アダム暦2015年。
広大なガイナ大陸の一部を担う、ネルフ王国。
この国はその「王国」の示す通り、一人の国王によって治められている。
カヲル・ナギサ十三世。
現在の国王が彼である。銀髪に少女と見間違うほどの白く透けるような肌を持つ、美少年。
先代の父王が暗殺されたため、先例通り王太子であった彼がナギサ十三世を名乗り国王になった。
彼は王太子時代に、妻を迎えていた。隣国のリリス王国の王妹・レイである。
彼女もまた白い肌が美しく、空色の髪をしていた。どことなく儚げな印象のあるレイ王女は無口で、あまり人と会話をしない。したとしても必要最小限であった。
夫であるはずのカヲルとも大した会話はなかったのである。
二人は共に若かった。
そんな若き国王・王女を補佐したのが、国王暗殺ののち急速にその力を増した、
キール・ローレンツ枢機卿。
十二世の死後、宰相の地位を手に入れた。
謎の多い男である。だが、彼の持つ権力は絶大で今や彼に逆らう人間はいないと言っていい。
ただ、そんなキールが未だその地盤に安住していられない存在が一つだけあった。
その存在は、代々国王を常に警護し、国民からは「ネルフの勝利と正義の象徴」とたたえ親しまれた。
その名を「近衛銃士隊」と呼んだ。
エヴァ三銃士
第一章 「銃士隊、解散」
ネルフ王国の最東端。
徒歩でも隣国との国境に行ける片田舎の村に、少年は住んでいた。
少年の名はシンジ・イカリ。
線の細い印象があり、年相応に見られないところがある。村祭りで毎年必ずお菓子を渡されてしまう。そういうタイプの少年だった。
そんな彼は今、少し息のいい馬に跨り王城街を目指して進んでいた。
腰には、金色の飾りが施された若年のシンジが持つには少々行き過ぎた剣がぶら下がっている。
「まったく、何で僕が銃士隊に入らなきゃならないんだよ。僕は酒造師になりたいのに・・・。母さんもコウゾウ村長も無理矢理僕を村から追い出すんだもんなぁ。これからどうしろって言うんだよ・・・」
彼は大きくため息を吐くと、王城に続く蛇行した道を進む。
『シンちゃん。よく聞きなさい。あなたのお父さん、ゲンドウ・イカリは銃士隊でも名のある銃士だったわ。ナギサ十二世陛下の信頼も厚かったの。でもあの人は陛下の暗殺事件の中で死んでしまったわ。シンジ。あなたはそんなお父さんの息子なの。あなたは銃士になって今の陛下をお守りしなきゃいけないの!わかった?』
シンジの母、ユイ・イカリは彼を送り出す時にそう行って剣を渡した。その剣は父の使っていたものだという。そしてそれは、前陛下の信頼の証。
「父さんだって?解らないよ、僕には。だって家に帰ってきたことなかったじゃないか!ずっと王城にいて一度も現れなかった。十四歳の誕生日にだけ帰ってきたけど・・・。すぐに王城へもどっちゃったし」
かれこれ一時間近く彼は同じぼやきを繰り返している。
「はぁ〜あ。このまま逃げちゃおうかなぁ〜」
空を見上げればとぎれとぎれの雲がゆったりとした速度で流れていった。
「どういうことかっ!説明していただこう!」
青い銃士の制服に身を包んだ銃士たちが王城の広場に集まっていた。
王城のバルコニーには、キール枢機卿の警護役を勤める元銃士、シャノン・サキエル。
「これは決定事項である。君ら銃士隊がどう言おうとすでにカヲル陛下が決定したことなのだ!
