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「初号機のシンクロ率が400%を越えました!」
 伊吹マヤのヒステリックな声が響く。
「そんな……ありえないわ……」

 第14使徒の侵攻。
 為すすべもなく倒されていく零号機と弐号機。
 帰ってきたサードチルドレン碇シンジ。
 初号機出撃。そして暴走。
 赤木リツコは、使徒を喰らいつづける初号機を見ながら呆然と呟いた。
 シンクロ率が100%を越えるなど理論上あり得ないはずなのに……
「いったい……いったい何が起こっていると云うの?」


「始まったな、碇」
「ああ、全てはこれからだ」



 ケイジに収容された初号機に洗浄液が吹きつけられる。
 それをモニター越しに眺めながら、葛城ミサトは隣にいる親友に話しかける。
「それでリツコ、シンジ君はどうなったの?」
「……解らないわ。シンクロ率400%が何を意味するのか……一体シンジ君がどうなってしまったのか……エントリープラグの中の状況が解らない以上、迂闊にプラグを排出するのも危険だわ」
「でも、シンジ君が中で苦しんでいたらどうするのよ!」
「だからこうして中との回線接続を急いでいるのよ……マヤ?」
「もう少し………………これで………OK! 内部の映像出ます!」
 正面のモニターにエントリープラグの内部が大映しになる。
「!」
 そこに居た面々は一様に声を失った。

「……何よコレ……」
「これがシンクロ率400%の正体……」
「シンジ君……」

『『『『ミサトさん……助けて……』』』』
 モニターに映されたエントリープラグの中には、世にも情けない表情を浮かべた碇シンジが4人居た。


「……なんて安易な……」







『シンジ400%』








「……何よコレ……」
 葛城家のリビング、惣流アスカ・ラングレーは呆然と目の前に並んで座っている少年達を見る。
「「「「……うん……」」」」
 困ったように、声を揃えて答える4人の碇シンジ。
「……理由はよく解んないんだけどね……今、リツコが調べてるけど……遺伝子レベルで4人とも同一人物で間違いないそうよ。記憶も一緒みたいだし……。とにかく、増えちゃったものは仕方無いわ。これからどうするか考えましょう」
 ミサトもこめかみに指を当てながら答える。どうしていいのか解らないのはアスカやシンジ達と一緒らしい。
 アスカは使徒を相手に何も出来なかった事、それをシンジが倒してしまった事などで、かなり鬱屈していたのだが、ミサトが連れ帰ってきた4人のシンジに一気に毒気を抜かれてしまった。
「どうすんのよ……コレ。1人でも鬱陶しいのに、それが4人も居るなんて」
「「「「……ごめん」」」」
「それが鬱陶しいってのよ!」
 ユニゾンで謝るシンジ4人衆に声を荒げるアスカ。
「大体、ミサトもこいつら全員連れてくるなんて、まさか、全員ここに住まわせる気?」
「仕方ないでしょう。ここがシンちゃんの家なんだし、一応全員シンちゃんなんだし」
「「「「非道いよ、アスカ……」」」」
「そういえば、アンタ、ここ出てったんじゃなかったっけ? それじゃあ、ここはアンタの家じゃないんじゃない?」
 いじめっ子モード全開である。でも、いつものアスカだ。
「「「「そんな……」」」」
「まあまあ、アスカ。シンちゃんもこうなっちゃったんじゃあ、そうそう帰る訳にもいかないし……とにかく、晩御飯でも食べながら、これからの事を話し合いましょ」
 などと云いながら、早速缶ビールを取り出すミサト。
「……そうね……ご飯はシンジが作るの?」
「「「「あ、じゃ、急いで作りますね」」」」
 同時に答えて同時に立ち上がるシンジ4人衆。
 そして4人で困ったように顔を見合わせる。葛城家のキッチンは勿論、大抵の家の台所は4人で作業できるほど広くはない。
「あ〜〜、鬱陶しい! 一番右のシンジと、その隣のシンジ! あんたらが二人で作りなさい! 一番左のシンジは風呂の準備! 最後の1人は……洗濯しても仕方ないし……え〜と、アタシの肩もんで」
 業を煮やしたアスカが指示を飛ばす。
 当然、碇シンジにアスカの命令に逆らえるはずもなく、各々、云われた仕事をこなすべく飛び出して行った。ミサトはそれを半ば感心しながら見ていた。



