ガギエルとの戦闘の後、弐号機は無事収容された。
戦闘後、周辺海域は至って穏やかで接岸作業や引渡しの手続き等は淡々と消化された。
しかし、人の口には戸は立てられないとはよく言ったもので使徒一体丸ごと蒸発したと言う情報は、
引渡し時のチェックに来ていたリツコの耳に入るのにさほど時間はかからなかった。
当然ミサトとリツコはその時の様子をシンジとアスカに問い詰めるのだが、
アスカは気絶しており検査のため、病院へ直行。
シンジはいつものように韜晦し、二人からは全く情報は引き出せなかったのだが……。
〜学校〜
「見たか?」
「見た見た。」
「何をだよ?」
「知らねえのか? あの外人。」
「外人って?」
「2年A組に転校してきたんだよ。」
「惣流・アスカ・ラングレー……」
「ふぅ〜ん…」
「何だお前?そのどうでもよさそうな返事は?」
「だってあんまり興味無いからな。俺は綾波レイの方が良い。」
「何!?敵か?お前、俺達の敵だな!?」
と、まあこんな具合に朝っぱらからアスカやレイの事を話している男子生徒たち。
この時点ではレイの人気の方が高かったのだが、アスカの存在によって壱中には急速に第三勢力が擁立していた。
無論既存の勢力として、シンジとレイのファンクラブ(いずれも未公認)の面々があったのだが。
そして、後に渚カヲルの出現によって四極構造の冷戦と化していくことになる。
一方、アスカの本性をレイから(約8割ほど誇張されて)聞かされているケンスケとトウジは冷めていた。
「あ〜あ。猫も杓子も、アスカ、アスカかぁ。」
「まあシンジは当然として、綾波の売上が落ちてないって言うのはえらいもんやけどな。」
「この様子だとアスカファンクラブの発足も時間の問題だな。」
「そやな。また新しい販売ルートを開拓せんといかんなぁ…。」
「また忙しく…」(ニヤリ)
「なりそうやな…」(ニヤリ)
「「あははははは……」」
と、馬鹿笑いしつつもシンジ、アスカ、レイの生写真販売に精を出す二人だった。
〜ネルフ〜
「あ〜あ。日本の学校ってつまんないの!」
「そんなのどこの国のどんな学校でも、あまり大差ないんじゃないの?」
シンジはサラッっと受け流すと、新横須賀での一件の後の事を思い出していた。
・
・
・
・
・
〜ネルフ司令室〜
薄暗い部屋の中は普段とは違い、ゲンドウと冬月の他にシンジとレイの姿があった。
「シンジ、話とは何だ?」
「父さん、これから話す事は『裏死海文書』以上の機密レベルにしてほしいんだ。」
ゲンドウと冬月は驚愕した。
それも無理は無い、『裏死海文書』は自分たちとゼーレ以外にはごく限られた者しか知らないからだ。
「シンジ君、なぜ君がその事を知っているのかね?」
「それはこれから話す事に関係が有るんですよ。それと、ゼーレには黙ってて頂けませんか?」
「話の内容による。」
「ま、それもそうだよね。じゃあ、とりあえずこれを見てもらおうかな?」
シンジはそう言うとポケットからベレッタM93Rを取り出して、銃口をレイに向けた。
「シンジ君なにを!?」
「いくよ、レイ?」
「いつでもいいわよ?」
タタタッ!!
