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「非常召集。準備して。行くわ」

レイは唐突に言い放つとシンジを見つめたまま動かない。どうやら待っているらしい。

「わ、わかった、綾波。ごめん、二人とも。続きはまた今度!・・・・・・・・綾波、行こう!」

シンジはトウジ達にあやまり、レイに声をかけると走り出す。

呆然とそれを見つめるトウジとケンスケ。

そして、シンジを追いかけるように走るレイ。

彼らの耳にはサイレンに続いて非常放送が聞こえていた。





《ただいま、東海地方を中心とした関東、中部全域に特別非常事態宣言が発令されました。住民のみなさんは速やかに指定のシェルターへ避難してください。繰り返しお伝えします・・・・・・・・・・・・・・・・・》











It’s a Beautiful World
第3話「隙間」
(B−part)











シンジは今、列車に乗っている。

ジオフロント   つまりネルフ本部   に向かう直通列車だ。

隣にはレイがいる。

「綾波・・・・零号機、壊れてるって聞いたけど、直ったの?」

「機体そのものは。でもまだ再起動実験が終わっていないわ」

「じゃあ、戦闘はムリだね」

シンジはちょっと安堵する。

「?・・・・なぜ、あなたが安心するの?・・・・」

レイが、不思議そうな表情で聞く。

「うーん・・・・なんて言ったらいいのかな・・・・女の子に戦わせて、自分は後ろにいるなんて恥ずかしいからね」

「・・・・・・・・・・・・・」

「くだらないプライドかもしれないけどね・・・・・・・・」

レイは何も言わずにじっとシンジの顔を見つめている。

「あ、そーだ。綾波はここに来るまでどこにいたの?僕は山梨の甲府ってところにいたんだけれど」

レイは、シンジを見つめたまま答える。

「・・・・・・・・・・・・・・・・ここよ」

「・・・・へ?・・・・」

「私はここで生まれたわ・・・・・・・・・・」

『・・・・・こりゃあ、想像した以上に複雑みたいだな・・・・・はやいとこ父さんを問い詰めてみるかな・・・・・』

シンジは何も言わずに窓の外に目を向ける。

そこには、だんだんと近づいてくるピラミッド   ネルフ本部があった。




















使徒が来襲しつつある日本で、意外なことにネルフよりも自衛隊がまず動き出していた。

旧東京がセカンドインパクトで壊滅してから、日本の首都機能は第二新東京市に集中していた。

機能の集中による弊害を言われながらも、当面はうまくいっているようである。

その第二新東京市の中心地の一角に、他の官庁とは趣を異にする建物があった。

防衛庁。

つい、先日まで”人質”として国連軍に所属していた3自衛隊の上部組織である。

その防衛庁の地下に中央指揮所と呼ばれる場所がある。

自衛隊の全てを指揮するところである。

日本中で起こっている事を把握する、という面ではネルフ本部よりもその能力は上だ。

そして、ここの指揮で使徒迎撃戦が展開されているが、現状は打つ手無しだった。

「統幕議長、『しょうかく』搭載機による攻撃ですが、効果は認められません。目標の移動速度も落ちません」

この部屋の主   つまり、自衛隊全てを統括する男   は、その報告を聞くと深い溜め息を漏らす。

そして、かたわらに立つ陸自の制服を着た彫りの深い顔立ちの壮年男性に声をかける。

「現状をどう分析する?野分君」

意見を求められたユウジは、鼻を鳴らすと、

「ふん、現状では、何をぶつけても無駄でしょうな・・・・なんせ、我々の想定してきた”敵”とはあまりにも違いすぎます」

「だろうな・・・・・・・・ではこれからどうする?」

「・・・・・今まで通り、超遠距離から嫌がらせの攻撃をするぐらいですな・・・・本当なら攻撃も税金の無駄遣いですから、やめときたいところですが何もやっていないと思われるのも癪に触りますからな」

