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『マヤちゃんのお見合い』








 その日、シンクロ試験も終わり、最近は使徒も来ず、NERV発令所は安穏とした空気に包まれていた。
 司令、副司令は出張で不在。ミサトと日向は帰宅してしまい、発令所にはマヤと青葉の二人しかいない。

(マ、マヤちゃんと二人きり……。チャンスだ! ここでマヤちゃんを誘って、一気に親睦を深めるんだ!)
 背後で、カタカタとキーボードを叩いているマヤを伺いながら、青葉は声を掛けるタイミングをはかっていた。
(よし、ここで『疲れたね、マヤちゃん。これから食事でもどう?』と、声を掛けるんだ! それに明日は二人とも休み。あわよくば明日の約束も……)
 ちゃっかりマヤの休暇を調べ、同じ日に休暇を入れている青葉。
(よし! 声を掛けるぞ! い、いや、焦るな。落ち着け。どもったりしたら情けないからな。深呼吸……すぅ〜、はぁ〜……よし、なるべく自然に、さりげなく………行くぞ! シゲル!)
「マママ、マヤひゃん……」
「あら、マヤ、まだいたの?」
 上擦った青葉の声を遮り、赤木リツコ博士が発令所に入ってきた。
「あ、せんぱぁい☆」
 途端に嬉しそうな声を上げるマヤ。青葉は完全に無視される形になった。
「もうすぐ終わるんです。それから帰ろうかと思ってた所です」
「そう、じゃあ、一緒に食事でもしましょうか。まだでしょ? マヤ」
「はぁい! お供しまぁす!」
 大喜びで、答えるマヤ。仕事を早く終わすべくキーを叩く手を急がせる。
(そ、そんな……)
 愕然とする青葉。
「そういえば、マヤ、明日は休暇を取ってたわね」
「はい、だから今日中に終わらせたかったんです」
(そ、そうだ、まだ明日があるじゃないか!)
「そう、明日はどこかへ出かけるのかしら?」
「あ、もしかしてデートのお誘いですかぁ?」
(な、何ィ!!??)
「フフ……、残念だけど、私は仕事なの」
(ホ……)
「あ……、そうですね。すいません、私ばかり休んで……」
「いいのよ。それより、明日は何かあるの?」
「あ、ちょっと用事があるんですよ」
(が〜〜ん!!!)
「何の用事? 私に云えない用事かしら?」
「え、あ、そんなことないですけど……えっと、人と会うんです」
「もしかして、男の人?」
「いえ、あ、え〜と、一応、そう……ですけど……」
「なんだ、デートなの、いつの間に恋人なんか見つけたの?」
(こ、恋人ぉ! そ、そんな、マヤちゃん!)
「ち、違いますよぉ! ただ、伯父さんがどうしてもって……」
 真っ赤になって否定するマヤ。
「伯父さん?」
「え? あ……」
「マヤ、もしかして……」
「は、はぁ……」
「お見合い?」
「ど、どうして解ったんですかぁ!?」
(何ィ!!!)
 異常なまでに鋭いリツコ。此処までの会話で、どうすれば『お見合い』と云う答えが導き出せるのか青葉にはさっぱり解らない。女性は謎だ。もっとも、それよりも重要なのは『お見合い』と云う指摘が当たっているらしいと云うことだ。
(そんな……マヤちゃん、俺と云う者がいながら……)
「あら、本当なの?」
「え、えっと、なんか、私の知らない内に話が進んでて……私が聞いたときには断れなかったんですよぉ」
「あらあら。でも、結婚する訳じゃないんでしょ?」
(当然だっ!!!)
「当たり前ですよぉ! 会うだけです!」
(そうだよね、マヤちゃん。君は俺を裏切らないよね)
「フフフ、休み明けには、明日の成果をじっくり聞かなきゃね」
「う〜〜、恥ずかしいから、誰にも云わないでくださいよぉ」
(大丈夫、誰にも言わないよ、マヤちゃん!)
「ね、どんな人なの? ハンサム?」
「あ、よくわかんないんですよ。写真も見てないし……どうせ断るつもりだし……」
「そうなの? でも、会ってみたら気に入っちゃって、いきなり結婚ってのもあるんじゃない?」
(ない、断じてない!)
「そんな事ないです。だって私……」
 手を休め、俯いてしまうマヤ。
「……もしかして、好きな人でもいるの? マヤ」
 ボン!
 そんな音が聞こえて来そうな勢いで真っ赤になるマヤ。
「あらら、好きな人がいるのね。そりゃあ、駄目ねぇ」
(マ、マヤちゃんの好きな人? ま、まさか……)
「ね、誰? マヤの好きな人って? 私の知ってる人?」
「そ、そんな……、そんなこと恥ずかしくて言えません……」
「いいじゃない、私たちしか居ないんだし、誰にも言わないから、私にだけこっそり教えなさいよ」
(………?)
 青葉はリツコの言い方にちょっと違和感を感じた。
「で、でも……」
「大丈夫、私を信じなさい。二人だけの秘密よ。場合によっては協力してあげてもいいわ」
(……なんか変だぞ?)
 ちなみに青葉は二人から5メートルも離れていないし、別に姿が見えなくなるような所に居るわけでもない。
「でも……やっぱり……ちょっと……」
(だ、だが、そんな事より……)
 そんな事よりも、二人の会話の方が気になる。
「ん〜〜、じゃ、ちょっとだけ教えてくれる? 私の知ってる人?」
 真っ赤なままで、こっくりと頷くマヤ。
「そうなの? う〜ん、NERVの人かしら?」
 また頷くマヤ。
(や、やはりそうか! 俺の事か!)
「……ね、その人に告白したの?」
 今度はぷるぷると首を振るマヤ。
「……駄目ね、ちゃんと自分の気持ちを伝えなきゃ。もたもたしてると後悔する事になるかも知れないわよ」
(そうだ、マヤちゃん! 俺はいつでもOKだぜ!!!)
「で、でも……その人、他に好きな人が居るんです……」
(? 何云ってんだ、マヤちゃん。俺が好きなのは君だけさ!!)
「あら、それはつらいわね……」
「はぁ……その……相手の方もその人の事が好きみたいで……」
「両想いなのね………それで、あきらめちゃっうの?」
「いいんです……、あの人が笑ってくれてるだけで嬉しいんです、私……」
 薄く微笑むマヤ。
 健気である。
(……そんな顔しないでくれ……マヤちゃん、君は何か勘違いをしてるんだ! 俺はマヤちゃんしか見ていない!)
「あらら、ごめんなさい。落ち込ませるつもりは無かったんだけど……」
「あ、いえ……そんな……」
 苦笑するリツコ。
 こんなマヤを見ていると、何とかしてやりたいとも思う。
 だが、こればかりは如何ともしがたい。
 リツコとMAGIの力なら、恋人の仲を裂くぐらい造作もないが、そんなことをしても、この娘は喜ばないだろう。
「フフ、もういいでしょ? さ、食事に行きましょ。奢ってあげるから元気をだしなさい」
「え? いいんですか?」
「でも、あんまり高い物はだめよ」
「ありがとうございまぁす!」
 急いでキーボードに指を走らせ、終了処理を行い、端末の電源を落とす。
 それを見ながら、リツコにふとした疑問が浮かぶ。
「さ、いきましょ、先輩」
「…………ところで、マヤ?」
「はい?」
「あなたの好きな人って……男の人……よね?」
「はぁ?」
 マヤの間の抜けた声。
「当たり前じゃないですか? 何をいってるんですかぁ?」
 何故かちょっと残念なリツコであった。

