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義理





「ねえ、アスカ。2月14日って何の日か知ってる?」
 人気の無い学校の屋上でヒカリがアスカにきいた。
「知らないわよ。なんかあるの?」
 手すりによっかかりながらアスカが聞き返す。
「あのね、日本ではバレンタインデーっていって女の子が好きな男の子にチョコレートをあげて告白する日なの。最近は義理チョコとかいってお世話になった男の人にもあげたりするんだけど」
「ふ〜ん、日本て変な習慣があるわね。で、それがどうしたの?」
 アスカはそれが自分に何の関係があるのか、といった風に聞く。
「アスカもあげたら?碇君に」
「なっ!なんでここであのバカが出てくるのよっ!」
 アスカは耳まで赤くなりながら慌てた。思わず大声を上げてしまう。
「好きなんでしょ?碇君の事。この間キスしたって言ってたじゃない」
「あ、あれは単なる暇つぶしで……」
 アスカはうろたえながら言い訳する。だが親友のヒカリには通じなかった。
「なにいってるの。アスカが暇つぶしだからって好きでもない男の子とキスできるような女の子じゃない事ぐらい知ってるわよ。素直になったら?アスカ」
 アスカは遠くを見ながらぽつりと言った。
「……自分でもわかんないのよ。シンジの事は気になるけどそれがただの同居人として気になっているのかそれとも好きなのか」
「ふ〜ん。でも傍で見ているとアスカ、碇君の事好きなように見えるけど?霧島さんのときとか」
 霧島マナがシンジに接近したときはそれはあからさまに嫉妬しているように見えた。アスカには自覚が無かったようだが。
「やっぱりあたし、そうなのかな?」
 アスカにしては珍しく自信なさげにいった。
「そうよ。だからチョコレートあげたら?碇君あれで意外ともてるから早くしないと誰かに取られちゃうわよ」
 シンジが他の誰かを好きになる、そう考えたらアスカの胸は痛んだ。
「うん、わかった。でもどんなのあげたらいいの?」
「本命にはやっぱり手作りよ。大きさで勝負する娘もいるみたいだけどそんなの邪道だわ!と、いうわけで私自分で作るつもりなんだけどアスカも一緒に作らない?」
「あたしにも出来るかな?」
 アスカが不安そうに聞く。チョコレートなんか作った事無い。一応料理をレシピどおりに作る事はできるが。
「大丈夫よ。私が教えてあげるから。一緒に作りましょ!」
「うん。お願いね、ヒカリ」
「じゃあ、帰りに材料と道具を買っていきましょう」
「うん」
 帰りにチョコレートを作る材料と道具を買っていく事を約束して二人は屋上を後にした。




 三バカは教室でだべっていた。
「なあ、もうすぐバレンタインだよな。いいよな、おまえらあてがあって」
 ケンスケが恨めしそうに言う。去年は一個ももらえなかったのだ。
「あて?わいにあてなんてないで?」
「僕もないよ?」
 不思議そうにシンジとトウジが聞き返した。
「何いってんだよ。シンジにはミサトさんと惣流、トウジには委員長がいるだろう?」
「な、なんで委員長やねん!」
「う〜ん、ミサトさんはそんなことするぐらいならビール買いそうだし、アスカはそもそもバレンタインなんて知らないんじゃないかな。知っててもくれるとは思えないけど」
 ミサトさんはそんな事する歳でもないし、とは心の中だけの言葉。
「ま、あてがあるだけいいよな。俺なんか義理ですらあてが無いんだから」
 ふぅ〜、とケンスケがため息を吐く。とりあえずこの話題はお開きとなった。後は他愛の無い事を話して休み時間を過ごした。




