TOP 】 / 【 めぞん 】 / [ザクレロ]の部屋 / NEXT


『かいぢゅうだいせんそう』


By.ザクレロ



 ある晴れた昼下がり。
 心地よい陽射しと柔らかな空気。昼食後の気怠い午後は人を容易に眠りへの誘
惑に誘い込む……

 綾波レイが玄関のチャイムを押す。
 誰も出ない。
 確か、葛城三佐の話では碇君と弐号機パイロットの二人が居るはずだが……
 どこかに出かけているのだろうか?
 二人共? ……………二人で?
 ヒクッ。
 レイのこめかみが鳴った。
 無意識にドアの開閉ボタン押してしまう。
 プシュ。
 ドアが開いた。
 開くと思わなかったので、ちょっと驚いてしまう。
 不用心な……などとは思わない。鍵を掛けたり外したりする手間と、鍵を無く
すリスクを考えた場合、鍵など掛けない方が都合がよい。それが綾波レイの常識
だから。どうして世間の人々はああまで神経質にドアに鍵を付けるのだろう?
 そういえば、碇司令も自室には、やたら厳重な鍵を付けていたが……

 とにかく、ちょうど良いと思い、中で待たせてもらうことにする。
 玄関に入ると見覚えのある運動靴がある。
 碇シンジの物だ。
 もう一足靴があるが、誰のかよく解らないので無視する。
 もしかしたら、彼はちゃんと家に居るのだが、何らかの理由で、玄関先まで出
てこれなかったのかも知れない。
 レイはスタスタと廊下を抜け、リビングに入った。
 そこでレイの足が止まった。

 −−−マンション
 −−−人の住む所
 −−−人の住む為に造られた建物
 −−−同じ様な部屋がいっぱいある建物
 −−−葛城三佐が住んでいる所
 −−−葛城三佐が碇君と一緒に住んでいる所

 −−−碇君
 −−−サード・チルドレン
 −−−あの人の子供
 −−−葛城三佐とここで暮らしている人
 −−−……今ここで眠っている人
 −−−安らかな寝顔を浮かべている人
 −−−私が守る人
 −−−私が守りたい人
 −−−私を見てくれる人
 −−−私に優しくしてくれる人
 −−−私が……一つになりたいと思う人

 −−−弐号機パイロット
 −−−セカンド・チルドレン
 −−−ドイツからやってきた人
 −−−名前は……忘れた
 −−−碇君と一緒に暮らしている人
 −−−……今、ここで眠っている人
 −−−碇君の肩を枕に眠っている人
 −−−幸せそうな顔で碇君に寄り添って眠っている人
 −−−……………
 −−−弐号機パイロット
 −−−セカンド・チルドレン
 −−−ドイツからやってきた赤毛猿
 −−−碇君と一緒に住んでる赤毛猿
 −−−ギャアギャア五月蝿い赤毛猿
 −−−毎日碇君の手料理を食べてる赤毛猿
 −−−いつも碇君につきまとってる赤毛猿
 −−−生意気にも碇君とユニゾンなんかやらかした赤毛猿
 −−−生意気にも碇君からマグマで助けてもらった赤毛猿
 −−−……糞生意気にも今、碇君に添い寝している赤毛猿
 −−−赤毛猿のくせに……赤毛猿のくせに……赤毛猿のくせに……

 ビクッ
 シンジの体が突然震えた。
「ひ!」
 シンジは飛び起きた。
 ゴン。
 鈍い音がリビングに響く。
(な、なんだ今の!? 殺気…というか、冷気というか…)
 と、そこでレイと眼が合う。
「あ、綾波……」
 が、どうしていいか解らず固まってしまう。
「なによう、シンジぃ。痛いじゃない……」
 シンジが動いてしまった為に、床に頭をぶつけてしまったアスカが頭をさすり
ながらムクリと起きあがる。
「……どうしたのよ?」
 シンジが固まっているので、取りあえず、シンジの視線を追ってみる。
 と、そこには……
「ファースト……!」
 が、どうしていいか解らず固まってしまう。