 マヤとリツコが、きゃいきゃい云いながら出ていった2分後、青葉シゲルがのっそりと発令所の自分の椅子から立ち上がった。
「見合い、見合い、見合い……、俺を差し置いて、マヤちゃんとお見合いをするたァ、何てふてえ野郎だ……」
 別に青葉に断る必要も義務もないと思うが『青葉の理論』では、あるらしい。
「邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる。邪魔してやる」
 暗い怨念に取り憑かれる青葉。
 口の中でブツブツ呟きながら発令所を立ち去ろうと、2分30秒前にマヤとリツコが出ていったばかりの扉を開ける。
 ……いや、開かない。鍵が掛かっていた。
 別に、内側からはすぐに鍵を外せるし、青葉自身も鍵を持っていたので困ることはない。だが、これは青葉の暗い情念に、さらに火を付けたようだ。
「ムゥ! 俺をマヤちゃんの許に行かせないための陰謀かぁ! フン、こんな事で俺がまいると本気で思っているのか? ククク、こんな事で俺とマヤちゃんを引き裂くことは出来ないぜ。明日は俺達の間に貴様なんかが入り込む余地が無いことを思い知らせてやる!」
 青葉の頭の中では、鍵を閉めたのは、マヤの見合い相手と云う事になったらしい。





 ほんでもって次の日。
 青葉シゲルは前日の夜から、マヤのマンションがよく見えるこの路地裏に張り込んでいた。
 マヤのお見合いの場所と時間を知らなかった為である。その為に、マヤのマンションから尾いていく必要があったのだが、出発の時間も知らない為、入れ違いにならないように詰めていたのである。
 一応、本人は変装しているつもりなのだろう。青葉は南海ホークスの野球帽に月光仮面が付けてるような白縁の巨大なサングラスを付け、背中にブルース・リーの顔写真のプリントが入った真っ黒なスタジャンを羽織っていた。
 無茶苦茶あやしい。
 実際、一度、警官に職務質問を受けたが、NERVのIDカードを見せて黙らせた。
 もっとも、青葉は、その警官を、マヤの見合い相手が差し向けたと思っているようだが。
(フ……、何者かは知らないが、さすがにNERVに手はだせないようだな。そう、俺とマヤちゃんはNERVと云う強い絆で結ばれてるんだ! お前なんかの割り込む余地はないのさ。フハハハハハハハハハハ)

 そして、時計が午前10時を回った頃、青葉が張り込みを始めてから14時間。マヤのマンションの前に一台のタクシーが止まった。
 タクシーから降りたのは、こざっぱりしたスーツを着た、小柄な年輩の男だった。
(あれはマヤちゃんのおじさん……マヤちゃんを迎えに来たんだな)
 既にマヤの家族構成は勿論、5親等以内の親類は全て調査済みだ。
(つまり、あの男が俺とマヤちゃんの仲を引き裂こうとしているわけだな。いずれ、天誅を喰らわさねば……)
 男がタクシーを待たせたままマンションに入り、5分ぐらいしたところでマヤと連れだってマンションから出てくる。
(ああ、マヤちゃん……綺麗だ……あんなに着飾って……)
 しかし、マヤが着飾っているのは別に青葉のためではない。
 そう思うと、マヤの見合い相手に対する恨みと妬みが加速する。
(むぅ、名前も知らねえが地上最悪の不届き者めぇ……この恨み晴らさでおくべきか……)

 そうこう思っている内にマヤとマヤの伯父がタクシーに乗り込んでしまう。
(ハッ、マヤちゃんが行ってしまう! 追わねば!)
 出発するタクシー、それを追う青葉。生身で。
(な、なんだ? どんどん引き離されるぞ。畜生、こっちは全力で走っているのに! くぅ、負けるなシゲル! お前のマヤちゃんへの愛はこんな者だったのか!?)
 とは云え、自動車と人間の脚の速度差が愛なんかで埋まるはずがない。タクシーはあっという間に見えなくなってしまった。
(そ、そんな……マヤちゃん……)
 息が上がり、ばったりと道路に倒れ込む青葉。
 彼は再び立ち上がる事が出来るのか!?





