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未来に属することはほとんどわからないが、中にはわかることもある。














少年は、その日が来るまで少女達を守ろうとするであろう事。

























彼ら以外の全ての存在が敵に回ったとしても


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

It’s a Beautiful World
第14話「ナーバスブレイクダウン」
(A−part)























「私は機嫌が非常に悪い」

大きな部屋の窓際、そこに置かれたデスクでふんぞり返る主は開口一番に言い放った。

集められたのは彼の腹心の部下達であり、今の職に就く前から信頼している人間達だった。

「なぜだかわかるかね?」

居並ぶ人間達にとり、周知の事実だが、面と向かって言うには度胸がいる。

そして主人はひとりの男に視線を向けて言った。

「私はキミに首席補佐官という役職を、国はキミにサラリーを支払っている。それ相応の能力はあるね?」

視線を向けられた方は、露骨に肩をすくめる。

「例のジャップ?」

身内の気安さで言う。

「他に思いつくか?」

「いいや」

また、肩をすくめて彼は答えた。

実のところ、彼らの主人はガチガチの人種差別主義者であり、プライベートな場ではそのような発言も目立ち、それをマスメディアに嗅ぎつかれても否定すらしないような人物だった。

「この偉大な国が黄色いサル1匹にコケにされたのだ」

彼の意見に対する同調者は、この場でもごく僅かなのだが、それゆえに主人はヒートアップする。



『そろそろ転職先を探した方がいいかな・・・・』



そう考えている者もひとりではなかった。

首席補佐官と呼ばれた彼もそのひとりだった。

「で、どうする気だい?・・・・荒事では分が悪いぞ。我が国最高の連中を集めたはずの作戦がものの見事にコケたんだからな」

「SOCOMという名が見かけ倒しだというのが良くわかったよ」

この場に軍の人間がいたら反発もあっただろうが、あいにくと彼の友人に軍関係者はいなかった。

先の作戦を立案した軍のトップなど、即日で罷免されていた。

「経済的締め付け?・・・・あるいは資源輸出の制限か?」

「キミは私に戦争を起こさせたいのか?」

「面白くはあるがね」

「超大国同士の正面切った正規戦など、いかな我が国とて耐えられない。WWUで大規模戦争は実質的に終結したんだよ・・・・セカンドインパクト時は誰も彼もが混乱していただけだしな」

「オレはハーバードの講義を聴きたいワケじゃないんだがな」

「ならば不正規戦はどうだろう?・・・・正規戦が激減すると同時にその手の事案は増える一方だろう?」

「オイオイ、閣下と呼ばれる人に向かってこんな言葉遣いをするのは気が引けるが・・・・バカじゃないだろうな?・・・・その不正規戦で大ポカをやらかしたんだろう?」

「前回の失敗は身にしみているさ。それに、前回は限りなく正規戦に近い不正規戦だ。形態が違う」

主人の顔に浮かぶ邪笑に、彼は冷や汗が吹き出るのを感じていた。

「・・・・何を考えている?」

「なに、私なりにかの国を調べただけさ。その過程でわかったんだよ」

「・・・・なにが?」

「かの国には致命的な弱点がある」

「?」

「あの国では、軍事力を内向きに使うことが出来ない。国内で何かあったとしても、よほどでない限り、まずは警察力で何とかしようとする」

「それはどの国だって同じだろう?」

「それがあの国は極端なのさ。信じられるかい?・・・・あの国では悪質な暴動や、内乱を引き起こそうとしている者達でさえ、警察が対応する。軍が出てきたことはWWU以来一度もない」


