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[03;プリーチャー]の部屋
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「それで、これからどうなるんです?」
「ふむ・・・彼らのイメージなのか、ユニットが元々そういうモノだったのかはわからんが・・・」
ゲンドウは形作られてゆくフォルムを見て言った。
「巨大ロボットの誕生だな。
なんなら汎用人型決戦兵器と呼んでもいいが」
ロボットは膝を抱えた姿勢で、ドグマの縦穴を重力から解き放たれたようにゆっくりと浮上してゆく。
ドグマの天井(ヘブンズドアー)から出てからも上昇は止まらず、ジオフロントの中央、異星人のメッセンジャーマシンの真前まで浮かび上がった。
『おお! やはり来たか! そうでなければ面白くないと言うものだ。
では! 七日後の決戦を楽しみにしているぞ、地球の戦士よ!』
見栄だの、はたまた騎士道精神だのからの発言ではない、心底から嬉々としているような声であり、口調だった。
それきりメッセージマシンは沈黙した。回収されたわけでもなければ廃棄されたわけでもない。ただ沈黙とともにそこに在るだけ。いかなる周波数による通信にも、原始的なメガホンによる呼びかけさえ試みられたが、うんともすんとも言わなかった。
が、そんなことは学徒たちの知ったこっちゃなかった。
「お、落ちるーっ!?」
『どわーっ!』
『とと、止まってぇーっ!!』
『きゃあーっ!』
『浮けーっ!』
『飛べーっ!』
『あははははは!』
七つの声が響きわたる。
続いて轟音。
「ふむ、飛行能力はないようだが・・・着地には成功したようだな」
四つん這いに手足を踏ん張って着地した「汎用人型決戦兵器」を見て、ゲンドウは平然と呟いた。シゲルやマヤが硬直しているのとえらい違いだ。
「・・・ご自分の生徒のことは、心配じゃないんですか?」
「あのマシンは搭乗者の思念から抽出され設計されたのだ。彼らに危険があるものか」
「それにしたって、何でまた飛行能力をつけなかったんスかね?」
「・・・君はデビルマジンZを見たことがないのか?」
「はぁ。名前を聞いたことはありますけど、さすがに内容までは」
「ま、そんな歳ではないか。しかし・・・我々にスクランダーウィングを造れとでも言うのかな、あいつは」
外部の映像を映しているモニターを見て、マヤがぼそりと言った。
「あんまり、かっこよくありませんね」
これから戦場じゃなく工事現場に行くつもりなんじゃないかと言うような、オレンジ色のカラーリング。
まるでシオン公国のモビルフォース「ザック」のような一つ目玉。
河童の皿のようなレンズ(レーダー?)のはめ込まれた頭頂部。
異様にスリムな胴体。アンバランスに広い肩幅。猫背の立ち姿。
たしかに正統派のヒーローロボットとは言いがたい。どこか怨恨呪詛的殺戮機体スペクターの骸骨じみたシルエットを連想さえさせる。
「ふむ。シンジめ、子供の頃から私秘蔵のコレクションを見せてやったと言うのに、なぜあんな姿に」
流星機エヴァンゲリオン
2時限目「サキエルの挑戦」
「おい、また誰か来たみたいだぜ」
「おっ、あの金髪・・・赤木博士やないか」
「大物の登場だね」
押し込められた職員食堂の窓にはりついた一、二年生とトウジは、車やヘリで研究所に集ってくる人々を見物していた。
「なんで知ってんだよ」
「ジオフロントじゃ有名人やないか。自分、朝刊ぐらい読んどいたほうがええで」
「赤木リツコ博士って言えば、アレでしょ、なんか電子工学とか言語学とかバイオテクノロジーとか色々手を出してるお姉さん」
「お姉さんって歳やあらへん。けどいつ見ても美人やな」