 綾波レイが道を歩く。
 相も変わらず第壱中の制服姿だ。
 彼女だって生きて生活している。休日に散歩ぐらいするだろう。
 今日は学校も休み、NERVの方も何もない。
 つまり、綾波レイは暇を持て余していた。
 いつもは、部屋で碇司令の眼鏡を破壊したり、弐号機パイロットの顔写真に落書きをしたりして遊ぶのだが、今は、碇司令の眼鏡は全て破壊しつくされ粉塵と化し、弐号機パイロットの顔写真は油性マジックで全て真っ黒になってしまっている。
「暇、閑、ひま、ヒマ、……そう、これが退屈というモノなの……」
 ぶつぶつ呟きながら道を歩くレイ。
 けっこう怪しい。
 取りあえず、眼鏡にそばかすのクラスメート(名前は知らない)を捜し出し、弐号機パイロットの写真を譲って貰うか、それとも、碇司令を捜しだし、眼鏡を強奪するか……
(碇司令は出張中……それでは、眼鏡にそばかすの人を捜すか……?)
 そんな事を考えながらトテトテ脚を進めていると……

 ポテ。
 こけた。
 顔面から。
 何かに躓いたのだ。

「……痛い」
 むくりと顔を上げる。
 ポタ、ポタ。
 何かが顔から地面に滴り落ちている。
「何? これは涙? 私、泣いているの? 私……哀しいの? ……でも、赤い。何故……?」
 鼻血だった。

 取りあえず、スカートのポケットに入っていたちり紙を丸めて両方の鼻の穴に詰める。
 そして、自分が躓いた物体に目を向ける。
 人らしき物体が倒れている。
「人? 道端で寝ている人。ホームレスの人? それとも死体? どちらにせよ迷惑」
 よくみると、こめかみに青筋が浮いている。実は怒っているらしい。よっぽど痛かったのだろう。
 立ち上がり、埃を払うと、自分を転ばせた行き倒れの横に立つ。
 そして……
 蹴った。
 げしっ。
「ぐえっ」
「……生存を確認」
「いてて……、な、なんだ? 俺、倒れてたのか……」
 レイに蹴られた背中をさすりながら起きあがる男は無論、NERVオペレーター三傑衆(命名青葉シゲル。但し他二名には未公認)の1人、青葉シゲルである。レイに蹴られた事は気付いてないらしい。
「何があったんだっけ…………って、わぁ! 綾ややや波レイ!!」
 ようやくレイに気付く青葉。
 いつもと同じ無表情な顔だが、両方の鼻の穴に詰め物をしている。不気味さとおかしさが奇妙に同居しており、青葉は引きつった笑みを浮かべるしかなかった。
 一方レイは見知らぬロンゲのホームレスが自分の名前を呼んだことを訝っていた。
「……あなた誰?」
「へ? ……お、俺だよ、青葉シゲル。NERVのオペレーターの」
 変装(?)のせいかとも思い、一応サングラスと帽子を取ってみる。
 それを聞き、レイは記憶を探る。何人かのNERVオペレーターの顔が浮かぶ。だが、その中に目の前にいる男の顔はない。
「……知らないわ」
「し、知らないって……、ホラ、日向やマヤ……伊吹二尉と発令所にいつも一緒にいるじゃないか!」
「日向二尉と伊吹二尉の友人なの?」
(あの二人にはホームレスの友人がいるの? それにしても、こんな怪しい人間を発令所に入れていたのだろうか? 司令に報告して、日向二尉と伊吹二尉、そして保安部に厳重注意を与えて貰わねば……)
「いや……だから……あの……ホントに知らないの?」
 コクンと頷くレイ。
 それを見て、青葉ほ疲れたように、内ポケットから、NERVのIDカードを取り出した。
 それをまじまじと見つめるレイ。そこには珍しく驚愕の表情が浮かんでいる。
 青葉が取り出したカードをチェックする。本物だ。間違いない。
(NERV職員……! 二尉? このロンゲのホームレスが!? 何て事! こんな怪しい人物がNERV職員として本部に出入りしているなんて……人事部は何を見ているの?)
 ……綾波レイや碇ゲンドウと較べれば、そんなに怪しくもないと思うが。

「……NERVの職員のあなたが、何故こんな所で寝ているの?」
「え……、俺? えっと……」
 そう云われて、やっと青葉は自分が何をしていたかを思い出した。
「そ、そうだ! マヤちゃん!!」
「?」
「マ、マヤちゃんを追いかけなきゃ……ああああっ!! 何処に行ったかわかんねぇ!!!」
「……何を云っているの?」
「マ、マヤちゃんがお見合いをしていて……って、云っても仕方ないか……」
「……お見合いって何?」
「何って……ええと……未婚の男と女が料亭みたいな所で仲人さんに紹介されて……わあ! こんな場合じゃないい!! マヤちゃぁん!!!」
「……マヤちゃん?」
「あ……伊吹二尉の事だよ」
「伊吹二尉を捜しているの?」
「あ、ああ。何処にいるか知っているのかい?」
 藁にも縋る思いだった。
「知らないわ。でも捜すことは出来る」
「ほ、本当か!! さ、捜してくれ!! 今すぐ!!!」
「……それは命令なの? でも私はあなたの命令は受けないわ」
 別にレイは青葉に意地悪をしている訳ではない。青葉は別にレイの上司ではないのだから、レイとしては当然の事を云っているのだ。
「め、命令って……そうじゃなくて……、そ、そうだ、レイちゃん、ラーメン好きだっけ? マヤちゃん捜してくれたら奢ってあげるから」
 レイの目が光った。
「ニンニクラーメン、チャーシュー抜き?」
「う、うん、いいよ」
「大盛り?」
「お、OK」
「餃子も付けてくれる?」
「よ、よし」
「……お代わりは?」
「あああ、何でも何杯でも頼んでいいから、早く捜してくれぇ!!」
「……解ったわ」
 商談成立。

