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機動戦艦ネルフ

第二話 








 正午ちょっと前。

 初夏の日差しがもっとも心地よく感じられる頃である





 セカンド,サードインパクトを経て日本のみならず世界中の気候が一変
してからすでに200年近くも経とうとしている。



 これまでにはいろいろなことがあった。





 インパクト後の混乱から,国家の生き残りをかけた戦争。
 その終結とヒトの宇宙への進出。

 言葉にすれば簡単だが,そこには人の努力や才能といった歴史という紙
に金の糸をもって刺繍されていることがあり,それより遙かに多くの決し
て歴史の表には出してはならない隠蔽や陰謀があった。

 そして人はその上に歴史を繰り返して今に至っている。

 「歴史は繰り返す。」
 とは誰の言葉だったか。




 ともあれ,地球はそんな人間達の都合にかまっているほどのろまではな
く,せっせと環境を元に戻していた。

 その間に地球の気候はかなり回復したと言っていい。

 日本もその例にもれず,失われていた春と秋を取り戻していた。

 もっともそのころには春や秋を懐かしむことのできる人間は,少なくと
も普通に生活している人々の中にはいなくなっていたが。





 ここは第三新東京市の中心からほんのちょっと郊外にあるマンションの
一室である。

 南側にテラスがあり,そこに通じる窓が今は大きく開かれていて,日差
しと風とを部屋の中に招き入れている。

 そのおかげか,
「昼間からマンションの一室で男が一人机に向かい,端末をいじっている
」  という状況であっても暗さは全くない。

 それどころか明るさや優雅さすら感じられる。



「ふぅ。」

 窓のすぐ側に置かれた机に座っていた男は,一息つくと傍らのコーヒー
に手を伸ばした。

 加持リョウジ。
 その人である。



 少し前,加持はマヤと適当なおしゃべりをしていた。

 しばらく話してから急に時間がないようなふりをすると,メモを取りだ
し何事かを書き込む。

 そして,そのページを破り取ってマヤの手に握らせ,さらにはその上に
自らの手を重ねて

「今は説明する時間がない。だけど三時までに必ずこの場所に来てくれ。
全てはそのときに・・・。」

 と,真顔で言うのだ。

 当然マヤは真っ赤である。

 ついでに頭に血が上ってまともに働いているのは視覚と手の触覚だけで
あった。  反応といえば無言で首を縦に振るだけ。

 よく考えれば時間も三時と中途半端だし,紙に書いてある場所もゼーレ
支部とこれまた中途半端なのであって,何も期待できないと分かりそうな
ものだが。

 とどめに,帰り際,

 「待ってる。」

 などと言われてはマヤに選択肢などと言うものはすでになかった。




 と,ここまでが加持のお仕事,午前の部,第一幕であった。

 マコトや青葉をわざわざゼーレまで引きずっていったミサトに比べると,
効率的ではあるものの非常に大ざっぱなものであり,人道的とはお世辞
にも言えない。

 ま,その辺の判断は結局この男の人生の中で培われてきたものによるわ
けで。

 それはさておき,加持はその後自分の家に戻ってきている。

 半分は仕事,もう半分は私用のためであった。

 今はその仕事のほう,午前の部,第二幕の真っ最中であったが,その内
容は日差しとそよ風ほどに明るいイメージを持たないどころか明らかに裏
の仕事である。



 一個人の過去の経歴の確認と監視記録のチェック。

 明らかに犯罪,と思われるような部分までチェックしてある。

 加持自身,楽しい仕事,とは思っていないが「そこは仕事」と割り切れ
る所を才能とか言うのであろうか。

 その対象の多くはゼーレのトップクラスの職員か,国家の要人,企業の
重役のいずれかであるが,15に満たない子供も数人含まれている。

 おそらくその全員が監視の事実を知らないし,ゼーレにそれほど関わっ
ているわけでもない。
 本人達は「普通の子供」でいると思っていたが,一部の人間にはそれだ
けではすまされないようだ。

