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 …学校に来て、良かった…

 …碇君の吐息…

 …碇君の鼓動…

 …碇君のあ・た・た・か・さ…

 …………♪










スーパー鉄人大戦F完結編    
外伝1〔安息:One day to wonder at the Rei〕
Bパート


− 放課後


「随分ゴキゲンねぇ...レイ?」

 あれからずっと碇君に髪を梳(す)かさせているアスカが呟いた。

《《《《《《《は?》》》》》》》

 その言葉を耳にした級友の大部分がそう思ったらしかった。なかには露骨に不思議そ
うな顔をするこも居た。勿論、そんなことはどうでもよかった。

 …いい気分のままで居させて欲しい。

 その時、私は内心そう思っていた。碇君が他の娘へ世話を焼いているのを見るのは、
正直気持ち良くは無い。

「…どうして(私の気分を悪くするような事をするの)?」

 常人には理解不能なその一言を、アスカは正しく理解していたようだ。短く返事が返っ
てきた。

「帰ってから教えて上げるわ」

 そういってアスカは更に機嫌を良くしていた。何に対してだかはよく判らなかったが
多分勝ち誇っているのだろう。教室の隅では誰かが「不潔よー」等と騒いでいるらしい
が全く頓着している様子はない。

 それと対照的だったのは、アスカの後ろで髪を梳いている碇君だった。顔を真っ赤に
して小さくなっていた。至る所から浴びせられる視線が痛いらしい。

 その突き刺さる視線に耐えかねたのか、碇君は縋るような声でアスカに懇願した。

「アスカぁ〜……‥‥」

「何?」

「もう(ブラッシング終わっても)良いかなぁ?」

 乾坤一擲と云った様子の懇願は、アイスの包装紙よりも冷たくあしらわれた。

「ダメよ」

 碇君に泣きが入る。

「(しくしく)勘弁してよぉ」

「…ダメたら、ダメっ。
 この私の髪が痛んだのは、シンジの所為なんだから!
 口を動かさないで、手を動かすのっ!
 わかったぁっ?」

 …かなり論理の跳躍があるようだが、アスカにとってはそれが真実らしい。碇君がか
  わいそう。

 …でも、それを口にすると被害を受けるのは碇君だ。耐えなければいけない。

「とほほほほ……‥‥」

「シンちゃん、ミサトさんみたいな嘆き方してる」

 …朱と交われば紅くなる。

 マナの一言は、そんな言葉を頭の隅をよぎらせた。

        :


 今日は試験期間明けであったらしく、半日授業だった。
 授業はもう無いらしい。HRを終えた私たちは下校した。

 校門を出るまで、かなりの数に登る学校内組織への(一部学校外非合法組織のそれも
あった様だが)勧誘があったが、全てアスカとマナの活躍により排除された。

 楽しかった学校初日はこうして終わり、私たちは学校を後にした。

 なお下校時のアスカとマナの活躍が伝わり、春学最強の呼び名も高い『土木研究会』
などを引き寄せることになるのだが、それはまた別のお話。

        :

− 同刻:【ネルフ】本部・機動兵器整備ブロック【ロンド・ベル】割り当て区画

「シンジくぅ〜ん(シクシク)」

 そう叫びながら、クルクルと踊りつつ泣くという変態的宴会芸を披露しているのは、
云うまでもない。〔白銀髪の貴公子〕〔【AEユーロ】の秘蔵っ子〕と、云われていた
渚カヲルだ。

