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機動戦艦ネルフ
第一話 発端





 2195年

 火星軌道の外側十光秒の地点にて,

 第一次火星会戦勃発。



 それは突然火星と木星の間に現れた正体不明の機動兵器群である。


地球連邦軍はそのとき火星に駐屯していた第13艦隊に

「彼らの目的が侵略であることは疑いようがない。
  直ちに艦隊を展開,敵を殲滅せよ」
と指示を下した。

それを受けて第十三艦隊は舞台を展開。

 正体不明の兵器群と数光秒の距離をとって対峙していた。

任に当たるのは第十三艦隊司令官,葛城ミサトである。


「簡単に“殲滅”って言ってもねぇ。」


 ミサトは自らの旗艦の司令席にかた肘をついて座っていた。
 もう一方の手で連邦軍からの正式の出動要請の書類を持って,メイン
スクリーンに映し出された敵影とを見比べている。

司令官がこれではそのしたにつく者はだらしなくなって当然であるは
ずだったが,この船のスタッフは司令官以上に働き者であった。

この船の誰もが司令官が有事の際には常人にはおよびもつかないよう
な判断力と決断力を見せ,過去にいくつもの実績を積み重ねていること
を知っていたので,
「せめて何もないときぐらいは・・・」
と司令官の怠慢を黙認し自分の責務を果たしてきたのだ。

もちろん彼らの献身的な努力を支えるのにその陽気で優しく明るい性
格と明らかに「美女」と呼ばれるに値する顔立ち,そして豊満な胸を初
めとする見事なプロポーションも一役買っていたのは言うまでもない。

 ミサトはさっきから30分ほどもスクリーンと書類を交互に見てはた
め息をついていた。

 自分たちに近づいたモノでちょっとでも危険のあるモノはすぐにでも
排除しようとする地球の官僚達に腹が立った。

現場の苦労を全く知らない偉い人たちに腹が立った。

明らかに兵器と分かる物を陣頭に置いて迫ってきた相手に腹が立った。

そして何より百年前からこの世に存在している“エビチュ”によって
導かれる深く神聖な眠りからたたき起こされたことに一番腹が立った。


「でもやんなきゃいけないのよねぇ。はぁ,誰か変わってくんないかし
ら。」


 ミサトのつぶやきは完全に無視された。

こんな時の彼女には関わらない方がいいことをブリッジのクルー達は
数年間の経験を通して知っていた。

無視されミサトは一瞬ふてくされたが,別の方からの声に仕事をしな
ければならないことを宣告された。


「司令,そろそろ各艦の艦長が指示を求めてきていますが。」


 副官の女性がそう告げると,ミサトはようやく立ち上がった。

 もっとも他の船の艦長に言わせるとそれでもだいぶ指示を待っていた
方なのだが。

 ミサトは一度背伸びをすると軍人に戻った。


「通信をメインスクリーンにまわして。」


 通信士官が操作をすると他の船の艦長の顔が映し出される。


「部隊を三つに分けます。
現在の目標の侵攻スピードから見て敵は中央突破を計るものと思われ
るので,敵が射程に入り次第一斉に狙撃してください。
中央の部隊はそれと適当に戦って後後退。右翼と左翼が反撃に転じて
から中央の隊も続いて反撃。
右翼,左翼は反撃まで攻撃に耐えつつ戦力を温存,指示があったら全
戦力を投入して目の前の敵を殲滅して。
反包囲の状態にして敵を殲滅します。」

 シンプルな作戦だったが効果は十分に期待できた。
敵が攻撃をしなければこちらは動けないのだが,それはそれで被害が
でないので問題にならない。

この作戦にだれも異議を唱えなかった。
 作戦の正当性もあったが,
 「ミサトに任せておけば問題はない」 という想いを全員が抱いていた。それは指揮官の有能ぶりを示してい
た。

 ミサトは誰も意見がないことを確認するとさらに細かい指示を出し始
めた。


「では第二と第三が右翼を,第四と第五小隊が中央に布陣してください
。本体が左翼を担当します。」


 これは第四第五小隊の機動力,装甲がバランスのとれたものであった
ことと,ミサトのいる本隊が常に状況を把握して指示を出さなければな
らないことが原因だった。
 この時点で彼我兵力差はほぼ対等でありこれに周辺を航行している連
邦の第四・第七艦隊がすぐに合流することになっており,地球政府にと
って楽な戦いであるはずだった。