「……ねぇ、シンジ」
「何、アスカ?」
 一所懸命肩を揉んでいるシンジに声をかける。
 他の3人のシンジは黙々とアスカの云い付けた仕事をこなし、ミサトは3本目のビールを飲みながら(……本当に、これからの事を相談する気があるんだろうか?)、台所のシンジ達の所にひやかしにいっている。
「アンタ……どうして、帰ってきたの?」
「え?」
「だから、一度ここから出ていくって決めたくせに、何でまた初号機に乗ったりしたのよ?」
「だ、だって、使徒が来ているし、アスカも綾波もやられちゃって……アスカ、死んじゃうんじゃないかと思って……」
「……心配してくれたの? アタシのこと……」
「う、うん……」
「……どうして? アタシの事なんかどうでもいいんじゃないの? アタシに何も云わずに出ていこうとしたくせに……」
(……ああ、そうなんだ)
 アスカは唐突に理解した。
 捨てられたと思ったのだ。自分は。シンジに。
 自分がこんなにシンジを気にしていると云うのに、シンジは全く自分を見てくれない。
(それが悔しかったんだ)
 シンクロ率なんか本当はどうでも良かったのかも知れない。ただ、シンクロ率でシンジの上にいれば、シンジが追いかけて来てくれる。シンジがアタシを目標にしてくれる。
(それが嬉しかっただけなんだ)
 シンジに自分を気にして欲しかっただけだったのだ。
 そのシンジが自分を置いて、何の相談も無く出ていくと決めたとき。
(多分……悔しかったのね)
 結局、自分がシンジにとって、なんの意味もない存在だったことが。
 シンジが自分の事など全く気に掛けてくれないと思い知らされたから。
 見送りになど行けるはずがなかった。
 自分を捨てた男にどんな顔をして会えばいいと云うのだ?
 アスカは自分でも気付かなかった心の動きを漸く理解していた。
「ご、ごめん……、アスカに何も相談しようとしなかったのは悪いと思ってるよ……、なんか、あの時はトウジの事で頭がいっぱいで……」
「……アタシって、シンジにとってはジャージ男より下なのね……」
「そ、そうじゃなくって、何て云うか……、どういえばいいのかな? ……でも、あの時、僕はアスカにも怒ってたんだ、父さんだけじゃなく」
「アタシに?」
「……教えてくれなかったでしょ? トウジのこと」
「あ……」
「多分、それで、アスカとミサトさんにも怒ってたんだと思う。それで、アスカ達を置いて、出ていくなんて云っちゃったんだ。でも……」
「でも?」
「……あの使徒に弐号機の頭が切り落とされた時……何て云うか、頭が真っ白になっちゃって……綾波もやられちゃうし……それで、突然、何で自分はこんな所にいるんだとか思ったら怖くなって……」
「……使徒が?」
「……ううん、アスカと綾波がいなくなっちゃうことが」
「……勝手ね。自分から離れようとしたくせに」
「うん……ごめん……でも、どうかしてたんだ、あの時の僕は。ア、アスカから離れて暮らすなんて……えっと、あと、その……トウジの事だってあるし、この街から出ていくなんて出来るはずがないのに……」
 シンジの手が触れている両肩が気持ちいい。気分が安らいでくる。
 そうだ、碇シンジはここにいるのだ。自分の許に。
「そう、……ごめんね」
「ど、どうしたの? 突然」
 いきなり謝るアスカに狼狽するシンジ。当然だろう。これまでアスカに謝られるなど想像すら出来なかったのだから。
「アンタに鈴原のこと黙ってたこと……」
「あ……それなら、もういいんだ」
「そう……ねぇ、シンジ、アタシと一緒に居たい?」
「え……それって……」
「答えて」
「う、うん……い、居たいよ、出来ればずっと……」
「そう……」
 その時、風呂の準備をしていたシンジが風呂場から戻ってきた。
「いつでも入れるよォ、アスカ」
 アスカはそれに、ぼんやりと目を向ける。肩は揉ませたままだ。気持ちいい。
「そう、…………それから、アンタ」
「え? 何? まだ何かあるの?」
 アスカの側へトテトテ歩いてくる風呂掃除シンジ。
「アンタ今からシンジ2号ね」
「な、何だよ! それ?」
「仕方ないでしょ、区別がつかないんだから。せめて呼び方だけでも替えなきゃ」
 そこへちょうど、ミサトと二人のシンジが料理の皿を持ってやってくる。
「あ、アンタ、アンタが3号。そんで後ろのが4号ね解った?」
「は?」
「え? 何? アスカ」
 突然番号を振られて慌てるシンジ3号、4号。
「……それじゃ、僕が1号?」
 まだアスカの肩を揉んでいるシンジが肩越しに話しかける。
「そう、ちゃんと自分で憶えておくのよ。解ったわね! バカシンジ共! さ、もういいわ。ご飯にしましょ」
 勿論シンジがアスカに逆らえるはずもなく、いきなり振られた番号にブツブツ云いながらも、声を大にしては何も文句を云えず、食事が始まる。