 現在では、唯の変態であることは周知の事実だった。

 オルゴールの中で踊る人形のように、彼の踊りは止まらない。
 踊りつつも、さめざめと今の気持ちを口にする。

「シンジ君の澄んだ瞳………」

 そういって彼は目を伏せた。

「アスカちゃんの熟れきらない胸……」

 そういって彼は自分の胸をかき抱いた。

「マナ君の小振りなお尻………」

 そういって彼は胸をかき抱いた手を下にさげた。

「レイちゃんのすべらかな脚………」

 そういって彼は右脚を上げて、足の付け根に廻した手を添えた。

「それが無い日常に、僕は耐えられないっ!!」

 そういって彼は悲しげに再びクルクルと舞い踊る。


 それを見ていた【ロンド・ベル】整備員Bは、同・整備班長Aに食後のお茶を楽しみ
ながら、いかにもと言った様子で言っていた。

「退屈しまへんな、班長」
「そやな」


「シンジくぅ〜ん(シクシク)」

 …当然リピートである。



− 下校

 …私たち4人は初登校にも関わらず、十年来そうであるかのように一緒に家へ帰って
  いる。

 碇君を真ん中にして、右腕を私、左腕をアスカに捕まれている。
 その周りをマナが楽しそうに碇君を付いたり離れたりしながら、クルクルと廻っていた。

 そんなマナを見ながら、やや恥ずかしそうにした碇君が口を開いた。

「ねぇ、マナ?」

「なあに、シンちゃん?」

 シンジに名を呼ばれたマナはもしあったなら全開で尻尾を廻しかねない様子で、返事
した。碇君の向こうでアスカが眉を寄せて嫌そうな顔をしている。所有権を主張するた
めか、廻した腕を一層きつく抱きかかえる。

 …私も

 だが、碇君はそうする私たちに慣れてしまったのか、無視しているのかマナとの会話
を続ける。

「どうやって、僕たちと同じ学校に転入して来たの?」

「うーんとねぇ………」

「うん」

「えーとねぇ………」

「うん、うん」

「あのねぇ………内緒☆」

「えぇ〜、ズルイよ
 マナぁ〜」

「シンジ、いいからほっときなさいよ!
 どうせマヤ辺りに頼み込んで、学校ホストへクラッキングでもしたんでしょう」

 アスカの言葉を聞いて、マナは笑って誤魔化している。
 碇君はどうかは知らないが、私には判った。その通りかそれに近いことであることは
流れ落ちたこめかみの冷や汗が語っている。

「そうなの…マナ?」

 碇君はマナに聞く。

「えへへへ…………もう、シンちゃん………」

「何?」

 マナは碇君の耳元に口を寄せて、一言云った。

「…エッチ」

 脈絡も無く、そう云われた碇君は顔を真っ赤にしてそれを否定する。

「ちっ、違うよっ。そんなんじゃなくって、あの…その……」

「もう、シンちゃんたら…カワイイっ!」

 照れる碇君を見て、マナは抱きついた。

 …アナタ、何をするの(怒)………

 だが、私が何かをするまでもなかった。
 アスカが攻撃モードへ移行したようだ。

「何やってんのよ、アンタ達は!
 ………マナ、知っている?
 公共機関へのクラッキングは重罪なのよ。
 通報してあげましょうか?
 暫く、別荘でゆっくりしてくると良いわ」