 沈黙。

「……………」
「……………」
「……………」

 沈黙を破ったのはレイだった。
「……何をしているの?」
「へ?」
 間の抜けた声で聞き返すシンジ。
「……どうして一緒に寝ているの?」
「え、えっと……それは……」
「訓練よ!」
 アスカが口を挟む。
 レイが、あの感情を感じさせない赤い瞳をアスカの方に移す。
「一緒に眠るのが?」
「そ、そうよ、ユニゾンの……そう、ユニゾンの特訓なのよ! ユニゾンの効果を
より高める為にこうやって睡眠時も訓練しなきゃなんないのよ! ま、アタシはホ
ントは嫌なんだけどね〜、バカシンジと一緒に寝るなんて。これも任務だか
ら仕方なく……」
「任務……そうなの?」
 今度はシンジの方に目を向けて尋ねる。
「え? あ……うん……」
 取りあえず肯定してしまうシンジ。所詮彼には、アスカの言葉を、少なくとも
アスカの居る所で否定する勇気はない。
「そう……任務なの……そんな訓練もあるのね」
「そうよ! でなきゃ、私がこんなボンクラバカと一緒に寝る何て事があるわけな
いじゃない!」
「……アスカぁ……」
「アンタこそ何しに来たのよ! 勝手にズカズカ入ってきて! 全く礼儀ってモノ
を知らないんだから!」
 アスカに云われたくはないよなとシンジは思ったが、賢明にも口には出さなか
った。
「チャイムを押したけど、誰も出なかったから。……新しいIDカード……届け
に来たの。葛城三佐、今日帰れないそうだから……」
 レイがシンジに二枚のカードを差し出す。
「あ、ありがと。悪いね、わざわざ」
 シンジがカードを受け取る。
「……命令だから……」
「……フン! これで用事は済んだわね。じゃ、とっとと帰ってくれる? アタシ
達はまだ訓練続けなきゃなんないんだから! さ!」
「……帰らないわ」
「……何ですって?」
「私も訓練しなきゃ……さあ、一緒に寝ましょう、碇君」
「へ、あ、あれ? あ、うん……」
 レイがシンジの手を引いて、シンジの部屋へ向かおうとする。一瞬対処を忘れ
たアスカだったが……
「ちょっと待てえ! コラぁ!」
 慌てて二人を引きずり戻す。
「……何をするの?」
「何だってアンタがシンジと訓練するのよ! シンジと訓練するのはアタシなの!
アンタは必要ないの!」
「……あなた、嫌なんでしょ? 碇君と訓練するの?」
「……そうよ……」
「じゃ、私が代わりにやるわ。あなたは休んでいて……それに、訓練なら私もや
らなきゃ……ね、碇君」
「え? あ、うん……そうかな?」
「そうかなじゃない! このバカ!」
「ご、ゴメン!」
「大体ファースト! アンタが訓練やったって無駄なの、無駄! ユニゾンは初号
機と弐号機でやるんだから! アンタは一人で後方支援やるんだから必要ないの!」
「……零号機と初号機でユニゾンをやって、弐号機が支援でも問題ないわ」
「大ありよ! 何でアタシが後方支援なんかやんなきゃなんないのよ! そういう
地味なのはアンタみたいのがやればいいのよ!」
「そう……なら、私と碇君がユニゾンで後方支援するから、あなたは最前線で一
人で頑張って……」
「グギ、ガガ……アンタって……」
「……邪魔よ」
 いきなりATフィールドを展開するレイ。
「ふげっ!」
 カエルが潰されたような声をあげ、吹き飛ばされるアスカ。
「さあ、行きましょう、碇君」
 アスカが動かないのを確認して、シンジに声を掛けるレイ。だが、どうやらア
スカと一緒に吹っ飛ばしてしまったらしく、部屋の隅で眼を回している。
 どうやら猿退治に巻き込んでしまったらしい。
 取りあえずシンジを担ぎ上げ、ヨタヨタと頼りない足取りでシンジの寝室へ向
かう。随分ほっそりしているシンジではあるが、女のレイにはちょっと重い。
 なんとかシンジの部屋に辿り着くと、そのままシンジ毎ベッドに倒れ込む。
「ん……」
 倒れ込んだ拍子にシンジが気を取り戻したようだ。
 ボンヤリと眼を開ける。
 目の前にレイの顔があった。
「あ、綾波!」
「……ごめんなさい……巻き込んでしまって……」
「え、あ、いいよ、別に、謝らなくても……」
「ありがとう……さあ、訓練をしましょう」
「え……訓練て……」
 ベッドに横たわるシンジにレイがピトッと身を寄せる。
「……訓練しましょう」
「…………はい」
 後のアスカの報復も怖かったが、今は目の前の赤い瞳の方が何故か怖かった。
所詮シンジには「逆らう」と云うコマンドは用意されていないのだ。