「そんなトコしか見てないの? こぉれだから男の子ってバカなのよ」
「やぁっかましぃ!」
「やあ、それは性差別だね」
「ったくだ。そういうご自分はさぞかし頭がいいんでしょうね」
「もー、またケンカしてる」
「「ふう」」
窓から少し離れた椅子に腰掛けた三年生の残り2名は、双方同時に安堵の息をついた。
「まっとうな大人のかたが集っているみたいですね」
ちょっと複雑な表情をするシンジ。
「・・・・・・そうだね。きっと誰かがなんとかしてくれるだろう」
「これで私たち、お役御免になってくれればいいんですけど」
「変に頭の硬い老人には出てきてほしくないね。全員正座させられて説教を食らったりして」
「それは嫌ですね」
ずずー、と食堂の給湯器で煎れたほうじ茶をすする。もう夜も更けたこの時間帯、お茶よりも眠気ざましのコーヒーが欲しいところだ。
「・・・ところで月石さんはどうしたんですか?」
「番組があるとかで、日向さんとか言うマネージャーが連れてっちゃったよ。
機密保持とか、どうなるんだろう」
「さぁ・・・」
「まあいいか。どうせ彼女の乗ったモノリスは起動しなかったわけだし」
「部品が一つ足りないのに、よくロボットの形になりましたよね」
「どういう構造なんだろうね。ナノマシンか何かがロボットを作ってて、モノリス本体は材料にするための金属塊だったのかな?」
そのころ、ゲンドウたちがどうしていたかと言うと・・・・・・
第3小会議室の扉にはカギこそ下ろされていないものの、一歩でも廊下に出ようとすれば見張りが鋭い視線を浴びせてくる。
青葉は愛想笑い一つ残して首を引っ込めた。
「身動きできそうにないッスね、こりゃ」
「ふむ、やはりこうなったか」
急遽駆けつけて来た国連軍に監禁されている状況下にありながら、ゲンドウはあくまで冷静であった。
「やはり、じゃありませんよーっ! ああ、どうして私達まで」
「まあ、落ち着けよマヤ。こっちには切り札があるんだから」
「き、切り札って?」
「青葉君の言うのは、私以上に裏死海文書に精通している者が存在しないということだ。なにせほとんどの学者が資料価値さえ認めない、怪しげな本だったからな」
「しかたないっスよ。発見された状況が状況だけに」
「むしろ異常な状況で発見されたからこそ信憑性があるとは思わんか? 裏死海文書などという怪しげな名前のせいで誤解されるが・・・それは第一発見者の命名センスに問題があっただけだ。
死海の岩塩の中にメッセージが封入されていたこと、それが新品の酸性紙のプリントアウトで、岩塩の方は千年以上前に固まったものだったということはまぎれもない事実なのだからな」
「あなたたちがあれを動かした学生たちね。今後あれに関しては私が責任者になります。勝手な行動は慎んで、私の指示に従ってもらいますからそのつもりで」
「あ、赤木博士ですよね」
「リツコさん、ぐらいでいいわ。私は正式な博士号は持ってないし」
「え?」
「正式な論文の発表なんてしてませんから。世間がどう見ているかは知らないけれど」
「・・・そうなんですか?」
学会の権威なんて鼻にもひっかけないと言うことなのだろうか。それはそれでものすごい自信である。
「まず、あのロボットについては他言無用。すでに何か外部に話してしまったことがあれば、すなおに早めに申し出てちょうだい。こちらでしかるべく対処します」
「あ、それはご心配なく」
「あら」
「求めてトラブルに巻き込まれるほどバカじゃありませんよ、僕ら。職員の中には何か聞き出そうとした人もいましたけど」
「ヒラ職員に言えるような話じゃないってーのよ」
「惣流さん!」
「なかなか賢明な行動ね。
今回はとんでもないことにまきこんでしまったわね」
リツコの中の学生達に対する評価が少し上がったようだ。こころなしか、態度もやわらかくなっている。