彼の言う”かの国”では軍隊とは言わない。

彼以外の人間全員がその事を知っていたが、ここで口にする者はいなかった。


「要因は色々あるだろう。高レベルな民度(異論があるのは承知だよ)高い警察力。我が国には無い物ばかりだ」

「それはあの国の民間人が武器を持つ習慣を持たないからだ。大昔、あの国の独裁者がおこなった”カタナガリ”という政策が遠因らしい」

「オレはアジア史を聞きたくてここにいるわけじゃない」

「簡単なことだ」

そう言うと主人は座っていた椅子から立ち上がり、手を大きく広げる。

「かの国で、警察力から軍事力への移行が間に合わないほどの速さで大規模な混乱を作り出す・・・・それが出来れば後はしめたものだ」

主人は広げていた手を、右手を拳、左手を開いて打ち合わせる。

乾いた音が部屋に響く。









「叩き潰すだけさ」










そして広げられた主人の手には、潰された蚊が骸をさらしていた。
















































「はぁ・・・・平和ねぇ・・・・」

昼休みの第壱中学校。

2年A組。

「なーに黄昏てるの、アスカ?」

机の上に頭を乗せてボーっとしていたアスカに、ヒカリが声を掛けた。

「んー・・・・なんかこー・・・・テンションが上がらないってゆーか、だらけてるってゆーか・・・」

「確かにだらけてるわねぇ・・・」

ヒカリがため息と共に呟く。

「碇君が見てるのに・・・・」

ぼそっと呟いたヒカリだが、アスカの反応はめざましく、慌てて跳ね起きると周囲を見渡してからシンジの方を見てみる。

そこではシンジがトウジらと談笑しているのが見える。

とりあえずこちらは見ていない。

あっけにとられるアスカ。

「ふふふふ!・・・・アスカってほんとにわかりやすいわね!」

アスカが剣呑な表情を向けると、そこでは笑いをかみ殺しているヒカリがいた。

「ヒ〜カ〜リ〜!」




そんなとき、放送が聞こえてきた。







《2−A、碇・・・・職員室まで》






アスカが怪訝な表情を浮かべてシンジの方を見ると、やはり同じ様な顔をしているシンジが立ち上がるところだった。

「なんぞやらかしたんか、センセ?」

「トウジじゃないんだから」

「どーゆー意味じゃそりゃあ!」

「ふふ・・・そーゆー意味だよ!・・・じゃ、ちょっと行ってくる」

「こってり絞られてこいや!」

トウジの声援(?)に、シンジは振り向かずに手を振ることで答えた。

「アスカ?」

ヒカリが見ると、アスカは何か考え込んでいる。

「また何か・・・・悪いことが起きたんで無ければ良いんだけどね・・・・」












アスカのつぶやきは、これから起きるであろう事態を的確に要約していた・・・・











































「んで?俺達に何をさせたいんだ?」

北アイルランド、ベルファスト。

紛れもなく戦場だったこの町にも、今は平和が訪れていた。

「君のファイルは読ませて貰っているよ」

「どうせロクなもんじゃあるまい」

ベルファスト、その昔IRAと言う組織が根城にしていた薄暗いパブで、二人の男はカウンターについていた。

「確かにそうだね。FBIとOSS・・・あーいや、昔のCIAだが・・・君を目の敵にしてる」

さほど人のいないパブ、そしてパブに似合わない、スーツを着込んだ男は出された酒に手もつけず苦笑する。

それにつられ、男と共にカウンターに座るブルーカラー風の男も苦笑する。

「オレの担任区域は北米、つまりアンタらに苦労を強いるために海を渡ったというわけさ」

「・・・・1980年、アメリカへ密航により渡航。当時14歳」

「オヤジとお袋が英軍の誤射で死んだんだ。ガキだったオレはIRAに入ることしか考えられなかったよ」

「15歳、ニューヨーク5番街で爆破テロ」

「今考えても稚拙な仕事さ」

「ビル一つが完全に破壊・・・・死亡34名、負傷78名」

「吹き飛んだのはどこのビルだい?」

「わかっているだろう?・・・・英国軍事連絡官事務所・・・・当時でも警戒が厳重だっただろうに」

「英国人は国を一歩出ると間抜けになる。まあ国内にいてもそれほど賢いワケじゃないが」

「ベルファストで君の仲間達と戦っていた英国人もそうかな?」

「痛いところを突く」

いかにも頑固なアイリッシュといった面もちの男は、グラスに注がれている酒を一気にあおる。