 バア〜〜ン!

 その時、シンジの部屋の扉が轟音と共に吹き飛んだ。
 びっくりして顔を向けるシンジとレイ。
 そこには、舞い上がる埃の中で真っ赤な怒りのオーラを発散させたアスカがい
た。
「ファ〜〜ストぉ〜」
「……何か用?」
 既にシンジはアスカの殺意の波動の前に魂まで竦み上がっていたが、レイはそ
れを平然と受け止めていた。
「よ〜く〜も〜やってくれたわね〜〜」
「……別にお礼はいらないわ」
「……一度アンタとは決着を付けなきゃと思っていたのよ」
「……偶然ね。私も同じ事を考えていたわ」
「……」
「……」
「ちょ、ちょっと……やめなよ、二人とも……」
 シンジの呟きは完全に無視された。
「根性! チェ〜ンジ! セカンドチルドレン!!」
 突如アスカを赤い光が包む。そして、光が固まるかの様に赤いプラグスーツを
纏ったアスカが現れる。
「……目標を確認。当方に迎撃の用意あり! 瞬・着!」
 レイもその姿を一瞬にして白いプラグスーツに変える。
「ふ、二人ともいつの間にそんな技を……」
 シンジの呟きは完全に無視された。
「カモ〜ン! 弐号機!
 アスカが右手を上げて指をパチンろ鳴らすと突然マンションの壁が崩れ始めた。
「な、何!?」
 崩れた壁の向こうには腕を組み、颯爽と立つ弐号機が……
「な、何で弐号機が……」
 呆然と呟くシンジ。
 レイは弐号機を確認すると、部屋を飛び出し、ベランダから身を踊らせる。
「ああ、綾波!?」
「零号機、フェード・イン!」
 いつの間にマンション上空に浮かんでいた零号機から発せられた光がレイを包
み、零号機の中に吸収していく。
「エヴァにあんな機能が……」
 かくして、第三新東京市に二機のエヴァンゲリオンが対峙した。



「た、大変です! 零号機と弐号機が……ケイジから消滅!!」
 マヤの声が発令所に響く。
「え……? な、何? どう云うこと!」
 慌ててミサトが聞き返す。
「わ、解りません! で、ですがケイジからは完全に2機の反応が消えています!」
 ケイジの映像を見ると、確かに初号機はあるが、零・弐号機が消えている。作
業員がパニクっているのが見える。
「そんな……どうして……り、リツコ?」
「わ、私にも解らないわ……まさか一瞬にして消えるなんて……そんな……」
 呆然とするミサトとリツコ。

