【 TOP 】 / 【 めぞん 】 / 今回で終りのはずが・・・ / 完結編1
「非常に危険な手ですが、着陸を回避する方法があります」
「何だと?」
アンドロイド・レイダーの淡々とした、それだけに重みのある発言に期待に満ちた視線が集中する。
「戦闘機動時に使用される慣性制御装置を反重力機関と接続して逆作動させれば、本艦を衛星軌道に復帰させられます」
その説明に合わせて簡単な概略図がホロスクリーンに表示される。
「なるほど、その手があったか・・・」
だがT2・ファージはその案の抱える問題点に気付いた。
「しかし、本艦ほどの大質量となれば・・・」
「はい、反重力作動時のジャンピングボードに地球の重力を使用する場合、地表ギリギリまで接近する必要があります。計算によれば必要な反重力効果を得るには対地高度42メートルまで接近しなければなりません」
「おいおい、墜落寸前じゃないか」
あまりに小さい数字に唖然となるリョージ・ライター。
「その通りです」
あっさりと首肯する少女の姿をしたアンドロイド。
だが、もはやそれ以外に取るべき手段がないのは、フユツキ・ピカドンをはじめ、そこにいる全員が理解していた。
GREAT FALL
後編
ミーティングルームではチルドレンの懇談会が急遽開催されていた。
パニックを起こした「転入生」を宥めるためである。
レイを見た二人はリツコが危惧した通り「やっぱり本当だったんだ!」と大混乱に陥ったが、遅れて(と言っても予定時間前なのだが)やって来たアスカとトウジ、それにシンジと話すうちに平静を取り戻しつつあった。
「へえ、おんしもバイオ義足なんか。慣れるまで苦労したやろ?」
あいかわらず怪しげな関西弁を駆使するトウジ。
「ええ、もうすっごく苦労しましたよぉ。最初は毎日幻肢痛が続いて眠れませんでした」
愚痴を言っている割に笑顔が明るい健気なナミに、こちらは意図的に明るく軽くライトに言うトウジ。
「せやろ、ワシもそうやったんや。おまけに反対側の足に無理させて関節炎まで出てしもうてな、妹もこないな目におうとるんかと思うと心配で心配でたまらんかったわ」
「妹さんも?」
「おう、まあ妹の方はそんなひどくなかったらしいけどな」
「それはわからないわ」
トウジの努力を無に帰すような、無感情な声。
付き合いの長いトウジでも時々人形じみていると思ってしまうレイの声に、ナミとシェラの顔が引きつる。
一瞬顔をしかめたアスカは、別の爆弾発言を投げ込んで二人の気をそらそうとする。
「そうねー。あの子、本当は痛くても大好きなお兄ちゃんに心配かけまいと「痛くない」って言っちゃいそうじゃない?」
「な、何を言うんや!」
「よしなよ二人とも!」
「本当のことよ」
ぼそっとトドメを刺すレイ。
もっとも最近は、本人もなかば意識して「感情のない女」をやっている節がある。
時折ちらっとはにかむ仕種を見せたりする方が、普段無表情な分その落差がきわだち、見る者に強く訴えかけるのである。
もちろんこの場合の「見る者」がシンジのことであるのは言うまでもあるまい。
しかし、この場合は逆効果だろう。まだ人間の心理を理解しきっていないようだ。
「綾波ぃ・・・」
ジト目で睨むシンジの視線に、レイの額に一筋の汗が流れた。
「な、なんか知っとるんか?」
「・・・・」
そう、こんな風に・・・・
ちょっと困ったような顔をして、「言っていいの?」と言うように上目づかい気味のアングルでシンジを見つめるレイ。
シンジが頬を赤らめると、心なしかレイの顔も紅潮する。
「あーもう、こんなとこでA.T.フィールド張ってんじゃないわよ! 言っちゃいなさいよ、途中まで言ってやめられたら、かえって不安になるわ」
「そう・・・リハビリをしてたナツミさんに、鈴原君のせいでうちの子が大怪我をしたのになんであんたが先に処置を受けるんだ、と言っていた人がいたの」
「・・・・」
まったく知らなかった妹の苦労にトウジは言葉もないようだった。
