2016年8月、中学生である碇シンジは夏休み真っ只中である。だが主夫でもあるシンジは惰眠をむさぼってなどいられなかった。午前7時に起きるとまずお弁当の準備。アスカやミサトは別にお弁当を持たせなくても食堂で食べればいいのだが、たっての希望で作っている。それが終わると寝起きの悪い同居人たちを起こす。アスカは手順を踏めばちゃんと起きるのだが、ミサトは最近質が悪くなっていつ見たのかアスカの真似をしてシンジを困らせる。 「ミサトさん、起きてください。また遅刻して副司令に怒られますよ」 シンジは部屋の入り口で声をかける。一度枕元まで行って声をかけたら布団の中に引き摺り込まれて抱き着かれ、その豊満な胸の谷間で窒息しかけたことがあった。それ以来起こすときは決して部屋に入らないようにしている。 「やだぁ。おはようのキスしてくれないと起きない」 ミサトはアスカの口調を真似して甘える。いい加減シンジも慣れたので適当にあしらえるようになった。 「はいはい、おはようのキスは加持さんにしてもらってくださいね。僕は朝食の準備をしてますから、ちゃんと起きてくださいよ」 「んもう、シンちゃんのいけずぅ。アスカには熱烈なキスをしてるくせにぃ」 こんな調子でミサトはしぶしぶと起きてきて、アスカの後でざっとシャワーを浴びてくると朝食の席につく。 朝食が終わるとミサトとアスカはネルフに出勤する。アスカは修士の資格を取るための研究をネルフでやっている。そのため夏休みに入ってからは大体ミサトと一緒に出かけていた。 シンジは二人を送り出すと洗い物を済ませ、洗濯または掃除に取り掛かる。洗濯と掃除は隔日で交互にしている。それが終わるとしっかりと戸締まりをして夏期講習を受けに塾へと向かう。元チルドレンとはいえ、シンジも受験生なので遊んでなどいられない。 シンジの通っている塾はネルフに行く途中にあり、第壱中学の生徒はシンジだけだった。別に知り合いに会いたくなかったわけではない。選んだ塾がたまたまそうだったというだけだ。みんなシンジとアスカの事を知らないのでシンジは女子生徒の間で密かな人気があった。整った顔立ちにスラリと高い身長、優しい性格で成績優秀、その上母性本能をくすぐるタイプとくれば女の子達が放って置くわけがない。同じクラスになったのを幸いとシンジに積極的にモーションをかけてくる娘もいた。鈍いシンジは気付いていなかったが。 「はぁ……」 授業の後、塾の教室でシンジは模擬試験の結果を見ながらため息をついていた。例の事件以来成績がじりじりと下がってきている。まだ志望校のランクを下げるほどではないが、このままいくと下げざるを得なくなってしまう。すでにネルフの職員でもあるシンジには学歴はあまり関係ないが、一番いい高校にいくことはアスカとの約束だった。 「シーンジ君、どうしたの?ため息なんかついて」 同じクラスの篠原サユリが声をかけてきた。サユリは黒い髪をセミロングにした縁無しの眼鏡をかけた知的な美人だ。背はアスカと同じくらいでシンジより7cmほど低く、スタイルも細身でアスカほどグラマーではないが整っており、若草色のワンピースがよく似合っていた。塾でシンジと同じクラスになってから一番積極的にモーションをかけてきている。ちなみにシンジたちは一番成績のいいクラスだ。 「うん、ちょっとね」 シンジは少し困ったような表情で答えた。押しの強いサユリはなんとなく苦手なのだ。サユリはシンジの隣の席に座るとシンジの手元を覗き込んだ。 「模試の結果、悪かったんだ」 「うん。なんか最近調子悪くて」 「ふーん。実は私も最近調子悪いんだ。じゃあさ、一緒に勉強会しない?シンジ君ちでさ」 「え?僕んちで?」 「うん。駄目かな?」 サユリは上目遣いでシンジを見た。シンジの頭の中をちらっとアスカの事がよぎった。アスカは修士論文の研究が忙しいのでシンジのいない昼間はネルフに行っている。問題ないだろう。 「僕は別にかまわないけど……」 「じゃ、決まり!明日からでいいよね?シンジ君ちってどこ?」 サユリはにこっと微笑んだ。夏期講習の前半の日程は今日で終わりで、明日からお盆休みに入る。 「コンフォート17ってマンションだけどわかるかな」 サユリは頬に人差し指を当ててしばし考えた。 「えーっと。うん、わかると思う。少し前にできたでっかいマンションだよね」 「うん。そこの11−A−2号室だから。あ、僕葛城って人のところにお世話になってるから表札は葛城になってるんだ」 「そうなんだ」 先の戦闘で戦災孤児も少なくない。サユリはシンジもそうだと思ったようでちょっと同情したような表情をした。 「これ僕の携帯の番号。