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「かまいません・・・・それも現実の一つ、ですよね?」

そんな言葉を笑顔と共に言われてはミサトとしても引き下がるしかない。

「じゃ、行きましょうか」

「はい!」








シンジ達が向かうのは”東京”という名で知られた夢の残骸・・・・・・・・











It’s a Beautiful World
第7話「輝望」
(B−part)

















シンジ、ミサト、リツコ。三人の乗るヘリコプターは旧東京にさしかかろうとしていた。

「・・・・ここがかつて花の都と呼ばれていた大都会とはね・・・・」

ゴツいヘッドセットを着けたミサトが感慨深げにいう。

シンジとリツコもヘッドセットを着けている。

騒音に満ちたヘリコプターの内部はこれを着けないと会話ができないのだ。

そして三人の目の前に広がる光景は・・・・

海の中から飛び出している高層ビルもあれば、なかほどからポッキリと折れているビルもある。

そして市街地のほとんどは水面下に沈んでいる・・・・

第28放置区域。

セカンドインパクト・・・・というよりその後の世界的な混乱によって完膚無きまでに破壊された旧首都のなれの果てだ。

反応弾を3発も放り込まれたらどんな都市でもこうなってしまうだろうが。

旧都心部は、海から近いというのがそれに拍車を掛けた。

今では東京湾はセカンドインパクト前の5割り増しの面積になっている・・・・

「本当にここに1000万の人が住んでいたんですか・・・・」

シンジが恐ろしい物を見たようにいう。

「ええ・・・・人口の一極集中の典型例・・・・そのツケがセカンドインパクトで取り立てられたってワケよ・・・・生き残ったのは1000人もいなかったらしいわ」

「・・・・・・」

「そろそろ着くわよ」

リツコが声を掛ける。

眼下には広大な施設群が見えている。

「なにもこんなところでやらなくてもいいのに・・・・」

そう言うとミサトは少し顔を引き締める。

「で、その計画・・・・戦自は絡んでるの?」

「戦略自衛隊?・・・・いえ、介入は認められず」

「どおーりで好きにやってるわけね・・・・」

三人の乗るヘリはゆっくりとヘリポートに着陸する。
















「本日はご多忙のところ、我が日本重化学工業共同体の実演会にお越し頂きまことにありがとうございます」

”祝JA完成披露記念会”と書いてある横断幕の下で、中年男が満面に笑みを浮かべている。

胸には大きなネームプレートがあり、「主任開発責任者 時田」とある。

ほかのテーブルは人で埋まっているが、ネルフ御一行様、とある大きな丸テーブルには三人しかいない。

テーブルにはビール瓶が何本か置いてあるが、シンジはともかくミサトもリツコもミネラルウォーターしか口にしていない。

「皆様にはのちほど管制室の方にて公試運転をご覧頂きますが・・・・ご質問のある方はこの場でどうぞ」

「はい!」

間髪を入れずリツコが手を挙げる。

「これは、ご高名な赤木リツコ博士。お越し頂き光栄の至りです」

時田の口調にはわずかに含みがある。

「質問を、よろしいでしょうか?」

「ええ、ご遠慮なくどうぞ」

「先程のご説明ですと、内燃機関を内臓とありますが」

「ええ、本機の大きな特徴です。連続150日間の作戦行動が保証されております」

「しかし、格闘戦を前提にした陸戦兵器にリアクターを内蔵することは安全性の面から見てもリスクが大きすぎると思われますが」

「5分も動かない”決戦兵器”よりは、役に立つと思いますよ」

「遠隔操縦では緊急対処に問題を残します」

ミサトはそんなやりとりを傍目で見ながらストローで遊んでいる。

「パイロットに負担を掛け、精神汚染を引き起こすよりは人道的と考えます」

「よしなさいよ。大人げない」ミサトが珍しくまともな意見を口にする。

「人的制御の問題もあります」

「制御不能・・・・暴走する可能性も含んだ危険きわまりない兵器よりは安全だと思いますがね・・・・制御できない兵器などまったくのナンセンスです。ヒステリーを起こした女性と同じですよ、手に負えません」

