「・・・・その時は、全てを話す。我々がなぜこんな事をしているか・・・・我々がしなければどういうことになるのか・・・・」
「・・・・・・・・・ユイ君の事もか?・・・・」
「ええ・・・・全てを明かしますよ、冬月先生・・・・」
冬月には、ゲンドウがかすかに笑うのがわかった。
「つらいな・・・・」
「・・・・・・・・・・」
二人はしばらく黙り込み、それぞれに何かを考えるようだった・・・・・・・・
「それじゃ、かんぱーい!!」ミサトの脳天気な声が部屋に響きわたり、パーティーが始まる。
参加者は、シンジとミサトの他にリツコ、マヤ、日向に青葉(男二人は力仕事担当)。
そしてトウジとケンスケ。
それにレイ。
実はここに来る前に、マコトが口を滑らせてパーティーの事を喋ったため、女性職員多数が『参加したい』と言ってきたのだが、
『この人数じゃ、本部の大会議室でもムリね。ホテルでも借り切らないと』というリツコの現実的な助け船のお陰で内輪でのパーティーとなったのだ。
一応、名目はトウジとケンスケがいるのでシンジ歓迎会ということになっている。
シンジ、トウジ、ケンスケが掲げたグラスの中身はもちろんジュースだ。
ミサトはちょっとだけアルコールを混ぜようとしたが、マヤに見つかってこっぴどく叱られた。
「どうだった?お父さんと何話したの?」ミサトが豪快にビールをあおりつつシンジに尋ねる。
シンジはちょっと微笑むと、
「いや・・・・僕は大したことは話してませんよ。それに父さんはべらべら喋るようには見えないでしょ?」
「ま、それもそうか」妙に納得してしまうミサト。
「でも・・・・10年以上離ればなれだったんでしょ?・・・・」マヤが”なぜ?"という感じで聞く。
「この前実際に見たときに思い出しましたよ。父さんの顔」
「だったら・・・・」親子の会話があってもいいでしょう?マヤはそう言いたかったが、さすがに口にするのはためらわれた。
「いいんですよ・・・・僕も父さんも、かえってこっちの方がすっきりしますよ・・・・」
部屋の中が少し静かになる。
シンジがふとレイを見ると、じっと彼を見つめていた。
シンジは素早くその表情に何が表れているか読みとろうとする。
『無感情?・・・・いや、違うな・・・・なんだろう?・・・・疑念?・・・・疑問?・・・・つまり、僕が何者なのか解らないってコトかな?』
そこまでの思考を1秒以下の時間で進めたシンジはレイに微笑みかける。
レイはそっぽを向いてしまったが。
『・・・・彼女には慎重に接しないといけないみたいだな・・・・』
そんなシンジの横では、リツコがミサトの横腹を肘でつついていた。
ミサトがリツコを見ると、無言だがその瞳が、
『あなたが企画したパーティーでしょ?なんとか場を盛り上げなさい!』と言っている。
「あ、うん・・・・そーだ!自己紹介しましょ!・・・・シンジ君やこの二人は私達のことよく知らないでしょうしね」
ミサトはかなりわざとらしく声を上げる。
そして瞳がそれに付け加える。
『部外者がいるから最小限でね』
オペレーター三人衆は微かに頷く。
「んじゃ私から・・・・葛城ミサト、ネルフで作戦部長なんてやくざな仕事してるわ・・・・よろしくね」
シンジは当然知っているからトウジとケンスケに向けたものだ。
「私は赤木リツコ、ネルフの技術部に所属してるわ」
リツコは淡々と話す。
「えっと、伊吹マヤです。オペレーターですけど、先輩・・・・違った・・・赤木博士のお手伝いもしています」
マヤは言い間違えると、ちょっと舌を出して笑う。
その仕草が隣にいるメガネとロン毛に多大な影響を与えている事を彼女は知らない。
「日向マコトです。作戦部所属ですけどオペレーターもやってます」
「青葉シゲル、オペレーター一筋です」
この二人は省略。
そして次にケンスケが立ち、
「相田ケンスケ、第壱中学校の二年生です。趣味はコイツです」
ケンスケは右手に持っているカメラを示す。
そしてトウジも立ち上がる。
「鈴原トウジ、同じく第壱中学校、二年生ですわ・・・よろしゅう」
トウジはそう言うとすぐに座る。
さすがの彼も殴り飛ばした人間の家でくつろぐのはなかなか難しいらしい。
だが、シンジは彼に殴られたなどおくびにも出さない。
トウジはシンジに言いたい事があったが、これだけ人がいてはそれもままならない。
「碇シンジです。この前ここに転がり込んだばっかりで右も左も解りませんが、よろしくお願いします」
「綾波レイ・・・・14歳・・・・中学生・・・・」
レイの自己紹介は極めて簡単だ。
だが、以前からレイを知るミサトやオペレーター達、特にリツコは驚いていた。
『誰からも”命令”されていないのに自分から・・・・』
一体以前はどういう状態だったのだろう?
