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 視線




 沈黙の声







 ・・・あの二人が







 ・・・兄妹なのに







 ・・・血の繋がり







 ・・・近親相姦










 違う




 違う




 僕達は




 兄妹じゃないんだ







 だから




 だから好きになって悪いことないんだ













 沈黙













 もう離さないって決めたんだ







 僕の一番大事なもの







 二人なら大丈夫




 今までだってそうだったじゃないか




 いつも一緒だったんだから




 これからも







 ずっと













 沈黙




























 安らかな寝息が耳に入る。

 柔らかく細い腕が胸元に伸びている。

 小振りの頭が肩口に乗っている。

 先程までとは打って変わって静まり返った部屋の中。

 痛みがぶり返してきた拳を握り締めた。




 求めていたものを手にした。

 狂おしいほどの想いがかなえられた。

 少年から男になり、少女は女になった。

 もう過ちは繰り返さない。

 そう決心した。

 長い夜。

 静かな夜。

 心も体も一つになった夜だった。




 あとは、真実を告げるのみ。

 逃げちゃだめだ。

 もう何事からも。







 そう、逃げちゃだめだ。






















 少女を抱く手に力がこもる。

 絶え間なくアスカの身体をむさぼり続ける。

 甘く、切ない吐息が広くない部屋を充満する。

 果てしない愛撫と、悦楽。

 僕は一匹の獣になった。

 アスカは一匹の獣になった。

 雄が雌を、雌が雄を本能で求め合うように、僕達はお互いを求め合った。

 アスカの指と唇が僕の体中を這い回る。

 アスカの身体全てに僕の軌跡を残していく。

 果てしない愛撫。

 一瞬たりとも止むことがない。

 相手をより高みへ上り詰めさせようとする。

 ただひたすら相手を想った。

 怪我の痛みはどこかへ消え去っていた。

 全てがここにあった。




 痛みがあった。




 悦びがあった。




 哀しみがあった。




 優しさがあった。




 憎しみがあった。




 慈しみがあった。




 怒りがあった。










 そして何より、愛があった。




 全ての感情を凝縮して互いにぶつけ合っていた。

 互いの気持ちをさらけ出していた。




 そして僕達は、文字通り身も心も一つになった。




 女になった証がシーツに染みとなっている。

 僕のモノは強張りを失ってはおらず、更にアスカを求めた。

 そして繰り返される愛撫。

 強く求めると、強く返ってくる。

 優しく求めると、甘えるように返ってくる。

 ひたすら身体を重ね合う。

 繰り返される絶頂。

 互いの絶頂がシンクロする。

 突、

 突、

 揉、

 舐、

 突、

 触、

 抱、

 突、

 突、




 意識があるのにない。

 陶酔?

 違う。

 絶頂感?

 違う。

 言葉に出来ない。

 頂に上り詰めても、更に上を目指していける。

 快楽を感じる自分を、雲の上でフワフワ浮かび、それを見ている。

 そんな感じだ。




 学校から病院経由で戻ってきたのが夜の八時頃。

 今現在、草木も眠る丑三つ時。

 約六時間。

 猿だな。

 苦笑いが浮かぶ。

 もっともこの近辺の草木は、悶々として眠るどころではなかっただろうが。




 最後の頂を踏んだ後、二人とも抱き合ったまましばらく動けなかった。

 息が整い、アスカの顔一面に口付けを送る。

 アスカが濃厚な返信を返してくる。

 そしてアスカが眠りに落ちたのが五分程前。

 僕の胸の中で、アスカはどんな夢を見るのだろうか。

 願わくば安らかな夢を。




 寝顔を見つめながらまた機会を逸したことに僕は気がついた。

 そして僕が大きな問題だと考えていたことが、大した物じゃないと閃光のように思いついた。

 アスカは一人じゃない。

 僕がいる。

 アスカが僕を包んでくれるように、僕がアスカを包めば良い。

 悟った。

 あるべきままに。

 現在と未来。

 過去は過去。

 今は誰がいる。

 僕がいる。




 考えのベクトルが180度変わった。

 そんな感じだった。

 朝アスカが目覚めたら、こう言ってあげよう。




 ”世界中でたった独りぼっちのアスカ”




 ”僕が側にいるよ”




 ”僕の最愛の君と”




 ”ずっと一緒にいるよ”




 ”僕達は二人で一人”




 ”だから大丈夫”




 ”悦びが分かち合えるなら”




 ”痛みも分かち合える”




 ”だから大丈夫”







 笑顔で言おう。

 ”おはよう、朝御飯は?”