わかんなかったら電話して」 シンジは携帯に番号を表示させてサユリに見せた。サユリは早速自分の携帯に番号を登録する。 「ありがと。時間は何時がいい?10時からでいいかな?」 「うん」 「じゃ、明日10時にシンジ君ちに行くから。……ねえ、もう帰るんでしょ?途中まで一緒に帰りましょうよ」 そう言ってサユリは立ち上がった。 「あ、僕スーパーで買い物していかなきゃならないから……」 「じゃ、私も付き合う。いいでしょ?」 「う、うん」 シンジはとりあえず断る理由もないのでうなずくと帰る準備を始めた。 シンジはスーパーに向かう道すがらサユリに話し掛けた。 「篠原さんて弐中だよね。こっちだと遠回りになるんじゃないの?」 「いいのいいの。シンジ君と一緒に帰りたかったんだから」 そういってサユリはシンジと腕を組んだ。ぴったりとシンジに寄り添う。 「し、篠原さん、困るよ」 シンジは赤い顔をして体を離そうとするがサユリはそれを許さない。 「赤くなっちゃって、かーわいい!シンジ君て女の子と付き合ったことないでしょ?」 「う、うん、まあ、あんまり……」 「やっぱりね。だと思ったんだ」 サユリは嬉しそうにいうとシンジと腕を組んで歩いていった。程なくしてシンジの行き付けのスーパーに入る。 スーパーに入るとサユリはシンジの腕を開放してくれた。シンジはかごを持つと手慣れた調子で食料品をかごに入れていく。 「ふ〜ん。シンジ君てなんか随分手慣れてるね。いつもやってるの?」 サユリが感心して聞いた。 「うん。一緒に住んでる二人はこういうの苦手みたいだから」 シンジは挽肉のパックを選びながら答えた。今日の夕食のメニューはスパゲッティ・ミートソース。シンジ特製のミートソースはアスカのお気に入りだ。 「二人って?」 「僕がお世話になっている葛城って人と、あとドイツからの留学生が同居してるんだ」 「そうなんだ。もしかして料理もシンジ君が作るの?」 「うん。二人ともあんまり料理は得意じゃないから」 「へ〜、シンジ君ていいお婿さんになれるね。今のうちからつば付けとこうかな」 サユリは手を後ろで組んでシンジの前を歩きながらいった。前を向いているので表情は分からない。 「そんなことないよ」 シンジが謙遜すると、サユリは振り返ってシンジに向かって言った。 「シンジ君てさ、もしかして鈍い?」 「え、どうかな?人にはよく鈍いっていわれるけど」 「そうでしょ、そうでしょ」 サユリは腕を組んでうんうん、とうなずいた。 「そんなに鈍いかな?これでも気をつけてるつもりなんだけど」 シンジは幾分傷ついたような顔でいった。 「そのままでいいと思うよ、シンジ君は。私は好きだな。シンジ君のそういうとこ」 サユリは少し赤くなりながらそういうと、シンジの左腕に腕を絡ませた。 「ありがとう。そういってもらえるとうれしいよ」 シンジはサユリに微笑みかけた。その笑顔にサユリはポーっとなる。 「あの、放してくれないかな。買い物ができないんだけど」 「え、あ、ご、ごめんなさい」 真っ赤な顔をして慌てて離れるサユリ。シンジはそんなサユリの様子を不思議そうに見ていたが、気を取り直して買い物の続きを始めるのだった。 スーパーで買い物を終えてコンフォート17マンションが見えるあたりまでくるとサユリは脇道を指差した。 「私、こっちだから。それじゃ、また明日ね」 そういってサユリは手を振るとその脇道に入っていった。 「うん」 シンジも笑顔で手を振ってサユリを見送った。 「お兄ちゃん」 突然の声に驚いてシンジが振り返ってみるとそこにはレイがたっていた。白いワンピースを着て学生かばんを提げている。レイは夏休みに入ってから毎日シンジといっしょに勉強していた。もっとも勉強するというのは口実にすぎなかったが。 「あ、綾波」 思わず昔の呼び方で呼んでしまった。レイはふるふると首を横に振る。伸ばし始めている青灰色の髪が動きにあわせてゆれた。 「レイ」 シンジが言い直すとレイはこくんとうなずいた。 「あの人、誰?」 レイの赤い瞳はサユリの後ろ姿に向けられていた。シンジもその方を向く。 「ああ、塾で同じクラスの篠原サユリさんだよ」 「何でその人がお兄ちゃんと一緒にいたの?」 シンジが振り向くとレイはじっとシンジを見詰めていた。なんとなく怒っているような感じだ。 「何でって、うーん、何でだろう?志望校が同じだからかな?塾でもよく話し掛けられるんだけど。ああ、そうだ。明日10時から彼女と勉強会をするんだけど、レイもくる?」 「明日は午前中は実験があるから」 「そうなんだ。じゃあ午後からきなよ」 「うん。……勉強会のこと、アスカには黙っていたほうがいいと思う」 二人並んで歩き出した。 