「ふむ・・・・・悔しいが、それしかあるまい・・・・水上艦隊と地上部隊はどうする?」

「・・・・いくらセカンド・インパクト以後に建造された艦艇がほとんどの第1機動護衛艦隊といえど、直接攻撃は自殺するようなモンですな・・・・・・・・地上部隊に関しては、どの師団も集結に時間がかかりすぎます。それに”アレ”の前面に展開なぞしたら本当の意味で『壊滅』しますよ」

「国土と国民を守るべき自衛隊がこの体たらくか・・・・」統幕議長は自嘲気味に軽く笑う。

「ま、今回もネルフの連中に任せるしかありませんな。まあ、大丈夫でしょう、ネルフにはあの”決戦兵器”がありますしね」

ユウジは心の中だけで呟く。

『そして、そいつを操っているのは、俺の息子だ。そう簡単に負けやしない・・・・』

「それに我々も、戦場で傍観者をきどるために血税を濫費してきた訳ではありませんからね。色々考えはありますよ」

「ふむ、期待しているよ・・・・・・・・ところで野分君、話は違うんだが・・・・」

「は、なんでしょう?」

「・・・・ここ最近、在日国連軍・・・・と言うよりもアメリカ軍の動きが妙だ。なにか情報が入っているか?」

「ええ・・・・多少は・・・・ただ、彼らの欲しい物は”法的には”日本にはありませんな」

「”法的には”?どういう事だね?それは」

「彼らのターゲットは・・・・あそこですよ」

ユウジは、指揮所の壁面に設けられた、大型のディスプレイを指す。

そこには衛星軌道上から撮影された第三新東京市の全体図があった・・・・・・・・





















そのころ、トウジとケンスケはシェルターに入っていた。

もちろん二人だけではない。学校の生徒や教職員全てがシェルターに避難していた。

そんな中でトウジはボーっとし、ケンスケは自分のカメラのアンテナを立てて、テレビを見ていた。

「チッ!まただ!」ケンスケが吐き捨てる様に呟く。

彼が見ているテレビには、花畑の静止映像と非常事態宣言が発令された事を伝えるテロップだけが映っていた。

「また文字だけなんか?」

「報道管制ってやつだよ。民間人には見せてくれないんだよ。こんなビックイベントだっていうのに」

トウジはケンスケの言葉を聞き流し、頭上を見上げる。

時折、シェルターには爆発によるものと思われる微震が続いていた。





















「碇司令の居ぬ間に第4の使徒襲来。意外と早かったわね」

呟くミサト。顔には笑みを浮かべているが、内心はそうでもない。

なにせ、夢も見ずにぐっすり眠っていたところを叩き起こされたのだ。

「前は15年のブランク。今回はたったの3週間ですからね」

男性オペレーターがミサトの呟きに答える。

ネームプレートは『日向マコト』

「こっちの都合はおかまいなしか。女性に嫌われるタイプね・・・・・・・・それにしても、自衛隊と国連軍はなにやってんのよ?」

その疑問にマコトが答える。

「国連軍は部隊の展開が間に合わないらしいです。戦自が主力みたいですけど・・・・練度が低いですね。自衛隊の方は統幕会議から通告がありました・・・・・・・・・・・」

「通告?なんて言ってきたの?」

「それが・・・・『やる事はやった。後は任せる』・・・・です」

「なげてるのか・・・・力量がわかってるのか・・・・呆れるわねえ・・・・」

「必要があれば、直接通信も可。だそうです」

「じゃあ、まだ時間があるからお話してみますか・・・・つないでちょうだい」最後の部分はマヤに向けたものだ。

「はい」マヤは慣れた手つきでコンソールを操る。

そして、10秒ほどして回線がつながる。

「こちらはネルフ。聞こえますか?」ミサトは砂嵐の続くモニターにしゃべる。

すると、砂嵐が止み、陸自の制服を着た人物が映る。

「こちらは防衛庁、中央指揮所。感度は良好だ」

