「ただいまぁ」 アスカは学校から帰ってくるとまっすぐ自分達の部屋に向かった。今日は金曜日で明日はお休み。 部屋に入ると、案の定シンジは二階建てベッドの一階でぐっすりとお昼寝中。ここのところファイナル何とかとかいうゲームにはまって、かなり夜更かしをしているからだ。 自分の机にかばんを置くと、アスカはシンジにお構いなしに制服のスカートを脱いでハンガーにかけた。部屋を出て物置代わりに使われている部屋で着替えを取ると、シャワーを浴びにいく。 シャワーを終えて部屋に戻ってきたアスカは、シンジのベッドに腰掛けた。アスカは白いワンピースに着替えていた。選ぶ人の趣味で、今のアスカの服は可愛いものが多い。選ぶ人――碇ユイ。シンジの母親。 シンジの寝顔を見つめながら、アスカは五日前のことを思い出していた。 サードインパクト、と呼ばれる現象の直後、アスカはシンジに首をしめられていた。シンジは少し錯乱しているようだった。 「気持ち悪い」 アスカがそういうと、シンジはアスカから手を離し隣に倒れこんだ。本当に気持ち悪い。まるで遊園地のコーヒーカップに乗って、調子に乗ってまわしまくるのを3セット連続でやった後のようだ。目の前がぐるんぐるん回っている。その後ふっつりと意識が途切れていた。 次に目がさめるとこの部屋だった。しばらくボーとしていたが、はっと気がついて飛び起きた。天井が近い。それもそのはず二階建てベッドの二階にいた。 部屋の中を見渡すと、下には学習机が二つ並んでいる。一つは男の子のもの、もう一つは女の子のものと見て取れる。壁には第壱中学の男子と女子の制服がかかっている。他にはこれといって特徴はない。きれいに片付いている。 自分の格好を見てみた。いつものタンクトップ短パンという姿ではなく、白い可愛らしい少女趣味のネグリジェを着ていた。 ベッドの下を覗いて見ると、シンジがこちらに背を向けて、丸まって寝ていた。 冷静になって思い出す。 アスカはこの部屋を「知って」いた。同時にはじめてみたことも「わかって」いた。そう、ここはサードインパクトの結果の世界なのだ。アスカはこの部屋で過ごした記憶もエヴァンゲリオンに乗って使徒と戦った記憶も持っていた。サードインパクトで何が起こったのかも漠然とわかっていた。 この世界ではセカンドインパクトは起きていない。その代わり巨大隕石の落下により、人口はそれまでの半分になっている。まだ子供だったアスカはよく覚えてないが、アメリカが核ミサイルで迎撃したが世界中に破片が落ちたのだ。アスカの母もそのときに死んだことになっている。世界中に散らばって落ちたので地軸は変わってないし、日本にはちゃんと四季がある。今は7月初めで気温などは前の世界と変わらない。 この部屋のことを思い出していくにつれ、アスカは真っ赤になっていった。5歳のとき、母が亡くなってこの家にきたこと。6歳のとき、シンジと初めてキスしたときのこと。シンジとは兄妹のように育ったこと。雪合戦をして二人で仲良く風邪を引いたこと。初潮のとき、大騒ぎしてシンジにいろいろしてもらったこと。つい数ヶ月前までたまにお医者さんごっこをしていて、お互いの恥ずかしいところは奥のおくまで全部知っていること。いまだにお風呂に入るときはシンジと一緒なこと。そして……シンジと婚約したこと。 なぜそんな設定になっているかわかっていた。神様の代理だった綾波レイがシンジに願いを聞いたとき、シンジはアスカの望みをかなえることを最初に願った。他にも何か願ったようだがよくわからない。そのときアスカは自分を愛してくれる人を、認めがたいことだがシンジを独り占めすることを願ったらしい。他にもシンジと同様に世界の平和だとか母の復活だとか願ったようだ。直接的にアスカの望みどおりの二人っきりの世界にならなかったのは、シンジが他の人たちと生きていくことを望んだからだ。その代わりとしての婚約らしい。神様も案外ひねりがない。代理があの綾波レイでは仕方がないか。 そこでアスカははたと気がついた。アスカの母キョウコの復活が聞き届けられなかったように、死んだ人間はこの世界に来ていないはずだ。綾波レイはだいぶ性格の違う転校生として存在している。なのになぜこの世界には碇ユイが生きているのだ? 疑問をぶつけるためにアスカはベッドを降りてキッチンに向かった。この世界の人間は誰しも多かれ少なかれあの世界のことを記憶している。 キッチンに行くと、ユイは朝食の用意をしているところだった。ゲンドウはダイニングで新聞を読んでいた。ランニングにトランクスというだらしない格好にアスカは少し赤くなる。こちらのアスカにとっては見慣れた格好でも、自分にはそうではないのだ。 「おはようございます」 「おはよう」 「おはよう、アスカちゃん」 自分が起きたのはいつもの日曜日と同じ時間ということになっている。ユイが用意しているのは三人分の朝食。ねぼすけのシンジの分はアスカが作ることになっている。 アスカは記憶の中にある自分の席についた。隣にシンジ、正面にユイがくる席だ。 程なく朝食が並べられた。ゲンドウの好みに合わせて和食。 ユイが席につくと「いただきます」と手を合わせ、食事をはじめる。 「あの」 食事を終えると意を決してユイに向かって声をかけた。 「なあに? アスカちゃん」 にっこり微笑むユイ。