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[影技]の部屋
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「退屈……」
アスカは窓から見える外の景色を眺めつつ呟く。
校庭では、体育の授業の授業が行われているのか、歓声がかすかに聞こえる。
ただし、アスカのいる教室は三階のため、校庭を見ることは出来ない。
見えるのは、学校の前の道路と、住宅街だけ。
「はぁ……」
教壇では、白髪の男性教師がつまらない方程式の解き方を説明している。
教室内には、彼の説明の声と、ノートを取っている微かなキーボードを打つ音だけが流れている。
こんなの覚えてても、なんの役にもたたないじゃない……
机の上のディスプレーに表示されている数字の羅列にアスカは再びため息を吐く。
ふと、隣の席に目をやると、シンジが真剣な表情でキーボードを打っている。
……ほんと……馬鹿がつくくらい真面目なのよね……
アスカは、外を見ているより退屈凌ぎになると、シンジの横顔をボーっと見ていた。
真剣な顔しちゃって……ほんとに分かってんの?
カタカタとキーを叩くシンジの指。
その左腕に白い傷痕が見える。
……やっぱり残っちゃったんだ……
アスカは、自分の右手の甲についた同じような傷痕を懐かしく眺めた。
傷痕の理由
前編
「うーん……やっぱいいわねぇ」
アスカは辺りに出された新入部員勧誘のための机を見回した。
今日は第三東京市第三中学校の入学式。
各部がこぞって新入部員の勧誘に力を入れている。
「君、いい体してるねぇ?柔道、やらないか?」
「君のその熱い思いを白球にぶつけよう!」
「君も、音楽に青春をかけてみないか!?」
「……いいかな?」
「いい雰囲気じゃない?なんだか、どの部もこのあたしが入るのを待ってるって感じね!」
お決まりの腰に手を当てたポーズで決めるアスカ。
「ま、でも残念だけど、あたしが入る部はもう決まっちゃってるからね」
「……?」
「加持さんが顧問の、空手部よ!あたしの通ってる道場の指導員なんだけど、カッコいいんだから」
胸の前で手を組んで、恋する少女なポーズを取るアスカ。
「……」
そんなアスカを少し不満そうに見つめるシンジ。
「あんたはどうするの?」
「僕は……吹奏楽部にでも入ろうかなって……まぁ、まだ決めたわけじゃないけど……」
シンジの言葉に、アスカはただ、
「ふーん」
とだけ答えた。
「アスカは……空手部か……ふぅ」
その日の晩、一人ベッドに寝転んでいたシンジは、この日何度目かわからないため息を吐いた。
アスカといっしょのクラブに入る。
なぜかそう考えていた。
それが当たり前だと思っていた。
「空手部か……僕じゃあ、無理だよな……」
あの後、アスカは空手部に入部した。
「加持さーん」
アスカは空手部の勧誘の机にいた加持を見つけて飛びついた。
「おいおい……ここは学校だぞ?」
「そっか、じゃあ、加持先生なんだ?なんかおかしいわね」
「アスカは、うちに入部するのか?」
「もっちろん。だって、加持さんといっしょにいられる時間が増えるじゃない」
そんな会話を続けるアスカと加持。
シンジは一人取り残された気分だった。
「あんなに楽しそうに笑うアスカ……見たことなかったなぁ……」
シンジは、加持に抱き付いたアスカの笑顔を思い出していた。
「アスカが体育系のクラブに入ったら……もうアスカとは一緒に帰れなくなるんだよな……」
そう思うと、なぜか胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになるシンジ。
「でも……加持先生と一緒にいる方が……アスカは楽しいみたいだし……」
アスカの笑顔。ずっと見ていたと思っていたアスカの笑顔。
でも違った。
今日見たアスカの笑顔は……
コンコン。
窓ガラスがノックされた。
「?」
「開けて開けて」
「ア、アスカァ?」
そこにはパジャマ姿のアスカが立っていた。
あわてて窓を開けるシンジ。
アスカとシンジの家は隣同士。
しかも二人の部屋はちょうど向かい合うように作られていて、ベランダを通って行き来できるようになっていた。
むろん、二人は偶然そうなったと思っており、設計段階からのキョウコとユイの策略であることを二人は知らない。
「久しぶりでしょ?ここから来るのって」
「どうしたんだよ?こんな夜中に」
「ちょうど今練習が終わって……帰ってきたとこなの」
「遅くまで練習なんだね……」
「そうなのよ。練習初日だってのに、結構ハードなのよね。まぁ、遅くなったせいで、加持さんに家まで送ってもらえたからラッキーなんだけどね」
加持という言葉を聞いて、また少し胸が痛むシンジ。