 そんな中、アスカは一つの決心をしていた。





 翌日、シンジ4人衆は、アスカ、ミサト、レイと共に、リツコの研究室に集まっていた。
 リツコとマヤが7人を迎える。あまり表情が優れないとこを見ると、あまり進展はないようだ。
「で、解ったの? シンジ君がこうなった原因」
「それが、さっぱり。とかく世界は謎だらけね」
「……どうすんのよ、このままにしとく訳にもいかないでしょう?」
「そうね……」
「司令は何て云ってんの?」
「司令? そうね……」
 シンジの方をチラリと見る。
「「「「……構いません、云って下さい」」」」
 ユニゾンで話を促すシンジ4人衆。
「……『問題ない、予備が3人増えただけだ。代えって好都合だ』ですって。何処まで本気なのやら……」
 最後の方はシンジを気にして付け加えた言葉だが、恐らく、碇司令は本気で云っているのであろう。
 それを聞き僅かに苦笑を浮かべるシンジ4人衆。予想通りと云った所か。
「いいじゃない、司令がそういってんなら、このままで」
 突然話し出すアスカ。
「ちょっと、アスカ、そうは云っても……」
「何か問題でもあるの?」
「あるでしょう、学校の事とか、エヴァの事とか……」
「ふん、どうせ司令がそんな事云ってたんだから、もう考えてんじゃないの? 戸籍を改竄して4つ子にするとか……、エヴァにはローテーションで乗せればいいじゃない」
 それを聞き、苦笑するリツコ。
 アスカの云うとおり、戸籍の改竄は密かに進んでいるし、エヴァの搭乗もそのつもりだ。
「じゃあ、どうやって暮らすの? 昨日は全員リビングに寝て貰ったけど、あの家に6人も住めるわけないでしょう?」
「多かったら減らせばいいのよ」
 それを聞き暗くなるシンジ4人衆。この内の何人かはミサトの家から追い出されるかもしれない。
「アタシが出て行くわ、部屋を用意して、ミサト」
「「「「アスカ!!!」」」」
 予想外のアスカのセリフに慌てるシンジ4人衆。
 それにチラリと目を向け、
「シンジ1号!」
「は、はい!」
 突然個体で呼ばれて焦るシンジ1号。
「アンタはアタシと来るのよ」
「……え?」
 聞き返すシンジ。よく見るとアスカの顔が赤い。
「だから、アタシについてきなさいっていってんの!」
「アア、アスカ、そ、それって……」
「二人で住もうって云ってんのよ! このバカ」
「アアア、アスカ!」
「解った!?」
 最早アスカは顔どころか全身指の先まで真っ赤になっている。
 そんなアスカに、どうしてシンジが逆らえよう。
「はい……」
 シンジ1号陥落。

 それを聞き、今まで黙って事態の推移を見守っていた綾波レイが口を開いた。
「そういう事なら、碇君2号は私が貰うわ」
「綾波!」
 慌てるシンジ2号。
「何? 何か問題でもあるの?」
「いや、えっと問題っていうか……」
 どもるシンジ2号。
「……私と暮らすのが嫌なの? 碇君……」
 表情を曇らせるレイ。碇シンジがそれに逆らえる訳がない。
「そ、そんなことないよ」
「じゃあ、私と一緒に住んでくれる?」
「う、うん……」
 シンジ2号陥落。