 その言葉にマナは碇君を離さないまま、応えた。

「あーら、ご親切に………
 大丈夫、誰かさんみたいに痕跡を残すようなヘマはしてませんわ」

 マナがアスカの古疵を抉る。

 双方とも睨み合いに入った。

 アスカは、既に碇君に廻していた手を離していた。
 マナも碇君から離れて、腰を落として備える。

 …いつもの様にどちらも本気だった。

「今日こそは決着を着けるわよ、マナ………」
「望むところよ、アスカ…………今日こそ戦自式格闘術の奥義、見せて上げるわ」

 時が満ちる。

「「いくわよ、せりゃぁぁぁぁあ!」」

 二人の拳を中心とした衝撃で、地面が同心円を描き陥没した。

「アスカ、マナ!
 止めてよ! こんなの、僕イヤだよ」

 碇君はそういっているが二人とも止める様子は無い。実力が伯仲しているため、周り
に気を配る余裕がないのだろう。

 …チャ〜ンス、..なのね。

「…碇君」

「綾波……」

 呼び掛けた私に希望を抱いたようだ。碇君の顔に笑みが浮かぶ。

「帰りましょう」

「えっ!?
 でも…………」

 云い澱む碇君の目を見つめて、再び口を開く。

「…帰りましょう」

 だが、まだ視線を私と闘う二人の間で忙しく行ったり来たりさせながら、逡巡する碇君。

 ここはもう一押し必要の様だ。リツコお母さんから手ほどきを受けた、あの技を使う
のは………今。

 私は碇君の頬に手を添えた。
 碇君の注意が私の手に向く。

「……帰りましょう(うる)」

 …お母さん直伝の涙目。これで迫ればイチコロだと云っていた。

 …碇君の顔が真っ赤。効いたのね。

 後は実力行使あるのみ。

 私は碇君と二人で帰ることに成功していた。

 …ありがとう、お母さん。

        :

− 同刻:【ネルフ】本部・技術部

「っくしゅっ!」

 遠隔操作式マジックハンドの操作の真っ直中、リツコは彼女らしく極控えめにクシャ
ミをした。

 だが、それを見た周りの技術部員達は顔を引き攣らせる。

「(ぐしゅ)…風邪かしら、この大事なときに………無様ね」

 現在、ここ【ネルフ】本部技術部では、人類未曾有の超長距離遠征のためにMAGI
で培った第7世代コンピュータ技術とシェリルのもたらした新たな理論を組み込み、新
システムの構築に勤しんでいた。今はその中でも最重要部分のハードウェアモジュール
組立をやっている最中なのである。ここでの失敗は作戦全体に影響を及ぼしてしまう。
勢い緊張が奔る。

「先輩!」「Dr.アカギ!?」「赤木博士!?」「部長!?」

 マヤやシステム構築を手伝っているニナ・パープルトンや本来の年齢より高めに見ら
れてしまうことが悩みのシェリル他、技術部員等が口々にリツコの蛮行を咎めた。

 だが、人類の至宝・【ネルフ】の魔女、赤木リツコは事も無げに呟いた。

「少し手元が狂ったかしら…まぁ、いいわ。
 この程度でどうこうなるようなシステムじゃあ、使いモノにならないもの」

 言い終わるが早いか、窓一枚隔てた先ではスパークが舞い上がり、作業員十数人が吹っ
飛んだ。

「「ひゃうぅぅっ!」」「「たわばっ!」」「「「ひでぶぅっ!!」」」

 その様子を見て、リツコはモニターへ目をやる。
 そして、システム上に問題がないことを確認すると再び呟いた。

「………問題ないわ(ニヤリ)」

 絶句する一同。

「「「「「「「………………」」」」」」」

 …何処かで誰かに悪い病気でも貰ってきたらしい。

 問題おおありである。





− 帰路

 …♪

 …今日は好い日だと思う。碇君に抱擁され、そしてまた今は碇君と二人だけ…このま
  ま、ズッと二人っきりになれたら………

 そんな想いが頭の隅をかすめた。

 だが、その願いは呆気なく崩壊した。
 
「あっ………ノリコさん」

 碇君はそういって向こうから、駆けてくる人を呼んだ。

 確かにあのプラグスーツをより機能的にしたようなレオタード状のユニフォームを着
込んでいるのは、確かに高野ノリコ中尉だ。

「あー、シンジ君だぁ!
 レイちゃんも一緒…ひょっとして、デートかなぁ?
 相変わらず、シンジ君モテるんだぁ〜」

 ノリコさんは私たちの側まで来て、そういった。

「そんなんじゃあ、無いですよ…からかわないで下さい」

 …確かにそう…
 …でも、何? この胸に広がるモヤモヤは…

「ふ〜ん…
 じゃあ、その組んだ腕は何なのかなぁ〜?」

「えっ!? やっ!? その…」

 意味不明の単語を口にて碇君は、腕を放した。
 暫く慌てる碇君を見いたが、何を思ったのかガンバスターパイロット(注:ノリコの
事です)は、碇君の頭をその胸へ抱きかかえた。

