「第七使徒戦の報告書は、目を通したか?」
ちゃっ…………トン。
「ええ。あいつらしい戦況になったようですね」
ちゃっ……、トン。
「分体能力を持つ使徒か。敵も色づいてきた物だな」
ちゃっ…………トン。
「使徒の多少の学習機能など問題ではない。要はエヴァの運用次第だ」
ちゃっ……、トン。
「そうですね。訓練次第ではシンジの力はまだまだ伸びますよ」
ちゃっ……、トン。
「しかし、それには赤木博士の助力が欠かせまい」
ちゃっ……、トン。
「…………」
「どうした、碇? 次はお前の番だ」
ゲンドウが冬月の手元に警戒したような視線を注ぐ。
「……国士無双狙いか。大手を張ったな、冬月」
「やはり、捨牌を見れば一目瞭然かな」
冬月は一人ごちた。そして、手元の牌を再確認する。冬月の手は国士無双『北』待ち。
「河に流れている字牌の数が少ないからな。ちなみにそれをチーだ」
冬月が捨てたばかりの『一筒』を鳴き、卓の右側に寄せる。そして『八筒』を捨てるゲンドウは、これでテンパイだ。
ゲンドウの手役は混一色一通ドラ2『七筒』待ち。鳴いてはいるものの満貫役である。
現在のところ勝ち頭は冬月、次にゲンドウと続く。もう一人の参加者ノヴァスターは先程からほとんどアガリがなく、実質勝負はこの二人に絞られていた。そこで冬月は、最後に大手を張って勝負を仕掛けたのである。
「……どうしよ。親番が回ってきたのはいいけど、ドラも乗らないよ、これじゃ……」
自分のツモ順になってノヴァスターが呟いた。ドラは『二筒』、しかし自分の手元には筒子など一つもない。しかも自分は字牌を数枚抱えているが、この状況で字牌を捨てるのは危険極まりない。
「いちかばちか……リーチ!」
仕方なく『中』を切ってリーチをかけた。どうやら通ったらしく、二人は黙ったままだ。
次に冬月が、緊張で僅かばかり震える手でツモった。手の中の牌は『南』、しかしこれは既に手元にあるので、冬月にとっては不要の字牌だ。仕方なく冬月は河に『南』を捨てる。
その時、不意にインターホンが鳴った。冬月は渋々立ち上がり、応対した。
「赤木です。司令はいらっしゃいますか?」
「ああ、碇なら中にいる。入りたまえ」
「では、失礼します」
手元にファイルを抱え、白衣姿のリツコが司令室に訪れた。リツコは一瞬、麻雀卓を囲む三人に激しい違和を覚え眉をしかめたが、直ぐに取り直して卓まで歩み寄ろうとした。
その段になって、ノヴァスターがゲンドウにヒソヒソと話しかける。
「予定通りですね。鋭い人ならば、あれに勘付くと思いましたよ」
「それが、案の定赤木博士という訳か」
「何としても彼女を説得するしかないでしょうね。
副司令の言うとおり、シンジの為には赤木博士の助力が不可欠なのですから」
「その件は君に任せよう」
「ご委任感謝します」
ノヴァスターがすっくと立ち上がり、リツコの前まで歩み寄った。
「赤木博士、改めて紹介しよう。保安課所属となった、ノヴァスター=ヴァイン二尉だ」
ゲンドウの紹介に合わせて、ノヴァスターが右手を差し出した。
「初めまして」
無駄に快活な笑みと共に手を差し出すノヴァスターに、リツコはまたも一瞬引いたが、
「……初めまして。赤木リツコです」
仕方なくといった感覚で握手を交わす。
「ところで司令、昨日の使徒戦に関する報告書ですが……」
「その件は彼に一任した。彼の説明を受けるといい」
ゲンドウはまるでリツコの言い分を見抜いたかのように、無下に言い放った。
やはり分からない。司令はこの青年に何を任せたというのだろうか。
「サードチルドレンの行動には不可解な点が目立ちます。司令は彼に何を吹き込んだのですか!?」
「私は何も言ってはいない。シンジが自分で決め、行動した結果なのだろう」
「しかし!」
「はいそこまで」
ノヴァスターがリツコの剣幕を手で遮断した。
「シンジの行動について知りたいのならば、俺から説明します。
とりあえずは、あなたのラボに案内願えますか?」
「…………」
どう贔屓目に見ても信用されていない視線で射抜かれ返されてしまった。
「葛城一尉からあなたの事は聞いているわ。技術部長としては大変興味もあるのだけれど」
「ミサトさんにねぇ……あんまり良くは言ってくれなかったでしょう、彼女」
「艦上であなたがしでかした行為を考えれば、当然ね」
「あやや……つくづく信用ないなぁ、俺」
「なら、とりあえずはあなたを暴かせていただく事にするわ」
「ふふっ、お手柔らかに願いますよ」
リツコの台詞は大真面目だが、ノヴァスターのそれはどうにも芯が入っていない。
「それでは、これで失礼します」
きびすを返して立ち去るリツコの後を追うようにして、ノヴァスターは司令室の扉の向こうに去っていった。
「……碇。どう思う、あの男」
冬月が、眉を細めつつ訪ねた。
「お前は信用はできるのだろうが、信頼に足りるかはまだ疑問が残るぞ。
今の時点ではどうにも彼の能力が読めんからな。まあ、追々表してくれれば良いのだろうが」