「ええ、まあ・・・」
「私がもう少し早くここに戻っていれば、こんなムチャをさせたりはしなかったんだけど」
「そういえば、いるじゃない。アタシたちより問題ありそうなのが」
「え?」
「ほら、六分儀よ」
「言えてるね、それは」
「それなら心配ないわ。あんな無法者はすぐにも叩き出してしまいますから」
「・・・やっぱり、そういうことになるんですか」
シンジは、なぜか残念そうに言った。
「当然じゃない。いっそ叩き出すんじゃなしに刑務所に叩きこんで欲しいくらいだわ」
「そう単純にいくのかな? あの教師の政治工作のあくどさは、職員会議でもいかんなく発揮されているそうじゃないか」
「誰に聞いたんや、んな話」
「担当教員の尾室じゃない? あの先生、男のクセにお喋り好きだから」
「そう。僕にはあの教師が後先考えずに行動に出るようなタイプとは思えないな。
今回の一件だって、ブラックボックスの正体から宇宙人の侵攻まで、彼の予想は当たっていたわけだし、そうそう処罰もできないんじゃないか?」
「そうでもないよ。わりと成り行き任せに行動して、後から『全て計算通りだ』って威張ってるだけさ」
「なんでそんな裏事情まで知ってんだよ? 証拠でもあんの?」
「・・・ま、立場上色々と」
「へぇ、さっすが生徒会長サン」
「そう思ってもらってかまわないよ」
ムサシがまぜっかえすのに構わず、シンジはカヲルに言う。
「それにロボットが起動してしまった以上、もう言語学者は用済みだと思う。あとは機械屋さんのお仕事じゃないかな」
「ふむ・・・」
「そこの・・・えぇ、碇くんの言う通りね。
それに、ユニットを起動させたからといって違法な実験に目をつぶってしまっては結果オーライ主義もいいところよ。功をもって罰を償わせると言えば聞こえはいいけれど、私達が住んでるのはガンボーイの世界じゃないんだから」
「・・・ロボットは、いますけどね」
「ホントに、テレビアニメの世界で十分ですよ。ロボットが地球を守って戦うなんて」
学生達が情報を洩らしていないことを知り、安堵するリツコ。しかし、彼女のユニットだけ起動しなかったせいで皆すっかり忘れていたが、実験に参加した生徒はもう一人いたのである。
「もう一度聞くけど、うさぎちゃん。本当にこの・・・今日、いやもう昨日か、ジオフロントに出現したロボットに乗ってたのかい?」
「んーっとぉ、ちょっと違うけどぉ、同じようなことかなあ。
うさぎがいたのはロボットになる機械の中でぇ、でもその機械がロボットになったんだけど、うさぎの機械はろぼっとにならなくてぇ、だからぁ、えーっとぉ・・・」
やたら要領を得ない説明を解読しようと頭をひねる日向マネージャーとその上司。
「やれやれ、ニュースで流れてなきゃ信じられないとこよねえ」
『テレビをごらんの皆様! これは映画ではありません。信じられるでしょうか、巨大ロボットです。
ジオフロントより生中継でお送りしております、この映像はフィクションではありません。この目で見ている私もまだ信じられません!』
テレビのワイドショーでは、隠蔽しきれなかった情報がたれ流されていた。
ジオフロントのど真ん中に巨大ロボットがうずくまっているのだ。天井都市からも、周縁部のカートレインやモノレールの上からでも、地底湖の対岸からでさえロボットの姿は丸見えである。町中の住民に緘口令を布けるわけがない。
「あー、社長さんひどいー」
「あー、ごめんなさいね、うさぎちゃん。
それにしてもこの子がこれにねえ・・・」
「いや、しかし社長、これはいけますよ」
「はい?」
「日向さん?」
「新プロジェクトですよ社長! ここにきて今一つパッとしないうさぎを(月石うさぎ「なんですってぇ!?」)一躍スターダムにのし上げるための!