「もう、シンジ君たら…シャイなんだから!」

「ノリコさん!?」

 …どうしてみんな碇君に抱きつくのだろう。

 …この胸の中のモヤモヤが、噴き上がるような何かになったような気がした。

「ノリコさん、止めてください!
 恥ずかしいですよ!」

「ゴメン、ゴメン…あら、レイちゃん。怒った?」

「…いいえ」

 私の答えを聞いて、ガンバスターパイロットは気まずそうな顔をした。
 数瞬考え込んだ後、何かを思いついたらしく碇君の腕を取った。

「ノッ、ノリコさん、なにを!?」

 碇君の質問に答えず、ガンバスターパイロットは私を見て口を開く。

「レイちゃん、ゴメンねぇ〜。
 ほら、シンジ君と腕組みさせて上げるから、機嫌なおしてっ」

 そういってガンバスターパイロットは私と碇君の腕を絡ませた。

 …私の胸の中で暴れていたモノが鎮まっていくのを感じる。

「やっぱり、レイちゃんは碇君が居ればご機嫌なんだぁ〜」

 …何云うのよ(ぽっ)
  横を見ると碇君の顔が真っ赤だ。それを見て私は嬉しくなるのを感じていた。

 碇君もそれを判っているのか、どこか誤魔化すようにして、ノリコさんに言葉を投げ
かけていた。

「そ、それはともかく。
 ノリコさん…ジョギングですか?」

「うーん、出来れば走り込みって云ってくれない?」

「走り込み?」

「そう。
 こう見えても私特訓の最中なんだから!
 コーチが居なくても立派にやっていけるって事を証明しないとね」

「そうなんですか…」

「そうなの。
 いっけない…早くしなくっちゃ、日が暮れるまでにメニュー全部こなせないわ、急が
 なきゃ!
 じゃあ、シンジ君、レイちゃん、またねぇ〜」

 …そういってノリコさんは私たちと別れた。
  残された私たちの間に少し気恥ずかしさが漂う。

「…綾波、じゃあ僕たちも帰ろうか」

 そういって、私に微笑んでくれた。
 私は、俯きつつ頷いていた。




− 13:15 帰宅

 結局、私と碇君は腕を組んだままコンフォート17まで帰ってきていた。

 葛城三佐宅が近付くにつれ、碇君の表情が変わる。
 戦いに望む『漢』の顔だった。

 余談だが私は未だに碇君達の云う『漢』と云う言葉の意味がよく判らない。
 碇君は兎も角、他にそう云われている人たちをも視野に入れた場合、全くと云ってい
いほど共通項が無くなってしまうのだ。でも、碇君の判ることは私も判るようになりた
い。今度またゆっくりと『二人っきりで』教えて貰うことにしよう。

「…綾波、離れてくれるかい?」

 碇君のその言葉に、私は頷き組んでいた腕を離した。

 ドアロックを解こうとする碇君の表情は真剣そのものだった。

「…今日こそは」

 碇君の口から、絞り出すようして紡ぎ出される声。

「今日こそは勝つ!
 流派東方不敗の名に賭けてっ!!
 勝負っ!!」

 ロックが解除され、
 ドアが開いた。

 勢い込む碇君だったが、そこには何も居なかった。

「いない!?
 しまった、後ろ!?」

 その一瞬の隙を衝くように上がる雄叫び。

「クケェェェェェェェッ!!」

 背後で挙がる声と共に、黒い影が碇君を襲った。

「しまった!!」

 碇君は振り返りつつ、眼前に腕を交差させて攻撃を防ぐ。
 それは間一髪で黒い影の攻撃を受け止めていた。

 奇襲を防がれた孤影は、トンボをきる。

「おぉぉぉぉぉぉぉ〜っ!」
「クワワワワワワワ〜ッ!!」

 無論防御が手薄となるその時を碇君は逃さず、連打を浴びせる。
 が、それは全て返される連打などで封じられた。

 影は碇君の反撃を全て受け止め、碇君と対峙した。

 それは…………ペンギンだった。
 正確にはDCの東京攻撃の際、某研究所より逃げ出したと云われる温泉ペンギンだ。
 現在では野生化しており、関東地方温泉地帯の周辺でよく確認される。
 極めて闘争本能旺盛な気質と生息域が重なる事から害獣化した日本猿を退ける事に加
え、何故か温泉に入っている時は温厚になり愛想が良く振る舞うことが相まって、今で
はすっかり温泉地帯のマスコットになっていた。

