
『なんや,シンジ。もう尻に敷かれとるんか。』
『鈴原っ,いい加減にしなさい!』
『やれやれ,トウジもか。』
『ふふっ,レイさん達はどうなのかしら。』
シンジとアスカの様子を横目に,残った少年少女は会話を進める。
マユミがレイ達に話しを振ったが,彼らの反応は,常人とはちょっと違っていた。
『“尻に敷く”ってどういう意味?』
『奥さんの方が旦那さんのことをこき使うことらしいよ。』
『じゃぁ,お兄ちゃんはアスカの尻に敷かれてるのね。』
『あぁ。可哀想なシンジ君。』
『そこぉー,そういうことを淡々と話すなぁぁーーーっ!!』
さすがに,アスカが突っ込んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さて,出がけの碇家で何が起きていたのか。
時間は一時間ほど遡る。
着物の気付けは簡単には出来ない。普通はお店などに頼むのだが,碇ユイは何故か着物の着付けも知っていた。昔,着付け教室というものに通っていたことがあるらしい。
ということで,ユイがアスカとレイに晴れ着を着せることになった。カヲルとの待ち合わせがあるので,レイの方が先に着替える。
『どう?お兄ちゃん,アスカ。』
晴れ着に着替えたレイを見たシンジは,一瞬,言葉を失った。
セミロングに近いぐらい長くなった蒼銀の髪に飾りを付けて,水色をベースにした振り袖に身を包んだレイはやはり美しかった。
『う,うん,良く似合ってるよ,レイ。』
『そうねぇ,なかなかいいじゃない。でも,アタシ晴れ着って間近で見るの初めて。きれいねぇ。』
アスカは晴れ着をこんな間近で見たのは初めてらしい。自分も着るのかと思うと,ドキドキしているようだ。
シンジはアスカが晴れ着を着た時のことを考えると,何だか自分もドキドキしてくるのを感じた。
(アスカだったら何でも似合うと思うけど,和服ってどうなのかなぁ。アスカって外見はほとんど白人みたいだし・・・。)
そんなことを考えながら,アスカが着付けている間,シンジはリビングをうろうろしていた。そこへレイが声を掛ける。
『お兄ちゃん,アスカが着替えてきたら,ちゃんと褒めてあげなきゃダメだよ。女の子はそういうのに敏感なんだから。特にアスカはね。』
『わ,分かってるよ。』
微笑みながら女心について話してくるレイに,シンジはちょっとビックリしながら
も返事をする。言われなくても,アスカのことは誰よりも分かっているつもりだ。
(でも,レイがそんなこと言うようになるなんて・・・。)
最近,ますます表情豊かになっているレイだが,自分が考えてた以上に女の子らしくなってきているようだ。そして自分とアスカのことを気にしてくれる。シンジにはそれが嬉しい。
『ありがとう,レイ。でも,大丈夫だよ。そんなこと考えてなくても,アスカの姿を見たら,きっと褒める言葉しか出てこないから。』
『ふふっ,それってのろけられてるのかしら?』
『あっ,そ,そんなんじゃないよっ・・・』
『いいのよ,いつものことだから。』
『ま,まいったなぁ・・・』
そんな会話を交わすのも楽しかった。
ふと,レイが時計を見る。
『あっ,もうこんな時間。お兄ちゃん,渚君と待ち合わせてるから,私,先に行くね。』
『あぁ,じゃぁ,神社の前で。』
『うん。じゃぁ,お父さん,行って来ます。』
『ああ,気をつけてな。』
『いってらっしゃい。』
テーブルで新聞を読んでいたゲンドウに声を掛けて,レイはでかけていった。
今年最初の食事は,碇,惣流の両家一同が集まって,ユイとアスカの作ったお節料理を食べた。今はゲンドウは,新聞を読みながら一服しているところだ。
ゲンドウとユイ達も午後から初詣に出掛けるらしい。