 彼らの記録には“チルドレン”という呼称で記されている。


 とはいえ加持も子供の監視だけは時々仕事としても割り切れなくなり彼
を憂鬱な気分にさせる。

 そうゆうところがこのキャラクターを作る要素の一部となっているのだ
から器用な人間である。




 今加持が目を通しているのもそんな子供の一人であった。

 加持は真剣な顔で画面を見つめている。

 今開かれている資料の対象者は・・・





──────────────


 “サードチルドレン 碇シンジ”の過去の経歴と第二十一期監視報告


現在までの簡易経歴

 2182年,碇ゲンドウ,ユイの長子として地球で誕生。
 碇ゲンドウ,ユイの両名はともに地球勤務のゼーレ研究員である。

 三歳の頃,両親の火星支部への派遣に伴い火星に移住。
 そこで無核状態の初号機とのシンクロが確認される。
 「サードチルドレン」に選出されるも,両親の希望により特殊教育は受
けていない。

 その理由について,

 「必要ありません。」
 と碇ユイは述べている。


 五歳の時,火星支部での事故により碇ユイが行方不明となる。
 なおこの事項は公式に発表されていない。
 このすぐ後,碇ゲンドウは地球に戻り極東支部司令に就任するが,碇シ
ンジは火星の叔父の家に残される。

 その理由は不明。
 碇ゲンドウ氏のコメントもない。


 その二年後,父親の指示により火星のゼーレ運営の日本語学校へ入学。
 普通教育を受ける。


 以後卒業まで特に記すべき事象は無し。(生活の様子は別記する)