新しく生まれた記憶によると38歳のはずだが、どう見ても二十代前半だ。 「あなた、誰なんですか?」 「誰って、碇ユイ。知ってるでしょ?」 「そうじゃなくて、『むこう』では誰だったんですか?」 ユイはアスカの質問の意図を理解してちょっと困った顔をした。 「あなた、ちょっとはずしていただけます?」 ゲンドウはのっそり立ち上がると、トイレに向かっていった。 ユイはお茶を一口飲むと、答えた。 「あたしは『むこう』では綾波レイだったわ」 「じゃあこっちの綾波レイは誰なんですか?」 「彼女も綾波レイ」 アスカはわけがわからない。同一人物の魂が二つに分かれたということなのだろうか? 「順を追って説明すると、その前にアスカちゃん、あなたあたしについて、『むこう』の碇ユイについてどのくらい知ってる?」 「シンジのお母さんで、エヴァの開発にかかわってて、確か実験中に初号機に取り込まれて亡くなられたって」 指折り思い出すアスカ。この辺の知識はサードインパクトのあいだにシンジから流れ込んできていた。 「そう。そしてサルベージの結果生まれたのが綾波レイなの。もう少し詳しく言うと、あたしの魂の一部は初号機に取り込まれてしまってサルベージには失敗してしまった。そしてそのままだと取り込まれていないほうの魂も失われかねなかった。だから最後の手段として謎の結晶体、これはあとで使徒のコアの一部だとわかるんだけど、それに残りの魂を移すことにしたの。取り込まれて失われた部分を使徒の魂で補ったわけね。そして不完全ながらもサルベージできた肉体にこのコアを埋め込んで生まれたのが『むこう』の綾波レイよ。 そしてサードインパクトなんだけど、あたしは使徒の魂のかけらを持っていたから神様の代理として審判を受けたシンジに願いを聞いた。シンジはいろいろ願いを持っていたけど、あなたの願いをかなえることを一番強く願っていたからこういう世界ができたわけ。ついでにあたしの復活も願ってくれたから、初号機と綾波レイに別れていた魂は元通り一つになってこうして碇ユイになったの。若く見えるのはシンジの記憶を元に再生されたから」 「それじゃあこっちの綾波レイはどういう存在なんですか?」 こっちのアスカにとって綾波レイはライバルであり親友でもあった。むこうの綾波レイからは想像できないくらい人懐っこくて明るい娘だ。 「彼女はむこうの綾波レイの使徒の魂だった部分よ。それとキョウコ、あなたのお母さんの魂のかけらも入っている。他にも何人かエヴァに取り込まれていた人たちのかけらも。綾波レイの中で育っていった使徒、天使の魂は人となってシンジのそばにいることを望んだから、そしてシンジもそのことを望んだから神様は魂のかけらたちを寄せ集めて彼女を作ったの。だからむこうの綾波レイとはぜんぜん違う性格だし、むこうの記憶をまったく持たない唯一の人間なのよ」 「シンジが望んだ?」 アスカの顔が少し険しくなる。嫉妬という名の炎がぽっと灯った。ユイはそんなアスカを見て微笑む。 「心配しなくても大丈夫。シンジはあなたのことが一番だから。まあ、こっちの世界の設定上いろいろ仕掛けてくるとは思うけどね」 「設定って、何か知ってるんですか?」 「神様の代理人をやった行きがかり上ね。教えてもいい事は教えてあげるけど」 「その設定ってやつを教えてください」 「碇家のしきたりは知ってるわよね?」 「15歳までに婚約者を決めるってあれですか? あたしとシンジが婚約することになった」 「そう。その婚約者候補として碇家から送り込まれたのがこの世界の綾波レイ。綾波っていうのはあたしの母の旧姓でね、実は彼女あたしの歳のはなれた妹なの。あたしほら、一人っ子だったけどうちの人と駆け落ちして一緒になったでしょ。だから代わりの後継ぎってことで作ったはいいけどまた女の子だったから、うちのシンジを狙ってるのよね、後継ぎに」 「おば様、それであたしとシンジを婚約させたんですね」 こっちの世界での記憶を思い出したアスカは赤くなった。レイにシンジをとられてしまうと泣きながらユイに相談したのだ。 「他に聞きたいことは? 子供は何人できるかとかシンジは浮気をするかとか知ってるけど」 アスカは赤くなった。 「いいです。それよりサードインパクトってなんだったんですか?」 「神様の審判。100点を取れれば神になれる、0点なら絶滅。本当はもっと先に起こるはずだったんだけど、神になりたがった年寄りがあせって早めたのね。で、シンジに審判を受けさせた。結果は赤点ぎりぎりの合格といったところね。おかげで今この世界があるの。次の審判はだいぶ先のことになるそうよ。 それとこの世界だけど、前の世界で何とか救えた魂のうち、あまりに神様と波長のずれた人以外はこれたみたいよ。神様と波長が合わないってことは要するに悪人だからこれなかった人のことは気にする必要はないわね。アスカちゃんの周りにいた人でこちらに来てるかわからない人でどうなったか知りたい人、いる?」 アスカは少し考えてから聞いてみた。 「発令所の人たちはどうなりました?」 「うちの人のことはもう知ってるわね。冬月先生とりっちゃん、赤木博士はうちの大学に、伊吹さんももうすぐうちの大学に引き抜かれてくるわね。葛城さん、日向さん、青葉さんは国連のその他省勤務だけど、知ってのとおり今は第壱中学の先生をやってるわ」 「加持さんは?」 