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ジオフロント研究都市、ゲヒルン大学付属マルドゥック学園。


「碇! 碇って! どこ行くんや、こんなええ天気にわき目もふらず」
「ジオフロントでいい天気もクソもあるか。六分儀先生の授業だよ」
「ひょー。あのつまらん比較言語学かいな。あいかわらずマジメにガクセーしとるのぉ」
「・・・好きで受けてるとでも思うか?
 とにかく、そう言うわけだから! トウジと予算の話をしている暇はないんだ」
 二重の意味で憮然たる表情を作り、長身痩躯の高校生は言い放った。
「・・・ん、んー? 何のことかいな、フフフ」
 つかつかと歩み去る高等部生徒会長。すさかず追いすがるプロレス同好会会長。
「まあ待てや、シンジ。予算のコトで悩んどるんはわかんねんけど、親友にそげな態度はないんちゃうか」
「もう誰も信じないぞ、僕は」
「シンジ! おまえの名前は「信じる」のシンジと違うんか。親御さんが草葉の陰で泣いとるでっ!」
「勝手に決めるな! ついでに殺すな」
「なー、シンジーぃ。たった一人で同好会を守り立てるワシの立場もわかってくれや。このままやったら、伝統の学祭戦もでけんのや」
「知らんわっ!」
「たとえ親友が所属してよーが、弱小は弱小ーでしょ。やっぱ予算は実力のある部に出すのがスジってものよ」
「出よったな、毛唐」
「このアスカ・ラングレーの所属するテニス部がいっちばーんよね!」
「・・・どーにかしてくれ、ったく」
 一声うめくと、シンジは足を速めた。
「せやから待ったってや、生徒会長って!」



 教室の扉を開けたシンジは、そのあまりの閑散たる様に一瞬立ちすくんだ。
「二回目の授業にしてこれか・・・」
「やれやれ、ガラッガラやな」
「六分儀の授業ってワケわかんないもの。あたしもサボろうかと思ってたわ」
「今からでも遅うないで、テニス部員」
「うるさいわよ、黒ジャージ」
「だれかこいつらを何とかしろ・・・
 って、トウジ。この授業取ってないだろ?」
「些細なコトや、気にすな」
 シンジはどこまでも憑いて来る二人にウンザリしながら、あまり講師と目が合わないであろう窓際の前から二番目に席を定める。と、そこへ黒髪をストレートにした女生徒が歩みよる。
「碇さん? 良かった、この授業は出ないかと思ってたから」
「やあ、山岸さん」
「今日のクラブ活動予算会議のことですけど」
「何よアンタ! 生徒会長は今テニス部の予算の話で忙しいのよ! だいたいあとから来て割り込むなんて何考えてんのよ」
「ちゃうやろ、プロレス同好会の・・・」
「外野、うるさい!」
「・・・・・・紹介しよう。山岸マユミさん、生徒会の役員だよ。ちなみに役職は会計だ」
「「げ」」
 凍りつく二人。にっこりと笑う二人。
「・・・さ、サギよ、サギだわそんなの! なんでそんな、授業の前なんかに会計と会長が話し合いなんてすんのよぉーっ!?」
 やや逆ギレ気味に取り乱すアスカ。

「ピーチクパーチクと五月蝿い連中だぜ、まったく」
 むっとして振り向く二、三年生たち。
「ンな話、教室ですんなよな。もうじき授業なんだからよ」
「たしかにちょっと浅ましいって感じよねー」
 マルドゥック学園でなく凱那高校の制服を着た少年少女がいた。マルドゥック学園と凱那高校は学際交流の一環として互いの授業を選択する権利を生徒に与えてはいるが、わざわざ人気のないこの授業を受けに来るとは物好きな連中である。
 ちなみにネルフ大学およびマルドゥック学園は国連が運営母体であり、凱那高校はジオフロント内にあるが、まぎれもなく日本の高校である。
「でもまあ、彼らも大変なのよ。あんたみたいに恵まれてはいないんだから」
「あ? どーゆー意味だよ、霧島ぁ」
「言ったとーりの意味よ、ムサシ。一年生でいきなし四番バッターになれるよな才能がある人間にゃわかんないって」
「気安く名前で呼び捨てしてんな!」
「んーじゃ、むっちーって呼ぼーか?」
「何だそりゃぁっ!」
 五限目開始のチャイムが鳴り響く中、たった今自分が言ったことなどすっかり忘れて騒ぎ立てる他校の一年生たち。
「何や、あのヨソもんは」
「どーにかしてくれ、ったく」
 頭を抱えるシンジだが、そこへさらに頭痛のネタを増やす一年生が登場する。