突然、司令室のドアがノックも無しに開いた。
「あ、ちなみに副司令、さっきの『南』、それロンね! 用はそれだけです、それでわ!」
「……碇、俺にはどうも彼が掴めない。本当に信用に足りるのだろうな?」
呆れ果てたような表情の冬月。歳の割にこういう表情をとる事が多い為に、彼は歳より老けて見られる損と、それに対する自覚がある。
「それはどうかな」
先程までノヴァスターが座っていた椅子に座り直すゲンドウ。そしてノヴァスターが作っていた手役をパタリと倒して見せた。
『東東南西西北北白白撥撥中中』
「七対子型の字一色『南』待ち、か。つくづく喰えない奴め」
ゲンドウがニヤリと微笑んだ。
「すると、俺が逆転負けなのか?」
「そういう事だな」
「……なるほど、あいつらしい手役だ。実にあいつらしい」
ゲンドウは一人、喜びに満ちていた。
それはいつもの彼の悪どさの欠片も見られない、純粋な笑み。
「仕事の最中に司令達と卓を囲んで麻雀とは、随分身分の宜しいこと」
「……もしかして怒ってます?」
「呆れているのよ」
「でも面子が一人足りなかったんですよ。今度ご一緒しません?」
「しません!」
「あちゃあ……」
溜息をつきながら、リツコは研究室の扉を開いた。
リツコがミサトやシンジにノヴァスターの人格を尋ねた時、二人が共通して言った第一印象は「訳の分からない人」だった。なるほど実際会ってみると、蛋白質ではなく冗談で構成されたような体質をしている人間だ。司令室からここに来るまでに交わした雑談も、とぼけている印象ばかりしか受けない。
「どことなく加持に似ている」とはミサトの言だが、リツコはそうは思わなかった。加持は内心に鋭い牙を持っていてもおかしくはないが、彼は只の喜劇役者以上には見えない。
リツコは自分のPCの端末の前に腰を据え、PCを立ち上げると真っ先に先日の戦闘のデータを読み込んだ。
「このデータをあなたに見せる前に、いくつかプライベートな質問をするけど、宜しいかしら?」
「構いませんよ」
ノヴァスターは悠然とした表情で、隣にあった椅子を拝借して腰を下ろした。
「まず、あなたは誰なの?」
「ノヴァスター=ヴァイン、25歳。職業、特務機関ネルフ所属」
「その名前が、偽名でないとここで証明できる?」
「証明の手段は……ないんですよね。まあ、眉唾がられるのも当然といえば当然です」
「次の質問、どうしてあなたはあんな所にいたのかしら?」
「あんな所といいますと?」
「空母オーバー=ザ=レインボー。
あれはまかりなりにも国連軍の正規軍艦よ。素人がおいそれと飛び入れる所じゃないわ」
「素人じゃあないですよ。その辺の怠慢な兵士達よりは使えるつもりですが」
「私が聞きたい事はそういう事じゃないわ。
あなたはあれに、無断で侵入したの? それとも、誰かの許可を得て搭乗したの?」
「前者……ですね」
「答えようによってはその腕に手錠が掛かるのよ。今度は冗談では済まないわ」
「いや実際一度掛かったんですけど(^-^;」
「……そうだったわね。なら、どうして司令はその輪を解いたのかしら?」
「それは司令に尋ねてください。俺も手紙の内容を明確に知っている訳ではないのですから」
「その手紙の話は知っているわ。あの碇司令が、いやにあっさりあなたを信用した訳を知りたいのよ」
「司令とは旧知の仲でしてね。サングラスなんか掛けていたから最初は分からなかったようですけど」
「そのサングラスはどうして掛けているのかしら?」
「特殊仕様でしてね、明るい所では欠かせないんですよ。生来目が弱いものでして」
「ならば、ここで外して見せてくれる?」
「OA機器の多い所では勘弁してほしいんですが……どうしてもと言われれば」
渋るノヴァスターだったが、ゆっくりとサングラスを外して見せる。
「……何処かで会った事、ないかしら?」
「? 他人の空似でしょう」
「まあいいわ。次に、あなたが武装しているのは何故?」
「特に理由を問われても……まあ、弱いよりは強い方が色々と特でしょう。
そうでなくとも最近物騒な話が続いてますからね。特にここネルフでは」
「それは皮肉と受け取っておくわ。次に、あなたとシンジ君とはどういう関係?」
「会ったのはこの間が初めてですよ。司令に子供がいるのは前々から知ってましたけどね」
「加持君やアスカとはどういうご関係かしら?」
「加持リョウジとセカンドチルドレンの事ですね。
二人とも有名だから顔と名前は知ってますが、個人的な面識は……」
「その『有名』というのは、何処での有名なのかしら?」
「まかりなりにも特務機関の一端にいれば、二人の名前は自ずと伝わってきますよ」
「……ならば、次の質問よ。あなたの本当の所属組織は?」
ノヴァスターは、その時だけリツコの眼が妖しく光ったのを見逃さなかった。今までのは彼女なりの探りだったのだろうが、この質問は曖昧にすると手痛い事になりそうだ。
「組織の名前は言えません。また、言ったとしてもあなたは絶対に知らないでしょう。