「どうして?」 「どうしても。アスカが知ったらたぶん勉強会できなくなるから」 「う、うん。わかったよ」 シンジは理由は分からないがなんとなくレイの言うとおりのような気がしていた。事実アスカはシンジが他の女の子と二人っきりで勉強するなど許さないだろう。 コンフォート17マンションに入るとシンジはエレベーターのボタンを押した。エレベーターは一階で止まっていたのですぐにドアが開いた。二人が乗り込むとエレベーターが動き出す。 「今日も夕飯食べていくよね」 シンジが聞くとレイはこくんとうなずいた。そしてしばらくもじもじとしていたかと思うと口を開いた。 「この服、似合ってるかな?」 「うん、よく似合ってると思うよ。また白い服買ったんだね」 シンジが知る限りでも白いワンピースは8着目だ。レイは元々白が好きだったのに加えて、シンジが「綾波は白が似合うね」といって以来白い服ばかり着ている。他にもアスカやヒカリ、ミサトなどに見立ててもらって普通の女の子並みに洋服の数はそろったが、よく着るのは白いワンピースだった。それもシンジが似合うといったものばかり。今きている服もシンジに誉めてもらってお気に入りに加わったようだ。嬉しそうににっこりと微笑んだ。 そうこうしているうちに十一階についた。鍵を開けて家に入る。 「ただいま」 「お邪魔します」 シンジは家に上がるとミートソースの材料を残して買ってきたものを冷蔵庫に入れた。レイはリビングで問題集を開いて勉強をはじめる。シンジはミートソースの下拵えをしてなべを火にかけ、レイのためのサラダスパゲッティー用のソースを作って冷蔵庫に入れた。一通り夕食の準備が終わるとシンジもレイの正面に座って勉強をはじめた。 「ただいまぁ」 午後6時すぎ、アスカが帰ってきた。帰りはミサトは大概遅くなるので別々だ。 「お帰り」 シンジは玄関まで行ってアスカを出迎えた。アスカはネルフの制服を着ていた。色は赤。ちなみにシンジやレイも制服を支給されているが、プラグスーツと同じ色だった。長い栗色の髪は邪魔にならないようにお団子にして後ろで止めている。 「ん」 アスカが唇を突き出して目をつぶった。シンジはいつものようにそっと口付ける。シンジがわざわざ玄関まで出迎えるのはアスカが必ずお帰りなさいのキスを求めてくるからだ。アスカはレイの前だとことさら見せ付けるようにするが、そうなるとレイの機嫌は思いっきり傾く。しないと今度はアスカが不機嫌になり、夜の回数が最低一回は増える。嫁と小姑戦争はいまだに続いているのだった。 「お兄ちゃん」 突然かかった声に慌ててはなれるシンジ。アスカは逃がすまいとぎゅっと抱き着いてくる。キッチンのほうを見るとレイがおたまを片手にたっていた。 「レ、レイ、何?」 幾分声が上ずっている。 「おなべふいてたから止めたわ」 「そ、そう。ありがとう」 「シンジ、今日の晩御飯は何?」 アスカが体を離しながら聞いた。シンジがアスカのほうを向く。 「ミートソーススパゲッティだよ。すぐ準備するね」 「お兄ちゃん!」 「な、なに?」 幾分きつい口調にシンジは視線を再びレイに向けた。 「私にもキスして」 「え……」 「何いってんのよ!あんたは妹でしょ!」 近づいてくるレイの前にアスカが立ちはだかった。 「アメリカでは家族ともキスするって聞いたわ」 「ここは日本よ!」 「あなた、アメリカ人でしょ」 「おあいにくさま。あたしはシンジと結婚して日本人になったの」 「そんな結婚、私は認めてないわ」 「別にあんたに認めてもらう必要なんてないわよ!」 「結婚は両性の合意によってのみ成立するのよ。あなたみたいに勝手に入籍するのは結婚とは言えないわ」 「だからなによ!ちゃんとシンジも認めてくれたんだからね!」 「お兄ちゃんはあなたの色香に迷って正常な判断ができなかったんだわ。ああ、かわいそうなお兄ちゃん。こんながさつで図々しい赤毛猿と一緒に暮らさなければならないなんて。今からでも遅くないわ。私の家で一緒に暮らしましょう」 「言ってくれるじゃない。この色素欠乏女!」 アスカは引きつった笑いを浮かべながらレイを睨み付けた。むちゃくちゃ恐いがレイは涼しい顔で受け流す。 「ふ、二人ともけんかは止めてよ」 シンジが仲裁に入るがこれはやぶ蛇だった。 「お兄ちゃん。お兄ちゃんはキスしてくれるよね?」 おたま片手にシンジに詰め寄るレイ。 「駄目よシンジ!したら折檻フルコースだからね!」 これまたシンジに詰め寄るアスカ。 「え、えーと……」 シンジは交互に二人の顔を見た。 「お兄ちゃん。お兄ちゃんは私とこの女とどっちが大事なの?」 「シンジ!