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少年はホームにいた。

10年前とは違い、見送ってくれる人がいた。

「シンジ、もう泣くな」シンジにとっての「先生」野分ユウジはがっしりとした体を揺す

りながら、荒っぽくシンジの頭をなでた。

「先生・・・・」そうは言われても簡単に彼の涙は止まらないようだ、今も彼の両目から

は涙があふれ出していた。

「今生の別れってわけじゃないんだ、またこっちにも遊びにくればいい。近いしな。」

シンジがこれから行くのは第三新東京市。父親のいるところだ。

3日前届いた、『来い    碇ゲンドウ』という簡潔きわまりない手紙に呼び出されたのだ。

甲府市からは快速リニアで1時間半、行き来は十分可能な距離だ。

だが、シンジには約10年間一緒にいた、この逞しく、力強い保護者から離れるのがことのほか 
       

悲しいらしい。涙はまだ止まらない。

「シンジ」ユウジはしゃがみ込みシンジと目の高さを合わせた。

「男はな、なにがあっても涙は流さないものだ。本物の男はそうするぞ」

ユウジは口調は厳しく、だが瞳には優しさを湛えながら諭す。

シンジは目をゴシゴシこすりながら

「・・・・泣いちゃいけないんですか?」

「泣いていいのは1回だけだ、それ以外は泣くな」ユウジはやはりシンジの頭をなでなが

ら口調もやさしくなる。

「1回って、どんなときですか?」なんとか涙は収まったシンジだが、まだ目は真っ赤だ
「それはな・・・・・・」ユウジは少しだけ遠い目をする。

「・・・・・・・・・・」そんなユウジをただじっと見つめるシンジ。

「自分で見つけるんだ」ユウジは遠い目をしたまま答えた。

「自分で見つける?泣くときを?」訳が分からないという感じのシンジ。

「泣きたいとき、悲しいとき、失ったら悲しいモノを失ったとき、なにがあっても守りた

いモノを守りきれなかったとき」ユウジはシンジに諭した、だがその目はなにを見つめて

いるのだろう?

さすがにシンジは人の表情からなにかを読みとるにはまだ若かった。

「つまり・・・・なにがあっても守りたいと思うモノを見つけろ?」

いまやシンジは笑みさえ浮かべていた。

ユウジもシンジに微笑みかけ

「正解だ、シンジ」

シンジはますます笑みを大きくした。

《第三新東京行き、かいじ3号まもなく発車します》

構内のスピーカーが別れが近いことを告げる。

「じゃあ、ひとまずお別れだな」

「先生!」

「ん?」

「僕の父さんは1人だけど、でも!先生も僕の父さんです!・・・・・・・・・・・・いってきます!父さん!」 

シンジは涙を必死で堪えながら、笑みを浮かべた。

「ああ、いってこいシンジ、おまえは俺の息子だということを忘れるなよ」

ユウジは今までで最高の笑顔をシンジに向けた。

「はい!」シンジは笑顔で元気よく答えると振り向きリニアに飛び乗る。

プシュー・・・

シンジが飛び乗ると同時にドアが閉まり、リニアは動き始めた。

ユウジはリニアが見えなくなるまでそこにいた。

「父さん・・・・・か」ユウジは低くつぶやく

「あの時、望んでも得られなかったモノがこんな形で得られるとは・・・」

「人生ってのは・・・おもしろいな・・・」

そしてユウジは駅から立ち去るために歩き始めた。





                         It’s a

Beautiful
                                    orld
World:1「Alamo’s People」
(A−part)

シンジは途方に暮れていた。

なぜか?

まず、リニアが停車駅ではない駅に止まり、

《特別非常事態宣言が発令されました、列車の運行を一時停止させていただきます》

と、あまりにも無責任なアナウンスが流れ、リニアを放り出されてしまった。

先方と連絡をとろうにも電話も使えない、第三新東京市までは十数キロある・・・

途方に暮れている割にはおちついて

「さて、どうしようかな?・・・・・・」





シンジがいる場所から直線距離で約5キロの国道を1台の青いスポーツカーが走っていた。

周りには動いているものは無い。特別非常事態宣言とはこのような状態を強要するのだ。

それのハンドルを握るのはタイトな服を着込んだ、ナイスバディな妙齢の女性。

「よりによってこんな時に見失うだなんて・・・参ったわねえ・・・」

その車のナヴィ・シートにはいくつかの書類とシンジの写真があった。




シンジは写真を見ていた。父親の手紙(といえるかどうか解らないが)に同封されていた

ものだ。写真にはピースサインをした女性が写っており、キスマークなどと共に《私が迎えに行くから

待っててネ》と書き込んであった。

「待ち合わせは無理か・・・しょうがないシェルターへ行こう」

その時、視界の端に制服を着た少女が見えた。が、飛び立つ鳥に気を取られているとその

少女は見えなくなっていた。

「・・・幻?・・・・・」

グワアン!

