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 アスカとレイは前を向く。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

シンジを精神の煉獄から救うために。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

同時に自らが現実と向き合うために。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

この希望も絶望も無い世界において自分の存在証明を確認するために。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

そして、未来のために。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

 

 

It’s a Beautiful World
第12話「カレイジャス」
(A−part)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

葛城調査隊ベースキャンプ

南極大陸

15年前
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「博士!ダメです!押さえ切れません!」
 

「くそっ!・・・・このキャンプは放棄する!全員大至急避難しろ!」
 

「どこへです!?」
 

「どこへでもだ!緊急用のカプセルでもヘリでもなんでも使え!」
 

「はい!」
 

『畜生!・・・・連中にまんまと一杯食わされたってことか・・・・だが、連中の思うとおりには絶対させん・・・』
 

「ミサトはどこだ?」
 

「さっきは部屋にいるのを見かけましたよ」
 

「ありがとう」
 

『ミサト・・・・すまないな、最後まで父親らしいことは出来なかったな・・・それどころか、今私は自分に出来ないことをお前に託そうとしている・・・・』
 

「だが、私はどうしてもヤツらを許すことは出来ない・・・・私もお前に許してはもらえないだろうが、な・・・」
 

『いつか・・・・あの世で会えたら・・・・謝るよ・・・』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

史上最大の惨劇、セカンドインパクトが発生したのは、その1時間後だった。
 
 
 
 
 
 