「認めるのは悔しいが、あの頃北アイルランドにいた英軍・・・・」

「SAS」

「連中は確かにプロフェッショナルだった。最終的に仲間はほとんど動けず終いだ」

背広の男はグラスを指で軽く弾く。

「それに対し、北米における君の活動は段違いだ」

「・・・・・・」

「わかっているだけで爆破テロが45件・・・・本当のところはどうなんだね?」

「言ったら捕まえる気かい?」

「まさか!」

背広の男は大げさに両腕を広げてみせる。

「だったらなぜアメリカ人の私が来るんだい?・・・・来るならスコットランド・ヤードの特別捜査部・・・・もしくはMI5(軍事情報第5部)だろう?」

「まあな」

そう言って男はスコッチを追加する。

「だったらどうだね?・・・・こちらの申し出、考えてみてはくれないか?」

「・・・・オレのやって来たこともロクでもないことだが、そっちのは極めつけだぞ」

「私が考えた事じゃない。私はサラリーマンなんだよ」

「声を掛けてるのはオレだけじゃあるまい?」

「ああ。世界中に私のような人間が飛んでる・・・・しかし心配する必要は無い。基本的には自由に動いて貰う」

流れるように置かれた新しいグラス、その中の液体で少し舌を湿らせてから男は言う。

「・・・・インパクトからこっち、アイルランドは壊滅状態だ。経済から何から滅茶苦茶・・・・今日のメシすら事欠く有様だ」

「しかし、逃げ出すことも出来まい?」

「まあ、世界中どこも似たようなもんだしな・・・・それに、これぐらいで逃げ出すようならアイルランド人をやってないさ」

「契約成立と受け取っていいかな?」

「前金を受け取り次第、動く」

「潜入手段などはこちらでも手配できるが」

「結構だ。最初から最後まで、オレひとりでやらせてもらう」

「わかった。前金は早急に用意する・・・・健闘を祈るよ」

そう言うと背広の男は二人分の勘定を済ませ、足早にパブを後にする。





「FBIとCIAが20年追い続けて、結局捕まえられなかった男・・・・老いていなければいいが」





男は振り返らずに、呟く。





「FBIは追跡18年目にして、ひとりの男を捕まえたが、そいつはただの精神錯乱者だった。そのお陰であの男は大小のテロを繰り返すことが出来た・・・・」








テッド・カジンスキー。



彼のかわりに捕まった者の名前。




世間が彼に付けたあだ名は「ユナボマー」だった。



















































「一体どうなってやがる」

フランスはリヨン。

そこに設けられた国際機関の本部。

苦々しげに吐き捨てた男は、割り当てられているオフィスで頭を抱えていた。

と、そこへ彼の部下が入ってきた。

「部長」

「おう、どうだった?」

「部長のイヤな予感、的中しつつありますね」

「じゃあドイツもか?」

「ええ、1週間前から姿を消したそうです・・・・国内にいる可能性は薄い、ドイツ連邦警察からの回答です」

「クソが・・・・」

部長と呼ばれた彼は分厚いファイルを取り出す。

「テロリストは数多い。しかし、世界広しと言えども一流となればおのずと絞り込まれてくる・・・・・それが、だ」

「次々と行方不明になっている?」

「ああ・・・・このファイルに記載されている監視対象人物の内、8割は居所が掴めん。ICPOに出向して15年だが、こんなことは初めてだ」

部長はそう呻くと、ファイルを投げ出して懐からタバコを取り出す。

「本部庁舎内は禁煙ですよ」

国際刑事警察機構。

名前の勇ましさとは裏腹に、その実体は各国警察の緩やかな協力体でしかない。

「大目に見ろよ。こうでもしなきゃやってられんさ」

部長がタバコに火を付け、一服したところでもうひとり、部下が入室してきた。

「部長、ベイルートに派遣した調査官からの報告です」

「良い知らせか、悪い知らせか?」

「良い、とはお世辞にも言えませんね」

「・・・・聞かなくちゃいかんか?」

「聞いて貰わなければ対策も立てられません」

「・・・・・聞こうか」

「イスラム系過激派でも、最も先鋭的な連中がまとめて消えたそうです」

「・・・・半ば予想していたとはいえ・・・・」

部長はそう言って頭を掻きむしる。

「まだあります。以前からベイルートに身を潜めていたJRAの連中も同様だそうです」

「JRA?」

「Japan・Red・Army・・・・日本語で言うところの”ニホンセキグン”です」