それを聞いて周りの招待客達が笑いを漏らす。

ネルフは決して好かれやすい組織ではない。

「その為のパイロットとテクノロジーです」

「まさか、科学と人の心があの化け物を抑えるとでも?本気ですか?」

「ええ。もちろんですわ」

「人の心などという曖昧なモノに頼っているからダメなんですよ、ネルフは・・・・損害の多いあの化け物に頼る、その結果国連は莫大な追加予算を迫られ、某国では2万人を超える餓死者を出そうとしているんです・・・・せめて、責任者としての責務はまっとうして欲しいものですな。よかったですねえ・・・・ネルフが超法規的に保護されていて。あなたがたはその責任をとらずに済みますから」

「なんと仰られようと、ネルフの主力兵器以外、あの敵性体は倒せません!」

だんだんリツコの口調も荒くなってくる。

「A・Tフィールドですか?・・・・・・・・それも今では時間の問題に過ぎません・・・・いつまでもネルフの時代ではありませんよ」

リツコは少しだけ悔しそうに下を向いている。

そのやりとりを黙って聞いていたシンジが手を挙げる。

シンジは本気で腹を立てていた。

別にネルフがコケにされようとシンジには関係ない。

だが、リツコを嘲ったことは許せない。

「おや、あなたが碇博士ですね?お名前は伺っていますよ」

時田の口調はやはり嘲りが多分に含まれている。

「質問を元に戻します・・・・そのロボットの安全性は?」

感情を殺した、冷たい声。

時田はちょっとひるむが、”子供に舐められてたまるか”と自分で言い聞かせる。

「安全性ですか?・・・・我々が保証します。安全については完璧な処置をしています」

「あなたに保証されてもどうにもならないんですよ」

「!・・クッ・・・」

「スリーマイルやチェルノブイリを作った人達もそう考えていたでしょうね」

どちらもセカンドインパクト前の大規模な原発事故の起きたところだ。

「あのころとは使われている技術が違います!・・・・そんなことは起こりません!」

時田は声を荒げる。

「だから、あなたがそんなことを言っても何の気休めにもならないんですよ・・・・人間が造る物で100%など無いんですから」

「いや!JAは100%安全だ!」

言葉から敬語が無くなっている。

「ふうー・・・・」

シンジは深いため息をつく。

「守られる方のことも考えて下さい・・・・・反応炉を積んだロボットが走り回って安心できる人がいますか?・・・・そうでなくてもこの国は核アレルギーなんですから」

「クッ!!・・・」

「敵が大きな運動エネルギーを叩き込むというのにその中に反応炉を据えるのは正気の沙汰じゃないですよ・・・・もし仮に炉自体が打撃に耐えられたとしても、周辺の配管類はそうはいかない。配管に亀裂が入ってたっぷりと放射能を浴びた冷却水が漏れだしたらどうします?・・・・ネルフの決戦兵器に優位に立とうとしてそんな選択をしたんでしょうが、用兵側から言えば物騒すぎて使う気にはならないんじゃないですか?」

「フン!・・・・じゃあその”用兵側”に聞きましょう・・・・自衛隊から来られている方!」

男が声を張り上げると、会場の一番隅っこで座っていた壮年男性が手を挙げ、マイクが渡される。

『先生!!』

そこにいたのは制服を着込んだユウジだった。

ミサトとリツコも振り返って驚いている。

本人を見るのは初めてだからだ。

「陸上自衛隊、一等陸佐の野分ですが・・・・なにをお尋ねですかな?」

「このガキに言ってやってください!・・・・自衛隊に採用が内定されていると!」

時田は機密事項を口に出す。

「は?・・・・そんな話は初耳ですな」

「そ、そんな!!」

「まあ、自衛隊で採用するのはムリでしょう・・・・彼が言ったように我が国には拭いがたい核への不信感があります。遙かな昔、反応炉で動くフネを造っただけで国を巻き込んだ大論争になったらしいですからな・・・・兵器体系に核を組み込むのは不可能ですよ」