 目の前にいる『ペンペン』はその中でも特に高い戦闘能力を誇り、箱根湯本の主であっ
たらしい。が、あの事件以来何故か私たちの後を着いてくるようになった。

 碇君にとっては倒すべき敵として、私やアスカ、マナにとっては勇敢で気の優しい小
さな同居人として、葛城三佐やお母さんにとっては気持ち良い呑み友達として、受け容
れられている。

「………奇襲とは、考えたね」

「…………………」

「でも、そんな攻撃で僕は倒せない」

「…………………」

「今日こそは負けないよ」

「…………………」

 端から見ると奇妙な構図だが、どうやら人語を解すらしいペンペンには有効な戦術だ。
先程の奇襲で奪い取られていたイニシアチブを取り返していた。

 だが、その次の手は拙かった。

「あっ、UF…」
「クケェェェェェェェッ!!」

 指で有らぬ方向を指して叫んだ碇君だったが、その言葉を最後まで叫ぶ事は出来なかった。

 …策士、策に溺れる。

 余計な策を講じようして出来た隙に、イニシアチブを取られた振りをしつつ、隙を窺っ
ていたペンペンが必殺の跳び蹴りを見舞ったのだ。

 ゆっくりと音もなく倒れる碇君。

 ペンペンはそんな碇君を見て、

《今日はこれぐらいに、しといたろー》

 と云った様子で部屋の中に引き上げていった。

 …今日も負け。碇君は不名誉な連敗記録をまた更新した。

 だが、今日はアスカ達が居ない。

 …一人で介抱していいのね。

 私は足取りも軽やかに、倒れた碇君を介抱するための準備に向かった。

        :

 暫くして碇君が意識を取り戻した。

「…?」

 ここがどこだかよく判っていないようだ。頭を動かす度にその柔らかな黒髪が私の太
股をくすぐる。

「…くすぐったいわ、碇君」

 そう云われて碇君は彼の頭上に位置していた私の顔へ視線を上げた。

「あっ、綾波!?」

 そんな碇君がおかしくて、私は微笑みと共に返事した。

「…何、碇君」

「……………………………………」

「碇君?」

「あっ、いや‥‥‥何でも無いよ。
 そういえばお昼まだだったね」

 私は碇君の髪を手で梳きながら答えた。

「そうね‥‥‥」

「店屋物でも取ろうか?」

「もう遅いわ‥‥‥」

「そうだね、じゃあ‥‥」

「…私が作るわ」

「えっ‥‥‥今日のお昼は僕の番だよね」

「‥‥ダメ?」

「だっ、駄目じゃないよ、嬉しいよ!」

「…そう」

 その時、私の脳裏で閃いた。

「…碇君」

「何?」

「その代わり一つお願い…いい?」

「僕に出来ることなら、いいよ。
 何をすればいいの?」

「…食事の後、チェロを弾いて欲しいの」

 私は碇君の演奏するチェロの音色が好きだ。世界を漂う私を繋ぎ止めていてくれる。
 そんな感じがする。

「判ったよ、綾波。
 じゃあ、お昼にしてくれるかな‥‥‥僕もうお腹空いちゃったよ」

 私は無言で頷き、キッチンへと向かった。

        :

 静かな食事は終わり、碇君に約束通り私の為だけにチェロを弾いて貰う。

 ゆっくりとたゆたう刻。

 この刻が、いつまでも続けば………
 そんな生きとし生けるもの者達を冒涜するような考えが黄金の輝きを持って、私を誘っ
ていた。

        :