「彼は残念ながらサードインパクトのだいぶ前に死んでたからこっちの世界には来れなかったわ。こっちの世界では国連の仕事で地域紛争に巻き込まれて殉職したことになっているはずよ」 「そう、ですか」 「神様といえども全知全能ではないのよ。基本的にはみるだけで何もしてくれないし」 そこにシンジが起きてきた。記憶の混乱があるのか、ボーっとしながらアスカの隣に座った。 「おはよう」 「早くないわよ」 「おはよう、シンジ。いつものやんないの?」 「いつものって? ……あ」 何か思い出したのかシンジは赤くなってアスカのほうを見た。アスカも何のことだか思い出して赤くなった。 おはようのキス。 こっちの世界の二人はそれはもうキスをしまくっているのだ。婚約してからはユイの目もはばからずに。むこうの世界ではろくにキスしてくれなかったというアスカの不満の反動と思われる。 「さ、さっさとしなさいよ」 気を使ったユイが洗濯をしにいってしまうとまっかな顔で目を瞑るアスカ。シンジも同じような顔でそろそろと顔を近づけ、ちゅっとキスを交わした。 次にやるのはシンジの朝食を作ること。むこうではまったく料理をした事のないアスカも、こっちではかなりの腕前らしい。逆にこっちではシンジがあんまり料理ができないことになっている。 自分で作ったとは思えないほどいいできの朝食をシンジの前に並べると、シンジは手を合わせてから食べ始めた。 アスカがシンジの横顔を見ていると、シンジが口を開いた。 「あれって……、夢だったのかな?」 「夢じゃないわ。あれも、これも」 ゲンドウがトイレから戻ってきた。自分の席に座ると再び新聞を広げる。 「シンジ、アスカ君」 ぽつりとゲンドウが言った。 「なに?」 「なんですか?」 「……すまなかった」 二人が顔を見合わせてると、新聞の向こうでなにやらごそごそやってから、お金を机の上に置いた。 「これで二人でデートでもしてきなさい」 そういうとゲンドウは新聞をたたんで自分の部屋へといってしまった。アスカはその耳が少し赤くなっていたことに気づいたのだった。 回想を終えるとアスカはシンジの唇に口付けた。すやすやと安らかな寝顔を見つめていると、こちらでの昔の記憶がよみがえってきた。こちらのシンジはアスカがこの家に引き取られたころはよくスカートをはいていたのだ。 むくむくとアスカのいたずら心が膨らんでいく。むにん、とシンジの両ほっぺたを引っ張って起きないことを確かめると、自分の机の引出しからピンクの口紅を取り出した。 そっとシンジの唇にピンクの口紅を引いていく。塗り終えたら手で口をつぐませて口紅をなじませる。 可愛い……。 最近少し男らしくなったとはいえ、それでもまだ線の細い中性的なシンジにピンクの口紅はよく似合った。 「ただいま」 玄関からユイが帰ってきた声がした。 「おば様、ちょっと」 部屋の入り口でユイを呼ぶ。 「なあに?」 アスカが口に指を当てると、ユイはそっと部屋の中をのぞきこんだ。アスカはユイを部屋に招き入れ、自分の作品を披露した。 「あらあら」 ユイが声を潜めていう。 「いいできでしょう?」 「そうねぇ。あたしも本当は女の子が欲しかったんだけど。せっかくだからちゃんとメイクしてみましょうか?」 「おば様、ナイス!」 などとひそひそやりながら、ユイの化粧品で寝ているシンジにメイクを施していく。アスカは化粧品は口紅ぐらいしか持っていない。 程なくメイクが終わった。ボーイッシュな女の子がナチュラルメイクをしたような感じとでもいえばいいのだろうか。どことなくユイやレイに似ている。 「やっばり似てますね、おば様やレイに」 「こういっちゃなんだけど、あの人に似なくてよかったわぁ」 しみじみとシンジの寝顔を見つめる二人。 「せっかくだから服も着せてみましょうか」 「起きちゃうんじゃないですか?」 「大丈夫。いいものがあるの」 ユイはいたずらっぽい笑顔を見せると部屋から出て行った。しばらくしてなにやらスプレーのボトルを持って戻ってきた。 「吸い込まないでね」 アスカにそう注意するとシンジの鼻先でしゅっとひと噴き。 「なんですか? それ」 「即効性の睡眠薬。これで30分はなにしようと絶対目を覚まさないわよ」 ひそひそ声を止めて普通に説明するユイ。ユイは大学で生物関係の助教授をしている。 「さ、アスカちゃん、手伝って」 女二人でシンジをブリーフ一枚にしてしまう。 「おば様、どっちが良いと思います?」 アスカが自分のワンピースを2枚持ってきて見せた。白いのとピンク色ので、どちらもウエストは調節が利くようになっているタイプだ。 「ピンクのがいいかしら」 アスカは自分のブラジャーを持ってきてシンジにつけようとしたが、さすがに男のシンジのほうが胸囲が大きくてあわなかった。代わりにユイのものを持ってきたらちょうどよかった。ストッキングを丸めてパットといっしょにつめる。 ユイがシンジの体を支えているあいだにアスカがピンクのワンピースを着せた。背中のファスナーを上げて、腰のリボンを結んで出来上がり。ベッドに寝かせて仕上がりを見る。 「……可愛いわね」 「そうですね」 「髪は長いほうが良いかしら?」 「そうですね」 ユイは自分の部屋からかつらを持ってきてシンジにかぶせた。 