戦うアイドル! これです!」
「んー、いいんじゃないかしら?」
「そうと決まれば会議だ! 作曲家を押さえとけ!」
「研究所にコネのあるやつを探せ!」
「あっ、あのぉ、でもぉ、わたしぃ、実際にはロボットにはぁ・・・・ま、いっか」
本当にいいのかこの能天気娘。
シンジたちは研究所内に留め置かれ、本来仮眠・休憩室として使われていた部屋をあてがわれていた。
高校生から見れば贅沢なつくりで、休憩室にはテレビとソファだけでなくちょっとしたキッチンまでついている。仮眠室はおあつらえむきに四人が入れるものが二つ。風呂はシャワーがあって、これは一つしかないので男女で時間を区切って使うことにする。
「ちょっとした合宿状態だよね♪」
「ヘンな女」
「惣流さん!」
明るく言うマナにアスカが雑言を飛ばし、そこへマユミの叱責が飛ぶ。
本来そんな行動は引っ込み思案のマユミやシンジのキャラクターではないのだが、学生ばかりの集団で三年生ともなれば最上級生の自覚というものを働かせざるをえない。まして生徒会役員ともなれば。
ふたりとも根っ子の所が優等生タイプ・・・古き良き秩序に忠実なのだ。
「まあ、確かにヘンやで自分」
そんなことは気にしない者もいるが。
だからといって不真面目というわけでもなく、トウジの場合は儒教的に年長者に敬意を払うことを要求する学び舎のルールよりも、もっとざっくばらんな集団、たとえばさらに古き良き時代のガキ大将に率いられた子供達のしきたりの方が肌に合うのだろう。
それを不真面目と言うのだと、世の教師たちは主張するだろうが。
「研究所から外へは出れへんし、ケータイも没収、家に電話するのも許可がいるし、それも盗聴付きや! 二十四時間監視されとる」
「保護とは名ばかりの、ちょっとした軟禁状態ってところだねえ」
「せや。この状況でよおはしゃげるな」
「そーゆーヤツなんだよ、こいつは」
「あら、ご挨拶。じゃあ聞きますけど、問題が解決されるまで、皆で顔を見合わせて愚痴でもこぼしながら時間がたつのを待ってるつもり?」
「うっ・・・」
「・・・いいことを言うね」
シンジは微笑んだ。
前向きな考え方だった。彼の母親がここにいたらまさに同じことを言ったであろう。
「諺にも言うとおり、果報は寝て待てだ。ま、気楽に待とう」
しかし、さらに前向きな意見を持つ者もいる。
「あーっ、もう! 何を後向きなこと言ってんのよ!」
「!?」
「なぁにが『果報は寝て待て』よっ! あんた仮にも生徒会長なんだから、んな無責任なこと言ってんじゃないわよ!
このふざけ切った状況、どうにかしてやろうって思わないの!?」
「・・・どうにかって?」
「だからどうにかよ!」
「どうにか!?」
「どうにか・・・」
顔を見合わせる生徒会役員二人。
「どうにか?」
「どうにか♪」
奇妙な発音で同じ言葉を繰り返す。
「何か言いたいならハッキリ言ったらどう!」
腕を組んで背をそらし、見下すような視線を浴びせるアスカ。最上級生二人の状況に流されるままのなあなあぶりに心底いらだってる様子だ。
シンジが周囲を見まわすと、暁ムサシはアスカ側。トウジとカヲルは話のなりゆき次第という感じだ。
「なら聞くけど、具体的にどうしたいのかな?」
「あんたバカァ? そんなの決まってんじゃない。どうにかして普段通りの生活に戻るのよ!」
「戻ってどうする? 一週間後の決闘で地球が他の星のモノになるのを待つの?」
「・・・せやな。六分儀の話やと、ワシらはあのロボットにパイロットとして登録されとるそうやからな」
しぶしぶながらに頷くトウジ。
「ちょっと待ってくれないかい? まさか僕らが戦おうとでも? それこそ無謀というモノだよ」
「それはそうさ。実際に決闘に出るのは自衛隊なり国連軍なりのパイロットだろう。
でも、協力はしなきゃ。なにしろ、どうにかしてパイロットの登録を変更するなり解除するなりしないことには、本当に僕らが決闘に出るハメになるんだから。
最悪の来週よりはやや悪い明日のほうがマシじゃないか?」
「うーうーうー・・・
でも、どうしてよりによってあたしたちなの? やっぱりなっと(ぐぅー)・・・」
「なっとぐぅー?」
ばき
「くり返すなっ! これだからデリカシーのない男は嫌いなのよ!」
「グーで殴るよーな、しとやかさのない女がなにぬかす! でりかしいが聞いて呆れるわ!
