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[西垂]の部屋
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「調子はどうだ、アスカ?」
「はん、私が調子悪いわけ無いでしょ!」
「そうか・・・・・・頼んだぞ・・・・・。」
「あなたのためにやってるんじゃないわ。
ママの為にやっているのよ!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・
あなたの望みと私の望みは同じ・・・・・・
私達がやっているのよ、計画は絶対に成功するわ。」
「・・・・ああ・・・・そうだな・・・・・。」
黄昏
第三話
歪んだ傷跡
(惣流の奴、あないな顔も出来るんやなぁ。)
トウジは、二号機へのタラップの上で話しているアスカとゲンドウを見ていた。
アスカとは二ヶ月前に此所で会ったばかりだが、トウジの見た限り彼女は他人とはなるべく親しくしないようにしていた。
友達を作りたいのだけど、作りたくない。
絆を結びたいのだけど、結びたくない。
トウジにはそのように感じられた。
まるで何時か来る友達との、そして絆との別れを恐れているように。
学校でもいつも一人でいる。
たまにクラスメートが話し掛けているのを見るが、アスカは無視するか、きつい言葉を返す、時には相手を殴る事すらある。
「アスカさん、もう少しみんなと仲良くできない?」そう委員長が口にするのをよく聞く。
その言葉に対する答えは何時も一緒だ、「私に関わらない方が良いわよ。」
そう言う時のアスカはかすかに悲しそうな顔をしていた。
委員長がそれに気付いていたのならそのまま引き下がる事は無かってであろう、だがそれはあまりにもかすかであったために気付けなかった。
ただ何故かトウジだけが気付いていた。
そのアスカがかすかとはいえ微笑んでいる。
また、アスカと話しているゲンドウの姿も、今までトウジが見たことが無い物だった。
色眼鏡の奥から相手を見下している。
自分以外は全て道具、そんな感じの男だった。
たまにゲンドウがトウジを見ている時がある。
その時のゲンドウの眼はトウジを通して別の誰かを見ている様であった。
それが今は色眼鏡を外し、穏やかな視線をアスカに向けている。
(なんや珍しいもん見してもろたなぁ。
悪い事が起こらへんといいんやけどな。)
「トウジ君、ちょっと良いかしら?」
シンクロテストが終わって帰り支度をしていた所に、まるで着替え終わるのを待っていたかの様なタイミングでリツコが更衣室に入ってきた。
「なんですか、リツコはん?」
「本部のセキュリティカード、新しく更新されたから渡しておくわ。
明日からはこれを使わないと此所に入れないわ。」
トウジはリツコからカードを受け取る。
「それとこのカード、アスカに渡してくれない?
もう帰ったみたいで渡せなかったのよ。」
「はあ、別にかまいまへんけど。」
受け取ったカードに書き込まれた住所を見て、トウジは眉をひそめた。
「惣流の家ってわしの家と正反対やないですか。
わしはこれから妹の見舞いに行かんとあかんし、たしか明日は日曜で朝はようから実験があるんとちゃいましたか?」
「そう・・・ね。
他の人に頼む事にするわ。」
「あらリツコ、もう帰ったんじゃなかったの?」
ミサトは書類と格闘をしていたが、リツコが部屋に入ってくるとその手を止め声をかけた。
「ちょっとね・・・・・
ミサト・・忙しいみたいね。」
「そーなのよ。
これ全部今日中に仕上げないとまずいのよ。
ちょっちやらなかっただけで、こんなに貯まるなんて思っても見なかったわ。」
「自業自得ね。」
「ううっ。
ねえ、リツコぉ、暇なら少し手伝ってくんない?」
「無理よ、私にもやらなきゃいけない事があるから。
じゃあ、頑張ってね。」
リツコはそう言って出ていった。
「薄情者ぉ〜」
(私が持っていくしかない・・・か。)
三十分後、リツコは車でアスカの住んでいるマンションに向かっていた。
少し先の信号が赤に変わる。
この第三東京市には信号はあまり多く設置されてはいない。
実際、ここに来るまで信号は無かった、そしてここからアスカの所までの道にも無い。
その、一つしかない信号に捕まった。
本来ならその出来事に対して軽い苛立ちを覚える事であろう、しかしリツコはその事にほっとしている自分に気付いた。
(私は信号で止った事に・・・アスカに会うのが少し伸びただけで安心しているの?
会う事には変わり無いのに・・・・・・・
何故こんなにアスカに会うのが嫌なの?