一瞬の静寂と硝煙の匂いが辺りを支配する。
だが、そこの人影は減ってはいなかった。
「………なるほど。シンジ、つまりレイはお前と同じ存在になったと言う訳だな?」
ゲンドウのこの答えにシンジとレイは笑みを浮かべながら答える。
「ご明察……と言いたいけれど、話はこれだけじゃないんだ。」
大人二人は怪訝な表情で聞き返す。
「どう言う事かね?」
「つまりこう言う事ですよ。」
シンジとレイはゆっくりと静かに、その背の翼を展開する。
「ろ…六対十二枚の翼…」
「碇、レイも見てみろ…」
「レイには三対六枚の翼か…」
その神々しい雰囲気に飲まれてゲンドウでさえ、椅子から立ち上がってそう呟くのがやっとの事だった。
・
・
・
・
・
「そりゃそうだけど…。
でもあの先生バカじゃないの?政府の流したウソの情報を長々としゃべっちゃってさ。」
(あの後レイが僕達の転生して来た目的を一通り話してA級以上の職員には公開するか任せたんだけど、
父さんの驚いた顔なんて久しぶりに見たな…。
それにしても、この事がミサトさんやリツコさんにはどう伝わっているかちょっと楽しみだな。)
「ちょっとあんた…聞いてるの!?」
「ん?ああ……ゴメン、聞いてなかった。」
アスカはちょっと頭にきたが、無意識にだがシンジには何か不思議な物を感じていたので怒りを静めた。
「あの先生のセカンドインパクトの話の事よ。」
「…ああ、その事か。
まあ、事実ってのは往々にして隠蔽されるものだってリツコさんが言ってたな。」
「何だ、知ってたのかぁ。アンタも一応チルドレンだから知ってるわよね。
でも何で知ってるのに真面目に聞いてたわけ?アタシなんか笑いをこらえるのに必死だったわよ?」
「ん?僕ずっと寝てたんだけど……」
「ええ!?アンタちゃんと目ぇ開いてたじゃない?」
「シンちゃんは目開けたまま寝るって言う特技があるもんね〜?」
そのアスカの後ろから突然レイが話に割り込んできた。
アスカは思わずのけぞる。
「アンタ一体どこからわいて出たのよ!?」
「わいて出たって…人をボーフラみたいに言わないでよね…。
アスカが私のシンちゃんと一緒に歩いてるのが見えたから、
大急ぎで所有権を主張しに来たんだけど?」
サラッっとそんな事を言ってシンジの腕に絡まるレイ。
「ちょ、ちょっとレイ?」
シンジは前世での壮絶な争いの様子が一瞬脳裏をよぎり、ダリダリと脂汗が流れ始める。
「ふ〜ん、そう言う事…。ま、アンタにはコイツがお似合いかもね?
それじゃアタシは邪魔にならないように先に行くわ。」
そう言ってタタタッっと走り去るアスカ。しかしその表情は決して明るいものではなかった。
(今の挑発にも乗ってこないって事は覚醒はまだ先かな?
なら、今のうちにアドバンテージ稼がなきゃね。
前世での抜け駆けの数々、私は忘れてないんだからね!)
そのころシンジの頭の中では、二人の争いの後始末をしている所まで進んでいた。
前世でも、やっぱりシンジは苦労性だったようだ。
〜制御室〜
リツコが零号機のデータを端末で集計している。
その体を後ろから抱きしめる者がいた。
リツコは軽く驚く。
「少し、やせたかな?」
「そう?」
「悲しい恋をしてるからだ。」
「どうして、そんなことがわかるの?」
後ろの相手、加持と目を合わせる。
「それはね。涙の通る道にほくろがある人は、泣き続ける運命にあるからだよ。」
加持は右手の指で『涙の通る道』なぞりながら、さりげなく逆の手をリツコの豊かな胸へと持って行く。
「早くこの手を離さないと、こわ〜いお姉さんに何されるか判らないわよ。」
顔色一つ変えずに切り返すリツコ。
二人の正面のガラスの向こうにミサトの姿。
その鼻息でガラスが曇る。
加持は慌てて手を離すが、その感触を堪能するのは忘れない。
「お久しぶり。加持君。」
「や、しばらく。」
「しかし、加持君も意外とうかつね。」
ズカズカと部屋に入ってくるミサト。
「こいつのバカは生まれつきなのよ!
あんた、セクハラよ!?セクハラ!!
大体、こんなことで油売ってないで仕事しなさいよ!」
「休憩くらいしたっていいだろ?」
「休憩ごとに女の胸触りに行くのか!?あんたわぁ!!」
「ケンカなら外でしてよ…」
呆れ返った表情でマグカップを手に取るリツコ。
「それより、また三人でつるめるな。昔みたく。」
「誰があんたなんかと!」
アスカと言い争っていた事など、コロッっと忘れているミサト。
「それより二人とも、指令から聞いたんでしょ?」
さっさと次の話題に切り替えて、ケンカの勢いを断ち切るリツコ。
この辺はやはり昔馴染みと言ったところか。
「ええ…しっかし、天使それも熾天使なんてにわかには信じ難い話よねぇ〜。」
「だが、そうじゃなければ今までの事はつじつまが合わんだろ?」
「加持君。後であの二人と模擬戦やってくれるかしら?
