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「現在までの船体各所の修理状況です」

 マコト・T2・ファージがそう言うのと同時にホロ・スクリーンに艦の透視映像が表示された。

 そのあちこちが赤くなっていたり、所々には青白いどくろマークさえついていたりする。

 それを見た副長のリョージ・ライターが声を荒げた。

「メイン及びサブの推進機関ならびにメインエンジン全滅、超空間航行システムにいたっては46.34%が消滅・・・オーバーホールが終わるまで姿勢制御も出来ませんだと?」

「時空乱流の規模があまりに巨大でしたから・・・このままのペースですと応急修理完了まで、最低でも720時間はかかる見込みです」

「一ヶ月だと!? それでは次の大気圏突入に間にあわんぞ、どうするつもりだ!」

「どうするも何も、最悪の場合、本艦を着陸させるしかないでしょう?」

「この船を地上に降ろせ、と言うのかね」

「そのための機構は備わっています」

 喧嘩腰になりかけた二人の間に艦長が割って入った。

 もはや完全に開き直っているのか、ゴーグルを煌めかせ無表情に告げるT2・ファージ。

「冗談ではないぞ全く・・・」

 

 

GREAT FALL

中編

 

 

 

 

 巨大宇宙船の墜落。

 フォースインパクト、津波、衝撃波、熱波、核の冬。

 その情報は隠匿するにも限りがあり、市井の天文家達によってかなり早い段階で暴露された。

 パニックを防ぐために各国政府の正式発表では実際よりもかなり過小な数値が出されたが、それでも日本の壊滅は確実であり、円や株価は暴落し、日本からの国際線が大幅に増発された。

 それでも日本政府は事実を認めようとはしなかった。

 彼らのしたことはせいぜい事前の協定を無視し、事実を発表した諸外国に抗議したくらいのものである。

 国連から全権を任されたネルフも又、事実を公開せぬままにこの大任を果たそうとしていた。

 

 

 

 

「一体いつからネルフは秘密主義になったんだ?」

 腹立たしげな発言の主である入社2年目の職員に、馬鹿にしたような視線と呆れ切った声が向けられる。

「はぁー? ・・・・何言ってんだおめぇ?」

「昔っからさ、この4年間こそが異常だったんだ」

 サードインパクト後の新人達にとっては受け入れがたいこの状態も、昔を知るものにとってはむしろ慣れ親しんだ空気だった。

 新発令所はテスト以外で始めてフル稼動している。

 3機のエヴァは徹底的なチェックを受け、今すぐにでも発進できる・・・もっとも初号機は凍結中で出撃はありえないのだが。

 だが、この先何が起こるか分からない。現にアミルサエル、名もなき無貌の使徒に対しては凍結中の初号機が出撃、これを殲滅した前例がある。

 宇宙船の落下推定位置、京都盆地での電源と送電ケーブルの確保も住民の避難と並行して進められていた。

 ネルフの全職員がかつてのように一丸となって作業を行っていた。

 オーバーテクノロジーと言って然るべき技術力をもって生活の向上に貢献する。

 それはそれで素晴らしいことだ、だが彼らは本来そんな事の為にネルフに来たわけではない。

 人類を使徒の脅威から守ると言う崇高なる使命の下に、だ。

 不謹慎極まりないようだが、彼らは未曾有の危機を前に最高に充実しているのだ。

 新人達と、一部の古参をのぞいて。

 

 

 

「エヴァーのA.T.フィールドを増幅して展開、ねえ・・・本当に出来るの?」

「あなたは引っ込んでなさい。警備部主任葛城ミサト三佐殿」

「うー、いいじゃん別にい・・・」

 不満気に言うミサトの現在の肩書きは作戦部主任ではなく警備部(リストラにより保安部は消滅)主任であった。

 彼女はこの作戦の中枢に参加できず疎外感を味わっていたのだ。

 むろん、この機会にネルフの所有するエヴァやクローニング技術をはじめとするオーバーテクノロジーを狙うスパイが潜り込まないとも限らないのだから、彼女は決して暇ではないはずなのだが・・・

