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 それはいつも通りの平和な午後だった。
 そのはずだった。

 まさか、あんな惨劇がおころうとは、誰も予想できなかった。





『寝言』






「私の授業で居眠りたァ、いい度胸じゃない」
 本当にそうだ。
 睡眠中の当人達以外の全員がそう思う。
 第壱中学二年A組。午後一の授業は、このクラスの担任でもある葛城ミサトの英語だった。
 学校の教師の中でもいろんな意味で人気No1で、同時に最も恐れられているこの女教師の授業で居眠りをする生徒など全校でも一人しかいない。
 その貴重な一人がミサトの目の前で爆睡している。
 栗色の髪と蒼い瞳を持つクォーターの少女、名を惣流アスカ。
 彼女の居眠りはいつものことだ。
 だが今日は、その隣の席にいる、惣流アスカの幼馴染でもある碇シンジまでもが眠りこけていた。
 アスカはともかく、シンジまで居眠りとは、ちょっと珍しい。
「夫婦揃ってご就寝とは、いつもながら仲のええこっちゃ」
「昨日の夜、二人で変なことでもしてたんじゃないのか?」
 クラスメイトの鈴原トウジと相田ケンスケのセリフに教室のあちこちから失笑があがる。もっともその言葉にムッとしている者も何人かいたが。
「仲のいいのは結構だけど、やっぱりここは優しく起こしてあげなきゃね、フフフ……」
 ミサトが妖しく笑う。
 ……怖い。
 生徒達は本気でアスカとシンジの二人に同情した。
 その時……

「アスカぁ」

 シンジの寝言が教室中に響き渡った。
 ピタッ。
 ミサトの動きが止まる。生徒達からは苦笑が漏れる。

「なぁにぃ、シンジぃ〜」

 アスカの声が聞こえた。
 今度は教室中の動きが止まった。
 ……起きてるのか?
 アスカの様子を伺う。
 だが、起きているようには見えない。
「なんや……、寝言で会話しとるんか、こいつら」
「夢までシンクロしてるとは……イヤ〜ンな感じ」
 そのセリフを聞いて、山岸マユミがアスカとシンジに不安そうな瞳を向ける。
 が、シンジの次の寝言で教師中の雰囲気は一気に変わった。

「アスカぁ……大好き」

 ガタン!
 突然椅子を蹴って立ち上がったのは霧島マナだった。顔が青い。

「フフフ、シンジぃ……アタシもぉ」

 ベキッ!
 綾波レイの席のほうからシャーペンでもへし折ったような音が聞こえた。
 既に、ミサトもトウジもケンスケも二人の寝言を妨げようとは思っていなかった。ミサトなどは、二人のほうに身を乗り出し、一言も聞き漏らすまいと耳を側立てていた。
 教室中の人間がアスカとシンジの周りに集まっていた。
 固唾を呑んで二人の次の言葉を待つ。いつもなら止める、クラス委員の洞木ヒカリも例外ではない。

「シンジぃ、キスぅ〜」

 普段のアスカからは想像も出来ないような甘ったるい声。
 何人かのアスカのファンの男子が石化した。
 山岸マユミは目に涙を溜めていた。
 霧島マナは虚ろに視線を宙に彷徨わせている。
 綾波レイは机の上で顔を俯かせており表情が見えない。

「もぉ、しょうがないなぁ、アスカはぁ」

 葛城ミサト教諭は集音マイクとポータブルMDで録音体制に入っている。普段では決して見られぬ緊張した表情だ。彼女の30……もとい、29年の人生でこれほど真剣な表情を見せた事があっただろうか?
 洞木ヒカリが何か口の中でブツブツ云っているが誰も聞いていない。多分「不潔よ」とでも云っているのだろう。

「やん、シンジぃ、そんなトコぉ」

 ドガシャ!
 綾波レイのヘッドバットが机を真っ二つに割った。
 いつも明るく表情豊かな彼女の顔からは一切の表情が消えていた。
 ……怖い。

「へへへ、なんだよぉ……、アスカだって好きなくせにぃ……」

 ガタン!
 山岸マユミが泣きながら教室を飛び出した。
 だがそれに注意を払うものはいない。皆自分の事で精一杯だった。
 いったい、彼女に何が起こったのか?

