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 …私は、今日浮かれていたのかも知れない。

 …それは、運命と戦い続ける私たちへの、ささやかな報酬?

 …地獄への堕ちる前に与えられた、最後の慈悲?

 …誰にも、それは判らない。 

 …ただ云えるのは、今日はとっても好ましい一日だった。唯、それだけ…………











スーパー鉄人大戦F完結編    
外伝1〔安息:One day to wonder at the Rei〕
Aパート



−07:00 コンフォート17 802号室、自室にて。起床

 …眠い。

 …情けの無い話だとは思うが、起床後一番に感じたことは睡眠不足だった。

 …それはとてもとても他愛の無いお話しが原因だった。

 …少なくとも同じ年頃の殆どにとっては。
 
 …しかし、私、綾波レイにとっては全く未知の世界の話だった。

        :

「シンちゃーん、アスカ、レイ!
 チョーッチ、良いかしら?」

 碇君の家のリビングにて、くつろいでいたアスカと私、夕食の支度をしていた碇君、
そしていつもの如くいつの間にか入り込んでいたマナが聞いた、葛城三佐の帰宅後第一
声だった。

「何よ、ミサト。用なら早く云って!」
「葛城三佐、御用でしょうか」
「何ですか、ミサトさん」
「私は、のけ者?」

 私たちは、隠そうとしているらしいが、どこか嬉しくて堪らないと云った様子を辺り
一面に振りまいている、葛城三佐を出迎えた。

 葛城三佐は、両手いっぱいに紙袋などを抱えていた。

 その顔に浮かんでいる笑みを見て、碇君とアスカが警戒色を深めていた。

「喜びなさい!
 アンタ達、明日から学校へ行くことになったわ!」


 …その時の私たちの表情はどうであっただろうか?

 …アスカとマナが騒いでいたことだけは憶えている。

 …動揺?
 …茫然
 …それとも、歓喜?

 …判らない。ただ碇君と一緒と云うことだけは理解できた。胸の奥で暖かいモノが湧
  き出すことを感じていた。

 ……学校。

 …学び、校(くら)ぶるところ。
 …数十年先に生まれた程度で世の全てを知悉したかのように振る舞う者が棲むところ。
 …自由奔放過ぎる子供達へ社会秩序と云う枷をはめるところ。

 …トモダチが居るところ。

 …そして、私が今まで行く必要の無かったところ。


 …その夜、私は知らない世界に対する何かで胸がいっぱいで、なかなか寝付けなかった…………


        :