あなたの攻撃を何とかしたら皆も納得するだろうし、私もデータ取りたいから。」
「それはそうね…どーせあんた暇なんだからやりなさいよね。」
「おいおい…俺には選択肢は無いのかい?」
そこに、いきなりサイレンが鳴る。
「!! 敵襲!?」
零号機と弐号機が空輸される。
既にレイ、アスカ共に搭乗しており、シンジはミサトと共に指揮車に乗り込んでいた。
作戦を伝えるためにミサトから通信が入る。
『先の戦闘によって、第三新東京の迎撃システムが受けたダメージは、現在復旧率26%。
実戦における稼働率はゼロと言っていいわ。
従って今回の迎撃は、上陸直前の目標を水際で迎え撃ちイッキに叩く!!
零号機と弐号機は交互に目標に対し波状攻撃。接近戦で行くわよ。
降下したら電源補給、間髪入れずフォーメーションとって…皆いいわね!?』
「あ〜あ。せっかく日本でのデビュー戦だって言うのに、なんでアタシ一人にやらせてくれないの?」
『しかたないわよ。わたしたちに選ぶ権利なんて無いのよ。
生きるためのね。』
「でも、二対一なんて卑怯でやだな。趣味じゃない。」
そこへシンジとレイの無線が入る。
『でも、支援も無しでは絶対無理だよ。』
『そうよ、エヴァの修理費だって馬鹿にならないんだからね。』
実際は馬鹿にならないどころの騒ぎではないのだが。
『シンジ君とレイの言う通りよ、アスカ。』
「言ったわね。アタシは弱く無いからそんなヘマしないわよ!!」
外部電源のセットが終わる。
『お出迎えの時間だよ。』
海面から水柱が上がり、使徒が姿を現す。
「よし! わたしの腕前、見せてあげるわ!」
『ちょっとアスカ、そいつは……』
ソニック・グレイブと呼ばれる薙刀のような武器を持って使徒に突進する弐号機。
アスカが飛び出していったので、慌ててパレットガンを発射するレイ。
シンジとレイは使徒の姿を見た瞬間に分が悪い事に気がつく。
しかし、二人の心配をよそに弐号機は使徒を一刀両断にした。
『お見事! ナイスよアスカ!』
「どう?二人とも。戦いは常に無駄なく美しくよ。」
『逃げろ!アスカ!!』
「え!?」
切り裂かれた使徒が再び動きだし、二体の使徒となる。
「なんてインチキ!」
ミサトが叫ぶ。
『レイ、アスカを退避させた後、殲滅しなくても良いから行動不能に追い込め!』
シンジの言葉とほぼ同時に零号機が走り出す。
「このおおぉぉぉぉ!!!」
アスカは攻撃を始める。
しかし、切り裂いたところ、破壊したところは苦もなく復元する。
「ウソーーッ!」
『早くここから離れて!』
『アスカ、今はシンジ君とレイの言う通りにして!!』
零号機は弐号機を無理やり使徒から遠ざける。
『シンジ君、レイ。
指令から聞いたわ。
遠慮しないでやっちゃって!』
『…だ、そうだから力の出し惜しみはしなくても良いよ。
とりあえず、今回は僕が指示するからそれに従うように。
ただし、地図の書き直しはゴメンだよ、レイ。』
「了解。」
「…いいですよね?ミサトさん。」
「ええ。あなた達の戦い方、じっくりと拝見させていただくわ。」
「…ありがとうございます。」
シンジはミサトに礼を言って視線を使徒に向けたとき、アスカは山の方に退避していた。
「やっかいな相手だからな、こっちも無傷って訳にはいかないかな?」
レイはアスカの退避行動が完了するのを確認すると、力を解放し始める。
『レイ、『光体』もまだ解放されていない状態で下手に力を解放すると自らの身体が砕け散るぞ。
…とはいえ力無しで同時に二体相手にするのは分が悪い。
よって、現状では殲滅は無理だ。
だが、暫くの間行動不能にする事はできる。
奴らの互いに補い合う性質、それが長所でもあり…』
「短所でもありますね。
了解しました。
どちらか一方を片付けて、その後残った方を一時的に封印します。」
『よし…と。
今のうちに弐号機の収容と、パイロットの保護を!
