アタシは今、ドキドキしている。
「今日ミサトさん、帰ってこないって」
このアイツの言葉を聞いてから。
アタシはこの時こう言ったんだ、
「じゃあ、今夜はふたりっきりね」
って。
なぜか嬉しくて、でもどうして嬉しかったのか、良く分からない。
いや、本当は分かってるのよ。
ただ、認めたくないだけなの。
そう、アタシがアイツのこと、好きだって事。
「そうだね」
事もなげに言うアイツ。
「ミサトさんの分の料理、仕舞っとかなきゃ」
ホント、こんな超美少女と一つ屋根の下ふたりっきりになるっていうのに、なにも感じないのかしら。
アイツはラップを取り出すと、ミサトの分の料理を冷蔵庫にしまいだした。
「ほらぁ、あんたもとっとと風呂入ってきなさいよ」
なんだかアタシはいらいらして、アイツをキッチンから追い出そうとした。
「え、でも片付けまだ終わってないよ」
「そんなの何時だって出来るでしょう。それより汗臭いのが問題なのよ。レディーの前なんだから、気を使いなさいよ」
「そんなに汗臭いかなぁ」
アイツは自分の腕を臭いながら、不満そうに言う。
「そうよ!プンプン臭うわ。さっさと入ってきなさい!」
あ、嫌だな、アタシったらなんでこんなこと言ってるんだろ。
「分かったよ。入ってくるよ」
アイツは不満と諦め両方の顔で、キッチンを跡にした。
アタシはなんだか、胸が痛かった。
リビングに座り込み、遠く、アイツの風呂の音を聞きながら、クッションを抱えて、見てもいないテレビを眺めて、さっきの事を思っていた。
風呂場にいるアイツの事を思う度に、胸のドキドキは強くなる。
アタシは、加持さんの事が好きなのよ。
何で、あんな奴の事が気になるのよ。
アイツは、馬鹿でとろくて鈍感で、ウジウジしてて陰にこもって、はっきりしなくて頼りなくて。
その点加持さんは、ううん、あんな奴と比べたら加持さんに失礼ってもんだわ!
・・・でも、加持さんは・・・、ミサトと、ミサトのことが、好きなのかな。
・・・・・・
だからなの? だから、アイツなの? だから代わりにアイツなの?
分かんない。
でも、アイツは何時も傍にいる。それは、仕事だからかもしれない。
でも、アイツは何時もアタシを見ててくれる。
あの時だって、アイツは、ノーマルの装備のままで、アタシを助けに来てくれた。アタシ、嬉しかったんだ、本当は。でも、お礼は結局言わなかった。
その前だって、飛び出したアタシを追いかけてきてくれて、嬉し、かった、うん・・・。
ああーんもう!なんでアタシがこんなにウジウジ考えなきゃいけないのよ。
アタシはアイツのことなんて何とも想っちゃいないわ!
そうよ、想っちゃいないのよ!
だから気にすることなんてないわ!
・・・・
でも、
胸のドキドキは治まらない。
「ふーぅ。入ってきたよ」
アイツの声が背中に聞こえる。
アタシはクッションを抱えたまま、アイツの方は見ない。
「そう。ちゃんと洗ってきた?」
「うん、もう汗臭くないと思うよ」
馬鹿、本当はそんな事どうだっていいのよ。
「そう、今度から気をつけるのよ」
アタシの事、見てて欲しいだけなのよ。
「うん、気をつけるよ」
馬鹿。本当に馬鹿よ。理不尽な事言われたと思ったら、もう少し反抗しなさいよ。
「さてと、洗い物しないと」
アイツはキッチンに向かったみたい。
「本当に馬鹿よ」
誰にも聞こえない声で、アタシは言った。
アンタも、アタシも。
「ふぅ。これでよしっと」
洗い物は終わったみたい。
アタシはずっとリビングにいた。
クッションは抱えたままで、見てなかったテレビは消して。
ただ、アイツの洗い物の音を聞いていた。
「終わったの?」
アイツのほうは見ずに言う。
「うん、終わったよ」
アイツの声は遠い。
「こっち来なさいよ」
もっと傍で聞きたい。
キシッ
アイツの近づいてくる音。
「ここに座って」
アタシは自分の座ってる直ぐ右を叩いてアイツに言う。
アイツは言われるままにアタシの隣に座った。
「どうしたの?」
おずおずと、ホントそんな言葉がぴったりくる調子できいてくるアイツ。
どうして、そんな風に言うの? そんなに他人のことが気になる? それともアタシのことが恐い?