「おいおい、構成員のほとんどは逮捕されているだろうが?・・・・活動もここ30年ほどしてない」

「構成員だった連中の子供や孫です・・・・考えようによっては元の連中よりやばいですよ」

「理由を聞こうか?」

「完全な思想教育(洗脳とも言いますが)によって、自分たちが故国を追い出されたのは現体制のせいだと教え抜かれてますからね」

「・・・・まったく・・・」

「ロシアからもです」

「・・・もう何が来ても驚かんぞ」

「AUMの支部が突然閉鎖されたそうです」

「・・・・・・」

部長は額を抑えると椅子に体を預けた。

「そして極めつけが・・・・」

「まだあるのか!?」

「これで最後です」

「・・・・トリ、か」

「ロンドンからの報告です」

「おい、まさか・・・・」

「そのまさかです。動き始めました」

「もちろん足跡は・・・」

「完全に消されてます」

部長は”お手上げ”とでも言うように両手を大きく広げる。












「一体全体、何が起ころうとしてる?」













室内にいる部下達は、それに対する解答は示せなかった。
















































「何かが起ころうとしている。それは間違いない」

第三新東京市立、第壱中学校。

そこの、普段は滅多に使うことのない会議室にシンジはいた。

その場には濃緑の制服ではなく、背広を着込んだユウジもいた。

学校ということもあり、シンジの立場にも配慮しているのだ。

「具体的には?」

厳しい顔のシンジ。

アスカやレイにはほとんど見せることがない、戦う時の貌。

「スマン、ほとんどと言っていいほどわからん」

ユウジは校庭に面した窓に向き、細い声で答えた。

「そうですか・・・・」

「それだけじゃない」

「?」

「自衛隊は今までのようにネルフに対し支援が行えなくなる」

「え?」

「昨日、国会に自衛隊法改正案が提出された・・・・このままだと成立する」

「内容は?」

「国内での活動が厳しく規制される。たとえ使徒が来ようと、専守防衛だろうと内閣総理大臣の文書命令がなければ分隊ひとつすら動かせない」

「・・・・そんな」

「アメリカから圧力がかかったらしい・・・・それぐらいで音を上げる政府も政府だが」

「自衛隊は国を守る組織じゃないんですか?」

「・・・・自衛隊は厳密なシビリアンコントロールの元に置かれている。セカンドインパクトを経た今でもそれは変わらん」

「・・・・・」

「オレが出来る範囲のことは何でもやってやる。しかし・・・・今までのような援助は期待しないでくれ。部下にまで法を犯せとは言えん」

「でも・・・・それじゃ先生が・・・・」

「気にするな」

ユウジはそう言って振り返り、何の衒いもない笑みを浮かべる。

「どうせ一度辞めてるんだ。今の職に未練もないしな」

シンジはただ黙って頭を下げた。

「やめてくれ・・・・頭を下げられるほどのことじゃないんだ。組織を離れた一個人としてのオレはそんな大した人間じゃない」

だが、シンジは頭を上げなかった。

人間としての彼が、どれほどの者か知っているから。

「ネルフの・・・・あー・・・名前はなんて言ったかな、あのチチのデカイねーちゃんには伝えたが」

「ミサトさん?」

シンジにでも流石にわかるらしい。

「おう、それだ」


ミサトさんが聞いたら怒るのか喜ぶのか・・・・


「それでだ、俺ができる事にも限度はある。これからは尚更だ」

「?」

「明日付けで、俺は統合幕僚会議付きを解かれて、ワシントンDCにある日本大使館に武官として赴任する」

「え!?」

「どうやらアメさんは目の上のたんこぶを厄介事から遠ざけたいらしい・・・・言わば人身御供だな」

「そうですか・・・・」

「オメガの連中にもひとこと言っておくが、あいつらもしがない公務員だ・・・・あまり無理な事を期待するな」

「わかりました・・・・今度こそ、本当に孤立無援ですね」

シンジは責めるのではなく、淡々と言う。

「その通り。お嬢ちゃん達を守るのは、この先お前一人ということになる」

「ええ、今までとあまり変わりませんが」

「違いない」

ユウジもシンジも、ネルフという組織に対し一定以上の信頼を寄せていないという点では一致していた。

もちろん、ミサトやリツコといった個人では信用できる人間もいる。

しかし、彼女達も組織に属する人間だ。

自らの保身を絶対に考えないとは言えないし、そもそも彼女達の知らないところで物事が進行する可能性も否定できない。