少なくても言える事は、ゼーレが背後に関わっている訳ではない事と、あなたの信用に足る活動をしている事。
そして、国連から正式に指名されている特務機関として活動している事、ですね」
「特務機関、と呼ばれる法外組織は、今の所世界にネルフしかないはずよ」
「その通りです。しかし例外はありますよ」
「何処に?」
「ネルフの前身は人工進化研究所です。ならば、ゲヒルンは特務機関ではないのですか?」
「……ここでその名前を聞くとは思わなかったわ。
確かに、ゲヒルンの時点で私達は既に特務的な役割を果たしていたのは事実。
でもそれ以上はここで言える話ではないわ」
「この組織の機密的な所は、承知しているつもりです」
「それが無難ね。ところで、あなたはゲヒルンとはどんな関係なのかしら?」
「ゲヒルン自体は俺は伝え聞いただけです。見知っている訳ではないんですよ」
「それならば、これの説明はきちんと付けてもらえるのかしら?」
リツコは懐からインターフェイスヘッドセットを取り出し、卓上に乗せた。
「シンジ君から預かった物よ。あなたが改良して、彼に手渡したそうね」
「……これはまた、動かぬ証拠が出たモンだ」
「とぼけないで。構造はしっかり拝見させていただいたわ。
亜流の改良はしてあるけど、これがなかなかどうして弐号機のシステムにフィットするの。
私がさっき、技術部長として大変興味があると言ったのはこの事よ」
ノヴァスターはその白いヘッドセットを手に取ると、手で摺り合わすようにして弄び始めた。
「でも作ったのは俺じゃないですよ。俺よりずっとエヴァに詳しい人がいて、
俺はその人に多少技術の師事をした事はありますけど、こんな代物が作れる程器用ではないです」
「つまり預かり物、という訳ね。ならば、その制作者の名前を聞かせてくれるかしら」
「その前に俺からも一つ聞きます。あなたならば、それが作れましたか?」
「興味のある質問ね。確かに一風変わった改造仕様だけど、不可能ではないと思うわ。
でもそれには、私がまだ研究し尽くしていない分野の技術が生かされている。
個人的には、そのヘッドセットの制作者に是非お会いしたい所ね。
同時に、科学者として多分の嫉妬も感じるわ。E計画責任者としてのプライドと同時にね」
「なら、その嫉妬は不必要な代物ですね。安心して構いませんよ」
「どういう意味かしら?」
「それは秘密のアッコちゃん、なんちって」
「…………」
「そんな冷たい反応を返さないでくださいよ(^-^;」
「別に、昔はあんな非科学的なアニメも見ていたのよね、と思ってたのよ」
「おや、赤木博士ほどの人でも、昔はアニメ見てたんですか?」
「本当に小さい頃の話よ。学生時代は殆ど勉学で生きていたわ」
「へええ……流石ですね。なら、アニメにちなんで一つの謎掛けでもしましょうか」
悪戯好きのノヴァスターの性格が、本格的に首をもたげた。
「謎掛け? 私に知恵で勝負を挑むつもり?」
「そう脅されると手強いですね。なに、簡単な謎掛けですよ。
ヒントはあなたの拠り所……とでもしましょうか」
「私の拠り所? どうしてあなたがそれを知っている訳なのかしら」
「まあ、今の言葉を深読みし尽くして考えてくださいな」
「なら、その謎掛けが解けた暁には?」
「その時は全てをお話しましょう」
「……随分大きく出たわね」
「こっちも背水を背負っていますからね」
「……いいわ、その賭けに乗りましょう。我ながら賭事とは不謹慎だけれど」
「よっしゃ!」
わざとらしいのにわざとらしくない、ノヴァスターの盛大なガッツポーズ。そしてその光景に何故か吹き出して笑ってしまうリツコ。
いつの間にか、リツコの心の中からノヴァスターへの警戒心は薄れていた。
……単に、極度のバカ扱いされているだけかもしれないが。
「ところでリツコさん。一つお願いがあるのですが……」
一転して神妙な顔つきのノヴァスター。
「何かしら?」
かと思えば、また悪戯の虫が騒いだのか不思議な笑顔とともに一つの提案をした。
「――――――――――――」
「……生憎私はそんな安い女じゃないわ」
「リツコさんが考えているような他意はないんですってば。
とりあえず、一度だけでも試してみてくださいって。
その後に、ほんのちょっとだけ便宜を図ってくれればそれだけで助かるんですよ」
「便宜の部分は別に構わないのだけれど……」
「という訳で頼みます、リツコさん!」
しまいには拝み倒すノヴァスターに、リツコは渋々折れた。
確かに「他意」を感じる人間ではない。ある種とても純粋な印象を受ける青年に見えるからだ。
リツコはとりあえず、ノヴァスター自身よりも自分の感を信用して承諾した。
「そうねぇ……それじゃ、今夜なら空いているわ」
「いよっしゃあ!」
一方その頃。
「んも〜っ! 使徒は仕留め損なうし、サードなんかには鼻で笑われるし、最悪よ!」
「まあまあ、次の機会があるわよ、アスカ」
「ビール飲みながらなにがまあまあ、よ!