・・・・・・・・・
決まっているわ。
アスカの私を見るあの眼。
哀れみの眼。
その眼が怖いのよ、私は。
アスカは全てを知っている。
その事が解る、解ってしまうのよ。
あの人は私にすら全てを教えてくれない。
知っているのは私が仕事に必要な部分とMAGIが・・・母さんが知っている事だけ。
肝心な所はほとんど知らない。
あの人は私よりもアスカを信用しているというの?
何なのよ、あの人がアスカを見る眼は。
何なのよ、アスカがあの人を見る眼は。
あの人が私の事を道具としてしか見ていない事は解っているのよ。
私はそれでも良かったわ。
あの人の側にいられるのなら。
だから、私はあの人にとって最高の道具に・・・・・・・
何を考えているのよ、私は。
私がなりたいのはあの人の道具じゃ無いのよ。
私がなりたいのはあの人の・・・・)
信号がすでに青に変わっているのに気付いたリツコは、考えるのを止めて車を発進させた。
リツコはマンションの入り口上部に付けられたカメラを一瞥してから、何個も並んでいる中で唯一名前が入っているインターホンのボタンを押した。
しばらく待っているとアスカの声が聞こえた。
「珍しいわねぇ、リツコがここに来るなんて。
私をここに案内してきてくれて以来じゃないの。
それで、何か用?
まあ、あんたが用も無く私を尋ねてくるなんて無いでしょうけどね。」
「渡さないといけない物が在るのよ。
ここ、開けなさい。」
「そんなのそこのポストに入れとけばいいじゃない。」
「大事な物よ、こんな所に入れておく訳にはいかないわ。」
「しょうが無いわね。
・・・・開けたわよ。」
リツコはその言葉には答えずマンションの中に入っていった。
「で、大事な物って何なの?」
アスカは玄関の扉が開くと共に聞いた。
「これよ。
明日からこれが無いと入れないわよ。」
リツコはセキュリティカードをアスカに手渡した。
アスカの眼をわざと見ないようにしている。
「こんなの私がネルフにいる間に渡せば良いじゃない。」
「渡そうと思ったらあなたはもう帰ってたのよ。」
「へえ・・・・そうなの。」
アスカがリツコの眼を見ながら呟く。
小馬鹿にしたような笑みをかすかに浮かばせながら。
「それじゃ、用はこれだけだから。」
リツコはアスカの眼から逃げるように帰ろうとする。
そのリツコにアスカは声をかけた。
「ねえ、リツコ。
前から聞きたかったんだけどさあ、あんた何でネルフにいるの?」
リツコは足を止める。
「・・・・・・答える必要があるのかしら?」
振り向かず、アスカに背を向けたままのリツコ。
「そりゃそうね、別にそんな必要なんてないわね。
ただ私は、あんたが何であの事を知っているのにネルフにいるのか不思議に思っただけだから。
あの事を知っているあんたが何故碇司令を手伝っているのかな、ってね。
そんなに碇司令の側にいたいってわけ?
どれだけ側にいても碇司令があんたを見る事なんて無いのにねぇ。」
クスクスクスと、アスカが笑う。
リツコはアスカに背を向けたまま。
「あなたの様な人形に何が解るっていうの。」
アスカの顔から笑みが消える。
「碇司令の計画だけが私の希望。
そのためなら私は人形にだって何だってなれるわ。
それに・・・・・
たしかに解らないわね、人形にさえもなれなかった物の事なんて。」
リツコは歩きはじめた。
――――――――――――――――――――――――
次の日の朝、第三東京市に非常警報が鳴り響いた。
使徒が突如第三東京市に現れたからである。
その使徒は青色の正八方体で、浮かびながらゆっくりと第三東京市の上を移動していた。
そして、その使徒を殲滅するためにエヴァの出てくる射出口が二つ開かれる。
「目標内部に高エネルギー反応!」
発令所にオペレーターの悲鳴の様な報告が飛ぶ。
「なんですって!!」
「周縁部を加速!収縮して行きます!!」
「まさか・・加粒子砲?」
モニターに映っている射出口からそれぞれ赤と黒のエヴァが出現する。
「駄目っっ!!二人とも避けて!!」
その言葉を言い終える前に使徒から二号機に向かって、強力な光が撃ち出された。
リフトへの固定機具を引き千切りながら二号機は間一髪でかわす。
しかし、光線は角度を変え、二号機を捕らえた。
「キャアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!!!」
発令所にアスカの悲鳴が響き渡る。
