UNNERV/0087/684/93
「ねー、シンジー。早く行こうよお」
今日は日曜日。
もちろん学校は休みだ。
が、ネルフは休まない。
24時間、365日働いている。
そして、シンジとアスカの二人も折角の休みを待機任務で潰されかけたが、シンジがミサトに掛け合って準待機任務に落としてもらったのだ。
ちなみに準待機任務は、連絡がとれるようにしておけば外出可なのだ(市内限定だが)。
「ちょっと待ってー!・・・・・・・・よし、OKかな?」
シンジは珍しく着る物に気をつかっていた。
普段はオシャレなど、微塵も考えないのだが、アスカが一緒に出かけるとなれば話しは別だ。
アスカは着る物に無頓着を装いながら、その実着る物はすべて完璧に決まっていた。
最近は衣類はシンジに見立てさせるので、これはシンジのセンスを誉めるべきだろう。
それに、アスカは立っているだけでも目立つ美少女であるから、それに釣り合うように、とシンジは考えていたのだ。
もっとも、そのシンジにしたところで、通り過ぎる女性(年齢問わず)の8割は振り向く美少年なのだが。
今日のシンジの格好は下はジーンズ、上は麻でできた黒のジャケットというモノ。
「よいしょっと・・・・・・・・アスカ、お待たせ」靴を履き、表に出るシンジ。
「おっそーい!!・・・・一体なにやってたのよ!」
「ちょっとね・・・・」
「?・・・・・・・・何?教えなさい」
「んーとね・・・・」シンジはアスカの頬に手を添え、それを撫でるようにする。
「あん・・・・もう・・・・早く教えなさいよ・・・・・」満更ではないアスカ。
「アスカと並んで歩いて見劣りしないようにね・・・・まあ、五十歩百歩だけどね」
アスカは『自分のために・・・・』と思い少し紅くなるが、
「今のままでも、十分よ・・・・・・・」
アスカの方がシンジの事をよくわかっているようだ。
シンジはアスカの小さな声を聞き取り、
「ありがと、アスカ」
と言うと、アスカの頬に軽くkissをする。
「キャッ!・・・・・・・・んもう」
アスカは言葉は怒っているが、顔は満面の笑みを浮かべている。
「じゃあ、行こうか」
シンジがアスカの手を握りながら言う。
「・・・・うん」
アスカも、手を強く握り返し答えた。
「アスカ、何にする?」
ここは第三新東京市の中でも指折り、と言われるカレー屋さんである。
コックさんは本場インドで修行してきたらしい。
「カレーハウスに来て何にするも無いでしょ?」
「いや、色々種類があるみたいだからさ」
「もっちろん、私は一番辛いやつよ!」
「じゃあ、この”ギガトン級カレー”ってやつだね」
「シンジは?」
「僕はこの”キロトン級カレー”にするよ」そして、シンジはウェイターを呼ぶ。
「はい、ご注文お決まりですか?」
「えーと、”キロトン級”一つと”ギガトン級”一つお願いします」
「お客様、差し出がましいと思いますが、”ギガトン級”は成人男性でも閉口する辛さです・・・・他の物のほうが・・・・」
アスカはウェイターにみなまで言わせなかった。
「だいじょーぶ!アタシ辛いの大好きだから」
「左様ですか、わかりました。では”ギガ”1、”キロ”1で承りました」
そう言うとウェイターは他のテーブルへ回るためにそこを離れた。
「んふふー!」
「どしたの、アスカ?なんか楽しそうだけど」
「んーとねえ・・・・なんか楽しいのよ。無性にね。シンジと一緒だからかな?」
シンジはアスカの可愛い(いや、勿論他の意味でも可愛いのだが)一面を見た気がした。
「アスカ・・・・」
「ん?なあに?」
「こっちに乗り出して目をつぶって」
ちなみに二人はテーブルに向かい合わせに座っている。
「??・・・・うん・・・・・こう?」
アスカはテーブルの真ん中あたりに顔を突き出して目をつぶっている。
ここでシンジがやることは?
