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 A reason why she had a cold.




 「お嬢ちゃん」

 その日アスカは、珍しく一人で買い物に出かけていた。

 普段はシンジが夕飯の材料を買いに行くのにくっついて行くだけなのだが、シンジが風邪をひいて寝込んでいるため一人で行くことになったのだった。

 高校に入学して二ヶ月。相変わらずミサトの家に同居している二人であったが、その関係は以前よりは少しだけ進展していた。といってもまだ恋人半のような状態ではあるが、進展は進展であった。

 いつも世話になってるシンジを逆に世話するチャンスとあって、彼女は少々喜びを覚えていた。

 商店街で、病人のために滋養のあるものを買いあさり(ミサトのことは眼中に入っていない)帰路につく途中のことだった。

 「お嬢ちゃん」

 「私?」

 その声は、路上の片隅で占いの看板を出している老婆のものだった。

 「そう。あんただよ」

 ぶっきらぼうではあるが、妙に人を引きつける声であった。

 「私急いでいるから、また今度ね」

 アスカとて女の子であるから占いには興味があるが、今は一刻も早くシンジの元に帰りたかった。

 「いいから、手間はとらせないよ。お代もいらない」

 「え?」

 占い師といっても商売である。なのに金を取らない。その矛盾に思わずアスカは足を止めた。

 「ここに座らんかね」

 フラフラッと、引き込まれるようにアスカは老婆の前の椅子に座り込んだ。

 「お嬢ちゃん面白い顔してるね」

 そんなこと言うためにわざわざ呼んだのか、腹ただしく思ったアスカは席を立とうとした。

 「ああ、言い方が悪かったね。そういう意味じゃないんだよ。面白い相をしてると思ったのさ」

 「相?」

 「お嬢ちゃんは輝いている。アタシから見れば眩しいくらいさ」

 そういうと老婆は、本当に眩しそうに眼を細めた。

 「でもね、その光の中で、一点暗い影がある。それが気になってお嬢ちゃんを呼び止めたってわけ」

 「暗い影って何のこと」

 「・・・見た感じお嬢ちゃんは美人で利発そうだ。そして今好きな人がいるね」

 アスカは家で寝ている少年を思い頷いた。

 「その人を想う心でお嬢ちゃんは輝いているんだよ。いくら美人でも、恋をしていなきゃ輝かないものさ」

 その言葉にアスカは頬が熱くなるのを感じた。

 「お嬢ちゃんの想う心の中に、影がある。それは嫉妬、独占欲といった誰にでもあるものさ。それに混ざって、不安という影がアタシの目にはっきり浮かんでいるの」

 「・・・不安ですか」

 「心あたりはあるかい」

 尋ねられてアスカは、確かに自分の心の中に一抹の不安があるのを感じ取った。

 「はい」

 老婆はゆっくり頷きながら言った。

 「そうかい。その影は段々と成長していくよ。そして将来お嬢ちゃんを押しつぶしてしまうだろう。だからお気をつけなさいな」

 その言葉にアスカは衝撃を受けた。私を押しつぶす、それはシンジとの関係が壊れるってことなのか。

 「・・・どうしたら良いんですか」

 待ってましたとばかりに老婆は言った。

 「素直におなり」

 「え」

 「自分から動かなきゃダメってことも、人生たくさんあるんだよ。素直におなり」

 「それは彼に私の気持ちを伝えろってことですか」

 老婆は再びゆっくりと頷いた。

 不安。確かにシンジは私のことを好いてくれてると思う。私はシンジが告白してくれるのを待っていた。でもなかなか決定的なことを言ってくれない。それが私を不安にさせている。日に日にその気持ちが大きくなっていることをアスカは痛感していた。