「そんな! 参号機の巻き添えを食った人なんていないじゃないか」
「あんたバカァ? どのチルドレンが乗ってたかなんてどうでもいいのよ、そういう卑しい輩にはさ。八つ当たりの相手が欲しいだけなんだから」
「そうやな・・・」
「でも、その人はすぐに追い出されたから。心配しないで」
無表情に、それでもフォローを入れる辺り、レイも一応シンジ以外のことに関しても成長しているのである。
アスカも、ここで「あんたはそういう現場を目の前にして何にもしなかったのね、この人形女!」とか言ったりはしない程度には人間が丸くなっていた(それでもケンスケはあの扱いかい)。
「いや、心配も何ももう何年も前のことやし・・・」
「手の平に爪が食い込んでるわよ?」
「お、おう。大丈夫や、何でもあらへん」
やはり動揺しているのかズレた反応を返すトウジを見て、アスカはこの場の空気を一新するナイスな(?)ジョークを思いついた。
「妹さんのこととなるとやけにムキになるわねぇ・・・あんた、まさか・・・・シスコンなんじゃあないの!?」
「えぇ!」
「・・・・」
「なんでや!」
「きゃー!」
「あら、まあ」
いっせいにどよめくチルドレン(例外一名)。
「おいおい、そのネタきっついわぁ。これは昼メロかぁ?」
「とぼけたって無駄よ! ヒカリみたいな健気な子がいるのにどうしていまだに初体験どころかAすらまだなのかと思ってたら! そういう趣味があったのね! いやー、不潔よ!」
「い、いや不潔も何も・・・・・」
それまでボーっとしていた、あるいはポーっとシンジに見とれていた(どうやらこういう中性的な美少年タイプも好みらしい。ちなみに本命はとある海兵隊の隊長さん)シェラも会話に加わったが、その発言はたっぷり180度ズレていた。
「まあ、そうだったんですのね。頑張って下さいね」
「シェラさあん、応援してどうするんですか」
「いいじゃありませんの、禁断の愛ほど燃えるものだと昔の人も言っていますわ」
「昔は火炙りになって文字どおり燃えますよ、近ピーッなんて」
「き、ピーッ姦って・・・せめてシスコンぐらいにしたげなさいよ」
「せやからぁっ! ワシはシスコンでもピー相ッでも妹属性でもないっちゅーねん!」
「なんて話をしてるの、あなたたちは。
・・・でもまあ、二人とも、ネルフが悪の巣窟でないことは納得したようね?」
トウジの絶叫が響く中、リツコとミサト、それにマコトがミーティングルームに入って来た。
「はい、もう大丈夫です」
「お手数をおかけして申し訳ありません」
「そう、それじゃ作戦の概要を説明するわね。本当は先に本部を案内するつもりだったんだけれど・・・・
シンジ君とレイはどうするの?」
「え・・・・と・・・・
そうですね・・・・一応聞いておきます」
「・・・・私も」
「そう。それじゃ日向君」
「はい」
結局のところ、作戦はサハクィエルに対して行ったのと同様のものである。
エヴァが予測落下地点に待機、数機がかりでA.T.フィールドを展開して宇宙船を弾き返す。
サハクィエルとの違いは二点。
第一に、目標が無動力の漂流船であり落下地点が確定していること。
(もちろん実際は有人なのだが、日々改良を重ねている世界一ィのマギシステムと言えどタイムスリップだのワープだのと言う要素は予測できなかったのある。)
第二に、質量が比べ物にならないほど大きいと言うこと。
せいぜいジオフロントを吹き飛ばすていどの第十使徒と異なり、総重量10億トンの小天体の落下は地殻をも貫通してマントルまで達するほどの運動エネルギーを持っているのである。
サハクィエルの時は落下位置の特定が不可能だったのが難点であった。今回は目標の大質量が難点となる。
そこで、今回の作戦「オペレーション・アイギス(女神アテナの楯)」ではエヴァのA.T.フィールドを増幅して利用することになった。