 …服装を整え、部屋を出る。

 赤木博士は...いえ、お母さんは今日は比較的時間があるらしい。
 リビングでコーヒーを啜っている。

「レイ、準備は出来たようね」

「仕事はいいの?...お、お母さん」

 …私の、最後の言葉を云う様子は、控えめに云って「無様」であったと思う。
  だけど、お母さんは私を抱きしめてくれた。

「娘が初めて学校に行くときぐらい、見送るわ。
 それぐらい、させてくれてもいいでしょう?」

 …私は口ではなく、行動でその質問へ答えた。手を回して抱き返したのだ。

「…ありがとう、レイ。
 そろそろ行きなさい、二人が待っているわよ」

 …私は回した手を解いて、玄関へ向かった。
 …ドアが閉まるまで、お母さんが手を振って見送ってくれた事がとても嬉しかった。




−07:32 コンフォート17 803号室、葛城三佐宅。碇君とアスカを迎えに行く。

「‥きゃー、バカ、エッチ、変態、色魔!
 レディになんてモン、見せるのよ!!
 信じらんない!!」

 …アスカが今日も元気に騒いでいる。
 …いつも思う。
 …そんなに見たくなければ、碇君を起こしに行かなければいいと思う。

 アナタが起こさなくても、私が起こすわ。

 …いつだったか、アスカにそれを云ってみたところ、

「アイツが起きるのやアンタが起こすのを待っていたら、ご飯が冷めちゃうでしょう!
 シンジのクセして、私に冷ご飯食べさせようなんて百億年早いのよっ!!」

 と、いう答えを返してきた。

 …顔を真っ赤にして反論してくるアスカを見てつつ、私はチクッと胸の奥に痛みを感
  じたことを憶えている。

 …私が考えに浸っていると、アスカが碇君の部屋から出てきた。

「おはよう、レイ。
 もう少し待ってちょうだい。あのバカ、なかなか起きなかったのよ」

 そして、後に続く人影。

「…もう少し、優しい起こし方してくれてもいいじゃないか...」

 碇君が紅葉を貼り付けた頬をさすりながら、部屋から出てきた。
 眠たそうな表情の中に、不平が滲みだしている。そんな顔をしている。

 当然、アスカは碇君の言葉を聞いて、急速に気圧を降下させた。

「なんですって〜ぇ!?」

 アスカが爆発する兆候を感じ取ったらしい碇君は、即座にアスカへ詫びた。

「アスカ、御免!
 海よりも深く感謝しています!!」

「...ホントでしょうね?」

「ホントだってば!!」

ホントにそう思っているなら、態度で示しなさいよね…

 そんな言葉が聞こえたような気がした。

「えっ、アスカ。何か言った?」

「何でもない。さっさと顔洗ってくて朝御飯食べる!」

「判ったよ」

 そういって碇君は洗面所へ行った。

 洗面所に向かう碇君を見送ると、アスカは朝食をテーブルへ並べ始めた。

「ミサトーッ!
 朝御飯よーっ!!」

 すると奥から弱々しく返事があった。

「今日はお昼からぁ...後で食べるから、置いといて...」

「何よ、ならもっと早く言いなさいよね!
 レイ、アンタ朝御飯は?」

「食べたわ」

「そう...じゃあ、お茶でも飲む?」

「…そうするわ」

 私がそういうと、アスカは湯飲みにお茶を入れて差し出してくれた。

 そこへ碇君が帰ってくる。

 既に朝食に準備は万端だった。

 碇君とアスカの朝食が始まった。




−08:15 第三新東京市路上。私と碇君とアスカ、三人で学校へ向かう。

「ホントになんで今更中学校に行かなきゃいけないのよ!」

「…なら、行かなければいいわ」

「ミサトが承知すると思う〜?
 例によって『これは命令です』って云うに決まってるでしょ」

「…そうね」

「でも、マナ...不満そうな顔してたな...」

「何よ!
 何でここにいる私たちの事じゃなくって、マナの話が出てくるのよ」

「あのっ、そのっ、えぇ〜と」

 アスカは糾弾するように、一層碇君に肉迫した。

「で?」

 私はジリジリと下がる碇君の腕を捕まえた。

「綾波!?」

 私は何も云わず、碇君を見つめ返した。

「さぁ………そこんところハッキリさせましょうね、無敵のシンジさま?」

 最後の一フレーズを聞いた碇君は、自分が何処に踏み込んでしまったかを理解したら
しい。抱きかかえた腕から伝わる感触は、極度の緊張状態である事を実によく主張して
いた。

 そして永遠の数瞬を経た碇君は、頭を垂れて

「………ご免なさい」

 と謝っていた。

 私とアスカは、自分の誤りを素直に認めた碇君の頭を撫でてあげた。

 そうこうして、だいぶ時間が立ってしまった様だった。
 時間がもう無い。

 アスカが号を発した。

「二人とも、行くわよ。
 レイもいつまでも腕を組まない」

 ようやく、私たちは再び学校へと向かう

 そうして私たちがこれから通うことになる【私立第三春風学園中等部】についていた。




− HR

 おさげ少女の声が教室内に響いた。

「起立、礼!
 着席」

「皆さん、おはよう。
 今日は皆さんにお知らせがあります。
 新しいお友達がこのクラスへ来られることになりました」

 ざわつく教室

「はいはい、お静かに。
 では、入ってきなさい」

 …その言葉を聞いて、アスカを先頭にして私たちは教室へ入った。

 一斉に上がる歓声と向けられる視線

 …ちょっぴり、怖かった。

 碇君はそんな私を見て、一声掛けてくれる。

「大丈夫だよ」

 …嬉しかった。

 碇君の向こうにいるアスカのこめかみが一瞬ヒクついた様だったが、それも一瞬。気
を取り直してアスカは自己紹介を始めた。

「惣流・アスカ・ラングレーです。よろしく!」

 今度の歓声は、学校全体をも揺るがした。

 …今度は、かなり怖かった。

        :