突然、大音響が響きわたった。シャッターは震え、電線は大きく揺れている。

耳を押さえて大音響をやり過ごしたシンジ。

『な・・・なんだ!?』もっともな疑問であろう、そしてその解答は向こうからやって来た。

山裾から姿を現すいくつものVTOL重戦闘機、そして・・・・・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

シンジは呆然としていた。無理もない。それを何かにたとえるならば、

《人間になれなかった人間》というのが一番しっくりくるだろう。

細く長い手足、仮面のような顔(かどうかは解らないが)。人ではないとわかりつつも人

をイメージしてしまう。そんなカタチをしていた。

そして、何処にいたのか全くわからなかった国連軍による総攻撃が始まる。この世が無く

なるような激しい攻撃にも《それ》はダメージを受けた様子は無かった。

そして、無造作に右腕を伸ばすと、光の槍らしきモノが飛び出て重戦闘機を一撃で屠った

コントロールを失った重戦闘機はシンジの目の前に墜落し、さらに《それ》に踏みつぶされる。

「まずい!」爆風が来る事を直感的に感じ取ったシンジは伏せようとしたが、それより早

く目の前に青い車が滑り込んでくる。

ドン!

案の定爆発したが、シンジが被るはずの爆風は青い車が受け止めたようだ。

「ごめーん、おまたせ!」そこには先ほどの妙齢の女性がサングラス越しに笑みを浮かべていた。

それからの展開は(シンジにとっては)急激だった。

這々の体で《それの》足元から逃げ出し、弾幕射撃の下をかいくぐり、やっと安全地帯と思わ

れる丘の上まで逃げてきたのはよかったのだが・・・・

「ちょっと・・・まさか・・・N2地雷をつかうわけえ!?・・・」


今度は車ごと吹き飛ばされた・・・・・





そして、横倒しになった車を直すと

「どうもありがとう、助かったわ」女性はシンジに礼をいう。

「いえ、僕の方こそ。葛城さん」シンジは女性に礼を返した。当然だった。あの状況、シンジは自分なら

死にはしないだろうと考えていたが、負傷は避けられなかったはずだ。それが今、かすり傷ひとつ無い

状態でここにいるのはこの葛城と呼ばれた女性が危険をかえりみず迎えに来てくれたお陰だ。

そう考えるとシンジは感謝を込めた言葉をもうひとつ重ねた。

あんな所まで迎えに来てもらって、本当にありがとうございました」シンジは丁寧に頭を下げた。

「いいのよお、それからアタシの事はミサトでいいからね」ミサト−葛城ミサトは手をぶんぶん振りながら

(照れているのだろうか?)そう答えた。

「あらためて、よろしくね。碇シンジ君」ミサトはサングラスをはずしシンジの瞳を見て言った。

「はい!」シンジはやはり瞳を見返して元気よく答えた。






「ええ、心配ご無用、彼は最優先で保護してるわよ」どこら辺が最優先なのかわからないが、ミサトは自

動車電話にそう話しかけた。その他にも、カートレインがどうこう言っていたが、シンジはとりあえず自分

に関係ないらしいと判断したので、聞き流すことに決めた

それよりも気になることがシンジにはあった。

「ミサトさん、いーんですか?こんなことして・・・ドロボーですよこれじゃ」

シンジはシートの後ろに積み上げられたバッテリーの山を見ながら尋ねる。

「あーぁ、いーのいーの。今は非常時だし車動かなきゃしょーがないでしょ?それにアタシこー見えても

国際公務員だしね、万事オッケーよん」

いかにも楽しげに(言い換えれば無責任に顔を付けたような)表情でミサトは答えた。

シンジはそれをジト目でみながら

「説得力皆無の言い訳ですね」と、なかなかキツイことをいう。

「つまんないの・・・カワイイ顔して意外と落ち着いてんのね」

本当につまらなさそうな顔をしてミサトはぐちる。

「カワイイかどうかは知りませんが、《どんな時でも冷静でいろ》って教えられたんです。先生から。」

シンジはこんな事何でもない、という風にさらっと流した。

「へえ、いい先生なのね」

「はい」




《ゲートが閉まります、ご注意ください》




機械の合成音がそう告げると、分厚いゲートが幾重にも閉まり車ごと乗り込んだ列車が動いた。

「特務機関ネルフ?」シンジが怪訝そうな声で尋ねる。

「そ、国連直属の非公開組織」

「・・・・父のいるところですね」シンジは少しだけ声音に何かを含ませて確認した。