壇上の時田はがっくりときている。おそらく防衛庁の下っ端とは話がついていたのだろう。

「まあ、公試運転は拝見させてもらいますがね」

ユウジはシンジの方を向いて笑う。

シンジもそれに笑顔で答える。























「あー!スーッとした!」

控え室に入るなりミサトがいう。

「シンちゃん、格好良かったわよ?・・・・あのいけすかないヤツこてんぱんにやり込めて!」

そう言われるとシンジは少しはにかむ。

「いや、あんな事言うつもりじゃなかったんですけど・・・・リツコさんがバカにされてるの見たら、我慢できなくて」

それを聞いたリツコは赤くなる。

「ありがとう、シンジ君・・・・助かったわ」

「あれぇー?・・・・リツコぉー・・・なんで顔が赤いのかなぁー?」

ミサトがここぞとばかりにからかう。

「ミ、ミサト!・・・・私はただ・・・」

「はいはい、わかってますよぉー」

まともに取り合わないミサト。

「もう!ミサト!」

「僕ちょっとトイレに行って来ます」

「あ?・・・場所わかる?」

「わからなければ誰かに聞きますよ」

そう言うとシンジはかしましい部屋から脱出する。

「ふう・・・・でもシンちゃんを連れてきたのは大正解だったわね」

「・・・・かもね」

リツコの少し含みのある答えに眉をひそめ、問いただそうとしたときにドアがノックされる。

「?・・・・どうぞ」

ドアが開かれるとそこには濃緑の制服を身につけたユウジが立っていた。

「「!!」」

「失礼・・・・邪魔させてもらうよ・・・・ん?シンジは?」

「あ、ああ・・・・今トイレに・・・・」

「ふむ・・・まあいい。用があるのはアイツじゃないしな」

「?」

「実際に顔を合わすのは初めてだったな・・・・あらためて、私が野分だ。よろしく」

「じゃあこちらも・・・・私がネルフ作戦部長、葛城ミサトです。こっちは・・・・」

「赤木リツコです」

「・・・・ネルフは美人が多いのか?・・・・転職先の第1候補だな」

ユウジは少し笑いながら世辞をいう。

二人とも世辞とわかっていても悪い気はしない。

「まあ、今日は顔見せみたいなモンだが・・・・ひとつだけ重要なことを言いに来た」

「「・・・・・・・・」」

「陸海空自衛隊・・・・というよりもそれを含めた日本政府はネルフに協力する用意がある・・・・それだけだ」

「・・・・どういうことですか?」

ミサトが尋ねる。

確かに、今まで”胡散臭い組織”と公言していた日本政府の対応ではない。

「なに、政府の連中にも現実が見えてきたってところだろう」

『絶対にそれだけじゃない・・・・この男が裏で画策している・・・・』

ミサトの予想は半分当たっているのだがそれは別の話。

「協力、とは?」今度はリツコが尋ねる。

「まあ、細々したことは政府の連中に言えばいい・・・・自衛隊としては出来ることはあまりないな、情報の交換ってところか・・・・今の苦労に加えて通常部隊の指揮なんてしたくないだろう?」

「ええ・・・・確かに」

エヴァの指揮、ジオフロント・第三新東京市の管理、etc・・・・やることは山ほどある。

「まあ、餅は餅屋・・・・こっちの部隊はこっちに任せてもらおう・・・・戦自はまた別だがな・・・・あそこは国連軍の丁稚みたいなもんだ・・・・・ところで、話は変わるが・・・・アメさんの動きは耳に入ってるだろうな?」