「さて、これで新しいクラスメイトの自己紹介は終わりましたね。
 後もう一人来る予定でしたが、まだですか。
 まぁ、そのうち来るでしょう。
 それではHRを終わります。」

 そういって老教師は、教室を立ち去った。

 指定された席へ座る私たち。

 …嬉しい。窓際の席だ。
  校庭で体育の授業を受けている生徒達がいて、その向こうには緑為す山々があった。
  そして何より、碇君の隣だった。
  差し込む日差しと風が、心地よかった。


        :

− 同刻:私立第三春風学園高等部

「では、自己紹介をお願いいたします」

 担任がクラスへ新たに加わった二人に自己紹介をするよう促した。

「リリーナ・ドーリアンです」
「…ヒイロ・ユイ」

 ブロンド少女にはクラス全員の掛け値無しの歓声で、言葉少なな少年には少女達の彼
が纏う不思議な雰囲気に期待を込めた静寂で、新たな友人を迎えた。




− 一限目  古文

 …私の生まれて初めて受けた学校の授業は、古文だった。
  先生は、青々とした髯痕が印象的なメガネを掛けた松浦という名の中年教師だった。

 内容は大したことはいっていない。
 私はもう一度、学校へ通うことになった理由を思い返してみた。

 …【ポセイダル】軍の宣戦布告。
 …【ゲスト】の参戦
 …そして、彼らの大攻勢と連邦の反攻

 …突然の休戦

 …ザビ家【DC】の復活
 …【ティターンズ】と【ロームフェラー】の暗躍
 …【ブッホ・コンツェルン】の反逆
 …そして、良識ある宇宙民は【エゥーゴ】を結成する。

 地球圏の混乱はやがてあの【イデ】が加わり、争いは永遠に続き、滅びが私たちを包
み込もうとしていた。

 …けれど、全ては終わったこと。

 今では生き残った全ての当事者が、あの魂の蹂躙者を殲滅すべく【神壱号作戦】準備
を進めている。

 衛星軌道では、ここからも見える程の大きさを持つ銀河間超々弩級戦艦【ヱルトリウ
ム】級が最終艤装を行っている。あれは多分ネームシップの【ヱルトリウム】だろう。
完成すれば、私たちもアレに乗り込み、再び戦いに征くことになる。

 だが、それには今暫くの時間がある。

 …それまでは、この瞬くよりも短く‥囁くよりも儚い、この時間を碇君の側で大切に過ごそう。

 一時限目の終了のチャイムが鳴った。

        :

− 同刻:【ロンド・ベル】隊員宿舎

「今日もいい天気だねぇ」

 そういって洗濯オバさんと化した爆乳パンク美女キャラ・スーンは気持ちよさそうに
目を細めた。三角巾から除く、赤と金の豊かな髪が妙に似合っていた。

「こういう日に干した洗濯物はいい匂いがするんだよ。
 シン坊やジュドーが居れば、洗濯ついでに一緒に遊んでやったのにねぇ」

 誰に云うとも無く呟くキャラ。

 絶ゆる事の無い水仕事にも関わらず、入念にケアされて肌荒れ一つない手が伸びて地
面に置いたカゴから、脱水された洗濯物を一つとる。
 それから丁寧に皺を伸ばして、洗濯紐に洗濯ばさみでとめる。

 手を動かす度に揺れる巨大な胸の双丘が圧巻だ。

 1カゴ全て干し終わると再び手をかざし、目を細めて三度独白した。

「ホントに今日はいい天気だよ」

 その顔はとてもキレイに輝いていた。




− 二限目  数学

 次の時間は数学だった。

 …でも、教室に現れたのは二人。
 一人は担任の老教師。もう一人は別の場所で見覚えがあった。
 スーツ越しでも判る、無駄のない鍛え上げられた肉体。彫りの深い顔立ちに猛禽類の
ような鋭い眼差し。そして見事な銀髪。間違えようがない。

「ガッ、ガトー!?
 何でアンタが此処にいるのよ!?」

 アスカが叫ぶ。

 新しいクラスメイトの叫びに、級友達は想像豊かにする。

 後日、「恋に破れて転校して来た」だの「援交の果てに荒んだ少女を立ち直らせよう
とした少年が強引に引き離したが相手が追い掛けて来た」だのと言う噂がまことしやか
に広まったのは、余録。……くすくす。