「うん、完璧」 満足そうにうなずくユイ。ベッドには一人の神秘的な美少女が横たわっていた。アスカが用意していたデジカメで写真をとった。 「アスカちゃん、シンジが起きるまでお茶にしましょ」 「はい」 二人はダイニングで優雅にティータイムを満喫するのだった。 しばらくしてシンジが起きてきた。ボーっとしている。睡眠薬も少し残っているかもしれない。 「……これ、どういうこと?」 女性二人の視線を集めながらの第一声がこれだった。爆笑するユイとアスカ。 「に、似合ってるわよ、マコちゃん」 ユイが涙を拭きながらいった。真嗣だから真子。 「に、似合いすぎ、くくくくく……」 アスカはおなかを押さえて苦しそうにしている。 「母さん、いくら女の子が欲しかったからって僕に女装させることはないだろ」 憮然としているシンジ。 「おば様、記念撮影しましょ」 「お化粧直してくるわね。シンジ、お父さんが帰ってくるまでそのままでいないと、来月小遣い無しよ」 来月は夏休み真っ只中である。デートの資金はアスカがゲンドウに頼めば何とかなるとはいえ、小遣いがないのは致命的だ。 シンジはこの五日間で母に対する幻想を打ち砕かれていた。確かにやさしい。だが同じくらいシンジに無理難題を吹っかけてくる。アスカが二人いるみたいだ。ストレートなアスカに対して、ユイはじわじわと外堀を埋めて逃げ場をなくしてから攻めてくるので、実に性質が悪い。ユイに比べればミサトなど小娘だと思うシンジだった。 「ほんと、可愛いわよ、マコちゃん」 赤くなるシンジ。アスカがシンジの腰を抱き寄せる。ほほに手を添え、だんだんと顔を近づけていく。いつもと立場が逆の口付け。アスカのほうが若干背が高いのでこの方がしっくりくるとはいえ、両方とも女の子に見えるのでかなり妖しい雰囲気だ。 呼び鈴が鳴った。 「いいところなのに」 アスカは舌打ちをしてインターホンに出た。シンジはキスの余韻でポーっとなっている。 「はい?」 『あの、私シンジ君とお付き合いさせていただいてる綾波レイと申します! 今日はデートのお誘いにきました!』 なにをぬけぬけと! アスカの額に青筋が浮かぶ。一応学校では同居や婚約のことは秘密にしている。この世界ではネルフのガードはないから、シンジの身の安全を考えると当然の処置だろう。プライドが高くて気の強いことで知られたむこうのアスカより、こちらのアスカのほうが人気が高い。男女ともに。アスカの下駄箱にくるラブレターの男女比は5:1ぐらいだ。 「シンジは今出かけてますが」 『待たせてもらえないでしょうか?』 「だめです」 しばらく間があいた。 『……アスカ? なんでシンちゃんちにいるの?』 「別にいいでしょ、幼馴染なんだから。とっとと帰りなさいよ」 『シンちゃんいるんでしょ?』 「いないったら」 『じゃあ証拠見せてよ、証拠』 アスカはため息をついた。こっちのレイは思い込んだら一直線、うたれてもうたれてもめげない。門前払いは無理と判断したアスカは玄関に向かった。 玄関のドアを開けると見知った顔が並んでいた。 「よっ」 片手を挙げてユニゾンを決めるトウジとケンスケ。申し訳なさそうにしているヒカリ。そしてほほを膨らませて「ぷんすか」という擬音がぴったりの様子のレイ。 「なんでヒカリと2馬鹿もいるわけ?」 「洞木さんにシンちゃんちを聞いたらおまけでついてきたの」 「ちゃんと説明すると、委員長がトウジに聞いてトウジが俺に聞いてきたんだ。それで俺がここまで案内したわけ」 「ごっつう美人ちゅううわさのシンジのおかんがみとうてな、ワイもついてきたんや」 で、ヒカリは鈴原に引っ付いてきたわけね。 納得するアスカ。こっちでは二人は付き合っている。 「あがれば。いっとくけどシンジはいないわよ」 「おじゃまします」 靴を脱ぐとずかずかとあがりこんでいくレイ。残りの三人はアスカの後についていく。 レイはリビングで後ろを向いて座っている女の子に気づいた。 「こんにちは」 シンちゃんのお姉さんかな、と思いながら挨拶すると女の子は恥ずかしそうにちょっとだけこちらを向いて会釈をした。 「あら?」 化粧を直したユイが部屋から出てきた。 「お邪魔してます。シンちゃん、シンジ君のお部屋ってどこですか?」 「そこの廊下の右手よ」 ずかずかとその部屋に向かい、ふすまを開けるレイ。後ろで残りの3人がユイに挨拶しているのが聞こえる。 部屋に入って見回しても、誰も隠れている様子はない。二階建てベッド、二人分の机、男子と女子の制服。 「わかったでしょ? シンジはいないの」 部屋の入り口でアスカが言う。レイは何か引っかかるがそれがなんだかわからない。アスカの横を通って向かいの物置になっている部屋をのぞく。そこにも誰もいない。 アスカはリビングに戻っていった。レイはトイレやお風呂場も覗いてからリビングに戻っていった。 「お姉はんも一緒にお茶しまへんか?」 トウジがリビングにいた黒髪の美少女に声をかけると、びくっとしてから少し緊張気味の可愛らしい声で答えた。どんな声かというと、「魔法騎士レイアース」に出てくるエメロード姫を想像してもらえると良いだろう。 「い、いえ、私はいいです」 「ほうでっか? いやあ、こんな美人なおかあはんやおねえはんがおるなんてシンジも幸せもんやのう」 「あらあら、鈴原君てお世辞がうまいのね」 ころころと笑うユイ。