幸いにして実験中のA.T.フィールド増幅システム(使徒の肉体の部分的なコピー。プロダクションタイプのエヴァ同様S2機関は持たない)が実用可能なレベルに達しており、それを用いて大規模な相転移空間を形成、宇宙船を撥ね返してしまおうと言うのである。
このバイオ・アンプに必要な電力を供給するため、落下地点である京都盆地はヤシマ作戦の再現じみた騒ぎになっていた。
「サポートは機械がやってくれる。君たちはふつうに・・・いや、みんなで力を合わせてフィールドを展開してくれればいい」
初めて会う者同士でいきなりは難しかろうと言うことで、そのための訓練をまず疑似エントリーで行うことになった。
いきなり実機を用いては不測の事態が起きないとも限らないし、機体がおかしな具合に細工されているのではないかという意見がリツコから出されたためである。
まさかそれはないだろうと思われたが、「独自の改良(改悪?)ぐらいはしているかも知れない」との強弁が(被害妄想ではないかと言われながらも)通り、整備班によるエヴァのチェックが行われることとなった。
そんな訳で、新たに加わった二人のチルドレンは本来はレイとシンジ用の、今は亡き零号機と凍結中の初号機の模擬体に接続されたエントリープラグに乗っていた。
とりあえずそれぞれの模擬体には、米軍から寄越された伍号機と六号機のデータがインプットされている、その数値が正しいのなら問題はないのだが・・・
「模擬体にはあなた方のエヴァの実測によるデータがまだ入っていないため、若干の違和感を感じるかも知れませんが・・・・」
リツコは米軍に対して徹底的に疑心暗鬼になっていた。
伍号機と六号機がゼーレ解体後、米軍所属になった時のいきさつはそれ自体一つのSSになるぐらい複雑な事情があるのだが、ここでそれを語るにはあまりにも時間がないし、スパイアクションは得手ではないので読者諸賢の想像にお任せする。
「・・・その誤差がこの訓練に影響を与えることはないはずです」
要はチルドレンの間で「心の壁」の反発が起きねばいいのである。
自分の心の壁を完全に取り払わず、かつ拒絶しないと言う微妙な・・・しかし人間誰しもが実生活で無意識のうちに行っているはずの操作、言い方を変えれば日常的に他者との付き合いの上で適切な距離を保つことが出来ているかどうか。それが露呈されることになる。
管制室の大モニターにエントリープラグ内のチルドレンの映像が、様々な数値と共に映し出されている。
米軍仕様のプラグスーツはアスカやレイの物とは異なり、男子用のと同じような胸当てがついていた。肩パッドも若干大きく、生地自体厚めなため、一見するとよくアニメに出てくるようなプロテクターの類を思わせる。
いわばエヴァの子宮であるエントリープラグ、その中でLCLに守られた、考えうる限り最も安全な環境でなぜ身を守る必要があるのか、リツコにしてみれば理解しがたいセンスだった。
もっともこの場合は、あんな体のラインがくっきり出る服を年頃の女の子に着せる方がどうかしているという意見の方が良識的かつ一般的であろう。
色はシェラが白地に赤、ナミが黄色に赤。
『大丈夫です、特に違和感はありませんわ』
シェラのつけていたカチューシャはインターフェイスヘッドセットだったらしい。
と言ってもアスカが昔やってたような、いかにもエヴァのパイロットでございと主張しているようなセンスではなく、普通のアクセサリーのように処理されていた。
『あの、すいません。わたしの方は、ちょっと・・・』
申し訳なさそうに挙手して言うナミの姿に重ねていくつかのメッセージと数値が赤で表示される。
「そんなことだろうと思ったわ・・・」
不機嫌に呟くリツコにマヤが恐る恐るといった感じで問い掛ける。
「あの、それでどうしましょう。実験を続行しますか?」
「任せます、伊吹主任」
「え?」
「来月の十日付で辞令が出るはずよ。今の内に慣れておきなさい」
「え、え? で、でも先輩は・・・」
「この歳で自分の研究と管理職と家事の鼎立はキツイわよ」
「・・・・・・えー! それって、つまり・・・・」
「うふふ・・・」