 それはさておき、名を呼ばれたガトーは鷹揚に頷き、答えた。

「うむ、時間が少し出来たからな、考えあって、資格を取ろうと思い立ったのだ。
 どうかな、何かおかしいところは無いかな?」

 アスカは思いも掛けない返答に、顔を引きつらせながら評価を伝えた。

「よ、よく似合ってるわよ……」

「(ふっ)………ありがとう」

 その時見せたガトーの微笑みは、何人かの少女へ何かしらの決心をさせた。
 それを知るのはやはり後日となるが、この時は何処か別の世界へ旅立った級友がいる
と云うことしか判らなかった。

「えっー、静かに。
 急な事だが、お聞きの通り我が校に教育実習生を迎えることになった」

 途端に「ステキ」だの、「カッコイイ」だの無個性な単語を周りの少女達は連発する。

 …煩い。
  アスカなどは、耳を指で栓をして全身でやかましいとアピールしていた。

「はい、皆さんお静かに。
 では、自己紹介をお願いできますかな?」

「はい。
 私はアナベル・ガトーといいます。
 先程云ったように思うところがあり、教師になろうと考えました。
 短い間ですが、教育実習生として皆さんと共に学びたいと思います。
 では、よろしくお願いします!」

 やってはいなかったが、その余りの気迫に踵を打ち鳴らして敬礼したような錯覚を憶
える。

 碇君の2つ向こうの席では、凛々しさ溢れるガトー教生を見てメガネをかけた少年が
感動していた。「…ソロモンの悪夢」等と口走って居たところを見ると、どうもガトー
のことを知っているようだ。

 その時だった。

 突然、乱暴に開け放たれる教室の扉。
 そこにはいつも私たちと一緒にいる此処には居ない筈の少女がいた。

「すいませぇーん。
 遅刻しちゃいましたぁ〜!」

 少女のその言葉に一瞬教室は静まり、そして爆笑の渦が巻き起こる。

「てへへへへ……えへっ。
 そんなに歓迎されるとマナちゃん、照れちゃうなぁ」

 そういってマナは恥ずかしそうにして頭を掻いた。

「こらぁ、霧島マナぁっ!!」

 案の定アスカの怒号が飛んだ。

「私に何かなぁ、惣流・アスカ・ラングレーさん?」

 アスカとマナのただならぬ様子に、クラス中の生徒は固唾を呑んで見守る。

「何でアンタが此処にいるのよ!?」

「えへへ………教えて欲しい?」

「…………(怒)」

 マナのその不真面目な言葉に、アスカは無言で拳を振るわせる。

 だが、その二人に意外なところから横槍が入った。
 ガトー教生からだった。

「こらぁっ!!」

 ガトーは、マナに向け鋭い檄を飛ばした。

「は、はひぃ!?」

 予想もしないガトーの叱咤で目を白黒させるマナ。

「遅刻するとは何事だ!
 霧島マナっ!」

「申し訳ありません!」

「これが戦場ならば、救える友を死なせ、守るべき者を喪うところだ。
 判っているのか!?」

「はいっ!
 判っております!」

 そういってマナは勢いよく敬礼していた。

「宜しい。
 だが、罪は罰せられねばならない…理解できるな?」

「はいっ!」

「では、罰として授業終了までバケツを持って教室後ろで立っていろ」

「了解いたしました!
 では、わたくし霧島マナは、これより本時限終了までバケツを持って立っています」

「うむ」

 マナの言葉に、ガトーは満足そうに首肯した。
 マナは、と云うとオモチャの兵隊のようにぎこちない動きで掃除用具入れ近くに転がっ
ていたバケツを手に取り、教室後ろで気合いを入れて立っていた。

 担任の老教師は、ガトーの名を呼んだ。

「ガトーくん…」

「はっ、差し出がましい事をしてすいませんでした」

《教生をどうするつもりだろう。》
 3−Aの生徒達は、そんなことを考えていたらしい。
 老教師へ注目し、固唾を呑む。

 教室中に緊張がはしった。

 間を溜めに溜めて、老教師はようやく口を開く。

「…………いやいや、なかなかどうして…、結構なご指導です。
 生徒に対して、溢れる情熱と毅然とした態度で接する態度はとても良いと思います。
 これからも、その様にして生徒を導いていって下さい」