(さて,もうそろそろかな。)
シンジも時計を見上げる。そろそろ自分たちも出なければならない時間だ。
『アスカ,母さん,まだなの?そろそろ僕たちも行かないと。』
『もうちょっとよ。待ってて。』
アスカの声が聞こえる。シンジはちょっとドキドキして,アスカが出てくるのを待った。
『じゃ〜〜〜んっ!!!』
効果音を口にしながら,晴れ着に着替えたアスカが姿を見せた。アスカの振り袖は,もちろん赤を基調にしたもので,銀糸で煌めくような刺繍が入っている。また,髪にはキラキラ輝く飾りがついたかんざしのようなものを付けていた。
『どう?シンジ。』
アスカは袖をひらめかせながら,クルッと廻ってみせる。
しかし,シンジは何も答えなかった。
『シンジ?』
反応のないのを訝しく思ったアスカが再度,声を掛ける。
しかし,依然,シンジの反応はない。口をポカーンと開けて,立ち尽くしている。
(どうしちゃったの,シンジ?何か言ってよ。それとも,似合ってないのかしら・・・。)
一向に自分のことを褒めてくれないシンジに,アスカはちょっと不安になった。
そこに,後ろからユイが姿を現す。
『あらあら,シンジったらアスカちゃんに見とれちゃって。人間,本当に驚いた時や感動した時は声が出なくなるって言うけど,ホントなのね。』
そんなユイの言葉にアスカはホッとする。
(でも,直接,言葉でも褒めて欲しいなぁ。)
そんなことをアスカが考えた時,シンジがふらふらと近づいてきた。
『ア,アスカ・・・』
『えっ?』
シンジはアスカの両肩に手を掛けて,引き寄せようとする。
『ちょ,ちょっとシンジ・・・,な,なに?!』
『アスカ・・・』
シンジはアスカの言葉が聞こえてないようだ。しかし,まわりにはゲンドウとユイが居るのだ。慌てたアスカは,とりあえずシンジから離れようとした。
だが,慣れない和服のせいで,足がもつれてしまう。
『きゃぁーーっ!』
二人は,もつれ合ってソファに倒れ込んだ。
ハッとするシンジ。
『ア,アスカっ!?大丈夫?』
『もう,やっと正気になったわね。いきなり変なことしようとするんだもん。』
『えっ?』
その時,シンジはようやくアスカの上に覆い被さっていることに気が付いた。
慌てて飛び退く。
『ご,ごめんっ!な,なんで,こんなことになってるんだ?』
『まったく,親の見ている前でこの子ったら大胆ねぇ。』
『シンジ,見せつけてくれるな。』
『えっ,いや,その・・・・こ,これは・・・』
ユイとゲンドウに突っ込まれて,たじたじのシンジ。
一方,アスカの方も,突然の事態に顔を真っ赤にして,襟元を押さえている。
『そういうことは二人っきりの時にしなさい。』
『そ,そんな,おばさま・・・』
ようやく立ち上がったアスカだが,ユイの言葉に真っ赤になって俯いてしまう。
そこでユイが,帯が崩れてしまったのに気が付いた。
『あらあら,せっかくの帯が崩れちゃってるわね。ごめんね,アスカちゃん。帯,直さないと。』
『は,はい。もとはと言えばシンジが悪いんですから。』
『そうねぇ。困った子ねぇ。シンジ,ちょっと帯を直すから,待ってる間に少し頭冷やしておきなさい。』
『だ,大丈夫だよ,もう。』
クスクス笑いながら言うユイの言葉に,シンジは真っ赤になって向こうを向いた。
というわけで,シンジとアスカが遅刻してきたのは,シンジに原因があった。こんな理由,さすがにみんなに話すわけにはいかない。あとで何を言われるか分かったもんじゃないから。
(下手すると,学校中に広まっちゃいそうだし。)
