「おはようアスカ」
「…き、気持ち良い朝ね」
「そうだね」
「…怒ってる?」
「全然」
「うそ怒ってる」
「怒ってないよ」
「やっぱ怒ってるでしょ」
「ああドタマきてるよ!」
Both Wings
アスカにしては珍しく、シンジに頭を下げていた。
「昨日はベッドから突き落として、そのままジャンピングニー」
「ごめんなさい」
「一昨日は顎に掌底くれるし」
「…ごめんなさい」
「一昨昨日は」
「だーっ、だから謝っているでしょう。ねちねちねちねちとしつこいわね」
シンジの胸座を掴み、アスカが激高した。
俗に言う、逆切れというやつだ。
「ご、ごめん」
「わかれば良いのよ」
いつのまにか立場が逆転している二人だった。
最後にアスカが悪夢に脅かされてからすでに一週間が経過していた。
シンジが同じベッドで眠り始めてからは、悪夢は見なくなっていた。
しかしアスカは、同じ布団でしかも抱きかかえられながら眠ることに対して未だ慣れていなかった。
その結果シンジは毎朝鉄拳を浴びる羽目になっていた。
二人は両親に夢のことを話そうと思っていたが、週に二、三日しか帰ってこないために、話をする機を逸していた。
「ねえ」
「ん?」
パンを頬張りながらアスカが正面に座るシンジに話し掛けた。
「ごめんね」
「もういいって」
そして二人は黙々と朝食を食べつづけた。
朝の献立はトースト二枚ずつ。
ターンオーバーで焼いた柔らか目の目玉焼きに、カリカリに焼いたベーコンとレタスを添えたもの。
ヨーグルト。
牛乳。
余談だが、二人ともそれぞれの目標は異なっていたが、牛乳を良く飲んだ。
今日はまだ始業まで余裕があるらしく、いつものように慌ただしくはなかった。
「平和ねぇ」
食後のミルクティーを飲むというより、すすりながらアスカが呟いた。
「シンジさあ」
両手でカップを支えながら、シンジに話しかけた。
「一緒に寝るのって迷惑?」
「迷惑」
「アンタねぇ」
言葉を続けようとしたアスカの口元にシンジの右手が延び、口の動きを止めさせた。
「抱きつかれて暑い。上に乗られると重い」
「…」
更にシンジは真正面からアスカを見て言った。
「腕に涎は垂らすし、いびきはでかいし、歯ぎしりはするし、寝相は悪いし、凄い迷惑」
アスカの顔がだんだんと青ざめていった。
「…嘘」
「嘘」
「へ」
口元に笑みを浮かべて、繰り返しシンジが言った。
「嘘だよ。最初は腕枕が痛かったけど、もう慣れちゃったし、他気にするようなことは何もないよ」
アスカはうつむいて肩を震わせていた。
「こ」
「こ?」
「こんちくしょぉぉぉぉぉ!」
「なんかさ、こう、女の子っていいなって」
目の周りを黒く腫らしたシンジが言った。
「例え妹でもさ、腕の中にいるのって、上手く言えないけど、いいんだ」
「ん」
アスカの表情がちょっと照れた物になっていた。
「アスカは僕が守ってあげるって決めたから。誰か彼氏ができて、そいつに守ってもらうようになるまでね」
「ん」
「だから早くいい男捕まえなよ」
アスカは何か言いたげだったが、口から出たのは考えていたこととは別な言葉だった。
「…そろそろ学校行こうか。いつもみたく余裕なくなっちゃうもの」
シンジも何か言おうとしたが、それは発せられることのない永遠の秘密だった。
…たとえ血の繋がっていない妹でも
それだけはアスカに言ってはならなかった。
いつも走って通う道を、二人は歩いていた。
「あのさ、知ってるかな」
朝の澄んだ空気を感じながらシンジが言った。
「なにをよ」
鞄を後ろ手に持っていたアスカが聞いた。
「来月にさ、修学旅行あるんだよね」
「楽しみよねぇ。ああ、魅惑の沖縄」
目を潤ませてアスカは答えた。
「三泊四日だよね」
「世界一奇麗な沖縄の海。青い空。白い砂浜。シュロの木。シーサー。アタシは人魚になる」
遠い目をしてアスカが呟く。
「だから!」
足を止めてシンジがトーンを上げた。
「え?」
「三日間一人で寝るんだよ」
「え?」
アスカは状況が把握できていなかった。
「同じ部屋に誰かいても、寝るのは一人なんだよ」
「あ」
これからの二人がどうなっていくのか。
くっつくのか、くっつかんのか?
次回からちょっと山場に差し掛かります。
私事ですが、来週有給を取って、関西の方へ旅行に行きます。
京都、奈良の古都めぐり。
大阪まで行こうかなって考えています。
よって、ちょっと第伍話まで時間が開いてしまうかもしれません。
メールの返事が行かなくてもそういう事情ですんで、ご了承ください。
遅れても必ず返信しますので、引き続きよろしくお願いします。
それでは次回でまた。
外伝を近々僕のHPでアップする予定です。
よければ読んでみて下さい。
でも来週以降だな、たぶん。