ごめんね。
いつもシンジが謝る。
ごめんね。
いつもシンジが折れる。
ごめんね。
いつもシンジに先を越される。
謝らなければいけないのは、アタシの方なのに。
アタシが言ったことのないセリフ。
人に頭を下げたことがなかった時は、もう過去になったはずなのに。
これからは素直になるって決心したのに。
言えないセリフ。
先を越されるセリフ。
心の中ではいつも謝っているのに。
なぜか口から出てこない。
ごめんね。
そう思っているのに。
シンジから謝らせる。
イヤな女。
ずるい女。
次はアタシから。
そう決めたのはいつからか。
いつも、いつも、いつも。
シンジが謝る。
悪いのはアタシなのに。
シンジが謝る。
こんなに好きなのに。
たった一言が言えない。
言わなくちゃ。
次こそは。
償いの言霊を。
口から絞り出さなくちゃ。
謝罪の言葉を。
言わなくちゃ。
いつもの儀式。
寝る前の儀式。
明かりを消す前に、目を合わせてお休みのセリフ。
どちらからともなく近づいて、唇を重ねる。
しばらくして、名残惜しげに離れる身体。
でも手はつないだまま。
シンジが明かりを消す。
暗闇の中アタシをベッドまで抱き上げる。
アタシを横たえた後、傍らに身を置く。
二人の上に布団をかぶせた後、もう一度唇を重ねる。
シンジが両腕をアタシの身体に巻き付ける。
アタシはシンジの左肩に頭を置く。
足が絡み合い、アタシ達は一つになる。
その姿勢は、朝まで崩れることがない。
守られている。
愛されている。
それを実感する。
そしてアタシは眠りにつく。
だけどアタシは知っていた。
シンジがアタシが眠りにつくまで起きているのを。
シンジの腕の中。
温かいぬくもりの中。
すぐに眠りにつける安らぎの場所。
毎日毎夜過ごす場所。
毎朝目覚める場所。
今日もほんの2,3分で浅い眠りに入った。
グラグラグラッ、
地震!?
激しい揺れに目を覚ました時、アタシの上にシンジが覆い被さってきた。
シンジを全身で感じながら、部屋のあちこちで物が落ちる音を聞いていた。
永遠ともおもえる時間が過ぎ、地震はおさまった。
アタシの安否をシンジが尋ねてくる。
大丈夫、と言いながらアタシは起き上がり、部屋の明かりを点けた。
部屋の中は崩れた物が散乱していた。
掃除しなきゃね、とため息混じりに言って振り返った。
ベッドの上にも幾つか物が落ちてきていた。
そしてシーツの上の赤い染み。
何だろう?
赤い染み。
…血!?
アタシは自分が怪我したとは思わなかった。
シンジがあたしを守ってくれていたのだから。
あぐらをかいているシンジの身体をこちら向きに向ける。
髪の毛の中から顔を伝わって流れている、一本の紅の筋。
アタシは救急箱を求めて走り出した。
止血して、頭を包帯でぐるぐる巻きにする。
ちょっと不格好だけど大丈夫よね。
自分が怪我したわけでもないのに手が震えていた。
シンジが何ともないように、お礼を言ってくる。
名誉の負傷だって、笑って言った。
そんなシンジにアタシは抱き付く。
ごめんなさい。
怪我させてごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
アタシは幼児のように泣きじゃくりながら、ただ繰り返した。
シンジはアタシを抱きしめながら、優しく髪を撫でていた。
…アスカは僕が守るから。
それは微かな声だったけど。
本当に微かな声だったけど。
確かにアタシの耳に届いてきた。
ありがとう。
口には出さなかった。
出せなかった。
…でも、ありがとう。
シンジはアタシの両頬を手で包んで上に向けた。
そして目を閉じたアタシに、シンジは優しく唇を合わせた。
情熱的なキス。
そしてアタシ達は二度目の眠りについた。
今回はシンジが眠るまであたしが起きていた。
シンジが夢魔に捕らえられる寸前、再びアタシはつぶやいた。
ごめんね、シンジ。
額にキスを送って、アタシも眠りについた。
えーと、腕枕は慣れないうちはつらいです。
朝起きた時、腕がなくなったと思ったことがあります。
気をつけましょう。
次回は300:1の方を更新したいと思います。
それでわ。
(意外に好評へっぽこおまけ)
おほほぉぉぉぉい。
ちょっとぉぉぉぉ。
誰かぁぁぁぁぁ。
シンちゃぁぁぁぁん。
アスカァァァァァァ。
たぁすぅけぇてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!(;-;)
自分の部屋で崩れた物に埋まるミサト。
しかし彼女が救出されるのは、三日後のことであった。
…しかしミサトっていったい…。