「おっはよーございまーす!
 ごめんなさーい、うさぎ遅れちゃったぁ。
 ・・・・・あれ? なんだまだ先生来てないじゃなーい。ラッキィ♪」
「もう午後だってーのよ」
 ぼそっと吐き捨てるアスカ。
「あっ、生徒会長さんだぁ。お隣いいですかぁ? んもううさぎのお友達みーんなサボリなんだもん、不真面目でしょ? ほんとはうさぎもサボりたかったんだけど♪」
「あぁ、そう」
 何と言って良いのやら・・・という顔をするシンジ。
「ゲーノー会のお仕事が大変で単位がヤバイってワケ? アイドルもつらいわねぇ」
「そーなの、もうたーいへん! でも優しい生徒会長さんもいるし、心配しないで」
「何がよ、何が」
「どっちかっつーと、シンジの方がつらそうやな」
「どーにかしてくれ・・・指導の葛城め、余計な仕事押し付けやがって・・・」



 六分儀ゲンドウは、10分遅れで教室に到着した。
「申し訳ない、すっかり遅くなってしまったな。
 さっそく授業を始める。今日は前回に引き続き、旧約聖書の言葉に見るオリエントの影響について・・・・・・む」
 言葉を切り、教室を見まわす六分儀ゲンドウ。
「さすがの六分儀も状況のヤバさに気づいたようね」
「この調子やったら講師クビになるで。ま、今年いっぱいってぇトコやな」
 ささやく生徒たちだが、ゲンドウはそんなもの歯牙にもかけない様子で怪しげな呟きを洩らしていた。
「ふん、7人か。いっそ8人なら・・・」
 と、その時、教室の扉が開け放たれた。
 あまりの空席の多さに授業が始まっていることに気づかないのか、それとも無視しているのか、闖入者は教壇横手の入り口から堂々と長広舌を述べ立てる。
「やあアスカ、こんなところにいたのかい。校舎を3棟も回ってやっと見つけたよ。いやはやまったく君という女性はひどい人だね、僕の心をこんなにももてあそんで。君のためにセッティングしたランチにも現れず、いつもは出ない授業に出ているなんて。いやいや、僕は責めるつもりはないよマイスイートハート。そんな仕打ちも、年頃の素直になれない恋心ゆえのものと思えば可愛いものさ」
 渚カヲル、いきなりの登場、いきなりの長ゼリフ。何かキャラクターが違っているような気もするが、気にするな。
アハ、マインゴット!
 独逸語で罵りの言葉を吐くアスカ。

「八人目か・・・(ニヤリ)」
 ゲンドウが浮かべた不気味な笑みを見て、シンジの背筋に悪寒が走った。
「素晴らしい。実にいい数だ」
「「「は?」」」
「よく来たな、そこの色男。
 諸君! 今日は授業にならないので・・・」
 すわ休講か、と期待した生徒たちは、しかし次の言葉を聞いたとたんに不平不満を音声変換した。
「フィールドワークに切り替える!」



