これがアタシ達の秘密基地、ネルフ本部。世界再建の要、人類の砦となる所よ」
ミサトは、シンジの言葉にちょっと疑問を覚えたが、すぐに忘れ、少し誇らしげにこの場所が何であるかを話した。
「砦?じゃあここは21世紀のアラモですか」シンジは窓の外の光景を見ながら呟く。
「うまい事言うわねえ、でもこのアラモは絶対に陥落しないわ」
「・・・・・・・・・・・」シンジは答える術は持っていない、何も知らないのだから。
『そして、おそらく・・・・』ミサトはシンジの横顔を見ながら思った。
『このアラモにおけるデビー・クロケットは・・・・』
『あなたよ、シンジ君』
「おっかしいなぁ・・・確かこの道のハズよねぇ・・・」ネルフ本部に入って45分、ミサトは完璧に迷子になっていた。
「ごめんね、まだ慣れて無くて」手に持つ地図に目をやりながら言い訳するミサト。
「ここ通るの、4回目ですよ・・・?」シンジはパンフレットから目を離さずに呟く。
ちょっとブルーになるミサト。
「でも大丈夫!システムは利用するために有るものね」
「システムに振り回されてませんか?」涼しい顔でトドメを刺すシンジ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
《技術局1課E計画担当の赤木リツコ博士、赤木リツコ博士 至急作戦部第1課葛城ミサト一尉までご連絡下さい》
一人の女性がプールから上がる。
ボンベ、レギュレーター、フィン。
装備を見ると、このプールに潜っていたようだ。
さらに、ウエットスーツも脱いだ。
マスクをはずしたその容貌は、美しいがどこか冷たさを感じさせる。
クールビューティーという言葉は彼女の為にあるのだろう。
「・・・・・・呆れた・・・また迷ったわね・・・」
彼女はそう呟くと、そこから立ち去るべく歩き始めた。
その後ろには紅いプールが広がっていた・・・
ゴオゥン・・・・・・・上がるエレベーター・・・・・
中にいるのはシンジとミサト。シンジはパンフから目を離していない。
チン・・・・・・・・・・・・止まるエレベーター・・・・開くドアの向こうに立っていたのは先程のクールビューティー。
「!?・・・・・あら・・・リツコ・・・・」クールビューティー 赤木リツコ博士を見て、ビビるミサト。
リツコはその視線でミサトを押しのけながらエレベーターに乗る。
リツコの格好は、ハイレグの水着の上に白衣1枚。なかなかに刺激的な格好である。
「なにやってたの?葛城一尉、人手も無ければ時間も無いのよ」瞳に冷たいものを含ませてリツコは問いかける。
無論、これぐらいで怯むミサトではない。
「・・・ごめん!」片手で拝みながら片目をつむる。
「フゥ・・・・・」リツコはため息を一つつくと、シンジに視線を向ける。
「例の男の子?」
「そ、マルドゥックの報告書によるサードチルドレン」
「よろしくね、碇シンジ博士」リツコは最重要情報をサラッと流す。
「!?・・・・・・・え・・・・・・・・・」ちょっとうろたえるシンジ。
「親に似ずしっかりした子よ・・・って・・・博士・・・・?・・・・・・・・・・・えええぇ!?」
ミサトは驚愕のあまり口をパクパクさせている。
「ミサト・・・・・・・・・・・・あなた、彼に関する資料読んだの?」リツコがジト目で尋ねる。
「あははは・・・・・・一応・・」笑ってごまかすミサト。
「はぁ・・・どうせ斜め読みでしょう・・・・・・・・彼はね、11歳でハーバードを卒業してそのあと2年で心理学の博士号をとったのよ。」
「シンジ君、ホント!?」シンジに詰め寄るミサト。
シンジはミサトの剣幕にちょっとたじろぎながら、
「ええ・・・インターネットでの教育ですが・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」やっぱり言葉が出ないミサト。
「ホント、天才なんて言葉が陳腐に思えるわね」リツコが溜息と共に(なぜか)うっとりとしたまなざしを向ける。
「あのー・・・なぜ知っているんですか?・・・・秘密にしていたのに・・・」