「・・・・んじゃ、自己紹介も終わった事ですし、パーッとやりますか!!」
ミサトの視線はビール缶に釘付けになり、その瞳は爛々と輝いている。
シンジはこの後の惨劇(?)とかさむであろう出費に頭が痛くなる気がした。
「ではこちらの要求は受け入れられなかった、そういうことかね?」
シンジ達のいる日本から太平洋をまたいだ大陸にある人工国家。
「はい。日本政府からは『ネルフは国連直属、政府の介入すらできない』と正式な回答が来ました。
その国家の首都。
「ネルフへの直接要請は?」
「にべもありません・・・・『使徒の殲滅が最優先される。エヴァンゲリオンを貴国に配備する予定は今のところ無い』です・・・・」
オーバル・ルーム
ワシントンD・C、ホワイトハウス、大統領執務室。
アメリカ合衆国も、セカンドインパクトで甚大な被害を受けた。
首都ワシントンも例外ではない。
一時は首都として復興させるのを諦めかけたほどだ。
(ちなみに沿岸部であるのに日本のように水没していないのは、南極から距離があったこと。それに中央アメリカ各国が太平洋の水位上昇の盾になる形になったからだ。もっともそのお陰で今やメキシコという国は大小三つほどの島国になってしまっている。それにアメリカ西海岸はほぼ全滅状態だ)
かくしてワシントンは甦った。
「我が国で開発しているエヴァンゲリオンは?」
「ドイツで建造された機体に資材を取られて進捗率は大幅に遅れています」
合衆国の支配者の部屋には主とその他に数人の男達がいた。
質問しているのは合衆国大統領。
それに答えるのは国務長官。
「つまり・・・・合衆国は日本人に振り回されている・・・そういうことかね?」
「ありていに申せば、そうなります」
「ふん・・・・」
大統領は鼻を鳴らすと窓から外を見る。
そこからは人工国家としての偉容、復興の象徴たるワシントンの姿が見えた。
「たとえ我々の機体 参号機と四号機とネルフは呼んでおります が完成しても、パイロットの問題があります・・・」
「どういうことかね?」
中央情報局
「先日作成されましたCIAの報告書ではエヴァンゲリオンのパイロットは資質が最優先されるようです・・・・誰でも乗れるわけではないようです」
「ネルフはどうしているんだ?」
「”マルドゥック機関”なるパイロット選定の専門機関を設けているようです」
大統領は目を閉じて考える。
『第2次大戦後でも、そしてセカンドインパクト後でも世界の復興の旗振りを勤めたのはこの合衆国だ・・・・昨日今日出来た組織に指図されるのは合衆国大統領として、一市民として我慢できるものではない・・・・』
「他に変化は?」
「ドイツで完成した機体が日本に配備されるのが決定したもようです。もちろんパイロットも含めて」
「・・・・これで日本にはエヴァンゲリオンが3機、現存する全てのエヴァンゲリオンが揃うというわけか・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
大統領は濃緑の制服を着た男に目を向ける。
「大将、こちらからのアクションは考えられるか?」
大将 統合参謀本部議長 は大きく息を吸い込むと、
「機体の奪取はそのサイズから見て不可能です、破壊がせいぜいかと・・・・」
「では打つ手ナシか?」
「いえ、そうではありません。側聞するところによれば、ニューメキシコで建造中の我が方のエヴァンゲリオンも遅れているとはいえ早晩完成するでしょう」
おもしろくなってきたらしい。大統領は椅子に掛け直す。
「続けてくれ」
「はい。先程国務長官もおっしゃいましたが、完成してネックになるのがパイロットです。それをネルフから・・・・・・・・」
そこまで言うと議長は口をつぐむ。
「なるほど・・・・」
大統領は少し考える。
切り札
『この場合のこちらのメリットは?・・・・エヴァンゲリオンに関するネルフの独占状態が崩せる・・・・連中の”スペードのエース”がこちらにも手に入る・・・・・・・・ではデメリットは?・・・・それが失敗、もしくは露見した場合、合衆国の立場が悪くなる・・・・・・・・いや、なにも合衆国の人間にやらせる必要がなければどうだ?・・・・』