「……どういうことだ? 碇」
「解らん……予想外の事態だな」

「ATフィールド発生! 第三新東京市内です!」
 続いて日向が叫ぶ。
「使徒!? こんな時に!」
「ブラッドパターン出ます! パターン……白? と……赤? 使徒と確認は出来ま
せん!」
「映像出せる? 急いで!」
 青葉が慌ててコンソールをいじる。
「映像出ます! 三番!」
 モニターに映像が出る。そこに現れたのは見慣れた二体の巨人……
「零号機と弐号機……? え……何で?」
 しかも、良く見ればミサトのマンションのすぐそば……と云うよりマンション
の場所そのものではないか! すると、あの瓦礫の山は……
「いやぁ!! 私のマンション〜〜!!!」
「ちょ、ちょっと、誰がエヴァを動かしてるの? 内部との回線接続急いで!」
 自我崩壊したミサトに代わりリツコが指示を出す。

 その時、ミサトの携帯電話が突然自己主張を始める。
「だ、誰よ! こんな時に!」
『もしもし! もしもしミサトさん!? 僕です、シンジです!』
「シンジ君!? ちょっと今大変なのよ! 零号機と弐号機が……………え? 今眼
の前に居る? 何があったの? 何か知ってるの!?」
『そ、それは……あの、アスカが昼寝で綾波がカードで訓練が命令で……』
「ああああああああっっっ!!!! なんだか全然わかんない!!!!!!!」
『と、とにかくアスカと綾波がエヴァを呼び出して……』
「二人が乗ってるの!?」
『は、はい! なんか凄い方法で乗り込んで……とにかく二人を止めないと……』
「解ったわ、詳しい事情は後で聞くから、あなたは取りあえず本部に来て初号機
に乗り込んで! いいわね、急いで!」
 ミサトは電話を切る。
 私の知らない所で何が起こっているというの……?

「エントリープラグとの回線繋がりました!」
「出して!」
(……エントリープラグなんて、いつ挿入したのかしら?)
 リツコはそう思ったが何も云わなかった。そんなもの解るわけがない。
 モニターにエントリープラグ内の映像が出される。そこにいるのは正しくエヴ
ァンゲリオン正式パイロットたる二人のチルドレン。しっかりプラグスーツとヘ
ッドセットまで着用している。
「あああアスカ! レイ! あんたら何やってんのよ!」
『ミサト!? 黙ってて! 今からこの人形女に自分の立場って奴を教えてやるの
よ!』
『……葛城三佐、現時刻より赤毛猿再教育作戦を実施します。遂行は全て私の手
で行いますのでご心配なく』
『誰が猿よ!』
「ちょ、ちょっとレイやめなさい! だいたいそんな作戦知らないわよ!」
『……問題ありません』
「大ありよ!」
『その通りよ、ミサト! この冷血能面女! 手段を選ばずとはこのことね! 叩き
のめしてスマキにしてあげる!』
『あなたには出来ないわ』
『……なんですって?』
『スマキにされるのはあなただもの』
『や、やめろよ二人とも!!』
『シンジ!?』
『碇君?』
「え、シンジ君? 初号機に乗ってるの? なんか随分早くない?」
『急ぎましたから』
「…………そ、そう」
 深く考えるのはやめよう。彼等はチルドレンなのだ。自分とは違うのだ。
『と、とにかく、やめようよ二人とも、こんなこと!』
『シンジは黙ってて! この女を粛正して、二度とあんたにちょっかい掛けられな
いようにしてあげるから! あんたはそこで、ご主人様のお帰りを静かに待ってな
さい!!』
『心配しないで碇君。私があなたを赤鬼の呪縛から解き放って上げる。あなたは
私の勝利を信じてそこで見守っていて……』
『何云ってんだよ! やめようよ、ねえ!』
『シンジ、悪いけど今日だけは引けないわ!』
『……妙な所で意見が合うわね』
 実は結構気
「……もしかして痴話喧嘩……してるのかしら?」
「……三角関係のもつれって奴……でしょうか?」
「……不様ね」
『行くわよ! ファースト! セカンドチルドレンたるこの私があんたに引導を渡
してあげるわ!!』
『……そうね、私はファースト、あなたはセカンド。所詮あなたは2号さん』
『殺してやる!!!』
 モニターの中、二体のエヴァンゲリオンが組み合った。