参号機は即座にパレットガンを撃ちつつ二号機に向かい走る。
弾丸は使徒の展開したATフィールドにはじかれる。
パレットガンの射線と加粒子砲のそれが近寄っていく。
そして、参号機が二号機の側まできた時、使徒は二号機への攻撃を止めた。
自らのATフィールドにより、加粒子砲を撃てない。
参号機はパレットガンを撃ちながら倒れている二号機を片手で抱き上げた。
そして、近くの射出口上に移動する。
すぐにリフトは下降しはじめた。
銃撃が途絶える。
パレットガンの弾薬が切れたのだ。
使徒から加粒子砲が放たれる。
しかしそれはエヴァ二体の消えた射出口を破壊しただけだった。
使徒は何事も無かったかのように移動しはじめた。
やがて、ある場所に来ると動きを止める。
その場所は、ジオフロントに在るネルフの直上。
使徒はその体の下部からドリルの付いた棒の様な物を伸ばし、大地を掘り進んでいった。
「敵は何を始めたの?!」
発令所で使徒の様子をモニターしていたリツコがオペレーターに尋ねる。
「ジオフロント内、ネルフ本部に向かって穿孔しています!」
「ここへ直接攻撃を仕掛けるつもりだわ!」
私は走っていた
何度も何度も扉を開けて
「ママーッ!私、選ばれたの!!」
私は走って・・・・
何度も何度も扉を・・・・・・
「人類を守るエリートパイロットなのよ!世界一なのよ!!」
私は・・・・・・
何度も何度も・・・・・・・
「誰にも秘密なの!でもママにだけ教えるわね!!」
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
「いろんな人が親切にしてくれるわ!だから寂しくなんかないわ!!」
・・・・・・・
・・・・・・・イ・・・・・ヤ・・・・・・
「だからパパがいなくても大丈夫!寂しくなんかないわ!!」
・・・・・・嫌!
嫌、見たくない、ヤメテ!!
「だから見て!わたしを見て!!ねえママ!!!」
嫌ーーーーーーーーーーっ!!!
アスカは目を覚ました。
ハア、ハア、ハア、ハア・・・・・
息が荒い。
上半身をそっと起こす。
「また・・・・あの夢なの?」
辺りを見渡す。
「ここは、病院?
私、助かったの?」
使徒はどうなったんだろう、という考えが浮かんでくるが、自分が今ここで寝ていた事を考えるともう倒すかどうかしてしまったんだろうと思う。
(ま、慌てる必要はないわね。)
アスカは上半身を倒し横になった。
「ふぅ・・・・・・・」
(助かって良かったわ。
まだ、私のこの思いを無くすわけにはいかない。)
病室の扉が開いた。
アスカは体を起こしながらそちらの方を見る。
「よう惣流、大丈夫そうやな。」
トウジがコンテナを押しながら入ってきた。
「サード、何か用?」
その言葉にトウジは少し眉をひそめる。
「そのサード、ちゅうの止めてくれんか?
わしには鈴原トウジちゅう名前があるんやからな。
おまえかてセカンドて言われたらいい気せんやろ。」
「ふん、まあ良いわ。
でトウジ、何か用なの?」
「今日の真夜中からやるヤシマ作戦ちゅう作戦のスケジュールを伝えといてくれって、頼まれたんや。」
「って事は使徒はまだ倒されて無いのね。」
アスカが唇をつり上げて笑う。
前にトウジが見たゲンドウと話している時のような笑いではない、好戦的な笑い。
「惣流、鈴原の両パイロットは本日十七時三十分、ケイジに集合。
十八時、エヴァンゲリオン二号機、および参号機起動。
十八時五分に出動。
同30分、二子山仮説基地に到着。
移行は別名あるまで待機。
明朝日付変更と同時に作戦行動開始・・・・・やとさ。」
「で、ヤシマ作戦ってどんな作戦なの?」
「二子山からエヴァで射撃するんやと。」
「ATフィールドはどうすんのよ?」
「ATフィールドを貫けるようなごっつう強力なの使うらしいで。
ミサトはんが戦自から借りてくるちゅうとったわ。」
「そ・・・・他には?」
「そうそう、忘れるとこやったわ。
腹減っとるやろ、食うもん持ってきたで。」
「後で食べるわ。
そこに置いといて。」
「ちゃんと食べえや。
じゃないと力が出えへんからな。」
ほな後でな、という言葉を残してトウジは出ていった。
扉が閉まるのを確認してから、アスカは横になった。
学校の屋上にケンスケは一人立っている。
辺りの風景は夕日に照らされて、赤く染まっていた。
ケンスケの正面にある山から多くの鳥が飛び立つ。