シンジは、そんな組織に身を寄せている自分の立場を思い、皮肉に感じているのだが。

「餞別は今日にでも家に届く筈だ。物理的な力だけで解決できない事も腐るほどあるが・・・・無いよりマシだろ?」

「ええ、ありがたく頂きます」

「こんな時に思う事じゃないかもしれんが・・・」

「?」

「今回のトラブルを無事切り抜けて、お嬢ちゃん達を守りきることが出来れば・・・・あの子達、またお前に惹かれるな?」

そう言って振りかえったユウジの顔は、イタズラっぽく笑っていた。

「せ、先生!」

シンジも不意打ちだったのか、少し慌てがちだ。

「くっくっく!・・・・で、どうなんだ?・・・・お前、どっちが好みなんだ?」

「あ、綾波とアスカはそんなんじゃなくて・・・・」

「ふむ、あの綾波って子はおとなしそうだが、芯は強そうだ。アスカって子は強がってるが、意外と男に引っ張られるタイプかな?」

「せんせぇ・・・・」

「モテル男は辛いな、オイ?」

「いい加減にしてくださいよ」

「いいか」

今までとは一変して、厳しい表情になるユウジ。

「命に代えて、なんて考えるなよ?・・・・あの子達にとっては、お前の存在が計り知れないほど大きくなってる・・・・お前が望む望まないに関わらず、な」

「・・・・」

「全てが終わった時、お前が側にいなけりゃ何の意味も無い。あの子達はそう考えるだろうな」

「・・・・」

シンジは何も答えなかった。

答えられなかった、と言うべきか。

「なんでもいいんだがな」





そう言うとユウジはシンジの両肩をがっしりと掴む。








「死ぬなよ」










シンジは最後まで、ユウジに明確な答えは返さなかった。



































第三新東京市。



そこは新たな首都(予定地)であると同時に、セカンドインパクトで総人口の少ないとは言えない数を失った日本の復興シンボルでもある。

ここが発展すると同時に、その様子が内外に報道され、日本の復興、また新たな発展を印象付けるという寸法だ。

その実態が使徒迎撃用の要塞都市とはいえ、街としての機能も十分備えてる   旧東京ほどではないが   。

まあ、本来ならばこれだけの短期間で大都市ひとつがでっち上げられる筈も無く、全国から半強制的に移住が進められてこその第三新東京市なのだ。

現在の人口は50万人。

最終的な目標数値は600万人。

今だ開きがあるとはいえ、50年もすればこの数値に近づくだろうと言われている。

使徒が際限無く攻めてくる現在としては、これぐらいが適当とも言える。

その日本で最も新しい大都市のシンボルとも言えるのが、繁華街の中心に据えられた超巨大建築物。

地上400mを越えるそれは、正式には”高層建築実験棟”と呼ばれる研究成果だったが、市民は親しみを込めて”サード・タワー”と呼ぶ。

内部にはテナントの入るスペースや住居部分も作られているが、現在は民間人はここに入っていない。

それでも、間もなく一般に開放されるというアナウンスが市当局からあり、市民達はそれを待っていた。



深夜3時。


繁華街からも人が消え、居住人口も限られたこのブロックではこの時間になると、人の姿を見る事はほとんど出来ない。

まず最初に発火したのはビルの基部。

免震装置やらが取りつけられた、家で言うなら大黒柱が粉砕された。

その次は各階の柱。

それも無造作に取りつけ、無造作に発火するのではなく、完璧に計算され尽くしていた。

おそよ500個の小型爆薬が炸裂し、2秒が経過した時、”サード・タワー”は大崩壊を始めた。

400mを越える建築物が完全に瓦礫の山と化すまでにかかった時間は12秒だった。









夜も空けた午前7時。

瓦礫の周囲は騒然となっていた。

無理も無い。

第三新東京市最大のビルが一夜で姿を消したのだから。

「で、なんか見つかったか?」

パトカーの後部座席に腰を下ろす年配の私服刑事が窓から中を覗いている若手刑事に尋ねる。

「いやぁ・・・これだけ見事にバラバラになると何かの痕跡を見つけるのも難しいですね・・・機捜(機動捜査隊)の連中がぼやいてますよ」

「死傷者は?」

「サード・タワーの警備室に詰めていた警備員15名が行方不明。たまたま近くを通りかかっていた酔っ払いが飛んできた瓦礫にぶつかって軽傷・・・全部まとめて今のところ死者8人、重傷者35人、軽傷者289人、行方不明30人です」

