「いつ見ても、シンジの弁当って、うまそうやの」
屋上でケンスケ、トウジと三人で座って弁当(ケンスケとトウジは購買で買ってきた菓子パンだけど)を食べていると、例のごとくトウジが絡んできた。
「ほんまにそれ、惣流とかミサトさんとか、綾波が作っとるんやないのか?」
もちろん、違う。
……もちろんとつけることに虚しさは確かに感じるんだけど。
ミサトさんの料理はそれこそ化学兵器だし、綾波は低血圧なのか朝に弱い。惣流にいたっては、サードインパクトが起きたってそんなことをしてくれるとは思えない。
「毎日同じことを聞くんだね、トウジって」
《あきれた》というニュアンスを多分にふくんだ口調でいってやる。
「そりゃそうさ……。碇は自分の幸福に気づいていなさすぎるよ」
ラズベリークリームのパンをピーチ・ネクターで流し込んでから、ケンスケまでがそんなことをいう。
「そうかなあ」
「まったく、大切なものは、なくしてみなきゃわからないんだよな」
正論というにはありふれすぎた言葉で、コメントする気にはなれなかった。
「失うといえば……なんか、アメリカのほう、大変みたいだな」
アメリカ? 一瞬問い返しかけた。
けれど、すぐにいいたいことがわかった。
今週のはじめにネバダのほうで、なにかとんでもない事故があったとかで、付近一帯にクレーターができたそうだ。原因は不明だったけれど、《使徒》の攻撃じゃないんだろう。もしそうなら、エヴァで迎撃体制をとるはずだから。
「核とかじゃないみたいだね」
とりあえず、適当なことを口にしてみる。
ニュースでは、放射能は検出されていないといっていた。
「そうらしいな」
「なんの話や」
訝しげな顔つきでトウジが問いかける。
ケンスケはさすがにあきれかえったみたいだった。
「……あれだけ騒がれてるニュースを……」
「ああ……わし、ニュースも新聞もほとんど見ないんや」
それもひとつの生き方だろう。なにも、世のなかや他人に興味、関心を抱いて生きることが、絶対的な生き方じゃないんだから。
学校の教師などといった連中は、そう誤解しているみたいだけれど、そんなこと、いったい誰が決めたって主張するのだろう。
「そういや、朝、先生の呼び出し食らってたな。なんか悪いことでもやったのか?」
ケンスケがなにげに訊ねた。
「……んあ!? あ、ああ……あれか……」
トウジは言葉を詰まらせると、こちらに視線を向けた。なにか、救いを求めるような目つきだったのは、気のせいだろうか。
そんな目で見られても……。思わず首を傾げてしまった。
「大したことやない」
空になったジュースのパックを握りつぶして、トウジはいった。
「そう、大したことやないんや……」
学校が終わると、例のごとく訓練のためにネルフ本部に行くことになる。
毎日行かなければならないわけじゃなくて、二日に一度の割合なんだけど。
そのたびに、綾波と一緒にリニアに乗って行く。たいていはほかに乗客はいない。たまにいても、ネルフ関係者だけだった。
綾波の隣りに座る。昔は向かいあって座って、綾波は本を読んで、それを見ながらイヤホンで音楽を聴いていた。そこでなにかを話すとか、そういう展開になることはまずなかった。
いまでも、なにか話をするということにはまずならなかった。
ただ、向かいあわせに座るんじゃなくて、隣りにならんで座るようになった。
こうなったのも、最近のことだった。たしか、先々週に母さんの墓参りへいったときからだったと思う。
イヤホンからは、パッヘルベルのカノンが流れていた。聞く音楽はクラシックばかりだった。
別に好きなわけじゃない。ただ、嫌いじゃないというだけだ。
そして、流行の音楽というのは嫌いだった。理由はなんとなくわかっている。
最近は直ってきたんだろうかとも思うけれど、試してみる意欲はわかない……。
本部について、更衣室へ歩いていくと、自販機の並んだ休憩コーナーからギターの音が聞こえてきた。曲は知らなかったけれど、なかなかに上手な演奏だった。