「アメリカ、ですか・・・・ええ、一応は・・・・」

「そうか・・・・・・考え方はバカの一言に尽きるが・・・手足となって動く連中は超一流だ。気をつけた方がいいぞ」

「・・・・・・」

「まあ、俺達も国の中で勝手な真似はさせんがね」

「「!」」

「じゃ、何か動きがあったらまた連絡する。そちらも何か掴んだらこっちに一報してくれると嬉しいんだがな」

「わかりました・・・・ネルフ本部発令所と統合幕僚会議のホットライン・・・・それに非公式なチャンネルを設けておきます」

「助かるよ・・・・シンジに遊びに来いと伝えてくれ・・・・それじゃ」

ユウジは最後にそう言うと、部屋から退出する。

「ふうー・・・・・」大きくため息をつくミサト。

「大した人ね・・・・」リツコが率直な感想を漏らす。

「確かに・・・・底が見えないわね・・・・」

そんな中、シンジが戻ってきてユウジと話せなかったことを残念がると共に今度会いに行こうと考えていたのだがそれは次の話。






















「これよりJAの起動テストを行います」

先程の男がマイクを通して居並ぶ客達にいう。

ここはJAの管制室(というには少し広すぎるが)。

前面の大型スクリーンにはJAの姿が映し出されている。

「なんら危険はともないません。そちらの窓から安心してご覧下さい」

それを聞いてシンジはわずかに笑う。

それは、普段ミサトやリツコに見せる笑みではなく、嘲笑とでも呼ぶものだった。

《起動準備よろし》

「テスト開始」

《全動力解放、圧力正常・・・・制御棒全開へ》

《出力、問題なし》

「歩行開始!」

時田は自信満々で号令を掛ける。

「歩行、前進微速・・・・右足前へ」

時田の部下がコンソールを操作する。

『いざ戦闘になってもこんな悠長なことやるつもりなのかなあ??』

シンジの正直な感想である。

一応、JAは動いた。

右足を一歩前に出している。

おおお・・・・

観客のどよめきが時田の自尊心をくすぐる。

「バランス正常、動力異常なし」

その報告を聞いて時田はシンジに軽蔑のこもった一瞥をくれる。

『見たか!我々のJAは完璧だ!』とでも言いたげな。

「了解。引き続き左足前へ、よーそろー」

JAは管制室からの操作を受けて段々と歩行スピードをあげる。

「へーえ・・・・ちゃんと歩いてる・・・・自慢するだけのことはあるようね」

「・・・・・・・・・」

ミサトの呟きにリツコは黙ったまま何も答えなかった。

Piii−−−−−−−!

するどい警告音。

「どうした?」

「変です・・・リアクターの内圧が上昇していきます!」

「一次冷却水の温度も上昇中!」

「バルブ解放!・・・減速剤を注入」

「ダメです!ポンプの出力が上がりません!」

モニターに写るJAはどんどん大きくなる。

「いかん!・・・動力閉鎖!緊急停止!」

《停止信号発信を確認・・・・・・・・受信されず!》

《無線回路も不通です!》

コンソールに座る部下が事態を要約した報告をする。

「制御不能!!」

「・・・・そんな馬鹿な・・・・」

時田がそう呟く間もJAは歩き、とうとう天井を踏み抜いて管制室を破壊する。それでも歩みは止めない。

「けほっ・・けほっ・・・・・造った人に似て礼儀知らずなロボットね!」

Buuu−−−−−−−−!