ミサトは悔しくないの? あんな奴にしてやられて!」
「使徒殲滅が私達の最優先事項だから、戦闘結果自体には文句は付けられないわよ。
被害も例になく最小ですんだし、アスカの事さえ除けば万事OKだったのだけれどね」
「……そうやって中途半端に人を思いやる。偽善的だわ、そういうのって!」
「手厳しいのね、アスカ」
所変わって、ここは葛城宅。
第三新東京市郊外の一角に用意された、コンフォート17マンションの十一階に位置する3LDKのバルコニー付きという、一人暮らしには少しばかり手に余る居住区画である。
そこでミサトはアスカを本部から呼び寄せ、二人で共同生活を始めた。リツコの手前はあんな事を言ったものの、心の何処かで寂しがっているのかもね、と自分をせせら笑いながらも、ミサトは家族が出来た事に偽りの喜びを得る。いずれ自分が子供達に呵責を背負っている以上、自分への慰みはこれで上限なのかもしれないと悟りつつ。
ミサトは今日4本目の500mgビール缶を飲み干すと、足元にコトリと置いた。その足元、いやリビング全体は先日から溜まっているビール缶と酒瓶で一杯である。使徒の襲来が始まってから、ミサトは酒量が増え、仕事の疲れで家を片付ける気力も減っている。家事に対する生来の気怠さもあるので、部屋は一向に片付かない。
アスカはアスカで、引っ越しの時に自分の部屋だけは何とか片付けたものの、一歩部屋を出れば足の踏み場もない室内に段々嫌気が差してくる。それでいて、自分で全て片付けてやろうと思うほどには、アスカも人が出来ていたわけではない。
「ったく、自分の飲んだビール缶くらい片付けなさいよね! みっとも無いったらありゃしない……」
「忙しくてなかなか暇がないのよねぇ」
「なら家政婦でも雇ったら? 一人暮らしのキャリアウーマンなら、当然でしょ!?」
「そーんな余裕うちにはないわよ。あーあ、タダでこの部屋片付けてくれる親切な人とか、いないかしらん」
「いる訳ないでしょ!」
不毛な会話が過ぎていく。
部屋のインターホンが鳴った気がしたが、シンジは気に留めなかった。
ただ余りに気怠い気分なので、今は何も手に付ける気がしない。いつもならば、余った時間は読書かトレーニングかに費やすだけなのだが、昨日の事があってから、シンジはそれも無駄だと思いつつあった。
昨日、アスカにとても酷い事を言った気がする。でもそれも今に始まった事でもなかった。
昔は自我の無い自分が嫌いだった。ゼロがどうとかは関係ない。多分ゼロという力の存在が僕の中に息づいていなかったとしても、今頃何が変わっていたとも思えない。
でも、代わりに今は自我を、目的意識を手に入れた気がする。
目的意識のない生き方は嫌だった。エヴァを使うのではなく、エヴァに使われる「僕達」が嫌だった。そんな「僕達」を使う大人達も嫌だった。そんな「僕達」が次々と人を傷付けていくのがもっと嫌になった。
ある日、そんな「僕達」に結末が来た。結末は語った、「僕達」がこの世に不必要な存在である事を。
自分の半身は只の屑だった。もう半身は、世界を滅ぼす力を持った忌まわしい屑だった。
つまり、どちらも生を許されるほど価値のある生命ではなかった。不要が必要を打ち消していく光景が「僕達」には苦痛だった、だからあの時「僕達」は破滅に身を任せた全てを終わらせた筈だった。生の尊厳? 博愛主義? 自己啓発? 野良犬に食わせたって吐き出すさ、そんなモノ。
「僕」が今信じているのは、たった一つの真実だけだ。その真実だけが、自分に呼吸をする事を許している、最低限の食事を許している、そして、エヴァに乗って戦う事も許している。
本当ならば「僕達」の信じている真実なんかには一寸の価値もない。でも、それでも抱えていたい、この真実。
……でも「僕」が、その真実を受理するにはまだ早いようだ。昨日の戦闘でそれを実感した。
アスカが「僕」を睨んでいた。もしあの時のアスカに凶器を持たせたら、躊躇無くその凶器を「僕」に振るったかもしれない。もしかしたら、近いうちにアスカ本人が凶器を用意して、「僕」を殺すべく襲いかかってくるかもしれない。「僕」がそれだけの事をしているのは十分分かっている。