シンジはあたしとこの女とどっちが大事なの!?」 お互い指差して異口同音にシンジに訴える。 「そんな事言ったって僕には二人とも大事なんだよ。比べるなんてできないよ。だからお願いだからけんかしないでよ。そうだ!ほっぺたならいいでしょ、アスカ?レイもそれで我慢してよ」 シンジの妥協案にアスカは不満顔のままそっぽを向いた。許してやるから早くしろということらしい。 シンジはレイに近づくとその頬にキスしようとした。レイはシンジの顔が近づくとその顔をつかんでぐいっと正面に向け、無理矢理唇を奪った。レイはうっとりと目を閉じてシンジの首に腕を回す。シンジは必死にレイから離れようとするがレイはがっちりと捕まえていた。 「んん!」 シンジがうめき声をもらした。その声にアスカが振り返り、眉を釣り上げた。 「ちょっと、なにやってんのよ!」 アスカはレイの腕を解こうとするががっちりとシンジに抱き着いて解けない。そこでレイの脇の下をくすぐってみるとしばらく身悶えしたかと思うとシンジを開放した。 「何をするの?」 せっかくのキスを邪魔されて不満そうにレイ。シンジはシンジでアスカとレイじゃ唇の感触が違うんだな、とかそう言えばマナの唇の感触も違ったっけ、とか考えていた。 「妹の分際で人の亭主の唇を奪っておいて『何をするの?』じゃないわよ!あんた今度やったら出入り禁止にするからね!シンジ、今晩折檻フルコースだからね!覚悟しときなさいよ!」 折檻フルコースのあたりで頬を染めるアスカ。どうやら夫婦の夜の営みと関連があるらしい。いわれてシンジも赤くなっている。 「……キスって気持ち良い。今度は二人っきりのときにしようね、お兄ちゃん」 上気した頬を手で押さえながらレイが言った。アスカが振り返ってきっと睨み付ける。 「ゆ、夕飯にしようよ。うん」 そういってシンジはそそくさとキッチンに逃げ出した。アスカも着替えるため寝室に向かう。あとには余韻に浸るレイだけが残された。 「レイ、おたま……」 シンジがキッチンから顔を覗かせた。 「あ、ごめんなさい」 レイはとてとてと小走りにキッチンに向かっていった。 次の日、シンジはいつもどおりに起きた。昨夜はアスカがなかなか寝かせてくれなかったため、かなり寝不足だ。もっとも昨夜に限らずここ一月ばかりアスカに奉仕させられてずっと寝不足続きだった。最初のころはシンジから求めていたものが最近では毎日アスカのほうから求めてくるようになっていた。 シンジはアスカとミサトを送り出すといつものように洗い物と掃除を済ませた。シンジは約束の時間までまだ少しあったので、寝不足ということもあり軽く横になることにした。 シンジが横になってうとうととしていると呼び鈴が鳴った。時計を見ると9時40分過ぎ。インターホンに出る。 「はい」 『篠原です』 「あ、はい。ちょっとまって」 シンジが玄関を開けると白いブラウスと緑のミニスカートを着たサユリがたっていた。かばんを背負っている。 「おはよう、シンジ君」 「おはよう。早かったね。すぐ分かった?」 「うん」 「どうぞ上がって」 「お邪魔します」 サユリはスニーカーを脱いで上がった。シンジがリビングまで案内する。 「適当に座ってて。今お茶を入れるから。アイスティーでいい?」 「うん。お家の人は?」 サユリはかばんをおろして座布団に座ると周りを見回した。シンジが後ろを向いている間に胸元のボタンを外してさりげなく胸が見えるようにしておく。ミニのスカートとあわせてこれでシンジを悩殺するつもりだ。 「今出かけてるんだ。はい、どうぞ」 シンジがアイスティーをしゃれたグラスに入れて持ってきた。ガムシロップとスライスしたレモンを添えてある。 「ありがと。ねえ、シンジ君の部屋ってどこ?見てみたいな」 「えっ!?ぼ、僕の部屋!?こ、困るよ」 あからさまにうろたえるシンジにサユリは怪訝な顔をする。 「どうして?別に散らかってても驚かないわよ」 「ほ、ほら、昨日言ったじゃないか、ドイツからの留学生がいるって。二人で共同で使ってるから僕の一存だけで見せるわけにはいかないんだよ」 ちなみに今の部屋割りは最初物置だったシンジの部屋が勉強部屋ということでシンジとアスカの机が置いてあり、シンジが追い出されたアスカの部屋が寝室ということで二人のベッドが置いてある。寝室のふすまにかかっていた『シンジとアスカの愛の巣ゥ』と書かれたホワイトボードは外して隠しておいた。 「ふーん、そうなんだ。大変だね」 「う、うん、ちょっとね。あ、そうだ。午後から妹もいっしょに勉強することになってるんだけど、かまわないよね?」 「シンジ君妹がいたんだ。何年生?」 