「もし、そのプランを実行するとして、成功率は?」
「60から70%」
「ふむ・・・・・・・・皆はどうだ?・・・・このプランに反対する者は?」
国務長官はじめ、補佐官達も声を出さない。
国防総省
「よし・・・・決まりだな・・・・大将、DoDでプランの検討に入ってくれ・・・・なるべく成功率が高くなるようにな」
「イエス・サー、プレジデント」
「くぅー!!こんなに飲んだの久しぶり!!」
ミサトのペースは落ちるどころか、ますます加速している。
トウジとケンスケ以外の人間は『まあ、いつものこと』と割り切っていたが、二人はそうはいかない。
ガロン単位で消費されるビールを呆然と眺めていた。
時間はもうすぐ11時。
「あなた達、明日も学校でしょ?・・・今日はもう帰りなさい」
リツコが助け船を出す。
「シンジ君、レイを送ってあげて」
「はい。じゃ、綾波行こうか・・・・鈴原君と相田君も、遅いから今日はこの辺で・・・」
ミサトの飲みっぷりに全神経を集中していた二人ははっと気が付くと、
「・・・・おう、そうやな・・・・ケンスケ、今日はおいとましよ・・・・今日はおおきに」トウジが頭を下げる。
隣ではケンスケも頭を下げている。
「さ、行こうか」シンジが先導して玄関へ向かう。
それについていくレイ、トウジ、ケンスケ。
四人は玄関を出て下に降りるためにエレベーターに乗り込む。
「「「「・・・・・・・・・」」」」奇妙な沈黙がエレベーターを包む。(レイは元々無口だが)
トウジがその沈黙を破る。
「転校生・・・・いや、碇・・・・あん時はすまんかった。ワシも逆上して見境のーなっとたんや・・・・」
「・・・・いいんだよ、謝らなくて・・・・君の妹さんを傷つけたのは事実だしね・・・・」
「いや!ワシはそれじゃ気がすまんのや・・・・」
そしてエレベーターは地上に降り、四人は外に出る。
夜道に人影は見えない。
「・・・・じゃあ、どうすればいいの?」シンジが尋ねる。
「ワシを殴ってくれ。それであいこや」
ケンスケが横から出てきて、
「な?こーゆー恥ずかしい奴なんだよ」と言う。
「・・・・でも・・・・」
「つべこべ言わんと、一発入れりゃええんや・・・さ、来い」
トウジはシンジに体を向けて仁王立ちになる。
「・・・・・・・・じゃあ、一発だけ・・・」
シンジは頬に軽く拳を入れようとする。が、
「まった!!」
トウジの顔面の直前で寸止めする。
「手加減ナシや。目一杯こんかい!」
『目一杯やったら死んじゃうよ・・・・』シンジはおのれの力を過信しないが、その力量もよく解っている。
シンジは大仰に振りかぶり、正拳を入れる。
手加減ナシといってもしないわけにはいかない。
そのお陰か、トウジは吹き飛ばされもせずにその場に立っていられた。
トウジは少し微笑むと、
「よっしゃ・・・これで貸し借りナシや・・・・これからはワシのことはトウジでええ」
「あ、俺もケンスケでいいよ」すかさず口を挟むタイミングは大したものである。
「うん・・・・わかった。僕もシンジでいいよ」
「あとひとつ、いか・・・・いやシンジ、言いたいことがあるんや」
「なに?」
「オマエ、なにをそんなに張り詰めとるんや?」
シンジは心底驚いた。まさか自分の内側が読まれている トウジの場合はおそらく直感だろうが とは夢にも思わなかった。
トウジは続ける。
「まあ、あんなけったいなモンに乗ってドンパチやらないかんのや・・・・ふさぎがちにはなるやろ・・・・せやけど、そんな生き方は疲れるだけやぞ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「まあ、コイツはただのおせっかいや・・・・あまり気にせんといてくれ・・・・ケンスケ、行こか」
「あ・・・・うん」
二人はシンジとレイから離れて別の道を歩き始める。
「待って!!」
振り返る二人。
「ありがとう、本当に」
シンジの、何の陰りもない純粋な笑み。
トウジはそれを見て少し笑う。
「おう・・・・んじゃまた明日・・・・学校でな」
「んじゃーなー、碇」
