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ゲンドウは椅子から立ち上がって遠くを見る。


ここではない、どこか遠くを。















「我々にできるのは目の前に立ちふさがる物を排除することだけだ・・・・・・たとえそれが使徒だろうと、人間だろうとな・・・・」

























 

 

 

 

 

It’sa Beautiful World
第11話「鉄拳」
(B−part)




















「はぁーあ、昨日は疲れたー!」

朝だというのにアスカがソファーになだれ込みながらぼやく。

今日は学校に行くのではなく、本部に赴いて実験と訓練を行うのだ。

「お疲れ様、綾波もくつろいで」

「・・・・・・・うん」

葛城家のリビングでくつろぐチルドレン。

「でーも、ファー・・・・じゃなかった、レイって荷物少ないわよねー」

まだちょっと呼び方が慣れないアスカ。

「そうだよね、アスカが来たときなんて山のようにダンボールがあったもんね」

シンジが微笑みながら相づちをうつ。

「んもお!アタシのことはどうでもいいの!」

「ははは、ごめんごめん」

「・・・・・・・今まで、物なんて必要なかったから・・・・」

レイがぽつりとつぶやく。

「これからは必要になるよ!」

昨日、レイは葛城家の隣に越してきたのだ。

荷物が極端に少ないため、シンジとアスカが手伝うだけで済んでしまったが。

そして、まだ荷物の梱包など、そのままなので昨日はシンジの部屋に泊まったのだ。

追い出された(自分から部屋を提供したのだが)シンジはリビングで毛布にくるまって寝た。

「ね、アスカ」

「そぉーよ!アンタも年頃の女の子なんだから、色々必要な物はあるわよ?」

「・・・・・・わからない・・・」

「アタシに任せないさい!」

胸をどんと叩くアスカ。

そんな様子を微笑ましく見ていたシンジだが、少し表情を険しくする。

「アスカ、綾波・・・・ちょっとまじめな話をしてもいいかな」

「「?」」

「少なくとも、今日一日は僕のそばを離れないで欲しい」

いつもだったらここでアスカのちゃちゃが入るのだが、いつにも増して真剣な様子のシンジに気圧されてしまった。

「・・・・・・・・・なぜ?」

シンジの側にいられるのは嬉しいが、少し解せないレイがたずねる。

「・・・・・・ちょっとした危険が迫ってる」

「え?」

「大丈夫、・・・・二人は僕が守るから」

”守る”という言葉を聞いて顔を赤らめるふたり。

「でもシンジ?どんな危険が迫ってるってーのよ?」



シンジはそれを聞くとふっと息を吐いてソファーの背もたれに体を預ける。









「人間、さ」















「さて、行こうか」

ティーカップなどを片づけたシンジがリビングにいる二人に向かって声を掛ける。

アスカとレイは身支度もそこそこに出かけようとする。

「?・・・・シンジ、随分大荷物ね」

アスカが不思議そうにいう。

確かに、シンジは背中にかなり大きめのザックを背負っている。

他にも野球のバットを入れるケースまで持っている。

「ん、まあちょっとね・・・色々使うかもしれないモノを入れてるのさ」

「ふーん・・・ま、いっか。行きましょ」

嘘はついていない。

しかし、ザックの中身が使われるのは3人の身に危険が迫ったときだろう・・・・・




コンフォート17を出て、歩き始めると、シンジは携帯電話を取り出す。





「もしもし?・・・・先生ですか?」

電話の向こうからは聞き慣れた野太い声が返ってきた。

《おう、シンジか?・・・どうした?》

「今家を出ました」

《十分に気を付けろよ、ウチの特務がガードしてるが・・・そいつはジオフロントまでだ》

「わかってます」

《いいかシンジ・・・もし、敵と向き合ったらトリガーを引くことをためらうなよ》

「降りかかる火の粉は払います」

《よし、その気概だ・・・・これから先何が起こるかわからん・・・最終的にお嬢ちゃん達を守るのはお前1人だ》

「覚悟しています」

《・・・・俺の言いたいのはそれだけだ、それじゃこっちで待っている》

「はい、先生も気を付けて下さい」

《ああ》





そして電話は切れる。

「シンジぃ?どこに電話してたの?」

「うん、本部にね」

「・・・・そんなにヤバいの?」

アスカが心配そうにシンジの顔をのぞき込む。

シンジはそれに微笑みで答える。

「大丈夫だよ、アスカと綾波は安全だから」

「なんで?」










シンジはその問いには答えず、厳しい視線を空に向けるだけだった・・・






































Booooo!Boooooo!