「僕と同じ中三なんだ」 「双子なの?」 「いや、そういうわけじゃないんだけど。ちょっといろいろと複雑でね」 「ふーん。私はかまわないけど」 「よかった。それじゃはじめようか」 「そうね。あ、私付属の過去問持ってきたんだ」 サユリがかばんから問題集を取り出した。付属というのは新東京大学付属高校のことで、日本で唯一の国立大学付属高校だ。それだけに難関校だった。 二人は問題集をやり始めた。シンジはサユリの正面に座ったのだが、机が透明なガラスなので下が見える。サユリはそのことを見越して時々足を組み替えたりした。組み替えるたびにシンジにはスカートの中身が見えた。その度に顔を赤らめて視線を逸らすシンジ。そんなシンジの反応をサユリは楽しんでいた。ついには完全に見える状態で止めた。シンジは耐え切れなくなって席を横に移した。 「どうしたの?」 わかっていながら聞くサユリ。 「ん、ちょっとね。あ、音楽でもかけようか?」 「うん」 シンジは適当なDATを選ぶとボリュームを落として音楽を流した。そして赤い顔をして再び問題集をはじめた。と、今度はサユリの胸元が丸見えなのに気がついた。シンジの位置からだとブラジャーに包まれた形の良い胸がよくみえた。シンジは慌てて視線を逸らし問題集の続きをはじめた。 しばらく二人とも黙々と問題集をやっていた。時々サユリが胸元に風を送ったりして刺激的な格好でシンジを誘惑した。その度にシンジは赤い顔をして視線を逸らす。 「シンジ君、ここさ、どうやるの?」 シンジがサユリのほうを見るとサユリは軽く前かがみになって問題集を指差していた。シンジの位置からだと胸元からおなかのあたりまで丸見えだった。シンジは見えてることを言うべきか悩んだ。わざとやっているとは思わないところがシンジの良いところだ。それに本能はもっと見たいといっている。 「えと、その問題は、あの、補助線をBD間に引いて、だから、えと、円に内接するから、その、角ACDと角ABDは同じ角度で、それで、あの、三角形の内角の和は180度だから、えと……」 赤い顔をしてしどろもどろで解き方を解説していくシンジ。それをサユリはにこにこと見ている。 「……で、xの角度が求まるんだ」 「ふーん。さすがシンジ君だね」 「いや、そんな事ないけど……」 「顔、赤いけど大丈夫?熱あるんじゃない?」 そういってサユリはおでことおでこを引っ付けた。慌てて離れるシンジ。 「だ、大丈夫!大丈夫だから!」 「そう?それならいいけど」 シンジのほうに身を乗り出しながらサユリ。シンジは後ずさりながら胸元を見てしまった。真っ赤になるシンジ。 「ひ、一休みしようか。お、お茶入れるよ」 そういってシンジはキッチンに逃げ出した。 もう、シンジ君たら、奥手なんだから。 サユリは今後の作戦を練り始めた。午後からは妹がきてしまう。二人っきりの間にかたをつけなくては。シンジはお色気攻撃でだいぶメロメロだ。もう一押しで陥落するに違いない。 絶対にシンジ君のハートをゲットするんだから! サユリは、シンジは鈍いのでより直接的な手段に訴えることにした。 「はい、どうぞ」 シンジは今度はアイスティーのほかにお菓子を持ってきた。どうやら落ち着いたようで顔も赤くない。 「いただきます」 サユリがお菓子に手を伸ばす。シンジもお菓子をつまんだ。 「シンジ君てさ、キスしたことある?」 突然のサユリの問いにシンジはむせた。 「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、いきなり何?」 「私、シンジ君のことをもっと知りたいの。教えてよ。ねえ、あるの?」 「……あるよ」 シンジの答えにサユリはちょっとがっかりした。 「ふーん、意外だな。シンジ君て結構奥手そうなのに。何回ぐらいあるの?」 両手で頬杖を突いてサユリがシンジに流し目を送る。 「……数えたことないよ」 「そんなにあるんだ。相手は何人?」 「えっと、三人……かな」 アスカとマナとレイの三人だ。ミサトに奪われそうになったことはあるが今のところ守り切っている。 「ふ〜ん。シンジ君て見掛けによらずプレイボーイなんだ」 「そんなんじゃないよ」 「私もね、学校じゃ結構もててたのよ」 「だろうね。篠原さん、美人で頭がよくって明るくてやさしいから」 「もうシンジ君ったらうまいんだから。ご褒美に私のファーストキスあげちゃう」 「……え?」 シンジのほうににじり寄って行くサユリ。 「私、シンジ君のことが好き」 シンジは後ずさろうとしたがサユリに捕まって逃げられない。突然の告白にシンジの頭の中はパニックになっていた。 「き、気持ちはうれしいけど」 ついにはサユリに押し倒されてしまうシンジ。