葛城博士の努力も空しく、調査隊における生存者は一名のみだった・・・・・

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
雨の降る第三新東京市。

コンフォートマンション。
 

「すまんなぁ、シンジ。雨宿りさせてもろて」

下校途中、突然の雨に見舞われて飛び込んだ葛城家でくつろぐ珍客二人と葛城家の実質的な主。

「ミサトさんは?」

ケンスケがまるでそれが目的であるかのようにつぶやく。

「まだ寝てるみたいだね・・・最近徹夜続きみたいだから」

「あぁ・・・大変な仕事やからなぁ・・・」

トウジが差し出されたタオルで頭を拭きながらいう。

「ミサトさんを起こさないように静かにしてようぜ」

ケンスケがそう言うと二人は口に人差し指を当てて”静かに”というゼスチャーをする・・・・・が、

「ああー!!」

少々ウンザリするトウジとケンスケ。

「なにしてんのよぉ!アンタ達!」

バスルームにはカーテンに隠れるようにしてアスカが顔を出している。

背後にはレイの姿も見える。

「なにって雨宿りだよ」

シンジがキョトンとして答える。

「はん!・・・・とっととそこのバカ二人、帰らせなさいよね!」

アスカはそれだけいうと、さっとカーテンを引いてしまう。

「こんのクソあまぁ!!」

ブチ切れ3秒前のトウジをシンジがなだめる。

「まあまあ・・・」

その後の言葉は、カーテンの向こうのアスカとシンクロしてしまう。

「レイ・・・・「早く拭かないと風邪ひいちゃう(わ)よ」」

思わずバスルームの方を向いてしまうシンジ。

おそらくアスカもこちらを向いているだろう。

ちょっと微笑むシンジ。

だが、微笑みはすぐに消え、沈痛な表情が彼を支配する。

「シンジ・・・どないしたんや?」

トウジが心配そうに声を掛けるが、奥の襖が開かれてかき消されてしまう。

ちょっと表情を引き締めたミサトがそこには立っていた。

「「お邪魔してます!」」

ミサトはちょっと表情をゆるめる。

「あら、二人ともいらっしゃい」

「シンちゃんおかえり。今夜はハーモニクスのテストがあるから遅れないようにね」

「わかりました」

「アスカとレイも、いいわね?」

カーテンの向こうに声を掛ける。

「はーい」

レイの声は聞こえないが、これはいつものこと。

ミサトも気にしていない。

そんなミサトをケンスケがまじまじと見つめる。

「んん??・・・・あ!」

今度は突然頭を下げる。

「この度はご昇進、おめでとうございます!」

「あ、ありがと・・・」

ミサトの襟に付けられた階級章、それが変わっていることにこのオ○クはいち早く気付いたのだ。

「いえ、どういたしまして」

ミサトはそのまま玄関に向かう。

「じゃ、行って来るわね」

「いってらっしゃい」

「「いってらっしゃーい!」」

ドアは素早く開き、素早く閉まる。

シンジはミサトを送り出すとケンスケに聞く。

「ミサトさんになにかあったの?」

「気付いてないのかぁ?・・・・襟章だよ。線が2本に増えてる・・・・一尉から三佐に昇進したんだ」

「ふうん・・・・」

「へぇ、知らなかった」

アスカも着替え終わったらしく、頭を覗かせて意外そうに言う。

「君達には人を思いやる心がないのか?」

ケンスケが大げさな身振りを示して嘆く。

「そういうつもりじゃないよ・・・・ただ・・・」

「?」

「昇進しても嬉しそうじゃなかったよね・・・」

「あ・・・」

確かに言われてみればその通りだ。

ケンスケに祝いの言葉を掛けられたミサトの顔は、微かに影が差していたようにも思える。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「ミサトさん、昇進したくて仕事をしているわけじゃないと思う・・・・もっと・・・なんていうか・・・・戦うことを自分で強要しているような気がするんだ・・・・・」
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 穴という穴から自分の体内に入り込むLCL。
 
 
 
 
 

ワケの分からないプレッシャー。
 
 
 
 

実機におけるエントリープラグも、実験場のテストプラグも搭乗者に不快感を抱かせるという点では変わるところはない。
 
 
 
 
 
 

「0番、2番・・・・共に汚染区域に隣接、限界です」
 

コンピューターが発するBeep音と、マヤの冷静な声が管制室の静寂を破る。

「・・・・1番は?」

リツコがディスプレイを睨んだままたずねる。

「かなり余裕があります」

「さすがと言うべきかしらね・・・・ではグラフ深度をあと4.5下げて」

すると、モニターに映し出されるシンジの顔がわずかに歪む。

「汚染区域ギリギリです」

「それでもこの数値?」

リツコがなかば以上呆れた声を出す。
 
 
 
 

「これも一種の才能なのかしら」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「そんな才能、あの子は喜ばないわよ」
 
 
 
 
 

ミサトは静かに、だが力強く言い放った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「あら?シンジ君は?」

実験終了後のデブリーフィングに現れたのはプラグスーツ姿のアスカとレイだけ。

シンジの姿は見えない。

「なーんか帰る途中で買い物しなきゃならないからって先に帰ったわよ」

それを聞いてリツコは大きくため息をつく。

「ミサト・・・少しは保護者らしいことしなさいよ・・・」

「なんでよ?こーんなに保護者らしいのに」

胸を張って威張るミサト。

「ミサト・・・・」

呆れながらリツコが口を開く。

「ん?」
 
 
 
 
 
 
 
 

「”保護者”の意味、辞書でも引いて調べなさい・・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「「「「おめでとうございまーす!」」」」

葛城家の玄関ドアに掲げられた”御昇進おめでとう祝賀会場 本日貸し切り”の文字。

”祝賀”の文字を証明するかのように中からは威勢のいい乾杯の声が聞こえてくる。

「ありがとう」

ミサトが嬉しそうに缶ビールを掲げてそれに応じる。

「ありがと、鈴原君」

「ちゃうちゃう!言い出しっぺはコイツですねん」

そう言ってトウジは隣でしゃちほこばるケンスケを指さす。

すると彼はおもむろに立ち上がる。

「そう!企画立案はこの相田ケンスケ、相田ケンスケです!」

そう言って誇らしげに胸を張る。

「ありがと、相田君」

「いえ、礼を言われるほどのことは何も。当然のことですよ」

「せやけど・・・・なんで綾波やイインチョがここにおるんや?」

解せない、という風にトウジが対面に座るレイとヒカリを見る。

「アタシが呼んだのよ。パーティは多い方がいいじゃない!」

「んまあ、そりゃ確かに」

「それにレイはお隣さんなんだから・・・・ご飯とかだってウチで食べてるしね」

「な、なにぃ!?・・・センセェ!そらホントかいや!」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「シンジ?」

シンジはうつむいていた顔をハッと上げる。

「え?なに?」

「センセ・・・・なに考え事しとんのや?」

「いや、ちょっとボーッとしてただけだよ」

「さよか・・・・」

「ほら、パーッとやろうよ!料理もいっぱい作ったんだから!」

「おほっ!メシや!」

「鈴原!少しは遠慮しなさい!」

「ホント、どこ行っても変わんないわよね、アンタって」

アスカとヒカリから呆れ声が上がる。

「これがワシの生き甲斐や!文句言われる筋合いはないわい!」
 
 

そのからはけんけんがくがく。
 

文句を言いながら飲み食いするという、いささか品の悪いパーティになってしまった。
 
 
 
 
 
 
 

ピンポーン・・・・
 
 
 