シンジはばれやしないかと気が気でない。 「レイちゃんもこっちでお茶にしましょう」 レイは呼ばれるままに席についた。いい香りのお茶が目の前のしゃれたカップに注がれる。何か釈然としない。 目の前のユイを観察する。はじめてあった姉はころころとよく笑うやさしそうな女性だった。 そこで思い出した。両親から聞いた姉の家の家族構成。 シンちゃんは一人っ子だ! 「アスカ」 「何よ?」 「あの人、誰?」 シンジは背中にいやな汗を感じた。 「シンジの姉のマコさん」 「うそ! シンちゃんは一人っ子のはずよ!」 「本人に確かめてみれば?」 アスカは意地の悪い笑顔を浮かべている。 レイはシンジの正面に回りこんだ。しゃがんで顔を覗き込む。シンジは顔をそむけた。レイのミニスカートの中身が丸見えだったのだ。オレンジ地にウサギさんプリント。ケンスケはいつも持っているカメラでこっそりシャッターをきった。 「シンちゃん?」 シンジの顔がみるみる赤くなっていく。 「やっぱりシンちゃんだ。なんでそんなかっこうしてるの? 趣味?」 「ち、ちが」 「あ〜あ、ばれちゃった。ほんと、シンジったらうそがつけないんだから」 「なにぃ! あれ、シンジなんか!? わい、ほんまに女やと思うとったわ!」 好みのタイプだったケンスケに至っては声もない。 「ほんと、どうしたの?」 無邪気に尋ねるレイ。 「寝ているあいだに……、母さんとアスカが……」 「こっち向いて、もっとよく顔を見せてよ」 シンジはレイに正面を向かされるが、丸見えのパンツに手を離すとまた横を向いてしまう。 「あの……、パンツ……、見えてるよ」 「え!? あ、きゃっ!」 ぺたりと座り込むレイ。シンジと二人して顔が真っ赤だ。 レイはすぐに気を取り直した。切り替えが早いのがレイのいいところだ。 「シンちゃんてやっぱり美形だね。こんなに可愛いんだもん。惚れ直したよ」 臆面もなくいうレイの頭をアスカがスリッパでぱこんとはたいた。 「よしっ! 記念撮影だ!」 やっと復活したケンスケが言った。みんな女装したシンジをおもちゃにして記念撮影をするのだった。 一段楽するとシンジがユイに言った。 「もう着替えさせてよ」 「だ〜め。お父さんにも見せてあげなくちゃ」 「そういえばその服、誰のなの?」 レイがシンジに聞いた。 「アスカのだけど……」 「あ、馬鹿」 小声で言ってシンジの足を踏むアスカ。 「ふ〜ん? そういえばシンちゃんの部屋、だれかもうひとり女の子がいるみたいだったけど。お姉さんじゃないとしたら誰なのかな?」 「なにぃ!? シンジ、おのれだれぞと同棲しとるんか!?」 「そこんとこはっきりしてもらおうか」 詰め寄るトウジとケンスケ。 「い、いえないよ……」 「親友のワイらにもか!?」 「そうだそうだ」 レイには大方の想像がついていた。 「おばさん、どうなんですか?」 「おばさんだなんてレイちゃん実の姉に向かってひどいわぁ」 よよよ、と泣きまねをするユイ。ごまかそうとしているのが見え見えだ。 「えええっ!?」 驚く3人、いや、シンジを加えて四人。 「レイの本当の苗字は碇なのよ。そんでもってここにきたのは碇家のしきたりでシンジの婚約者になるため。そうでしょ?」 アスカの問いかけに虚をつかれていたレイはしぶしぶうなずいた。 「シンちゃんの部屋に同居している女の子ってアスカでしょ?」 切り返すレイ。 「まあね」 アスカは悪びれもせずに答えた。 「中学生で同棲なんて、二人とも、不潔よぉ!!」 顔を覆っていやいやをはじめるヒカリ。 「あらあら、どうしましょう?」 口ぶりほど困ってはいない様子のユイ。というか、面白がっている。 「アスカ、しきたりのことを知ってるってことはもしかしてもうシンちゃんと婚約しちゃったわけ?」 レイの視線が剣呑なものになっていった。アスカは勝者の余裕で受けながす。 「察しがいいじゃない。そういうことよ」 「なにぃ!!」 驚くトウジとケンスケ。ヒカリはついていけない。 「これはスクープだ! タイトルは『第壱中学のアイドル、惣流アスカはすでに婚約していた!』で決まりだ! 行くぞ、トウジ! お邪魔しました!」 「お、おう。お邪魔しました」 あわただしく帰っていくケンスケとトウジ。ヒカリはおろおろしていたが、帰ることにしたようだ。 「あ、ヒカリ。2馬鹿に口止め、よろしく」 「え、あ、うん、わかった。お邪魔しました」 アスカがヒカリに頼んだ。ところがときすでに遅し。ヒカリが二人に追いついたときにはケンスケは携帯電話でメールを打ったあとだった。 「レイちゃん、今日はうちでお夕飯食べていって」 ユイは連絡網でレイのうちの電話番号を調べながらいった。 「もしもし、碇と申しますが……ああ、伊集院さん、お久しぶりです。ええ……ええ、わかってます。でもうちに戻るつもりは……わかりました。今度電話してみます。それでレイちゃんうちに来てるんですけど……ええ……もちろん知ってました。今日うちに泊めますから。……それじゃ、また今度。ごめんください」 電話を切るとユイは着替えにいったん部屋に戻った。 「お姉ちゃんて……、あんな人だったんだ」 「姉妹だけあってあんた似てるわね。外見も性格も」 「そう?」 うなずくアスカ。 