 ちなみに現在の作戦部主任は日向マコト一尉である。

「青葉君、作業の進行状況は?」

「芳しくありません、住民の避難に手間取っています。避難が完了していない地区では当然ケーブルも設置できませんから。現在のところ72%設置完了です」

「まったく、住民の避難さえ満足に出来ないなんて。政府の無能振りには涙が出るわね。いっそこちらで強制的に非難させてやろうかしら」

 苛立つリツコに青葉シゲル一尉が諦めたような声をかける。

「仕方ないっすよ。京都市民を第三新東京市市民と比べるのは酷ってもんです」

 投げやりな発言ともとれるが、リツコにはこういう言い方の方が理詰めの意見よりむしろ効果があるのか、それもそうねと言って次の確認に移る。

「米軍のエヴァは? あの後どうなったの?」

「アメリカさんは渋ってましたけど、司令が国連と中華連合から圧力をかけさせて、ようやく了解が取れたようです。伍号機と六号機が八日後に到着の予定です!」

「ギリギリじゃない! あの連中、事態を理解してんのかしら。そうまでして世界の警察官であり続けたい? 馬鹿な連中!」

 ミサトが憤然と怒鳴る。

「それでもゼロではないわ。間に合わせてみせるわよ」

 凛然と断言するリツコ。

 たとえ目じりにカラスの足跡がちらほらと見えるようになっても、冗談混じりとは言え自分のことをおばさんと言うような歳になっても、最近の先輩は綺麗だとマヤは思った。

 仕事の内容が陰性の汚れ役から、科学技術を人類の繁栄のために使うという、それこそ科学者の理想のような仕事になったせいか、それともプライベートの方で良いことがあったのだろうか?

 以前とは比べようもないほど笑顔がよく見られるようになっていた。

「伍号機と六号機、それに担当のチルドレンのデータは届いてる?」

「はい! さすがにそんなところで嫌がらせをするほど、さもしい真似はしなかったみたいです」

「結構。そうやって素直に私達に任せればいいのよ。ネルフには世界一のスタッフが揃っているんですもの!」

 

 

 

 むろん日本を含む各国の政府とて手を拱いていたわけではない。

 例えばSETIを初めとするいくつかの団体が巨大宇宙船に対するコンタクトを試みたが、それらの努力は全く省みられることがなかった。

 何故ならエンターブラウザ号は未開文明に対する干渉を厳しく禁じられていたためである。

 実際にはエンターブラウザ号の初代を初め、どの船もかなり干渉しているのだが(そうでなければドラマとして成立しない)過去の地球に対する干渉には強いタブーが艦長以下の精神に存在していた。

 それがパラレルワールドに属する地球だという事実も、それを緩めることはできなかった。

 それに何より、21世紀の人間とコンタクトをとったところで何の役にもたたないだろうというのがほぼ全ての乗組員の共通した判断であった。

 

 

 

 

 ケンスケの所有するクラシックジープ、FORD GPWが野次馬が鈴なりになったフェンスを尻目に走っていた。

 地上正面ゲートからのだいぶ遠回りしたルートからは、空輸されてきた米軍所属の二体のエヴァンゲリオンが輸送機からデッキに歩いて移動する姿が遠望できた。

(ちなみにジオフロントの天井には大穴が開いている。記録によれば、これはエヴァに酷似した胴体と分身能力を有する無貌の使徒との戦闘の際に使用されたNN爆弾によるものである)

 これを見るためにわざわざアッシー君(死語)をかって出たケンスケはトウジに運転を代わってもらい、後部座席から望遠レンズ越しのその姿を堪能していた。

「しっかし、ネルフも変わっちゃったわよねー。昔だったらこんな奴ら問答無用で射殺されてたわよ」

「ホントホント、ありがたい限りだよ」

 アスカがからかってもまさに蛙の面に小便、糠に釘、豆腐にかすがい、のれんに腕押し、まったく応える様子もない。

「あれが伍号機と六号機かいな」

 弐号機と同タイプの頭部にまるでモヒカン狩り(ネイティブ・アメリカンのモヒカン族を真似た髪型。ウルトラセブンのアイスラッガーみたいなやつ)のような頭飾を施されたライトブラウンの機体。