 綾波レイはスカートのポケットから、大量のビニール袋を取り出した。一つ一つに何か布製と思しきモノが入っている。よく見れば、袋の一つ一つに名札が付いていた。
「伊吹二尉……伊吹二尉……これね」
「……レイちゃん、それは……何?」
「『匂い』よ」
「……は?」
 そして、レイは両鼻に詰めていたちり紙を抜いた。
 赤く染まったちり紙から鼻水がびろんと伸びる。
 綾波レイの白く細い指先から、繊細な女神の如き顔の中心へと伸びる水の橋。
 陽光を受けて不思議な輝きを放っている。
 さわさわ。
 そよ風が水の吊り橋を揺らす。
 それは何と幻想的な光景だったろう。
 うっすらと微笑む綾波レイ。
 ……楽しいらしい。
 青葉は引きつった笑みを浮かべるしかなかった。

 ぷち。
 楽しい時間にも終わりは来る。
 水の吊り橋は切れ、伸びた鼻水が綾波レイの白い腕に張り付いた。
 ものすごく残念そうだ。
 レイはそれをちり紙で拭き取り道端に捨てると、鼻を2、3度かみ、完全に鼻血が止まった事を確認する。
(血の匂いがする………今の私に出来るだろうか? だが、やらねば。ニンンクラーメンチャーシュー抜き食い放題の為ならば……)
 そして、ビニール袋の中から何かを取り出して、顔の前で広げる。
 それを見て青葉シゲルは驚倒した。
「そ、それは!!!???」
 綾波レイが取り出したのは女性用の下着、いわゆるひとつの『ぱんてぃ』であった。クマさんがプリントされてあって、ちょっと可愛い。
「伊吹二尉の下着(使用済未洗濯)よ」
 事もなげに言い放つと、レイはそれを鼻にあて、匂いを嗅ぎ始めた。
 よく見れば、ビニール袋の中身は全て下着の様だ。女性用男性用様々だ。褌まである。
(こ、この娘……他人の下着(使用済未洗濯)をいつも持ち歩いているのか!? それにしても、いったいどうやって集めたんだ?)
 日中、往来のド真ん中で、女性用下着の匂いをクンクン云いながら嗅いでいる制服姿の女子中学生の姿に、青葉は言い知れない恐怖を感じた。

 ひとしきり匂いを嗅ぐと、レイはそれを袋の中にしまいなおし、袋の束をポケットに入れると、今度は地面に這い蹲った。
 クンクン。
 異様な光景だ。
 しばらくすると、何かを見つけたらしい。
 一方向を睨み付けると、そちらに向かい、這い蹲ったまま、シャカシャカと動き出した。
「こっちよ」
「あ、ああ……」
 大地を這い進む綾波レイに、青葉は恐る恐る尾いていった。





「あれ? あれ、綾波じゃないかな?」
「え?」
 惣流アスカ・ラングレーは、連れの少年、碇シンジの言葉に不機嫌そうに、少年の指す方に顔を向けた。
 女の子と二人きりで歩いていると云うのに、何で他の女の話をするのだ、このバカは?
 アスカの瞳はそう雄弁に語っていたが、少年の云う少女を見つけた途端、瞳の色合いが変わった。
「……何やってんのよ、あの娘は?」
「さあ……」
 道路の反対側の歩道に件の少女、綾波レイはいた。
 這い蹲って、鼻を地面に擦るようにしながら、それでも這っているとは思えないようなスピードで移動している。
 異様な光景だ。
 周りの人間は、瞬間ギョッとするようだが、次の瞬間には、見なかった事にして通り過ぎていく。
「ちょっと……変、だよね」
「……あれが『ちょっと』?」
「かなり……変……かな?」
(父さん……綾波にどんな教育をしたんだよ……)
 シンジは自分が碇ゲンドウに育てられなかった事に心の底から安堵した。
「……声……掛けないの?」
 声なんか掛けたら殺すわよ!
 口調と表情がそう云っている。
「いや……きょ、今日はやめとこうよ。なんか忙しいみたいだし……」
 別にアスカに気を使った訳ではないが、さすがのシンジも、今のレイに声を掛けるのは気が引けるらしい。もっとも、第3新東京市最強最悪の爆弾娘が隣にいるのだから、至極賢明な判断ではあったが。
「それに……誰かと一緒みたいだよ?」
「え?」
 なるほど、よく見れば、レイの後ろを男が1人小走りについて行く。
「へぇ〜、ファーストが男連れなんてねぇ〜。恋人かしら?」
 意地の悪い笑みを浮かべシンジを伺う。
「……知らないよ。恋人が居たなんて聞いたことなかったけど……」
 幾分、落ち込んだように語るシンジ。
「フン! でも、何、あの男? あんな格好して恥ずかしくないのかしら? それに今時ロンゲ? ダッサ〜い。ファーストも、つっくづく趣味が悪いわねぇ」
「はは……、でも……あれ? あの人、どっかで見たことあるような気がするんだけど……」
「はぁ? 何よアンタ、あんな変態が知り合いに居るの?」
「変態って……、でも、誰だったかな? アスカ知らない?」
「知らないわよぉ! あんなの見たこともないわ!」
「そう……? う〜ん…… あ、あれ! 何て云ったかな? え〜と……、あお、あお……、そうだ、青田さんだよ!」
「何よ、やっぱりアンタの知り合いなの?」
「何云ってんだよ、アスカ。NERVのオペレーターの青田さんじゃないか。……もしかして綾波、NERVの任務でも受けてるのかな?」
「オぺレーター? アオタ? 居たっけ、そんなの?」
「ほら、発令所に日向さんやマヤさんと一緒にいるじゃない?」
 そう云われ、顎に手をあてて考え込むアスカ。
「……憶えてないわ。確かに日向とマヤの他にもう一人いたような気もするけど……あんな男だったっけ?」
「非道いなあ、アスカも。オペレーターの人たちの顔と名前ぐらい憶えてなくっちゃ」
「む? ウルサイわね! アンタだって、最初は忘れてたくせに!」
「で、でも、ちゃんと思い出したじゃないか……アスカとは違うよ」
「何ですってぇ! そんな事云うのはこの口!? この口!? この口!?」
「い、痛い! 痛いよ、アスカ!」
 二人がじゃれあっている内に、綾波レイと青葉シゲルは二人に気付く事もなく去って行ってしまっていた。
 ちなみに、シンジは自分が青葉の名前を間違って憶えている事に死ぬまで気付かなかったらしい。