「だってぇ、シンジのコレぇ、大好きぃ……ムニャ」

 また何人かの生徒が石になった。今回は女子も混じっている。
 霧島マナの顔は青を通り越して真っ白だ。倒れないのが不思議なくらいだ。

「あ、……アスカぁ……いい……」

 夢の中が覗けたら……
 それは、その場にいた全員の思いであった。
 いったい、この二人はどんな夢を見ているのか!?

「アン……シンジもぉ…凄ぉい」

 鈴原トウジが鼻血を吹き出し倒れた。
 男子生徒は全員前屈みになっている。
 女子生徒達も顔を真っ赤にして、だが息を呑んで聞きいっている。
 いったい、彼らは何を想像しているのか!?

「アスカ……いくよ……」

 ドグワシャア!
 綾波レイのローリング・ソバットがロッカーを粉砕した。
 霧島マナは立ち尽くし、虚空を見つめたまま、ガクガク躰を震わせている。

「来て……ウンッ……あん……」

 相田ケンスケが突然教室を飛び出した。
 行き先はトイレ、しかも個室であろう。そこで何をする気なのかは謎だ。
 それに追従するように何人かの生徒が教室を飛び出す。恐らくケンスケと同じ場所に向かったと思われるが、そこで何をする気なのかは、やはり謎だ。

「凄いよ、アスカ……ああ……」

 霧島マナが声にならない叫びをあげたかと思うと突っ伏して泣き出した。
 だがそれに注意を払うものはいない。
 いったい、彼女は何にそんなに絶望しているのだろう?

「あん……シンジも……素敵ぃ……」

 ドッゴォーーーーン!!
 綾波レイのギャラクティカ・マグナムが教室の壁をぶちぬいた。
 開けられた穴の向こうから、隣のクラスの人間が呆然とこちらを見ている。
 綾波レイは血の涙を流していた。
 ……怖い。

「ああ……アスカぁ、アスカぁ」

「ん……シンジぃ、シンジぃ」

 既に教室の中は閑散としていた。
 全身全霊をかけてMD録音を続ける葛城ミサト教諭29歳と真っ赤になり口の中で何かをつぶやきながらも耳を傾け続ける洞木ヒカリ委員長。血の海に沈む鈴原トウジと泣き続ける霧島マナ。血の涙を流しながら破壊活動を続ける綾波レイ。
 それ以外の生徒は石像と化したか、教室を出てしまっていた。
 いったい、この教室に何が起こったのか!?

 き〜んこ〜んか〜んこ〜ん

 終業の鐘が鳴る。
 だが二年A組にいつも響くはずの洞木ヒカリの号令も聞こえてこない。
 そんな中、幸せそうな笑みを浮かべ眠り続ける少年と少女。
 いったい彼らは何故そんなに眠いのか?
 いったい彼らはどんな夢を見ているのか?
 それはやっぱり謎なのだ!

 そして、ヤマもオチもイミも無く、大きな謎を残したまま、終わる!





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ver.-1.00 1998+02/13 公開
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 ザクレロさんの『寝言』、公開です。



 あ、あやしい・・・

 アスカとシンジが、
 二人揃っての居眠り。


 あやしすぎる・・・

 アスカとシンジの
 シンクロした寝言。


 二人、何をしていたんだ〜


 想像通りの事なのか(爆)


 とりあえず・・・

 ミサトのDATテープが欲しい(N2爆)



 さあ、訪問者の皆さん。
 解明無しで切った(^^;ザクレロさんにメールを送りましょう!



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