でも、幾ら「僕」が死にたがっているとしても、その凶器を受け入れるつもりは絶対にない。「僕」はアスカの手に掛かって死ぬ為ではなく……違うね、アスカに人殺しの罪を背負わせる為ではなく……これも違う。
そう、「僕」は「僕達」を殺す為だけに生きている。アスカなんか全然関係ない。関係ないんだ。
ただ今のうちはちょっとばかり利用価値があるから殺さないでいるだけだ。エヴァに乗れる身体でなければ、今頃人型の原型さえとどめている筈もない。「僕達」はそれだけ自分達が憎いのだ。
「僕」が生きているその間、少しばかり傷付いてしまう人達がいるけれど、その人達には多少の我慢をしてもらおう。どうせ使徒の襲来が終わるまで、あと一年もない。それまでの間の辛抱なのだから。
だから「僕達」がどうあろうとアスカにも綾波にもミサトさんにも父さんにも、誰にも関係ない。
どうせ一年後には綺麗さっぱり消えている事実がそこにある筈。……なら、「僕」はまだ生きていける。
もう一度部屋のインターホンが鳴る。シンジは気怠い身体をおして、ドアの鍵を開けた。
さては、ドアの向こうに凶器を携え、殺意に満ちた表情のアスカがいるかも知れない。ならシンジは警戒しなくてはならないだろう、自分が「殺される」事ではなく、アスカが自分を「殺す」事を。
だが、シンジはドアを開けて呆気に取られた。なぜならそこにいたのは、家財道具一式の中に立ちつくすノヴァスターであるからだ。
「居るんなら早く出てこいって。あ、それとも寝てたのか? いや失敬失敬」
「……なんなんです?」
「何って、引っ越しだよ。見て分かるだろ?」
「引っ越し?」
「そ。我が輩ことノヴァスター=ヴァインは、今日から此処でお世話になるのじゃ」
と、シンジの許可も得ないうちに部屋の中に半ば無理矢理立ち入るノヴァスター。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「ん? 何か問題でも?」
シンジがノヴァスターの身体を室外に押し出し止めた。
「……ここは僕の部屋ですよ」
「知ってるよ」
「……僕は誰とも同居する気なんてありませんよ」
「言うと思ったよ」
「ならなんで!?」
「なんでだろうねぇ」
「!」
シンジの顔に険しさが走る。だがノヴァスターは、それを知りつつ何処吹く風だ。
「……もう少し、人の都合という物を察してください」
シンジはこの青年が苦手だった。この青年は、人と人との心の距離をまるで察しようとしないから。アスカやミサトは自分から早々に離れていったし、ゲンドウやレイは、自分が必要以上に働きかけなければあれ以上近寄るはずはない。だがこの青年は、自分の性格を知りつつ、お構いなしに自分にどんどん接しようとしてくる。
そういう意味では今最も怖いのがこの青年だ。自分の心にまで平気で踏み込んできそうで、そしてそれを一番危惧している自分の浅ましさまで見えて、もっと嫌になる。
「俺にもここで引けない都合くらいある。必死なのはお前さんだけじゃないって事さ」
「それとこれと、何か関係はあるんですか?」
「大アリなのよコレが」
そこで真面目に答えないから、ノヴァスターはシンジの神経を逆撫でる。
「事情は知りませんけど、生憎僕にはあなたと馴れ合う気はないので」
「果たしてそうかな? 俺と一緒にいると、君にとって何かと便利だぞ」
「……?」
「第六使徒の時の事を忘れた訳じゃないだろ?
あれが、俺が側にいれば何かと役立つんじゃないかっていう典型例だ。
なあに、別に手と手を取り合って親しくなりましょうって訳じゃないんだ。
君に目的があるのならば、その目的の為に俺を利用すればいい。
そうすれば、俺を仲介にして司令や赤木博士にも便宜を取ってあげられるから、便利だぞ。
その代わり俺は俺で君の協力を必要とする時もあるだろうし、ここは一つ『協定』という事でどうだ?
その方が君にとっても色々と円滑に物事を運べるだろう?