「幸い、と言ったらマズいんだろうがな」

「それでも幸いですよ・・・・昼間だったら死者は3ケタですよ」

「・・・まあな・・・で、お前はどう見る?」


旧東京が壊滅した際、首都警察である警視庁も消滅。

第二新東京市が建設された際、この名の復活がマスコミによって取り沙汰されたが、結局第二新東京市警察という締まらないネーミングに落ち着いていた。

そして、第三新東京市と共に、警視庁も復活した。

とはいえ、インパクト前の警視庁と何もかもが同じといくわけもない。

例えば人員。

現在の警視庁の場合、職員数は約1万5千人。

これには一般事務職なども含まれているから、”警察官”としての数字は1万2千人弱。

インパクト前の警視庁が4万人以上の陣容を誇っていたのに対し、若干少なく感じる。

しかし、これが少ないということにはならない。

日本警察は第二次世界大戦が終結してから「500人の市民に対し、1人の警察官」という割合を目指してきた。

都市部でそれが達成された事は無かったのだが、ともかくそれがミニマムラインとされてきた。

その観点で見ると、人口250万の第三新東京市のミニマムラインは5000人。

新生警視庁が人口に比べて巨大な陣容なのには訳がある。

もちろん使徒襲来がその最大の理由だ。

何か事があらば、率先して市民の避難誘導をしなければならない。

そしてもうひとつの理由。

警視庁の担任区域は第三新東京市だけではない。

インパクト以前の長野、神奈川、静岡、それに愛知と岐阜・山梨など各県警、そして旧警視庁。

これだけ広大な範囲を受け持っていれば、警官が何人いても足りはしない。

人口が偏ったのが彼らにとっては幸いだった。

周辺の人口はみな第三新東京市に吸い取られ、一種のドーナツ現象が起きていたからだ。

そして、人が多くなれば犯罪も増える。

ちなみに日本ではセカンドインパクト後に内務省が復活していたが、警察組織はその中に組み込まれていない。

阿呆が大多数を占める国民と言えど、第二次世界大戦以前の”御用警察”の復活を認めるほどの阿呆でもない、と言う事だ。




「どーも、ただの愉快犯じゃなさそうですね」

「当たり前だ」

車中に座る年配の刑事はタバコを取りだし、火をつける。

「どー見たって、これはプロの手口だ・・・・ビルひとつを完全に破壊、周りには瓦礫以外の被害は無い・・・・あてつけだよ」

「あてつけ?」

「ああ・・・・俺達警察と、あとはどっかの誰かさんへのな」

「誰かさんって誰です?」

「お前、警視庁に来て何年だ?」

「半年です。以前は大阪府警で暴動鎮圧ばかりやってました」

「じゃあわからんか」

「?」






「第三新東京市で、恨みを買うような組織はひとつしかないのさ」

































「状況は?」

ネルフ。

この偏った組織の中枢部。

「ハイ。0315に20号センサーが異常を感知・・・・これです」

そう言ってマコトがモニターに出したのはサード・タワーを遠方から映した映像。

砂埃が立っている他は何も変わりが無いように見える。

「進めます」

コマ送りで画面が進められる。

すると、サードタワーが砂埃の中に沈んでいく様子が良くわかる。

「発火から完全倒壊までの所要時間は12秒です」

「お見事」

ミサトは半ば呆れ、半ば本当に感心しながらつぶやいた。

「葛城さん・・・」

ミサトは片眉を上げてマコトを見る。

「意見ね?」

「ええ・・・・こりゃ完全な爆破解体ですよ。そんじょそこらの犯罪者に出来る芸当じゃありません」