けど、ワシも、なんか腹減ってもうたわ。考えてみたら夕飯を食いそこねとるさかいに」
「そうだね、何か食べるか。食堂の営業時間は何時までだっけ?」
「夕食どころか夜食の時間だよ。さすがにもうやっていないさ」
「キッチンは使えるらしいけど、材料はあるのかな?」
キッチンに移動する欠食児童たち。
「色々あるみたいですよ。缶詰がツナにコンビーフに煮魚に・・・野菜も、アスパラガスとかグリーンピースとか」
「あ、棚の中にパンがある。研究所の人が入れてくれたのかな」
「連中がここにいろって言ったんだから、それくらい当然よ。ありがたがることなんてない・・・・・ってゆーかぁ、貧相すぎるわこの食料っ! 冷凍庫はまだしも冷蔵庫にはミネラルウォーターと調味料だけじゃない! まさか非常食をテキトーに詰めこんだだけじゃないでしょうね!」
「冷凍食品やカップラーメンは豊富だね。あとは・・・ゆで卵まで凍らせてる・・・せめてもの栄養バランスということかな?」
「量も全然足りてねえって! 食べ盛りの高校生7人分だぜ? これっぽっちで足りてたまるもんかっつーの!」
三年生たちは・・・
「ワシも、冷凍お好み焼きなんて喰いたないで」
もとへ、食い意地の張ったトウジを除く三年生のシンジとマユミは、軟禁生活よりこっちのほうで胃に穴があきそうだとため息をついた。
「急なことだし研究所の人だって対応し切れなかったんでしょうから、しかたないじゃないですか」
「明日、係の人に言えばなんとかしてもらえるんじゃないかと思うよ」
「そうですよ、今はここにあるもので我慢しましょう」
「今のうちに要求の目録を作っておこうか。僕はせめてお米が欲しいね、レトルトや冷凍のご飯などではなく。ご飯こそ日本の食文化の基盤だよ」
「あ、俺は納豆ね。やっぱ朝はあれと生卵がねえとな」
「納豆〜? ワシはごめんやな」
「同感だわ。アンタなんかと意見が一致するのは不本意だけど」
「何やと!」
「ンだとォ! ヒトの食生活に文句つけてんじゃねえよ!」
「ハッ! 朝っぱらから納豆? 朝は目玉焼きとトーストよ!」
「ああ、なんてことだ! アスカ、君がパン党だったなんて!
