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[P−31]の部屋
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ことここにいたって、部屋にいる全員が気付いた。
我々はこの男にまんまと騙されたのだ、ということに。
それは50%当たっていた。
合衆国が暴発するように仕向けたのは・・・・ゲンドウともう一人。
野分”死神”ユウジだった。
「手で受け止めるぅ!?」
アスカがすっとんきょうな声をあげる。
チルドレンとミサトは本部ではなく、第三新東京市の天井都市部分、その底部にいた。
足下にはピラミッド状の本部が見下ろせる。
高所恐怖症の人間にはこれない場所だ。
「そ、落下位置そのものはMAGIでかなり正確なところまで予測できるわ・・・・そこへエヴァが展開してA・Tフィールドを全開にして受け止めるのよ」
作戦の大まかな説明をするミサトは何処にそんな自信があるのか、胸を張って言う。
厳しい表情のシンジが質問する。
「もしその予測が外れたら?」
「その時はアウト」
ミサトは鼻歌でも歌いそうな感じだ。
「機体が衝撃に耐えられなかったら?」
アスカが勢い込んで問う。
「その時もアウト」
「勝算は?」厳しい表情をさらに険しくするシンジ。
「神のみぞ知る、といったところかしら」
アスカが呆れ果てたように、
「これでうまくいったらまさに奇蹟ね」
「奇蹟ってのは起こしてこそ初めて価値が出るものよ」
「奇蹟を信じて作戦を立てられたらたまりませんよ」
シンジがミサトを睨みつけるようにして、叩きつけるように言う。
「ごめんなさい・・・でもね、これしか手が無いのよ」
「撤退は?」
「論外」
ミサトは即座に答えた。
「・・・・わかりました・・・納得はしませんが、命令なら従います」
ミサトはそれを受けてアスカとレイを順繰りに見る。
「やるわよ、当たり前でしょ?」
「・・・・」レイは黙ってうなずく。
「ありがとう・・・これが終わったらみんなで何かおいしいものでも食べましょ!」
それを聞いたアスカが、ふふんと鼻を鳴らす。
「その言葉、忘れないでよ?」
電波妨害
「使徒によるECMの為、目標を喪失」
作戦決行当日。
全員が発令所に集合していた。
「これのお陰で計算が狂ったわ・・・それでもロスト直前までのデータをMAGIに計算させた結果がこれ」
ミサトがそう言うと共に、空中投影式のメインモニターに第三新東京市の俯瞰図と落下予測範囲が出る。
「・・・随分広いわね」
傍らに控えていたリツコが補足する。
「申し訳無いけど、これ以上の絞りこみはMAGIでも不可能よ。なんせ目標のA・Tフィールドなら範囲内のどこに落ちても本部を根こそぎ抉ることができるから」
そしてモニターの画像上に、さらに画像がかぶさる。
ミサトが説明を続ける。
「ですからエヴァ全機をこれら3ヶ所に配置します」
モニターには真円形の落下予測範囲、その円周上に展開する配置が描かれている。
中心点から線で3機のエヴァを結べば、落下予測範囲が3分割される位置だ。
「・・・この配置の根拠は?」
それまでずっと黙っていたレイが口を開き問いただす。
「・・・・戦例の研究よ」
「?」
「大モルトケ・・・シンちゃんにはわかるんじゃない?」
「なるほど・・・」
シンジは少し納得したようにうなずく。
「ちょっと、アタシ達にもわかるように説明しなさいよ!」
ミサトの視線を受けて、シンジが口を開く。
「大モルトケ、普仏戦争時のプロイセン軍参謀総長・・・今で言うドイツかな?」
シンジは語りつつも、アスカやレイと視線を合わせようとはしない。
「んで?」
「彼は軍の主力を内陸に待機させて国境には警戒部隊しか置かなかった。周り中を敵に囲まれてたからどこから敵が来るかわからなかったんだ」
「ふんふん」
「そして敵軍の国境突破を知ると同時に主力を鉄道を使って輸送、敵軍の包囲殲滅に成功したんだ」
「ふん・・・戦術の常道じゃないの?」
「そうだけど、それまでは迅速な移動手段が無かったんだ・・・そしてその”常道”をはじめて実践したのが大モルトケなんだよ」
「つまり?」
「つまりはこういうことよ」
そこからはミサトが後を受けて説明する。
「ちょっと変形のモルトケ・プランだけど、間に合わなかったら洒落にならないしね」
ミサトは言う。
「この配置なら、少なくとも1機は絶対に間に合う。そしてその1機が時間を稼ぐ間に他の2機は駆けつける、とまあこんな具合よ」