「ごめんなさいね、あなたのコトは調べさせてもらったの。細大漏らさずにね」リツコはちょっとだけすまなそうに答えた。
「・・・・・・・・・・・・・・」シンジは少しだけ顔をしかめた。当然だろう、自分の事を根掘り葉掘り調べられて嬉しい訳がない。
ミサトは不思議そうに、
「なんで?大威張りで自慢できるコトじゃない」
「『世の中の人間の8割は外見と不正確な情報で物事を判断する。人の内面が解る人間はさらに少ないな』って、先生が言ってたんです」
「なるほど・・・ま、確かにその通りね」ミサトが感心したように呟いた。
エスカレーターが動き、シンジ達三人は上に登っていく。
シンジはその間もパンフを読み続ける。
傍らで、ミサトとリツコが会話をしている。
時折、「動くの?」とか「0,000000001%」などといった声が聞こえてくるが、シンジはそれを意識の底に沈め、別な事を考えていた。
『父さんは僕に何をさせるつもりなんだ?』
さすがのシンジも、これから行く先にその疑問の回答があるとは思わなかった・・・・・・・・・・
やがて三人は暗く、広い場所に出る。
「あれ?真っ暗ですよ?」シンジが何も見えない周りを見回す。
そして、同時に全ての照明が点灯する・・・・・・・・・・
そこには、紫色の鬼がいた・・・・・・・・・・
「顔・・・・・?・・・・・・・・・巨大ロボット?」
自分の考えを口に出すシンジ。確かに見ただけならそうとしか思えない。
しかし、リツコがその考えを否定する。
「違うわ、人の作り出した究極の汎用決戦兵器。人造人間エヴァンゲリオン。その初号機よ」
「決戦兵器?人造人間?・・・・・・・・正気の沙汰じゃないですね」
シンジは自分がなぜここにいるか、なんとなくだが読めてきた。
「正気でもなんでも、これが我々人類の最後の切り札なのよ」リツコは紫の鬼 エヴァンゲリオン初号機を見上げながら呟く。
「これも、父の仕事ですか・・・・」
「そうだ」低い声が響きわたった。
初号機の頭のさらに上に人影が見える。
『父親・・・・・か・・・・・・・・』シンジは自分の実父、碇ゲンドウを見上げていた。
「久しぶりだな」ゲンドウは言葉に感情を込めていないように聞こえる。
「・・・・だね、父さん。何年ぶりかな?・・・・・」返すシンジの声にも感情は無かった。
ゲンドウは口元を歪めながら笑う。
「出撃・・・・・・・・・・」
「出撃!?零号機は凍結中でしょ?・・・・・・・・・・・・まさか、初号機を使うつもりなの?」
「他に道は無いわ」
「ちょっと!レイはまだ動かせないでしょ。パイロットがいないわよ」
『やっぱりシンジ君を乗せるつもりなのね・・・・』ミサトは心の奥で考えていた自分の想像を否定したかった。
黙って二人の会話を聞いていたシンジが口を開いた。
「僕でしょう・・・・」
「え!?・・・・・・・・」ハッとするミサト。
「僕にこれに乗ってさっきの奴と戦え、そう言いたいんでしょう?父さん」
「そうだ」
「なぜ、僕なの?」
「他の人間では無理だからな・・・・・・・・・」
シンジ冷笑を浮かべ、
「僕が断ったら?」
「大したことではない・・・・人類が滅亡するだけだ」ゲンドウは、本当に何でもない事だといわんばかりににさりげなく言う。
「・・・・・・・・・・・・・はあ?・・・・・・・・・・・・また、突拍子がないね・・・」シンジは心底呆れたように呟く。
「でも、事実よ」リツコが断言する。
「・・・・・・・・・・・・さっきの奴は何なんです?」シンジが疑問を口にする。
「我々はあれを『使徒』と呼んでいるわ」
「『使徒』・・・・・・・・・・・・」
「今はこれ以上話している暇は無いの。とにかくあなたが乗らなければあなたの大切な人、大切な物全てが失われるわ」
『大切な人・・・・・・・・・・』シンジの頭に浮かんだのはもう一人の父親の顔、それに・・・・・
「シンジ君、私達は強制はできないわ。だからお願い・・・乗ってちょうだい・・・」ミサトがシンジに頭を下げる。
シンジは少し考えた後、
「わかりました・・・乗ります。ただし・・・・・」
シンジは遙か高い所にいるゲンドウを見上げて