もちろん・・・・アレである。
「!!!!・・・・・・・んふっ・・・・・・・んん・・・・・・」
人目もはばからない”でぃーぷ”なkiss。
ちなみに二人が座っているのはちょうど店の中央のテーブル。
つまり、周りから丸見えという事だ。
他の客は、『なんでカレーを食いに来て甘いモノを見なきゃならんのだ?』と思っていた。
もちろん、シンジとアスカがそんな事を気にするハズも無い。
やがて、二人は唇を離す。
「・・・・んもう・・・・シンジったら・・・・」
「ごめんね、アスカ。我慢できなかったんだ」
シンジはそう言って微笑む。
そうこうしている内にカレーが運ばれてきた。
「「いただきます」」
そして、二人はスプーンでカレーをすくい口に放り込む。
シンジは、
『へえ・・・・結構おいしいなあ・・・・この味は家では出せないなあ・・・・』
と、冷静に分析していたが、アスカはそれどころではなかった。
ようやく一口を飲み込んだが、口の中がヒリヒリしてこれ以上は先へ進めない。
さすが”ギガトン級”。
そうしてアスカが辛くて手足をジタバタさせているとシンジが、
「アスカ、そんなに辛いの?」と聞いてくる。
「今回は失敗したわ・・・・シンジのと同じやつにしとけばよかったわ・・・・」
するとシンジは、
「じゃあ、僕のを二人で食べようよ。ちょうど僕には量が多すぎるしさ」
もちろん、多すぎる云々はシンジの優しさだ。
アスカにもそれは解る。
涙が出てきそうになるほど嬉しかった。
「シンジ・・・・」
「ん?」
「ありがと・・・・」
「どういたしまして・・・・・・・・でも、アスカのためだったら何だって出来るんだけどね」
シンジはちょっとはにかんで答える。
アスカはそれを聞いて胸がキュッとなる。
「シンジ・・・・・・・・・・」
アスカは目を潤ませてシンジににじり寄る。
「?なに?」
「・・・・・はい・・・・・・」アスカはその問いには答えず、目を閉じて唇を突き出す。
「もう・・・・しょうがないなあ・・・・」言葉はそう言っているが、嬉しそうなシンジ。
そして、二人の距離は再びゼロになる。
周りの客は、『もう勘弁してくれ・・・・』と思っていた。
「シンジ。これなんかどう?」
「うん・・・・いいんじゃない?・・・・良く似合うよ」
今二人は第三新東京市最大のデパートにいる。
今日はアスカの新しい服を買うために来たのだ。
今二人がいるのは・・・・”高級”婦人服売り場。
有名ブランドの支店が軒を連ねている。
ハッキリ言って、中学生が来るところでは無い。
だがそこは、ネルフの誇るエースパイロットコンビ。
命を懸けるぐらいのお給料は貰っている。
概算すれば、一般サラリーマンの年収が二人にとって月収ぐらいだろうか。
だからといって、二人が普段から湯水のごとく浪費している訳ではない。
かえって、普段の生活は質素な部類に入る。
これも、シンジの性格があらわれているのだろうか?
だが・・・・二人とも、目に見えない所では思い切り贅沢をしている。
アスカの場合は普段は着ない服飾品であり、
シンジは調理器具や、アスカへのプレゼントなどだ。
・・・・・・・・そんな訳で、二人にとっては値段はあまり関係ないのだ。
「ねえ、こっちのはどう?」
「うん・・・・そっちも良く似合うよ」
「もう!さっきからそればっかりじゃない!」
アスカは怒るフリをする。
シンジはそれに対して優しく、
「だって・・・・アスカに似合わない物なんて無いもの・・・・・・・・何を着たって、アスカの為に作ったとしか思えないよ?」
「んもう・・・・・ばかぁ・・・・・・でも、ありがと・・・・」
甘い雰囲気の二人には、ブティックの店員でさえ声を掛けられない。
「でも・・・・どちらかと言えば・・・・こっちの、レモンイエローのワンピースかな?」
「なんで?」
「いや・・・さ・・・初めて会った時の事を思い出したんだ。あの時もこんな服じゃなかった?」
二人の脳裏には空母の上での鮮烈な出会いがよみがえる。
「あ・・・・そういえばそうね・・・・」
「でも・・・・あの時のアスカったら・・・・・・ププッ!」
シンジは笑いを堪えようとするが、うまくいかない。
「あー!笑ったわねえ!!」
「ごめんごめん・・・・だけど、初対面の第一印象としては強烈だったね」
「んもう・・・・・・・・でも、あの頃はこんなにシンジの事大好きになるなんて思ってもみなかったわ・・・・」
するとシンジはいたずらっぽい笑みを浮かべて、