ケンスケも返し、二人は闇に消えていく。
それを見つめるシンジと傍らに立つレイ。
「あ、ごめん綾波。時間取らせちゃったね・・・・送るよ」
そして二人は歩き出す。
闇の中の道を・・・・・・・・
所かわって荒れ果てた葛城家リビング。
そこら中に空き缶、空き瓶、その他諸々が転がっている。
オペレーター三人衆を帰らせた後、そこにはミサトとリツコが残っていた。
「・・・・まだ飲むの?」
心底あきれ果てたリツコの声が部屋に響く。
「いいじゃなーい・・・・ここんとこ思いっきり飲める機会無かったんだし」
あれほど飲んだというのにまだミサトの意識はしっかりしているようだ。
「んで?シンジ君が独房に入る羽目になった訳を聞きましょうか?」
「ああ、その事?・・・・くだらない事よ」
さすがにシンジに聞かせられる話ではないので、二人になるまで待っていたのだ。
「くだらないって・・・・どういうコトよ?」
「・・・・・人間の心はMAGIでも把握は難しいってコトよ」
「???」ますますワケの分からないミサト。
「大したことじゃないのよ・・・・”命令違反”を言い出したのは技術部の若い男なんだけどね」
「ふんふん」
「その男が同じ技術部の女の子と交際してたんだけど、最近その女の子の態度が変わってきたらしいの」
「?」ミサトには話のつながりが見えない。
「そこで出てくるのがシンジ君・・・・・・・・おわかり?」
「あ!・・・・ひょっとして!」
「そ。女の子の方がシンジ君の事ばっかり話して面白くない、しかも自分には最近冷たい。そこで腹いせに・・・・ってところらしいわ」
「・・・・あっきれた・・・・まるで子供のケンカ・・・・いえ、それ以下ね。明日出勤したらとっちめてやる!」
ミサトは腹立たしげに息巻く。
だが、リツコが水を差す。
「あ、その男なら、今日付けで退職届を出して受理されたわ」
ミサトの野生のカンに、ピンとくるものがあった。
「リツコ・・・・辞表、出したんじゃなくて、出させたんでしょ?・・・・アンタが」
リツコは軽く笑う。
「ふふ・・・・ミサトにはかなわないわね・・・・」
シンジの独房入りと、その顛末を聞いたその足で当の男の所へ行き、
「アナタ、荷物をまとめなさい・・・・クビよ」
と、冷酷さすら感じさせる声音で伝えたのだ。
理由を問いただすその男に対し、
「E計画担当者の私が命令するから・・・・」
リツコはぞっとするほど冷たい笑みを浮かべる。
「それに・・・・あなたのためでもあるのよ?・・・・周りをごらんなさい」
男が周囲を見ると、痛いほどの視線が飛んできていた。
男性職員はわずかに同情を込めて、しかし自業自得だという視線。女性職員の方は・・・・明白な憎悪、中には殺意を視線にのせている者もいる。
男はがっくりとうなだれて、辞表を書くことに同意した。
あの時のことを思い出すと今でも笑い出してしまう。
「ふふふ・・・・!」
「な・・なによ、気味悪いわねえ・・・」ミサトがマジで気味悪がっている。
「ああ、ごめんなさい・・・・思い出すとおかしくって・・」
「リツコがそんな風に笑うのを見るの、久しぶりね」
リツコもそう言われて気付く。
そういえばこんなに笑ったのは久しぶりだ、と。
そして別のことも気付く。
『私が職権に私情を挟むのは初めてね・・・・』
その事に対しても笑ってしまう。
「ふふふ・・・・!」
「リツコ・・・・だから思い出し笑いはやめなさいって・・・・」
「ごめんなさい・・・・ふふ!」どうやら止まらないようだ。
そんなリツコに対し、ミサトは”駄目だこりゃ”というジャスチャーをして、
「ま、しかめっ面よりは笑ってる方がいいけどね」
その頃、シンジとレイは団地の前まで来ていた。
無論、レイの住む団地である。
「・・・・ここでいい・・・・」レイがぼそりと呟く。
「ん、わかった・・・・・しかし寂しい所だなあ・・・・明かりもついてないや」
確かに、夜も更けているこの時間に明かりのついている部屋は皆無だった。
「・・・・・・・・・」
「綾波は一人暮らしなの?」
コクンとうなずくレイ。
「じゃあ、たまにはウチに遊びに来てよ。食事もおいしいもの作るからさ」