 十二歳の時,卒業と同時に父親により地球に呼ばれる。
 第三新東京中学校に編入。
 他のチルドレンと同様の教育を受ける。

 ただし父親とは別居。

 この理由も不明。

 現在は学校と睡眠以外のほとんどの時間を隣人である葛城ミサトと,同
じく隣人であるセカンドチルドレン,惣流・アスカ・ラングレーと過ごす。

 保護者代理が葛城ミサトである。


 現在,同中学2−Aに在籍。




続いて,第二十一期監視報告


 特に問題となる行動はないが・・・・・・・・・・・




─────────




 加持は一通りのことに目を通すと立ち上がって呟いた。

「あなたはご自分の運命だけでなく,この子達の運命も何とも思ってはいない・・・。」

 テラスに出ると日差しが目を焼く。
 空は青く一点の曇りもない。

「まだオレの知らないことがたくさんありますね,碇司令。」

 加持はふと,
「この空の青は,空の本当の姿を見せているのか,この世の汚れた部分を
隠しているのか。」
 などと考えかけてやめた。


「オレは詩人じゃないしな。」


 と言うのがその理由らしい。

 加持は一つ背伸びをすると,高らかに宣言した。


「さて,お仕事終わり。」


 勝手に仕事を終わらせたこの男は残った時間を勝手に趣味の時間にして
しまった。

 加持はこの近くに土地を借りている。
 もちろんスイカ畑だ。

 今の時刻が一時ちょっと前。
 これから日が暮れるまでずっとあそこにいようか,などと考えている加
持であった。


 あと,この願いが叶えられなかったことを追記しておく。

 理由は後ほど・・・。










 時間としては,加持が憂鬱な仕事に取りかかろうとしていた頃。

 加持の家から第三新東京市の中心部を挟んでちょうど反対側に位置する
「第三新東京中学校」にも初夏の日差しと風という恩恵は降り注いでいた。


 第三新東京中学校はセカンドインパクト後,サードインパクト前にでき
た学校で,何故かそのスタイルは今も変わっていない。

 何度か建て替えをしたにもかかわらずだ。

 変わったのと言えばその学習内容で,中学校からいきなり専門的な道を
選ばせると言うことであり,それに応じたいろいろなコースが用意されて
いた。

 普通のサラリーマンから,獣医やタレントなどその選択幅の広さは注目
を集めていた。

 公立の学校ではなかなかこうはいかない。

 これをバックアップしているゼーレという組織の実力と言ったところか。

 さらには,ゼーレが特待生や奨学金の制度を実施したりとそのイメージ
アップに一役買わせている当たりが抜け目無い。



 とはいえ,生徒全員が夢の実現に向けて闘志を燃やしているわけではな
い。

 これに該当しない生徒や「夢よりも今」という生徒にとっては,

「先生がいて,テストがあって,成績の順位が付けられて」

 と普通の学校と何ら変わりがあるものではなかった。

 そして明らかに後者の方が多いのが現実である。




 今,この学校の2−Aの教室でこれに値するものは至福の時を送ってい
た。


 4時間目。
 午前中から張り切って授業を受けていた者のペースが落ちる時間帯であ
る。

 そこに加えて穏やかな天気,どこの学校にも一人くらいはいる「寝てい
ても決して注意しない優しい先生」の授業中。

 ここまで条件がそろうことは滅多にない。

「これで寝なきゃ失礼だ」などと勝手なことを思って寝ている者も多い。

「セカンドインパクトとサードインパクトの二度にわたる大質量隕石の落
下によって,地球の気候が大きく変わり数十億の尊い命が失われました。」

 その先生は白髪の老教師なのだが,もう年なのか同じ話しを繰り返しす
ることで有名になっている。

 その優しそうな顔立ちとそのお話のおかげで生徒にありがたがられてい
るのだが,生徒は当然テストになって焦ることになるんだからいいのか悪
いのか。

 そもそもこの教師の教科は古典なのであって,どこでどうそれるとこの
お話につながるのか理解に苦しむところではある。


「多くの人がその中で努力をし,血と汗を流して復興につとめ,わずか三
十年足らずでそれをなしえたのは人という種の偉大さを感じさせます。
 あの大惨事を機に世界が一つになって協力し合う時代がやってきたので
すが・・・・」


 教師の演説というものは時に大げさになることがある。

 未だ復興の完成していない地域だってあるし,セカンドインパクト後の
最初の国際交流の手段と言えば,ミサイル,核,N2兵器であった。
 どの国も生き残りたかったのだ。

「核で地球を壊してどこが偉大なんだ?」

 と,つっこむ生徒がいればおもしろいかも知れないが,まずまともに聞
いているものはない。

 初めて聞いたならそれなりに感慨を呼ぶ演説であったろうに。

 まぁ,延々と話し続けるところを見ると,聞き手の感動は期待していな
いようなのでよしとしよう。


「そして人類は21世紀の後半に宇宙への進出を始めて,宇宙への大航海
時代とも言うべき時代が幕を開けます。
 各地の施設から毎日のように衛星やロケット,シャトルが打ち上げられ
,それが数十年も続きました。
 私が子供の頃もその真っ最中で,そのころ私は松代の方に住んでいたの
ですが・・・・・・・・」


 お話が続く中,そろそろまじめに聞いていた人の瞼も重くなっている。




 シンジと言うと,その中に属さないこともあって授業開始と同時に眠っ
ている。

 もっともシンジの場合はちょっとした言い分があった。


 朝早くに起きて,朝に弱い隣人達を起こしたり,そのための朝食を作っ
たりしなければならない身分なのだ。


 葛城ミサトと,惣流アスカの二人である。


 その理由,時期については後述することにして,シンジの朝の様子を簡
単に追いかけてみる。



 シンジが起きたとき二人が起きていることはほとんどない。

 手早く着替えや洗顔をすますと,隣にあるミサトの部屋に向かう。

「おはようございます。」

 シンジは合い鍵を使って中にはいる。
 合い鍵をもらえるほど信頼されているのだから今更挨拶もいらないだろ
うが,そこはシンジらしさだ。
 たとえだれも聞いていなくても。