 第3新東京市の中心部に近い、だが繁華街からは幾分離れている一角に、そのホテルはあった。
 第3新東京グランドホテルと云う非常に安易な名前を持ち。本来のホテル業は勿論、パーティ会場や結婚式場としても利用されるそのホテルは、第3新東京市でも最高級のランクに位置づけられる事で知られている。
 今日は休日と云う事もあり、かなりの数の結婚式が予定されている。
 ロビー横に立てかけられている、今日行われる結婚式の案内板を見て、NERVオペレーター三傑衆(命名青葉シゲル。但し他二名には未公認)の1人、伊吹マヤは目を丸くして、横にいる伯父に話しかける。
「すっごーい、伯父さん。結婚式がこんなにあるよ」
「休日だし、シーズンだからな。マヤも結婚式はここにするか?」
「な〜に云ってんの、まだ早いわよぉ」
「おいおい、今日何をしに此処へ来たか忘れたのか?」
「あ……お見合いだっけ?」
 てへ。
 舌を出すマヤ。
 ちょっと可愛い。
「でも伯父さん。この前も云ったけど、私まだ、結婚なんて出来ないわよ。仕事だってあるし……」
「まあ……それは解ったから……取りあえず、俺の顔を立てて会うだけ会ってくれよ」
「会うだけだからね。全く……」

 最上階にあるレストランがお見合い場所だった。
 最上階と云っても、屋上に建物があるような造りになっており、周りが庭園場に整備されている。なかなかに趣があって、品も良いが、客にもそれなりの品が要求されるような場所である。
 中も落ち着いた造りだ。一つ一つのテーブルが離れて設置されており、重要な歓談や、今回のようなお見合い等にも使える様に配慮されているようだ。
 そこの従業員に案内され、マヤ達二人は予約された席へと向かう。どうやら、既に先方は到着済みらしい。年輩の女性と、若い男が席に付いている。
 先方もこちらに気付いたらしく、席を立ち、出迎える。
「やあ、どうも」
「今日はお忙しいところ……」
「いやいや、こちらこそ……」
 なにやら挨拶を始める伯父の横でマヤは初めて、今日の見合い相手の顔を見た。
 オールバックの髪型。ちょっと気取ってるかしら?
 黒縁の眼鏡。ちょっとダサいかな? でも、その奥の瞳はやさしそう。
「……って、日向さん?」
「あれ、見合い相手って……マヤちゃん?」
 そこに居たのはNERVオペレーター三傑衆(命名青葉シゲル。但し他二名には未公認)の1人、日向マコトだった。