「私は特務機関ネルフの作戦部長、葛城ミサト一尉です」

「陸上自衛隊、野分ユウジ一佐だ・・・・統幕議長が留守なのでここを預かっている」

モニターに映るユウジは、不敵な笑みを浮かべる。まるで『俺の事は調べたんだろ?』と言わんばかりの。

ミサトは内心は動揺していたが、それを表面には出さず、

「わかりました・・・・それではお聞きしますが、なぜ迎撃をしないのです?」

「・・・・やって俺達に死ねと?・・・・ふん、ネルフは特攻精神で物事に対処するのかな?」

ユウジはミサトの問いに、かなりキツイ皮肉を返す。

「!!・・・・・そんな事は!!」ミサトは声を荒げて言い返そうとする。

「まあ、それはいい。我々も洋上で迎撃はした。航空機のべ400機の波状攻撃だ・・・・・だが効果ナシだったんでね、地上部隊は第三新東京市から離れた所に配備してある」

「では、両手を上げる・・・と?」

ミサトは先程のお返しとばかりにユウジにつっかかる。

ユウジはそれを聞くと、笑みを消して冷たい表情に変える。がすぐに元の不敵な笑みに戻すと、

「ふん・・・・まあ、そういうことだ・・・・とりあえず、今回我々が手伝える事は何も無い。そちらでよろしくやってくれ」

「・・・・・・・・・・・・・・わかりました。では・・・・」

「ああ、そうだ。シンジはどうしてる?元気でやっているか?」

「え、ええ。元気ですよ」

「あまりこき使わないでくれよ。俺の自慢の息子なんだ。」

口調は柔らかだが、ユウジの目はそう言っていない。

ミサトにはユウジの言外の意がわかった。彼は

『子供に戦わせて、オマエらはなにやってるんだ?』

と言っているのだ。

ミサトは悔しそうな表情で答える。

「わかりました」

「それと・・・・どんな事があっても、シンジを敵に回さない方が君らのためだぞ・・・・それじゃ」

最後の言葉と共に、モニターからユウジの姿が消える。

「え!?ちょっと!それはどういう・・・・・・」

ミサトがなおも問いかけるが、マヤがそれを遮る。

「回線、切れました」

「使徒、第2警戒ラインを突破しました!」

長髪の男性オペレーターが報告する。

ネームプレートは『青葉シゲル』

「チッ!考え事もしてらんないわね・・・・・日向君、エヴァの発進準備を」

「了解!エヴァ初号機発進準備!」





















「ねえ、トウジ・・・・話があるんだけど・・・・」

ムスッとしているトウジに話しかけるケンスケ。

「なんや?」

「しゃーないなあ・・・・委員長!」

呼びかけられて、おさげの女の子が振り返る。

「なに?」

「わしら二人、便所や」

それを聞くと委員長   洞木ヒカリは、

「もう、ちゃんと済ませときなさいよね」

そして、トイレに入る二人。

「で、何や?」

「死ぬまでに一度だけでも見たいんだよ!」

「上のドンパチか?」

「今度またいつ敵が来てくれるかどうかもわかんないし・・・・」

「ケンスケ、お前なあ・・・・」

トウジは呆れたように呟くが、ケンスケはそれを遮り、

「この時を逃しては、あるいは永久に・・・・な、頼むよ。扉のロックをはずすの手伝ってくれ」

「外に出たら死んでまうで」

「ここにいたってわからないよ。どうせ死ぬなら見てからがいい」

「そのためのネルフやろが。心配あらへん」

「そのネルフの決戦兵器ってなんだよ。あの転校生が操縦するロボットだよ。この前だってアイツが俺達を守ったんだぜ?・・・・そういえばトウジ、アイツの事ぶん殴ったんだったっけ・・・・そのせいでロボットが満足に動かないようだったら、俺達死ぬぞ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「トウジにはアイツの戦いを見守る義務があるんじゃないのか?」