シンジは,決してこの話しを漏らさないようにしようと固く決意した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そうこうする内に,一行はお参りの順番を待つ列の最後尾についた。賽銭箱まではまだ百メートル以上手前のはずだが,前方はものすごい人混みである。
『すごいなぁ。』
『やれやれ,なんちゅう人混みや。』
『こんなぎゅうぎゅうで,着物,大丈夫かしら。』
『それよりも,はぐれちゃわないか,心配だわ。』
『これが初詣というものかい。リリンはみんなそろって同じことをするのが好きだね。』
『みんな,なるべく手を繋いでた方が良さそうだぞ。』
ということで,それぞれが自分のパートナーと手を繋ぐ。
アスカは,この時とばかりにシンジの腕を取る。
『ア,アスカ,何も腕組まなくっても・・・。』
『なによ,アタシとはぐれてもいいって言うの?』
『いや,そういう訳じゃ・・・』
『じゃぁ,いいでしょ。』
一転して甘えた口調に,シンジは抵抗できない。最近,シンジの操縦の仕方が少しずつ分かってきている気がするアスカだった。
その隣で,レイがアスカの真似をして,カヲルの腕にしがみついているが,カヲルの方は涼しい顔をしている。
『シンジ君は相変わらず一次的接触が好きではないようだね。何がそんなにイヤなのか僕には分からないな。』
残り二カップルは,まだそこまで出来ないようだ。特にトウジとヒカリは,手をつないでいるものの,赤い顔をしてお互い反対方向を向いている。
(やれやれ,あっちに比べれば全然ましか。)
心の中で,アスカははぁと溜息をつく。
(でも,たまにはシンジの方から,強引にでもリードしてもらいたいな。)
そんなことを考えたアスカだったが,そこで,出がけの出来事を思い出してしまった。頬が一瞬にして赤くなる。
(あ,あそこまで大胆じゃなくてもいいんだけど・・・)
そんなことを考えながら,しがみつく手にギュッと力を入れた。
そうしている間に,列の半分ぐらいまでは来ただろうか。しかし,すでにトウジやケンスケ達とは若干,離れてしまっている。どの辺にいるかは分かるのだが,もうほとんど確認できない。レイとカヲルも数メートル向こうにいる。カヲルの頭が周囲よりちょっと飛び出しているのと,二人の目立つ髪の色のせいで位置は分かるが,もう話しが出来る距離ではない。
『まいったなぁ,みんなとはぐれちゃうよ。』
『いいじゃない,どうせみんな二人ずつなんだから。』
『でもさぁ,せっかくみんなで来たんだから,出来るだけ一緒に居た方がいいだろ。』
『シンジはアタシと二人っきりじゃ,イヤ?』
また,上目遣いでシンジを見つめる。しかし,今度はシンジの反応はちょっと違った。
『そんな訳ないよ。分かってるだろう,聞かなくたって。そうじゃなくて,最近,二人ずつで動くパターンが増えてきて,みんなで出掛ける機会が少なくなってきてるからさ,こんな時ぐらいって思うんだ。』
『ゴメン・・・,アタシ・・』
『謝らなくたっていいよ。僕も時々,そういうこと考えてるから。』
『えっ?』
シンジの顔を見ると,赤くなってるのを見られたくないのか,顔を背けている。
アスカは何も言わずに,シンジの腕を握り締める手に力を入れようとした。
その時,急に動き出した人並みに,アスカの振り袖が引っ張られて,シンジの腕を掴んでいた手が離れてしまう。
『キャッ!!!』
そのまま人混みに巻き込まれて,シンジと離ればなれにになってしまいそうになるアスカ。
一瞬,恐怖に顔がひきつる。
『イヤッ!!』
『アスカッ!!!』
間一髪,シンジの伸ばした手が,アスカの手を掴んだ。そのまま強引に人混みを掻き分けて,アスカを自分の手元に連れ戻す。
『シ,シンジィ・・・・』