君に損な話を持ち込んだつもりは、ないんだけどなぁ。これでも随分美味しい話を持ち込んだつもりなんだぞ」
「……あなたへの疑いが晴れた訳じゃないんですよ」
「俺が詐称した事を言っているのか? あれは確かに俺が悪かった。
色々と疑わしいんだろうけれど、もし俺が君をどうこうするつもりならば、とっくにやっていたさ。
てな訳で、食事洗濯掃除付きで俺をこの部屋で雇ってみないか? やっぱり便利だと思うぞぉ」
そこでシンジが一瞬でも考え込んでしまったのが敗因だろう。
あとはそのままノヴァスターの口車に上手く乗せられて、なし崩しに同居が決定してしまった。
シンジの部屋に改めて入ってみると、酷い物である。
「……なんだこれは?」
シンジの部屋にあったのは、パイプベッドに小さい木箪笥が一つずつ、あとは卓上時計と無造作に脱ぎ捨てられた衣服、床に散らばる血糊の付いた包帯。それで全てである。
ジオフロントに面した窓があるのだが、暗いカーテンを掛けたまま最近開けた形跡も見られない。どうりで部屋の空気は湿り、カビ臭い。
ノヴァスターが一番奇怪に感じたのは、壁の所々に見られる怪奇なシミである。その殆どが自分の腹部付近の高さにある事を考えると、シンジが殴りかかって付いた血糊なのだろう、丁度そんな高さだ。
多分シンジの性格からすれば、時々思い出したように自虐性に捕らわれて、その度に腹立たしい自分を痛めつけるように壁を殴打していたのだろう。床の包帯もそれで合点が行く。
シンジには、辛い思い出が多すぎるのだ。昔も、今最近でさえも。
「……ちっ」
ノヴァスターが人知れず舌打ちした。何とも言えない、腹に据えかねる苛立たしさに捕らわれる。
……暫く考えた後、ノヴァスターは自分の財布から大枚を一枚取り出し、シンジに握らせた。
握らせた時に取ったシンジの手は、やはりボロボロだったが。
「これは……?」
「奢ってやるから、三時間以上暇を潰して来ること。
その代わりにノルマが二つ。必ず食事を取ってくる事と、包帯と傷薬を買ってくる事だ。
どっちかでもサボったら承知しないからな。じゃあ行って来な」
と、シンジの背を押し無理矢理部屋から叩き出す。
「ちょっ、ちょっと!?」
「それじゃ!」
ノヴァスターは素早くドアを締めてしまい、あとには呆然と佇むシンジだけが残された。
「なんなんだよ、あの人……」
不思議な人と言うより、只の変な人じゃないのだろうか。そんな事を思いつつあった。
いずれにせよ、一つだけ確実に言えることがある。シンジにとって、彼は今まで出会った事のない奇特なタイプの人間である事だ。それが、自分の未来に何をもたらすかまでは考え及ばなかったが。
不意に、腹の虫が鳴った。
「そういえば、一昨日から食事を取ってないな……」
シンジにとって、食事という行為は生きる為に物を摂取しなければならない行為、故に嫌なのだ。生きる価値のない人間に、生きる為の努力をしろと脅迫する「空腹」を感じる度に、腹が立つ。
それでも、飲まず食わずで生きていける訳でもない。仮にも自分が人間の形を象っている生き物である以上は。
(ここは仕方なく言葉に従う事にしよう。手も身体も酷使が過ぎると肝心な時に役立たないんだし)
シンジにとっては食事も拳の包帯も、機械に油を差す程度の観念でしかない。
取りあえずここは、上質の潤滑油を求める為に久しぶりに外界に出歩く事に決めた。
「やっと行ったか。まったく顔に似合わず頑固者よな、あいつも」
ノヴァスターはそんなシンジの後ろ姿を見送った後、荒れた室内を改めて見渡す。
「掃除に壁紙の張り替えと浴室の鏡交換に調度の移送……三時間で終わるかなこりゃあ。
……ごちてもしょうがない、始めるとするか!」
決心を決めるとジャンパーを脱ぎ捨て、早速持ち込んだバケツに水を汲み始める。
それから三時間の間、室内の掃除と整頓に精を出すノヴァスターは実に楽しそうであった事を追記する。
安い定食に渋々口を付け、薬局で包帯と傷薬一式を買い込んだシンジは結局大枚の1/5程度しか使うことなく、後は夕日の照らされる高台の公園で気儘に時間を潰していた。
時間を潰すと言っても特に何をするわけでもない、公園の隅にある椅子に寝そべって、黄昏てゆく街並みを眺めながら呆然としているだけ。
考え事は最近はあまりしなくなった。いくら考え込んでも事実は少しも変わらないのだし、どの道結論も変わらない、ただ怒りの衝動に任せて拳を壁に叩き付けたりするだけで、何の進歩もあったものではないのだ。
なら、エヴァに乗っているとき以外の自分には何もない事になるし、何を求める事もない。
いつから、自分にとってこれだけエヴァに偏った生き様になったのだろう。嫌々乗せられていた時のような憂鬱な物も、戦いの後に渦巻くやるせない気持ちのような物も感じなくなって久しい。憂鬱な気分や、やるせなさのような物は今でもあるが、その思考のベクトルは昔とはだいぶ違う。