『やったじゃない、おめでとう!』
『おめでとうございます』
『あ、おめでとうございます、博士』
「あら・・・ありがとうみんな」
いっせいに祝辞を述べるチルドレン、おめでとうおめでとうと言いながらリツコを取り囲み拍手する(笑)シンジとレイ、そして科学部の職員達。
ちなみに約一名ほどショックで凍り付いていたりする(苦笑)。
『え、な、なに? どうしたのナミさん?』
『あ、だから、日本では主に女性が家事をする時代遅れな風習が生き残ってるんです。つまり、家事のために仕事を辞めるという事は』
『あ! わかりましたわ、ありがとうナミさん。
おめでとうございます赤木博士』
マイペースなシェラの祝辞に笑いが起こる。
「ありがとう、でも仕事を辞める訳じゃないのよ」
苦笑しつつ言うリツコ。
今後はナオコから受け継いだマギの改良と言うテーマに専念する予定なのである。
「あ、あの、えーっと・・・・・ぞ、続行します!」
やっと硬直から抜け出したマヤがいきなりかましたボケに、再び笑いが巻き起こった。
このアクシデントでリラックス出来たおかげという訳でもあるまいが、チルドレン達はA.T.フィールドの同調に成功、オペレーション・イージスの不安材料はほぼ解消されたのであった。
そして、作戦前日。
シンジは・・・予備校の直前模試の結果を肴に電話をしていた。
この期に及んでと言うべきか、全国大学合同一次試験は予定通り、明後日に実施される予定なのである。
まあ確かに、オペレーション・アイギスが失敗したら、某国のように巨大シェルターに選ばれし国民二万人を非難させてみたところで人類の滅亡をほんの二、三年引き伸ばすことしか出来ない以上、成功を前提にした日本政府の一連の判断はあながち間違いではないのかも知れない。
だが、当然の事ながら、いまだに巨大宇宙船の存在自体無視しているこの無責任な態度に対し、国民の内閣支持率は激烈に低下していた。
「あ、ナツミ(トウジの妹、今年は高校の入試をひかえている。シンジは以前バイトで彼女の家庭教師をやっていた)? ・・・どうだったって? うん、まあまあかな。そっちは? ・・・へえ、手応えありって感じだね。 ・・・え? 何言ってんの、大丈夫だって」
電話の向こうの声が不安を帯びたものになった。
「そうだよ ・・・君のお兄さんを信じなさいって。それにナツミの体だってネルフのテクノロジーで治ったんだよ? ・・・大丈夫、似たような作戦は前にもあったんだから。 ・・・そうサハクィエルの時に・・・・あ・・・・ちぇ・・・」
突然電話が切られ、代わって受話器から流れ出すのは感情のこもらない声。
ネルフの全てを管理する魔女、MAGIの合成音声が、機密事項に抵触したため通話を切った旨を淡々と通告してきた。警備部は旧保安部の職務を受け継いでいる。その長にミサトが就任したのは皮肉以外の何者でもないが、だいぶ風通しを良くしているらしい。
とはいえMAGIによる各種のモニターは今でも行われている。物事には限度があると言うことか。
「やれやれ・・・」
電話中は消音にしておいたテレビのボリュームを戻すと、夕方のニュース番組は各所で発生しているパニックのニュースと、それに対する政府のコメント・・・デマに惑わされないように呼びかける、何の説得力もないコメントを伝えていた。
もはや宇宙船のことは秘密でも何でもなくなっているということだ。いまのナツミとの電話も、切られたのはサハクィエルに言及した時で、現在実行中の作戦の情報が原因ではない。
そこまでされると逆に無用心すぎると思うが、どうやら誰かがMAGIに宇宙船落下を機密とする必要がないと命令したようだ。
「ミサトさんらしいや」
保安部に比べ融通の利いた(ただし、いささか間抜けなのは否定できない。フォースの妹相手に、いまさら何の機密だ?)警備部、その責任者に対する感想を呟くと、シンジは夕食の支度を始めた。