「ここよ」
「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ、こ……ハァーッ、ここ…? ハァーッ、ハァーッ」
 綾波レイは突然止まったかと思うと、立ち上がり後ろの青葉シゲルに、そう告げた。
 レイは、あれだけの激しい運動(?)をしたと云うのに汗一つかいていない。一方、青葉の方は息も絶え絶えで全身水浴びでもしたように汗まみれだ。ブルース・リーのスタジャンは脱いで脇に抱えている。ちなみに青葉は、スタジャンの下に、写楽の石川五右衛門がプリントされたTシャツを着ていた。
 青葉が目を上げると、そこには巨大なビルが立ちはだかっている。
「ハァーッ、第3、ハァーッ、新……東京、ハァーッ、グランド、ハァーッ、ハァーッ、………ホテルぅ!!!???」
 目を剥く青葉。
「な、なんだあ!! ホテルってなんだあ!!!???」
「ホテル……寝る場所を持たぬ人が一夜の安息を求めて集まる所……」
「じゃなくてえ!! なんで、マヤちゃんがこんな所にいるんだよ!!??」
「伊吹二尉……? ホテルは泊まる所。伊吹二尉は此処に宿泊するつもりと考えるのが妥当」
「やっぱりそうかあ!! 誰と、いったい誰と泊まるつもりなんだあ!!! まさか、今日の見合い相手とか!!?? そんなぁ、マヤちゃあ〜ん!!!!」
 大ホテルの前で雄叫びを上げるロンゲの青年。それを蒼い髪の女子中学生が赤い瞳で冷ややかに見つめている。
「……入らないの?」
「そうだ!! 入って止めるんだ!!! 俺の愛でマヤちゃんを救わねば!!!」
 大慌てでホテルに突入する青葉。
 ……が、入り口で警備員に止められた。
 警備員達は、這い蹲った綾波がやってくるところから叫ぶ青葉までを目の当たりにしているのだ。はっきり云って、こんな怪しい人間を中に入れる事など出来ない。当然の行動である。
「離せぇ〜!! 俺を中に入れろ〜!!!」
「な、何を云ってる!? 暴れるな!! 警察呼ぶぞ!!!」
 もみ合う警備員と青葉。
 そこにレイが割ってはいる。
「待って……」
「な、なんだい、お嬢ちゃん?」
 さすがに警備員も声が震えている。先程の這い蹲ってシャカシャカ動き回る姿を見ているのだから当然だろう。
 レイはそれに対し、NERVのIDカードを差し出した。
「私達はNERVの人間よ。中に入れなさい」
「ね、NERV? アンタらが?」
 コクンと頷くレイ。
「そ、そうだあ!! 俺達はNERVだあ!!! 中にいれろお!!!!」
 青葉も警備員の手を振り解きIDカードを取り出す。
 警備員の親父は愕然とするしかない。
(こいつらがNERVの人間? 世界を守るNERVの人間? この怪少女とバカが? そ、そんな、世界の運命はこんな連中に握られてるのか!?)
 そう思いつつも、NERVの人間ならば、ああいう事をしても不思議じゃないなとも思う。
 どう思おうが、IDカードを出されては認めざるをえない。はっきり云ってこの街でNERVに逆らっては生きていけない。
 警備員は二人が中へ入っていくのを黙って見ているしかなかった。





「驚いたぁ、お見合いの相手が日向さんだったなんて」
「僕も驚いたよ。もっと詳しく相手のことを聞いておけばよかった」
 伊吹マヤと日向マコトは食事と歓談を終え、二人で屋上の庭園を散歩していた。
「伯父さんたちも、同じNERVでも部署が全然違うから知らないだろうと思ってたみたいね」
 マヤは技術開発部、日向は戦術戦略部作戦課だ。
「でも、良かったわ。実はね、どうやって断ろうかって悩んでたの」
「おや、僕じゃマヤちゃんの旦那さんにはなれない?」
「え? あ、そういう意味じゃなくって……」
「フフ、解ってるよ。実は僕も断り方を悩んでたんだ」
「……あら、私じゃ日向さんの奥さんにはなれないのかしら?」
「ハハハ」
「フフ」
 顔を見合わせ一頻り笑い合った後、マヤは日向に尋ねた。
「ね……、やっぱり葛城さん?」
 それを聞き、一瞬身を固くするのが解る。聞かない方が良かったろうか?
「……解るかな?」
「……なんとなくだけど」
「そう……、まあ、高嶺の花ってのは解ってるんだけどさ……あの人が僕のことなんか見てくれてないってのもね……。でも、やっぱり、えと、あ、愛……してるんだと思う。あの人を。やっぱり」
 少年のように真っ赤になりながらも、そう話す日向を、マヤは眩しそうに見つめていた。
(……自分はあの人を愛していると他人にこんなにはっきり云えるだろうか?)
「でもさ、マヤちゃんも好きな人がいるんだろ?」
「え……、ど、どうして?」
「こっちも、なんとなく……だけど、なんて云うのかな? 僕達と話しているときとは違う口調で話している人が一人いるんだよね、マヤちゃんには。最近、シンクロテストなんかあると、妙にウキウキしてるように見えるし」
「え、えええ! そ、そうなの?」
「うん……、だから、なんとなく……だけどさ」
 既にマヤの顔は真っ赤になっている。
「……好きなの? 彼の事?」
「…………うん」
 消え入りそうな声。
「……変……かな、やっぱり?」
「いや、そんなことないよ。好きになっちゃったら関係ないよ」
「そ、そう?」
「……でもさ、大変なんじゃない、そっちこそ? なんか僕よりも望みが薄いような……」
 云ってから、しまったと思う日向。
 だが、マヤはそんなことは解っているとばかりに微笑んでみせた。
「うん、でもね、やっぱり……好き……だから、ね。私も」
(フフフ、私も云えた。すごく恥ずかしいけど)
 マヤは、なんとなく自分を誇らしく感じていた。
「……お互い苦労しそうだね」
「フフ……そうね」





 青葉シゲルは、ホテルに入るやフロントに向けて突進した。先程の教訓(?)を生かし、いきなりNERVのIDカードを見せつける。
「名簿だぁ! 宿泊名簿をだせぇ!! 伊吹マヤって女の人がいるはずだぁ!!!」
 ホテルの従業員がNERVカードに逆らえるはずもなく、本来部外者には教えられないはずの宿泊名簿を慌てて検索する。
「あ、あの…、伊吹マヤと云う方の宿泊予定はありませんが……」
「な、なんだとぉ!! まさか偽名を使ってるのか!? むぅ、狡猾な奴めえ!!!」
 別にマヤには偽名を使わなければならない事など無い。勝手に妄想を膨らませている青葉。
「……ここで、『お見合い』と云うイベントが行えそうな場所は?」
 横から口を出したのは綾波レイである。いつになく積極的な行動だが、これは、早く伊吹マヤを見つけだし、ラーメンを食べに行きたいと云う要求に起因している。
「あ、それでしたら最上階の……」
「最上階だな!?」
 皆まで聞かずにエレベーターに突進する青葉。が、綾波レイがそれを止める。
「待って……」
「な、何だ!? 早く行かないとマヤちゃんが……」
「一番上に行くならこっちの方が早いわ」
 そう云って、レイは青葉をホテルの外へと引っ張って云った。
 フロントはその二人を呆然と眺めるしかなかった。