目を潤ませたアスカは,言葉が続かない。
シンジは,もうはぐれないように,ギュッとアスカを引き寄せる。
アスカもシンジにひしっと抱きついた。
『ゴメンよ,アスカ。僕がちゃんと捕まえておかなかったから・・・』
シンジはアスカの頭を撫でながら落ち着かせてあげる。
『ちょ,ちょっとビックリしちゃっただけ。もう大丈夫よ。』
左の瞳の端に,光る滴をまとわりつかせながら,アスカは,シンジの顔を見上げて,泣き笑いの表情でそう答える。
シンジは胸の奥が,きゅうっと締め付けられるのを感じた。
『アスカ,もう絶対にはぐれないようにするから。』
そう言うとシンジは,アスカの腰に手を廻して,自分の方にギュッと引き付ける。
『ちょ,ちょっとシンジ?!』
『アスカもしっかり掴まってて。』
『・・・・うん。』
いつもと違うシンジの大胆な行動に,ちょっと躊躇したアスカだったが,その言葉に頷くと,抱きつくようにして両手でシンジにしがみついた。
(ありがとう,シンジ・・・・)
二人はようやく賽銭箱の前までたどり着き,どうにかお参りを済ませると,混雑の中から抜け出した。行列から抜け出てしまえば,境内の中は混んでると言っても,はぐれてしまうほどではない。それでも二人は,抱き合ったままだった。
『あらあら,二人ともこんなところで抱き合っちゃって,相変わらずおアツイわねぇ〜。』
そんな彼らに,後ろから聞き覚えのある声がかかる。
振り向いた二人の目に,赤ちゃんを抱いた夫婦の姿が入る。
『ミサトさんっ!!加持さん!』
『加持さんにミサト?!』
それは,三ヶ月前に女の子を授かった,加持リョウジ・ミサト夫妻だった。
『よう,シンジ君にアスカ。久しぶりだな。おっと,アスカの晴れ着姿は初めてか。良く似合ってるよ。』
『さっすが,加持さん,良く分かってるぅ!ホント,ミサトにはもったいないわね。』
『何言ってんのよっ。それなら,シンジ君だってアンタにはもったいないわ。』
ミサトが反撃してくるが,その言葉には耳も貸さないで,アスカは喋り続ける。
『ところで,ねぇねぇ加持さん,聞いて聞いてっ!シンジッたらねぇ,このアタシの着物姿の美しさに見とれて・・・』
『ア,アスカっ!!何言い出そうとしてるんだよっ!!』
慌ててシンジがアスカの口を押さえようとする。
『なによぉ,いいじゃない別に,それぐらい。』
『だ,だって・・・もし他の人に広まったら・・・』
至近距離で見つめ合いながら言い合う二人を見て,微笑みながらも,ついつい,からかいの言葉が出てきてしまう年長カップル。
『やれやれ,相変わらず仲がいいな,お二人さん。』
『ほぉーんと。おまけに,まだ抱き合ったままでいるしぃ。』
『『こ,これは・・・』』
二人は真っ赤になって俯いてしまう。しかし,それでもお互いに手を離そうとはしなかった。その様子がいつもとちょっと違うことに気が付いたミサトとリョウジは,それ以上そのことに触れるのをやめて,話題を変えることにした。
『しかし,何か大変そうだなぁ,あの中は。』
加持がそう言って,参道に溢れている行列を振り返った。
これ幸いと,シンジとアスカがその話題に飛びつく。
『もう,すんごいのよ。どうなることかと思っちゃった。』
『いやぁ,まいりましたよ。みんなとははぐれちゃうし。』
『レイ達も一緒に来てたんでしょ。さっき,チラッと見かけたけど。』
『渚君と一緒だったな。しかし,あの娘,表情豊かになったよな。ちょっと見ただけだったけど,すぐ分かったよ。』
加持とミサトは,先程見かけた,この世のものとは思えなかった美男子美少女のカップルのことを思いだした。その部分だけ,絵の中の世界のように見えていながら,彼女たちの表情は生き生きとしており,確かな生命の躍動を感じた。