「なんでもないわ」
アタシは少し悲しげに言う。
「そう?」
案の定、アイツは気にした風にこたえる。
「気になる?」
アタシはアイツの眼を真っすぐ見て言った。
「う、うん」
「そうやって、人の顔色ばかり気にするからよ」
「え、」
「人は、アンタが思ってるほど他人が言うことを気にしたりはしないわ」
「う、うん」
「本当に分かってるの?」
「う、うん、なんとなく」
「そう、ならいいけど。少なくともアタシは、
アタシには、
そんな風に、
気を使わないで」
「え?」
「き、気を使わないでって言ってるの!」
「あ、うん、わかった」
「分かれば、いいのよ」
アタシはアイツから目を逸らすと、少しだけアイツに体を寄せた。
目を逸らしたからアイツの表情は分からないけど、どうせアイツのことだから、
キョトンとしてるか戸惑ってるかどっちかね。
ホント、鈍感な奴。
胸のドキドキは続いているけど、なんだかとっても、とってもいい感じ。
少しだけ触れ合っている肩から、アイツのぬくもりが伝わってきて、
アタシは、アタシは、もっと傍に、もっとアイツの傍にいたくなった。
「ね、キスしようか」
「え?」
「キスしようって言ってるのよ」
あ、前にもこんなこと言ったな。
あの時は、ただ、誰かを感じたかったから。一人じゃないことを感じたかったから。
でも、今は違う。そう、違う。アイツを感じたいから。アイツをもっと近くに感じたいから。
「でも、僕なんかでいいの?」
「アタシは、アンタに言ってるのよ」
「でも、この前は、あのあと直ぐうがいしたじゃないか」
あ、流石に気にしてたか。
「昔のことなんてどうでもいいでしょ。それとも、アタシじゃ、嫌?」
悲しげに言ってやる。というよりも、本当に悲しいんだけど。
「う、ううん。そんなことないよ。でも、僕じゃ嫌じゃないかなって」
「嫌だったら言うわけないでしょ」
「うん、そうだね」
「ね、キスして」
甘えた声。アタシ、ホントどうかしちゃってる。でも、嫌じゃない。
アタシは顎を少しあげて、目を瞑ってアイツを待った。
アイツの顔が近づいてくるのが分かる。
アイツの鼻息がくすぐったい。
でも、嫌じゃない。
「アスカ・・・」
アイツのすぐ傍での呟き。唇が重なった。
「う・・・ん」
アタシはアイツの背中に手を回して、アイツを求めた。
アイツはアタシを優しく抱き締めてくれた。
アタシは、アタシは、アイツの唇を割ると舌をねじ込んだ。
アイツは戸惑ってるみたい。アタシだって、自分のしたことに戸惑ってる。
でも、もっとアイツの傍にいたい。もっとアイツを感じたい。
アイツはアタシを強く抱き締めると、舌をからめてきた。
シンジ・・・、シンジ・・・、シンジ!
アタシの想いは、止まらなくなった。
「アスカ?」
「シンジ・・・」
「どうしたの?」
・・・夢、だったの、かな・・・。
ここは・・・、シンジのベッド・・・?
「好きだよ、アスカ」
あ、
「アタシのほうが、もっと好きよ、シンジ」
夢じゃなかったのね、
「ずっと、
傍にいて、
シンジ・・・」
アスカだねぇ、やっぱりアスカだよ。
といったところで、延15万人目の訪問者というメモリアルを手にした
たこはちです。
なんだかはずかしい物を書いてしまいました。
アスカの心理描写はご都合主義もいいところ。
こんなのはアタシじゃない!と彼女は言うかもしれないけど(^^;。
でも、とにかく幸せになれればそれで良。
このSSは、『保護者、葛城ミサト』とシンクロしていることを敢えて付け加えときます。
こういう事情で、二人はああなったんですねぇ。
うむうむ。
それでは、あなたのご感想お待ちしております。
たこはちでした。
姉妹作として『僕の気持ち』がありますのでそちらもよろしく。
(あとがきver.-1.10 1997-08/24 公開)
たこはちさんのSS第2弾『アイツ』、公開です。
アスカの一人称でいじらしい思いが綴られていますね(^^)
自分の気持ち。
シンジが好き。
どうしてなのか判らない。
でもでも・・・
可愛いですぅ(爆)
その気持ちを認めたあとは、若さそのままに・・・・
ここまで全く主導権を持てないシンジでしたが、
ベットに入ってからはどうだったんだろう?
・・・野暮なこと言ってら(^^;
さあ、訪問者の皆さん。
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