サユリは潤んだ瞳でシンジを見ている。ブラウスがはだけてとっても危ない状況だった。 「私のこと、嫌い?」 少しずつ顔を近づけてくるサユリ。 「き、嫌いじゃないけど、あの、僕には好きな人が」 「そんな人、忘れさせてあげる」 「何してんの?」 突然かかった第三者の声にシンジは真っ青になった。首を巡らし、玄関に続く廊下のほうを見るとネルフの制服を着たアスカが立ちつくしていた。 「ア、アスカ」 シンジは慌ててサユリの下から抜け出し居住まいを正す。サユリも座り直してブラウスのボタンを留めた。 「妹さん?」 サユリがシンジに聞いた。 「いや、その、彼女は、あの、ドイツからの留学生で……」 「あたしはシンジの妻よ!それよりなにしてたのかって聞いてんのよ!!」 「えっ!?」 サユリは妻という言葉の意味を理解するまでにしばらくかかった。 「だってシンジ君って、ええっ!?」 サユリは呆然とシンジとアスカを見た。 「アスカ、誤解だよ!僕たちはただいっしょに勉強してただけで……」 「服を脱がせていったいなんの勉強していたのよ!!あたしの留守をいいことに女を引っ張り込んで!!この浮気ものっ!!」 「本当に勉強してただけだってば!信じてよ、アスカ!」 「うそ!!キスしてたじゃない!!」 「してないよ!」 急にアスカが黙り込んだ。うつむいて何かに耐えるように肩を震わせている。 「殺す……」 アスカがぼそりとつぶやいた。懐に手を突っ込んで拳銃を取り出す。38口径の小型のオートマチックだ。 「シンジ殺してあたしも死ぬぅ!!!」 アスカは涙をぼろぼろ流しながらシンジに拳銃を向けた。 「アスカ、落ち着いて!僕は浮気なんかしてない!僕が愛してるのはアスカだけだよ!」 「うそっ!!嘘吐きぃ!!!」 泣きながらアスカが引き金に力を込める。 「やめて」 いつのまに現れたのか白いワンピース姿のレイがアスカの拳銃を押さえた。 「放せっ!!シンジ殺してあたしも死ぬんだからぁ!!」 バーン!! 銃声と共に窓ガラスが割れ、シンジが倒れた。 「シンジ?……嫌あーーー!!!」 アスカが拳銃を放り投げた。レイはそれをさっと回収するとシンジの側により、外傷を探して脈を取る。脈があることを確認すると座り込んで泣き喚いているアスカをなだめた。 「アスカ、落ち着いて。お兄ちゃんは死んでないわ。気絶してるだけよ」 「本当?本当に死んでない?……シンジぃ!ごめんなさい、シンジぃ!」 アスカは倒れたシンジにすがり付いて泣きつづけた。 レイは呆然としているサユリに声をかけた。 「篠原さん。あなたはもう帰ったほうがいいわ」 「え?ええ。……どうして私の名前を?」 「昨日お兄ちゃんに聞いたの」 「じゃああなたがシンジ君の妹さん?」 「そうよ」 「……あの人、本当にシンジ君の奥さんなの?」 「戸籍上はそういうことになってるわ。私は認めてないけど」 「でもシンジ君はまだ15歳じゃ……?」 「二人ともネルフの人間だから。超法規特権が適用されているの」 「そうなんだ。……それじゃ帰るね。シンジ君に迷惑かけてごめんって伝えておいて」 「わかったわ」 サユリは荷物をまとめるとレイに送られて葛城家をあとにした。 「失恋、しちゃった。うっ……うっ……うっ……」 サユリはエレベーターの中で一人涙を流すのだった。 ネルフ付属病院第101特別病室。シンジはそこのベッドに寝かされていた。アスカはベッドの横の椅子に座っていまだに泣いていた。その隣にはレイが座っていた。 「アスカ、ちょっときなさい」 ドアが開いてミサトがアスカを呼んだ。だがアスカははなをすするばかりで反応しない。 「アスカ!」 ミサトが少し大きな声で呼ぶとアスカはビクッと身を震わせ、涙でぐちゃぐちゃになった顔をミサトのほうに向けた。 「ちょっとこっちにきなさい」 アスカはいったんシンジのほうを見ると、のろのろと立ち上がりふらふらとミサトのほうにやってきた。病室を出るとミサトはアスカをベンチに座らせ、自分も座ると口を開いた。 「シンジ君は軽い脳震盪だそうよ。倒れたときに頭を打ったのね」 「このまま、ぐすっ、シンジ、ひっく、起きなかったら、うっく、どうしよう……」 「大丈夫よ。CTまでとって調べたけど特に異常はなかったんだから。ただかなり疲労が溜まっているそうよ。アスカ、何か心当たりある?」 アスカはうつむいたまま首を横に振った。 「そう。じゃあちょっち言いにくいこと聞くけど、あなたたち夜のほうは週に何回ぐらい?」 「ひっく、夜って?」 「セックスのことよ」 アスカは真っ赤になって顔を上げた。 「何で、うっく、そんな事、ぐすっ、ミサトに言わなくちゃ、ひっく、なんないのよ!」 