自分は今、何をやっているのだろう……そんな原始的な結論に集束する。だから考え事をするのは嫌いなのだ。どうせ何も変わりはしない、生まれもしないのだから。
「碇君?」
シンジは迂闊にもその声に跳ね起きてしまった。
自分を「碇君」と呼ぶ人間は数えるほどしか知らない。そして、今自分が面識があるのはそのうちの一人だけだ。
「……綾波、レイ」
何故かそんな風に呟いてしまった。本部内で時々顔を見掛けるはずなのに、えらく久しぶりに出逢ったような感覚だったから。
レイは下校途中なのだろう、手提げ鞄を手前にちょこんと携え、いつものように抑揚のない表情をしてこちらを眺めている。
「……何の用?」
「……見掛けたから、声を掛けただけ」
「そう」
実に淡泊な会話が過ぎていく。
「……学校、行かないの?」
シンジには普段着という観念や、着飾るなどという感覚はとうに失っているので、いつもは制服の上下を二着ずつ、使い回すように着ているだけだ。ならば、外見は少なくとも中学生に見えるし、本来も義務教育の対象である。
「……行く必要がないからね」
「そう」
会話が無くなると、途端に淡い空気に包まれている自分を自覚するシンジ。
だからこの娘がある意味一番分かりやすい。必要以上の事を聞かないし、必要最低限の事は必ずこなす。そして、自分が決めた生き方にとって、最も差し障らない対象であるのは間違いない。
彼女にはアスカと違って、自分が特別悪辣に働きかける必要はないだろう。彼女は彼女で、自分の与り知らない所でしっかりとその役割を果たし、みんなの為に尽くしてくれるであろうから。
「今度」は、アスカとも仲良くして欲しいな……そんな些細な願いも心の隅に象られる。
しばらくは、押し黙った雰囲気だけが流れていく。
遠い所から、子供達の喧噪が聞こえてくる事はあっても、この空間には何の影響もない。
静かな空間の中で、刻だけが無造作に過ぎていく。
「……私、行くから」
その静寂を押し破ることなく、レイはこっそりと立ち去っていった。
シンジの周囲には、それでもやはり静かな空間が淡々と流れていく。
……少しばかり、その空間に虚しさという要素が加わった気がしたが。
「おっかえりー! 掃除済ましといたぞー」
シンジが部屋の扉を開けたとき、彼は久方ぶりに明確な驚愕を顔に表してしまっていた。
コンクリートのように重苦しかった壁には白い壁紙が張り巡らされ、床には色鮮やかなカーペットが敷き詰められ、安物のパイプベッドは何故か木調の二段ベッドに入れ替わっているし、箪笥も大きめのが一つ、部屋の隅にドカリと置かれている。
その他はまあ様々に色調されてはいるものの、要するに「生活感のある」部屋に見事に仕立てられていたという事である。呆気に取られるシンジとは裏腹に、ノヴァスターはさも得意そうに胸を張った。
「狭苦しい病室じゃないんだから、最低このくらいのゆとりはあってもいいんじゃないか?」
「……誰も頼んだ訳じゃないですよ」
「頼む奴がいないから俺がするんだろうが」
どうも論点がずれている。
「まぁまぁ、部屋が綺麗だと心理的にも安定するだろ?
エヴァに乗るにも有利というわけさ。……という理由なら、君は納得できるのかな?」
「…………」
「君が俺を受け入れないのも至極当然だろうけど、それならそれで俺にも考えがある。
君はどうもエヴァと、チルドレンとしてのステータスにひどく固執している所が見られるからな、
なら俺はサードチルドレン専任のオブザーバーとして君の助言役となる、というのはどうだ?」
「そんな勝手な真似が……」
「出来るさ。既に司令と赤木博士の許諾は受けているしね」
「……!」
「後は、お前さんが俺の使い勝手をどう評価するか、だな。俺自身の技能に嘘はないつもりだ」
「使い勝手……」
「確か君は、他のチルドレンの力を借りたくない、そうだったよな」
「……ええ」
「なら、君がネルフに於ける単独最強の存在となればいい。
エヴァを十二分に乗りこなす事と、知り尽くす事。
体力面では俺が、知能面では赤木博士がバックアップを保証する。
君はただ、与えられた技術を生かして、一人確実に使徒を撃破していけばいい」
「……僕を説得する理由としては、理には叶ってます。確かに僕は、もっと力が欲しい。でも……」
「心配事なら、ブチ当たってから考えればいい。
お前さんが使徒殲滅しか頭にないのならば、俺はそれに協力するだけだからな。
しかし、もしエヴァの他に気配りを成したい事があるとしたら、俺に出来うる限りの助力はするぞ」
「……どうして、そんな物好きな役を買って出たんですか?」
「俺が物好きだからに決まってるじゃんか」
大仰に胸を張り答えるノヴァスター。
「……ぷっ」
あまりのくだらなさに、つい険悪な雰囲気を自ら壊し、吹き出してしまったシンジ。
「オイ、笑うところじゃないっての! ったく笑いのツボを知らない奴はこれだから……」
彼が身振り手振り真剣に抗議しようとするのがまた滑稽で、続けざまに笑ってしまうシンジ。
「アハハハハ……!! やっぱりあなたは変な人だ」