弾いていたのは、青葉さんだった。
どのみち通り道なので歩いていくと、足音に気づいたのか、青葉さんは顔を上げた。
「おや、ふたりとも。きょうもテストだったかい?」
そういって微笑する。
「音楽が好きなんですね」
そういうと、青葉さんは首をすくめてみせた。
「そうだね、下手な歌を聴くよりは、下手な楽器を弾いている方がいい……」
「青葉さんの演奏、下手とは思いませんけど……」
お世辞でもなくそういうと、
「そうかい? ありがとう」
「ほんと、うまいわよ」
物陰から声をかけてきた人がいて驚いた。ミサトさんだった。
「ミサトさん、なに隠れていたんですか」
「なにいってんのよ、シンちゃん。さっさと、着替えてらっしゃい」
そういって、さっさと行けというように手を振った。
「実験開始まで時間がないわよ」
「きょうのシンクロ試験はちょっと違うことをやってもらうわ」
プラグスーツに着替えて、パイロット用の待機所に行くと、ミサトさんからそんな言葉を投げかけられた。その横には、いつもどおり技術部からの補佐(説明担当)として、マヤさんがいた。
「違うこと、ですか?」
「そ。きょうはシンジ君には《零号機》、レイには《初号機》とのシンクロ試験をやってもらうわ」
「交換してみるんですか」
「そ」
ミサトさんはそれからその理由を説明してくれた。
「前に来た《使徒》のとき、《弐号機》だけが完動状態で、ほかがあんまり動けなかったでしょ?」
「そうでしたね」
そのせいで、当初加持さんが立案した、二機のエヴァによるコンビネーション作戦が行えなかった。そのことはよく覚えている。
なにしろ、あのころから惣流の様子がおかしいのだから。
ミサトさんの前や、ネルフ本部内だとあまり変わらないみたいだけど。
「それでね。シンジ君にはまず《零号機》とシンクロしてもらいたいの。何度か試してみて、問題がないみたいなら、今度は《弐号機》ともね」
《弐号機》という言葉から連想して訊ねてみた。
「惣流が来ていないみたいですけど」
「ああ、アスカなら、午前中のうちに済ませたわ」
ミサトさんはあっさりと答えた。
「《零号機》とも《初号機》ともシンクロできなかったけどね」
「……あの……アスカにできなかったことが、ぼくにできるとは思えないんですけど……」
通常のシンクロ率は、アスカが一番高いのだ。それもずば抜けて。
「大丈夫」
なにを根拠にしてか、ミサトさんは自信満々にいった。
「やってみなきゃわかんないわよ」
マヤさんが一瞬あきれたような顔を閃かせた。それから、優しそうな笑みを浮かべながら説明を始めた。
「エヴァとのシンクロパターンは、生まれつきの鍵……というか、コアとの相性だけがものをいうの。理論上、アスカは《弐号機》としかシンクロできないはずで、それが証明されたわけなの」
「で、シンちゃんとレイは、少なくとも互いに機体の交換はできるはずなのよ」
「そうなんですか」
「そうなのよ」
《はじめて乗った零号機はどう?》
どうといわれても、困る。
エントリープラグ自体はいつもの《初号機》用のものを使っているから、感触が変わるわけでもない。
「別に、普通です」
《なによ、その曖昧ないい方》
ミサトさんはふくれっ面を浮かべた。
「曖昧っていわれたって、ミサトさん。とくに変わりがないっていうだけですけれど」
それからつけ加えた。
「《初号機》と比べてって意味ですよ」
《そりゃ、《弐号機》とは比べられないでしょうけど》
あまり緊張もしなかった。
さっき、綾波が《初号機》とのシンクロに簡単に成功したからかもしれない。
《シンクロ率62.6パーセント。《初号機》よりは若干落ちます》
《それは仕方ないわ》
シンクロテストの責任者の赤木博士が口を挟んだ。
《コアの表層データ、いわゆるパーソナルデータの書き換えはできても、コア自体が変わるわけじゃないもの》
《そうだったの》
ミサトさんは《ほへえ》と感心したような、気の抜けたような声を上げた。
《知らなかったわ》