「それより婚約だけど、ここはフェアにいったんちゃらにしてからはじめない?」 「いやよ」 「学校じゃシンちゃんのことけちょんけちょんにいじめてるくせに。あ、そうか、シンちゃんを脅迫してむりやり婚約したんだ。そうかそうか」 「んなわけないでしょ! シンジもうなずいてるんじゃない!」 「それより胸が蒸れるんだけどさ、ぬいじゃ駄目かなぁ?」 「もう少し我慢なさい。もうすぐおじ様、帰ってくるから」 ため息をつくシンジ。 部屋着に着替えたユイが戻ってきた。 「レイちゃん、なに食べたい? 姉さん腕を振るうわよ」 「何でもいいです」 「じゃあアスカちゃん……はハンバーグよね。ハンバーグにしましょうか」 エプロンをつけて冷蔵庫を覗き込むユイ。アスカも手伝うために立ち上がる。 レイは机に突っ伏した。 「どうしたの?」 シンジが心配そうに声をかける。 「……失恋」 なぐさめの言葉を捜すシンジ。誰に失恋したのかわかっていないのがにぶちんの彼らしい。 「あああ綾波さんならきっともっといい人が見つかるよ、うん」 「レイ」 「え?」 レイはがばっと起き上がると人差し指をシンジに突きつけた。目には光るものがにじんでいる。 「レイって呼んでっていつも言ってるでしょ」 「でも」 「綾波っていわれてもいまいちぴんとこないのよね。お母さんの旧姓だから。だから名前で呼んで」 「女の子を名前でなんか呼べないよ。恥ずかしいし。……アスカが怒りそうだし」 「もう尻に敷かれてるんだから」 小声で愚痴るレイ。気を取り直してもう一押し。 「アスカの事は名前で呼んでるじゃない」 「そりゃ幼馴染だから」 「でも赤の他人でしょ? 赤の他人は名前で呼べて叔母であるこの私は名前で呼べないわけ?」 「う、うん。ごめん」 「じゃあもうレイって呼ばないと返事してやらない」 ぷいっとそっぽ向くレイ。ほほを膨らませてすねる様は可愛らしい。 「呼んであげればいいじゃない、ねえアスカちゃん」 「あたしはいやです」 「あらあら」 ユイの声は面白がっている。 「帰ったぞ」 のっそりとゲンドウが現れた。 「おかえりなさい」 ユイとアスカが答える。レイはゲンドウの容貌にいささか驚いていた。とても姉が駆け落ちる相手とは思えない。 ゲンドウはそのまま自室に入っていった。すぐに着替えて出てくる。甚平を着ていた。 「どうぞ」 席についたゲンドウにアスカが冷たい麦茶を出した。ゲンドウは一気に飲むとネルフ時代のお決まりのポーズをとった。 「君がユイの妹のレイか」 「は、はい。はじめまして」 その威圧感に引いてしまうレイ。 「シンジ、何だその格好は?」 一発でばれて泣きそうなシンジ。 「あらわかっちゃいましたか。なかなかいいできでしょ?」 「ユイ、あまり息子をおもちゃにするな。変な道に目覚めたらどうする?」 「はじめたのはアスカちゃんなんですけど」 「うむ。なかなかいいできだな。可愛いぞ、シンジ」 妙にアスカに甘いゲンドウだった。 「着替えてくる」 げっそり疲れたシンジ。着替えに自室に戻る。アスカもあとからついていった。 「なに?」 「お化粧、落とさないと。落とし方知らないでしょ?」 「うん」 アスカはシンジの背中のファスナーを下ろしてやり、クレンジングクリームを渡すと使い方を教えて手伝いに戻っていった。 夕食はそれなりに和気藹々と進んでいった。レイはシンジが「綾波さん」と呼ぶたびにほほを膨らませてそっぽ向く。アスカに対する対抗意識もあってか、本気でレイと呼ばせたいらしい。 食事が終わるとゲンドウは自室に引っ込んだ。いつものことだ。ユイとレイは姉妹並んで食器を洗う。アスカはお風呂の準備。シンジはリビングでボーっとテレビを見ている。 「お風呂できましたけど」 アスカが報告する。 「レイちゃん先に入ったら?」 「いえ、私より先にお義兄さんに」 名門の旧家に育っただけあって、家長よりも先に入ることに抵抗のあるレイ。 「あの人は仕事が終わるまで入らないから」 「じゃあシンちゃんが先に」 「シンジ」 「うん。アスカ」 隣に腰を下ろしたアスカに声をかけると、テレビを消して立ち上がるシンジ。 「はいはい」 アスカも立ち上がる。 「ちょっと待ってよ。なんでアスカもいっしょにいくの?」 アスカの行動にレイが目くじらを立てた。 「なんでって……、いつもいっしょに入ってるもの」 「お姉ちゃん!?」 「そういえばそうねぇ」 妹の剣幕を意に介さず、のほほんと答えるユイ。 「と、年頃の男女が、い、一緒にお風呂に入るなんて! アスカ、恥ずかしくないの!?」 「そんなこといったってずーっとそうしてきたし。別に変なことするわけじゃないんだからいいじゃない。それに婚約者なんだから変なことしてたって問題ないと思うけど」 実際アスカは婚約後にユイに頼んで緊急避妊薬と勝負下着を買ってもらっている。今のところ使うつもりはないが。とにかくユイが特に渋ることなくそれらを買い与えたということは、そういうことをしてもいいということだとアスカは受け止めている。いくつか注意は受けたが、禁止ではなかった。 とはいえそれらはこの世界のアスカの話で、今のアスカはそれを思い出すと顔から火が出そうになる。この世界にきて最初にお風呂に入るとき、この世界の記憶に流されていっしょに服を脱ぎ始めたはいいが、いざ裸になって我に返るとあまりの恥ずかしさに危うく悲鳴をあげるところだった。