 銀髪の烈士アナベル・ガトーは、老教師の言葉に直立不動で答えていた。

「ありがとうございますっ!!」

「「「「「「「「「だぁ〜!!」」」」」」」」」

 固唾を呑んで、教師と教生のやり取りを見守っていた3−Aは余りにズレた会話を見
せつけられ、3−A生徒一同は一斉にコケていた。

        :

− 同刻:箱根湯本 某露天風呂

「いっい湯だなぁ〜♪」

 サイド1ジャンク屋共同経営者ビーチャ・オーレグ(18)、機嫌良さげに鼻ずんで
いた。

「ご機嫌だよねぇ、ビーチャ。
 まぁ、一杯」

 そういって一緒に露天風呂へ入っていた同共同経営者モンド・アカゲ(18)はお銚
子を差し出した。

「おっ、済まないねぇ。
 おっとっと」

 まだ若いのに、既にかなりオヤヂが入っているビーチャ。
 まぁ、彼らは既に12,3の辺りから世間の荒波に揉まれて来ていたのだ。この程度
は仕方が無いのかも知れない。

 2人は、しみじみと酒の味を味わいつつ、命の洗濯をしていた。
 ビーチャが口を開く。

「ぷはーっ…………生き返るぜ。
 ついこの間までの戦いが嘘のみたいだな。
 これでエルが一緒なら言うこと無いんだけどな...」

 そういってビーチャは、お猪口を傾ける。

「まぁまぁ、たまには男同士ってのも良いじゃないか」

「よかないっ!
 ……そういえば、アムロさんは?」

「家族風呂の方。
 ベルトーチカさんや赤ちゃんと一緒に」

「アムロさんがお父さんにねぇ………アムロさんって苦労を抱え込みそうだから、ハゲ
 たりして」

「ははは、云えてる」

「じゃあ、ジュドーは?」

「いつもの事さ」

「…………プル達に?」

「そう、プル達に………」

「難儀なヤツだよなぁ…………」

「そだね……」



− 同刻:箱根湯本 某混浴風呂1

「ねぇ、ねぇ、ジュドー見て〜ぇ。
 プルねぇ、胸が大分大きくなってきたんだよ〜」

 そういってエルピー・プルは膨らみ始めた小振りな双丘をジュドーに顕示した。

「こら、バカ。
 何やってんだ、早く隠せっ!!」

 ジュドーは手で顔を覆いつつ、プルを叱る。
 だが指の隙間から覗いているようでは、全く説得力など有りはしなかった。

「プル何やってるの!
 混浴風呂じゃあ、バスタオル巻くように云ったでしょう!」

 一緒に入っていたリィナは、プルを叱りとばす。
 プルが浴槽に入るまで巻いていたバスタオルを手に追い掛ける。
 こちらはかなり怖い。

「やっだよーだ。
 お風呂はハダカで入るって、決まっているんだもん!」

 プルはそういってアッカンベーをしてリィナから逃げ回った。

「………ハァ」

 ジュドーが妹たちの鬼ごっこを見て、溜息を吐いたときだった。
 左腕に絡みつく感触。

「…ジュドー」

 プルツーだった。
 やや嫌な予感がしつつもそちらを向き、やや引き攣りながら話した。

「何だい、プルツー?」

「…アタシもね、大分大きくなったんだよ」

 そういってジュドーの腕に自分の胸をより密着させる。

「あっ、こら!
 …あっ、ホントだ。大きくなってる……!!
 じゃなくって………」

「じゃなくって………その先は?」

 ジュドーはその声を聞いて硬直した。
 壊れた機械人形のようにぎこちない動きで声のした方を向く。

 誰もいない。

「……よかった、気のせいだったか」

「そんなわけ無いでしょう!!」

 ジュドーが振り向くが早いか、その顔面にまことに綺麗な曲線を描くお御足が叩き込
まれる。その足の持ち主は………ルー・ルカだった。

「義妹相手に何してんのよ!
 全く」

「ずっ………ずみばぜん………」

「何云ってるか判んないわよ」