「お、おい、どうするんだよ!」
 レイに引っ張られながらホテルの外に出る青葉。
 戻ってきた二人に先程の警備員がギョッとしている。
「飛ぶわ」
「へ? 飛ぶって……」
 そしてレイは、青葉に手首を掴むと、飛んだ。文字通り。
「わ、わ、わぁ〜〜!!!」
「暴れないで。手を離すわよ」
 ぐんぐん上昇するレイ。ATフィールドの応用である。呆然と見上げる警備員。何が起こったのかよく解らない青葉。
 レイと青葉は、あっと云う間に屋上のフェンスを越え、屋上庭園に着地していた。
「な、なんだ……飛んだ? 俺……」
「……居たわ。伊吹二尉よ」
「何!? 何処だ!!??」
 レイの声で途端に勢いを取り戻す青葉。今の出来事は取りあえず棚に置くことにしたらしい。
「あそこよ」
 茂みの影から庭園の歩道の方を指すレイ。青葉も同じように、茂みの影に入り、レイの指差す先を見る。
「居たぁ!! マヤちゃん!!! くっそお、隣の奴が見合い相手だなぁ…………って、ありゃあ、日向ぁ!!!!」





「ATフィールド発生!!!」
 発令所に緊張した声が響く。
「使徒!? 何処に!? 今まで気付かなかったの!?」
 発令所でのんびりとコーヒーを飲んでいた葛城ミサトと赤木リツコの顔が一斉に強張る。
「第3新東京市内です! ……あ、反応……消えました」
「消えた? とにかく確認急いで」
 指示を飛ばすミサト。
「……どう思う、リツコ?」
「さあ……、センサーの誤報ならいいんだけど……、新しいタイプの使徒という事も充分考えられるわ。それに、出現場所が問題ね」
「第3新東京市のド真ん中か……繁華街も目と鼻の先ね」
「本当に使徒だとしたら、被害は計り知れないわ。特に休日で人も多い。……どうするの、ミサト? 司令と副司令がいない以上、あなたが最高責任者よ」
 ミサトは黙って爪を噛んだ。





「それにしても、マヤちゃんも命賭けなんじゃない? 何と云っても、敵は第3新東京市最強最悪の爆弾娘だ」
「あはは、そんな事云ってると、云い付けちゃうわよ」
「おいおい、それこそ命が危ないよ」
 妙に話が弾んでいる日向とマヤ。
 にこやかに笑い合う二人を、青葉は遠く離れた茂みから眺めて……いや、睨み付けていた。
「畜生、日向の野郎、名前があるだけのその他キャラの癖に生意気な……。マヤちゃんもそんな奴に笑い掛けるんじゃない! に、しても、何話してんのか遠くてわかんねえぞ。もう少し近ずくか……」
 二人に向かい、匍匐前進を始める青葉。勿論、レイもそれに付いていく。制服姿で匍匐前進で。

「ねえ、日向さん、もし、もしさ」
 マヤが日向に寂しげに笑い掛ける。
「戦いが終わって……、それから、二人とも振られちゃったら……」
「そうだな……、その時は振られ者同士、くっついちゃおうか?」
「………フフ、そうね、それもいいかもね」
「勿論、『振られたとき』だぜ」
「お互いキープ君ってわけ?」
「そう、僕はマヤちゃんのキープ君で、マヤちゃんは僕のキープちゃんだ」
「あはは、いいわね。じゃあ、それで行きましょ。よろしくね、キープ君」
 そのマヤの台詞の最後の方で、漸く青葉は二人の声が聞こえる所まで辿り着いた。
(何だ? 『キープ君』? ………フフフ、そうか、日向、貴様は所詮マヤちゃんのキープ君と云うわけか。やっぱり、マヤちゃんの本命は俺と云う事だな。可哀想になあ、日向。フハハハハ)
 一人愉悦に浸る青葉。それを冷ややかに見つめるレイ。とにかくレイとしては、マヤが見つかった以上、さっさとラーメンを食いに行きたいのだが。
 その時だった。

ウ〜〜〜〜 ウ〜〜〜〜 ウ〜〜〜〜

「! 非常警戒!?」
「まさか……使徒!?」
 表情を引き締める日向とマヤ。
 レイの携帯も鳴り出す。警報のお陰でマヤ達には気付かれていないようだ。
「はい……」
『レイ、警報聞こえるわね? すぐに本部に来て!』
 電話機の中から葛城ミサトの声が聞こえる。
「……了解しました」
 レイは電話をしまうと、青葉の方に目を向ける。
「NERVに戻るわ」
「……マヤちゃん、心配ないよ、俺が幸せにして上げるからね……」
 何やらブツブツ呟いている青葉。……警報が聞こえていないのだろうか?
「……とにかく、報酬は貰うわ」
 サッと、恐ろしいまでの手際で青葉から財布と、IDカードを抜き取るレイ。IDカードはクレジットカードにもなる。現金で足りない分は、これで払えばいいだろう。何と云っても食い放題だ。
「へ?」
「じゃ……」
 ギュン!
 いきなりATフィールドを展開し、青葉を吹き飛ばしつつ、屋上から飛び降りるレイ。