ハデに響きわたるアラーム。

非常事態を告げる警報だ。




「実験中断!回路を切って!」

リツコが間髪折れずに指示を出す。

零号機のおかれたハンガーと制御室が一瞬ブラックアウトし、制御室の方は非常灯の紅い光に包まれる。

《回路切り替え!》

《電源、回復します》

そのアナウンスと共に白色電灯の白い光が戻ってくる。





「問題はやはりここね・・・・」

マヤの眼前にあるディスプレイを眺めながらリツコが嘆息する。

「はい、変換効率が理論値より0.008も低いのが気になります」

「計測誤差ギリギリってトコね・・・・・」

「どうします?」

マヤが振り返ってリツコを見る。

腕を組み、3秒だけ考える。

「もう一度、同じ設定で相互変換を0.01だけ下げてやってみましょう」

「了解!」








「では、再起動実験・・・・はじめるわよ」







































《1小隊、配置完了》

《2小隊、配置よし》

《第3、いつでもいけます》



”大佐”のヘッドセットに、各班からの準備完了の知らせが入る。

「了解・・・」

そう言うと暗がりの中で振り返る。

「軍曹、本部班の準備は?」

上から下まで黒ずくめの軍曹が黙って右拳を突き出し、親指を上げる。

”大佐”は大きくうなずく。

「本部班、準備完了。全小隊待機に入れ」

それに対する各隊からの合いの手が入り、それきりインカムは沈黙する。

「軍曹、どうだ?」

「問題ありません」

軍曹は鋼のような体を揺らしながら答える。

「相変わらずだな・・・・だが、今回のミッション、かなりキツイぞ」

「元より覚悟の上です」

そう言って軍曹は肩から下げたXM−177E3のデコッキングレバーを思い切り引いて初弾を薬室に装填し、安全装置をかける。

それを見て本部班の兵士達がそれぞれの銃器に初弾を装填する。

”大佐”はそれを見て自らも腰に下げたガヴァメントのスライドを引く。

「大佐・・・脱出の手筈は?」

「手筈通りなら、CIAの連中がネルフの航空機を奪取して待機しているはずだ」

「それだけ・・・ですか」

「まあ、な・・・俺も色々考えるさ」

”大佐”のその言葉を聞いて、軍曹は頭からすっぽりと被ったフードの目だけを笑わせる。

「大佐を信頼していますから」

「恐縮だね・・・・さあ軍曹、もう一度チェックだ」

「はい、1小隊は陽動任務・・・エヴァンゲリオンに向かってまっしぐらに突き進みます」

本来なら、こういう仕事は軍曹の仕事ではない。

参謀役の尉官の仕事なのだが・・・・彼はデルタの最先任軍曹。

合衆国陸軍でもっとも優秀な軍曹の1人なのだ。

「格納庫まで到達できた場合は?」

「手持ちのC4(コンポジション4=プラスチック爆薬)を全て仕掛けて退避します」

「第2小隊」

「はい、ネルフの重要人物を拘禁します」

「逆らうようなら射殺してかまわん」

「はい・・・・そして第3小隊は、目標の捜索・確保を行います」

「本部班は?」

「指揮統制、それに予備隊任務です」

「よし・・・・皆わかってると思うがこのミッションはスピードが全てだ・・・予定時間を厳守しろ」

「了解・・・大佐」

「ん?」

「非戦闘員と遭遇した場合の交戦規定がありませんが・・・・いかがしましょう?」

「できる限り無視する。抵抗する場合や、やむをえない場合のみ、火力の使用を許可する」

「了解」






「さあ、待ち時間はもう少しだ・・・・・デルタの力、見せてもらおう」































ネルフ本部。

第2発令所。

ネルフの人間を立入禁止にしたここで自衛隊の人間達が忙しく立ち振る舞っていた。

「ふん・・・ここなら全体の把握もできるな・・・・おい、電源の確保はどうなってる?」

コンソールに座る男が答える。

「問題ありません、ネルフからの電源供給に加えて独自のラインを確保しました・・・・ですが、こんなもの必要になるんですか?」

「俺のアイディアじゃないさ。野分一佐の案さ」

「なるほど・・・」

ここは第1発令所が使用不能に陥った場合の施設だ。

むろん、装備に不備はない。

「中村ぁ!なにやってんだ、このカス!早くしろ!」

佐藤がメガネで坊主刈りの男をどやしつけている。

すでに佐藤は戦闘服に身を包んでいる。

メガネの男   中村三曹は表面上は言うことを聞く。

が本音は。

『畜生!いつか殺してやる!』

まあ、このコンビはいつもこんな感じなのであまり気にしないで欲しい。

「佐藤三佐殿、設置終わりました」

「遅いんだよ!このボケ!」

さらに悪態をつきながら中村がつけたスクランブラー(盗聴防止装置)をチェックする。



「バッドカルマからオメガ1・・・・感度チェック、」

雑音の向こうから声が帰ってくる。

《こちらオメガ1・・・感度良好》

「そちらの感度も良好・・・・オメガ7、聞いてるか?」

《オメガ7》

「小松・・・・準備は?」

《いつでも》

「了解・・・・”D・D”応答願います」

《こちらD・D》

「オメガ、配置完了です」

《了解・・・・俺はあちこち動き回る・・・・以後は突発事態が起こらない限り待機》

「バッドカルマ了解」

《オメガ1了解》

《オメガ7了解》

「さて・・・・忙しくなるぞ・・・」

佐藤が誰にともなくつぶやく。

「は?なんで忙しくなるんでありますか?」

中村がキョトンとして聞く。





ボカッ!