 二時間後,後に“第一次火星会戦”と呼ばれる戦いが始まった。


「敵の兵器,射程に入りました。」

「全艦一斉射撃!」


 光の束が一直線に伸びて敵の艦艇をとらえた。あちこちで爆発が起こ
る。


「敵戦艦九機消滅。やっこさんもなかなかやりますね。」


 オペレーターがミサトに報告した。
 本人は冗談めかしたつもりだったがミサトは笑っていなかった。

 オペレーターが戻るとミサトは独語した。


「おかしい・・・あれだけの砲撃でたったの九機?」


 ミサトは不安に駆られていた。
「いくら何でも少なすぎる。」そう思って作戦を変更しようかとも思
ったが,敵の力が未知数である以上は他に有効な策もなく,不用意に変
更して味方の混乱を招くことも避けたかった。


「敵の装甲は以外と厚いかも知れないから気を付けるように全艦に連絡
して。」


 結局ミサトは注意だけにとどめることにした。
 本来ならこれで十分なはずだった。


「中央部隊,後退します。」


 メインスクリーンには味方の船が後退する様子と敵がそれに追いすが
るように突き進む様子とがはっきり映し出されていた。

ミサトは胸をなで下ろした。

敵はこちらの期待通りに動いている。

それで十分だった。


「敵は速度そのまま。中央部隊は後退を続けます。」


 オペレーターの声がブリッジの緊張をより張りつめたものにしていく。
 数十分間,中央部隊は丁寧に後退を続けて,ついに伸びきった敵の主
力を第十三艦隊のU字型の陣形が包み込んだ。


「中央部隊は反転!右翼・左翼も攻撃を開始!エネルギーを全て使い切
るつもりで攻撃して!」


 ミサトの命令が全艦に伝わり反撃が始まった。
 苛烈な攻撃が敵の正面と両側面にたたきつけられる。
 あちこちで閃光が生まれてきていた。
ミサトはほとんど勝利を確信していた。