 

唐突に来客者を告げるチャイムが鳴る。

「誰だろ、こんな時間に?」

シンジが立ち上がって玄関のロックを外しに向かう。

「ああ、リツコか加持よ・・・声かけといたから」

その予想、半分はずれ、半分当たった。

なぜなら二人とも姿を現したから。

「いよっ、本部から直だったんでね・・・・そこで一緒になったんだ」

「怪しいわね」

眉間に皺を寄せるミサト。

「あら?ヤキモチ?」

リツコがここぞとばかりにからかう。
 
「んなワケないでしょ」

「いや、この度はおめでとうございます。葛城三佐」

加持がわざとらしく一礼する。

「これからはタメ口きけなくなったな!」

「なーに言ってんのよ。バーカ」

「しかし、司令と副司令が日本を離れるなんて前例のないことだからな・・・・これも、留守を任せた葛城を信頼してるってことさ」

「いないんですか、二人とも?」

シンジが少々呆れ顔で聞く。

まあムリもない。

いつ敵が攻め寄せてくるかわからないこの第三新東京市・・・本部にNO.1とNO.2がいないというのはいささかおかしな状況だ。

そしてシンジの疑問にリツコが答える。

「碇司令はアメリカ、副司令は・・・・南極よ」
 
 
 
 
 
 
 
 

『アメリカ?・・・・また何を考えてるのか・・・・』
 
 
 
 
 
 
 
 
 

シンジはそう考えながらも、”南極”という単語が出ていたときにミサトの顔がわずかに歪んだことを見逃さなかった。
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

宴が終わり、この部屋の住人以外はみな帰宅していた。
 
 
 
 
 

加持とリツコは明日も仕事があるとかで早々に引き上げ、子供達も学校があるため遅くはなれない。

特にアスカやレイなどは加持が面白がってカクテル   とはいってもお子様用の弱い物だが   を飲ませたお陰で沈没している。

おそらくいまだリビングで大の字になっているだろう。

シンジは彼女達ほどは酒に弱くはない。

強いと言うわけでもないが。

そんなわけでシンジは酔いざましにベランダに出ていた。

常夏の第三新東京市だが、今日は夜半になってから冷えるようだ。

空気は澄み、雲はなく、星空を覆い隠すように満月が天空に輝いていた。

シンジは何を考えるというわけでもなく、ボーッと月を眺めていた。
 
 
 
 
 
 

「あら、お月見?」
 
 
 
 

室内へ続くガラス戸が開けられ、ミサトが顔を出した。

「そんなつもりじゃないですけど・・・・なんとなく」

「んじゃアタシも」

そういうとミサトもサンダルを履いてベランダに出てきた。

「はい」

シンジに缶ビールを手渡す。

自分は既に開けられた缶を持っている。

とりあえずそれを受け取るシンジ。

笑みを浮かべて、

「ほんと、保護者とは思えませんね」

ミサトはちょっと頬を膨らませる。

「なによぉ、シンちゃんまでそんなこと言うの?」
 
 

それから二人はしばらくの間、無言で月を見上げた。
 
 

「私はね・・・・セカンドインパクトの時に南極にいたの」

前触れもなくミサトが話し出した。

「南極、ですか・・・・」

「そう。父が学者でね、調査隊のリーダーだったの」

シンジは答えない。

口を挟むべき時ではないとわかっているのだ。

「調査隊の生存者は私だけ・・・・結果的に母もセカンドインパクトの間接的影響で死んだわ」

『間接的影響?』

シンジの内心が読めたのだろう。

ミサトは補足説明を付ける。

「母は当時東京に住んでいたの・・・・旧東京にね」

シンジの脳裏に、いつか訪れた1000万都市の残骸が目に浮かぶ。

「私自身もでっかいお土産を貰ったわ・・・・体と、心にね」

ミサトは自分の腹部を撫でるようにする。

シンジもそこに傷跡が刻み込まれているのは知っている。

「心、ですか」

「ええ、心。南極の海で救助されてから数年間、私は失語症になったの・・・・重症のね」

「使徒と戦うのは私怨、ですか?」

「ネルフに入ったときは確かにそうだった」

飲み終えた缶ビールをグシャリと握りつぶす。

「やっと接し方がわかったような気がする父を殺し、結果的に母も殺した。理由はそれだけで十分だとその時は思ってたわ」

「今はどうなんです?」

「正直、私怨が無いと言えば大ウソになるわね」

彼女はシンジと向き合い、その瞳をのぞき込むようにし、自嘲的に続ける。

「考え方としては昔よりも傲慢かもしれないわ・・・・私は自分の今の居場所、居心地のいいこの場所を失わないために戦ってる・・・・シンちゃんやアスカ、レイ、リツコに加持・・・・みんなと楽しくやれるこの場所をね・・・・あなた達はたまったものじゃないでしょうけど」