鋭い右アッパーが中村の顎に突き刺さる。

「あがっ!」

「おめぇは一体何しに来てるんだ?この馬鹿野郎!」







































ぽーん・・・・



静かな音を立ててエレベーターのドアが開く。


中にはミサトひとり。

「おーい!ちょいと待ってくれぇ!」

廊下の向こうから急いで走ってくる足音と、呼びかける声。

ミサトは躊躇無くドアを閉める・・・・・が、

「よいしょぉ!」

あとわずか、というところで腕を入れられて止められてしまった。



「チッ!」



「いやぁー・・・走った走った・・・こんちまたご機嫌ナナメだねぇ」

「アンタの顔見たからよ」




飛び込んできた加持は大げさに肩をすくめる。

















































「シンジ・・・・一体何が起こるの?」

第三新東京市からジオフロントへ直通する電車の駅まで歩く三人。

アスカがシンジの方を見るでもなく、ぽつりとたずねる。

「何かが起こるのは間違いない。でも、何が起こるのか、は・・・・正直僕にもわからない」

「そう・・・・」

そう言うと、いつもはしゃいでいるアスカさえ黙り込んでしまう。

「・・・・でも、さっき碇君、”人間”っていったわ・・・・」

レイが多弁だ。

「そう、人間さ・・・・使徒相手に戦うならなんの苦労もないよ・・・・人類共通の敵、ただ勝てばいい・・・・」

シンジにしては珍しく吐き捨てるようにつぶやく。

「・・・・・・・・・・」

「でもまあ、シンジが守ってくれるんでしょ?・・・・アタシ達のことは」

アスカがわざと明るく言う。

「ああ、もちろん」

「ひと安心、ひと安心!」

そう言ってアスカはシンジの右腕にしがみつく。

「・・・・・・・・・・・・・・」

レイも負けていない。

シンジの左手をぎゅっと握りしめる。







シンジは二人の存在を確かめながら、なるべく考えないようにしていたことを考えてしまう。












『・・・・・アスカと綾波は・・・・僕の”暗い部分”を見てもこうしてくれるだろうか・・・・・・・・・・・』











































「大佐、間もなくです」

「秒読みを開始しろ」

「はっ・・・・30秒前・・・・」

大佐はインカムを通じてカウントダウンをスタートしたことを各小隊に伝える。









「20秒前」










兵士達は銃器の安全装置を解除する。

大佐はいままで外していた黒いフードを取り、頭の上から被る。

軍曹は腕時計を見つめて静かにカウントを進める。













「10秒前・・・・・・・9・・・・8・・・・7・・・・6・・・」










誰かが生唾を飲む音が驚くぐらい大きく聞こえる。









「・・・5・・・」










戦闘服が擦れ合う音すら耳障りに聞こえる。













「・・・4・・・」














汗が出てきているのだろう、フードの下に手を入れて拭っている者もいる。











「・・・3・・・」









堅く目を閉じる者、胸の前で十字を切る者、様々だ。












「・・・2・・・」










もはや大佐の思考の中には成功や失敗といったことはなかった。

目の前の厄介ごとを片づける・・・・それだけだ.。














「・・・1・・・」












”心地よい緊張”

大佐はそれを十二分に味わっていた。

それに

『願わくばこの後、冷や汗をかくような状況になりませんように』とも。









「・・・・ゼロ・・・・・・」



















ネルフの一番長い日が始まった。
























NEXT
1999_01/24公開
ご意見・ご感想・ご質問・誤字情報・苦情(笑)などはこちらまで!




あ・と・が・き

みなさまこんにちわです。

P−31です。

第11話Bパートをお届けします。





え?・・・引っ張りすぎ?・・・・

ごもっとも(笑)

Dパートぐらいで収まるようにしたいなあ、というのが今の希望です(笑)

さて、次回からはいよいよドンパチです!

錯綜する思惑がうごめく本部内、

シンジは?アスカは?レイは?


Cパート、ご期待下さい






 P−31さんの『It's a Beautiful World』第11話Bパ−ト、公開です。





 いよいよ。

 いよいよ始まる−


 ネルフ側とアメリカ側の
 オメガとデルタの


 どちらも強者揃いだし、
 策士も兵もetc粒ぞろいで。。

 うむむむむ

 どうなるんだろう。
 どうなっちゃうんだろう。。



 とにかく
 シンジにはガンバって、がむぶぁって欲しいのですぅぅぅ





 さあ、訪問者のみなさん。
 初のCパート突入 P−31さんに感想メールを送りましょう!




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