 それに並んで顎の短い、大小三つの光学センサーを横に並べたエメラルドグリーンの機体。

 その肩に大きく輝く米軍所属のマーキングの下に小さく施されたアラビア数字のナンバリングからモホークが伍号機、三つ目が六号機だと識別できる。

 さらにチルドレンであるアスカとトウジには、その動きから二機のパイロットが息の合ったチームメイト同士だと見て取れた。

「ふうん・・・・・プロダクションタイプだけあって、首から下は変わり映えしないんだな」

「なんや、重装甲タイプとか軽量タイプとか、そういうのん期待しとったんかいな」

 不満そうに言ったケンスケをからかうトウジ。

「おあいにく様、エヴァは弐号機で完成の域に達したのよ。あれ以上の改良の余地なんてどこにもないの!」

 誇らしげに言い放つアスカ。

 よせばいいのにそれをからかうトウジ。

「あんまり張ってっと、ますます小さくなるで」

ごす

「大きなお世話よ・・・・・・・・・・・大人になったら大きくなると思ってたのに」

「惣流には綾波みたいに揉んで大きくしてくれる人がいないもんな」

 ケンスケの脳味噌の99.98%は二機のエヴァに集中しているのか、命知らずにも天罰ものの暴言を吐く。ちなみにケンスケの眼力が正しければアスカは現在B、レイはCかDだろう。(何が?)

「あんたねえ・・・・」

「え?」

「お、おいアスカ! やめんか! 死んでまうで!」

「うわーっ! ごめんなさいゆるしてくださいもういいませーん!」

 叫ぶケンスケの頭上十センチを砂利とタールの混合体が時速45キロで移動していた。

「落ちろーっ! 落ちろーっ! 落ちてしまえー!」

 必至の哀願を無視し、膝を抱えて車体から押し出そうとするアスカ。

 その向こうで、カタパルトデッキに固定されたエヴァが地面の下に(ジオフロント自体が地下に有るとかいうツッコミは置いといて)消えていった。

 

 

 

 

「セヴンスチルドレン、ナミ・ファランドールです。よっろしくおねがいしまーっす」

「はじめまして、フィフスチルドレンのシェラ・ハウザーと申します。短い間ですが、宜しくお願いします」

 礼儀正しく自己紹介する(驚いたことに流暢な日本語であった。どうやらシンジやレイとは異なりそう言った面でも英才教育を施されたらしく、データによれば二人とも数ヶ国語を操るらしい)二人を見て、リツコはふと違和感を感じた。

(何かしら・・・・この感じ・・・)

「ようこそネルフへ。私はE計画担当博士の赤木リツコ。リツコでいいわ、よろしくね。

 短い間にはならないと思うわよ、司令はこの機会に米軍からエヴァをぶん取るつもりのようだから」

「えぇー!」

 不用意な発言に猛然と反発するチルドレン。

 しかし、いかにもアメリカアズナンバーワンの国民、それも軍属らしいパトリオティズム、というわけではないようだ。

「そ、そんな・・・・・ネルフが裏で世界征服を企む悪の組織だという未確認情報はやはり事実でしたのね、ああなんて恐ろしい。

 わたくしがいなければシャルロット(伍号機の愛称らしい・・・)が動かない以上、わたくしも協力を強要されてしまうのですね。

 いいえ、たとえシャルロットが悪の手に落ちようともそのような悪しき野望に組みしたりするものですか。

 でもきっと脅迫や拷問や洗脳や人格改造やロボトミーやバイオリレーションやあんなことやこんなことやいけないことやはずかしいことをされてしまって、ついにはファーストチルドレンのように生き人形になってしまって、夜な夜な外ン道司令の慰み者として言うに耐えぬ辱めをうけてしまうのですね。

