その丘の頂上についた時、彼の眼下に見えたのはネルフ王国の誇る王都だった。
高い城壁によってガードされた、ある意味独立したその空間に建物がひしめき合うようにして建っている。まさにそれは、ナギサ王家とネルフ王国の反映を象徴していた。
ゆっくりと馬を進めても、1時間もすればネルフ王国に着く。
だが彼は「麗しの王都」に着こうとしているのに、一向に表情が優れない。
なぜなら彼、シンジ・イカリは自分の意図としない、まったく望まない形でこの王都を踏むことになるからだ。
「はぁ。なんだかんだ言って、ここまで来ちゃったな」
音にしトため息をつくと、シンジは再び手綱を引いて愛馬に進行を促した。
だがその時。
少し下ったところを、二頭の馬が駆けてゆくのが見えた。馬に乗っているのは高貴そうな女性。そしてその少し後ろを、二人の男が追っている。馬足はなかなか早かった。
そこでシンジはこう判断した。
・・・追われているのだ、と。
(ここはやっぱり助けた方がいいのかな?・・・でもなんか追ってる人たち、強そうだし・・・。銃士になるんだからやるべきなんだよなぁ。・・・やっぱり逃げたいな。怖そうだし・・・いいよね?)
はっきり言って、いいわけがない。
シンジはまたため息をつくと、しかたなし、といたような態度で馬を急かせる。道ではない草原地を駆け下りる。そして、先回りする。
馬を近くの木に縛り付けると、風車の影に隠れた。
遠くから、四匹の蹄の音が近づいて来る。シンジは音の方に目をやった。
エヴァ三銃士
第二章 「シンジと三銃士」
二人の女性は、一線に並んでシンジの側を駆け抜けてゆく。
そして少しの距離をおいて、男たちが迫る。
シンジは短時間で仕掛けたある「罠」を作動させる。
何のことはない。道の反対側の木に縄を結びつけただけだ。その縄を思い切り引く。男たちの馬がその縄に足を引っかけ、前の一人は馬から吹っ飛び、後ろはその馬に激突し落下する。
すぐさま一人を木の棒で殴り気絶させると、離れたところに飛んだもう一人に向かおうとした。
(行けるっ!)
シンジはそう思って振り返ったが、そう甘いものではなかった。もう一人の男は剣を抜き、シンジに迫っていた。
「うわあぁぁ」
「レイ王女、しばらくお待ちを!」
その男の後方で声がしたが、シンジは恐怖で聞こえていなかった。
ガッツーン!
何とも表現し難い鈍い音がして、剣を振りかぶった男が白目を剥いて倒れた。
その背後に芦毛の馬に跨った、赤いドレスを纏った女性がいた。彼女は彼を見下ろしつつ、一笑する。
「助けてくれたのはありがたいんだけど、詰めが甘かったわねぇ」
風に彼女の琥珀色の髪がさらさらと流れる。シンジはちょっとムッとなりつつも、尻についた砂を払い落としながら、立ち上がった。
「ま、とりあえずお礼は言っておくわ。ありがとうね。アンタ名前は?」
「シンジ・イカリ」
不機嫌そうにシンジ。
「何よぉ、怒ったのバカシンジ」
「しょ、初対面の人間に向かってバカはないだろ、バカは!」
頭にきたシンジは声を荒げた。 そこへ、もう一人の少女が割って入った。
「ごめんなさい。アスカが酷いことを言って。助けていただいたこと、感謝しております」
同じような毛色の馬に跨って、その女性の後ろにいた女性が、馬を下りて彼に軽く頭を下げる。空色の耳を隠す髪。そして透き通った白い肌。そして何より彼女には神秘的な高貴さがある。
「い、いえ。そんなこと・・・」
「レイ王妃!まだシンジが安全と解った訳ではないのに、気軽に近寄らないでください!」
彼の手を握ろうとした彼女をアスカと呼ばれた女性が制した。
「ちょっと・・・レイ王妃って・・・まさか・・・」
「・・・ばれちゃ仕方ないわね。そうよ。この方はネルフ王国王妃レイ様よ。ホントはアンタなんかがこうやって口をきくことも叶わないんだから」
腰に手を当てて、彼女は言い放つ。ついで、
「さて、レイ王女。先を急ぎましょう。国王様を心配していますわ」
「・・・ええ。ありがとう。シンジ・イカリさん」
小さくレイはほほえむと、馬に乗り先を急ぐ。アスカもそれに続こうとした。
「待ってよ!僕、銃士になる為にネルフに行くんだ。君の名前・・・」
「アスカ・ソウリュウ。レイ王妃の侍女よ」