 のような軽い口調で言うのだ。

 心は決まった。

 朝よ早く来い。

 先延ばしにしていたこだわりが、今は待ち遠しい。




 胸の中で眠るアスカをそっと抱きしめながら僕は祈った。







 二度と見失いませんように




 もう二度と
















 眠りにつく瞬間声が聞こえた気がした。










 ・・・ってるよ










 夢か、幻か。







 何でもいいや。







 早く朝に・・・。





























 Both Wings



第拾弐話 My little lover.






























 目覚ましが鳴る。

 いつもの朝。

 朝日が射し込む部屋。

 脱ぎ散らかされた制服と、下着。

 乱れたベッド。

 乾いた体液で寝具がかさついている。

 そして傍らには、腕の中で眠る少女。

 僕の妹。

 僕の女。

 愛しさが込み上げてきて、そっと抱きしめる。

 口付けを送る。

 あ、起きた、かな。

 アスカの手が僕の背中に回されて、キスが返ってくる。

 おはよう、アスカ。

 僕の恋人。










 アスカは黙って聞いていた。

 二人で毛布に包まり、ベッドに腰掛けながら、僕は語りつづけていた。

 アスカのことを。

 血の繋がりのことを。

 厳密にはアスカには血縁者はいない。

 でも碇家の娘だし、僕の一番大切な人。

 独りじゃないし、独りにさせない。

 昨晩思ったことを、決意を、アスカに伝えた。

 始終アスカは押し黙っていた。







 「知ってた!?」

 アスカが頷く。

 安心したというか、なんというか、その、あの・・・。

 あ、やば。

 「知ってたならなんで言わないんだよ、この馬鹿ちんが!!」

 爆発。

 「気がついているなら、気がついていたなら、もっと、その僕達はこんなに」

 怒りのボルテージが急激に下がっていく。

 「しょうがないじゃないの、パパやママやシンジに、アタシってこの家の娘じゃないんでしょ、なんて聞けるわけないじゃない」

 そりゃそうだ。

 「髪の色も瞳の色も顔立ちも違って、見たこともない曾お祖母さんに似てるって言われたって、信じられないわよ」

 そして戸籍抄本を閲覧して真実を掴んだのだそうだ。

 「最初は辛かったけど、アタシってそんな不幸の星の下に産まれたんだなって」

 で、その考えが悪夢となってアスカを苦しめるようになったというわけだった。




 「ククク、ククク、アハハハハハ」

 笑いが込み上げてきてどうしようもない。

 可笑しくって涙が出そうだ。

 「僕って今まで何をやってきたんだろう」

 発作がおさまり、床を見つめながら呟いた。

 「空回りして、アスカを苦しめて、自分を苦しめて」

 衝撃。




 頬に鋭い痛みを感じたと思ったら、壁に叩き付けられた。

 「そこまでにしなさいよ。シンジがいなかったら、アタシはもっと苦しかったと思う。もっと打ちのめされてたと思う。だから自分をもう追いつめないで。アタシはシンジに救われたんだから」

 アスカが泣きそうな顔で言うが、左手で僕の胸座を掴み壁に押し付け、聞き分けない時のために、右手を振るっていた。

 表情と、その雰囲気にどっちに気圧されたかはわからないが、僕は頭の上下運動を繰り返した。




 「それにね血が繋がってなくて、良いところもあるの」

 僕のはれた頬をさすりながらアスカが言った。

 「アタシ達の仲を公にできるってことだし。パパとママに知らせるのはちょっと恐いけど」

 確かに、と僕は頷いた。




 君は僕に救われたって言うけど、僕はそれ以上に君に救われたんだよ、アスカ。

 アスカの励ましと、厳しさと、優しさが今の僕を創ってくれた。

 感謝しているよお姫様。

 とは言わずに違うことを口にした。

 「愛しているよ」




 熱っぽい眼でアスカが僕を見ているので、唇を合わせる。

 そしてそのままベッドに押し倒す。

 シャツ一枚羽織っただけのアスカを剥いていく。

 「・・・遅刻しちゃうよ」

 抵抗する素振りも見せずにアスカが言った。

 「どうせもう、間に合わないよ」

 そして再びアスカの口をふさいだ。
















 その日僕達は、初めてずる休みをした。



















 「許さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 僕達の互いの想いと、真実を話したことを、久しぶりに帰宅した両親に伝えた。