「生徒会長さぁん」
「何とかしてよー」
「何で僕が・・・」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃないわよ、男でしょ」
 はぁあっ、とため息をつくシンジ。内心で、どうにかしてくれとお得意のセリフを呟きながら、乱暴な運転に揺れるマイクロバスの中を移動する。
「あのー、六分儀センセイ」
 何やらぎこちない口調である。
「これって、セントラルドグマへ向かうルートですよね」
「ああ」
「フィールドワークって、まさかドグマでやるんですか?」
「そうだ」
「でも、あれは軍事機密並のトップシークレットでしょ。おいそれと入れるわけが・・・」
「ふっ、問題はない」
「問題ないって言われても・・・」
「シンジ、私本来の専門は何だ?」
「・・・裏死海文書の解読です」
「そう。私はその分野における第一人者として(「そんな怪しい資料、研究するヤツが他にいるんなら見てみたいわよ」「言えとるな」「死海文書だって伝奇小説御用達なのに、さらに裏だぜ、裏」)A級研究者の権限を与えられておる」
「・・・それは意外でした」
「・・・・・・そうか」
 なにやら寂しそうなゲンドウだった。



 ジオフロント
 それは十五年前、群発地震によって発見された地下の大空洞である。
 その中心に存在する縦穴、セントラルドグマに存在していたのは異文明の科学技術が詰まったブラックボックスだった!
 調査と研究のために国連直属の研究都市が建築され、最先端の技術が投入された。

 しかし・・・今日に至るも、正体不明のジオフロントはやはり正体不明のままであった!

「十五年だ! このセントラルドグマが発見されて以来十五年間! 人類は未だ何一つ発見しておらん。今まで繰り返された幾多のアプローチ、その全てが誤りだったからだ」
「それで、私たちは何をすればいいんでしょう」
「これまでの調査と研究によって、ブラックボックス内部には八個の小部屋があることが確認されている。君たちはインカムをつけて、それぞれのユニットに入ってくれ。そこで私の指示を待てもらいたい」
 でも、と凱那の女子が疑問を示す。
「それって授業と何の関係があるんです?」
「ん? 授業?」
 何のこっちゃ、という顔をするゲンドウ。
「「「六分儀先生!?」」」
「む、それはだな・・・」
 ゲンドウは我に返ると素早く体勢を立て直す。
「そもそも授業に出席する人間が少ないのが問題なのだ。このままでは講座として成立するかどうかも危うい。
 根本的な問題として、コンピューターによるリアルタイムの音声認識・通訳が可能な現代において、この比較言語学と言う分野自体に興味を呼ぶ魅力に乏しいのだろう。
 そこで諸君の知的好奇心を刺激する目的で、授業の内容には直接関係はないが、私の研究や比較言語学の最先端と言うものに触れてもらおうと思ったわけだ。
 他に質問があるかね」
「今日出席しとる連中にソレやっても意味ないんちゃいますか」
「最低でも諸君は常連客として確保しておきたい。
 よければ友人たちに今日の体験を触れ回ってもらえるとなお有難いのだがな」
 説得力の有無、分析が妥当かどうか、あるいは教育者らしい発言と言えるや否や・・・等々ツッコミたいところは多々あるが、もっともらしい理屈をすらすらとひねくり出すゲンドウ。その口舌の巧みさはたかだか十数年の経験値しか持たない生徒たちの対抗しうるところではない。

 さらに具体的な「エサ」もゲンドウは用意していた。
「なお、このフィールドワークへの参加は成績をつける時の参考にするので、そのつもりで」
「はい、わかりました!」
「じゃ、行くわよあんたたち! さっさとしなさい!」
「インカムはこれだな。はい、受け取ったら電池が切れてないかチェックしてねー」
「ほな、あんじょう頼むで。特にアイドルは中で迷子にならんよーにな」
「ぶー。いーもん。うさぎ、生徒会長さんに案内してもらうから」
「月石さん、ちゃんと先生のお話聞いてたんですか?」




 同刻 木星軌道近傍
『サキエル様。地球まであと1/2大時間単位です』
「おお、ごくろうシャムシエル。今から艦橋に戻る」
『お待ちしております』
「ふふふ・・・待っているがいい、地球よ。その美しき大地も大空も全て、我らのものとなるのだ」