それとアスカには後で次回の作戦説明をするって伝えておいて下さい。』
「シンジ君、二体で一体と言うのが長所ってのはわかるけど、何で短所でもあるの?」
ミサトはシンジに尋ねる。
「奴らは互いに補い合っています。そこまでは良いですよね?」
「ええ。」
「補い合っていると言う事は、多少の損傷程度では何の問題も無いんですがね…。
あのようにどちらか片方が消滅、あるいは別次元に転送されると問題が発生します。」
「え?!」
ミサトが指揮車のモニタを見たとき、零号機の前方にある暗黒の空間に片方のイスラフェルが消えていった。
すると、もう片方のイスラフェルは突然活動を停止する。
「…これが問題なんです。
片方が消滅あるいは別次元に転送されると、残った片方は消えた方を再構成または召喚しようとします。
再構成や召喚に使用するエネルギーは熾天使でもない限り、そう簡単に捻出できるものではありません。
そうでもないものが召喚しようとするとなると、ある程度力を溜めなければならなくなる。」
「…力を溜めている間は完全な無防備って訳ね。
今のうちにもう片方を攻撃しちゃったら?」
「…いえ。おそらく無駄でしょうね。
今回は別次元に転送しただけですからね。
消滅させたなら話は別ですが。」
「じゃあさ。
今こっちにいる奴を消滅させちゃったら?」
「…そんな事したら、地図を書き直すどころかレイの魂ごと身体が砕け散りますよ。
大丈夫ですよ。
対策はちゃんとありますから。」
「対策って?」
シンジは軽く目を閉じ、人差し指を額に当てて答える。
「ん〜…多分、加持さんかリツコさん辺りが考えてるのと同じですよ。」
「だといいんだけどね…。」
(こりゃ信じないわけにはいかないわね…。
模擬戦必要無くなっちゃったわ…。)
『任務完了。
あ〜つかれた。』
「お疲れ様。
次の作戦説明するから、シャワー浴びたらブリーフィングルームに集合だよ。」
『シンちゃん。一緒に入る?』
「な、何言って…。」
『じょ〜だんよ。冗談。』
残ったイスラフェルは、レイの力である絶対零度の氷で一時的に封印された。
〜ネルフ、ブリーフィングルーム〜
『この後、午前4時3分現在においても、
使徒の氷内における一切の生命活動は認められてません。』
先の戦いの様子を録画で見ているゲンドウ以下、スタッフ。
「何で…あんなことができるのよ…」
シンジの采配によるレイの戦いを改めて見て呆然と呟くアスカ。
それとは対称に当然のように見ているレイ。
「ありがとうございます。」
「だが、奴を殲滅したわけではない。」
「…はい。」
ここでゲンドウが初めて発言する。
「シンジ、あれはどれくらいもつ?」
シンジは画面を見据えたまま答える。
「そうですね…氷が約4日、召喚に約六日と言った所ですね。
ただ、これはあくまでも予想ですから短くなる事はあっても伸びる事は絶対にありえません。」
「そうか。
では葛城一尉、作戦が立案出来次第司令室へ。」
「はい。」
「それと、各パイロットについては次の作戦が通達されるまで十分休養しておくように。
以上だ。」
それだけ言うとゲンドウと冬月は退室した。
「リツコさん。初号機の様子はどうです?」
「十日後までに直る見込みはあるんだけど、修理ついでに今後の為の各部の強化をしときたいのよ。
そうなると無理ね。」
「…そうですか。」
いまだ画面を見据えているシンジを、苦々しくアスカは見ていた。
〜ミサトの個室〜
机の上には空き缶の山。
いつもの様にそれを押しのけて自分の机に座る。
「はい。これが各省庁からの抗議文。
全部目を通しておいてね。」
「見なくてもわかるわよ。
ケンカするなら第三新東京市(ここ)でやれって言うんでしょ?」
「ご明察。」
「言われなくても、上の使徒が片づけばここでやるわよ。」
「シンジ君とレイのおかげね。」
「あの子達が敵じゃなくてよかったと思うわ。
今回はあの子達がいなかったらクビだったかもね。」
「あの許達の力抜きでクビがつながる方法を持ってきたんだけど、いる?」
パッと顔が明るくなるミサト。
「いるいる!