容赦ない攻撃が十数分も続く。

 攻撃が一段落した頃オペレーターが戦況を告げた。


「敵艦は・・・・?その兵力の85%以上がが未だ健在!」


 ミサトは自分の不安が的中してしまったことを知った。

 その瞬間的からの反撃が中央の部隊をおそう。
 味方の船が次々と火球に変わっていくのが分かる。

 ミサトは作戦を断念した。


「各艦の被害状況を知らせて。」

「右翼は損傷度が10%を越えました!」

「左翼の被害はごく軽微ですが,中央の被害は今の砲撃で残存兵力40
%まで減少!うち第五小隊はほぼ壊滅状態で,旗艦を失い指揮系統がと
れません!」

 予想を遙かに上回る被害だった。


「なんて事・・・」


 ミサトは呆然としながらも次の指示を考えていた。


「敵の進行速度,また加速しました!」

「第五の残存には第四に回るように言って!
 第四には右翼と合流して敵をやり過ごし,後背より再度攻撃を通達!
 敵の背後を突くわ,それまで持ちこたえて!」


 ミサトはこの場所を簡単には捨てられなかった。

 今この地点を突破されると多数の人が植民している火星が,無防備な
まま敵の砲火にさらされることになる。

「たとえ全滅してもと」は言わないがそれだけは避けねばならなかった。

「敵数十機がこちらに向かってきます!」


 オペレーターの声が響く。


「主砲いつでもいけます!」


 砲撃手が叫ぶ。
 画面には半球に目を付けたような敵影が映し出されていた。
 赤い目はまっすぐこちらを見つめている。

 ミサトはただそれを早く消してしまいたかった。


「撃って!早く」


 ミサトは司令官としての自分を忘れかけていた。

 ドオォォォォォ・・・・・・

 発射されたビームが光の濁流となって敵を飲み込んでいく。

 その中に,ミサトは見てしまった。敵の戦闘艇が目の前に八角形のフ
ィールドを作り出すのを。

 光が消える頃そこには変わらぬ敵の姿があった。


「バカな・・・・・・」


 ブリッジにいた全員が自分の目を疑った。
 戦艦の一撃に耐える戦闘機など彼らの常識では考えられなかった。
 その間にも敵は寮艦を宇宙の藻屑に変えていく。


「勝てない・・・」


 ミサトは悟っていた。
 その敵は全ての常識を越えていたのだ。

 「絶対に勝てない」とミサトは生まれて初めて思った。

 縦横無尽に飛び回る敵をスクリーンに見ながらミサトが口を開いた。


「現時刻をもって全ての作戦遂行を断念。
 全艦は速やかに戦線を離脱。 
 撤退せよ・・・。」


 ミサトの力無い声にクルーがこれもまた力無い声で答える。


「了解・・・。」




 第一次火星会戦は地球連邦の惨敗に終わり,火星は連邦の言う”侵略
者”の手に渡った。








 一年後,2196年

 ゼーレ極東支部,会議室



「と,言うわけで第一次火星会戦から一年。
地球勢力は使徒に火星と月を完全に制圧されてしまった。」

 暗い会議室の中に映されていたホログラムの資料映像が終わってスク
リーンにはゼーレのエンブレムが映し出された。

会議室といってもここにいるのはたった四人だった。そのせいか広い
会議室がよけいに広く,ミサトには感じられた。

ちなみに今しゃべったのは白髪の老人である。


「ハイ,しかし私がここに呼ばれたのは何故です,冬月先生?
 まさかこれを見せるためだけではないでしょう。」


 ミサトは言葉を選んで丁重に答えた。

 もう軍を辞めて怠惰な生活を素の自分で送ることが多くなっていたの
で結構こたえた。
 今日の朝だって遅刻ぎりぎりの時間に起きて,ここまで走り通しだっ
たのだ。
「早く帰りたい・・・」それが今のミサトの本心だった。

 そんな心中を察したのか隣では加持が笑いをこらえている。
 資料を見てるときミサトの瞼がとろんと落ちそうになる度,加持は全
身全霊を奮い立たせねばならなかった。


「実は君にあるプロジェクトの指揮を頼みたいのだ。」


 こたえたのはメガネをかけたひげ面の男だった。
 ゼーレ極東方面司令,碇ゲンドウである。

 この男が両手を顔の前で組んで口を開くと必ず場の雰囲気が重くなる。
 少なくともミサトと加持はそう思っていた。
 口には絶対に出せないが・・・。

 ミサトはすぐさま聞き返した。


「それはいったい・・・」


 やる気や興味があったわけではない。

「いやなことは早く終わらせたい」という心境だったからだ。

 「この男といると息が詰まる」というのもミサトと加持の共通の認識だった。


「それはあの使徒に関係があることですか?」


 火星軌道外,おそらくは木星からの侵略者のことを“使徒”といつし
か呼ぶようになっていた。

 ミサトは軍を辞めてからその出所を求めてこのゼーレに行き着いたの
だ。


「その通りだ。」


 ゲンドウは重々しく言った。

「やっぱりこの雰囲気には慣れない」約二名は心底そう思っていた。


 今度は変わって冬月が口を開く。


「我々は使徒に対抗し得る力を手に入れたのだよ。
 それでこの計画に使徒との実戦経験があり,かつ有能な君を推薦した
 のだが・・・」


 今日初めてミサトの興味を刺激する話題だった。


「これでこそわざわざ来たかいがある」というものらしい。


 ミサトの目が輝き始めた。


「それはどう言うことでしょうか?
 それは使徒と戦えと言うことですか?」


 ミサトは半分身を乗り出していた。

 「上司にほめられたら謙遜するものだぞ」と加持は勝手なことを思っ
ている。

「ま,まぁそういう細かいことについては人を揃えてからにしようと思
うのだが・・・」


 詰め寄られた冬月はたまったものではない。
 必死に話題を変えようと試みた。


「人を揃える?今から募集するのですか?」


 今にも殴りかからんばかりの勢いだったミサトは腰を下ろした。
 そのようすがまた加持には面白かったようだ。

 冬月は,ふぅ,と一つ息を整えると書類を取り出していった。


「ここにすでにピックアップしてある。
 どれも当代の逸材ばかりだ。
 君にはまず彼らを迎えに行って欲しい。
 加持君,行ってくれるな?」


 加持は間をおかずこたえた。


「もちろんですよ。」


 加持は「とっとと出ていきたい」と,これが始まってからずっと思っ
ていた。
 久しぶりに早く起きたので彼が溺愛しているスイカに水をやるのを忘
れてしまっていたからだ。






