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 Gentle Heart.(S style)


 僕が先に家を出る。

 簡単に身支度を整えて待ち合わせの場所へ行く。

 それは公園だったり、喫茶店だったり。

 やっぱりデートの時は待ち合わせをしてからじゃないと、って彼女が言うから。

 今日は公園の噴水の前。

 彼女はわざと時間より遅れて待ち合わせの場所へやって来る。

 わざとだということに気がついていないふりをする。

 彼女がが遅れて姿を現したときの、いたずらっぽい表情が好きだから。

 僕の背中に何かが飛びついて、振り向くとそこに笑っている彼女がいる。

 僕も微笑み返す。

 彼女が僕の腕につかまり歩き始める。

 僕は早くなりがちな彼女の歩調に合わせて歩む速度を調節する。

 2人で出かけるときのいつもの手順。

 買い物につきあったり、映画へ行ったり。

 遊園地に行ったり、水族館へ行ったり。

 晴れの日には、公園で寄り添ってひなたぼっこするときもある。

 その時々によって行く先は変わる。

 2人が行きたいところへ行く、のではなく彼女が行きたいところがほとんどだ。

 でも僕は、文句一つ言わず付き合っている。

 トウジ達に言わせると、それは尻に敷かれている証拠だという。

 でも彼女の望むことが僕の望みなんだからしょうがない。

 今日はどこへ行くのかな。

 腕を組むのは嫌いじゃない。

 けど手をつなぐほうが好きだったりする。

 つながっている指先から、お互いの気持ちが伝わるから。

 でも人前では手をつなぎたくない。

 彼女には理由は恥ずかしいからと言ってある。

 でも本当は恥ずかしさよりも、周りの目線が気になるから。

 他の男の---なんであんな奴が---という目線が気になるから。

 他の男から見れば、あんなさえなそうな奴が何であんな美人とくっついているんだ と思うんだろう。

 そういった思考が織り混ざって赤くなった僕の顔を見ると、彼女も無理強いをせず に腕を組んでくる。

 町中には肩を組んでるカップルもいる。

 とても真似できない。

 男が女の腰に手を回しているカップルもいる。

 とても真似できない。

 せめて手をつなぎたい。

 でもやっぱりできない。

 アスカ解ってくれるかな。





 今日は映画を観る。

 観る時によって内容は違うが、今日は恋愛ものを観る。

 暗い劇場でふざけてアスカがキスをしてくる。

 暗くて見えないが、きっといつものいたずらっぽい顔をしているんだろう。

 その間僕とアスカは手をつなぎっぱなし。

 映画観ている間は会話ができないから、せめて手ぐらいつないでと頼まれた。

 暗い中のせいか、周りの目線も気にならない。

 絡みついた指からアスカの気持ちが伝わってくる。

 指が震え、指が笑って、指が悲しんでいる。

 伝わってくるのは、彼女の感情。

 送り出すのは、僕の感情。

 繊細なガラス細工を扱うように、優しく手を握る。

 アスカが握り返してくれる。

 暗がりの中で手をつなぐと、視覚に頼らないせいか、アスカのイメージが膨らむ。

 アスカが愛しい。

 映画が終わって照明が点くと、僕はアスカを立ち上がらせてから手を離してしまう 。

 やっぱりできない。

 再び腕を組んで外に出る。

 時間は夕飯時。

 アスカがどこかで食べていこうと言い、僕は家に帰ってから自分で作ると言う。

 デートの時ぐらい外食 いつものこと。

 今日は何にしようか。

 フランス料理?

 僕の格好を見て、ため息混じりにあきらめたようだ。

 イタリア料理。

 この前食べたけど、あそこならいいかも。

 保留。

 ドイツ料理。

 アスカが作るのよりおいしい店が、この町にあるとはとても思えない。

 和食は僕が作った方がいいと言ってくれた。

 ロシア料理は以前僕もアスカも酷い目にあったから、瞬時に却下。

 結局イタリア料理に決定。

 この前の店に決定。

 早速足を向けた。

 まだ時間が早かったのか、並ばずに店に入れる。

 間一髪思い出した。

 アスカの椅子をひいて座らせる。

 満足げな彼女の表情。

 危ない、危ない。

 カルボナーラスパゲッティ。

 サーモンサラダとコンソメ。

 ラ  オレンジシャーベット。

 赤ワイン。

 飛び出てくる言葉の大軍にボーっとしてしまう。

 財布の中身、残りいくらだったっけ。

 注文するのは男の役目だと言われ、指を突きつけられる。

 頭の中で整理する。

 僕も注文しなくちゃ。

 マカロニに、アバッキオのTボーンステーキ200g。

 ウェイターを呼んで注文する。

 今日は割り勘?

 そうなの?

 してやったりの彼女の表情。  アスカにたかられるなんて考えたこともないよ。

 アスカのグラスにワインを注ぐ。

 え、僕も飲むの?。

 イタリアじゃ水と一緒だなんだと言われ、結局飲む羽目に。

 僕弱いのに。

 じゃあ、乾杯。

 ほら顔がもう赤くなっちゃったでしょ、僕本当に弱いんだから。

 おいしそうにアスカがスープを飲む。

 僕にも飲ませようとする。

 遠慮しないのって、人が見てるよ。

 無理矢理押し込められた。

 でもおいしかった。

 アスカがサラダを片づけると、メインディッシュがやってくる。

 このウェイターさっきからアスカを見てるんだよな。

 一口でアスカがムッとし始めた。

 どうしたのかと思っているうちに、僕のステーキを一切れかすめ取られた。

 こっちが良かったのかな、交換する?