それと共に山の斜面が割れ、二体のエヴァが姿を現した。
そして、ゆっくりと歩き出す。
ケンスケはエヴァが山の影に入り見えなくなるまで見ていた。
彼の右手の中にあるビデオカメラに電源が入る事は無かった。
「これが陽電子ライフル。」
ライトに照らされた巨大な鉄の塊を見上げながらミサトはアスカとトウジに説明を始めた。
すでに太陽は沈みきっていたが、辺りは照明のおかげで明るい。
「戦自研で開発途中だったものをネルフが徴発し組み立てたものよ。
・・・・・間に合わせだけどね。
計算上ではこの長距離からでも敵のATフィールドを貫けるわ。
もとが精密機械のうえ急造仕様だから野戦向きじゃないのが難点だけど・・・・・・。」
ミサトは眼を参号機に転じる。
「そこでこの盾。」
その盾は参号機が持っていた。
大きさは参号機が隠れてしまうほどもある。
「こちらも急造仕様だけどもとはスペースシャトルの底部で超電磁コーティングされてる機種だし、敵の砲撃でも十七秒耐えれるわ。」
ミサトは二人の方向へ向き直る。
「トウジ君は参号機で防御を担当。」
「はい。」
「アスカは二号機で砲手を担当して。」
「解ったわ。」
「これはアスカと二号機とのシンクロ率の方が高いからよ。
今回はより精度の高いオペレーションが必要なの。
アスカ、長距離射撃だからって難しく考える事は無いわ。
テキスト通りにやって真ん中の照準マークがそろったら撃てば良いから。
あとは機械がやってくれるわ。」
「もし、当たらんかったらどないするんですか?」
トウジが尋ねる。
その言葉にアスカが噛み付いてきた。
「あんたバカァ?
私が外すわけ無いじゃない!」
ミサトはアスカにかまわずトウジの質問に答える。
「二発目を撃つには冷却や再充填とかに二十秒はかかるわ。
その間予想される敵の反撃をかわさなければ・・・・アウトね。
最終的にはトウジ君、たのむわよ。」
エヴァに乗るためのタラップの上でトウジは時間を待っていた。
アスカはすでに二号機のエントリープラグ内に入っている。
トウジは寝転がり両手を頭の下において星空を見ていた。
ゆっくりと時間が流れていく。
ピッ
プラグスーツに付いている時計のアラームが鳴る。
起き上がり、手の甲に付いている時計に目を走らせると歩き出した。
ヤシマ作戦が開始された。
次々と回路が接続され、陽電子ライフルに破壊のためのエネルギーが集まっていく。
エントリープラグ内のアスカの口元には不適な笑みが浮かんでいた。
全ての回路の接続が終わり、発射へのカウントダウンが始まる。
アスカに使徒も攻撃しようとしているとの情報が伝わってくる。
「遅いわぁ!!!」
アスカの叫び声と共に陽電子ライフルから、圧倒的な力を持った閃光が吐き出された。
少し遅れて使徒からも加粒子砲が放たれる。
しかしその時にはすでに陽電子ライフルからの光の塊が近くまで迫っていた。
互いに干渉しあい進む方向を捻じ曲げられる二本の光の槍。
その光の槍の一本は遥か遠くの山を削り、もう一本は使徒の中心をわずかに右にそれた所を貫通する。
使徒は自分の攻撃が目標を破壊できなかった事を知り、もう一撃を加えるべくエネルギーを溜める。
だがそれは傷ついた使徒の体が耐えられるべき物ではなかった。
使徒に開いた大きな傷跡から光が溢れ出してくる。
その光は使徒を包み込んでいった。
あとがき
最初に謝っておきます。
アスカの性格、変えてしまいました。
すいませんm(__)m
育ちが違うからって言う事でゆるしてね(^^;
ちなみにこのアスカは大学を出てません。
知識は大学を卒業できるぐらいにはありますけどね。
本当はこの半分ぐらいの文量でで終わるはずだったのに何でこう長くなるのやら(^^;;
アドバイス、誤字脱字のお知らせ、感想などお待ちしています。
でわでわ(^^)/~
西垂さんの『黄昏』第三話、公開です。
アスカ・・だよね?
何となく近いような感じもするけど、何か・・(^^;
トウジ・・・だよね?
何となく近いような感じもするけど、何か・・(^^;
第五・六話の
シンジをトウジに、
レイをアスカに入れ替えていたけど、
どう意味を待たせているのかな。
もう一回最初から読み直そうかな。。。
さあ、訪問者の皆さん。
あなたの感想メールを西垂さんにカキコ!
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