「・・・・しゃあないな・・・・オマエ、ホント自分の欲望に素直なやっちゃな」

その言葉を聞いてケンスケは笑みを浮かべる。

そして誰にも見咎められずに抜け出した二人は非常用のハッチをこじ開け、市内が一望できる丘の上に来ていた。

その二人の目に、イカの様なカタチの使徒が写る。

ケンスケはビデオのファインダーをのぞいたまま、

「これぞ苦労した甲斐もあったというもの・・・・」





















「シンジ君、出撃、いいわね?」

「いつでもどうぞ」

エントリープラグで戦いに備えるシンジに、普段と変わるところはなかった。

気負いも、過度の緊張も無かった。

あるのは戦う前につきものの、けだるい(あるいは心地よい)緊張感だけだった。

「シンジ君、地上に出たらA・T・フィールドの展開と同時にパレットの一斉射。練習どうりにやってちょうだい」

リツコが最終確認をする。

「わかりました」

「目標は市内に侵入しました!」

シゲルが振り返りもせずに叫ぶ。

ミサトは一つうなずく。

「発進!」

そして初号機は前回とは違い、地上の路上ではなく、偽装ビルの一つに射出される。

初号機の中では、シンジがタイミングを計っていた。

「A・T・フィールド展開」

マヤの声がプラグに響く。

「作戦通り。いいわね、シンジ君」

ミサトが声をかける。

ミサトの立てた作戦は単純明解だった。

今回から使用可能になったパレットガンの火力でねじ伏せる・・・・

要約してしまえば、その程度の物だ。

作戦としては悪くはない。あえて複雑な部分を排し、ミス(と損害を)を最小限に抑えようという極めて健全な発想から立案された作戦だ。

だが、これには『人(もしくは人が作った組織)が相手の場合』という但し書きがつく。

そもそも、使徒は常識など持ち合わせていないであろうし、使徒の存在そのものが常識を大きく逸脱しているのだ。

果たして、それがどう影響するのか、ミサトにもリツコにも予測不能だった。

シンジは心の中でカウントする。

『ワン・・・・ツー・・・・スリー!!』

そして初号機は使徒の前に飛び出すと、パレットガンを訓練と同じように3発づつ撃ち、確実に使徒に命中させる。

しかし・・・・

「効いてない!?」

確かに、弾丸は命中しているはずなのだがダメージを受けたようには見えない。それどころか、手(というか、鞭というか)が飛んできてパレットガンを真っ二つにしてしまう。

「うわあ!!」

そして初号機は鞭に殴られ、800メートルほども吹き飛ばされる。

「シンジ君!予備のパレットガンを出すわ」

ミサトの声と共に、偽装ビルの一つが前面のシャッターを開ける。その中にはパレットガンがある。

「受け取って!」

「無茶言わないでください!この状況でどうやって受け取れって言うんですか!」

そう言いながらもシンジは初号機をせわしなく動かしつづける。どこまでも使徒の鞭が追ってくるので一息もつけないのだ。

「とりあえずこのまま誘導して市外へおびきだし・・・・うわっ!!!」

紙一重で鞭を避けるシンジ。

だが。

「エヴァ、内部電源に切り替わりました!」

アンビリカルケーブルを切断される初号機。

作戦室のディスプレイに現れる逆算式のタイマー。

「活動限界まで、あと4分53秒!!」

「チッ!」シンジが舌打ちを漏らす。

初号機は、使徒の鞭に足を絡め取られ、そのままハンマー投げの要領で投げ飛ばされる。

そして、その落下地点には・・・・・・・・

「こっちへ来たあぁ!!!どわあああああああ!!!!!!!!」

抱き合って悲鳴を上げるトウジ&ケンスケ。

もの凄い轟音を立てて落ちる初号機。

「う・・・・・うう・・」

シンジも衝撃でくらくらしていた。

「シンジ君。大丈夫?シンジ君!」

シンジの耳にミサトの必死の呼びかけが聞こえる。

「ええ・・・・大丈夫・・・・・!!!!!」