 さて放課後。アスカとヒカリは連れ立って買い物をしていた。チョコレートの型を選んでいるところだ。ヒカリは10cmぐらいのハート型のと5cmぐらいの丸いのの2種類買った。アスカは20cmくらいのハート型のを一つ。型に合わせた大きさのラッピング用の箱と包装紙も買っておく。その後お菓子作り用のミルクチョコレートを買ってヒカリのうちへと向かう。
「ただいま」
「おじゃましまーす」
「お姉ちゃん、おかえり。あ、アスカさんこんにちは」
 ヒカリの妹のノゾミが出迎えた。
「こんにちは、ノゾミちゃん」
 二人は家に上がるとさっそく作業に取り掛かった。
「まず、チョコレートを湯煎で溶かすの」
 なべに水をはって火にかけ、その中に砕いたチョコレートの入ったボールを入れる。
「直接なべで溶かしちゃいけないの?」
 アスカが聞いた。
「そうするとチョコレートがこげちゃうのよ。それに温度に注意してないと固まったとき表面が白くなっちゃうの」
「ふ〜ん。意外と面倒なのね」
 アスカもヒカリの真似をしてチョコレートを溶かし始める。
 チョコレートが溶けたら型に流し込んだ。アスカはただ流し込んだだけだったがヒカリは何かハート形のに入れていたようだ。アスカはハート形のを一つ、ヒカリはハート形のを一つに丸いのを三つ作った。
「ヒカリ、何で四つも作るの?ハートのは鈴原として後の三つは?」
「一つはお父さんで、あとのは碇君と相田君の。あ、ごめんねアスカ。鈴原だけに渡す勇気ないから……」
「そういう事。いいわよ気にしなくても。あれでしょ、義理チョコって言う奴?」
「うん。あ、そろそろいいみたいね。固まったら型から抜いて文字を入れるんだけど、アスカもやってみる?」
「どうやるの?」
「この溶かしたホワイトチョコを絞り出して書くの」
 ヒカリは器用にチョコレートの上に文字を書いていった。ハート形のチョコにただ「鈴原へ」とだけ。
 アスカも何を書こうかと考えた。しばらく考えて書き始める。結構複雑な字だったがなかなかの出来栄えだった。
「そんな事書いたら碇君悩むんじゃない?」
 書かれた文字を見たヒカリは言った。
「いいのよ、別に。何も書かなくてもどうせ悩むんだから」
 二人は出来上がったチョコレートを奇麗にラッピングした。
「今日はありがとね、ヒカリ」
「どういたしまして。がんばってね、アスカ」
「な、何をがんばるって言うのよ!じゃあね、ヒカリ」
 アスカは赤くなりながらヒカリのうちから帰った。




