「ねえシンジ、チャンネル変えていい?」
アスカは寝転がり、シンジはソファーにもたれながら2人は寄り添って、いつものようにテレビを見て夜を過ごしていた。
「ダメだよ、今ちょうど良い所なんだから」
アスカがリモコンに手を伸ばそうとしたが、シンジはすかさず手の届かないところに置き換えた。
「8時になったからドラマにしてよ。徳川埋蔵金なんていつでもやるでしょ。ドラマはこれっきりなのよ」
アスカはシンジの膝の上を越えてリモコンを取ろうとした。
「だめだって、とうとう埋蔵金のありかを発見して発掘される所なんだから」
シンジは乗り越えようとするアスカを抱きかかえて、リモコンを取られないようにする。
「やだくすぐったい。変なところ触らないでよ」
抱きすくめられるアスカがシンジの上で暴れる。
その時シンジは、暴れるアスカを支えられなくなり体勢を崩してしまった。
ゴチ、
決して大きくはないがくぐもった重い音が部屋の中に響いた。
「ア、アスカ、大丈夫?」
机の角に頭をぶつけたアスカは、両手でぶつけたところを抱えていた。
「アスカさん?」
フルフルと身を震わせているアスカを、シンジはそっと抱き起こす。
「・・・プチッ」
「ぷちっ?」
勢い良く身を起こすとアスカは怒声をあげた。
「頭の血管が切れた音よ!このバカシンジッ!」
アスカは鼻と鼻がつきそうなほど顔を近づかせた。
「大事な乙女の頭が傷物になったらどうすんのよ。だいたいシンジが大人しくリモコン渡せばこんなコトにならなかったのよ」
「僕の上にのっかってくるからいけないんだろ。それに僕が先にテレビ見てたんじゃないか」
一方的なアスカの物言いに、シンジも言い返した。
「いつもは素直にチャンネル変えてくれるくせに今日に限って何よ!」
「しょうがないだろ、徳川埋蔵金は僕にとって絆なんだから」
興奮してきて話の内容が変になってくる。
「徳川埋蔵金が何よ。毎回毎回もう一歩のところで、結局見つけられないあんなへっぽこ番組」
「へっぽこって言い方ないだろ。アスカの見たいドラマの方がへっぽこじゃないか。いつもいつもいつもいつも同じパターンの繰り返しじゃないか」
「同じパターンだったら、徳川埋蔵金なんかもう30年以上同じコトやっているじゃない」
「埋蔵金はそこが良いんだよ。ドラマなんて男と女が惚れたはれたを繰り返すだけじゃないか」
「シンジみたいなお子様に、大人の恋愛の駆け引きなんか解らないわよ」
だんだん喧嘩の内容が、お互いの見たいものをけなしあうものになっていった。
「・・・この前だって、アタシも料理覚えなきゃ、とか言って結局途中で寝ちゃったじゃないか」
「シンジがずぅっと食い入るように見てたから呆れちゃったのよ。この男女!」
その言葉を言った瞬間アスカは、しまった、と思ったがもはや取り消せなかった。
次の言葉が口から続いて出てしまう。
「全くいつまでもひょろひょろとしちゃって、アタシとどっちが女らしいかわかんないわよ」
シンジの顔が怒りのためだんだんと赤くなってくる。
「あーあ、どうせだったらアタシと性別が逆に生まれてくれば良かったのにね。そうすれば全部うまくいったかもしれないのに。リツコに言って性転換してもらう?」
言葉が途切れた瞬間、シンジの手が振り上げられた。
思わずアスカは身をすくませたが、振り上げられた手は降りてこなかった。
「何よ。女を叩くこともできないの。この意気地なし!」
黙り込んだシンジに吐き捨てるように言うと、アスカは自分の部屋へ引っ込もうとした。
背を向けたアスカの手が強い力で引っ張られて、アスカはシンジの胸の中に抱き寄せられた。
「は、離しなさいよ」
それを無視するように、アスカはさらに強い力で抱きしめられた。
「この手は」
ぼそっとシンジが呟く。
「この手はアスカを叩くための手じゃないもの。抱きしめるための手だから」
その言葉でアスカの強ばっていた力が、全部抜けていった。
「・・・シンジ」
「ごめんねアスカ。君とはもう喧嘩したくなかったのに」
シンジは力を緩め、アスカの両腕をつかんだままそっと自分の前に押した。
「ごめんなさい。興奮してアタシ何言ってるんだか解轤ネくなっちゃって。アタシだってシンジと喧嘩なんかしたくなかったのに」
アスカは潤んだ目で視線をあげた。
「この口だって、アスカと口論するために使うものじゃないもの」
シンジは片手を離し、自分の唇を触った。
「じゃあ何のために使うものなの?」
アスカは少し口元をほころばせた。
「うるさい女の子の口をふさぐため」
そしてシンジは、目を閉じたアスカの口を自らのものでふさいだ。
僕はあります。
幼い時はいざ知らず、結構最近までやってたりしました。
しかも1回は血を見たこともあったし。
恐るべきはチャンネル争い。
皆様も気をつけて下さいね。
久しぶりに”Sweet〜”をお送りしました。
更新はこちら1回につき、”300:1”を2回としようかなと考えています。
次回更新は6月を予定しています。
皆様は口に出して「プチッ」って言わないようにね。
それでわ。
(へっぽこなおまけ)
どちらからともなく唇を離しす。
「・・・シンジ」
「・・・アスカ」
潤んだ目で見つめ合う2人。
「結局ドラマ見られなかったね」
「大丈夫よ。再放送があるから」
そしてまた口をふさぎ合った。
しばらくしてまた離れる2人。
「徳川埋蔵金見られなかったね」
「大丈夫だよ。ビデオに撮っているから」
「 なんですってぇぇぇぇぇ!!! 」
アスカはシンジの喉元を両手でつかみそのまま、
「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」
その晩結局シンジは許して貰えず、1人寂しく寝てシーツを涙で濡らしたのでした。
「しっかし毎回毎回よく喧嘩のネタ尽きないわよね」
その言葉は2人がまぐわっている姿を、風呂から上がってきてビールを飲みながら観察していた、葛城ミサトのコメントだった。