のほほんとこの世界の記憶に流されているシンジが恨めしかった。「どうしたの?」と風呂場から聞いてくるシンジにそのことを告げると、ようやくシンジも状況を理解して真っ赤になった。それと同時にシンジの股間のものもむくむくと大きくなっていった。むこうのアスカなら嫌悪感しか抱かないその光景を好奇心からまじまじと観察してしまった。そういえばこの世界のアスカはシンジとBまでいっているのだ。数ヶ月前まで続いていたお医者さんごっこは性欲の高まりとともに今ではペッティングになっていた。 「やめようか?」と赤い顔で聞いてくるシンジをうつむいたままお風呂場に押し込み、アスカはお湯を汲んでおどおどとしているシンジの頭からかけた。苦情をいおうとするシンジにまたかけた。シンジがやり返してきた。お互いお湯を掛けあってじゃれているうちに、欲情していたことも忘れこの世界のいつもの二人に戻れたのだった。 それ以来毎日一緒にお風呂に入っている。シンジによるとこの世界のシンジは自分で頭を洗ったことがないらしい。背中もお互い洗いあっている。 「わ、私も一緒に入る!」 アスカがシンジの後についていこうとすると、真っ赤になったレイがそういった。シンジが立ち止まってアスカのほうを振り向いたので、目で合図して先に行かせる。 「アスカちゃん、レイちゃんに着替え貸してあげてくれる?」 「いやです」 「そんなこといわないで。おばさんの可愛い妹に貸してあげて」 ユイの背中は苦笑しているようだった。わかっているのだ、アスカがユイの頼みを断れないことを。 アスカはため息をつくとレイを呼んだ。レイは迷っていたがユイがうなずくとアスカについてきた。物置部屋で自分はあまり着ないパジャマタイプの寝巻きを出してやる。パジャマタイプをなぜあまり着ないかというと、シンジが脱がすのが下手だからだ。 「アスカもピンクハウス持ってるんだ」 「それはおば様の趣味。あたしはあんまりそういうのは好きじゃないわね。シンジが喜ぶからたまに着るけど。パンツはこの中から好きなの選んで」 開けられた引出しから狙い済ましたように一枚だけある勝負パンツを引っ張り出すレイ。単にシルクの白いシンプルなのを選んだつもりだったのだが、広げてみてあまりの過激さに赤面する。 「アスカ、こんなのはくんだ」 「それは特別なとき用! 他のにしなさい!」 レイはやはりシルクの白いのを選んだ。着替えを持って風呂場に向かう。 「特別なときってどんなとき?」 「あんたの想像どおりよ」 「使ったこと、あるの?」 「ないわよ」 「なぁんだ。よかった」 服を脱ぎ始める。 「あんたさ、知り合って数ヶ月の男によく肌をさらす気になるわね。恥じらいってもんがないの?」 「アスカに言われたくないよ」 「あたし達はずっと一緒に入ってたんだもの。恥じらいとかいう以前の問題よ」 「でも普通年頃になったら別々に入るんじゃない? 兄弟とかでもさ」 「あたしだって信じられないけど、そういうシナリオになってるんだからしょうがないでしょ」 「シナリオって?」 アスカは答えずにさっさと風呂場に入っていってしまった。レイは脱いだはいいがさすがに恥ずかしくて踏ん切りがつかない。が、恋は盲目、アスカへの対抗心もありえいやっとお風呂場に飛び込んだ。 お風呂ではアスカがシンジの頭にシャワーをかけているところだった。小柄な子供とはいえ三人だと狭い。 「湯船に先に浸かっちゃって」 レイは作法に従って身体を流すと、アスカの言うとおり湯船に浸かる。そしてちらちらをシンジのほうをうかがった。好奇心の対象を視界に収めると、真っ赤になってうつむいてしまう。少女には刺激が強すぎた。 「あんたさ」 シンジの頭を洗いながらアスカが聞いた。 「これみるの初めて?」 「え?」 アスカのほうを向くとあれが視界に入ってしまい、また赤くなってうつむくレイ。 「どれ?」 「だから男の、あれ、よ」 「あれって?」 「お・ち・ん・ち・ん!」 聞いたほうのアスカも赤くなっている。 レイは隠れるように湯船に沈みながら答えた。 「う、うん。実物は初めて」 「お父さんのとか見たことないの?」 「物心ついてからお父さんとお風呂はいったことないから」 「ふーん」 アスカがシンジの頭を洗い終えてシャンプーをシャワーで流す。 「興味があるんだったらしっかり見といたほうがいいわよ。これが最後かもしれないから」 「え」 浮上するレイ。いわれてみればこんなチャンスは最初で最後かもしれない。そう思うと、好奇心が羞恥心に勝った。 そーっと顔を上げ、目を瞑ったままシンジのほうを向く。恐る恐る目を開く。 象さんみたい。 レイはそんな感想を持った。もっと大きいと思っていたから、これくらいなら入るかなとか考えてしまって、自分のすけべさにさらに赤くなってしまった。 頭を流し終えるとアスカは今度はシンジの背中を流し始めた。シンジはレイのほうを見ようとしない。 「面白いもの見せてあげようか。ちょっと立ってみて」 レイはいわれるまま立ってみた。ピンク色に染まったその裸身はとても可憐できれいだ。 「これを見てなさいよ。えいっ!」 アスカはシンジの股間を指差したあと、シンジの頭をつかんでぐいっとレイのほうを向かせた。 レイはその変化に恥ずかしさも忘れ驚き見入っていた。