「お褒めに与り恐縮ですよ(-_-メ」
今ここに、黄金のデコボココンビが結成された。
その夜、ネルフ本部の一角にある赤木宅に於いて。
「という訳で、苦労の結果シンジの説得に成功したという訳ですよ」
お玉に少量の醤油を注ぎ、ゆっくりと鍋に溶かし込む。
「ミサトがあれだけ無下に断られたというのに、大したものねぇ」
リツコは茶碗に飯を装い、あとは汁物の完成を待つ。
「癖っ毛の強い奴ですからね、あの少年は。対話するにしてもコツがいるんですよ。
そうでないとあっさり会話を切り捨てられちゃいますからね」
次に赤味噌をお玉に取り、少量のお湯で溶かしつつこれまた鍋の中に溶かし込む。
「ならば、あなたのそのおどけた性格も実は演技?」
「それは深読みしすぎですって。はい、出来ましたよ」
お玉で具を一掻き混ぜ入れてから、味噌汁椀に装う。
「頂くわ。……あら、美味しいこと」
「それは良かった」
次に自分の分の汁碗に装い、ノヴァスターも椅子に着いた。
「どうですか、豚肉入り特製味噌汁の味は?」
「特製も何も、只の豚汁よ」
「そうとも言いますけどね」
食卓には、ノヴァスターが作った一見ありきたりな夕食が並んでいた。が、リツコがそれに一皿一皿箸を運ぶ度に、かすかな驚嘆が口から漏れる。
「大した物ね。花嫁修業でもしてたのかしら?」
「まさか。独身が長い男の悲しいサガですよ」
「どうだか……ふむ」
とは言いつつも、口に運んだ魚のマリネを正直に堪能する。
「私もミサトの事は言えないわね。ネルフに勤めていれば食生活は荒れる一方だから。
これだけの食事でさえ、二日置きくらいにしか摂れないもの」
「そういうのお肌に良くないですよ。只でさえお肌の曲がり角なんですから」
「……言ったわね」
軽い皮肉を互いに笑い飛ばしながら、食事は進む。
「ごちそうさま。言うだけあって、大した腕前だわ」
「それほど褒められた物でもないですよ。今日は間に合わせみたいな物だけでしたし」
食事の後片づけは全てノヴァスターの仕事だ。軽快な鼻歌に乗せて、次々と皿を洗っていく。
家事を心から楽しんでいるのか、それとも日頃からこんな悩みのなさそうな性格なのかは知り得ないものの、ここまで毒気のない人格なのだと知ると、リツコの警戒心は既にほとんど無くなっていた。
「つくづくおかしな人ね、あなたは」
「それを今日何回言われた事やら」
「……で、あなたがここに来た本当の目的は?」
「もう済みましたよ。リツコさんさえ良ければまた時々来ますけれど」
「来て食事を作って二人で食べて、それっきり?」
「女性をエスコートするつもりならもうちょっと気を利かしますよ。
今日は本当にただ、夕食を作りに来ただけですってば」
「……何を考えているのかしら、あなたは」
リツコは艶のある苦笑いで、家事に勤しむノヴァスターの手元を見つめた。
すると、万一の事を考えて懐に小銃を忍ばせていた自分が馬鹿らしくさえ思えてくる。
「馬鹿正直ってのはあなたの為にある言葉ね」
「……褒めてます、それ?」
「一応ね」
彼が自分達に害を与える為に訪れた人物ではないのは確かだろう。
だが、ある意味底の知れない彼の性格に、リツコは引きずり込まれつつあったのかも知れない。
「……あなたは一体何を企んでいるのかしら?」
「今日のリツコさんは質問ばかりですよね」
「疑って掛かるは科学者の常よ」
「なるほど、違いないや」
最後の皿を洗い終わったノヴァスターは、さも拭きにくそうにしながら濡れた手を拭いていた。
「……鍵は返すから、その手錠もう取ったら?」
「いやいや、女性の一人暮らしに乗り込む男には、このくらいしないと安心できないでしょう?」
「ふふっ、変な人」
「もーそれでいいです(TーT)」
二十二章、お届けしました。
私がTV本編をリアルタイムで見ていた時、実は一番嫌いなキャラは、リツコとアスカでした。
あの頃は、どうにも身勝手な人に見えたんですよね、二人とも。
だから展開が終盤になるにつれて、深々と傷付いていく二人を見ていてある種自業自得だとさえ思ってました。
しかし、私がインターネット上にあるエヴァSSを読み始めて一年半になりますが、その影響か今ではこの二人に対する考え方が正反対に変わりました。アスカが嫌いだったはずなのに、気が付けばシンジ×アスカな恋愛小説ばかり読んでいるのだから大した進歩ですよホント(笑)
そして、私の連載ではミサトよりリツコの方が出番は多くなると思います。
私的にミサトよりキャラとして動かしやすいというのもありますが、彼女の視点が本編内を見渡すのに、一番近すぎず遠すぎずという印象があるからです。
さて次回ですが、次章も閑話休題編で行きます。今回がシンジとリツコの話であったならば、次回はミサトとアスカの出番ですから。
今章で僅かに出てきた二人の会話が、あとでとんでもない災いの種になると言うお話です(笑)
それでは、また次回……。
今回から、ごく一部のキャラに限り顔文字を引用してます。参考までに < 何の参考なの?