「あなたたちは三ヶ月ごとに検診やってるわよね。で、前回やったのは六月の頭。その時は何も異常なかった。ところが今日ついでにシンジ君の健康状態やもろもろの身体データを調べてみたら、過労の上にそれまで増えていた体重が減ってるのよ。身長は伸びているのに。シンジ君の生活環境で変わったことといえばアスカと結婚したことだけ。それまでも一緒に暮らしてたからはっきり言えば変わったのは夜の生活だけなのよ。で、何回なの?」 アスカは再びうつむく。 「……五回」 アスカはぼそっとかろうじて聞き取れるぐらいの小声で答えた。 「週に五回?」 「ぐすっ、日に、ひっく、五回、ずずっ、よ」 アスカが真っ赤な顔を上げてはっきりと答えた。 「……あっきれた。あんたたちそんなにやってたの。いくら若いからってそんなにやってたらシンジ君腎虚になっちゃうわよ」 「ひっく、じんきょって?」 「セックスのやり過ぎによる衰弱のことよ。まったく、シンジ君が過労になるわけだわ。これからは少しは控えなさいよ」 「だってシンジ、嫌って言わないんだもん……」 アスカは再びうつむいてベンチにのの字を書き始めた。涙は止まったようだ。 「それだけアスカのことを愛してるって事よ。そんなシンジ君が浮気なんかするわけないでしょ?ちゃんと話を聞いてあげて仲直りするのよ」 「うん……」 素直にうなずくアスカ。 「そうそう、あなたの処分だけど、一週間の謹慎および拳銃携帯許可停止よ。それと今日中に始末書をあたしんとこに提出すること。いいわね?」 「わかった。ごめんね、ミサト」 殺人未遂なのにこの程度の処分ですんだのはミサトのおかげだ。アスカが珍しく謝ったのもそのことをわかっているからだ。 「お兄ちゃんが目を覚ましたわ」 レイがドアを開けて二人に声をかけた。 「アスカ、顔を洗ってきなさい。そんな顔じゃシンジ君に嫌われるわよ」 ミサトがハンカチを渡した。アスカのハンカチはすでに涙でぐしょぐしょだったのだ。 「うん」 アスカはハンカチを受け取るとぱたぱたと化粧室に走って行った。 シンジは起きてベッドの上に座っていた。アスカはミサトの後ろに隠れるようにして病室に入った。 「ごめん、アスカ」 シンジはアスカに気付くと開口一番に謝った。 「い、言い訳ぐらい、聞いてやろうじゃないの」 そっぽ向いて強がるアスカ。シンジが寝ていたときに座っていた椅子に再び座る。ミサトもベッドに腰掛けた。シンジはアスカの手を取ると話し始めた。 「彼女と勉強会することを黙っていたのは謝る。でもアスカに話したら反対されると思ったんだ」 「あったりまえでしょ!夫が他の女を連れ込むのを許す妻がどこにいるって言うのよ!大体なんで断らないの!?まさかあんたが誘ったんじゃないでしょうね!?」 「彼女が言い出したんだ。僕のうちで勉強会をしようって。僕も一人で勉強してると長続きしないし、昼間はアスカもミサトさんもいないからいいかなって思ったんだ」 「何であたしやミサトがいないといいのよ!あんたやっぱりやましいところがあるんじゃない!」 「違うよ!だってアスカは僕が他の女の子と話してただけで怒るし、ミサトさんはすぐ僕の事からかうじゃないか。僕は彼女と二人っきりになってどうこうしようなんてこれっぽっちも考えてなかったよ。その証拠にレイも勉強会に誘ったんだから」 「お兄ちゃんの言うとおりよ。それに私がお兄ちゃんにアスカには黙っていたほうがいいっていったの」 アスカはレイに剣呑な視線を向けた。 「まあいいわ。で、あの女の服を脱がせてキスしてたのはどう説明してくれるわけ!?」 アスカは再びシンジのほうを向いて詰問した。 「僕が脱がせたわけじゃないし、キスもしてないよ!」 「してたじゃない!!」 アスカが目に涙を溜めてシンジを睨み付ける。 「してないよ!キスされそうになったけどされる直前にアスカがきたんだ!だからしてない!信じてよ!服のことだって何でかわからないけど彼女が上着のボタンを外してたからたまたまはだけただけなんだ!」 「本当?」 「本当だよ」 「あの時あたしが帰ってなかったらキスしてたんじゃないの?」 「してないよ。僕は本当に好きな相手としかキスしない。誓うよ」 アスカは溜まった涙をぬぐった。 「じゃあ証拠を見せて」 シンジはアスカを引き寄せるとおとがいに手を添え、熱いベーゼを交わす。 「これでいい?」 「……うん」 アスカは頬を上気させると甘えるようにこてん、と頭をシンジの胸によっかからせた。 「見せ付けてくれるわね〜、お二人さん。ま、何にせよ仲直りできてよかったわ。ところでシンちゃん、その娘美人だった?」 