 ああ、そんな目に会うくらいならいっそ一思いに天国のお母様のもとへ・・・

 ああいけないわ、そんなことをしたらナミさんが二人分の責め苦を受けてしまう」

「ちょ、ちょっと・・・・・?」

「わーん、あたしってやっぱりどう足掻いても不幸から逃れることができないんだわ。未だ混乱の続くインドで親も知れない孤児として産まれ、生きるためにいろんなことして食いつないで、それでも世間に顔向けできないようなことはしなかったのに、運悪く地雷を踏んで担ぎ込まれた国連の救済所で遺伝子パターンがどうのとか言われて、実は生き別れの母さんと兄さんがいるなんて教えられて大喜びしたのに二人とも実験中の事故で死んでいて、それで6番目の妹なら代わりになれるとかで、難しい勉強やら愛国心がどうとか世界平和を守るとか喧嘩のしかたとか叩き込まれて人殺しの仲間(軍人のこと)にさせられて、挙げ句の果てに世界征服の先棒を担ぐ羽目になるなんて、これ以上後ろ暗いことなんてないじゃない、しくしくしくしく」

「・・・・・・・・・(絶句)」

「一体、どんな教育を施されてきたんでしょうか・・・・」

「・・・・・・・・私に聞かないで・・・・・」

 憮然と応じるリツコ。

「とにかくシンジ君とレイを読んできて、後の二人も到着次第こっちに来るよう伝えておいて。私達よりチルドレン同士の方がいいでしょうから、それにレイを見れば・・・・・・・調教されるって確信されそうね・・・・・」

「先輩ぃ」

「・・・・・ふう、米軍をちょっとでも信頼した私が馬鹿だったわ。あの連中の方こそ洗脳ぐらいやっていたみたいね・・・・」

 

 

 

 

 

 

ファーストチルドレン綾波レイ「ニンニクラーメンチャーシュー抜き」

セカンドチルドレン惣流アスカラングレー「あんたバカァ?」

サードチルドレン碇シンジ「逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ」

そしてやっぱり「変」な奴だったフィフスチルドレンとセヴンスチルドレン!

「ワシはこんな奴等の同類なんか?」

トウジの魂の慟哭が箱根の山々を震わせる。

「問題はない」

安心しろ似非大阪人ジャージ、君は既に充分変人の域に達している。

こんな連中に任せて大丈夫なのか、果たして地球の命運は?

そして存在自体無視されてしまった渚カヲルの立場は?

果たして洞木ヒカリ嬢の出演はあるのか?

疾風怒涛の後編に続け!(この元ネタって何だっけ?)

やおい、くだものに続く笹@祐一シリーズ、グレートフォール後編、近日登場!

 

 


後編

ver.-1.10 2001!06/26  公開
ver.-1.00 1998+08/04 公開
感想随時受付中t2phage@catnip.freemail.ne.jp


 
 
 
ごめんなさい、前後編の物語のはずが、前中後編になってしまいました。
理由は長くなったからではなく、時間がかかり過ぎたから。
言い訳
「フロッピーがまた異常をきたしてしまい、一度書いたデータが中ほどから吹っ飛びました。怒った私は八つ当たりにパソコンの電源をいきなり切って、もう一度起動しなおそうとしました。するとへそを曲げたパソコン君「例外0Dが起きました」とか何とか言って二度ということを聞いてくれませんでした」
しかたないので今は大学の情報処理教室に通い詰めています。
この分では後編にも時間がかかると思いますが、気長に待って下さい。

 
今日の一言「どうせウチにはヤケクソの神さんしかおらへんねん」(c)竹本チエ

悲劇的アクシデントの影響で少しヤケクソになってる03;プリーチャー

 
















 03;プリーチャーさんの『GREAT FALL』中編、公開です。





 チルドレン選抜の条件は”変”であること。

 やっぱりそうか・・
 そうだったのか。


 トウジが選ばれたのは
 変であるからだったのか・・

 機体色と普段着の色が一緒だったからでもあったし−−


 チルドレンはそんなもんだったのか(爆)



 ケンスケ当確。  か




 さあ、訪問者の皆さん。
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