赤木博士が冷たいまなざしでミサトさんを見た。
《実験の概要書に書いておいたはずだけど》
《あー、あれね》
ミサトさんはぽりぽりと頬をかいて、あらぬ方向に視線を向けた。
《まだ読んでない》
《ミサトねえ……》
あまりにいい加減な作戦部長に、頭が痛くなる。ミサトさんらしいのだけど。
そのときだった。
なにかが脳裏に閃くような、そんな感触があった。
無数の画像が、次々に映っては消えていく。そんな感じだった。微妙に、そして決定的に違うのは、視覚にともなった、映像やにおいといったものが感じられることだった。
冷たい、そして汚れた部屋。……とても寒い。
ビーカー。
なにかの骨。
血のにおい。
「な、なんだろ……この感覚……」
夜空の月。
握りつぶされる花。
砕ける音。
流れる川。
沸騰する感覚。
《……パルスが逆流しています!》
ミサトさん。
《葛城三佐》
赤木博士。
《赤木博士》
マヤさん、青葉さん、日向さん。
《ネルフの人》
ケンスケ、トウジ、洞木さん。
《クラスの誰か》
惣流。
《《弐号機》パイロット》
司令。
《碇司令》
自分。
《碇君》
綾波。
《あなた誰?》
無数の綾波。
《あなた誰?》
わたしは……
黄金色の斜陽が、少年の顔を鮮やかに照らし出していた。
普段には見られない、どこか憂鬱な表情に、少女は胸を躍らせた。
鈴原って、こんな顔もするんだ……
ヒカリは教室に足を踏み入れかけたまま、動きを止めて、窓際の席に座って、外の風景に視線を向けているトウジに見とれていた。
どれくらいの間、そのままでいたのだろう。
トウジは周囲が薄暗く成りつつあるのに気づいて、ようやく思考の迷路から帰還した。そして、そこで、入り口にたたずむ少女に気づいた。
「……なにしとんのや、いいんちょ」
「え? え?」
ヒカリはわずかに頬を染めた。が、下校時刻寸前の薄暗がりが、トウジからの視線を防ぐヴェールとなった。
「あ、あの……」
「……ああ、日直やったな」
ふう、と溜め息をついてから、トウジは自分で回答を得た。
「そ、そうなのよ」
トウジは、ヒカリが長い間彼を見つめていたことには気づいていなかった。少なくともそう見えて、ヒカリはほっとした。
「きょうは、相田君や碇君と一緒じゃないんだね」
そういって、入り口近くにある蛍光灯のスイッチを入れた。
ゆらゆらと揺らめくようにして、トウジの座る窓際一列のものが光を放った。が、トウジの頭上にあるひとつだけが、どこか調子悪く、ついたり消えたりを繰り返していた。
「ああ……せやな。シンジは用事があるいうとったし、ケンスケはまた軍艦見物や」
トウジは蛍光灯の明かりに目を細めると、手のなかのものを素早くケースのなかにしまった。トウジのジャージと同じく、黒い、プラスチックかなにかでできたケースだった。
「それ、なに?」
「拾いもんや」
あっさりとした口調で、トウジは答えた。
「そう……」
どこかぎこちない沈黙が、教室を包んだ。
が、トウジはそれを無遠慮に押し破ると、ケースを鞄に押し込んで立ち上がった。
「さて、そろそろわいも帰るわ」
「え……あ、うん。じゃあね、鈴原。明日は遅刻するんじゃないわよ」
「ああ、遅刻なんかせんわ」
トウジは首をすくめると、どこか悲しげで、透き通った微笑を浮かべた。そして、廊下を歩いていった。その背中を見送ると、寂しげな表情で一息つくと、ヒカリは自分の席に近寄って鞄を手にする。そして、教室から出てちらり、と振り向く。蛍光灯を消そうとしてスイッチに手をかけた、その瞬間……
ヒカリは思わず息をのんだ。
さっきまでトウジの上で瞬いていた蛍光灯が消えて、完全につかなくなっていた……
「……あれ?」
ふと気がつくと、ベッドのなかにいた。
見覚えのある、ネルフ直属の病院だった。
ついさっきまで《零号機》のなかにいたような記憶があるのに。