 しばらく考え込むとアスカは自分の言葉を噛みしめるようにゆっくりと言った。

 「わかりました。気持ちを伝えます」

 それは決意だった。そう彼女の目が物語っていた。

 「一つ聞いて良いですか」

 「なんだい」

 「何で私に、こんな忠告を」

 老婆は数秒間遠くを見る目をして、それからアスカを見つめていった。

 「アタシとお嬢ちゃんが似ているからさ」

 少し笑いながら老婆は言葉を続けた。

 「今のアタシじゃなくて、昔。お嬢ちゃんくらいの年のアタシとね。よく似ているのさ」

 ニンマリと笑って、老婆は語り始めた。

 「アタシだって生まれたときから老婆じゃなかったんだよ。お嬢ちゃんくらいの年の頃だってあったんだ。その頃はアタシもなかなかの美人でね、自分に自信があったのさ。それで一人大好きな人がいたの。向こうもアタシのこと難からず想ってくれてるみたいでね、アタシは何とか告白させようとその人を挑発したものさ。でもなかなか告白してくれないからアタシは不安になったのさ。もしかしたら他に好きな人がいるんじゃないかって、アタシのこと嫌いなんじゃないかって。イライラが募ったアタシはその人にしょっちゅうケンカを仕掛けたの。ある日大喧嘩してね、その後謝ろうと思っても、なかなか謝れなかったの。そしたらその人は風邪をこじらせてあえなく死んでしまったのよ。臨終の際の”好きだ”て言う言葉をアタシに残してね。その時アタシの心も死んでしまったのさ。だからお嬢ちゃんにアタシと同じ道をなぞらせたくないの。それが呼び止めた理由ってこと」

 長く喋って疲れたのか、老婆はそれっきり黙り込んでしまった。

 そんなにその人のことが好きだったのか、アスカは老婆の気持ちを思い涙ぐんだ。

 「アタシの話はそれで終わりだよ。さあお行き」

 それっきり老婆は目を閉じて、アスカの存在を無視した。

 風邪をこじらせて、風邪・・・。大変。

 「ありがとうございました」

 立ち上がって深々とお辞儀をすると、アスカは家に向かって走り始めた。

 「シンジッ」



 バタンッ、

 ふすまを勢いよく開け放ち、アスカがシンジの寝ている部屋に走り込んできた。

 「シンジ死んじゃダメ」

 そう叫ぶとアスカは寝ているシンジに抱きついた。

 「うわぁっ。ア、アスカどうしたの」

 気持ちよく寝ていたシンジが飛び起きた。

 「よかった、生きてる・・・」

 「生きてるって、アスカどうしたの」

 シンジがアスカを見つめると、彼女の顔は涙でグシャグシャだった。

 「シンジ。・・・私、シンジが好き。大好き」

 突然の告白に驚いたシンジだったが、アスカの眼をジッと見つめて言った。

 「僕もアスカが大好きだよ。心から」

 そして二人はゆっくりと身体を抱きしめあった。

 しばらくしてアスカから占い師の話を聞いたシンジは、詫びの言葉を言った。

 「ごめんねアスカ。なかなか言い出せなかった僕がいけなかったね」

 「・・・そうよ。だから今度はシンジから私に告白して」

 思いがけない言葉にシンジは苦笑いをして、その後優しく笑って言った。

 「アスカが好き。百万の朝に君に目覚めのキスをして、百万の夜に君を抱きしめたい」

 アスカはそれを聞いて顔中が真っ赤になったが、言った本人ははち切れんばかりに熟したトマトのようだった。

 「シンジ。大好き」

 そう言うと彼女は目を閉じた。

 その様子を見たシンジは更に熱が出てしまった。

 「風邪うつるよ」

 「うつして」

 「知らないから」



 次の日はアスカが風邪をひいた。




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ver.-1.00 1998+03/23公開
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 ZEROです。

 昔書いた作品をリメイクしました。読み返すと結構恥ずかしい話ですよね。

 余談ですが、僕は昔占い師に18歳で死ぬと言われたことがあります。(現在2X歳)

 一応前回の"THE GRADUATE"の続きのようなものです。これからはこの設定で短編をつなげていこうと思っています。

 というわけでお約束の学園物が始まる予定です。それでは次作品で。





     




 ZEROさんの『THE GRADUATE』、公開です。


 キザなセリフ。

 それを言いながら、
 真っ赤になっちゃうあたりが”シンジ”です♪


 シンジにしては出来た言葉。

 きっと何回も何回も練習してたんだろうな(^^)


 「好き」が踊っています〜


 いっぱいキスして
 交代交代で、看病していてね−



 幸せだな〜〜〜



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