 シンジは一人黙々と朝食の準備を始める。

 トントントントン・・・・・・

 包丁を使う音が聞こえる。

 ジュウウゥゥゥ・・・・・

 何かを炒めている音が聞こえる。

 この二人のおかげで料理だけは人並み以上にうまくなっているシンジだ。
 エプロンも様になっている。


 数十分後,

「さてと,そろそろ二人を起こさなきゃな。」

 と言って,シンジはまずミサトの寝室へ向かう。
 と言っても,中にはいるような無粋なまねはしない。

 コンコン

「ミサトさん,起きてください。朝ですよ。」

「ふぁ〜い。今起きますよ〜。」

 シンジが呼びかけると何とも間抜けな声が返ってくる。

 とりあえずシンジは安堵したが,辛いのはここからだ。

 もう一人の隣人アスカは自分の部屋に戻って寝ている場合と,ミサトの
家の一部屋で寝ている場合の二通りがある。

 自室に戻っているときは最悪で,起こすために部屋に入ろうものなら,

「エッチ!痴漢!変態!しんじらんない!!」

 とのお言葉をいただいたあげく,寝ぼけた状態での加減なしのビンタを
もらうことになる。

 かといって起こさないと,

「全く,ちゃんと起こしなさいよ!ホント,とろいんだから!バカシンジ
は!」

 と言われ,機嫌が悪い状態でやはりビンタをもらうことになるのではシ
ンジも救われない。

 今日は,どうやらこの部屋のソファで寝ているようである。

「アスカ。早く起きないと遅刻するよ。」

「・・・・・・」

 シンジの声も全く届いていない。

 昨日は何かをしている途中で眠ってしまったのか,部屋着のままでソフ
ァに仰向けになっている。

 シンジにとっては非常によいことで,下手な格好で寝ているときに起こ
そうものなら,シンジは慌てる,アスカは怒るといいことはない。

 シンジはアスカの肩を揺さぶった。
 普通の格好だったので緊張がほぐれていたのも事実である。
 どんな緊張かは御想像にお任せする。


「ほらアスカ,早く起きてよ。」

「ん・・・・」

 一つ断っておくが,アスカビジョンではちょっとした状況になっている。

 仰向けになった自分,それを真上から見下ろすシンジ・・・・。

「きゃぁぁぁっっっ!何すんのよ!バカシンジのくせに!!」

パン!パン!


 と,ここまでが日常的な葛城家の朝の風景である。




 キ〜ンコ〜ン  カ〜ンコ〜ン


「おや,では今日の授業はここまでにします。」

 数百年来変わらないベルを聞いて午前の授業が終わりを告げる。

 生徒のしゃべり声は聞き流してもこれを聞き流さない教師も強者ではあるが。


 ともあれ,多くの生徒にとってもっとも楽しい時間が始まる。

 昼休み。

 ガヤガヤガヤガヤ・・・・

 さっきまで静かだった教室が一瞬で騒がしくなる。
 休み時間になると寝ていた人間が一斉に目覚めるのも不思議だ。


 もっともまだ寝足りない人間もいないではない。


「おい,シンジ。起きろよ。授業終わったぜ。」


 寝ているシンジに一つ前の席のケンスケが声をかける。

 五十音順という適当な席順のせいでこうなっている。

 シンジはというと・・・・起きない。


「おいシンジ。」

 ケンスケが肩を揺らすとようやく頭を上げて,


「・・ん,あ・・・ケンスケ,授業終わったの?」


 と,ミサト並に寝ぼけた声で言う。

 ケンスケがあきれていると,

「しゃあないやろ,シンジは愛妻家やからな。」

 トウジが近寄ってくる。
“三バカトリオ”と命名したのは誰であったか。
 とにかく三人まとめてこう呼ばれている。


「なんだよそれ・・・・。」


 眠い目をこすりながらシンジが一応反論する。

 この二人はシンジの生活のつらさを分かっている数少ない人間である。
 今のようなせりふはシンジをからかうためであって,本心ではない。
 アスカのルックスと性格のギャップとをある程度正確に知っているので,
シンジにそれを強要するわけではないし,何より本人達にその気はなかった。
 ただ,トウジ達としては
「何もないわけはない。」
 とふんで,温かく見守っている。

 シンジに言わせるとこの二人は,
「何も分かってない」
 と言うことになる。
 さらにシンジに羨望や,嫉妬のまなざしを送ってくるものについては理
解しようと言う気すら起きない。

 確かに二人の隣人は美女であり,決してつまらない生活ではないのだが。




 さてその話題の中心人物のうち一人は教室の反対側の方で,お弁当を広
げている。

 親友とでも言うべきヒカリと一緒にお昼を過ごすことが多くなっていた。


「またお弁当碇君に作ってもらったの?たまには作ってあげるとか・・・」

 周に一回ほどはこの会話が交わされる。
 アスカのお弁当はすでにシンジ製であることが決定しているのだが,そ
れでもヒカリとしては納得できない。

「こんな美女の近くで生活できるのよ,そのくらいやって当然じゃない。
 それどころか名誉なことだと思わない?」

 ミサトの名前を出さないところと,自分が作れないとは決して言わない
ところがアスカらしいとヒカリは思う。

 実際にお弁当を作ってこようとしたものが大勢いるのだがアスカがその
担当を変えようとしないのはひとえにシンジの料理の腕故である。
 普段食事を作っているシンジの方が好みをよく知っているというのも理
由の一つであり,それが男子生徒の憎悪を集めるのに一役買っているのも
事実だ。