ベッドの脇では、丸椅子に腰を下ろして本を読んでいる綾波がいた。どことなくぼんやりとしているような気がする。気のせいかもしれないけれど、少なくとも、視線は本の上にあってないし、全然ページをめくるという仕草さえしていなかった。
綾波の表情は、だいたいわかるという自信はあったけれど、あまり見た覚えのない表情は、やはりわかりにくい。
なにを考えているんだろう。なにを想っているんだろう。それを知りたい、という欲求があった。そして、そう思っている自分を、別の自分が嘲笑っている……。
綾波が顔を起こした。
視線があう。急速に焦点を取り戻した、紅いふたつの宝石。
なぜか、互いにすぐ言葉が出なかった。
「あの……綾波? ぼく……どうしたの?」
ようやくの問いかけに、ようやくときが動き出した。
「……《零号機》から精神汚染を受けてここに収容されたわ」
「……精神汚染?」
確かに、《零号機》に乗っていたときの記憶が、どことなく錯乱している気もする。たぶん、このあたりのことを精神汚染というんだろう。
「あんまり覚えてない……」
「そう」
綾波は立ち上がった。そして、読んでもいなかった本を閉じるとドアに向かう。医者を呼びに行くんだろう。
制服の後ろ姿を見送りながら、《零号機》に乗っていたときの記憶を思い起こしてみる。
確か、エントリープラグに入って、ミサトさんとなにか話をした。それから、赤木博士とミサトさんの会話を聞いていて……
見覚えのない風景をたくさん見た。
それに、におい……。
あえていうなら、誰かの記憶をのぞいているような、そんな感じがした。
……誰か?
誰かといって、ひとりしかいない。
「……綾波?」
「なに?」
綾波は振り返った。その表情は、どうしても読めなかった。
「あの、さ……」
そのとき、エアの音とともに、看護婦さんが入ってきた。
入り口間近に立っていた綾波とぶつかって、手元のカルテかファイルかをバラバラと床に落とす。それを拾おうと身をかがめかけて、
「あら、碇君、起きたの?」
そこで動きを止めた。
「綾波さん、だったわね? 先生を呼んできてくれるかしら」
「……はい」
一瞬迷ったように見えたのは、気のせいだったんだろうか。
「ねえ、相田君……」
いつものように屋上で弁当を食べていると、昼休みも半ばになって、洞木さんが姿を現した。
教室で(たぶん友達と一緒に)食べてきたのか、それとも食欲がないのかは知らないけれど、包みを持って、というわけじゃなかった。
「どうしたの、委員長」
もぐもぐと口を動かしているケンスケの代わりに訊ねる。
「あ、あのね……、碇君でもいいんだけど……」
「うん?」
「鈴原……どうしたのか、知らない?」
トウジは昨日、一昨日と学校を休んでいた。健康優良児そのものといったトウジにしては、確かに珍しい。
「トウジ?」
ようやくジュースで流し込んで、ケンスケが話しに加わった。
「……なにも聞いてないけど……碇は?」
《なにか知ってるか?》という視線を投げてよこす。
「さあ?」
もちろん知らなかった。親友のケンスケが知らないことを、知っているはずがない。ケンスケほどトウジとのつきあいは深くも長くもなかった。確かによくマンションには来るけれど、あれはたぶん惣流目当てだろうし。
しばらく考え込んでいたケンスケが、ふと漏らした。
「……妹の病院かも」
そういえば、トウジの妹は、理由は知らないけれど入院しているという話だった。けれど、あれはもう三ヶ月以上も前に聞いた話のはずだ。まだ治っていないのか……。
「それなんだけどね」
洞木さんは首をふった。
「妹さん、いなかったの」
「へ?」
ケンスケは怪訝な顔をした。
「いなかったって?」
「病院に」
「退院したんじゃないか。それこそトウジは学校に来られないさ」
「そうじゃないの」
洞木さんはケンスケの言葉を、首を振って否定した。おさげがぷるぷると揺れる。
「どこかの病院に転院したって」
「じゃあ、その付き添いじゃないのか?」
そうとしか思えない。
「でも、それだったら、どこの病院に行くのか、妹さんのクラスメートには教えるもんでしょ?