「……え? 何だ」
 突然屋上から飛び立った光に気を取られる日向。さすがに、それが綾波レイとは視認出来なかったらしい。
「日向さん、早く避難しなきゃ!」
 背後でマヤが急かす。
「あ、ああ、そうだな、君は早く避難するんだ」
「え……、日向さん、どうするの?」
「本部へ行く」
「で、でも、今から行ったって」
「うん、何も出来ないだろうね。僕の仕事は代替要員が代わってるだろうし、他に出来る事があるかどうか解らないけど」
「じゃあ」
「でも、行って、何かしたいんだ。この街と……そして、大切な人を守る為に、何かしたいんだ」
 にっこりと笑う日向。
(なんだ……)
 マヤはその笑顔を見つめながら思う。
(結構格好いいじゃない、この人)
「私も行くわ」
 笑い返すマヤ。素敵な笑顔だと日向は思う。
「……よし、じゃあ急ごう」
「うん」
 二人は駆け出した。

 ちなみに、レイのATフィールドで吹き飛ばされた青葉は、茂みの影で伸びていた。





「で、結局、誤報だったってワケ?」
 アスカが不機嫌そうにミサトに問いかける。
 3人のチルドレン、ミサトにリツコ、そして日向とマヤが発令所に集合している。
「……良く分かんないのよねえ。ATフィールドが検出されたのは間違いないようなんだけど……。警報を鳴らした直後にも一度検出されてるしね。でも、それっきりなのよ」
「ハン、壊れてるんじゃないの?」
 どうも機嫌が悪いらしい。
「仕方ないよ、アスカ」
「だってシンジ! 折角……」
「あら、もしかしてデート中だった?」
「な、何、バカな事云ってんのよ!!」 「そ、そうですよ、二人で買い物に行ってただけですよ!」
 顔を真っ赤にしながら否定するアスカとシンジ。ベタベタである。
「とにかく、悪いんだけど原因がはっきりするまでA級警戒なのよねぇ」
「じゃあ、家に帰れないじゃない!」
「仕方ないでしょ。これが終わったら、改めてお休みあげるから」
 アスカを宥めるミサト。
 それを見ながら、リツコは、ふと、何かに気付いたように眉を寄せた。
「……どうしました、先輩?」
 それにマヤが気付く。
「……これで全員よね? もう一人誰か居たような気がするんだけど……」
「やだ、気持ち悪いこと云わないで下さいよ、先輩。私と先輩と日向さんと葛城さん。それからシンジ君にアスカにレイ。司令と副司令が居ませんから、これで全員ですよ」
「……そうよね。疲れてるのかしら?」
「先輩も、これが終わったら休んだ方がいいんじゃありませんか?」
「そうね……、でも、マヤ、今日は悪かったわね。折角の……」
「いえ、先輩のせいじゃありませんし……。それに、結構楽しかったですよ」
 そう云いながら、シンジの方に目を向ける。
「もう、シンジ! これが終わったら、また荷物持ちついてきなさいよ、買いたいものがいっぱいあったんだから!」
「うん、いいよ。アスカと出かけるの僕も楽しいし」
「バ、バカ、何云って………、とにかく、こんな所に居ても仕方ないわ! 休憩室にでも行きましょ!」
「あ、待ってよ、アスカ」
 発令所から出ていくアスカを慌てて追いかけるシンジ。
(やっぱり、仲いいなあ、シンジ君とアスカ。私の入り込む隙間なんか、やっぱりないのかしら?)
 アスカが心底羨ましいと思う。
(結構、本気だったんだけどな)
 それから、そっと、日向の横顔を見つめる。
(……でも、ま、いっか)

 なお、この間中、レイは一人無表情に立ち尽くしていた。
 だが、頭の中では、ニンニクラーメンとギョーザの海で、ご満悦で泳いでいたらしい。





 A級非常警戒は翌日になりB級警戒に移行。それから一週間、B級警戒体勢が続き、結局原因不明のまま、警戒態勢は完全に解除された。
 警戒解除後、第3新東京グランドホテル最上階の屋上庭園で、一人のガリガリに痩せ細った不審な男が倒れているのが発見された。
 男は何も身分を証明出来るものを持っておらず、男の証言からNERVの職員として、NERV本部に問い合わせがあったが、該当人物は発見されなかった(男の名乗った名前のIDカードは現在も使用されており、男の顔をNERV職員の誰も知らなかった為)。
 男は今でも、身分詐称を問われ(NERV職員の身分を偽るのは、この街では特に罪が重い)、第3新東京警察の留置所にいるらしい。





「やっぱり、誰か足り無くない、マヤ?」
「まだ云ってるんですか、先輩? ちゃんとみんな居ますよぉ。業務だって、何も問題なく進んでるじゃないですか」
「それもそうね……」
「リツコ、齢で頭、呆けて来たんじゃない? 大丈夫?」
「……あなたにだけは云われたくないわ、ミサト」





おしまい









NEXT
ver.-1.00 1998+05/11 公開
感想・苦情・誤字情報などは こちらまで!



 ザクレロさんの『マヤちゃんのお見合い』、公開です。



 今回の物語の主役は、
 ザクレロさんのオリジナルキャラ【青木】さん!


 いい味だしてますね、彼(^^)



 発令所のアイドルマヤちゃんにストーカーして、
 レイちゃんにたかられて、
 間接的にアスカちゃんとシンジくんのデートを邪魔して、


 大活躍。


 これだけ表に出て嫌味にならないオリキャラとは・・・

 すばらしいっす。青田!!




 独り不幸になりながら、
 まわりのみんなは幸せ・・・悲しいね、青柳・・・




 さあ、訪問者の皆さん。
 感想を書いて送りましょう、ザクレロさんへ!!



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