『ありがとうございます。皆さんのおかげですよ。』
『ほぉんと,レイもあんなに明るくなるなんてねぇ。』
『でも,レイがあんなに感情豊かになったのは,実はアスカの影響が一番大きいんじゃないか,って僕は思ってるんですけどね。』
『なんでよぉ?』
『だって,アスカってレイと正反対だったじゃん。すぐに泣くは,怒るはで,あれ見てればレイだって感情豊かになろうっていうもんだよ。』
『な,なによ,それぇ。まるでアタシがしょっちゅう泣き喚いてるみたいじゃないっ!』
『あれっ,違うの?』
『ひっどーーーいっ!!』
また言い合いを始めているシンジとアスカだが,その目は笑っている。それを見た加持とミサトは思わず目を合わせて微笑む。
『あの子達も幸せみたいね。ホッとしたわ。』
『ああ,あの子達は強くなったよ。俺達が心配することなど,もう何もないさ。それよりも,俺達が心配すべきはこっちだな。』
そう言って,加持は自分の愛娘をあやす。
それを見たアスカが寄ってくる。
『あっ,美優ちゃんね,可愛いっ!!』
そう言ってアスカは,加持の腕の中できょとんとしてる美優のほっぺたをぷにぷにする。
『キャッ,やわらか〜〜い。』
『もうしゃべれるんですか?』
『アンタばかぁ?一歳にもなってないのにしゃべれる訳ないでしょ。』
『そ,そんなこと,僕知らないよぉ。』
『ふふっ,シンちゃんもそろそろ勉強しといた方がいいんじゃない。油断すると,デキちゃうかもしれないんだから。』
『『ミ,ミサトッ(さんっ)!!』』
真っ赤になった二人が,ユニゾンして文句を言う。
『あ,アタシ達,まだそんなこと・・・』
『そ,そう,まだそんなことしてませんよ!』
『ふぅ〜〜〜ん,“まだ”ね。』
『『あっ!!!』』
思わず顔を見合わせて,俯いてしまう二人を見て,ミサトがクックックと笑う。
『おいおい,ミサト,その辺で勘弁してやれよ。』
加持の助け船で,ようやく彼らは解放された。
『じゃぁ,わたし達,リツコと待ち合わせているから。』
『シンジ君,アスカ,またな。たまには遊びに来いよ。』
『そうね,今度,わたしの手料理,ごちそうしたげるわ。』
『ええっ?!ミサトの手料理ぃ?大丈夫なのぉ。』
『あら,失礼ねぇ。大分うまくなったんだから。アスカよりはましかもよ。』
『へへぇ〜〜〜ん,残念でした。アタシはユイおばさまにばっちり鍛えられてるんだから。アンタなんかに負けないわよ。』
『ちっ,相変わらす口がへらないわねぇ。』
シンジは横でヒヤヒヤしながら聞いていたが,二人の口元に笑みが浮かんでいるのに気付いて,余計な心配だと悟った。
『じゃぁ,もう行くわね。』
『二人とも,気をつけてな。』
『加持さんもね。』
『じゃぁ,ミサトさん,美優ちゃんも。』
『ほら,美優。お兄ちゃんとお姉ちゃんにバイバイって。』
そう言って,ポカンとしている美優の手を取ってシンジ達に振るミサトと,美優を抱っこして微笑んでいる加持。
去っていく幸せそうなその姿に,思わずお互いに廻した手に力がこもる。それは,自分たちの将来を重ね合わせていたからだろうか。
そこで二人は,さっきから,お互いに手を廻したままだったことに,あらためて気が付いた。でも,どちらもその手を離そうとしない。
一瞬,キュッと手に力を入れてお互いの温もりを確かめあった後,そのまま二人は賑やかなかけ声の飛び交う出店の間を歩いていった。
そして,人通りもまばらになった神社のはずれ。微かに出店の呼び込みの声が聞こえてくるが,あとは鳥のさえずりぐらいしか耳に入らない。ようやく落ち着いた二人は,ベンチに座って,出店で買ってきたリンゴ飴をなめていた。