「ま・ねー、お父さんの仕事知ってる?」ミサトの声はどこまでも軽く感じられる。

「人類を守る大事な仕事・・・らしいと先生は言ってました」

「らしい・・・?」ミサトは首を少し傾げる。

「続きがあるんですよ」シンジはミサトに笑みを向けながら話す。

「『人類を守る大事な仕事らしいが、俺は知らん。見た訳じゃないからな。シンジ、物事を判断するにはまず自分の目でみて、それから判断しろ』って言ってたんです」

ミサトは感心したようすで

「ホントにいい先生だったみたいね」

「はい!」純粋な、というのが一番似合う笑みをシンジはミサトに見せた。

「・・・・・・・・・・・・・」それを見てすこーしだけ頬が紅くなるミサト。

『カワイくて、芯はしっかりしてて・・・アタシがもうちょっと若けりゃーねー』

「これから父の所へ行くんですか?」シンジは僅かに不安げな響きをにじませる。

「そーね、そーなるわね」さすが年の功、ミサトは微妙な声音の違いを聞き取っていた。

「あぁ、そーだ。お父さんからID貰ってない?」

「あ、はい」シンジはバックをごそごそやると、1枚の紙とそれにクリップで挟んであるカードを取り出して

ミサトに渡した。

「ありがと・・・・じゃあ、これ読んどいて」そういってミサトは1冊の薄手の本を渡す

「ようこそNERV江??」シンジは、

『これを作った人はどんなセンスをしているんだろう?』と本気で思った。そして

「なんかするんですか?僕が」

ミサトは車の天井を見上げたまま、何も喋らない。

「まったく、14歳の中学生を働かせないでほしいなあ」シンジがぐちる。

「14歳でなきゃ駄目なのよ・・・」

ミサトの低いつぶやきはシンジの耳には届かなかった・・・・

やがて、カートレインは長かったトンネルを抜けた。

眼前の光景はシンジを驚かせるのに十分だった。

「凄い!本当にジオフロントだ!」シンジはこればかりは14歳らしい純粋な驚きを浮かべた。

「ジオフロント、見るのは初めて?」

「ええ、可能性としてはありえるなんて論文・・・いや話は聞いた事がありましたけど」

シンジは途中、ちょっと慌てたように答えた。

「??まあいいわ。これがアタシ達の秘密基地、ネルフ本部。世界再建の要、人類の砦と

なるところよ」ミサトは、シンジの言葉にちょっと疑問を覚えたが、すぐに忘れ、すこし

誇らしげにこの場所が何であるかを話した。

「砦?じゃあここは21世紀のアラモですか」シンジは窓の外の光景を見ながら呟く。

「うまい事言うわねえ、でもこのアラモは絶対に陥落しないわ」

「・・・・・・・・・・・」シンジは答える術は持っていない、何も知らないのだから。



『そして、おそらく・・・・』ミサトはシンジの横顔を見ながら思った。



『このアラモにおけるデビー・クロケットは・・・・』









『あなたよ、シンジ君』

to be continue・・・




NEXT
ver.-1.00 1998+04/18 公開
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

《あとがき》

こんにちわ。

P−31です。

第一話、Aパートをお届けします。

本当はなんとかひとつに纏めたかったんですが・・・だめでした。

構成力の無さを痛感しております。

さて、いかがだったでしょうか?

後半にきて、駆け足になってしまった感は否めません(わかってたら直せよ・・・)

反省します。

さて、次回はシンジ君の秘密(その1)が明かされます。

乞う!ご期待!(してねえって・・・)

私も早くアスカさまにお出まし願いたいんで、なるべく早く更新します。

少しだけ(どのくらいだ?)お待ち下さい。

それでは・・・・・・・・・・





 P−31さんの『It's a Beautiful World』第1話、公開です。



 今回の新規ご入居作品には、
 ”TV版のストーリ準拠”物が多いです。

 3日間で何回も[使徒襲来]を読んで、
 頭の中が混乱しまくっています(爆)




 ここのシンジくんは
  良い先生、
  良いお父さんに
 恵まれて、


 明るいしっかりした子になっていますね。


 EVAに乗ることになったとき、
 使徒と対したとき、

 どういう行動をとるのかな。

 武道家だけに一撃必殺?!



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