「……波、綾波っ!」

 幸せに浸る私を、碇君が呼ぶ。
 こう云うとき私はアスカが碇君のことを『ニブチン』と呼ぶことを少しだけ理解出来
る様な気がする。

「綾波、寝てるの?」

 …碇君が私のために演奏してくれているのに、寝るとでも思っているのだろうか。

 私は目を開き少しだけ不機嫌そうな顔を作って、碇君に応えた。

「…何」

「うわぁ…お、起きてたの?」

「…ええ」

「そうなんだ‥‥‥アスカ達、遅いね」

 気まずそうにした碇君は話題を変えて、この場の雰囲気を変えようとしたらしい。
 だが、話題が悪い。
 私の機嫌は一層悪くなる。

「そうね…まだ帰ってきてないわ」

「大丈夫かなぁ」

「心配ない‥‥‥お腹がすいたら帰ってくるわ」

「そんな、犬や猫じゃあるまいし」

 私はそれには答えず、差し迫った用事を口にした。

「…そろそろ、いい時間。
 買い物へ行きましょう」

「もう足りないの?」

「ええ…」

「そっか、じゃあ買い物へ行ってその帰りに二人を連れて帰ろうよ」

 この辺は私たちの教育の成果だ。
 なにも言わなくても、一緒に買い物へ行くことが前提となっている。

「判った…
 後、加持三佐が寄るように伝言が入っていたわ。
 野菜を少し分けてくれるそうよ」

「それは嬉しいね、綾波。
 じゃあ、行こうか?」

 そういって碇君は私に手を差し伸べてくれた。




− 16:05 買い出し

 もうこの時間ともなると日が陰っている。
 いつもであれば、何処か物悲しいものを感じるはずだが今日は感じない。

 …碇君の背中だけを見ているから。

 私たちは自転車に乗ってスーパーへ向かっていた。無論私は碇君の後ろに乗っている。
 何と言っても5人と一匹とお邪魔虫が一人の食べるモノを買い出しせねばならないか
ら、その量はそれなりにある。碇君はいいと言っては居たが、アスカや私の強い希望に
よって購入された。

 …何も云わないがアスカも碇君に抱きつきたくて、自転車を買わしたのでは無かろう
  か。そんな事を考える私もそう思っていることは否定できないから、たぶん間違い
  ないだろう。それは時々一緒に買い出しに云った後のアスカの機嫌がすこぶるよい
  事が証明していた。

 幸せなときは過ぎ去るのも早い。もうスーパーへ着いた。

「綾波、今日は何を買うの?」

「わからない…適当に買ってみる。
 ………お肉以外」

 それを聞いた碇君は少し微笑ましげにして、私を注意した。

「駄目だよ、綾波。
 好き嫌いは無くさなきゃ」

 …碇君のイジワル

「僕は綾波にもっと綺麗になって欲しいだけなんだけどなぁ‥‥‥」

 …え?

「今でさえ、とっても綺麗なんだけど、僕は好き嫌いしなくなったら、綾波はもっと綺
 麗になる思うんだ」

 …嬉しい

「だから、お肉も食べようね。
 綾波?」

 …碇君はイジワルだ。そんなことを言われて、私が断れる訳がない。
  私は頷いて、碇君の云うことに従うことを伝えた。

        :

 スーパーで一通り買い物を済ませると私たちは加持三佐の畑へ向かった。

 やはりそこでは加持三佐が野良仕事に精を出している。今日は土を弄りながら傍らの
男の人と何やら話し込んでいた。

「やっぱり、肥料の量を押さえたのが良かったかな?
 北条真吾殿」

 北条真吾。正体不明のビムラーをエネルギー源とする55m級人型機動兵器【ゴーショー
グン】を駆るグッドサンダーチームのリーダー。勁くて優しく、…そしてとても悲しい人。