 そういって、ルーは蹴り込んだ足を少しずらした。

「!!!」

 ジュドーの無言の叫び。

「……?
 どうしたの、ジュ………」

 そこまで云ってルーは今自分がどんな格好をしているか気が付いた。

 慌てて飛び退くルー。

「みっ、見たわね!?」

「うん、見た………」

 それを聞いたルーは全身を真っ赤に染めた。

「わっ、忘れなさい!!
 今直ぐ! 即座に! 跡形無く!!」

 そういってジュドーに、やや引き攣った微笑みを見せながら迫る。

「む、無茶云うなっ!
 こ、こらプルツー!手を離せ」

 だが、プルツーが手を緩める気配は無い。

「わーすーれーるーのーよー」

 そういってルーは迫っている。
 小さい子が見たらトラウマになるであろう光景だった。
 生命の危機を察したジュドーの行動は素早かった。

 腕にしがみついて離れないプルツーを抱えて逃げ出した。

「あっ、こらー!
 まてぇ、ジュドー!」

 当事者達に取っては真剣な、だが傍観者にとっては喜劇でしかない追い駆けっこが幕
を開けていた。


− 同刻:箱根湯本 某混浴風呂2

 その頃魔装機神パイロット、マサキ・アンドーは………風呂で轟沈していた。

「マサキ、マサキ!」

 年齢不詳の美女ウェンディ・ラスム・イクナートはその熟れきった躰に一糸纏わぬ
侭、意識を無くしている彼を抱きかかえていた。

「だから、ウェンディさん!
 ハダカで出て来ちゃダメだって、云ったでしょう」

 もう一人の風呂仲間リューネ・ゾルダークはそういって怒っている中にもやや羨望を
滲ませつつ、バスタオルを差し出した。

「ここのおじさんから湯船にタオルを浸けるのは邪道だって聞いたから……」

 ソレを聞いて、年甲斐もなく眼前で人差し指をつけたり離したりしてモヂモヂするウェ
ンディ。そんな彼女を見てリューネは一層テンションを上げた。

「そんなのからかっただけに決まってるでしょう!」

「…ごめんなさい…」

 かしましく騒ぐ美女二人を余所に夢の世界へ旅立ったままの彼。
 余程衝撃が大きかったのか、未だ現世に戻ってくる気配はない。

 いや、戻れないのかも知れない。

 魔装機神【サイバスター】パイロット、マサキ・アンドー。
 人は彼を、彷徨いの達人と呼ぶ。
 それは夢の世界とて例外ではない。




− 三限目  社会

 …先の時間で疲れ切ったのか、この時間はみんな静かだった。

 …私も睡眠不足を解消することにする。お休みなさい、碇君………………


− 同刻:芦ノ湖・湖岸

「今日こそは私たちの仲を認めていただきたい、お義兄さんっ!」

 そういってギャブレーはスパッドを煌めかせて、打ち込んできた。それはもう渾身の
一撃といって良い。避け様の無い、実に鋭い一撃だった。

「誰が義兄だ、誰がっ!!」

 その一撃を別のスパッドから出された光刃によって防がれた。
 ダバ・マイロードの光剣だ。

 構わずギャブレーは言葉を続けた。

「私が義兄と呼ぶのは一人しかおりませんっ!
 お義兄さんっ!
 私たちは本気なのですっ!」

「年端もいかない少女を騙して、誰が認めるものかっ!
 ギャブレット・ギャブレーッ!」

 そんな二人を見ている8つの瞳があった。
 4つの瞳は興味津々といった具合であったが、残り4つはやや呆れ気味の色を帯びて
いるのは、否定しようも無い事実だった。

「男って、バカよねぇ〜」

 黒髪の少女ファンネリア・アムが呟く。

「あらそう?
 私はああいうの好きだけど」

 赤毛の佳人ガウ・ハ・レッシィは、それに応じた。

「じゃギャブレーは、レッシィ…アンタに上げる。何ならキャオも付けてあげるわ。
 で、私はダバと……」