「それに,お弁当は女の子が作ってあげるもの,なんて思想は二世紀も前
に廃れたのよ。」


 ちなみに,このクラスにはその思想の持ち主が二名ほどいる。
 シンジとヒカリだったが,その理由は大きく異なる。

 ヒカリはため息をつきながら言う。

「全く,そんなことばっか言ってると碇君が他の女の子になびいちゃうわ
よ。」


 この場合シンジ本人の意向は無視。
 本人の言い分も無視だ。
 アスカは即答する。

「でも,相手がいなきゃねぇ。」


 やはりシンジは救われない。

 と,本人のみならずヒカリもそう思う。

「で,でもそんなの分からないわよ。最近綾波さんとか,けっこう碇君に
なついているみたいだし。」


 ヒカリも「なついている」という言い方はないだろう。

 綾波レイ。

 人付き合いが良くないと言うより,人付き合いをしないと言う不思議な
少女だ。
 水色の髪と赤い目を持っていて,容姿も美女の部類に十分にはいるが,
その性格故かあまり人気は高くない。
 もっとも,隠れファンは多い。

 席はシンジの隣で,最近シンジと言い感じであると目される人物である。

 偶然手が触れ合ったとき,シンジのみならずレイまで赤くなったとか,
 二人きりの時にはレイが微笑むとか,
 真偽のほどは定かではないがとにかくうわさは絶えない。

 これをあおった者は言うまでもない。


 ちなみにレイは今日欠席している。

「あの女にそんなことできるわけないじゃん。」


 と言うのアスカの意見。

「でも碇君なんか寂しそうよ。
 綾波さんがいないからかしらね。
 いいの?碇君とられちゃっても?」


 とヒカリがたたみかけたがこれは逆効果だったようだ。


「ちょっと,とられるって何よ!まるでアタシがシンジと・・・・・」


 アスカの怒りの抗議は途中で消え去った。

 いくら騒がしい教室でもこれだけの大声を出せば,当然,人の注目は声
の持ち主に向けられる。

 クラスの人数×2個の目で見つめられているアスカは動きがとれない。

 近い所ではヒカリが「ごめん,アスカ」と心の中で謝り,遠い所ではト
ウジとケンスケが薄ら笑いを浮かべ,シンジが「はぁ〜」とひときわ深い
ため息をつく。


 このように,おおむねいつものように昼休みの時間が流れていく予定だ
ったのだが・・・・。


「連絡します。
 2−Aの相田ケンスケ君
 碇シンジ君
 鈴原トウジ君
 惣流アスカさん
 洞木ヒカリさん
 以上の五人は至急,校長室まで来てください。
 繰り返します・・・・・・・。」