先程の警告音よりも大きい音が響く。

コンソールのディスプレイには”DANGER”の文字が浮かぶ。

「加圧値に異常発生!」

「制御棒、作動しません!・・・・・このままでは炉心融解の危険があります!」

「・・・・・し、信じられん・・・・JAにはあらゆるミスを想定しすべてに対処すべくプログラムは組まれているのに・・・・この様な事態はあり得ないはずだ・・・・」

「だけど今、現に炉心融解の危機が迫っているのよ!」ミサトが声を張り上げる。

「こうなっては自然に停止するのを待つしか方法は・・・・」

ミサトの隣に歩み寄ったシンジが口をあける。

「自動停止の確率は?」

「0.00002%・・・・まさに奇蹟です・・・・」

「奇蹟を待つほど信心深くないんですよ・・・・停止手段を教えて下さい」

「方法はすべて試した・・・・」

「まだあるでしょうが!?・・・・すべてを白紙に戻す最後の手段が!・・・・そのパスワードは?」これはミサト。

「・・・・全プログラムのデリートは最高機密・・・・私の管轄外だ・・・・口外の権限はない」

シンジとミサトは口を揃える。

「「だったら命令を貰(ってください!)いなさい!今すぐ!!」

それから時田はあちこちに電話を掛けまくった。

もはや彼も自分のプライド等はかなぐり捨てている。

だが、官僚達はとばっちりを食うのを恐れてたらい回しに終始しているようだ。

それでもなんとか文書を書かせるのには成功したようだ。

「今から命令書が届く。作業は正式なものだ」

「そんな、間に合わないわ!爆発してから何もかも遅いのよ!?」

《ジェット・アローンは厚木方面に向けて進行中》

「時間が無いですね」

「そうね・・・・」ミサトは振り返り、時田を見る。

「これより先はネルフの・・・・いえ、私の独断で行動します・・・・あしからず」








「あ、日向君?・・・・厚木にナシつけといたから、レイと零号機をF装備でこっちに寄越して・・・・そ。緊急事態」

電話をしながら着替えようとするミサトをシンジが制止する。

「ミサトさん、何する気ですか!?」

「なにって・・・・あの爆弾ロボットに直接乗り込むのよ」

シンジはそれを聞くとつかつかとミサトに歩み寄ってその腕をしっかりと掴む。

「ミサトさん・・・・作戦を指揮する立場の人がそんなことしちゃダメですよ・・・・」

ミサトはシンジの温かい手に触れて少し赤くなるが、

「で、でも・・・他に人が・・・・」

「ここにいるじゃないですか」

「え?」

シンジはにっこりと笑う。

ミサトはその笑みを見て、シンジの言葉の意味する事に気付く。

「だ!駄目よ!!・・・絶対ダメ!!・・・・シンジ君にそんなことさせられるワケないでしょう!?」

「大丈夫ですよ・・・・死にに行くワケじゃないんですから」

「でも!!」

「これが最良の選択です」

「・・・・・・・・」

それまで黙って部屋の壁にもたれかかっていたリツコが口を開く。

「無駄よ・・・・おやめなさい・・・・」

シンジはリツコを見てやはりにっこりと笑う。




「やる事やっとかないと、寝覚めが悪いじゃないですか」






「本気ですか・・・・」

無惨な姿になった管制室で、時田とシンジ、ミサトが対峙していた。

「ええ」ミサトは軽く言う。

「しかし・・・・内部は汚染物質が充満している・・・・危険すぎる!」

「うまくいけば、みんな助かります」

放射能防護服を着込んだシンジが諭すようにいう。

隣のコンソールでは、時田の部下が防火斧を振り上げてコンソールに叩き込む。

「ここの指揮信号が切れると、ハッチが手動で開きます」

「バックパックから内部に侵入できます」

「ありがとうございます・・・・・・・・ミサトさん、行きましょう」

「そうね・・・・」

「希望・・・・」二人がきびすを返そうとしたとき、時田がぼそりという。

「「?」」

「プログラム消去のパスワードだ・・・・」

「ありがと」ミサトは言い、

「じゃ、行ってきます」シンジはさも簡単そうに返す。









「目標はJA・・・・5分以内に炉心融解の危険があるの。だからこれ以上目標を人口密集地に近づけるワケにはいかないわ」

50分で本部から零号機が到着し(緊急展開の新記録を作った)レイも交えて作戦打ち合わせを行った。

「綾波にアイツを足止めしてもらってる間に乗り移るしかないでしょうね」

EVA輸送用超大型全翼機のブリーフィングルーム。

シンジがJAの図面を睨みながらいう。

「そうね・・・・でもどうやって?」

「ヘリコプターからロープで降下するしかないでしょうね」

「なんだったら零号機に運んで貰う?」

「ちょっとツラいでしょうね・・・・細心の注意を払っても機体が大きく振動するのは避けられないでしょうし・・・・自衛隊のヘリコプターを借りますよ・・・・」

「自衛隊?・・・・ひょっとして・・・・」