「殿は止めてくれ、殿は。
 俺はそんな大層な人間じゃないよ」

「いやいや、時の流れに流されるまま永遠を漂いながらも強く生きる貴方達には控えめ
 すぎる表現でしょう。おまけに美味しい野菜の作り方まで、教えて頂いて居ますから
 ね。何なら、師匠とでもお呼びましょうか?」

「それこそ願い下げだ、勘弁してくれよ」

 そういってお互いの顔を見合い、弾けるように笑い始めた。

「「はははははは……‥‥‥・・・」」

 声を掛けるのを躊躇っていた私たちを、振り向きもせず加持三佐は気付いてくれた。

「で、シンジ君達のお出ましだ。
 ん?
 今日はアスカとマナ君は無しか?
 まあいいか。
 シンジ君、レイちゃん元気してるか?」

「どうも、加持さん。元気してます。
 野菜分けて貰いに来ました」

「おう、待ってたよ。
 ちょっと取ってくる。それまで真吾さんと話しでもしていてくれ」

「はい」

 そういって加持三佐は畑の向こうの方へ行く。

「北条さん、ここで何しているんですか?」

「おや、知らなかったのかい?
 リョウジ君に頼まれてね、美味しい野菜の作り方を教えていたのさ」

「野菜の作り方、知っているんですか?」

「あぁ、色んな所で色んな野菜作ったよ。
 地球でも、それ以外でもね。
 でもやっぱり地球はいいな。土が良いからそこから取れる作物も自然と美味しくなる。
 作り甲斐があるよ。
 どうだ、シンジ君も一緒に作るか?
 自分で作った野菜は旨いぞ」

「あ…いえ、僕は…………」

 …『加持三佐達と一緒に野良仕事』 = 『私と一緒に居れる時間が減る』 = 『駄目』

 出された結果に対する行動はいつもより数倍、数十倍早かったと自分でも思う。

「…お断りします」

「手厳しいなレイちゃんは。
 そういえば、後の二人はどうした?
 いつも一緒にいるのに今日は居ないな」

「…アナタもいつもの三人ではないわ」

「おやおや。
 僕は嫌われちまったかな…そうか、シンジ君を取られると思ったんだな。
 やるじゃないか、色男」

「…………」

 北条さんに肩を叩かれた碇君の顔に浮かんだ表情は何?

 …戸惑い
 …恥じらい
 …それとも喜び?
  何とも云えない複雑な表情をつくっていた。

 …アナタは碇君をイジめるの?
  私は碇君にその様な顔をさせた北条さんを睨み付けた。

  北条さんは冷や汗を流して固まった。

 …やはり、やましいところがあるらしい。

 暫く時が止まったかのように動きを止める私たち。

 妙な雰囲気を払おうとしたらしい碇君は別の話を振った。

「あの、加持さん遅いですね……」

 硬直していた北条さんは一も二もなくその話題に飛びつく。

「あっ、ああ……そ、そうだな。
 そろそろだと思うんだが………やっとお出ましだ。
 おーい、加持君(…早くこーい)」

 …北条さんの心の叫びが聞こえたような気がした。

 その後加持さんから分けて貰った野菜を受け取ると私たちは礼を言って畑を後にした。
 次はアスカ達を迎えに行く事になる。

 …二人っきりの時間は後少しだけ。
  ホンの少し、胸の奥でむずがる私を感じた。

        :

 自転車を押す碇君の横を、私が一緒に歩調を合わして歩く。

 …赤らんだ空が全てを朱に染める。
  この時は私も碇君も同じ色になる。
  だから、私はこの時間が好きだ。

 碇君はどうなのだろう?