そう言ってアスカは馬を走らせていった。
「へぇ・・・。城にはああいう人もいるんだ。きつそうな感じだけど・・・綺麗だったな。王妃様の側でも見劣りしてなかった。・・・がんばってみようかな、銃士」
意外にも単純な性格のシンジだった・・・。
王都の西側、王宮から少し離れたところに「近衛銃士隊本部」がある。シンジは、そのことを行商人の一人に訊きそこへと向かった。
門というものは存在しなく、アーチ状の出入り口がある。それをくぐり抜けると、広場に出た。
そこには多くの銃士隊員が・・・いなかった。
人気すらない。シンジは馬を下りると一度だけあたりを一瞥し、本部を注視する。入り口の左右に三四段の階段が設けられ上方には二本の剣が交差するように飾られている。
シンジは喉を一度鳴らせて、中へと進入した。
中は閑散とした雰囲気で物音もしなかった。それどころか、荒らされた形跡があり、壁を飾っていた横断幕が破られて落ちている。銀の高燭台もたおされていた。
奥に、一人の男が座っていた。
「あの・・・すみません、ここは銃士隊本部」
言い終わらないうちに、立ち上がったその男が腰の剣を抜いた。シンジも咄嗟に剣の柄を持つ。
鋭い眼光を向けていた男が、シンジを確認し和らいだ表情をつくった。その顎に無精ひげを蓄えた男は歩きながらいう。
「いや、ここは元銃士隊本部だ」
「元って、どういうことですか!?」
「銃士隊は解散したんだ。記念品がほしいなら何でも持って行くんだな」
冗談じゃない、とシンジは思い脇を通り抜けようとするその男の腕をつかんだ。
「待ってください!僕は銃士になるためにわざわざネルフ王都まで来たんです!このままでは帰れませんよ!」
せっかく銃士になる目的をみつけたのに、これではそれすらも無駄になってしまう。何よりこのまま故郷に帰っては、母が黙っていないだろう。彼にとっては死活問題である。
「・・・銃士になる前に礼儀を覚えた方がいいんじゃないか、君」
再び彼の視線が鋭くなった。シンジは一瞬それに恐怖しつかんでいた腕を放す。
「今日の正午、王都のはずれにある古城まで来るんだ。礼儀を教えてやる」
男の瞳に宿ったっていたのは殺気だった。彼は素早く本部を出ていった、シンジが呼び止める暇もなく。
「ちょ・・・待って・・・。・・・こ・殺される・・・・」
彼の頬を冷や汗が伝う。
シンジはがっくりと肩を落として、込み合った道を進んだ。馬は銃士隊本部近くの民家に預けて。
(何だよ、僕が何したって言うんだよぉ。ただ銃士隊に入りたかっただけなのに・・・。やっぱり逃げようかなぁ・・・)
彼は気がつかったが、いつの間にか露店街に入っていた。生活雑貨から食料品まで様々なものが売られている。
(平和そうでいいな。僕もいっそこのあたりで細々と・・・)
「ごめんよ、お兄さん」
彼は後ろから突き飛ばされた。
「うわぁあっ」
足がもつれてふらふらと屋台へつこむ。
その瞬間を、シンジはスローモーションのように克明に視界へ刻んだ。
倒れ込んだテーブルにのっていた酒のグラスが飛び、そこにいた小柄な印象のある男の頭に乗った。グラスは割れることなく、彼の頭を滑り落ち、地面で割れた。彼の脳天から肩に掛けて葡萄酒に染まっている。
彼は腰にかけていた手ぬぐいで自分の顔をふくと、恐ろしいほど落ち着いた表情で、シンジに近づき、胸ぐらを掴み上げた。それも軽々と。見た目ではシンジとまるで変わらない肉付きの男だが、腕力は想像を絶していた。
「少年、よくもやってくれたね。この僕の頭を葡萄酒臭くしてくれるとは・・・。修正が必要なようだ」
シンジは泣きそうになりながら、ただ謝る。
「謝って済むなら銃士隊はいらないんだ。今日の午後一時、東側の古城で待っているよ」
「い、嫌だ!誰が行くもんか!」
なんとか男の手をふりほどいて、走り出した。
「こら!少年、待つんだっ」
彼もシンジの後を追い、走った。
人混みをかき分けて、後方の男に注意しhながら細い路地へ路地へと進んでいく。
しばらく走って、ようやくあの男を捲けた。シンジは後ろに用心しながらさらに走った。そして前方に迫った長身の男の存在に全く気がつかない。その男も何か考え込んでいるようで、シンジを見ていなかった。
当然待っているのは二人の激突だった。
ドン!