「それについてはまったく同感ね・・・・警察はどう見てるの?」

「警視庁の公式見解はまだです・・・非公式なヤツはありますが・・・結局推論の域を出ません」

「それでいいわ。聞かせて」

「テロリスト、それも一流の人間だろうと」

「一流と判断する根拠は?」

「ハイ、これほどの大規模な爆破をするには本当なら人手が要ります。ですが・・・・」

「監視記録にそれが見当たらない?」

「ええ、こっちの記録も確認したんですが、大人数がサード・タワーに出入りした記録は出てきません」

「小人数でこれだけの仕事・・・確かにプロね」

「過去の記録とも突き合わせているんですが、なかなかうまくいきません」

「りょーかい・・・アタシも心当たりを当たってみるわ。そっちは記録を警察に流してやって」

「了解」


まったく・・・・あの人の言う通りになりつつあるわね・・・






「何かが起こるかもしれない、だけじゃ動けませんよ・・・・貴方は何を知ってるんですか?」

1週間ほど前、突然電話してきたユウジは唐突な話題を切り出していた。

《スマン、今回は本当にわからんのだ・・・・だが、イヤな予感がする》

「・・・・一体なにが?」

《それがわかりゃ苦労せん。ま、わかってるのはアメ公が絡んでるってことぐらいだ》

「それはまた・・・・怨恨ですか?」

少し笑いながら、それならば対処のしようもあるという余裕の為せる笑み。

《くれぐれも油断してくれるなよ?・・・連中だってバカじゃないんだ》

「私にとってはそちらよりも、今度の国会で提出予定の自衛隊法改正案のほうが気になりますが」

《さすがに情報が早いな・・・ま、提出予定だけ出なく、成立予定だ》

「・・・・マズいですね」

《つまりはそういうことだ。これからは甘えは一切許されなくなる・・・・今までと同様にな》

「確かに」

《海の向こうから健闘を祈っているよ・・・・くれぐれも、シンジをよろしくな》

「はい」

《それと、前にも言ったがくれぐれもあいつを敵に回さないようにな》

「私がシンちゃんを裏切るとでも?」

《そうは言ってないさ。今の言葉は君にではなく、組織に言ってるんだ》

「つまり貴方はネルフをまったく信用していない、というわけですね?」

《信用と信頼はまったく別物だ。そういう意味で言うなら、君の言う通りだ》

「・・・・わかりました。胆に命じておきます」

《ああ、そうしてくれ・・・・それじゃあな》









「ふう」

回想から立ち戻ったミサトはため息をひとつつく。

「これからちょっとばかり忙しくなりそうね」






























日本はセカンドインパクトで壊滅的と言っていいほどの被害を受けた。

ただ、主な被害は大都市が集中していた太平洋岸だった。

遥か南極からの津波が太平洋岸に押し寄せ、全てを洗い流してしまったのだ。

それとは逆に、昔は裏日本と呼ばれた地方の被害はそれほどでもない。



裏日本最大の都市だった新潟も、インフラに受けたダメージを除けば損害は少ない。

インパクト以前から、新潟は対北方貿易の中継点であり、特に港などは良く整備されていた。

今、新潟東港に入港してきた3隻の大型貨物船と1隻の旅客船も、パッと見は普通の貿易、あるいは定期航路に従事しているフネだった。

ただ、その船が他と違うところは、ある団体のチャーター船だと言う事だった。




「オイ、船倉の様子は?」

舷側に立つ、なんとも表現の難しい服を着た男が、傍らに立つ同じような服装の男に問い掛ける。

「はい。なにも問題ありません・・・・」

至極御尤、といった口調で返事は返る。