その時シンジが見たのは、プラグに写るモニターの一つ。

そこには、初号機の左手の指の間で震えているトウジとケンスケだった。

同じ情報は発令所にもいっていた。

ディスプレイに写る二人の映像と個人データ。

「シンジ君のクラスメート・・・・」ミサトが呆然と呟く。

「何故こんな所に!?」リツコも悲鳴に近い声を上げる。

もちろん、使徒はそんな事はおかまいなしに襲ってくる。初号機にのびる二本の光の鞭。

「くそっ!!」

シンジは罵ると、鞭を素手(もちろんエヴァの手だ)で鷲掴みにする。

初号機の手は煙をあげ焼けこげていく。

「ぐうううううう!!!!!」

顔を歪めて苦しむシンジ。

エヴァのシンクロ値とは、フィードバック値でもある。

仮にシンクロ率が70%の場合、エヴァが受けるダメージの70%をシンジも受けるという事なのだ。

本来なら欠陥兵器扱いだろうが、使徒に追い詰められている人類の現状がこれを決戦兵器に仕立て上げている。

「なんで戦わんのや・・・?」トウジが呟く。

「俺達がここにいるから?・・・・・・・・戦えないんだ・・・・」

ケンスケの呟きは正鵠を射ていた。

もしここでシンジが好きなように戦ったら、二人を待っている運命は”圧死”だろう。

「シンジ君、その二人をエントリープラグに入れて!」

ミサトがとっさに叫ぶ。

リツコはあっけに取られていた。

「許可の無い人間をエントリープラグに乗せられると思ってるの?」

「私が許可します」

「越権行為よ。葛城一尉」

ミサトはそれには取り合わずに、初号機のプラグを外部へ排出し、作戦室のマイクを初号機の外部スピーカーと直結させる。

《そこの二人!乗って、早く!!》

トウジとケンスケはその声を聞いて、はじかれたように動く。

そして、一つだけ開かれたハッチからプラグ内部へ飛び込む二人。

「な、なんや!・・・・ゴボッ・・・・水やないけ!」

「ガボッ・・・・カ、カメラ!・・・・カメラが!」

二人とも、これが水だったらとっくに窒息している事には気付かない。

そして、プラグの座席で苦しんでいるシンジに気が付く。

「「・・・・・・・・・・・」」二人とも黙って見つめている。

発令所では、二人がプラグに入った途端、仕事が倍増していた。

「神経系統に異常発生!」

「回路、1番から65番まで断線!」

「シンクロ率、落ちます!!」

リツコが吐き捨てるように呟く。

「異物を二つも挿入したからよ。神経パルスにノイズが混じってるんだわ」

そして、ミサトをキッと睨む。

ミサトはそれに聞こえないフリをすると、

「作戦立て直しね・・・・日向君、一時退却。初号機を回収します」

「了解」マコトはコンソールと向き合ったまま答える。

「シンジ君、いったん引き揚げるわよ」

シンジは返事は返さずに鞭を軸に使徒を投げ飛ばす。

「今よ!後退して!」ミサトが叫ぶ。

『後ろを見せたら絶対に追ってくる・・・・ダメだ!ここでケリをつけなきゃ!』

シンジは初号機にプログレッシブ・ナイフを抜かせて身構える。

「シンジ君!命令を聞きなさい!退却よ!」

「ミサトさん・・・・お願いします・・・・やらせてください・・・・」

静かだが、決意を秘めた言葉。

その言葉と共に初号機は丘の斜面を駆け下り使徒に肉薄する。

「シンジ君!!」

ミサトが止めようとするが、もはやシンジの耳には入らない。

使徒がその鞭を繰り出すが、初号機は巧みにそれをかわし、時にはそれを叩き落とすと、”コア”にプログナイフを突き立てる。

「初号機、活動限界まで、あと30秒!」

『間に合ってくれ!!』

シンジはそう思いながらさらにナイフを食い込ませる。

「活動限界まで10秒!・・・9・・・8・・・7・・・6・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・」