「要するに、他の2機が来るまでの間は1機でアレを支えなきゃならない、と?」
「ま、そういうことね」
シンジは考える。
3機同時にかかるのが理想だが、3機をまとめて待機させた場合、迎撃しそこなう可能性がある・・・・
最悪の中の最善。
「戦略方針に合致し、かつもっとも合理的な作戦計画でしょうね・・・もっとも戦略方針からして滅茶苦茶ですが」
「イタイところ突いてくれるわね!」
シンジはそれにイタズラっぽい笑みで答える。
「ミサトさんの作戦が無茶でなかったことなんて一度も無いですから!」
発令所から出た三人は、ケージに向かう為にエレベーターに乗り込んだ。
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
沈黙がエレベーターを支配する。
いつもならこういう状況をアスカの軽口が破るのだが、今はそれすらない。
『ほら、何か言いなさいよアスカ!』
アスカは自分を鼓舞するように言い聞かせるが、唇は重く開く気配は無い。
そしてそうこうしている内に、沈黙は三人の中で一番意外な人間によって破られた。
「碇君・・・・なぜ、悩むの?」
レイは言う。
「碇君は私達を守ってくれた。もし、碇君が殺されそうになったなら、私はためらわずこの手を血で染めるわ」
レイはアスカをちらりと見る。
「たぶん、アスカも同じでしょ」
かっこいいセリフを全部持って行かれたアスカだが、そんなことには頓着せず、大きくうなずく。
「ありがとう・・・・二人とも」
素直に礼を口にする。
「でもね、もう既にこの両手は血まみれなんだ・・・・」
アスカとレイは思い知った。
シンジの受けた痛みは生半可なものではない事を。
そしてその言葉に反応したのはアスカだった。
彼女はシンジの前に立つと、大きく深呼吸し・・・・シンジの頬に強烈なビンタを張った。
「いつまでウジウジしてるつもり?・・・いい?よく聞きなさいよ?・・・・アタシ達はシンジを心から信頼してる。嘘や同情じゃないわ」
怒ったような声を出して 実際、彼女は怒っていた シンジに詰め寄るアスカ。
「・・・・・・・・・・・」
張られた方の頬を紅くして、シンジはアスカのことを真っ直ぐに見つめる。
「確かにあの時、”恐怖”を感じたわ。それは事実よ・・・・だけどね、アタシが恐怖を感じたのは”血”に対してよ、間違ってもシンジにじゃない」
だんだんと感情が高ぶってきたのか、アスカはうっすらと涙を瞳にためる。
「エヴァに乗って戦っているなんていっても、所詮”血”を見ないキレイな戦い・・・”血”を見て怖気づいたって当たり前でしょ!?」
アスカはシンジの手を取り、プラグスーツの上から自分の胸に当てる。
「もっとアタシ達のことも信じてよ・・・・」
シンジは頭をハンマーで殴られたような気がした。
『僕は・・・・アスカや綾波のことを信じていなかったんだろうか?』
『”守る”なんてのはただの思いこみだったんじゃないか?』
そして気付いた。
今まで考えてきたそれらこそが、思い込みだということに。
シンジの前にはいつのまにか移動したレイも立っている。
彼女もアスカと同じように半泣き状態だ。
この二人を泣かせるなんて・・・・やっぱり僕は大バカだな。
シンジは内心で呟く。
そして彼は二人の肩を掴むと、強く引き寄せて抱きしめた。
アスカとレイがあがらえないほど強く。
もっとも、彼女達があがらうはずもないが。
三人は強く抱き合い、エレベーターが止まるまでそうしていた。
ありがとう・・・アスカ、綾波・・・大好きだよ。
《落下予測時間まで、あと120分です》
スピーカーが戦いの訪れを告げる。
「みんなも退避して。ここは私一人だけでいいから」
発令所。
ミサトはここで最後まで見届けるつもりだった。
戦いがどうなるにせよ、子供達をあそこに向かわせた限り、自分はここにいる。
それが自分の責務。
そう考えていた。
ただ、周りまで巻きこむことは無い。
逃げられるのなら逃げた方がいい。
が、反応は違ったもの あるいは予想通り、か だった。
「まだ17時じゃありませんね。17時になれば定時ですから言われなくても帰りますが、それまでは給料分の仕事をしないとクビになりますよ」
シゲルがおどけたように答える。
「あの子達だけ危ない目には合わせられないっすよ!」
マコトは張りきって答える。
ミサトはマコトの直接的な物言いよりも、シゲルの諧謔を含んだ言葉の方が好感を持てた。
なぜだろう?