「ええ、先生が協力してくれるそうです・・・・さっき電話で話しました」

「そう・・・・ならそっちはいいわね・・・・」

「じゃあ、ミサトさん・・・・結論をお願いします」あくまで指揮はミサトにとらせようというシンジの心配り。

「うん・・・・レイは零号機搭乗、できるだけ目標の足止めをしてちょうだい」

「了解」

「シンジ君は・・・・ヘリで目標を追尾しつつ機会を見て移乗、そして目標の緊急停止」

「はい」

「私と日向君は空中で指揮に専念します」

ミサトとしてはこんな危険な役目をシンジにやらせたくはないが、指揮の本道を問われては致し方ない。

「じゃ、張り切っていきましょう!」














《エヴァ、投下位置》

輸送機からレールで後方に引き出される零号機。

高度は1000m。

これほどの大型機にはかなりの低高度だ。

「エヴァ零号機降下準備よし」

レイが冷静に報告する。

「了解」機内のミサトがそれを受ける。

《こちらシンジです・・・・現在目標上空に滞空中。いつでもいけます」

JAから少し離れた空中に”陸上自衛隊”と書かれたオリーブドラブの軍用ヘリが舞っている。

「了解・・・・すぐにレイを降ろすわ、少し待ってて」

《了解》

「降下秒読み120秒前、よろしいか」マコトがインカムを通してレイに呼びかける。

「120秒前より開始、よろしい」

「零号機、秒読み開始」

その声と共にレイの眼前にあるモニターの片隅に120という数字があらわれ、徐々に減っていく。

「85秒前・・・・秒読み進行中・・・・目標は依然高速で厚木方面に向け移動中・・・・反応炉内圧上昇中・・・・45秒前・・・・降下予定地点は目標の前方300m・・・・目標の運動エネルギーは零号機で十分押さえられる数値・・・・15秒前・・・・それじゃレイちゃん、がんばって・・・・ロック解除・・・・9・・・8・・・7・・・6・・・5・・・4・・・エヴァ零号機降下せよ」

「降下します」

零号機は輸送機から切り離され、白い水蒸気をたなびかせながら落下。予定通りJAの前方300mに着地する。

「零号機降下完了・・・・これより目標の進行を可能な限り阻止します」

零号機は突進してきたJAをその腕でしっかりと受け止める。

勢いがあるため、零号機は脚を地面にめり込ませるが阻止には成功する。

しかしJAはまだ前に進もうとしている。

両腕をブンブン振りながら零号機に力をかける。

「今よ!!」

ミサトの声と共にシンジが乗るヘリは急降下してJAの直上につける。

シンジはヘリのドアを開けて、JAの背部のちょうど平らなところにロープを垂らす。

次は防護服の腰回りにつけられたバンドのカラビナにロープを装着する。

左手は顔の前あたりに、右手はちょうどお尻に近いところにまわす。

そしてヘリのキャビンにいるユウジにサインを送る。

ユウジも笑って右手の親指を立てる。

そしてJA目がけて降下する。

降下スピードを右手で調節しながら、姿勢を保ちつつ揺れ動くJAに降り立つ。

カラビナからロープを外し、OKのサインをヘリに送ると、ヘリはゆっくりとJAから離れていく。

それを見送る間もないまま、シンジは背面のハッチにとりつく。

そしてハッチ横のコンソールを操作してハッチを開放する。

すると、熱気と共にハッチは開いた。

《あと4分少々よ!急いで!》ミサトの声が防護服のヘルメットに響く。

「了解!」

シンジは迷路のような内部をブリーフィング通りに進み、”非常用手動制御室(主)”と書かれた所に出る。

パンチで保護カバーを割りながらスイッチを押すと、ドアが開いた。

中に入るシンジ。

中には中央に制御用コンソール、周りには減速剤注入用の制御棒が林立していた。

事前に渡されたカードをスリットに通し、コンソールを使用可能状態にする。

いくつかの操作をして、パスワードの入力画面をディスプレイに出す。

なんの迷いも見せずに”希望”を入力してエンターキーを押す。

Piii−−−−−−−!

「エラー!?・・・どうして・・・?」

一瞬、時田が嘘を教えたかと思ったが、そんなことをしても彼に得るところはない。

かえってマイナスになる。

何回”希望”を入力してもOSは受け付けない。

不審に思ったシンジがプログラムのチェックをおこなう。

「!・・・・プログラムが書き換えられてる!!」

シンジは呆然となりそうな自分を奮い立たせる。

「あと3分と少し・・・・間に合うか?」

そう呟くとシンジは大急ぎでプログラムの書き換えを始める。













外ではレイが孤軍奮闘していた。

JAを押し返しつつ、噴き出してきた蒸気を手で押さえる。

だが蒸気はそこかしこから噴き出してくる。

「ダメ・・・・碇君・・・・逃げて!」

焦りと共にレイは叫ぶ。

レイが感情をここまで露わにするのは大変珍しい。

これも”変わってきた”証拠だろうか?