「あああああ! もう! マヤ、構わないから電源落としちゃって!!」
 ヒステリックに叫ぶミサト。だが……
「あの……電源、最初っから入ってないんですけど……信号も全然受け付けてく
れません……」
「どうなってんのよ! いったい!!!」

「ATフィールド増大中! ゲージが振り切れてます、測定できません! な、な
んか凄いことになってんですけど……」
「二人のATフィールドが干渉しあっているのかしら………それにしても……」
 モニターを眺めるリツコ。
『ぐぬおおおおおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』
『………………………………………………………………………!!!!!』
 完全に周りを見失っている二人の少女に溜息をつく。 「ねぇ……リツコ? なんか、エヴァの周り……おかしくない?」
「え? …………な、何? あれは! 空間が歪んでる……!?」
「先輩! これって!」
「ま、まずいわ! ATフィールドが空間に干渉しているの!? このままじゃ相
転移して………」
「……どうなるの?」
「…………サードインパクト」
 呆然と事実を告げるリツコ。まさかこんな形で世界の終わりがくるなんて……
「ちょ、ちょっと、何よそれ! どどどどうすれば……」

「碇……これもシナリオの内……かね?」
「………………………」
「………………………」
「…………………冬月」
「なんだ?」
「どうしよう?」
「………………………………………………問題ない………………と、いいな」
「……………………………ああ」

「そうだ、シンジ君!!」
 ミサトは唐突に主人公の存在を思い出した。
『は、はい!』
「出撃して! 二人を止めて!」
『えええぇぇぇぇ!! い、嫌ですよ! 今あんな所に行ったら死んじゃいますよ
ぉ!!』
「いいから行って! 行って二人のATフィールドを中和して!」
『全然よくないです!! ミサトさんは僕がどうなってもいいんですか!?』
「ええええエヴァの中が一番安全なのよ……」
『嘘だあ!!』
「かまわん、やりたまえ、葛城三佐」
 ゲンドウが指示を出す。取りあえず声は平静を装っているが、膝から下がガタ
ガタ震えていたりする。
「解ってます! 射出口は……」
「13番を使いなさい、ミサト」
「り、リツコ? え? 13番って……」
「こんな事もあろうかと思って作っておいた水平射出口よ」
「すいへい……? こんな事もあろうかとって……」
「そうよ、こんな事もあろうかと思ってね……フ、フフフフ」
 突然笑い出す赤木リツコ30歳独身。
「こんな事もあろうかと……こんな事もあろうかと……こんな事もあろうかと…
…一度云ってみたかったのよねぇ、このセリフ!! ホーー−ッホッホッホホホホ
ホホホホホホ……」
 なんだか逝っちゃってる技術開発部長。
「……と、とにかく初号機を13番に回して……いいわね? シンジ君」
『いい嫌だぁ!! 助けてよ! 誰か助けてよ!』
 当然無視される。

 第三新東京の高台の一角に、半球に筒をくくりつけたような物体がせり出して
くる。
 第13番射出口だ。

「碇……サーカスだか奇術だかで人間大砲とか云うのがあったな」
「………ああ」
「………何がおっしゃりたいんです? 司令? 副司令?」

「照準合わせて!」
『た、助けて! 何ですか、照準って! やめてよう!!』
「射出準備完了!」
「エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!」
「了解! エヴァ初号機発進!!」
『うわあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!』