シンジはそれを聞いて大きく微笑む。

「正直言って」

「?」

「ミサトさんがこれからも私怨で戦おうとするなら、僕はミサトさんの解任を上に求めるしかありませんでした」

「!?」

「考えてください。私利私怨で部隊を任せる軍隊が世界のどこにあります?」

ミサトは何も言わない。

彼女にもシンジの言葉が正論だということに気付いているのだ。

「軍隊やそれに準ずる組織は、何かを守るため、あるいは何かを勝ち得るために存在します。一個人の復讐や虚栄のために動かされることはあってはならないことです」

「・・・・歴史上、そういう事例が皆無とは言えないと思うけど?」

「ええ、その通りです・・・・そしてそのような行動をとった軍隊は必ず負けます。目的が定かでない戦争など、誰が熱心にやります?」

ミサトは息を吐く。

「んで?シンちゃんから見た、この葛城ミサト三佐はどう?」

シンジは考えることもなしに答える。

「私怨は忘れない。けれども守るために戦う・・・・”守る”対象はずいぶんあやふやみたいですけどね」

そう言ってシンジは笑う。

何の邪気もない笑み。

それにつられてミサトも笑ってしまう。

「よかったわ!シンちゃんのお眼鏡にかなって!」

「僕は人を判断できるような人間じゃありませんよ」

シンジの顔に影が差す。

「・・・・まだこだわってるの?」

「どうしても、脳裏にこびりついて離れないんですよ・・・・アスカと綾波が恐怖と共に僕を見つめる・・・・気が狂いそうになりますよ」

ミサトは驚いた。

強靱、剽悍、冷静沈着・・・・それらの言葉を具現化したようなこの14歳の男の子がここまで打ちのめされている。

敵によってではなく、味方に。

これは悲劇だろうか?

あるいは喜劇?

「もっとあの二人と話し合うことね。そうすれば見えてくるものもあるんじゃない?」
 
 
 
 
 

千の言葉を連ねても、あの場の持つ衝撃力にはかなわない。
 
 
 
 
 
 
 

シンジはそう考えていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

だからこそ、積極的な行動に移れないでいた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「3分前に突然現れました!」

コンソールにつくマコトが報告する。

「映像は?」

「メインに出します」

情報収集担当のシゲルが間を置かずに答える。

すると、大モニターに”目標”が映る。

何と形容しようか・・・

ド派手な塗装を施した特殊な飛行船、といったところだろうか?

真空の宇宙空間だが。

「こりゃスゴイ」

マコトが何を感心したのかつぶやく。

「常識を疑うわね!」

『何の!?』

発令所にいた全員が心で思ったことだが・・・・幸いツッコミを入れる者はいなかった。

「碇指令はアメリカ・・・・副指令は南極・・・・タイミングの良いことで!」

ミサトが吐き捨てるようにつぶやく。

仕方のないことだ。

ゲンドウ、冬月が不在の現在ではミサトが全ての責任を負うことになる。

「防衛庁には逐一状況を知らせておいてね」

「了解」

「いざ彼らの力を借りるときにトップダウンでやってたんじゃあ時間がかかりすぎるからね」

「ですね」

「まもなく衛星がサーチモードに入ります」
 
《データ送信、開始》

が、衛星は瞬時に破壊され、その証拠にモニターは砂嵐になってしまった。

「A・Tフィールド!?」

「新しい使い方ね」

隣に立つリツコがさほどの関心も見せぬ風にいう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

そして派手な色使いとこれまでで最大のスケールを誇る使徒は、自らの体(?)をちぎると、それをA・Tフィールドでくるみ、地球重力に引かれるまま落下させた。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「大した破壊力ね」

使徒の能力を分析するためにミサト以下主要要員はブリーフィングルームで検討を重ねていた。

彼らの前にあるディスプレイには、使徒から落とされた物体がもたらした破壊の跡が示されている。

「さすが、A・Tフィールド」

そこには海面に浮かぶ波紋がある。

それがキロメートル単位で形成されていることを除けば、大したことではない。

「とりあえず、初弾は太平洋に大はずれ・・・・で、2時間後の第2射がそこ、あとは確実に誤差修正してるわ」

一番新しい弾着は陸地に大穴を開けている。

「国連軍がN2航空爆雷で総攻撃を仕掛けましたが・・・・そっちの方は効果ありません」

ミサトとリツコが同時に怪訝な表情をする。

「そっちの方は?」

「はい。国連軍の攻撃に紛れて自衛隊が衛星から攻撃を行ったようです」

「ああ、浅間山で私達を吹き飛ばしてくれたアレね?」
 
 