 いいの?

 人の顔色うかがってるかな、ごめん。

 次来たときは僕がラム肉食べろって、何か怪しい。

 アスカがデザートを食べ終わって、会計。

 わかってるよがウェイターを呼ぶんだろ。

 え、アバッキオってこんなに高いの?

 次はラムにしようと心に誓う。

 アスカが自分の分を机の上に置いた。

 僕の財政状態は把握してると言って、彼女は優しく微笑んだ。

 でもアスカ、ウェイターが見てるんだ。


 外に出るとすっかり暗くなっていた。

 ちょっと冷えてきたかもしれない。

 ワインのせいか、身体がぽかぽかしててちょうど良い。

 アスカが手をつなごうとしてきて、思わず振り払ってしまった。

 理由を言ってみろって。

 恥ずかしいとかじゃなくて、その、人目が気になるんだよ。

 僕とアスカじゃあ見た目も釣り合わないし。

 僕は愛の才能がないと思うし。

 思いきり頬を叩かれる。

 涙ぐんだアスカが僕の言葉を否定していく。

 アタシと自分が釣り合わないって?

 自分に才能がないって?

 アタシとシンジは付き合ってるの、恋人同士なの。

 他の人間が何を言おうと、それは一番確かなこと。

 シンジが格好悪くても、アタシにとって格好良ければそれで良いの。

 アタシと釣り合う釣り合わないじゃないの。

 シンジも他の男連中みたいにアタシの外見だけを見ているの?

 違うでしょう。

 全部ひっくるめたアタシに惚れているんでしょう。

 アタシだって同じだもの。

 全部ひっくるめたシンジが好きなんだもの。

 自分に才能がないって?

 愛の才能なんかないわよ。

 あるのはお互いを思いやる気持ちだけ。

 愛情の伝え方が下手でも、気持ちが通じていればきっと伝わる。

 それが恋人ってものよ。

 だから恥ずかしがることないの。

 アスカの言葉が奔流となって、僕の心に流れ込んでくる。

 思わず目を潤ませてしまう。

 アスカが愛しい。

 泣かないのと言って、ハンカチを差し出してくれる。

 アスカが愛しい。

 ありがとう、君に会えてよかった。

 酔っている勢いで言いたいことを?。

 言いたいことは・・・。

 アスカ、愛してる。

 彼女が、泣きながら顔を赤らめる。

 アスカが僕をそっと抱きしめてくる。

 僕もアスカを抱きしめる。

 他の人が見ていようといまいと関係ない。

 僕しかいないって、僕もアスカしかいないんだよ。

 アスカが別れたがっても別れないからね。

 君と一緒にいたいんだ。

 死ぬまで、生まれ変わっても、ずっと。

 アスカの口からも聞きたい。

 実際聞くとやっぱり、照れる。

 ・・・ありがとう。

 アスカがどんなこと言おうと、嫌いになることはないよ。

 君さえそばにいてくれたら。

 うん、そろそろ帰ろうか。

 僕は一呼吸おいて決心すると、アスカに手を差し出した。

 お嬢さん御手をどうぞ。

 わかってるって。

 ずっとこのままでいよう。

 ずっとそばにいて。







 もう人目は気にならない。

                  


おわり
NEXT ver.-1.00 1998+06/04公開
感想・質問・誤字情報などは rkplanet@geocities.co.jp まで!

 Gentle Heart S style でした。

 思ったより早くMacが復活したので、思わず視点を変えて作っちゃいました。

 これからちょっと忙しくなるため、次作は一ヶ月程先になると思います。

 ではその時まで。





 おまけ



 寝るとき。

 ギュッ、

 寝てるとき。

 ギュッ、

 起きてから。

 ギュッ、

 登校中。

 ギュッ、

 授業中。

 ギュッ、

 休み時間。

 ギュッ、

 授業中。

 ギュッ、

 昼食時。

 ギュッ、

 授業中。

 ギュッ、

 放課後。

 ギュッ、

 下校中。

 ギュッ、

 帰宅時。

 ギュッ、

 買い物時。

 ギュッ、

 夕食中。

 ギュッ、

 入浴中。

 ギュッ、

 「 いっそ殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ

 と誰が言ったのかは定かでない。



おしまい



 また病気が・・・。

     





 ZEROさんの『Sweet ten memories』S style、公開です。




 がんばれ。

 そう。
 がんばれ、ミサトさん(^^;



 辛いでしょうね・・・


 毎日毎日、自分の存在さえ目に入らずに
 らぶらぶらぶらぶしているカップルが同居人−−

 そのラブラブは度を超していて、
 その超え方は日々パワーアップ−−


 いや、ホントがんばってねミサトさん。



 早く結婚して、
 このマンションは二人に譲って出て行こう!




 二人の方が先にそうなって、出ていったりして(^^;

 そうなっても出ていかなかったりして(^^;;;




 さあ、訪問者の皆さん。
 あなたの感想をZEROさんに送りましょう!




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