「後で話してもらうよ、父さん。色々とね」
シンジの答えを聞いたからか、ゲンドウは薄く笑った。
今、シンジはエヴァの中にいる。
正確にはエントリープラグのシートに座っている。
「いい?シンジ君。これから起動させるわ」リツコの声がエントリープラグに響く。
「わかりました。こちらでする事は?」
「とりあえず、今は何も無いわ。起動するまでそのまま待っていて」
「わかりました」
「思考形態は、日本語を基礎原則としてフィックス。・・・・・・・初期コンタクト、全て問題なし!」
《双方向回線、開きます・・・・・・シンクロ率・・・・・・・77,7%!?》ショートカットの女性のオペレーターが驚きの声を上げる。
「そんな!?・・・・・・いきなりの搭乗で70%オーバーだなんて!!・・・・・・」リツコが信じられないという様子でモニターの中のシンジを見る。
「リツコ、行けそう?」ミサトは腕を組んだまま顔も向けずにリツコに尋ねる。今のミサトは厳しい顔をしている。
「今のところはオールグリーン。問題ないわ」リツコもディスプレイから目を離さず答える。
「シンジ君、大丈夫?」ミサトが最後の確認をする。
「ええ・・・・ミサトさん?」
「なに?」
「19世紀のアラモの砦は元々何だったか知ってますか?」
「?????」ミサトは頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。
「元は伝道所だったらしいですよ・・・・・・・そして21世紀のアラモにはエヴァンゲリオン、冗談にしては良くできてますね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「すみません、大事なときに変なこと話して」シンジがモニターの中でちょっと頭を下げる。
「いいのよ・・・トンでもない事をお願いしたのはコッチだしね・・・・・・・・」そしてミサトは振り向いてゲンドウと視線を合わせると
「かまいませんね?」
「もちろんだ。使徒を倒さぬ限り、我々に未来は無い」ゲンドウは腕をデスクにつき、両手で口元を覆いながら答えた。
そのゲンドウの後ろに初老の男性が近づき、ゲンドウだけに聞こえるように囁く。
「碇、本当にこれでいいんだな」
ゲンドウはその問いには答えず、ただ薄く笑うだけだった・・・
そしてミサトが叫ぶ。
「発進!」
その声と共に初号機がリニアレールで打ち出される。
そして瞬く間に地上に紫の鬼が姿を現す。
眼前には『使徒』・・・・・・・・・・・・・・・・・
『シンジ君・・・死なないでよ』
あとがき(と言う名の言い訳)
みなさんこんにちは。P−31です。
第1話、Bパートをお届けします。
さて、今回で、ウチのシンジ君の大体の姿が出てきました(まだ完全に、ではありませんが)。
・・・・・・・・・・・知性溢れるシンジ君・・・・・・・・・・・うーん、萌える・・・・・・・・
でも、こんなシンジ君でもパーフェクトではありません。
ま、そこら辺はいずれ・・・・・・・・
えーと、拙い物書き(と言えるのか?)の作品を辛抱強く読んでいただいて有り難うございます。
感想等をいただければ、次回の励み、参考にさせていただきます。
率直なご意見もお待ちしております。
追伸(と言う名のごめんなさい)
アヤナミストのみなさん、ごめんなさい。
レイちゃん、出番ナシでした。
次回は(たぶん)出ます。
(注1)「アラモ」を知らない方へ
メキシコからのテキサス独立の時に独立軍が立て籠もった砦。
文中でシンジが言っているように、元は伝道所だった。
メキシコ軍の攻撃を受け、デビー・クロケット以下全員が戦死した。
現在のテキサス州、サン・アントニオ。
お手頃な資料は、ジョン・ウェイン主演の《The Alamo》
次回予告
シンジは使徒に勝つ。
だがそれは全ての始まりにすぎなかった・・・
父親に立ち向かうシンジ。
ミサトのショタコンは彼に触手を伸ばす!(嘘)
そして、シンジが心を許すのは?・・・・・・
次回、「コミニュケーション」
この次も、さーびす、さーびすぅ!