JSS−01
 
 

浅間山では、その着弾時の衝撃からミサト達はひどい目にあった。

まあ、助けてくれたのだから文句は言えないが。

「その攻撃だけがわずかに使徒の部分的な焼却に成功した模様です・・・・国連軍は自分たちの攻撃によるものだと思ってるようですが」

「ふん・・・位置を暴露して反撃されるのを恐れて国連軍の攻撃に紛れたんでしょ・・・・お気楽ねぇ、国連は」

「そのせいかどうかわかりませんが、以後使徒の消息は不明です」

「ま、どっちにしろ来るわね」

「次は本体ごと、ここにね」

「その時は第3芦ノ湖の誕生かしら?」

「富士五湖が一つになって太平洋と繋がるわ」

悲観的、と思うかもしれないが・・・・冷静な分析結果だ。

「本部ごとね」

「碇司令は?」

「使徒の放つジャミングのため、連絡不能です」

「ってことは副司令も?」

「はい」

「かぁー・・・・まいったわね」

ミサトは髪の毛をくしゃくしゃとかき回す。

「MAGIの判断は?」

「全会一致で撤退を推奨しています」

「撤退?・・・できるんならやってるわよ」

リツコ以外の三人は驚きを隠せない。

「迎え撃つんですか!?」

マコトが代表してたずねる。

「論理的な思考の結果よ・・・・例えば、MAGIはデータを松代に移して、エヴァは移送・・・・それぐらいよね?」

「・・・・はい」

「第三新東京市に備えられたその他の設備や施設は破棄せざるを得ない・・・・これが最後だってんなら、その手も使えるけどね」

「・・・・・・・・」

「でも現実はこれが最後じゃない。この後もおそらく使徒の襲来は続くと思うわ・・・・その時ここ抜きで勝てると思うほど私は無能じゃないわ」

「ですが!」

「わかってる。民間人とD級勤務者は避難させます・・・・これが最大の譲歩よ」

「・・・・わかりました」

「あんなピカソの絵から抜け出てきたようなヤツに負けてたまるもんですか!」

ミサトの軽口はオペレーター達の表情をゆるめさせる。
 
 
 
 
 

「さあ!そうと決まれば急ぐわよ!・・・・時間はあまり無いからね!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「いいのですかな?こんな時にネルフの司令がこんなところにいて」