僕も明日からそうしよう」
「渚、おのれというヤツぁ・・・食文化の基盤はどこ行ったんや?」
「(無視っ!)あ、パンはヤマザキのじゃダメだからね! 棚の中のパンはどこの?」
「安心せえ、パン屋のパンやで。花村ベーカリーっちゅう駅前の」
「今の、もしかしてシャレ?」
「つっ・・・つまんねー・・・」
「ちゃうって!」
「あそこのピクルスサンドは美味しいんだよねー。
よしっ、じゃあサンドイッチでも作ろう!」
やたら要求の多い面々の中、味方は君だけだ、とマナに涙する生徒会コンビ。しかしそれが意外だという者も中にはいて。
「はうっ!」
どんがらがっしゃーん、とものすごい音がした。
「!?」
何ごと、と思って振り向くと・・・
「きっ霧島が、だっ台所に立つと!? 信じられんっ!」
「・・・・ムサシ・・・・何年友達やってる?」
腰まで抜かして驚くムサシに、マナの右手の中で包丁がぎらっと光った。(声優ネタ・・・(汗))
「でも、予算会議の方はどうしましょう?」
「・・・とりあえず今はそのことは忘れよう。この状況下でトウジや惣流さんに詰め寄られたくないよ」
一方そのころ・・・
「サキエル様、こちらは?」
「うむ、ユーラハーンの慣らしを行うついでに狩って来た。30mはありそうな巨大な水棲動物の肉だ」
「まあっ、サキエル様みずからそのようなことをなさらずとも。一言おっしゃってくだされば私が調達してまいりましたのに」
宇宙を旅する者にとって、立ち寄った先の食材を賞味するのは主要な娯楽の一つである。たとえグルメ趣味のない者であってもそうならざるを得ない。長期に渡る宇宙生活ではどうしても食事がワンパターンに陥ってしまうからだ。
「そう硬くなるな、シャミイ。機体を慣らすついでだと言ったろう?
うっ!」
「サキエル様!? ま、まさか調理システムの故障!?」
「いや、大丈夫だ。慌てるな。ただ、固くて血生臭くて生臭かっただけだ」
調理システムには毒などをチェックする機能がついている。とは言え、美味不美味のチェックなど個人の嗜好による所が大きいものまでは調べられない。
「もう・・・驚かさないで下さい」
「いや、すまん、すまん。
うーむ、おかしいな。肉食獣ではないと思ったのだが」
・・・調理法が間違っているのである。鯨肉は部位はおろか切り方一つでさえ味を左右するのだ。
「ひょっとするとこの星では草食獣のほうが不味いのか? ゼルエル、次を出せ。黄色と黒の縞模様の獣だ」
平然と給仕ロボットに命じるサキエルだが、この男、無作為選出と思えないほど的確に保護動物を狙い撃ちしているようだ。
「それと、白黒ツートンカラーの獣の肉もな」
一方そのころ・・・
「タマゴサンドにキュウリってのは聞いたことあるけど、コンビーフにキュウリかあ?」
「あれ、食べたことない?」
「ねえ!」
「えー、ウッソだぁ。花村ベーカリーで売ってるよ?」
「あの店では時々新作と称して試作品を売ってるから、参考にならないよ。そもそもコンビーフのサンドイッチ自体、日本じゃマイナーという気もしないでもないね。パン屋はまだしも、コンビニではあまり見かけないだろう?」
「そう言えば、キュウリにマヨネーズつけて食うとメロンの味がするって言わんか?」
「なによそれ、貧乏クサいわねえ」
「知らねー。っつーか、絶対マヨネーズの味しかしねえって」
「異議なし」
「右に同じ」
この連中が宇宙人の食生活の実態を知れば、それだけで参戦を承知しそうな格差であった。
「マヨネーズはともかく、ウィスキーの水割りに薄切りのキュウリを加えて作るとメロンの風味がするらしいね」
「生徒会長は、未成年なのにどうしてそんなことを知っているんだい?」
「ははは、先生方に告げ口してもいいよ。指導の葛城がムダ話に教えてくれたことだから」
「ロクなこと教えないわね、あの女」
「ま、ええやんか。美人のすることや」