さっすが赤木リツコ博士!」
「残念ながらわたしの考えたアイディアじゃないわ。」
ミサトが受け取ったフロッピーには“マイハニーへ(はぁと)”と書かれている。
「……やっぱいらね。」
「クビになってもいいのね?」
なぜか楽しそうなリツコさんでした。
帰宅するシンジ。
「なんだろ?この荷物。」
いつの間にか運び込まれているアータ引っ越しセンターの段ボール。
「失礼ね。わたしの荷物よ。」
「…なんでアスカがここにいるの?」
「アンタこそ、まだいたの?
アンタ、お払い箱よ。
今日からミサトはアタシと暮らすの。
ま、アンタにはレイがいるんだからアイツのとこにでも行ったら?
アタシとしては、ホントは加持さんと一緒がいいんだけど。」
その時、ちょうどミサトがレイを連れて帰ってきた。
「いらっしゃい、ミサトさん、レイ。」
「いらっしゃい?
もしかして…ここミサトの部屋じゃないの?」
「ミサトさんの部屋は隣だよ。
それよりこの荷物どうするの?」
「……どうしよう……」
と、荷物の処理を考えつつもさっきのアスカとの会話をミサトとレイに聞かれなくてよかったと思うシンジ。
聞かれていたらほぼ間違い無くレイとの同居(同棲?)生活になっていただろう。
「まあ、上がってくださいよ。
次の作戦の準備でしょ?」
「あら、やっぱり同じ事考えてたって訳?」
「なによ、作戦って?」
アスカは一人事情が飲み込めていない。
「今から話すわ。」
〜キッチン〜
「第七使徒の弱点は一つ!
コアに対する二点同時荷重攻撃!
これしかないわ。」
「簡単に言うと、二つのコアを同時にぶっ壊せって事。
そのためにはパイロットの協調、ユニゾンが必要なんだ。」
「そう、そこで、これからアスカとレイには一緒に暮らしてもらいます。」
「「ええええぇぇぇぇぇっ!!」」
叫ぶアスカとレイ。
「イヤよ! なんでアタシがレイとユニゾンをしなきゃならないの!?」
「私はシンちゃんとならいいんだけど…。」
「初号機は改修中。だから僕は出撃できないの。
残ったのは君たちしかいないだろ?」
「そんな、無茶な…」
「そりゃそうだけど…」
「そこで、無茶を可能にする方法。
二人の完璧なユニゾンをマスターするため、この曲に合わせた攻撃パターンを覚え込むのよ。
九日以内に、一秒でも早く。
シンジ君は二人のサポートをお願いね。」
「はい。…って何で僕の部屋でやるんですか?」
「甘いわね、シンちゃん。
私の部屋がそう簡単に片付くわけ無いでしょ。」
「そうかもしれませんけど、レイも居るじゃないですか。」
「わ、私は料理はともかく掃除洗濯はちょっと…ね。」
小さくなりながら答えるレイ。
「も、もしかして僕が始めてあの部屋に入ったときみたいな感じですか?」
シンジのこめかみの辺りを汗がつたう。
「あまいわね。
あの時以上よ。」
ふんぞり返ってミサトは答える。レイはますます小さくなっていたが……。
「はぁ…選択の余地は無かったわけですね。
わかりました、ここでやりましょう。」
「な、何よ…。どんなとこなのよ…。」
さすがに不安を感じシンジに尋ねるアスカ。
「……行けばわかるよ。はぁ…またあの部屋を掃除しなくちゃならないのか…」
シンジはまともに答える気力も無くしていた。
約十分後、とても女性二人が住んでいるとは思えない部屋の惨状を目の当たりにしたアスカは、
「オマハビーチ……」
と呟いたと言う…。
〜三日後〜
エレベーターの中、トウジとケンスケがいる。
「しかし、シンジの奴どないしたんや。」
「学校を休んでもう三日か。」
エレベーターが止まり二人が降りる。
すると、隣ののエレベーターから委員長の洞木ヒカリが現れた。
「あれ、委員長やんか。」
「鈴原に、相田君。」
「委員長はなんでここに?」
「惣流さんと綾波さんのお見舞い。あなたたちこそどうして?」
「碇君のお見舞い。」
ほぼ同じところに止まる三人。
「隣同士なのか(の)?」
ピンポーン。
『は〜い。』
シンジが出てくる。
「なんやシンジ、元気そうやないか。」
「ああ、病気じゃないんだよ。」
「ならなんで?」
「惣流さんはこっちにいるの?」
「あらいらっしゃい。」
横からミサトが声をかける。
「ま、入ってよ。中で説明するから。」
「なんや。そう言う訳やったんか。」
ミサトの説明を受けている三人。
アスカとレイのそばで壁にもたれてジッと見ているシンジ。
「それで、ユニゾンはうまくいってるんですか?」
ペンペンを抱いたヒカリが聞く。
「見ての通りよ。」
二人のほうを向いて一瞬の間の後、四人は納得する。
二人の動きはピタリと合っているが、アスカがヘッドホンを投げ捨てる。
「つかれた。
今日はこれくらいで終わりよ、終わり!」
「アスカ。」
「うるさいわね!