レイは自分がどんな表情をしているか気付いていない。










「ん?・・・・・なんだ?このプログラム・・・・?」

シンジがプログラムの検索をしていると、おかしな箇所を見つけた。

「Timing・・・Stop・・・Program・・・・・・・・時限停止プログラム??・・・・・っていうことは何もしなくてほっといても・・・・」












「臨界まであと0.1!・・・・ダメです、爆発します!!」

「・・・・駄目か・・・・」



「碇君!!」

「シンジ君!!」

ミサトが、レイが、時田が絶望と諦観を感じた次の瞬間、まずシンジの周りの加速剤注入用の制御棒が壁の中に入り、次いでJAの上部の反応炉の制御棒6本が降りる。








「やった!・・・・内圧ダウン!」

「すべて正常位置!」

管制室には歓声が起こっている。

無理もない、チャイナ・シンドローム一歩手前から正常に復帰したのだから。

だが、そんな中一人リツコは浮かない顔をしている。

「・・・・・・・・・・」









《碇君、碇君!?》

《シンジ君!シンジ君!!》

レイとミサトがそれぞれシンジを呼びかける。

「大丈夫だよ・・・・綾波・・・・それにミサトさん・・・・」

それを聞いた二人は安堵のため息をつく。

「よかった・・・・ホントに大丈夫ね?・・・・・・・・・・でもすごいわ、奇蹟は起きたのね!」

ミサトが少し興奮気味に話す。

レイは自分がこれほどまでに取り乱したことに今更気が付いて顔を赤くしていた。

「奇蹟はあんまり信じないタチなんですがね・・・・」

シンジは心の中だけでそれに付け加える。

『特に、こんな作為的な奇蹟はね・・・・・・・・』






















「零号機の回収は無事終了しました・・・・汚染の心配はありません・・・・・・・・葛城一尉とシンジ君の行動以外はすべてシナリオ通りです」

「・・・・ご苦労・・・・」










生きている限り、人間は朝を迎えることから逃れることは出来ない。

生きている人間の責務である。

コンフォートマンションの葛城家もいつもと同じような朝を迎えていた。

シンジはトーストを頬張り、

ペンペンは鯵の開きを丸飲みする。

そしてこの家の主は、というと・・・・

「・・・・おふぁよ・・・・」

上はタンクトップ一枚、下は短パン・・・・世の男どもが見たら驚喜する姿である。

そしてここにも男性が一人・・・・

「ミサトさん・・・・お願いしますから寝るときはパジャマを着て下さい」

シンジの懇願をミサトは手をひらひらさせてかわすと、冷蔵庫からビールを取り出してテーブルにつく。

ぷしゅっ!

ごきゅっ・・・ごきゅっ・・・んぐっ・・・んぐっ・・・・

朝のひとときとは思えない音が響く。

「ぷはぁー!!くうぅー!!・・・朝一番はヤッパこれよねえー♪」

ミサトの一連の行動をシンジはにこにこしながら眺めている。

『僕が守りたいのは人類の平和なんかじゃない・・・・こんな普段の生活が守りたいんだ・・・・それに綾波やミサトさん、リツコさん・・・・僕に関わる人達は絶対に守りたい・・・・・・・・やっぱり傲慢かなあ?』

自分で自分の考えが傲慢と思えれば大したものである。

「シンちゃーん?・・・どしたの?・・・・鈴原君と相田君、迎えに来てるわよ?」

「あ、いっけない!・・・・ミサトさん、行ってきます!」

「はい、行ってらっさい」

シンジは慌ただしく身支度をすると、玄関に行こうとするが、ふと何かに気が付いたようにミサトに近づく。

「ミサトさん・・・・いつも心配や迷惑ばかりかけてごめんなさい・・・・・これは僕のお詫びとお礼です」

「え?」

Chu!