シンジは笑みを浮かべつつ語りかける。
「・・・・・・・・どうして?」
ミもフタもない。
「一人でいるよりみんなでいたほうが楽しいから・・・・かな?僕にもわからないけどね」
「・・・・・・・・・・・」
「じゃあ、こんな時間だし僕も帰るよ・・・・おやすみ、綾波。また明日」
そう言うとシンジはきびすを返し、来た道を逆にたどる。
「・・・・・碇クン・・・・・」レイが声をかける。
ちょっとびっくりするシンジ レイに名前を呼ばれるのはこれが初めてだ
「ん?何?」
「あ・・・・・・・・また・・・・明日・・・・」レイはそう言うと振り向いて駆け出し、団地の階段に消えていった。
シンジはちょっとだけ当惑しながらも、
「良い傾向かな?」と呟く。
なにせ初めて会ったときは無関心だったのだから大進歩だ。
レイがああなった原因、考えてみるがどれも推測の範疇を出ない。
「脅してでも父さんから詳しいこと聞いとけばよかったかなあ・・・・」
ちょっと後悔しているシンジ。
また家に向けて歩き出す。
『でも・・・今日は色々あったなあ・・・・』
トウジとケンスケ・・・・・・・・それにレイ・・・・
「守りたいものが増えたのかな?」
シンジは溜息をつく。
「軽いなあ・・・僕も」
だがシンジはそんな風に考える自分が決して嫌いではなかった。
人類を守るなどとスケールの大きい事は考えない。
シンジは、彼が守りたいものを守る為に戦うのだ。
その為ならばたとえ・・・・・・・・
シンジは暗い闇から抜け出てきた月を見上げる。
「まあ、出来ることをやるだけさ・・・・」
シンジが家に向かっている頃、レイは自分の部屋に入っていた。
別れ際、なぜ自分はあんな事を言ったのだろう?
意識して考えているわけではないが、レイの思考の中は大混乱だった。
今までの自分は、ネルフでは『零号機専属操縦者、ファーストチルドレン・・・・人形』学校では話しかけられても何も返さないためその内誰も接しなくなった。
だが・・・・
あの少年は違った。
いつものように必要最小限しか接しなかった。
だが、彼の存在は自分の中で大きくなる一方。
彼の方もレイのそんな態度を気にしないかのように接してくる。
かくして混乱は混乱を呼び、レイは思わず先程の台詞を口にしていた。
いまだにレイは混乱しているが、その混乱を好ましいものとしてとらえる自分がいることにも気付いていた。
「・・・・碇クン・・・・碇指令の子供・・・・私にはない絆・・・・」
レイは、今のところその絆が蜘蛛の糸よりも細い物であることは知らない。
父は目的のためには鬼になり、
息子はその父が驚くほど成長して戻ってきた。
両者の溝は深く、広い。
レイは窓に歩み寄り夜空を見上げる。
雲の切れ目からは月が地上を照らし出している。
レイは自分の中にある感情がわからなかった。
だが、その感情も好ましいものであることはわかる。
そしてそれをもたらしたのがあの少年であることも。
レイはシンジも見上げている月を見て呟く。
「・・・・私は何故、ここにいるの?・・・・」
あ・と・が・き
みなさんこんにちは。
P−31です。
第4話Bパートをお届けします。
いよいよ伏線の一部がかいま見えてきました(笑)
ここでは言いませんが。
「所詮、人間の敵は人間だよ」(byゲンドウ)ってところでしょうか。
んで、つっこまれる前にいいわけしておきますが、地理に関するあれこれは、
大嘘です(爆)。
あしからず。
それと・・・・どんなに短くてもいいんで、感想頂けると大変嬉しいです。
返信率は120%(?)です。
さて、あんまりぐだぐだやっても仕方ないんで次回予告にいきましょう。
『他人のと接触を最小限にして生きてきた少女、綾波レイ』
『その彼女が、唯一心を開いていたのは碇指令だった』
『自分よりも父親に近い少女に語りかけるシンジ』
『心の収束を待たずして第五使徒の放つ光がEVA初号機の胸を焼く』
『シンジの無言の悲鳴がレイを突き刺す・・・』
『It’s a Beautiful World 第5話』
『「道標」』
『この次も、さーびすさーびすぅ!』