白い雲
サンゴ礁
色とりどりの魚達
泳ぐアタシはリトルマーメイド
だったはずなのに
なのに
「なんなのよこれぇぇぇぇぇぇっ!」
超大型台風八号
沖縄上陸
Both Wings
ぷち、
「なにすんだよ、今見てるのにさ」
突如電源を切られたTVを横目にシンジが文句を言う。
「そんなのいいからさ、荷物作るの手伝ってよ」
夕飯も食べ終り、リビングでくつろいでいたシンジにアスカが近づいていった。
台所からは母親が食器を洗う音が聞こえてくる。
「そうだそうだ。お前も荷作りしてこい」
父親がリモコンを手にして、TVの電源を入れた。
ちゃっちゃちゃっちゃちゃーちゃーちゃー、
画面には猫型家庭用人造人間のアニメが映し出されていた。
「「・・・」」
父親を怪訝な目で見ていた二人だったが、シンジが諦めて立ち上がり、二人は自分達の部屋へ移っていった。
「たまにしか帰ってこない、子供と接しない親」
アスカはシュノーケルを手にして言った。
「特にあのヒゲ親父何考えてるのかさっぱりだわ」
「それだけ信頼されてるって事じゃないの。干渉されすぎよりいいと思うよ」
シンジはポンプを片足で踏みシャチを膨らませていた。
「ママからお小遣いもらった?」
「うん」
「幾ら?」
「五万円」
「アタシも。二泊三日だというのに何考えてるのかしら」
「九月分の手当ても含むって言ってたよ」
「そうなの?それはそれでまた貰えると思ってたのに」
「残念でした」
「でも水着も買ったし。お昼代とお土産で一万五千円使うとして、残り三万五千円。今月はリッチね」
「やっぱあの水着持ってくの?」
「あによ、文句ある?」
「べ、別に。ただちょっときわどいんじゃないかなって」
「今どきビキニくらい当たり前よ。アンタが着るわけじゃないでしょ」
「わかってるけど」
パーンッ!
「わ、わ、わ」
「アンタ空気入れすぎよ。あーあ、シャチダメになっちゃった」
「ごめん」
「荷作り終わり。シンジが持つのよ」
アスカが荷物を詰め込んだバッグをたたいた。
「何で僕が」
「シャチ割ったでしょ。それとも弁償する?」
「着替えの方は自分で持ってよ」
「あったりまえでしょ」
とりとめのない会話が続くが、それも次第に途切れがちになった。
「いよいよ明日か」
机の椅子に腰掛けてシンジが言った。
「明日の夜飛行機に乗って、明後日の早朝に現地着」
アスカは自分のベッドに寝転んでいた。
「飛行機の中で寝たらどうしよう」
「起きてればいいんだよ。どうせ何時間かしか乗っていないんだから」
シンジは栞をぱらぱらとめくっていた。
「隣に座ってくれる?」
「ん」
今日は早めに寝ようか、そう言ってシンジは歯を磨きに部屋を出ていった。
何だろう、嫌な予感がする
そうアスカは思いながらも、しばらくするとウツラウツラと眠りに落ちてしまった。
生水飲むなよ、歯磨けよ、手紙出せよ、そう言う父親と、行ってらっしゃい、と笑顔の母親に二人は送りだされ、集合場所である空港へ向かった。
「手紙出せよって、どこへ行くと思っているのかしら」
「飛行機に乗るって聞いて、海外行くんだと思ったんじゃないの」
「パパって自分の研究分野以外は本当非常識よね」
「・・・ん」
二人とも父親を決して嫌ってはいなかったが、常識人であるとは思っていなかった。
やっほー、アスカが通りの向こう側にいる色白の少女に手を振っていた。
はいほー、色白の少女、綾波レイが空いている手を振り返してきた。
自分の荷物プラス海用品一式で両手がふさがっているシンジは、疲れた笑顔を送っただけだった。
駅へ向かう途中で幾人かの友人達と合流し、空港直通の列車に皆乗り込んだ。
「シンちゃんシンちゃん。飛行機一緒に座ろうね」
レイは揺れる列車の中で必要以上に身体を寄せていた。
「あ、えーと」
逆側からアスカのプレッシャーを受けながら、シンジが答えた。
「アスカが高所恐怖症なんだ。だ、だからアスカの面倒を見ないと」
下からのぞき込むように目線を送ってきて、レイがいたずらっぽく笑った。
「そんな話初めて聞いたけどな。まいいや、シンちゃんが真ん中に座ればいいのよ」
ね、と首を傾げてレイが言った。
その愛くるしさにシンジは思わず頷いていた。
「美少女二人に挟まれる夜間飛行。もてる男は辛いのう」
黒いジャージに身を包んだ少年、鈴原トウジと、うんうん、と頷くメガネの相田ケンスケに、後ろから茶化された。
「な、何言ってんだよ。アスカは妹じゃないか」
顔を真っ赤にしたシンジが二人の方へ向き直った。
「じゃレイは否定しないんだな」
ヒューヒュー、と冷やかす二人の少年の言葉に、シンジとレイは顔を見合わせて、互いに顔を赤らめて下を向いた。
そんな二人を見つめるアスカの瞳に、悲しげな暉きが光っていた。
何がヒューヒューよ古くさいわね、静かになさい、二人を叱る委員長洞木ヒカリの声が車内に響き渡ったが、アスカの耳には届いていなかった。
沖縄へ向かう飛行機の中は、シンジを真ん中にしたアスカとレイのお喋りで寝るどころではなかった。
28日未明 羽田発沖縄行 JAL238便 嘉手那空港着
現地天気 曇りのち嵐
「あえて言おう、カスであるとっ!」
「僕には帰れる所があるんだ」
「エゴだよそれは!」
「ボウヤだからさ」
「英霊を慰めるために」
「それは一人前の将校のセリフだっ!」
「あれが敵」
「落ちろ、落ちろ、落ちろぉぉぉ!」
「やらせはせん、やらせはせんぞぉぉぉ!」
「俺を踏み台に」
「謀られた」
「私を誰だと思っているのだ」
「ソロモンよ、私は帰ってきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
一回終わったんだけど、開発しまくるためにまたやり直してます。
嗚呼寝不足の日々。
第伍話をお届けします。
沖縄入りまでということで。
外伝も出来ました。
よろしければ僕のHPを覗いてみて下さい。
それでは第六話"Storm"でまた。