 バレンタインデー当日。この日は男子生徒はもらえる者ともらえない者、はっきりと明暗が分かれる。シンジは何と下駄箱に三個、机の中に四個と朝来た時点で既に七個ももらっていた。EVAに乗っていたという事を差し引いても多い。更に2時間目と3時間目の間の休み時間に二個ももらっている。今は昼休み。
「シンジ、この裏切り者〜」
 ケンスケはまだ一個ももらっていない。滝のように涙を流しつつシンジに詰め寄る。
「そ、そんな事いったって……」
「ケンスケ、みっともないから止めときぃ。それよりセンセ、惣流がなんやにらんどるけどなんぞやったんか?」
「え?今日は何も怒られるような事してないと思うけど……」
 さりげなくアスカの方を見ると実に不機嫌そうにシンジの事を睨み付けていた。アスカはシンジと目が合うとぷいっと横を向く。
 シンジのそばに女の子がやってきた。他のクラスの娘で結構可愛い娘だ。
「碇君、これ受け取って
「あ、ありがとう」
 赤くなりながらもとりあえず受け取るシンジ。これで十個目だ。
「す、鈴原、これっ」
 ヒカリがトウジにチョコレートを渡した。ヒカリの顔は真っ赤だがトウジはそんな事気がつかない。
「おー、すまんのー委員長」
 一応嬉しそうに受け取る。
「碇君と相田君にも」
 ヒカリはトウジに渡したのよりも少し小さい箱を二人に渡した。
「ありがとう、洞木さん」
「ありがとう〜、委員長〜」
 ケンスケが感涙にむせいでいた。やっと一個もらえたのだ。さもあらん。
 その後シンジは帰りにも一個もらった。しめて十二個だ。しかも半数以上が本命と思われる。シンジもこんなにもらえたのは生まれて初めての事だった。
 帰り道、シンジはアスカと一緒だったが、なんとなく気まずかった。なぜかアスカが不機嫌そうなのだ。
「あ、あのさ、アスカ。僕、なんか気に障るようなことした?」
「別に」
 アスカの返事はそっけない。
「そ、そう?でもなんか僕の事で怒ってるみたいだけど……」
「何であたしがあんたの事で怒んなきゃなんないのよっ!うぬぼれないでよっ!」
 そういうとアスカはずんずんと先に行ってしまった。
「やっぱり僕の事で怒ってるじゃないか。なんなんだよ、いったい」
 シンジはわけが分からない。まさかアスカがやきもちを焼いているとは思わない。この辺は実に鈍感なシンジだった。
 アスカは素直になれない自分に自己嫌悪していた。シンジが他の女の子からチョコレートをもらっているのを見るとやっぱり腹が立つ。やっぱりシンジを取られたくない。
 アスカは家に着くと自分の部屋にこもった。鞄の中からチョコレートの箱を取り出す。
 はぁ、やっぱり直接渡すのは無理ね……。
 シンジがお風呂に入っている間にでも机の上においておくか。
 しばらくしてシンジが声をかけてきた。
「アスカ、晩御飯出来たよ」
「わかったわ。すぐ行く」
 アスカはチョコレートの箱を隠すと部屋を後にした。
「ミサトは?」
「今日は遅くなるって」
「ふ〜ん。使徒がこなくなったってのにまだ忙しいのかしら?」
「そうみたいだね」
 二人はいつもと同じように夕飯を食べた。シンジはアスカの機嫌が直ったようなのでひとまず安心していた。夕飯後はいつものように先にアスカを風呂に入らせる。
「お風呂あいたわよ」
 アスカが風呂から上がって声をかけてきた。シンジも風呂に入った。
 いまのうちに。
 アスカは隠しておいたチョコレートを机の上に置いた。宛名も何も無かったのでカードを添えておいた。シンジが風呂から上がる前に部屋に引っ込む。
 シンジが風呂から上がってくると机の上に奇麗にラッピングされた箱が置いてあった。カードがついている。カードにはこう書いてあった。

『Toシンジ

 せっかく作ったからあんたにあげるわ。
 手作りだからありがたく食べなさい!

                Fromアスカ』

 シンジはなんとなく今までもらったチョコレートの中で一番うれしいな、と思った。箱を開けてみる。中には、
義理
とでっかく書かれたハート形のチョコレートが入っていた。思わず理解に苦しむシンジ。とはいえアスカからもらったチョコレートが一番うれしかったのは確かなようで顔がほころんでいた。そんな様子を部屋からこっそり見ていたアスカもシンジに喜んでもらって満足だった。


おわり



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ver.-1.11 1999_05/26 公開
ver.-1.10 1998+02/13 公開
ver.-1.00 1998+02/01 公開
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あとがき
 どうも、はじめまして。銀狼王と申します。このたび入居者募集という事で短いお話を一つ書かせていただきました。といってもただいまスランプの真っ最中でなおかつ一日で書き上げたので出来はいまいちですが。もしかしたらそのうち改訂するかも。……というわけで改訂版です。ちょっとはましになりましたでしょうか?
 ここで使った巨大な「義理」チョコですが実は「小山荘のきらわれ者」という少女漫画の第十話で使われたものをモデルにしてます。素直じゃないアスカならこんな事するんじゃないかと思って。いまいちアスカを描き切れてないのが心残りです。自分のホームページで公開してるのはもうちょっとましなんですが・・・。
 では、次回作でお会いしましょう。


 めぞんEVA、110人目の御入居者です(^^)
 

 本日3人目の新住人、銀狼王さん、こんばんは〜
 

 第1作、『義理』公開です。

 

 

 複雑な乙女心〜

 アスカちゃん、可愛いですよね(*^^*)

 

 

 手作り。
 特大。
 ラッピング。

 でも、
 デカデカとある”義理”の文字。
 

 鈍感お子さまシンジは思いっ切り混乱しているでしょうね(^^)
 

 不器用な二人ですが、
 今日一日で大分自分の気持ちに気がついたかな?
 

 

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