「これがセントラルドグマの内部かぁ・・・」
「ずいぶん楽しそうだね、ええと・・・」
「霧島マナ、凱那高校の一年生です」
「僕は碇シンジ。マルドゥックの三年生」
「それで、生徒会長さんなんですよね」
「ああ。まあアレだけ騒げば聞こえるか」
「何や、一人だけ自己紹介しよって。手ぇはやいのお」
「おいおい、ボーイフレンドの前でそんなことするもんかい」
「えっ!? そ、そーゆー関係なんですか? シンジさんとトウジさんって」
「は・・・?」
「あ、あ、アホかァ!」
「ぷぁっはっはっはっは、ナイスボケ! グートよアンタ!」
「いや、あのね・・・そこの凱那の彼が君のボーイフレンドだろうと言ったんだけど」
「え、ムサシ?」
「おいっ!」
「え? そうそう、君?」
「暁だ。オレは霧島なんかのカレシじゃねえぞ」
「ちょっとムサシ! その「なんか」ってのが引っかかるんだけど」
「だから名前で呼び捨てすんじゃねえ!」
「おやおや、悪い名前じゃないだと思うけどね。たしかムサシというのはこの国の剣豪の名前じゃなかったかな」
「だからヤなんだっての! 小学校の頃から宮本ムサシとか二刀流とかって呼ばれてみろ! 三日で名前を変えたくなるぜ」
「なるほど」
「にしてもナマイキね、アンタ。一年坊主のクセにタメ口利いて」
「うるせえ。だいたいガッコが違うじゃねえか。年上だからってセンパイってワケじゃねえだろ」
「そういう問題か、こら」
 何やら険悪な空気が漂いはじめたのを感じ、シンジは顔をしかめた。
(どーにかしてくれ、まったく)
 どうにもならないようであれば、シンジがどうにかしなければならなくなる。生徒会長などという役職に就いてしまったが因果だ。
 教師も保護者も、もちろん友人たちもそんな現状を何となく当たり前のことと思っている。でもシンジ自身は、あまり快く思っていない。
「あのぉ・・・」
「ん、何、山岸さん」
「そろそろ移動しまないと、遅くなりますよ」
「・・・そうだね。あの子はもう行ったみたいだし・・・まさか迷子になったりしてないだろうな?」
「よっしゃ、抜かりなや! 全ては我らが「単位」のために! やで」
「ま、モルモットにされてるっぽいけどねー」
「これで単位が貰えるんなら安いもんさ」
 生徒たちは三々五々、それぞれに割り振られたユニットへ至る通路に入ってゆく。
 三年生たちは問題が起こらないことを確認するために最後までその場に残った。
「二人とも、ありがとう」
「ん? 何がや」
「ケンカになりそうなのを、巧く話題を変えてくれて、さ」
 テレ隠しか、ぼりぼりと頭を掻くトウジ。もじもじするマユミ。
「べっつにそんなつもりあらへんて。それより皆無事行ったんかな」
「大丈夫みたいだね」
「悲鳴も聞こえてこないし、戻ってくる子もいないみたいです」
「よっしゃ、ほなワシらも行こか」



「よし。今のところ問題はないようだな」
「おおありです!」
 ゲンドウが占拠したサブコントロールルームに、生真面目そうな若い技術者が飛び込んできた。その後ろから、年は同じだが一歩後ろから事態を観察するような雰囲気の技術者が続く。
「伊吹君、いいところに来たな。そっちの端末を操作してくれ。私はモニターの回線をハッキングするので忙しい」
「い、一体何をしてるんです、何を!」
「無届けの実験なのでね。警備にいらん口を突っ込んで欲しくないだけだ」
「そんな無法が通っていいわけがないでしょう! ちゃんと申請書類を出してください!」
「思いついたのが今日なのでな。諺にも言うだろう、思い立ったが吉日と」
「そんな理屈がありますか!」
「いいじゃないか、マヤ」
「・・・・・・青葉さん?」
「オレは期待してたッスよ、六分儀先輩。あなたなら怠惰に停滞しきったこのプロジェクトにカツを入れてくれると!」
「青葉さんンンッ!?」
「くっくっく・・・私はいい後輩を持ったようだな」
 先ほどの描写を訂正しよう。彼、青葉シゲルは一歩引いた安全圏から火事場に花火を投げ込むような男であった。
 ちなみにシゲルは比較言語学とは縁もゆかりもないが、ジオフロントに来る前はK大で冬月教授の助手をしていたので、ゲンドウとは縁がある。
「上層部の老人どもが、私の仮説を笑うのは実地に試してからにして貰おうか。失敗しても連続記録のレコードが三桁に突入するだけだしな。一人で二桁失敗してる時田の申請が認められて、なぜ私には許可を下ろさん?
 まったく、コトが起きてしまってからでは遅いのだぞ」
「あのー、コトが起きるって・・・一体何が・・・」
「宇宙人の襲撃だ」
 あくまで真顔でゲンドウは言い放った。