といっても時間がもったいないので、最近はレトルトであったりする事が多い。今日の夕食はカップラーメンのようだ、スープの粉末を半分だけ入れたバイオプラスチックの容器にお湯を注いでいる。
その時、窓を叩く音がした。
「綾波?」
シンジの部屋は男子寮3階の東の端に有り、共用の非常階段を使えばベランダごしに女子寮3階北端のレイの部屋と直接行き来できる。
この妙な設計といい、部屋割りといい、ゲンドウの仕組んだ事であるのは明白だった。
しかし息子と娘の仲を取り持つ父親って一体・・・・
「・・・こんなことだろうと思った・・・」
入って来るなりぼそっと呟くレイ
シンジの横を通って炬燵の上のカップ麺を取り、そのまま台所の流しに捨ててしまう。
相変わらず、どこか容赦の無い部分を持ち合わせた少女である。
「こんな物を食べたら、葛城三佐のようになってしまうわ」
「でもお手軽だから・・・」
「時間は有るでしょ」
今更一夜漬けをしても仕方がないので、シンジは今日は体調を調えることに専念していたのである。
「一度手を抜く癖を付けちゃうと、つい・・・」
呟くように小さな声で言い訳するシンジに、私が作るといって台所に立つ。
「ありがとう。いつも朝を作ってもらってるのに、夜まで作りに来てくれて」
「いいの。以前はいつも碇君が作ってくれたもの」
そう言ってレイは極上の微笑みを浮かべてみせた。
計算通りにシンジは頬を赤く染める。
それを見て、微笑を崩さないまま内心ニヤリと「ゲンドウスマイル」するレイ。
女の子は恐いのである。
ネルフ本部、および京都その他各所で作業中の職員達に碇司令の、いささか「らしく」ない激が飛ばされた。
『全員そのまま聞け。
後二十時間でネルフにおける本年度最大の作戦が発動される。この作戦に人類の、そして地球に生きる全ての種の存亡がかかっていると言って過言ではない。各員の奮起を期待する。
なお本作戦の終了後、都合により延期されていた大新年会を行う。仕事の後に飲む酒は、旨いぞ。
以上だ』
「新しいネルフに一番順応していたのは碇司令だったみたいだな」
「葛城三佐が言いそうな台詞だよなーったく」
苦笑しつつ最終チェックを行う整備員達。
弐号機、参号機改、そして空輸されてきた伍号機、六号機が並んだ姿は壮観としか言いようがなかった。
既に伍号機と六号機の肩の米軍マークは消されているのは言うまでもあるまい。
「たのむぞぉ、地球はどうでも良いから俺の家族だけは守ってくれよ」
「をい・・・」
就寝前に暖めた加工牛乳を飲みながら、シンジはニュース番組を流す。
『ここ天満川ぞいでも、老若男女の集団が迫り来るフォースインパクトの恐怖から逃れようと・・・・云々』
「やれやれ・・・・」
予想通り、あちこちでこういう事がおこっているようだ。
この分では神社や寺などは大繁盛していることだろう。
「それとも神主自ら酒浸りになってたりして・・・」
意地悪く呟いたシンジは、今度は憐憫の表情を浮かべる。
『入試を明後日に控えた受験生達も、もう勉強なんてしていられない、といった感じです』
「馬鹿だねえ・・・」
先ほど電話をかけて来たナツミは大丈夫かな、と思いながらベランダに出た。
夜空を見上げても、今ごろ宇宙船はブラジル辺りの上空を通過中のはずである。
「宇宙船か・・・一体何処から来たんだろう」
「幾千光年、もしかしたら幾百万光年彼方から、気の遠くなるような月日をかけてやって来たのかも知れない・・・」
「あ、綾波!?」
突然かけられた(そして彼女にしては長い)台詞に吃驚してしまうシンジ。
「眠れないの?」
「い、いや、これから寝るところ・・・・」
「そう・・・強いのね、碇君は」
意外な言葉に戸惑いながら、シンジはレイがなぜ自分と同じようにベランダに出て夜空を見上げているのか考えていた。
実のところ、シンジはどこかレイを偶像視している部分がある。マザコンやロリコンのような輩に限らず、恋する少年にはありがちなことだ。だから、ファーストチルドレンが一般ピープル同様にフォースインパクトの可能性に脅えているなどとは想像もしていなかった。