男に、シンジが覆い被さるような格好になって倒れた。
「いててって・・・。あ、すみません。大丈夫ですか?」
「大丈夫な訳ないだろ?前を向いて歩け、少年」
視界を邪魔した自分の長い髪の毛を掻き上げると、彼は軽い身のこなしで立ち上がった。
「それとも、そっちの気でもあるのかな?」
シンジは頭に血が上ってしまった。度重なる理不尽な出来事に、とうとう感情の行き場がなくなってしまったのだ。
(何だよ・・・僕は必死になって銃士になろうとしてるだけなのに、礼儀を知らないだなんて言われて。さっきだって僕が悪いんじゃないんだ。ぶつかってきた奴が悪いんだよ!それに今度はホモ呼ばわりされて・・・もう我慢できないっ!!)
「よくも侮辱してくれたなぁっ!決闘だぁっ!!」
数十秒後に彼はこの一言を人生最大の失敗と、後悔するのだがそれは後のことである。今はただ怒りにまかせてその言葉を吐き捨てた。
長身・長髪の男はその言葉を鼻で一笑するとこう言った。
「よーし午後二時、東の砦・コンフォートまで来な」
そして男はさっさとその場からいなくなっていた・・・。
我に返るシンジ。
「ああああっ。僕はなんてバカなんだぁぁぁぁっ」
今頃気がつくあたり、彼は本物かもしれない。人間、冷静さを失わずにいられれば大概のことは無難に巧く運ぶ。彼は一番最悪な選択をした。殺気が無精髭生やしたような男と12時。
小柄で怪力の男と1時。
長髪の勘違い男と2時。
これが美女との逢い引きならどんなによかっただろうか?シンジは後悔の海に果てしなく落ちてゆく・・・。
「に・逃げよう・・・」
実にむなしい決断だった。
そして・・・
シンジは・・・
脱兎も裸足で逃げ出すような走りで、あてもなく飛んでいった。
しかし、彼はまだ知らない。すでに彼は逃れられない輪の中に組み込まれていることを・・・。
ダルタニアン:碇シンジ(シンジ・イカリ)
コンスタンス:惣流・アスカ・ラングレー(アスカ・ソウリュウ)
アトス:加持リョウジ(リョウジ・カジ)
アラミス:青葉シゲル(シゲル・アオバ)
ポルトス:日向マコト(マコト・ヒュウガ)
ルイ十三世:渚カヲル(カヲル・ナギサ十三世)
アン王妃:綾波レイ(レイ王妃)
リシュルー枢機卿:キール・ローレンツ(キール枢機卿)
ロシュフォール:第三使徒サキエル(シャノン・サキエル)
ダルタニアンの父(死んでいる):碇ゲンドウ(ゲンドウ・イカリ)
ダルタニアンの母:碇ユイ(ユイ・イカリ)
ところで、いくつか作中では紹介できない、原作とは違う点をここで書きたいと思います。
1.原作ではコンスタンスは人妻らしいですが、もちろんアスカは未婚です(そして平岡はLASにん)
2.もちろん原作同様、中世を舞台にとっていますが、あくまで別世界です。たとえマコトが眼鏡をかけていても、
シゲルの趣味がギターでも、別世界だからいいのです(力技)
3.はっきり言いまして、映画版の三銃士に沿った展開で進んで行きますが、途中はかなり脱線するでしょう。
どうなるかはまだ決まってません。
他にも多々あるでしょうが、現在思いつくのはこんなところでしょうか?
さてさて、第三章は、哀れな主人公、シンジ君の受難はまだ終わりません。何せ相手があの三銃士なのですから。
またネルフ王国内部でも何やら陰りが見え初めております・・・。
それでは皆様また次回。
私信:大家さまへ
確かNHKの三銃士は人間のでしたよ。コンスタンスの声が日高のり子さんだったような・・・?
平岡さんの『エヴァ三銃士』第二章、公開です。
シンジとマコトと。
この二人は原作と全然性格が違うので、
何というか、こう、苦しいですね(^^;
やわらかそうなマコトが
シンジに絡んで追いかける・・・
これは、銃士隊絡みでいらついていたとか。
そんな所なのかな。
シンジも切れていたみたいだし。。
とりあえず、シンジも目標が出来たみたいで、
動き出したね(^^)
さあ、訪問者の皆さん。
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