 僕が話し終えた瞬間、父さんが吠えた。

 「許さん許さん許さん許さんぞぉぉぉぉ!絶対許さん!お前みたいな若輩者にアスカは任せられん!!アスカはワシと結婚するって誓ったんぢゃぁぁぁぁぁ!!」

 涎を振り撒き、鼻水を垂らして叫び狂う父さんの姿は、普段の姿と比べると、何て言うかその。

 「いいかげんにしなさい」

 隣に鎮座していた母さんが暴れる父さんの顔面に、裏拳を一発浴びせる。

 「おめでとうって言うのも変だから、ま、頑張りなさい」

 いつも多弁な母さんが今回は言葉少なく、寡黙な父さんが今回は・・・だから良くわかんないものだ、人間って。







 「孫はまだ欲しくないからね」

 僕とアスカの顔から火が吹いた。



















 学校の方はしばらく好奇の視線にさらされた。

 決して表立って言ってくる人はいなかったけれど、雰囲気でわかった。

 でも僕達は気にしなかった。

 いつも寄り添っていた。

 登下校は手を繋いで、お昼はいつも一緒に。

 友人達には本当のことを教えた。

 僕達は兄妹だけど、恋人同士なんだって。

 血の繋がりもないことも。

 皆励ましてくれた。

 綾波は辛そうだったけど、笑顔で頑張って、って言ってくれた。

 下校の最中に渚さんにあったことがある。

 その時アスカは人目もはばからずに、いきなりキスをしてきた。

 しかもすごい濃厚なやつを。

 あの時の彼の表情といったら。

 僕達は思い出しては良く笑った。

 そして僕達はいつしか公認のカップルになっていた。
















 季節は巡り、時が経つ。

 でも僕達は変わらないだろう。

 変わらないことを知っているから。

 いつも頭にある。

 二人で一人。

 僕達は奏でつづけるのだ。

 羽ばたく翼の曲を。

 二人の甘い蜜月のハーモニーで。

 この世に存在しうる限り。



















 その時はまだ気がついていなかった。







 紅い瞳に狂気の色が浮かんでいたことに。







 僕達は気がついていなかった。










 Be continued to the Second Stage......



つづく
ver.-1.00 1999_03/04 公開
感想・質問・誤字情報などは こちらまで!


 長らく続いた”Both Wings”もようやく完結いたしました。

 今回もかなり遅れてしまったことをまずおわびいたします。

 っておい。

 最後になんか。

 引きを作ってしまった。

 しかも”Second”なんたら。

 問題ない。

 計画通りです。

 たぶん。

 冗談はさて置き、続きます。

 引っ張ります。

 今回ようやく男と女になったふたりのその後。

 二人にある人物が絡んでいく・・・。

 予定。

 第二部はそういったところから始まると思います。

 取りあえず間に中編か、短編はさんで、その後くらいから。

 お待ち下されば幸いです。

 ではその次の機会にまた。




 追記

 メール下さった方々ありがとうございます。

 皆様なくしてこの作品は成り立たなかったと思います。

 もちろん御愛読下さっている読者の方々も。

 そして、この場を提供して下さっている大家さんに感謝を。

 引き続きよろしくお願いいたします。




 題名を提供してくれた二人の元帥閣下に。



 ZEROさんの『Both Wings』第拾弐話、公開です。






 片翼の不安定さで苦しんでいた二人がやっと・・・

 わーい(^^)



 兄妹になって出会えて
 兄妹ということでずっと近くにいられて

 でも、
 それが次第に枷になって

 苦しんで



 ついに乗り越えられた♪

 あぁ良かったぁ





 最後の引きが妖しく怖いけど、
 今はそんなの忘れとこっ    (爆)





 さあ、訪問者の皆さん。
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