けど、コダマも知らないっていうし」
「……コダマ?」
「あ、妹の名前。鈴原の妹と同じクラスなの」
ケンスケはうーんと考え込んで、それからいった。
「わかった。調べてみるよ。期待に添えるかはわからないけどね」
礼をいう洞木さんに向かってつけ加える。
「単に連絡が悪いだけかもしれないしさ、気にすることないよ」
前回の実験の、およそ一週間後に、もう一度《零号機》の起動実験を行うことになった。
精神汚染を受けてから、徹底的にデータの見直しなどをしたのだそうだ。
《実験担当班は大変そうだったわよ》とは、同じ技術部でも、MAGIの保守部門に勤めている惣流と、関係者のくせに、誰からも仕事を割り当てられていないミサトさんの台詞だった。ふたりの台詞が一字一句同じところが、妙におかしかった。
なんとなく、プラグの座り心地が違う。善し悪しではなくて、感触の違いだ。
これは、普段綾波が《零号機》に乗るときに使用しているものだという。
マヤさんがいろいろと説明してくれたことを要約すると、前回よりも《零号機》側に配慮した設定で起動実験をするということだ。
また、前のように綾波は《初号機》での起動実験に成功したけれど、前回のこともあってさすがに緊張する。
《じゃ、シンジ君、始めるわよ》
「はい」
LCLでエントリープラグが満たされると、そのまま零号機に挿入される。
結局、精神汚染で見たもののことを、綾波に話せないままだった。でも、人の記憶なんて、のぞいていいものじゃない。たとえ、どんな間違いがあったって。だからこそ、綾波には話せないままだった。
《主電源接続……》
普段の起動と変わらない手順だけど、読み上げるオペレーターのマヤさんの声は、かなり緊張していた。
《パルス、およびハーモニクス正常、シンクロ問題なし》
《パイロット……シンジ君、緊張しているわね》
データからなにかを読みとったのか、赤木博士がコメントした。
《気楽に、気楽に》
お気楽そうな、それでいてやはり多少緊張気味のミサトさんの台詞に答える。
「ミサトさんほど脳天気にできてないので」
《なによぉ》
三十歳とは思えない、やけに子供っぽい台詞回し。リラックスさせようとしてくれているんだろう。
実際、多少は気が楽になった。
《シンクロ率、58.9パーセント。前回よりも若干落ちます》
《仕方ないわね、それは》
《だいたいの理論値はでてるんでしょ? ま、予備レベルとしてなら問題はないわね》
むろん、高いに越したことはないのだけれど。
《前みたいな精神汚染の予兆はありません。実戦でもおそらく問題はないでしょう》
だといいけれど。
もっとも、シンクロ率だけで戦うわけじゃないから、十分バックアップはできるはずだ。
《お疲れさま、あがっていいわよ》
……といっても、まだ帰るわけにはいかなかった。
《初号機》のデータを綾波のものから戻して、それを修正する作業と、《零号機》について同じ作業があったからだ。
データそのものは、いままでと同じだから、ただの確認作業なんだけれど、それでもシンクロに問題があったら、《使徒》の奇襲に対応できなくなってしまう。そのすべてを終えて、さらにそのあと、赤木博士の部屋で、シンクロ率などの評価を受ける。
全部が終わったときには、もう夕方になっていた。
エアのかすかな音を残して、ドアが閉じた。
今日の訓練の講評などを聞き終えて、シンジとレイが出ていったのだ。アスカが同席していないのは、技術部で割り当てられた自分の仕事のためだった。
「ほんとに仲いいわね、あのふたり……」
テーブルの上に半分お尻を乗せた格好で、ミサトは微笑んだ。
「そうね」
そんなことはどうでもいいとでもいいたげな表情で、リツコは肩をすくめた。
が、ミサトはそれに気づかないまましゃべり続けた。
「シンジ君もレイも、あんなに変わるとは思わなかったわ。愛って偉大よねえ……」
なにを思春期の少女みたいなことをいってるのかと思いながら、リツコは立ち上がってミサトに訊ねた。
「コーヒー、飲むかしら」