「今から戻っても間に合いません・・・それに私の部下は皆優秀でして」

ワシントンDC、ホワイトハウス。

ゲンドウは単身、敵地とも言えるここに乗り込んでいた。

『無能ではないのだろうが・・・・視野が狭すぎる・・・・国家元首ならともかく、世界を率いるにはムリがあるな』

目の前に座る人物をそう評した。

これまで1時間ほど会談しているが、どちらも本題には切り込まずに雑談に終始していた。

と、そこへ使徒襲来である。

その点についてゲンドウはあまり心配していない。

これでも人を見る目は確かなはずだった。

「ではミスター・イカリ・・・・そろそろ本題をお聞きしましょうか」

『やっとか』

ゲンドウは内心でため息をつきつつも、表には出さない。

彼は回りくどい表現は用いなかった。

「貴国で建造中のエヴァンゲリオンで、比較的完成が近い参号機、四号機を引き渡していただく」

要請でも、懇願でもないところが彼らしい。

いくらか予想していたとはいえ、その言い回しに大統領は顔を朱に染める。

「ふざけないで頂きたい・・・・あれは我が国が完成まで面倒を見ることになっているはずだ」

「”予定は未定”日本語にはそんな言葉があります・・・・使徒は際限なく襲ってくるのに戦力の強化はいっこうに進まない・・・現に増強はドイツからの弐号機のみです」

ちなみにネルフ第三支部、ドイツ連邦政府共にネルフに好意的だ。

それを彼は遠回しな言い方で示している。

「完成していない機体を持っていってどうするつもりですか?」

まだ政治的な演技を行う余裕はあるらしい。

「率直に言わせていただければ、貴国の建造ペースは遅すぎます・・・・本部で同じ事をやれば両機とも既に就役しているでしょう」

大統領は真っ赤にした顔をブルブル震わせている。

「建造に関するそちらの意見は承った・・・・しかし、現状で引き渡すことは出来ない」

ゲンドウは椅子から立ち上がると、大統領の前にある机に両手をつく。

「私はここにお願いをしに来た訳ではありません・・・・通告しに来ただけです・・・・他国なら文書だけで済ませるところだ」

言葉は丁寧だが、脅し文句だ。

「なんだと・・・・」

『仮面がはげ落ちるか』ゲンドウはそんなことを考えていた。

「エヴァンゲリオン・・・少なくとも参号機、四号機を建造、そして管理しているのはネルフの各支部です・・・・それを私の命で移動させるのは私に与えられた権限のひとつですが」

「・・・・・・・・・」

今にも青筋が切れて蒸気でも噴き出すのでないか、そんな感じの大統領。

「ま、ご要望とあればこんなものもお付けしますが」

そう言ってゲンドウはポケットからDVDを取り出す。

「音声情報しか入っていませんが」

大統領は怪訝な表情を浮かべ、補佐官に命じてそれをプレーヤーに入れさせ再生する。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

《大将、こちらからのアクションは考えられるか?》

《機体の奪取はそのサイズから見て不可能です、破壊がせいぜいかと・・・・》

《では打つ手ナシか?》

《いえ、そうではありません。側聞するところによれば、ニューメキシコで建造中の我が方のエヴァンゲリオンも遅れているとはいえ早晩完成するでしょう》

《続けてくれ》

《はい。先程国務長官もおっしゃいましたが、完成してネックになるのがパイロットです。それをネルフから・・・・・・・・》

《なるほど・・・・》

《もし、そのプランを実行するとして、成功率は?》

《60から70》

《ふむ・・・・・・・・皆はどうだ?・・・・このプランに反対する者は?》

《よし・・・・決まりだな・・・・大将、DoDでプランの検討に入ってくれ・・・・なるべく成功率が高くなるようにな》

《イエス・サー、プレジデント》

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

日本を発つ前にユウジから渡されたDVDは合衆国首脳部を青ざめさせるのに十分な破壊力を持っていた。

「と、盗聴していたのか!?・・・・汚い真似を!」

補佐官の一人が大声を上げる。

ゲンドウはゆっくりと振り向き、その男と視線を合わせる。

「どちらがより”汚い”行為か、合衆国の納税者に聞いてみますか?」

その補佐官はゲンドウに射すくめられ、微動だに出来なかった。

大統領が衝撃から立ち直ったのか、口を開く。

「公表するつもりか?」

「まさか!」

ゲンドウは再び大統領に向き直る。

「私達としてもこのご時世に合衆国が混乱することは避けたい、そう思っております」

「ならば・・・・」

「まず一つは先程も言った参号機、四号機の引き渡し。これには関わる技術者、専属操縦者も含みます」

「なに!?」

いまだ両機の操縦者は見つかっていない、そういう前提だからこそ、あんな博打に出たのだ。

ゲンドウは邪笑とも言えるものを顔面に張り付かせる。

「おや、聞いていませんか?・・・・マルドゥックからの連絡が遅れているのですかな・・・・参号機はまだですが、四号機についてはそちらの国から選抜されておりますよ」

ことここにいたって、部屋にいる全員が気付いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

我々はこの男にまんまと騙されたのだ、ということに。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

それは50%当たっていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

合衆国が暴発するように仕向けたのは・・・・ゲンドウともう一人。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

野分”死神”ユウジだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


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1999_03/27
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あ・と・が・き

みなさまこんにちわです。

P−31です。

第12話Aパートをお届けします。

”カレイジャス”。

英語の綴りはCourageous。

意味は”勇敢な”。

誰が、何に対して勇敢なのか?
 
 

それはBパートをお楽しみに(笑)
(今回はえらい短いな(笑))




 P−31さんの『It's a Beautiful World』第12話Aパ−ト、公開です。






 あぅ・・・シンジ、
 まだ、まだ、辛いね。。

 どーんと、すっきりと、
 と、いうわけにはいかないよね、そりゃ・・


 この辺はまだまだ中学生でし。

 この辺まで楽勝にクリアできるようだと逆にダメでしょうし。


 少こーしずつ、
 まわりの力も借りて、
 さ。
 ね。


 なまじ力があるばっかりに
 他人に頼れなくなっちゃている。。。



 保護者頑張れ。
 家族頑張れ〜





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