彼女にもわからない。
「あの子達は大丈夫・・・もしエヴァが大破してもA・Tフィールドがあの子達を守ってくれるわ・・・エヴァの中が一番安全なのよ」
「盾と矛、ですか」シゲルがコンソールにを操って仕事をこなしながらつぶやく。
「?」
「A・Tフィールドを有機的に運用が可能なエヴァが人類最後の希望。攻めて来る使徒もA・Tフィールドを持ち、それが現用兵器がまったく効かない最大の要因・・・・」
シゲルはセリフとは正反対の明るい声音で続ける。
「”矛盾”ですかね?これも」
ミサトは少し微笑む。
「青葉君、あなた哲学者になれるわよ?」
コンソールを叩きながらシゲルは肩をすくめる。
「哲学者ですか。柄じゃありませんがね・・・行った大学に哲学学科があれば違ったかもしれませんが」
「考え方がシンちゃんに似てきたわよ?」ミサトがやはり笑いながら言う。
「よしてくださいよ!」
シゲルは片手をあげて振って見せる。
「あら、どうして?14歳の子と比べられるのはイヤ?」
「そう言う意味じゃありませんよ・・・たとえシンジ君より歳を食ってても、あの子ほど自分を冷静に見つめるなんて芸当、出来そうもありませんからね」
ミサトは少し驚いた。
接触の少ないシゲルがよくそこまで見ていることに。
人物評価を考え直す必要があるかな、とも考えた。
そんなシニカルなシゲルをマコトは呪い殺しそうな視線で睨んでいた。
まあ仕方あるまい。
横恋慕している女と自分以外の男が楽しげに話していれば、いい気分にはなれないだろう。
「ま、そうね・・・そこがシンちゃんの一番の強みね」
ミサトはそんなマコトの視線にはまったく気付かず言葉をつなげる。
言葉はシンジを誉めていたが、内心は違った。
だけど、その一番の”強み”が最大の”欠点”でもあるのよね・・・・
と、シゲルの肩がわずかに震える。
「目標を最大望遠で確認」
ミサトは”ふふん”と鼻を鳴らしてそれに答える。
「おいでなすったわね」
「目標、およそ25000・・・」
マコトがいくらか沈んだ声で報告する。
だが、ミサトにはそれに気付く余裕はもはや無い。
「エヴァ全機、スタート位置」
”モルトケ・プラン”に従い、それぞれ違う位置に配された3機のエヴァはいつでも飛び出せる態勢を取る。
「目標は光学観測による弾道計算しか出来ないわ。よって、MAGIが距離1万までは誘導します・・・その後は各自の判断で行動して」
ほんと、指揮官なんていらないわよね
「あなた達に、全て任せるわ」
ミサトの僅かな感傷をシゲルの冷静な声が破る。
「使徒接近。距離およそ2万」
ミサトは息を呑む。
これでまた、償いのきかない罪を犯すわけね
「では、作戦開始」
それを受けてシンジは同じような環境にいる筈の二人に向けて、一言だけささやく。
「行くよ」
一本で繋がれた神経のように、アスカとレイはうなずき返す。
顔は見えず、声しか聞こえない状態であっても三人はお互いの心が繋がっているのを実感していた。
そして3機の外部電源ソケットが小さい爆音と共にパージされる。
「スタート!!」
3機はコンマ1秒も遅れることなくダッシュする。
初号機はアスファルトを踏み砕き、
弐号機は森をなぎ倒しながら、
零号機は民家を1軒踏み潰す。
だが、これは仕方ない。
この作戦で一番重要なのはスピード。
多少の器物破損はやむを得ない。
各機には本部 MAGIからリンクされたデータが奔流のように流れ込んでいる。
「このままいくと・・・僕が一番早く着くな」
あれだけの図体の使徒を1機で受け止められるのか?
シンジはそこまで考えてインダクションレバーを固く握り締める。
「”止められるか”じゃない!」
止めて、消し去るんだ!