「何よそれ、理由になってないわよ!」
「・・・やっぱり男子は、ああいう女性の方が好みなんでしょうか?」
「うーん、やはりそうだね。ふくよかなバストは包容力の象徴だよ」
「ふーん、そう」
「妬いているのかい、アスカ」
「ンなわきゃないでしょ!」
「心配はいらないよ、あと5年もすれば君だって・・・」
「やかましいっつーの! ホルスタインじゃあるまいし、アタシはあんなみっともなくでかい胸なんて欲しくない!」
「俺は葛城って先公知らねえから」
「ぼん、きゅ、ぼんのダイナマイツバディの気さくな美人や」
「いわゆる年上の美人だね。ガンボーイのハマンさんとかマチルデ中尉とか、そういうタイプ」
「なるほど・・・」
「僕はイヤだな、ああいうタイプは。葛城先生は態度に裏表があるから」
「何をゆうとる! 教師なら、職業柄キビしいことも言わなならんこともある。そのつらい胸のうちが想像できんのか!」
「・・・やれやれ。ひいきのひきたおしだよ、そりゃ。
大体、年上の美人ってやつも何がいいんだか。言い方を変えればただの年増じゃないか」
「何を、このロリコンが!」
「誰がロリコンだっ!? 同年代の女の子を好きになる方が自然に決まってるだろう!」
言い争う男子。なぜか、騒ぎを止めもせず安心したような顔をしているマユミ。
それを見てにまっと笑うアスカとマナ。
「ふーん、そうゆうことかぁ」
「へえ、会長さんと山岸さんってそうなんだ?」
「えっ? あ、あの、いえ、そんな」
「いーからいーから、しっかりやんなさいよ!」
「ふたりとも仲良さそうだもん。もうひと押し、がんば!」
「・・・というわけでして、なにとぞ、ひとつご協力願えませんでしょうか・・・」
「ほう」
じろり、と日向マネージャーを睨むゲンドウ。奥方と喧嘩でもしたのか、顔に残る引っかき傷が痛々しい。
ここは六分儀ゲンドウの職場である。と言っても研究所ではなく学園の方だが。
一体どんな政治的魔術を行使したのやら、諸悪の根源は拘禁もされずに大手を振って表通りを歩いていた。
もっとも監視はされているが。この面会も表向きは「一介の生徒である月石うさぎのマネージャーが、教師であるゲンドウと今後の受講に関する相談をしに来た」ということになっている。
「で? 具体的にはどんなプランを立てているのかね?」
しばらくはおとなしく日向の説明を聞いていたゲンドウだが、やがてかぶりを振って却下する。
「駄目だ駄目だ。ただでさえ石頭のあの連中がそんなおちゃらけた企画に乗ると思うかね?
ジオフロント研究都市の上部組織は国連本部そのものだぞ。正攻法ではどうにもならんよ」
「は、はぁ。ではどうすれば・・・」
「既成事実を作ってしまうことだな。幸い、こちらには宇宙人との直接交渉という裏技が残されている」
ニヤリ、とどんな憤怒の形相よりも恐ろしい絶対零度の微笑みを浮かべるゲンドウ。
ひょっとしてとんでもない男と取引をしてしまったのではないか、といまさらながらに気づく日向。気分はほとんどファウスト博士である。
「さて、善は急げだ。まず宇宙人とコンタクトを試みよう。テレビ局なら放送衛星の一つや二つ、持っているのだろう?」
さて、2時限目です。
例によって公約違反。漫画版の設定で書くと言いながら、小説のネタを入れてしまいました。
いえね、古本屋の文庫本コーナーでガクセイバーを見つけてしまったもので(ついでに林原さんのエッセイも300円で買って、声優ネタの部分に使わせてもらいました)
次回はラジオドラマCDのネタも入るか? まあ、OVAのネタが入ることはないと思いますが。っつーかあのアニメは出来が悪すぎるってーの。
ちなみにガクセイバーの人間関係は
- 三年生
- 吉岡学(生徒会長)
- 藤井由美(会計だが二巻では書記と自己紹介。誤植か?)
- 杉山高明(相撲部)
- 二年生
- ジョージ細井(?)