シンジがゼロの声を聞くことはなかった。

モニターも、ディスプレイも、照明も落ちて、プラグの中は闇が支配していた・・・・

「やったのか・・・・?」

シンジがそう呟くが、それを聞くトウジとケンスケに答えられる筈もない。

「何もないってことは、やったのかな?・・・・もういいや・・・・疲れた・・・・眠い・・・・」

「エヴァ初号機、活動停止」

「目標は完全に沈黙!」

ミサトはそれらを聞きながら、複雑な気持ちになっていた。

『自分の命令を無視された』という不快感と、

『結果オーライなのでは?』という楽観的な気持ちと、

『仮に自分の命令通りになっても果たしてうまくいったか?』という疑問。

「回収班を向かわせて。急いでね」

ミサトは自分の気持ちにケリをつける。

『あれは操縦者の臨機応変な対応。現に使徒を倒している』

自分のプライドとシンジの気持ち、両方をくみ取った形だ。

『帰ってきたら褒めてあげなきゃね・・・・』

だが、ミサトがそれをはっきり口にしなかったことが、この後ちょっとした混乱を呼ぶ。

その頃、初号機では気力、体力共に使い果たしたシンジが、安らかな寝息を立てていた。

トウジとケンスケは黙ってそれを見守っていた・・・・





















「野分一佐、データの収集、終了しました」

「そうか、んじゃあそいつを技研に送ってやれ」

「了解」

「それに一言付け加えてくれ。『役に立つモノを開発しなきゃ全員クビだ』とな」

「了解です」コンソールの一つにつく幕僚が笑いながら答える。

指揮所は続々と集まってくるネルフ「決戦兵器」と使徒との交戦データをさばくのにおおわらわだった。

データは防衛技術研究所に送られ、使徒に”効く”兵器の開発に役立てられる。

「今回の戦闘でわかりましたが・・・・ネルフといえども、対抗できる兵器というのはあの『人形』だけみたいですね」

「まあ、それしかないんだろうよ・・・・ネルフに伝えてくれ『見事ナ戦イブリ感嘆スル。操縦者ニ敬意ヲ表ス』とな」

「・・・・いいんですか?連中、調子に乗りますよ?」

「いいんだよ。コイツは嫌味だからな」

「???・・・・・・わかりました」幕僚は顔に?マークを張り付けている。

『まったく・・・・ネルフの連中め・・・・これがシンジだったから良かったようなものを・・・・もしシンジがド素人だったらどうするつもりだったんだ?』

”父親”にとって息子を戦場、しかも最前線で戦わせるネルフはどうしても信用できないのだろう。

「よし、動員した各隊に通告して戦闘態勢を解除させろ・・・・だが警戒を怠るな、とも言っておけ」

「了解です」

「さて・・・・次の奴が来る前に技研が目処を立ててくれればいいんだが・・・・」

「”アレ”は技術的に難しいところがあるようで、もう少し時間がかかるのでは?」

「まあ、わかってはいるんだが・・・・こう手も足も出ないとな・・・・」

「そうですね・・・・戦自は自走陽電子砲が最終テストにはいったらしいですし」

「ああ・・・・あれか。あれは必要とされるエネルギーが莫大になる欠点があるからなあ・・・・」

「・・・・これは噂なんですが・・・・重化学工業共同体が”全く新しい”兵器を開発してると・・・・」

「・・・・あまり期待はしない方がいいな・・・・あそこの作ったもので使えたためしが無いからなあ・・・・」

幕僚は少し笑いを漏らす

「そうですね・・・・いつだったか、重砲用のNN弾頭を開発するって発表しましたよね」

「あったなあ・・・・重砲にそんなモン使ったら撃った本人が吹き飛ばされちまうって・・・・」

「あれから話を聞かないと思ってたんですけど・・・・その”全く新しい”兵器ってのに全力投球だったんでしょうね」

「野分一佐」

傍らの別の幕僚がユウジを呼ぶ。

「おう、なんだ?」

「お客です。NASDA(宇宙開発事業団)の技術屋です」

「ん、わかった。すぐ行く・・・・じゃあ、こっちは任せていいか?」

「残ってるのは後始末だけですから我々でも充分です」

「じゃあ、頼む」

「了解」

ユウジは後を幕僚達に任せると、指揮所を出てロビーに向かう。

『さて、こちらも戦自に負けてられないからな・・・・・』











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ver.1.00- 1998+06/14公開
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 P−31さんの『It's a Beautiful World』第3話Bパ−ト、公開です。





 いや、なんてうか、

 こまっしゃくれたガキですね、シンジって(^^;



 能力はあるし、
 判断も正しいんでしょうけど、


 わかった顔で自分の正論を吐く人って
 嫌がられるのがこの世の常(爆)



 外側は14歳のコドナですし、
 浮いちゃわないか、その辺が心配。


 気のおけない友人は・・・難しいかもしれない・・・




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