「これでお仕舞いよ! ファースト!」
「その言葉、そっくりあなたに返すわ」
 アスカとレイの激突は最高潮に達しようとしていた。
 共に、その力の全てを拳に乗せて相手に叩き付けるべく殴りかかる。
 が、
『ひええええええ!!!!!』
 その時、紫の巨人が二人の間に割り込んできた。
「シンジ!?」
「碇君!」
 零号機と弐号機。二つの拳が初号機にめりこんだ。


「……初号機、ATフィールドの中和に成功……その後沈黙しました……」
「そ、そう、零号機と弐号機は?」
「とりあえず活動を停止しています」
「ATフィールドも反応ありません」
「助かった……のかしら?」

「碇……?」
「問題ない。シナリオ通りだ」
「………………………」
「………………………」
「…………そういう事にしておくか………」






 シンジはうっすらと眼を開けた。
 眼に映る
(またこの天井か……)
 またエヴァに乗って怪我をしたのだ。躰が重い。
(起きなきゃ……)
 だが、躰が動かない。締め付けられているような感じもする。
(そんなに酷い怪我をしたのかな……)
 とりあえず首を回す。
「……?」
 何か赤い塊が目に入った。
(何だろう……?)
 反対側を見ると青いモノがある。
「………………………!!!!!!」
 シンジは唐突に覚醒した。
「アス……カ?」
 自分の右肩を枕に、右半身に抱きつき可愛い寝息を立てているのは正しく惣流
アスカ・ラングレー。
「綾……波?」
 自分の左肩を枕に、左半身に抱きつき可愛い寝息を立てているのは正しく綾波
レイ。
「な、なんで……」
 やばい! この状況はやばすぎる! 二人が眼を覚ます前に何とかしなくては……
 その時、病室のドアが開く。
「……気がついた?」
 入ってきたのはミサトだった。
「み、ミサトさん! こ、これはいったい……」
「静かに。二人が眼を覚ますわよ」
「!」
 そっと二人の様子を伺う。
 ……どうやら、まだ眠っているようだ。
 露骨にホッとする碇シンジ。
「そのまま聞いてシンジ君」
「は、はい……」
 処刑台に立つ死刑囚のようなシンジの顔。
 それに較べ、その横の二人の少女の寝顔のなんと幸せそうな事か。
「今、世界の運命は正にあなたの双肩に掛かっているわ……」
「は、はあ……」
「世界を救えるのはシンジ君、あなただけなの」
「そんな……僕にどうしろっていうんですか?」
「シンジ君……それは、あなたが考え、あなたが決めなさい」
「な、なんですか? それ!」
「あなたを信じてるわ」
 そう云って病室を立ち去るミサト。
 …………逃げられた。
「ちょ、ちょっと!? ミサトさん? 待って下さいよ! 逃げないでよ! 何とかし
てよ!」
「う……ん……」
「ん……」
 シンジの声に反応したか、身じろぎする二人の少女。
 身を強張らせるシンジ。だが、まだ覚醒には至っていないようだ。
(どうしよう。どうしよう。どうしよう)
(逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ)
(助けてよ。助けてよ。誰か僕を助けてよ)
 だが、当然誰も助けには来なかった。


おしまい

NEXT
ver.-1.00 1998+02/02 公開
感想・質問・誤字情報などは こちらまで!


 本日お二人目の新規御入居です(^^)

 112人目となる新たな住人、
 ザクレロさん、こんばんは〜☆


 第1作『かいぢゅうだいせんそう』、公開です。



 もてる男は辛いやね(^^;


 好いてくれる娘が複数になると辛いよね。

 その娘達が気が強いと辛すぎだよね。

 実力を行使するタイプだとさらに辛いよね。

 実力が半端でないとどうしよもなく辛いよね・・・


 と言うことで、
 シンジくんには安息の日々は訪れないのだ(爆)


 ここまで思われて、幸せな辛さです(^^)


 さあ、訪問者の皆さん。
 あなたのメールでザクレロさんを歓迎しましょう!

TOP 】 / 【 めぞん 】 / [ザクレロ]の部屋