シンジは電光石火の早業でミサトの頬に唇をつけると(といっても触れるか触れないか、という程度だが)駆け足で玄関に向かう。

さすがのシンジも顔を赤くして、ミサトに挨拶したいトウジとケンスケを押し出すようにして登校していった。

ミサトはというと・・・・

顔をゆでだこよりも赤くして、椅子に座ったまま後ろにひっくり返ってしまった・・・・

14歳にしてジゴロ真っ青のテクニックを発揮する少年、碇シンジ。

本人にそうした意図がまったく無いのがまた恐ろしい。












「なあ、シンジ・・・・」前を歩くケンスケが呼びかける。

「ん?・・・なに?」

「希望、抱いてるか?」

「ま、また唐突だねえ・・・・」

「なんや、ケンスケ・・・詩人の仲間入りかあ?」

「いや、さ・・・・最近希望を抱くようなことが無いなあって思ってさ・・・・」

「ワシは抱いとるでえ!・・・・昨日よりも今日、今日よりも明日をいい日にする、ゆうてな!」

「楽観的だな、トウジは・・・・単純なのかな?」

「誰が単細胞やてえ!?」

「誰も言ってないだろ・・・・んなこと・・・・で?・・シンジはどうなんだよ」

「僕?」

「そう、オマエだよ・・・・こう言っちゃ悪いが、シンジは過酷な生活送ってると思うんだよ・・・・そのシンジがどう考えてるのかな、とね」

「うーん・・・・僕は・・・・」

「・・・・・・」

「僕は希望は抱かない」

「やっぱり・・・・」

「まあ最後まで聞いてよ・・・・僕は希望に頼らない、絶望もしない・・・・希望と絶望、どちらかに(あるいは両方にかな?)頼れという誘惑はいつも頭の中にあるけど、絶対にそうならない・・・・そう決めてるんだ」

「???・・・・よーわからんが、シンジも色々考えとるんやのー」

「・・・・・・・ありがとう、シンジ・・・・」

「こんなのでよかったの?」

「まあ、参考にはなるさ」















希望も、絶望も抱かない14歳の少年・・・・彼を中心に物語は回り続ける・・・・・・








NEXT
ver.-1.01 1998+08/28
ver.-1.00 1998+08/29
ご意見・ご感想・ご質問・誤字情報・苦情(笑)などはこちらまで!



あ・と・が・き

みなさまこんにちわです。

P−31です。

長かった・・・・(笑)

いや、このBパート自体も今までで最長ですが・・・・

やっとプロローグが終わったという気がします。

これから先が本編と言ってもいいでしょう。

なんせ次はあの方もご登場しますし(爆)

次回は少し間を置くことになると思います。

じっくりと煮詰めたいので(笑)

ちなみに、作中最後に出てきた「チャイナ・シンドローム」とは、もしアメリカで原子炉融解の最悪の事故がおきた場合、その熔けだした物質は地球を貫通して反対側の中国に飛び出るだろうというブラックジョーク(なのか?)だったと思います。

では、待望の第8話でお会いしましょう(ひょっとしたら外伝が間に入るかもしれませんが)。


次回予告ぅー






『ドイツのヴェルヘルムスハーフェンを出港し、一路日本へと向かうエヴァ弐号機とそのパイロット』

『やたらと勝ち気なその少女に2バカの二人は痛い目に遭う』

『そして、突然の使徒襲来は起動した弐号機に初の水中戦闘を強いる』

『果たしてシンジは間に合うのか?』

『次回、「サンシャイン・ガール」』

『お楽しみにね♪』






 P−31さんの『It's a Beautiful World』第7話Bパ−ト、公開です。






 よっしゃ〜

 時田を言い負かしているぞ(^^)


 私、嫌いなんすよ、”(笑)”の嘲笑口調でしゃべる奴。

  # 掲示板とかでもたまに見かけるでしょ
  #
  # 自称”シニカルな皮肉屋”
  # 実際”只のイタイ嫌味ん”
  #
  # 嫌いなのよ〜(^^;

 なので、時田はんのニヤニヤ笑いが凍り付く様を読みながら・・・

 ニヤニヤわらってたりして(意地悪爆)



 ギャグ物の時田んはいい味なんだけどね。
 シリアス物の時田リンがこういう目に会っているのって、めズラしか〜





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