今まで傍観していたミサトが二人を冷やかした。 「はい。なんていうか、日本人形みたいな感じです。今日はなんか雰囲気違いましたけど」 「ふーん。で、どういう風に違ったの?」 「いつもはおとなしい感じの落ち着いた服装してるんですけど、今日はミニスカートはいてたんです。それに来たときはちゃんとしてた上着のボタン、僕がお茶入れてる間に外して胸元を大きく開けたんです。僕、目のやり場に困っちゃって」 「あんた、それを鼻の下伸ばして見てたんじゃないでしょうね!?」 アスカがきっとシンジをにらんだ。 「う、うん、ちょっとだけ。……いはひよアフハ!ゆるひへよ」 アスカはシンジのほっぺたをつねっていた。 「それってシンちゃんのこと、誘惑してたんじゃない?」 「いま思えばそうだったのかもしれません。僕、彼女に押し倒されて告白されたんです。そこをアスカに見られちゃって」 「『シンジ殺してあたしも死ぬ〜』ってなったわけね」 「はい」 シンジとミサトがアスカを見た。アスカは赤くなってうつむいた。 「さってと。あたしも今日はもう仕事ないから一緒に帰りましょ。アスカ、待っててあげるからさっさと始末書書いちゃいなさい。シンジ君は終わるまでここで待ってるといいわ。レイもいっしょに帰るでしょ?」 「はい」 「じゃ、ここに迎えにくるから」 ミサトは立ち上がるとアスカを連れて病室を出て行った。 「お兄ちゃん、篠原さんから伝言」 「なに?」 「迷惑かけてごめんって」 「そう……」 レイは椅子から立ちあがるとシンジのとなり、ベッドの上に腰掛けた。 「お兄ちゃん」 「なに?んむっ!」 レイはまた不意打ちでシンジにキスした。がっちりと首に腕を回し逃げられないようにしている。 シンジは最初何とか逃れようとしていたが、レイの匂いに懐かしい母の遠い記憶を思い出し、されるに任せた。 レイはキスを終えると潤んだ瞳でシンジを見つめた。うっすらと桜色に染まった頬が実に可憐だ。 「レイ、駄目だよ」 一応怒った振りをするシンジ。 「黙っていればわからないわ」 レイの言葉にシンジは首を振る。 「もうアスカには隠し事はしたくないんだ。だからちゃんと話すよ。アスカ、怒るだろうけどね」 そういってシンジは軽く笑った。優しい笑顔だった。 「なに、どうしたの?」 始末書を書き終えたアスカが病室に戻ってみるとレイは頬を染めていてシンジはなんとも優しい顔をしている。アスカの女の勘になんかあったなとぴんと来た。 「あの、アスカ。実は……」 「私がお兄ちゃんにキスしたの」 「なんですってぇ!」 アスカはきっとレイを睨み付けた。レイは平然と見つめ返す。 「ごめん、アスカ」 「いいわよ、どうせこの白髪女が無理矢理したんでしょ!あんたね、相手の同意も無しに無理矢理キスするのは立派な犯罪よ!」 「相手の同意も無しに入籍するのは違うの?」 レイの思わぬ反撃に思わずひるむアスカ。 「ぐっ!あ、あたしはいいのよ!あたし達は愛し合ってるんだから!」 「なら私もいいはずだわ。お兄ちゃんは私の事を愛してくれているもの」 「なにありもしない妄想抱いてんのよ。シンジが愛してるのはあ・た・し・だ・け。ね、シンジ」 急に振られたシンジは困った顔をして答えた。 「アスカ、僕はアスカの事を妻として愛してるしレイの事も妹として愛してる。だから二人にはけんかしてほしくないんだ。お願いだよ」 アスカは愛されているのが自分だけではないと聞かされて憮然とした表情をした。対照的にレイは嬉しそうにしていた。 「ふんっ!今日のところはシンジに免じて許してあげるわ!」 「別にあなたに許してもらう必要はないわ」 二人の間がまた険悪になりかけたところにミサトがやってきた。 「お待たせ〜。じゃ、帰りましょうか。……なに、またけんかしてんの?駄目じゃない、二人とも。シンジ君困らせちゃ。ほら、スマイルスマイル」 帰りの車の中でもぎすぎすする二人。結局アスカとレイの冷戦は夕食が終わってレイが帰るまで続いたのだった。 その後、シンジの負担を軽くするためにアスカもだいぶ家事をやるようになった。夜のほうも回数よりもテクニックという事でシンジにHowto本を読ませて研究させ、回数を減らしたようだった。 さて、篠原サユリ嬢であるが。 「シンジ君、この間はごめんね」 「いや、僕のほうこそごめん」 「ううん、いいの。……あれから考えたんだけど、私奥さんがいてもやっぱりシンジ君が好き。だから迷惑かもしれないけどこれからもアタックさせてもらうから。よろしくね」 というわけで今もシンジと不倫すべく果敢にアタックしつづけている。 碇シンジ15歳。人生これからも波乱がありそうだった。 おわり |