『(ザッ)シンジ、そっちはどないなっとる?』
「インカムのスイッチは・・・これかな?(ザッ)トウジ。どうもこうも、多分そっちと同じさ。なんかタイルみたいなガラスみたいな壁が・・・・」
『(ザッ)あ、何だコレ送信もできるんじゃない』
『(ザッ)ちょっと生徒会長ッ!
「うわっ」
『き(ザッ)ゃっ』
『(ザッ)・・・』
『喧しいのぉ・・・』
なんでこのブリッコがここにいんのよ!
「なんでって・・・」
『(ザッ)わーん会長さぁん、助けてくださいぃ』
「月石うさぎ・・・」
 どうにかにしてくれ、とシンジはうめく。よりにもよって相性最悪の相手のところに迷い込むか?
『本気で迷子になってたんやな』
一人で勝手に先に行って入るトコ間違えたクセに、一人じゃ戻れないとか言うのよっ! この子の保護者、会長でしょ! 引き取ってよ!
「保護者ってあのな」
『ふみぃーん』
泣くなっ! 泣いて済んだら警察いらないわよっ!
「(あーっ、もう!)わかったから、二人とも少し待っててくれないか?」
『やー! うさぎちゃん、もうこの人と一緒にいたくないー!』
んですってぇ! こっちのセリフよこのバカ!
「・・・・・・」
『アスカさん、少し落ち着いて! あなたの方が年上なんですから』
『マルドゥックみたいなお坊ちゃん学校にもイジメってあるんだな』
『イジメぇ? 何よソレ。だいたいコイツが我侭なのよ。アイドルだか何だか知らないけど、マジメに授業とか部活とかヤル気がないなら学校こなきゃいいでしょ! 高校は義務教育じゃないんだから』
『アイドルだぁ? 今時かよ?』
『暁君は知らないかい? まあ知ってても得はしないけれどね。昭和60年代ならまだしも、10代のシンガーソングライターだって活躍している昨今にこんなトーキングのウィットやエスプリはおろか、基本的な歌唱力さえない見てくれだけの歌手が大手を振ってのさばっていると言うのもお寒い話ではある』
『な、なんかよくわかんないけどうさぎの悪口言ってるぅ』
『ああ、そうだとも。歌はヒトの作り出した文化の極みだよ。たとえ文字を持たない文明であっても歌は持っていたのだからね。
 それを侮辱する君たちのようなアイドルなんて、この世界に存在する意義がないどころか百害あって一利なしとだ僕は思っているよ』
 ・・・・・・どうにかしてくれ。
『それより、暁ぃ。ワシは「お坊ちゃん学校」ってとこが気になるんやけどな』
『んだよ、違うってのか? 国連直属のガッコなんてよ』
 凱那はジオフロント内部の各種施設に勤務する職員の子供のために立てられた学校である。そこに通う生徒には、留学生や国内外の研究者の子女が多いマルドゥックに対し嫉妬や反発を抱く者も少なくない。
『ワシのどこが坊ちゃんやっちゅーねん』
 別に腹を立ててはいない、おどけたトウジの口調に、シンジはここはトウジに任せてよさそうだと判断し、月石うさぎを引き取りに行くことにした。
 ・・・・・・逃げ出したと言うほうが近い。
『別にワシらエリートってわけやあらへんで。英語かってリアルタイムの翻訳機があるさかい、別に話せへんし・・・・・・』