『ねぇ,シンジ。さっきのお参りで,なにお願いしたの?』
『ええっ,そんなの秘密だよ。』
『いいじゃない,それぐらい。』
『それに神様にお祈りしたことは,あまり人にしゃべっちゃいけないんだよ。』
『夫婦の間に隠し事はなしよ。それに夫婦は一心同体なんだしぃ。』
『ア,アスカ。』
『冗談よ。』
クスッとアスカが笑う。うなずくシンジ。
そのまま,ちょっとの間,お互いに黙り込む。
先に口を開いたのはシンジだった。
『みんながね,幸せになれますようにって。』
『なによそれぇ。』
『レイやカヲル君も,トウジやケンスケ達,ミサトさんと加持さん,リツコさん,マヤさんや日向さん達,みーーんなが幸せになれますようにって。』
『アンタらしいわねぇ。で,自分のことは何も祈らなかったわけぇ?』
『・・・・。アスカとね,これからもずうっと一緒にいられますようにって。いつまでも一緒に,そして二人で幸せになれますようにって。』
『シンジ・・・・・』
アスカの目を見つめるシンジ。頬が赤くなっているが,その瞳には,力強い意志が感じられる。この時,アスカは,シンジをとても頼もしく思った。
(さっきもアタシのこと,しっかり掴まえててくれたもんね。)
『アスカはなに,お祈りしたの?』
『えっ・・・,秘密よっ。』
『夫婦の間に秘密はないんじゃなかったの?』
『もうっ・・・・』
『・・・・同じよ。』
『えっ?』
『シンジと同じ。いつまでもシンジと一緒にいられますようにって。シンジと二人で幸せになれますようにって。』
『アスカ・・・』
そのまま見つめ合う二人。もう言葉はいらなかった。
シンジはアスカの顔を優しく引き寄せて,その唇にキスをした。
終
後編 あとがき
はぁ〜〜。なんか,疲れました。なかなか,調子,出ませんでしたが,最後の方は結構いい感じで書けましたね。自己満足,自己満足。
予告通り,前編よりはLAS度が上がってると思いますが,いかがでしょう。これでもまだ足りませんでしょうか。私にはこの辺が限界です。あまりベタベタなのは書けませんので。期待された方,すいません。(そんな人いない?よかった・・・のか? >自分)
コンセプトの中にあったもう一つのテーマ,みんなが幸せな世界。こっちの方はどうでしたでしょうか。とかく私の作品は,シンジとアスカばっかりとか,あと2〜3人という,割と少人数の話ばっかりだったので,もう少し脇キャラを出そうと思ったんですけど・・・,まだ少なかったかなぁ。前編ではゲンドウとユイ,後編では加持とミサトが中心でしたね。他にも,リツコさんとかオペレーター3人組も出そうかと思ったんですけど,入りきらんかった。まだまだ修行が足りないっす。
こんな作品ですが,感想等,お便り待ってます。それでは,またの機会に。
ぜんさんの『みんなのお正月』後編、公開です。
ぜんさんの『みんなのお正月』後編、公開です。
楽しそうな初詣ですね(^^)
私なんか・・・
1日は雨に降られて、
2日はなんか人が少なくて”初詣”の醍醐味を味わえなかったし (;;)
閉話休題(^^;
シンジの願い事も、
アスカの願い事も、
神様にとっては簡単な願い事でしょうね。
だって、
何もしなくても、この二人はずっとずっと一緒でしょうから(^^)
朝、暴走したシンジくん。
キスした後は、大丈夫だったのかな(爆)
あ、
ここでは”二人きり”ですから、暴走してもOKですよね!?
さあ、訪問者の皆さん。
みんなが楽しいお正月を届けてくれたぜんさんに感想メールを送りましょう!
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