「そう?・・・・・・・・僕はあの時から大好きだったよ?」
アスカはぷくっと頬を膨らませる。
「もう!それじゃアタシの立場ってモンが無いじゃない!」
シンジはそれを聞くとアスカを引き寄せて抱きしめる。
「シンジ・・・・」
「アスカ・・・・僕、最近思うんだ・・・・・もし僕がアスカが僕のこと嫌いになったらどうしようって・・・・」
「・・・・・・・・アタシも最近思う事があるの・・・・・・もしシンジに見捨てられたらどうしようって・・・・」
そう小声でささやきあうと、二人はお互いを強く抱きしめる。
「見捨てるだなんて・・・・アスカが僕を嫌いになるまでは、どんな事があってもそばにいるよ・・・・」
「・・・・じゃあ、いつまでも一緒ってことよね?・・・・アタシがシンジを嫌いになるなんて、天地がひっくり返っても無いんだから」
アスカは笑みを浮かべているが、シンジに注がれるのは真剣な眼差し。
「アスカ・・・・・・・・」
「シンジ・・・・・・・・」
そして、二人の距離はみたびゼロになる。
その時店の女性店員の一人(25歳独身)は、
『・・・・あたしだってあんな情熱的なラブシーン、やったこと無いのに・・・・こんのガキ共ぉ!はよどっか行けぇ!!』
と、顔は平静なまま、かなり激烈な事を考えていた。
そんな彼女の願いもむなしく、二人はそれから約30分、”情熱的な”ラブシーンを展開した。
「シンジー」
「うん?」
家に帰る途中の二人。
繁華街の中の歩道である。
シンジの両手には紙袋がいっぱい下がっている。
アスカが持つと言っても、シンジは絶対に持たせようとはしない。
これも、シンジの優しさの一つ。
「神様っていると思う?」
「唐突だなあ・・・・・・・・そうだね、普段は否定するけど・・・・『あること』に関しては、感謝するな。神様に」
「『あること』?」
「アスカに会えた事・・・・」
シンジはわずかに顔を紅くしながら答える。
「・・・・・・・・でも、神様のお陰じゃないわよ、それ」
「?・・・・じゃあ、なんなの?」
そしてアスカは空を見上げてつぶやく。
「・・・・・・・・・運命よ・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・運命・・・・か・・・・・そうだね、僕達が出会うのは生まれた時から決まってたのかもね」
「そうよ・・・・・・・・それと・・・・これからいつまでも一緒にいる事も、決まってるのよ」
シンジはアスカを見てハッとする。
「アスカ・・・・泣いてるの?」
確かに、上を向いたアスカの瞳からは雫が落ちていた。
「うん・・・・・自分で言っといてなんだけど・・・・・いつまでも一緒にいるって考えたら嬉しくて。わかんないけど、涙が出ちゃうの」
「アスカ・・・・・」
シンジはアスカを引き寄せるとアスカの頬を両手で包む。
「あん・・・・・」
そして、涙の流れたその頬に軽くkissをする。
そのまま二人は堅く抱きしめあう。
「シンジ・・・・もうシンジ無しじゃ生きていけないのよ・・・・お願い・・・・アタシの事見捨てないで・・・・」
「アスカ・・・・・僕だって同じだよ・・・・アスカのいない生活なんて考えられないよ・・・・・」
二人はともに目を潤ませながらささやきあう。
「じゃあ、誓って」
「誓い?」
「・・・・死が二人を分かつまで、ともにその側を離れない事を・・・・」
するとシンジはちょっと微笑んで片手を挙げる。
「・・・・誓います・・・・」
アスカは大きな笑みを浮かべる。
「ところでアスカ・・・・こういう誓いにはやらなきゃいけない事があるよね?」
「なに?」
「これだよ・・・・」
シンジはアスカを抱え込むようにしてkissをする。
もちろん、”でぃーぷ”なやつ。
「んんっ・・・・・・・・んふぅ・・・・・・・・」
さっきも言ったように、ここは繁華街ど真ん中の往来。
つまり、人通りが激しい。
道ゆく人たちは、”超濃厚”kissシーンを見ながら通り過ぎて行く。
「じゃあ、帰ろうか」
シンジは地べたに置いた紙袋を持って言う。
「うん」
アスカはそのシンジの腕にしがみつく。
「アスカぁ・・・・歩きにくいよ・・・・」
シンジはそう言うが、嬉しそうだ。
「だーめ。『側を離れない』って誓ったでしょ?」
アスカはますます強くシンジにしがみつく。
二人はその歩きにくい体勢のまま、家路についた。
その間中、一瞬たりとも二人が離れる事はなかった・・・・・・・・・・・・・・