「何、馬鹿な事云ってんのよ、アム!!
 あんなのは要らんっ!」

「ぉ〜お、無理しちゃってさ」

「無理なんかしていない!」

 二人の視線が激しい火花を散らす。
 その女二人を止めたのは、男二人以外は目に入っていない様子の少女クワサン・オリ
ビー他一名の歓声だった。

「ダバー、飯ドロボーなんかに負けんじゃねえぞーっ!!」
「お兄ちゃん、ギャブレー。
 二人とも頑張っれぇー!
 負けたりしたら、承知しないんだからぁ!」

「任しておけ、オリビー!」
「このギャブレー、貴女のために手間を惜しむような真似はいたしません!」
「好き勝手なこと云うなぁ!」

「あはははっ」

 ポセイダルの人形となっていたダバの義妹は、ハサン等の尽力もあり自我を取り戻す
ことに成功していた。ただ、その精神はさらわれた10歳から成長していないため、子
供っぽいところが多分に存在していた。

 そのためダバとギャブレーの争いも、自分の兄たちが仲良く喧嘩している程度にしか
感じていないらしかった。争いの原因が自分であることに全く気が付いている様子は伺
えない。

 その子供の様な歓声に毒気を抜かれた美女二人は、ドッと疲れたように互いを見やっ
た。

「もうそろそろ、お昼ね」「そうね」

「準備に掛かりましょうか……」
「そうしましょう……」

 湖岸では依然として激しい剣戟が響いていた。




− 四限目

「「「「えっ!?」」」」

 …その人物を認識した私たち4人は、その瞬間硬直した。

 …以前と変わりない、大学帽に学生服。今日はその上に、白衣を着込んでいた。

 …横と後頭部は刈り上げてはいるが、前髪は長く片目が隠れている。ただ、唯一出て
いる眼は半眼であったが期待を裏切り、実にのどかと云うか、緊張という言葉とは縁の
無さそうな目をしていた。

 …唐突に教壇に立ち、チョークを手にして黒板にナニやら書き始めた。
  一気に書き切ると、居住まいを正して講釈を述べ始める。

「さて...人間、勉強や仕事がたまりにたまって煮詰まってくると、しなければいけ
 ないことがあるのに思わずお風呂に入ったり、寝てしまったりします...」

「「「「「「「「「はぃ?」」」」」」」」」

「こーゆーのを逃避行動といいます」

「「「「「「「「「はあ?」」」」」」」」」

「判りましたね?」

 クラスメイト達の縋るような視線が耐えられなかったのか、おさげの委員長が席を立
ち上がり、恐る恐る口を開いた。

「あのー...」

「なんでせうか?」

「あの、アナタは一体どなたですか?
 それに今化学の時間なんですけど…」

「あぁっ!?」

 その人?が声を上げると同時に教壇側の戸が乱暴に開かれる。
 そして挑発長髪の男性が勢い良く、ハリセン振り上げ授業中の教室へ乱入してきた。

「不許可であるっ!」

 叩かれた衝撃で、その人?の首が取れる。

「「「「「「「「「うわぁぁっ!」」」」」」」」」

 教室中に騒ぎが拡がる。

「いやーっ」

 …そう叫んだのはアスカだった。
 やはり、以前の事がトラウマになっているらしい。

 暴れるアスカを碇君が必死になって、落ち着かせようとしている。

 …私はこめかみで何かが切れる音を聞いた気がした。

 …………アスカ。煩い……………

 私は赤木博士に教えて貰った秘孔を突いて、アスカを静かにさせた。

「ほら、見ろ!
 皆さん混乱して、パニックしてるじゃないか!」

 …その人は抜けた頭部を据え付け直しながら、受け答えした。

「そんなこと言っても、叩かれて私の首が取れるのはいつものことでせう。
 しょうが無いじゃありませんか」

しょうが無いで済むかっっっっっっっっ!
 この大ばか者っっっっっっ!!