 抑揚のない声が聞こえ終わると,呼ばれた本人達が騒ぎ出す。

 シンジとケンスケが残りの一人に声を向ける。


「トウジ,何やったんだ?」

「なんもやっとらんわ!」


 今も昔も,似たような会話である。



 所変わってここは校長室。
 ミサトと人の良さそうな校長が座っている。


「やれやれ,まさかシンちゃん達だとは思わなかったわ。」

 ミサトのつぶやきに校長は微笑を浮かべるだけだ。


「でも子供達が参加する計画って何なんでしょう?  校長,何か聞いてます?」

 なれなれしい言葉遣いだが,校長は気分を害された様子もなく答える。


「さぁ,何も聞いてはいませんが,上の決定には逆らえませんしね。」

 ゼーレが直接運営しているこの学校では,どんなことでもゼーレ上層部
の決定には逆らえない。


 コンコン

「失礼します。」

 こういうとき先頭で入ってくるのはヒカリである。
 理由は言わずとも分かるだろう。

 これに答えるのはミサトである。

「おっ,来たわね。」


 当然シンジとアスカに見つかるわけで,

「ミサト!?」
「ミサトさん!?」

 そして見事にハモった。

「あら,二人とも学校だとずいぶん仲がよろしいようねぇ。」

 ミサトが意地の悪い笑いを浮かべて,からかいモードにはいる。
 こうなってしまうと後はミサトのなすがままである。

「何言ってんのよ!」
「何言ってるんですか!」

 もはやフォローのしようがない,もともと誰もしないが。

 その場にいた全員が笑いをこらえるか,うつむいて黙るか,大笑いする
中でヒカリだけはかろうじて自分たちが呼ばれていたことを思い出した。


「ところでなんで私たちが呼ばれたんですか?」

 ミサトを始めとした大笑い組はようやく止まった。
 今日は笑うために学校に来たと言えるくらい思いっきり笑った後だったが。


「ああ,それはね,何かお手伝いさせられるみたいよ。」

 立ち直ったシンジが聞き返す。


「何の手伝いです?」

「さぁ,私も知らされてないのよ。  ただあなた達を連れて来いって言われただけ。」

 ミサトがやや投げやりに言う。

「誰が言ったの?」

 同じく立ち直ったアスカが聞く。

 ミサトは少しためらった。
 シンジとその父親の関係を全く知らないわけではなかったからだ。


「ゼーレ極東支部司令のよ。」

 結局ミサトはそう言うにとどめる。

「父さんの・・・・」

 シンジだけがそう小さく呟いて少し表情がかげったが,他の者は,

「なんでそんな人が?」

 と,当然の疑問を口にしていた。


「ま,とにかくみんな行きましょう。」

 ミサトが場を収めて出発を促す。

「え,でも授業はいいんですか?」

 もっともなことを口にするのは当然ヒカリ。

「いいの,いいのそんなもん。はやく行こっ。」

 楽しくてしょうがないといった様子のアスカ。
 まぁ,確かに学校の授業はつまらないし,この学校はゼーレ所属なので
問題はない。

「そや,はよ行きましょ,ミサトさん。」

 トウジ,ケンスケにとっては授業をさぼれる上に,ミサトと同行できる
とあっては逃す手はない。


 てな具合に,一部にはすでにお祭り気分が漂っている。



 これが,当人達が考えている以上に危険な時間の始まりだったのだが,
その全てを知っているのはごく一部の大人達だけであった。




 もう一つ付け足すと,


 校長室を出たすぐ後のこと。

「あ,ちょっちまってねん。運転手を追加するから。」

 と言ってミサトが携帯を取り出す。

「あっ,加持?実はさ・・・・・・・」


 と,これが加持がその望みを叶えられなかった理由である





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ver.-1.00 1998+02/13 公開
感想・質問・誤字情報などは こちら まで!
初めまして。

一応めぞんに入居させていただいたわけですが,
分からないことは多いし,
文章能力のないことが分かったり,
と,いきなりつまづいてしまいました。

しかし,この小説の原動力が“自己満足”であるので
書くのはやめないつもりです。
大家さんにもご迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願いします。

一応この物語のコンセプトは
「エヴァ×ナデシコ」
と言うつもりだったのですがこの先どうなるか分かりません。
ナデシコを知らない,と言う方にも楽しめるようなものにしたいとは思っ
ていますが・・・・。

あと,もしこれを読んでくれている人がいたらお詫びしておきます。
テストが結構やばいんで更新は難しいから・・・・。

では,みなさんよろしくお願いしま〜す。(^^)



 ゆうさんの『機動戦艦ネルフ』第二話、公開です。



 100年たとうが、
 200年たとうが。

 シンジは下僕っているのね (;;)


 朝早くから
  朝食作りに
  お弁当作り。
  起こしに行って、
  ビンタを喰らう・・・・

 うう、健気や・・(笑)


 一方のアスカちゃん−−

 ちょーっとは、シンジくんを意識しているのかな(^^)


 ただの下僕ではないのは、この世界でも同じですね(^^)/



 さあ、訪問者の皆さん。
 TESTに頑張るゆうさんを感想メールで元気づけましょう!


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