「ジオフロントにガイドブックはない。当たり前だ、それらはすでに存在しているのだから」
「それが裏死海文書だと?」
「それらのうちの一つが、だ。
 彼らは我々に対し、少なくとも建前上は公正な決闘を挑んでくる。そのために武器を与え、幾通りもの方法でマニュアルやルールブックを残しているのだ」
「でも、それはちょっと誇大妄想的じゃありませんか?」
「妄想だと?」
 ぎろり、と眼光鋭く睨みつけるゲンドウ。その「裏で二、三人は殺してます」的に893な視線におびえてすくみ上がるマヤ。
 しかし意外にもゲンドウは静かな口調で言った。
「いかにもその通りだ、今の段階ではな。だからこそ試すのだ。
(ザッ)諸君! 全員揃ったか?」
『今、揃ったところです』
「今? 随分かかったな」
 さんざん待たせておいて、凄まじい言いぐさである。
『・・・さっき迷子が出たんです』
「待たせてすまなかったな。では・・・」
 BEEEEEEEEEEEEEP!
「・・・何だこの警報は」
「ちょっと待ってください・・・・・・衛星軌道上に未確認飛行物体?」
「・・・・・・え?」
「ついに来たか! せめてあと一日欲しかったが。
 それともかろうじて間に合ったと感謝すべきか。(ザッ)と言うわけで諸君、覚悟はいいか!?」
『なにが、とゆーわけで、なのさ!? 一体何の覚悟だって?』
『おい、シンジ・・・キレたんか?』
『え? いや、別に・・・』
「うむ、すまんすまん。私こそ興奮してしまったようだ。実はな」
「先輩・・・非常にマズイです」
「ええい、何だ?」
「衛星軌道上で円盤から射出された3つの物体が消滅。光学的なステルスではなく、空間転移を行ったようです」
「なぜ、そう言い切れる?」
「そのうち一つが出現したからです。ここ(ドグマ)の真上に」
「何ぃ!」




『地球の諸君、どうやら無事にカプセルを発見できたようで何よりだ。これで正々堂々の決闘を行うことができるというもの』
 ジオフロントの中央、ドグマ上空に出現した異星人のマシンから大音量が流れ出した。
『我が名はA.D.A.M.連合体の代戦騎士サキエル。我が祖国の名において、ここに地球の占有権を主張する! 地球人類が拒むなら、銀河連邦法のもと我を退けよ!』




『な』
『な、なな』
『『『何ですかアレはーっ!?』』』
「落ち着け、諸君」
『これが落ち着いていられるかーっ!』
『ジョーダンじゃねーぞコラァ!』
「単位、やらんぞ」
 しーん
「いいか、私独自の調査と研究が正しければ、銀河連邦法の決闘関連の項目によれば、挑戦から戦闘までは現地時間で七自転期の猶予が必要なのだ。戦ってくれとは言わん。ただ挑戦に応じると言う意思表明をするだけでいい!」
 やはりゲンドウも焦っているのか、いきなり具体的すぎる説明を始めてしまう。何の予備知識もない学徒には理解しようのない説明を。



『もう、六文儀の言ってることなんてワケわかんないわよーっ』
『会長、何のことかわかりますか?』
『会長さん、うさぎ怖いよぉー』
『シンジぃ、何とかならんか』
「なんで僕に言うかな、みんな?」
『『『『『『だわでごっシてえはあんっーはンたがいは会ごジこは長めんさはんちんしはく会な長はしじさっはょかいゃはおないりーはのさせーはえ』』』』』』(←すでに聞き取れない)
 どうにかにしてくれ。
 トウジたちももうあてには出来ない。いっつもそうだ。最後の最後には僕が厄介ごとを押し付けられる。
 でもな、いくらなんでもこんなのはな、僕の手には負えないんだ!



「人望のある会長だなぁ」
「そうですか?」



『さあ! 戦うならば戦士よ! その姿を現すがいい!』
 どうにかしてくれ。

『うーむ、強い感情の爆発がキーになるはずなのだが。具体的にどうしたものか・・・用意してきたビデオテープが使える状況ではないしな』
 僕らを巻き込んだ張本人が、無責任なことを言っている。この男は・・・
 どうにかにしてくれ!