「なるほど」
 急展開を告げる事態から、ミサトが漸く復帰を果たす。
「それじゃあ、当然1人は今まで通り私の所に残るとして……ラッキー、二人っきりの甘い生活が帰って来るのね……」
 よく解らない内にアスカを追い出すことに成功し、二人っきりの生活が取り戻せると知ってご満悦のミサト。前は手を出す前にアスカの入居でお預けを食い、今では半分あきらめていただけに喜びは大きい。今度こそ、邪魔が入らぬ内にシンジをモノにしておこう。
「ミサト……あんた……」
「え? はは、そ、そうだ、もう1人はどうしようか?」
「そうね……やっぱり、普通は親が引き取るもんじゃない?」
「碇司令に引き取って貰おうっていうの?」
 恐ろしい話を始めるミサトとアスカ。
 それを聞き真っ青になるシンジ3号、4号。
 このままでは、どちらかが、あの碇ゲンドウと暮らさねばならなくなるのだ。冗談ではない。
 ところが、助け船は意外なところからやってきた。
「あの……それじゃあ、私が引き取っても……」
「「「「「「「マヤ(さん)!」」」」」」」
 レイ以外の7人が口を揃える。
「あ、あの、前からシンジ君の事可愛いなって思ってて……で、出来れば一緒に暮らせたらなあって思ってましたから……」
 真っ赤になって、俯きながらとんでもない告白を続けるショタコン伊吹マヤ。
「マヤさん……」
「マヤ、あなた……」
「……ごめんなさい、先輩」
 何故謝る、マヤ?

「ま、いいわ、とにかく、これで全員の処遇が決まったわね。いいわね、シンジ!」
 シンジ達を睨み付けるアスカ。
「「「「え? ……あの……」」」」
 シンジ達は事態についていけないでいた。
 当然だろう、自分の処遇が自分の意志を全く無視した形で次々と決められていくのだ。
「何か文句でもあるの?」
 ジト目で睨み付けるアスカ。
「「「「いえ……ありません」」」」
 ……結局、碇シンジにとって、アスカの決定は絶対なのだ。でも、本当にいいのか、碇シンジ?



 こうして、4人のシンジの運命が決定し、4人の女性がそれなりの幸せを手にいれたらしい。

















「シンジ君達の処遇が決まったらしいぞ、碇」
 薄暗い室内。無意味に広い部屋の中で、白髪の老人が、黒い顎髭を生やした眼鏡の男に話しかける。
「葛城君、伊吹君、惣流君、それとレイが1人づつ引き取るそうだ。それから、惣流君は葛城君の所を出て行くらしい」
「そうか、シナリオ通りだな」
「……だがな、よかったのか? これで……」
「息子が4人に増えて、息子の嫁も4人になった……問題ない」
「だが、シンジ君の気持ちはどうなる」
「かまわん、どうせ周囲に流されるしか能の無い奴だ。あいつは自分を愛してくれる人間が側にいればそれだけで満足してしまうような人間だ」
「……本音を云え、碇」
「……セカンドとレイでは、後数年掛かるだろうが、葛城三佐と伊吹二尉ならばすぐにでも孫を抱かせてくれるかもしれんからな。それに嫁が4人なら孫の数も4倍だ。老後も安泰。ユイも賛成している。実際にシンジを4人にしたのが何よりの証拠だ。その為に、採取した使徒のエネルギーを全て使ってしまったがな。フフフ……」
「…………おい」
「問題ない」

 碇家補完計画は続く…………









「葛城……もう、8年前の言葉は聞いてくれないのかい?」(某スパイ)

「「そりゃないよ、マヤちゃん……」」(某オペレーター×2)

「非道いじゃないか、シンジ君……どうして、僕の分を残して置いてくれなかったんだい?」(某使徒)

「……ワイも1人欲しかったのお。また増えんかなあ……」(某ジャージ)








 4人のシンジが時々こっそり入れ替わっているのは女性陣には内緒だ。





(これって、ハッピーエンドでいいんでしょうか?)









NEXT
ver.-1.00 1998+04/22 公開
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 ザクレロさんの『シンジ400%』、公開です。



 うーーん、
 やっぱりシンジ1号かな、いいのは(爆)


 こっそり交代(^^;しているとは言え、
 やっぱりこっとりあっとぴ・・・最初はおいしいよね(爆爆)


 いやしかし・・交代・・・
 素晴らしい環境だなぁ(爆爆場)


 将来、倦怠っても、
 自分が複数いれば色々出来そうだし(爆爆爆爆)



 なんつうか、こういうコメントしかできないよね(^^;



 さあ、訪問者の皆さん。
 爆数記録を作らせたザクレロさんに感想メールをお送りましょう!




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