アタシが終わりって言ったら終わりなのよ!」
深くため息をつくシンジ。
「ミサトさん。どうします?」
「まあ、今日のところはこれだけできたらいいでしょ。」
トウジ達が家路について、夕食を採った後シンジも隣の部屋に帰った。
ちなみにシンジは夕食をミサトの部屋で皆と一緒に食べていた。
〜深夜、葛城邸〜
ミサトは夕食後、書類整理の為にまたネルフ戻った。
リビングにはアスカとレイが布団を並べて寝ている。
「レイ…起きてる?」
「うん…。」
アスカはレイに背を向けたまま続ける。
「ねえ…アンタ達って、一体何者なの?」
レイは少し間を置いてアスカの質問に答える。
「アスカ…、まだ全ては話せないけどそれでもいい?」
「……うん。」
「あの時、私の戦闘記録見てたわよね?」
「………うん。」
「あの力は…天使の力なの…。」
「え…それって…使徒と同じって事?」
「そうとも言えるし、違うとも言えるわ。」
「どう言う事?」
「私達天使が主物質界に出てくるには、幾つか方法があるの。
当然、禁じられているけどね。
天使の力を持ったままこの世界に現れるには、大きく分けて二通りの方法があるの。
一つは、私達のように人間に転生する。
もう一つは、使徒のように異形のモノとして現れるか。」
「…じゃあ、今のアンタ達は『天使の力を持った人間』って事?」
「…そうよ。
正確には『天使の翼、知恵、知識、そして霊質を持った人間』だけどね。」
「…それって、知識さえあれば人間にも魔法は使えるって事よね?」
「ええ…ただ、人間はまだそこまで霊的成長を遂げてないから教えられないけどね。」
「そっか…それは良いとして、アンタ達天使がこの世に出てこなきゃならない理由を教えてくれない?」
「それは…まだ言えないわ。
でも、あなたの敵では無い事は確かよ。
それに、もうすぐ解るわ…あなたならもうすぐ…」
「???」
「さ…もう寝ましょ。
いくら私達が若いと言っても、夜更かしはお肌に悪いわ。」
「うん…おやすみ、レイ。」
「…おやすみ。」
この夜、アスカは夢を見た。
それは遠い遠い記憶…。
大きな木の下でじゃれ合っている四人の子供達と、その様子を見て目を細める青年。
夢の中でアスカは子供だった。
アスカは青年の事が大好きだった。
それは、何だかとても温かい気持ちになれる夢だった。
アスカは夢の中で、何だか明日からはほんのちょっと素直な気持ちになれるかもしれないと思っていた……。
〜六日後〜
別次元に飛ばされた片方を召喚し、進攻を開始したイスラフェル。
すでに零号機と弐号機に乗り込んでいるレイとアスカ。
「音楽スタートと同時にATフィールドを展開。後は作戦通りにいいわね。」
「了解。」
「目標は強羅絶対防衛戦を突破!