シンジの闘志が乗り移ったか、初号機は今までよりもさらにスピードを上げ疾走し、その速度は亜音速にまで達した。
周囲のビルが衝撃波で破壊され、瓦礫の山を築く。
エヴァぐらい大きい物が陸上で亜音速を出したら、たとえマッハの壁を超えなくてもこうなる。
弐号機や零号機は、それに比べはるかにスマートだった。
障害物は極力避けて、可能な限りのスピードで落下地点に急いでいる。
そして、シンジの予測どおりに彼が落下地点に一番乗りした。
見上げれば、けばけばしい使徒が雲を突き破って落ちてくる。
「フィールド全開!!」
初号機のA・Tフィールドが発動され、周囲の土砂を巻き上げながら手を伸ばせば届くところにいる使徒を支え、押し返そうとする。
一瞬押し返したように見えたが、使徒はその質量にものをいわせて押し込んでくる。
「ぐうぅっ!!」
使徒の行く手を阻む初号機の両腕だが異音が響き、次の瞬間左腕が過重に耐えきれずに裂け、拘束具も弾け飛ぶ。
「!」
シンジの左腕にも激痛が走るが、そんなことに構ってはいられない。
弐号機と零号機が到着するまで使徒を地表に接触させるわけにはいかない。
と、そうこうしている内にその2機が駆けつけてきた。
「アスカ、フィールド全開!」
駆けながらレイが叫ぶ。
「言われなくてもやってるわよ!」
アスカも負けじと叫び返す。
そして2機は初号機の両脇につくと、それぞれA・Tフィールドを全開にして使徒をさらに押し戻す。
「今だ!」
シンジのその声に答えて零号機がプログナイフで使徒のA・Tフィールドに切れ目を入れ、それを両手で広げる。
押し広げられたそこには、使徒の”眼”らしきものがある。
「このおぉぉ!!」
アスカが裂帛の怒号と共にプログナイフをその”眼”に突きたてる。
突き刺さったプログナイフが、高速振動に伴う火花を上げ、次の瞬間あれだけ強固に張られていた使徒のA・Tフィールドが消失する。
活力を失った使徒の体は崩れるようにして3機のエヴァに覆い被さる。
そして爆発。
フィールドを張っていた3機はそれ以上の損害は無かったが、山一つが巨大なクレーターに姿を変えた。
とりあえずは・・・勝ったのかな?
シンジは疼く左腕を押さえながら思った。
一応は勝利だろう。
この不可思議なやり取りを戦いと呼ぶのならば。
「よくやってくれたわね」
戦いを終え、発令所に集まったチルドレンをミサトは笑顔で出迎えてねぎらう。
が、それもつかの間。
「電波システム回復。アメリカの碇司令と南極の副指令から通信が入っています」
シゲルがこの戦いの間何の関与も出来なかったネルフNo,1とNo,2と連絡が取れたことを伝える。
やや緊張した面持ちになるミサト。
「おつなぎして」
彼らの傍らにメインと同じような空中投影式ウィンドウが現れる。
音声 SOUNDONLYの文字。
「申し訳ありません。私の勝手な判断で初号機を中破させてしまいました。責任は全て私にあります」
とりあえず詫びを入れたミサトに答えたのは冬月だった。
《かまわん、使徒殲滅がエヴァの使命だ。その程度の損害はむしろ幸運と言える》
それに続いてゲンドウも口を挟む。
《ああ・・・よくやってくれた、葛城三佐》
「ありがとうございます」
《ところで初号機パイロットはいるか?》
「いますよ」
平坦な口調で答えるシンジ。
《話は聞いた。よくやった》
「やるべき事をやっただけです」
聞いている限りでは親子の会話とは思えない。
《フッ・・・そうか・・・では葛城三佐、後の処理は任せる》
「はい」
「なんでこうなるわけ?」
夜の葛城家食卓。
テーブルにつくのはいつものメンバー四人。
「しょーがないじゃない。レイの希望も入れないと」
アスカの憤懣をミサトが年の功で逸らす。
「おいしいものを食べさせるって言ったけど、外に食べに行くなんて言ってないわよ?」
ミサトは笑みを絶やさずに言う。
「詐欺よぉ!」
「んー?それともシンちゃんの料理はおいしくないのかなぁ?」
そう、結局外食はやめて、家でシンジ作の料理を堪能するということで落ち着いたのだ。
あれもこれも食べてやろうと目論んでいたアスカはぶー垂れているが。
「んもう!誰もそんなこと言ってないでしょ!?」
「はいはい、それくらいにしておきましょう。出来ましたよ」
シンジが台所から大皿を持ってひょっこりと顔を出した。
レイはその手伝いらしく、両手に皿だのコップだの色々抱えている。
「あ、来た来た!」
「ふふーん?」
「な、なによ、ミサト・・・」
「あんなに駄々こねてたくせに」
「シンジの作るものならなんでもおいしいのよ!」
アスカはそこまで言ってしまってから気付く。
その証拠に目の前のミサトはニヤニヤ笑っている。
「熱烈な愛の告白ねぇ?妬けちゃうわぁ」
引っかけられた!