- スーザン・ウォーカー(テニス部)
- 一年生
- 佐々木健吾(野球部)
- 安藤新菜(現役アイドル)
- 昭島里美(新体操部)
・学は里美が好きだが、晩生なので告白もまだしていない(OVAでは相思相愛)
・高明と学は親友
・高明はアイドルおたくらしいが、新菜には興味無し
・むしろ楽地星のころんと新しい出会いの予感が(ガンマ休刊(廃刊)につき予感のまま)
・ジョージはスーザンが好きで猛アタック中だが、相手にされてない
・健ちゃんは由美姉が好きだが、由美の方は子供扱いか天然ボケか判別しがたい
・ガンマ休刊間近のころに「新しい出会いの予感♪」なんて喜んでたのを見ると、やっぱり眼中にないらしい。がんばれ健ちゃん。
・健ちゃんは里美を変な女あつかいしてるが、里美の方は全然気にしてない
・新菜は「親切な会長さん」という認識で学になついている
・スーザンと高明は初登場時は仲が悪い
・最初の決闘の時点では、新菜以外のメンバーでチームワークに齟齬をきたすほど仲が悪い者はいない
・(OVAではスーザンがワーキュリー(宇宙人)と一騎討ちした高明に惚れこんでしまう)
ってことになってます。
で、この話では
- 三年生
- 碇シンジ(生徒会長)
- 山岸マユミ(会計)
- 鈴原トウジ(プロレス同好会)
- 一年生
- 暁ムサシ(野球部)
- 月石うさぎ(現役アイドル)
- 霧島マナ(水泳部)
人間関係もガクセイバーを再現しようとしたんですが、マユミ×ムサシは成立しようがないので無視していたら、気がつけば会長×会計に・・・あれ?
こんなことならゲームのキャラは使わず
- 二年生
- 碇シンジ(生徒会長)
- 洞木ヒカリ(書記)
- 相田ケンスケ(サバゲー同好会)
- 渚カヲル(帰宅部)
- 惣流アスカ(テニス部)
- 鈴原トウジ(野球部)
- 月石うさぎ(現役アイドル)
- リナレイ(水泳部)
とでもしておけば良かったか?
まあメインはラブコメでなく最終話のアクションですし、喋り方が似たキャラばかり(じゃねえ口調のムサシ(僕のイメージではそうだというだけで、設定上はどうか知らない)や、ですます口調のマユミの方が異質?)なので、書き分けにますます苦労することになった(実は今回もうまく出来なかったと思う部分が・・・)のは火を見るより明らかですし、これで良かったのでしょう。
それにしても、べつにマナがキライと言うわけじゃない(鋼鉄のガールフレンドは評価低。原作との整合性が・・・)のですが、うーむ、なぜこうなってしまったのやら。
・・・そーいやガンマが休刊する前(中学生だ!)から密かに学と由美ってお似合いではと考えていたっけ・・・原因はそれだな。中学生のころからの非公認カップル、マイナーカップル好きか、自分。同人腐女子と同レベルではないか、やれやれ。
さて、流星機エヴァンゲリオンも次回で締めです。サキエルの操る侵略機デ・ユーラハーンに対し、学生たちはどのように対抗するのか!? まるまる一話分使うのですから、それなりの激闘を用意するつもりですので、どうぞお待ち下さい。
ではまた。もうじき夏休みシーズンですが、楽しい休暇をお過ごし下さい。
敬具
追記:未完成のままほったらかしの「グレートフォール」は宇宙船を叩き返すとこまで執筆し、あとはオチだけです。でもそのオチの部分が一番難しかったりすると思う残暑の候。
03;プリーチャーさんの『流星機エヴァンゲリオン』#2、公開です。
腹が減っては戦が出来ぬ。
有り物で間に合わす地球軍
vs
貴重な食材を惜しげもなく使う異星軍
・・・・やばい。かも(笑)
いやいや、
出来上がった物を比べると、どちらもそれなり
いや、もしかしたら地球の物の方が美味いかもしれないし・・
大丈夫大丈夫!
さあ、訪問者のみなさん。
連載順調03;プリーチャー]さんに感想メールを送り送りましょう!
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