君たち銃士隊は先王をお守りすることはできなかった。それが何よりの理由だ。君たち銃士隊はもうネルフには必要ない。今後は歩兵部隊の一端としてそれぞれの部隊に入ってもらう」
「馬鹿な!」「誰がそのようなことを聞き届けるか!」「ふざけるな!」
罵声・怒号が広場を駆けめぐる。
シャノンは突如剣を抜き、下にいる銃士たちに向けると、目を見開き叫んだ。
「黙れっ。これはすでに陛下も枢機卿も承諾なさったことだ!剣と制服置かぬものは陛下に対する反逆と見なし、全員処罰するっ!!」
一瞬にして静寂があたりに広がっていく。
シャノンは口元にだけ笑みを浮かべるとこう続けた。
「一人は皆のために、皆は一人のために。銃士隊員一人の罪は全員の罪という訳だ。さあ、どちらを選ぶ?」
こうなってはしょうがない。銃士といえど一人の人間である。人によっては家庭を持っている。一人の情動的な行動が、その家族をも巻き込み不幸にしてしまうのだ。
彼らはバカではない。それが解っていてなお、自分の意見を突き通そうとはしない。
次々に剣と制服が脱がれていく。そして一人、また一人と広場を出ていった。
シャノンは満足げに剣を収めると、黒いマントを翻して、城の中に戻っていく。
磨き上げられた大理石の広間に、赤い絨毯が引かれている。そこに初老の老人が思索に耽り顎を撫でていた。
彼こそが、絶大な権力をその手に持つ、キール枢機卿。
「キール卿」
「ご苦労だった。シャノンよ。だが、一番厄介な連中は現れなかったようだな」
眉間に寄せられた皺が、彼の穏やかでない心中を示していた。
「はい。すぐにも奴らを捜し出し解散を伝えます」
無表情にシャノン。
「手ぬるいな。奴らは他の銃士共とは訳が違う。見つけ次第反逆罪にでもして逮捕してこい」
鼻で一笑すると、両腕の隠す、鮮やかに縫い上げられたマント背中に振るとキールはバルコニーから見える街を見ながら、今や彼の目の上のたんこぶとして存在する三人の銃士を思い出す。
「ふん。食えん奴らだ。そして駒としては絶対に不必要だ。リョウジ・カジ、シゲル・アオバ、マコト・ヒュウガ・・・。必ず私の計画の障害になるだろう。芽は早いうちにつみ取るべきだな」
風が、王城内に吹き込み、シャノンとキールのマントが揺れる。
だがその風が大いなる戦いの序曲になろうとは、キール自身、知るよしもなかった。
今はただ、静かに時が流れてゆく。
平岡誠一と申します。
この「めぞんEVA」と同じプロバイダーbignetで『SEIITI HIRAOKAhomepage』を運営、
密かにエヴァ小説を公開しております。
このほどこちらの「めぞんEVA」にも恐れながらお部屋を持たせていただくことになりました。
まず、第一弾として連載「エヴァ三銃士」第一章をお送りいたします。
のっけからまずお詫び申し上げます。原作、デュマ・ペールの『三銃士』のファンの皆様は
「何なんだよこれは!」とお思いだと存じます。
申し訳ありません。
この「三銃士」というのは、はっきり言ってしまえば本当に基本的な設定をお借りしたにすぎません。
しかも愚かなことに僕はデュマ氏の原作(翻訳・原典含む)は読んだことがないのです。ホント愚かですね。
しかし、これにはきちんと理由があります。
それはこの作品を肩の力を抜いて読める作品にしたかった、ということがあります。
大家さんも「気軽によめる作品」を望んでおられるようなので、ならばと思い、この作品をお送りするのです。
だから忠実に原作『三銃士』のテイストを盛り込んでしまうと、
どうしても「気軽さ」という点に疑問が出てしまいます<個人的見解
だから、エヴァの設定をもってきてさらに気軽さを追求するために、
あえて原作には手をつけずこういうカタチにしました。
さて、基本は『三銃士』に乗っ取っていますが、参考にしたのはチャーリー・シーン、
キーファー・サザーランドらが出演した映画『三銃士』です。
先日(というかもうかなり前かな?)テレビで放送されたときふっと浮かんだ設定だったのでした。
これから、つたないギャグを盛り込みつつ、三銃士という設定だけに捕らわれずオリジナル的部分も多く
盛り込んで作品づくりをしたいと思います。
しかし・・・第一章・・・短すぎたかな?・・・。でもこの後のシーンは長くなって中途半端になりそうだし・・・。
うーん・・・。
で、では長くなりましたが、これからもよろしくお願いします!
追記:とりあえず、アスカやミサトも登場予定はありますです、はい。