アスカは敏感にそれを察すると耳まで赤くして俯いてしまう。
それを見たシンジはふと思った。
いつもの元気なアスカもいいけど、たまにはこんなアスカもかわいいかな?
「さ、食べようよ。冷めちゃったらおいしくないからね」
それからは賑やかな夕食になった。
寡黙なレイですら笑い声をあげるほどだ。
「んー!やっぱコレのために、汗水流して働いてるみたいなモンよねー!」
ミサトが飲んでいるのはもちろんビール。
いつものエビ○ではなく、キリ○・一番搾○。
おつかいに行ったアスカが間違えて買ってきたのだ。
それがわかった時のミサトの落胆振りは激しいものだったが・・・
要するにこの人はアルコールが入っていればなんでもいいらしい。
上機嫌で500ml缶を空ける現状がそれをあらわしている。
「ねぇ、レイ・・・・どう思う?」
アスカがテーブルの対面に座るレイに耳を寄せてたずねる。
「モグモグ・・・なにが?」
揚げだし豆腐をパクつきながら答えるレイ。
「このビヤ樽女よ!・・・貰い手がいると思う?」
「ムリね」
唐竹を縦に割るようにスパッと答えが返る。
「こらぁ!・・アタシの事はどうでもいいの!アンタ達だってこの歳になったらわかるわよ!」
アスカはそれを聞いて得意げな顔になる。
「アタシはもう予約済みだもーん!」
そして隣に座るシンジの腕を掴む。
「ねー、シンジ♪」
「へ?」
自分の料理の出来を確かめていたシンジは芋の煮っころがしに手を伸ばしたところでアスカにそれを止められる格好になった。
もちろん今の話は聞いていなかった。
「だーかーらー・・・式は教会?それとも神社?」
「はい?」
話が飛躍しすぎてシンジにわかる筈も無い。
レイは膳を置き、額に青筋を浮かべているような気がする・・・・
この二人を守る為に必要なら、何人だって殺す。
邪魔するものは引き裂いてやる。
世界中を敵に回しても構わない。
傲慢だろうが、思いこみだろうがかまうもんか。
決めたんだ。
たとえ全身が血で染まろうとも、振りかえることなく前に進む。
どっちにしろ、僕達は前に進むことしか出来ないんだから。
シンジは剣呑な考えを脳裏に浮かべながら、表情は楽しそうにしていた。
実際に彼は浮き立つような高揚を感じていた。
ここに来てから初めて、重しが取れたような。
シンジはあらためて腹をくくった。
この決意は小揺るぎさえしないだろう。
ただ、冷静な心理学者のシンジは自身のそうした心の動きを唾棄すべきものと思っている。
そして、それすら無視しえる強靭さをシンジは手に入れたのだ。
やはり傲慢かもしれない。
そして、別の意識では敵を見定めてもいる。
当面の敵は、もちろん彼らに直接的に害をなす者。
使徒。
次なる敵も既にわかっている。
大義名分を突きつけて彼らを戦いに駆り立てる間接的な脅威。
あ・と・が・き
みなさまこんにちわです。
P−31です。
第12話Bパートをお届けします。
今回はほぼTV本編のなぞりに近いですかね。
シンジが段々と剣呑になりつつあるのが気になるところですが(笑)
それにしても、今回は予定通りABパートで終わってホッとしております。
前回みたいに長くなったらどうしようと思ってましたので(笑)
さて、どこから分岐していくか、それは作者すら考えの及ばないところです。
要するに行き当たりばったりってことですな(爆)
んでは、13話でまたお会いしましょう。
(今仕事がキナ臭い状況になってるので更新間隔が長くなるかもしれません)