「全ての積荷内訳、もう一度読み上げてくれ」

自己顕示欲の強そうな男が言う。

「・・・・もう船は日本の領海に入っています・・・・どこに耳があるか」

「擬装は完璧だ!・・・間抜けな日本の警察などに見抜けるものか!」

それを聞き、傍らの男は諦めたようにクリップボードを取りだし、そこに記載された品目と量を言い始める。

「AK−74が2000挺、RPG−7が350基、SVDが20挺、T−74が18両、BPMが5両(車両は2隻目に収容です)、Mi−28が2機、Mi−24が3機(これは3隻目です)・・・・それに各種弾薬が多数、燃料・整備用部品も多数です」

それは増強機械化中隊プラスαを編成するのに充分な数の兵器だった。

「ウラジオストックからの第2陣は?」

「・・・・はい、フェリーなどを含めた5隻が既に出航しています。時間調整をしながら津軽海峡を抜け、直接相模湾を目指します」

「よろしい・・・」

そう言うと、男は奇妙な白い服をひらめかせて振りかえる。

「我々は新潟に上陸後、装備の擬装は解かずにまずは聖地を目指す」

「聖地・・・・では?」

男は鷹揚に頷くと、不気味な笑みを浮かべる。

「この腐った国で我々が他に目指す場所は他にあるまい?・・・・もっとも、その後に仕事が控えているが」

「はい」

「20年前の復讐戦だ・・・・思い知らせてやる!」

男は言っているうちに興奮状態になってきたのか、拳を振り上げる。










「天に向かい唾を吐くような輩は必ず天罰が下ることを!・・・・・我等を狂信者と決めつけ、社会から抹殺したこの国全ての人間に!!」























時は満ち、策謀は蜘蛛の糸の如く。















破壊に魅入られし外道達が集う。
















標的は、第三新東京市。















NEXT
2000/09/01
ご意見・ご感想・ご質問・誤字情報・苦情(笑)などはこちらまで!

あ・と・が・き

みなさまこんにちわです。

P−31です。

言い訳はしません。

ほんとにお待たせしました。

申し訳ないです。

やっと再開させることができます。

Eパートまでの更新は早いはずです(14話全パートを大家さんに一括で送っています)。

15話はまた遅くなるかもしれませんが、これほどお待たせはしません。

話自体のあとがきはEパートで・・・


私の作品は徹頭徹尾フィクションですので。

話の内容で何か感じてもあくまで”フィクション”ですので。

特定の団体など無関係なので。



>なーばすぶれいくだうん(NERVOUS BREAKEDOWN)
   ノイローゼの発作、神経衰弱のために倒れること




 P−31さんの『It's a Beautiful World』第14話Aパ−ト、公開です。







 大事な大事な
 ほんとに大事な
 是非、みなさんに強調したい点。。

 みなさん、ではなく、特定の人たちに強調したい点。


  「この話はフィクションです」〜 (^^;




 大物テロリストや
 国際的組織

 その辺の人たちなら外国のファンフィクションに目くじらをたてたりはせんでしょうけど、
   慣れてるだろうし
 日本のあのグループは・・・・

 なんてね。




 もう、「これでもかっ」ってほど集まったやばいやばい者者者。


 シンジ、シンジ、シンジ〜
 頼むぞ頼むぞ頼むぞ〜〜

 どこまでもどこまでも。。





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