「送ってもらったんだ?」
「うん。加持さんやさしいから」
この笑顔なんだよな……
シンジはアスカの笑顔を見て、そう思う。
「で、なんのよう?」
「あ、そうそう、明日から空手部の朝練があるのよ……だから、当分の間、起こしに来れないから、遅刻しないようにって思って」
アスカの言葉に呆然となるシンジ。
「そ、そうなんだ……」
「あたしが起こしに来ないと、あんたいつまででも寝てるから……遅刻しないでよ?じゃあ、あたしは明日早いから、もどるわね」
入ってきたときと同じく、窓から出て行こうとするアスカ。
シンジは、なんだか、アスカが遠くに行ってしまうように思えた。
「ちょ、ちょっと待ってよアスカ!」
アスカに続いて、シンジもベランダに出る。
「なに?」
「そ、その……」
アスカに見つめられて、言葉に詰まるシンジ。
「い、いつまで朝練があるの?」
「うーん……一応、学校がある間は毎日ってことになってるから……」
「じゃあ、もう一緒に学校行けないんだ……?」
「そうね……」
アスカの言葉はシンジにとって死刑宣告のように聞こえた。
「……いやだ」
「えっ?」
「そんなの、そんなのいやだ……アスカと一緒に学校行けないなんて……」
「シンジ?」
怪訝そうな表情でシンジを見るアスカ。
ミシッ、
二人のいるベランダが嫌な音を立てる。
しかし、相手のことに集中していて気がつかない二人。
「……ゴメン」
「……」
「アスカが……そばにいるのが当たり前だと思ってた……いつでも、僕のそばにいてくれるんだって……」
「シンジ……」
「迷惑だよね……はは、まるでストーカーみたいだ。アスカがずっと僕の隣にいるんだって思い込んで……」
アスカはシンジの目に光るものを見て、視線を逸らした。
遠くに街の喧騒が聞こえてくる。
ずっと静かな沈黙が二人を包む。
「あたし、空手部、辞める」
先に口を開いたのはアスカだった。
「えっ!?」
「よく考えたら、あたしが起こさなかったら、あんた出席日数足りなくて、卒業できないんじゃない?」
ケタケタと笑って見せるアスカ。
「アスカ……」
「ま、加持さんには、道場でもあえるし……」
また加持さんか……
シンジは、加持の名前が出るたびに心に小骨が刺さったかのように感じる。
「空手部を辞めるなんて……そんなのだめだ!」
「じゃあ、どうしろっていうのよ!?」
アスカは凄い剣幕でシンジを睨んだ。
「さっきから聞いてたら、グジグジ、グジグジと……あんたあたしにどうして欲しい……」
アスカの言葉最後まで続かなかった。
二人の体重を支えきれなかったのか、二人の乗っていたベランダが音を立てて崩れた。
「キャア!」
下へと転がり落ちる二人。
ちょうど下には、アスカとシンジの家の境目の鉄製の柵があった。
とっさにアスカを抱きかかえ、かばうシンジ。
ドスッ、
鈍い衝撃が二人を襲う。
かばったシンジが下になり、地面に叩き付けられた。
「ああびっくりした……」
シンジがかばってくれたおかげで、アスカはそれほど衝撃を受けていなかった。
「痛っつ……」
アスカは身を起こそうとして手をつくと、右手に鈍い痛みを感じた。
どこかで引っかけたのか、右手の甲がざっくりと裂けている。
「結構深いかな?」
しげしげと自分の怪我を見つめるアスカ。
「でも、さすがに男の子よね。シンジがかばってくれるなんて……」
そこまで言って、下になっているシンジの異変に気がつくアスカ。
シンジの左手が不自然に掲げられている。
「……っ!?し、シンジ、シンジ!?」
シンジの左手は、鉄の柵に串刺しにされていた。
出血のためか、真っ青な顔のシンジ。
アスカは自分の怪我も忘れて、必死にシンジの名前を呼び続けた。
つづく
ども(^^)影技です
入居できたのがうれしくて、入居記念の短編を書いたつもりだったのですが……
前、後編にに分かれる結果となってしまいました(^^;
連載の続きも書かなきゃいけないのに……(T^T)
ちょうど、うちの学校でも新入部員の勧誘の時期で、うちの部でも新入生の勧誘をしていたのですが……
そんなさなか、こんなSSを思い付いてしまって(^^;
ちなみに、僕は体育会系の武道系の部(なに部かは……ナイショ(^^))に所属しているのですが……
今年の新歓のキャッチフレーズは
「拘束よこんにちは、自由にさようなら、そして、すべての新入部員たちに……『アンタバカァ!?』」です(^^;
うーん・・・体育会のクラブは、だまして新入部員を入れますからねぇ(^^;
あ、あと、感想待ってます(^^)
正直、誰も読んでくれてないんじゃないかって、不安なんで……(^^;
一行でも結構ですので、メールくださーい(^^)
お返事書きますので(^^)
ではでは、失礼します(^^)