 …そういって長髪の人は、その人を圧倒した。

「さぁこい、役所の仕事も溜まっているんだ。
 キリキリ働かせてやる!」

「あぁ、そんなご無体な…………」

 教室中のみんながあっけにとられてしまっていた。

「もし、転入生のお方……」

 …不意に横から声を掛けられた。横にある窓の外からだった。ちなみにこの教室は3
  階であることを失念していたのは、私らしからぬ事だったと思う。

「写真を一枚如何かな?」

「うわぁーっ!!!」

 碇君は窓の外を見て、硬直した。
 私は窓の外に現れた怪人物を問い質す。

 その痩せぎすな4,50ぐらいの怪人物は、どこか古めかしさを感じさせるやや吊り
目風のメガネをかけ、力強く結ばれ山型を形作る口元にはやや薄目の髭がたくわえられ
ていた。

「…あなた誰?」

 その質問に怪人物は凄みながら答えた。

「誰…?。
 私を誰だと…?
 私こそは世界に冠たる天才科学者N2こと、N原N行だぞ!」

 そういってその人は高らかに勝ち誇った。

「やかましぃーっ!
 何ガタガタ騒いでんのよ、オチオチ寝てもいられないじゃないっ!」

 …アスカ再起動。
 …最近ワザの効きが悪い。もうダメなのね………

「むぅ、小娘め!
 私を目の前にして寝るだと!?
 いい度胸だ…………えぇ〜い、ならば」

 そういって、怪科学者は構えていた正体不明の機械中央部にあった取っ手を引いた。

 ガシャンガッションとその機械は変形を繰り返しながら、大きくなっていく。
 開いては重なり、割れては包み込む。
 それはこの世の物理法則を見事に無視した光景だった。

「ふわっはっはっはっはっはっはぁーっ!!」

 変形を終えたソレは私の眼前一杯に広がっていた。胴体中央部にはレーザー発振部先
端レンズらしきモノが鎮座していた。

「あっ、綾波」
「「レイ、何しているのよ!
 逃げなさい!」」

 …碇君達が口々に声を掛けてくれいたらしい。だがその時私は目の前の余りの非常識
  さに硬直していた。

「ふっふっふっふっふ………余りの凄さに声も出ないらしいな……いくぞ〜ぉっ!」

「綾波、危ないっ!!」

 そう叫んで碇君は、私を捕まえて床に倒れ込んだ。

「………とりゃーっ!!」

 掛け声と共に怪科学者は、勢い良くトリガーを引いた。

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 そのまま、しばらくお待ち下さい m(__)m

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 …何も起きなかった。

 アスカが頬を引き攣らせながら、怪科学者へと近付く。

「…で?」

「…………」

 怪科学者のこめかみに一筋の汗が見えていた。

「何とか云いなさいよ!
 このっ……ヘボ科学者っ!!」

 アスカがそう云いながら、レンズを叩いた時だった。

「ひっ!」「いやっ!」「綾波っ!」「………(ポッ)」「やばっ」「うわっ」

 叩いた箇所がピシッという音を立てたかと思うと傷が疾った。それは瞬く間に広がり、
割れ目が開いた。開いた割れ目から、光が溢れて


 ……………そして、爆発した。



「爆発は、芸術だぁぁぁぁぁあ………‥‥‥・・・・」

 爆風の向こうから、その様な声が聞こえたような気がした。

 煙が晴れた後、アスカ心持ち呆然としていた。
 髪も乱れ、かなり煤けていた。

 ……でも、そんなことはどうでもいい事。

 …………………ポッ………………………

 …………………碇君の温かさが気持ちいい……………………

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 …その後、授業にならなかったのは当然と云えば当然だった。





<Aパート・了>



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ver.-1.02 1998+12/25 公開
ver.-1.01 1998+12/05 公開
ver.-1.00 1998+11/18 公開
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<作者の言い訳>      

作者  「某まっ○うさん家の人工無能な綾波に脅かされたとは云え………とんでも無
     いモノを書いてしまったような気がする。
     オマケに指定期日を一週間以上過ぎた上に、分割………まっ、相手もサーバー
     ごとお亡くなりになっているから、いっかー(^^;
     ・・・Bパートはなるべく早めに公開できるよう頑張ります」










 Gir.さんの『スーパー鉄人大戦F完結編』外伝1 Aパート、公開です。





 あったかそうなお風呂だよね(^^)


 にぎやかで、
 はなやかで

 いろいろあって


 楽しそうです〜



 まぁ
 いい思いを出来ていない風呂場もありますが・・(^^;
 大体の風呂場は
 良い想い出です〜


 混浴はいいねぇ。。





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