「ええ、あんがと」
リツコはコーヒーメーカーからふたつのマグカップにコーヒーを注ぐと、片方にはスプーン一杯の砂糖を入れた。ブラックはリツコで、砂糖入りの方はミサトだ。
リツコは再び椅子に腰を下ろした。
「パイロットの要、ずっとアスカだと思っていたけど……」
マグカップから一口コーヒーをすすってから、ミサトは扉に視線を投げかけていった。
「レイかも知れないわね」
「……!?」
内心の動揺を押さえ込み、ポーカーフェイスのままリツコは問い返した。
「どういう意味?」
ミサトはなにに気づいたのだろう。
緊張をはらんだその問いに、ミサトはあまりにあっけなく答えた。
「もしレイが死んだら、シンジ君もエヴァに乗らなくなるかもしれないって意味よ……」
そういってから、ミサトは首を振った。多少深刻な表情を浮かべている。
「自殺なんて考えなきゃいいけど……」
もしそうなったら、パイロットを同時に二人失うことになる。
ふっとリツコは安堵の吐息を漏らした。そして、口元に笑いのようなものを浮かべた。
「大丈夫、レイは死なないわ、絶対に」
ミサトは不思議そうな顔で親友と思っている女性の顔を見つめた。
「ところで、《参号機》が日本に来るんでしょ? パイロットはどうするの?」
「マルドゥック機関からの報告が先週に遅くあったわ。すでに本人の意思も確認済みよ」
ミサトは眉間にしわを寄せて、リツコにいささか厳しめの視線を向けた。
「技術部が? チルドレンは作戦部の担当じゃないの?」
「今回は特殊なのよ。例の計画が発動されるから」
がちゃんとミサトの持つカップと、リツコのデスクが非協和音を奏でた。リツコはそれをきいて、一瞬しかめっ面を浮かべた。が、ミサトの語勢は、それよりもさらに激しかった。
「あんた、本気!? あんな……」
「けれど、実効性はすでに証明されているわ」
リツコはミサトの抗議を冷たく遮った。
「……それは、そうだけど……。けど、技術面の問題はクリアできてるの?」
表情を変えないで頷いた。
「使用に耐えうるだけの精度は確保してあるはずよ。あくまで理論上は、だけど」
ミサトの表情は、内面の葛藤を物語るように、表現しがたく歪んだ。リツコはそれにだめを押した。
「その方が、子供たち全員の生存率も上げられるのよ」
ミサトはその言葉で、おのれを無理矢理納得させた。
リツコはためらいがちに頷いたミサトを見ながら、ミサトの思考パターンを読んで説得する自分のずるさを再認識した。が、そこでふと思った。修辞で他人を納得させる自分と、自分自身をだますことのできるミサトの、どちらがよりずるいのだろう、と。
……それは38年ぶりに横浜が日本一に輝いた日のことでした。素直に祝福できない球団(西武じゃないです)のファンであったわたしは、うらやましいなあと思いつつパソコンを立ち上げようとしました。が、なぜかWIN95が立ち上がりません。DOSで見ると、MSDOS.SYSとCOMMAND.COMがなぜか消えていました。とりあえず起動ディスクからコピーして失敗。まあ仕方ないかと思って再インストールを決意して全データの待避。領域解放と確保をして再インストールをしようとしました。が……失敗。別のドライブ(わずか200MBのMS-DOS用)にWIN95をインストールして、スキャンディスクをかけると……エラーの連発。なんどか試しているうちに、数日前から気になっていた異音が激しくなって、ついには読み込みに異常な時間がかかるように……というSNOWです。
これって、やっぱり壊れたんですよねえ(涙)
もっとも、執筆には前述の通りデータの待避(辞書も含めてです)をしていたため影響はなかったんですけれどね。単にいまさら友人に借りて「FINAL FANTASY VII」を始めたり、「ONE 〜輝く季節へ〜」をプレイしたり、読書の秋モードに突入したりしていただけです……って、自滅ですね(汗)
B-partは今年中にアップできるように努力するので許してください(平伏)
ではまた。