『どうした! 臆したか! 戦いもせず母星をあけわたすと言うのか!』
 ど・・・・
 ぶっつん

「誰か何とかしてくれーっ!」


 ついにブチ切れたシンジは、声を限りに絶叫した。
 いささか情けなくも後ろ向きなセリフではあるが・・・それはまさに魂の叫びだった。
 その時奇跡は起こった!
 ユニットの内部が光に満たされる。
「・・・えっ?」



「ああっ、ユニットが?」
「光ってる?」
「よくやったな、シンジ」
 八枚のモノリスから無数のグリッドが発生し、モノリス自体を取りこみ、一つの形を形成してゆく。
 一昔前のCGでよく見られた手法が、現実の光景として展開されていた。
「よし、管制室に連絡! ヘブンズドアーを開けさせろ!」
「はっ、はい!」
「それで、これからどうなるんです?」
「ふむ・・・シンジのイメージなのか、ユニットが元々そういうモノだったのかはわからんが・・・」
 ゲンドウは形作られてゆくフォルムを見て言った。
「巨大ロボットの誕生だな。
 なんなら汎用人型決戦兵器と呼んでもいいが」
 ロボットは膝を抱えた姿勢で、ドグマの縦穴を重力から解き放たれたようにゆっくりと浮上してゆく。
 ドグマの天井(ヘブンズドアー)から出てからも上昇は止まらず、ジオフロントの中央、異星人のメッセンジャーマシンの真前まで浮かび上がった。


To be continued!
ver.-1.00 2001!06/26 公開
感想・質問・誤字情報などは t2phage@freemail.catnip.ne.jp まで!



『久しぶりだね、諸君。三年ぶりかね?』(ガーゴイル)

 ご無沙汰しております。滞納していた家賃(作品)を払いにきました、03;プリーチャーです。
 ついでと言ってはなんですが、旧作「GREAT FALL」の前中後編の手直しを行っておりますので、ご併読下さい。完結編はもうしばしお待ちを・・・


 今回のネタは「流星機ガクセイバー」です。
 このガクセイバーという作品、メディアミックスというやつで、ビデオと漫画とCDと小説が出ていますが、ここでは漫画寄りの設定で書いております。

 人物配置は
三年生 碇シンジ(緒方恵美) 鈴原トウジ(関智一) 山岸マユミ(氷上恭子)
二年生 惣流アスカ(宮村優子) 渚カヲル
一年生 霧島マナ(林原めぐみ) 暁ムサシ(佐々木望) 月石うさぎ(三石琴乃(笑))

 ツッコミが入る前に言ってしまいますが、ムサシの声優は筆者のプリーチャーのイメージによるもの・・・っつーか、ガクセイバーの佐々木健吾が佐々木望さんなのです。

 月石うさぎは、もうそのまんま某有名アニメのあのキャラです。性格はガクセイバーの安藤新菜そのまんまなのでバカ度400%アップ。ファンに石を投げられないか心配です(笑)。

 久しぶりにSSを書いたわけですが、周囲を見まわしてみると、すでにSSという単語が死語になっているような気配。FFでさえもう古い?
 時の流れに取り残された気分ですが、何年も投稿していない自分が悪い。自業自得。
 とはいえ、ものを書く、完成させるという行為がかなりしんどいものであるのも事実。精神的な燃料が必要なのです。
 次の投稿がまたウン年後にならないようがんばりますので・・・感想のメールを下さい、ぜひ。

敬具





 03;プリーチャーさんの『流星機エヴァンゲリオン』#1、公開です。





 宇宙からやってきたのは異星人。。

 なにやらルールに則った戦いを挑んできたようです。
 負けたら地球が乗っ取られちゃう〜



 つーことで、よろしくシンジ。
 面倒ごとは全て君の担当なのだ。

 学校内部から宇宙へ、
 広がる苦労
 終わらない苦行。

 格好いいロボで蹴散らせ敵を!


 たのみます☆





 さあ、訪問者のみなさん。
 新連載の03;プリーチャーさんに感想メールを送りましょう!






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