それはアスカ達を信じて待っていることが出来るせいでもあるだろう。レイにしてみれば、それが羨ましく思える。ただ単に想像力のない男だという可能性もあるが。
「でも、何のために地球に来たんだろ?」
「そうね・・・」
わからないと以前なら答えただろうが、以前リツコに忠告されて人の行動のモチベーションについて考察するよう勤めていたレイは、真剣に考えはじめた。
「もしかしたら、調査のためかもしれない」
故障した宇宙船が偶然地球と交差する軌道をとった可能性など、無限分の極小に等しいので無視する。
「調査か・・・でもそれらしい動きはないね」
地球以外の惑星に寄ってみたり探査機を発射したり、そういった動きがいままで全く見られていない。
それどころか結果的に太陽系唯一の有人惑星を破壊しようとしている。
「そうね・・・何万年の旅のうちにエネルギーが尽きたか、コンピューターが壊れてしまったのかも知れない」
「たった一つの目的のために何万年もひとりでさまよって、力尽きたか・・・・なんだか可哀相だね。作られた命と言っても、目的も果たせないまま死んでしまうなんて・・・・」
なんとも言えぬ顔になったレイを見て、シンジは自分がとんでもない暴言を吐いてしまったことに遅まきながら気づいた。
「ご、ごめん、作られた命って言っても綾波のことを言った訳じゃなくて・・・・いやあの、その・・・」
愚かにも少年はさらに墓穴を掘り広げる。
「・・・そうじゃないわ」
「え?」
「怖いの」
「!?」
「怖いの・・・私には貴方みたいに、みんなを信じて待つなんて出来ない」
予想外の発言に戸惑い、言葉を返せないシンジにレイの言葉は続く。
「だから・・・碇君の強さが羨ましい、みんなを信じて待てる強さがが羨ましい・・・」
その告白にシンジは、レイも普通の女の子なのだと改めて感じた。
「じゃあ・・・僕らにできることを、やってみようか?」
「えっ?」
完結編に続く(菊地秀行かお前は)
ver.-1.10 2001!06/26
公開
ver.-1.00 1998+08/08 公開
感想随時受付中t2phage@catnip.freemail.ne.jp
カヲル「げ、外道な・・・」
面目ない・・・なにせ明日から大学がお休みになってしまうので、次の投稿が9月半ばまで出来ないんです。
ご存知のように自宅からはちょっと・・・・
カヲル「まさかとは思うけど、「エイリアン魔神国」(朝日ソノラマ、菊地秀行)のように完結編1〜3と続いたりはしないだろうね?」
それは大丈夫です。いくらなんでも次で終わりです、神に誓って。
カヲル「みだりにその御名を口にしないでくれないか? 大体君の予告ほど当てにならない物はないからね、アフタージェネシスはどうなったんだい? たしか夏休みまでに第一幕を終らせると言っていなかったかな?」
あうあうあう
カヲル「まったく、出番もないのにこんなところにだけ駆り出されて・・・」
とほほ・・・皆さん、大変すみません。僕の力不足から後編の次にさらに完結編が控えると言う、とんでもなくイレギュラーな物語になってしまいました。
どうか、呆れ果てて見捨てまくられずに9月半ばの完結編をお待ち下さいますよう伏してお願い申し上げます。
03;プリーチャーさんの『GREAT
FALL』後編、公開です。
あああぅぅ
1行目のリンク部分。
そこにあった「完結編」の文字を見て考えていたコメントネタが・・・
そう、「菊池秀行か〜」・・・
使われてしまっている・・・ (;;)
ま、いいか(^^;
完結したのかな?
前編を読んだのは10年くらい前のような気がする・・・
そのうち頭から読み直そうっと。
この話は終わるかな?
なんてね(^^)
さあ、訪問者の皆さん。
しばらく留守にする03;プリーチャーさんに感想&餞別メールを送りましょう!
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