「プシュウッ」


 ドアの閉まる音がして,二人が出ていった後の会議室には冬月とゲン
ドウが残された。


「ふぅ。しかし彼らで本当に大丈夫かね?」


 今し方ミサトに襲われかかったばかりの冬月がため息をつきながら言
った。


「問題ない。まだ彼らは利用できる,それにその能力も必要だ。」


 ゲンドウの声は広いこの部屋でさらに威圧感を増している。
 冬月でも少し息苦しくなるような状況だ。


「計画は始まったばかり,最初からつまづくわけには行かない。
 全てはこれからなのだ。」






「・・・・」


 その部屋の主,日向マコトはもう三日ほどもこの部屋を出るどころか
一歩も動いていない。
「食事やトイレはどうしたんだ?」と思うかも知れないが,とにかくそ
うなのだ。
 メガネにはディスプレイの光だけが反射していて,手はキーボードと
マウスを行ったり来たりしている。


「ドゴッ!」


 突然ドアを蹴破ってミサトが入ってきた。


「ごめ〜ん,ドア壊しちゃった。だって開かな・・ってすごいわねここ
・・足の踏み場もないわ。」


 ミサトもなかなか無茶なことを言う。
 勝手に入いっといて人の部屋をけなすのだ。
 確かにそこかしこに器材がおいてあったが,ミサトの部屋は明らかに
ここよりもっとひどいものを。


「非合法のハッカー,日向マコト。自作の器材でここまでやる?腕は確
からしいけど・・・」


 マコトはミサトの声にもなんの反応も示さない。


「あなた,もしかして・・・」


 ミサトはマコトの顔をのぞき込み,そして確信した。


「おなかがすいてるのね・・・」


 生活観の酷似した二人であった。









「ふぅ」


 大学院生,伊吹マヤはある喫茶店の窓際に座っていた。
 戦火が焼いた家や店がいくつも見られる。
 マヤはそれを見て何を思うのか・・・。

 こうしているとまさに一枚の絵のようである。


「そこ,いいかな?」


 その声に振り向くと暖かい微笑みを浮かべた男がいた。
 自他共に認めるシャイな性格の持ち主マヤにしてみれば,この男に顔
を赤らめただけではっきり返事をできたのは上出来というべきであろうか。


「あっ,はいどうぞ。」


 いかがわしい男加持が,いかがわしい話しをしに来たことを,マヤは
知る由もなかった。








「おつかれっ」

「おう,おつかれさん」


 青葉シゲルは月に数回のバンドの練習を終えてスタジオから自宅への
帰路につくところだった。

 通りに出ると日差しのまぶしさに目を細める。


「あなたが青葉シゲルね?」


 その声は突然光の中から聞こえてきた。
 目が慣れるとそれは・・・女。
 それもシゲルの見た中ではおそらく最高クラスの美形。


「そうですけど・・・」

 青葉にはそう答えることしかできなかった。
 なぜなら青葉の視線は早くもミサトの顔から,その肢体に移っていた
から。







 ミサトは次の目的地に向けて車を出そうとしていた。


「さぁて,次はどこかなぁっと。」


 助手席のリストに手を伸ばす。
 冬月にもらったリストには“第三新東京中学校”とはっきりかかれて
いた。



















NEXT
ver.-1.01 1998+02/13 公開
ver.-1.00 1998+02/03 公開
感想・質問・誤字情報などは こちら まで!



 今回の募集最後、11人目の御入居者です(^^)

 めぞん通算114目、ゆうさん、ようこそ(^^)/


 第1作『機動戦艦ネルフ』第一話、公開です。



 シリアスな宇宙での戦いと、

 一年後の軽いノリ(^^)


 次々と集まる、集められるあやしげなメンバー・・

 これだけの人が一カ所に集まる、
 凄いことになりそうですね(^^)



 さあ、訪問者の皆さん。
 感想メールでゆうさんを歓迎しましょう!



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