零地点に侵入しました!」
「いいわね! 最初からフル稼働、最大戦速で行くわよ!」
「OK。わかってるわ。」
「六十二秒でケリをつけるわよ!」
「外部電源、パージ。
発進!」
ミサトの号令と共に発射される零号機と弐号機。
飛び出す二体。そのまま空高く飛び上がる。
完璧に息のあった二機の動き。
確実に成果が出ている。
そして、残り八秒、二つのコアに同時に飛び蹴りが炸裂!
使徒は大爆発を起こし、その後にはエヴァが重なり合って倒れている。
「あっちゃ〜。」
思わず天を仰ぐミサト。
「まあ、いいじゃないですか。勝ったんですから。」
対して、うれしそうなシンジ。
〜零号機、エントリープラグ〜
『最後のタイミング、外したわね。』
「…ごめんね。」
『まあいいわ。特別に許してあげるわ。勝ったんだから。』
〜発令所〜
『どう!? シンジ! 勝ったわよ!』
アスカの大声が無線から入ってくる。
「そうだね。」
『な〜に? うれしくないの?』
「そんな事は無いよ、うれしいさ。」
『だったら、あとでなにかおごりなさい!』
「わ、わかったよ…。
何でもおごってあげるから…。」
『シンちゃん。当然私にもおごってくれるよねぇ?』
「はいはい、わかったから二人とも早く帰ってきなよ…。」
勝った喜びを分かち合いたいと思いながらも、財布の中身を心配してしまう気持ちの方が強いシンジだった。
SL:お待たせしました。(待ってた人いるのか?)第九話公開です。
秀真:そうナリねぇ〜
SL:まあ、キミよりは早い更新だけど。
秀真:うぐっ…悪かったナリね、遅筆で。
SL:遅筆の域を越えとるよ〜な気もせんでもないが…
秀真:…色々とあるのよ、自分に対する苛立ちとか…
SL:よ〜するに、気分屋なんだろ?
秀真:それとは違うもん!
SL:…とりあえずほっといて、今回について、なんかある?
秀真:はい、は〜い、「光体」ってなに?
SL:お答えしよう。それに付いては話の核心をつく機密事項。
秀真:要するに何も考えてないんじゃ…
SL:うむ、そうとも言うな。(ちゃんと考えてあります!)
秀真:「オマハビーチ」って?
SL:「プ○イベート・ライ○ン」を見た人にはわかると思うけど、
ノルマンディ上陸作戦で唯一連合軍の作戦が失敗した場所。
別名「ブラッディ・ビーチ」で有名。
秀真:アスカ嬢はドイツ(旧第三帝國)育ちだしね。
SL:他には?
レイ:私の活躍は?
SL:あれ?いたの?
秀真:活躍してるナリよ…
レイ:戦闘シーンの事よ!
SL:ああ、あれね。
天使の力を使った戦いはシンジの戦闘で結構判ると思ってさ、
今回は元天軍の総司令官の指揮能力にスポットを当ててみたんだよ。
秀真:それに比べてアスカ嬢は…くすっ
どこからとも無く飛んできた対人用プログナイフが秀真に直撃!!!
さくっ
秀真:何故プログナイフが?
SL&レイ:刺さってる、刺さってるで(わよ)…
秀真:何か血が流れてきた…
アスカ:アタシの活躍を早く書きなさい!!!
SL:その担当は俺じゃないのであしからず。
秀真:その担当をもっと労わって…うぅ、血が足りなくなってきたナリ。
レイ:アスカったら担当をいたぶってどうするのかしら?
SL:え〜っと…とりあえず秀真が死ぬ前に締めるとしよう。(ただ、その瞬間がちょっと早く来ただけだが)
秀真:そういえばめ〜るの返事は?
SL:必ず返信しますので、今しばらくお時間を頂きたく候…
秀真:メールを書く条件が厳しいからね…
SL:今回はこれでお開きという事で、それでは皆さんさようなら〜(^^)/~~~~~
秀真:さ、さようナリ〜
レイ:ばいば〜い
SL:さて、こいつの部屋にでも放り込んどくか…
レイ:そだね。
SL&レイ:せ〜の…えいっ!
レイ:なんか悲鳴が聞こえたような…
SL:さあ?気のせいだろ?
秀真:はうわぁ!