むくむくと大きくなって起き上がってくる。先っぽから何かが顔を半分ほど出したところで大きくなるのが止まった。 「アスカぁ」 シンジが情けない声を出した。それもそのはず股間を隠そうとする両手をアスカが押さえこんでいた。背中にあたる柔らかな二つのふくらみも股間のものを大きくさせる。 レイは湯船の中にへたり込んだ。 「そろそろ代わって欲しいんだけど」 反応がないのでアスカが湯船から無理やり引き上げる。のぼせかかっているようだ。 「僕、もう上がるよ」 「じゃああんた先に入れば。一度浸かってからあがりなさいよ」 「うん」 シンジが湯船に浸かる。アスカはレイを床にねかせると、シャワーで水をかけた。 「きゃぁ!」 冷たさで我に帰るレイ。シンジはそそくさと風呂から出て行った。代わりにアスカが湯船に入る。 レイがどこか上の空で身体を洗い始める。 「びっくりしたでしょ?」 「え?」 「あれ」 「う、うん。あんなにおっきくなるんだ」 「あたしも最初は結構驚いたわ」 これはこの世界のアスカの感想ではなく今のアスカの感想だ。 「あんなの入れたら壊れちゃう……」 レイはポツリと独り言をもらした。しっかりアスカの耳には届いていた。 「あんたも結構スケベね」 真っ赤になってしまうレイ。アスカが湯船から上がってくる。 「背中流してくれる? いつもはシンジにやってもらうんだけど先に上がらせちゃったから」 黙ってアスカの背中を流し始めるレイ。 「そうよねぇ。あんなに大きいのを入れるとなるとやっぱり怖いわよねぇ」 自嘲気味につぶやくアスカ。 「それで最後までいってないんだ」 「まあね。でもシンジの話じゃ、シンジのあれもまだ小さいほうなんだって。おっきい状態で比較したわけじゃないからほんとのところはわからないって言ってたけど」 「あれよりおっきい人がいるんだ」 驚きを隠せないレイ。 「3馬鹿の中じゃ、鈴原が一番大きいんだって。そんでもって、シンジのあれはほら、半分しか剥けてなかったじゃない? シンジのは仮性包茎っていうらしいんだけど、鈴原のは完全に剥けてるんだって」 「ふーん。洞木さん、大変だ」 「でも痛いのは最初だけで、なれると大きいほうがいいらしいわよ。大体あそこから赤ちゃんが出てくるんだから大概大丈夫なんじゃないの?」 「私、よくわかんない」 「あ、ずるい。こんなときだけかまととぶって」 女の子二人はかしましく長風呂するのだった。 床につく段になってまたひと悶着あった。レイがどこに寝るかという事でレイはシンジの隣を主張、アスカにあっさり却下されて再度二人の部屋内を主張、またしても却下され、紆余曲折をへて最終的にリビングということに落ち着いた。 ところが深夜目を覚ましたレイはチャンスとばかりにシンジの寝床にもぐりこんだ。アスカにしてみれば怒り心頭ものだが、意外に寝相の悪かったレイはシンジをベッドの外にけり落としてしまった。この世界のシンジだったらこの程度で目を覚ますことはなかったのだろうが、今のシンジは目を覚ましてしまった。寝床を奪われたシンジは仕方無しにもっとも安全と思われるアスカのベッドにもぐりこみ、朝を迎えたのだった。 朝、目覚めてアスカは目をぱちくり。目の前にシンジの顔がある。起き上がって下のベッドを覗き込んで納得。 ベッドから降りると物置部屋に行って紐を持ってくる。シンジと血がつながっているぐらいだからそうそう起きないだろうと大胆に両手両足を縛ってから、ベッドにぐるぐる巻きに縛り付ける。ついでに猿轡もかませておく。やるときはアスカは徹底的にやる。 しばらくして、シンジも起きて朝食を食べて、ゆっくりお茶を楽しんでいるとうめき声が聞こえてきた。 「あら、レイちゃんどうしたのかしら?」 ユイがのほほんと聞く。大体の事情は予想がついているようだ。 「お仕置きしてます」 「ほどほどにしてあげてね」 ユイとアスカは平然とお茶を楽しんでいる。おろおろしているのはシンジだけだ。 「アスカぁ」 「しょうがないわね。あいつに自分の立場ってもんを教えてくるわ」 アスカはひとりで部屋に入りレイにこってりとお説教といやみといかにシンジが自分を愛しているかを聞かせ、シンジに二度と色目を使わないことを誓わせようとした。 レイは泣きながらも頑として首を縦に振らなかった。 結局このお仕置きはお昼前にシンジがアスカの目を盗んでほどいてやるまで続いたのだった。 おわり 追記。 あけて月曜日、学校はアスカ婚約の話題で大騒ぎだった。アスカの相手が誰であるかはヒカリのおかげで伏せられていたが、アスカの普段の態度からシンジであろうことは誰でも想像のつくことだった。 放課後、第壱中学のみならず他校にもあるファンクラブのメンバーに囲まれたシンジをかばってアスカが前に出ると、芸能記者の群れのごとく押し寄せた群集はアスカをもみくちゃにしてしまった。アスカの悲鳴を聞いたとたん、シンジの中で何かが切れた。 「アスカに触るな!!! アスカは俺の女だ!!! 誰にも渡さない!!!」 大声で宣言すると、驚いている群衆の中からアスカを助け出し、腰を抱き寄せながら情熱的に口付けた。 アスカは幸せのあまりに、しばらく状況を忘れとろんとシンジに身を任せた。 群衆があっけに取られているあいだにシンジは、腰に力の入らなくなっているアスカをお姫様抱っこして走り去ったのだった。 |