 その一言を言おうとして、唇が震える。

 だが、それは口を出ることはなかった。

 …碇君が先に口を開いたから

「綾波、あそこにいるのはカミーユさんじゃないかな?」

 碇君の視線を追うとその先には二人並んで座る【ロンド・ベル】MS隊のエースパイ
ロット、カミーユ大尉が居た。もう一人は民間協力者のフォウさんだ。彼女は私に色々
と世話を焼いてくれる。

 どうしてかは判らない。でも、嫌ではなかった。

 夕焼けの中、並んで座る二人は本当にお似合いだ。でも、何か足りない気がする。

 …ロザミィが見えない所為だ。あのいつもカミーユ大尉に引っ付いて賑やかにしてい
  る義妹が今日は見えない。

 …そう、あの人も私と同じなのね。

 碇君が彼女達に声を掛けようとしていたので、私はその口を手で塞いで止めた。

「モゴ!?」

 目を白黒させる碇君。そんな碇君に私は耳元へ口を寄せ囁いて上げた。

「邪魔をしては駄目…」

 碇君はそれを聞いて、首を縦に振る。
 判ってくれたようだ。

 …でも、何故か夕日よりも顔を赤くしている碇君。何かあったの?

 私たちは邪魔をしないよう、静かにその場を離れた。

        :

 その場を少し離れた所で、ロザミィを見掛けた。

「おにいちゃーん、どこーっ
 おにいちゃーん!」

 何処か楽しげな様子。
 どうやらかくれんぼか鬼ごっこでもしているつもりらしい。でも、確実にカミーユ大
尉達に近付いているようだ。………侮れない。

 私たちを見つけたロザミィは手を振りながら、駆け寄ってくる。

「シンジちゃーん、レイちゃーん!
 お兄ちゃん、見なかったぁ?」

 それを聞いた碇君は少し困った表情をして、私の方を見つめた。

 私は碇君が言わんとすることを理解した。

「……向こうの方で見掛けたわ」

 それを聞いたロザミィは飛び上がらんばかりに喜ぶ。

「本当!?
 ありがとう、レイちゃん!
 じゃーねぇ」

 求める答えを聞いたロザミィの行動は実に素早かった。
 礼を言うのもそこそこに、あっという間に駆け出す。

 その余りの行動の唐突さに呆気にとられたらしい碇君がポツリと漏らした。

「………忙しい人だね」

「…そうね」

「でも、いいの? あんな事言って」

「…嘘は吐いていないわ
 言った方へ進めば、じきに逢えるわ」

「どのぐらい?」

 …碇君、今日はチェックが厳しい。
  私は聞かれたことに対して正直に答えた。

「…地球をひとまわりぐらい」

 この時碇君がどんな顔をしていたかは、私だけの秘密。


        :

 ようやく下校ルートまで来た。

 アスカ達の戦いの痕跡がそこかしこに見られた。既に痕跡の幾つかは保安部直属の工
兵部隊が修復作業に取り掛かっていた。【ネルフ】のエンブレムの左右に書かれた『安
全第一』も白々しいヘルメットを被った工兵に混じって、ボスが指揮を執りつつ作業に
励んでいる。その腕には〔A.T.フィールド対策班長〕と書かれた腕章が巻かれていた。

「あれ、ボスさん?
 お疲れさまです。」

 碇君が労いの意味も込めた挨拶をする。
 それに威勢良く応じるボス。

「よぉーう‥‥‥なんだ、シン坊か。
 今日も嬢ちゃん達、派手にやってくれたぜ」

 その言葉に碇君は肩身を狭める。

「はぁ、どうも」

「気にするな、って事なのよ。
 ここまでやられると却って、気持ちがいいだわさ」

 そういわれて一層恐縮する碇君。

「‥‥‥‥‥」

「で、シン坊は、嬢ちゃん達迎えに来たんだろ。
 向こうの陰でへばってるから連れて帰ってやんな」

「どうも、ありがとうございます」

「嬢ちゃん達にもう少し、さやかさんでも見習うように言っといた方が良いだわさ。
 あれじゃ、シン坊以外に嫁の貰い手無くなっちゃうじゃねえの?
 いっそ両方貰うか、シン坊?」

 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥#
 …いつものこととは言え、どうして【ロンド・ベル】関係者はそちらの方へ話を向け
ようとするのだろう。それは私の心をかき乱す。

「おっと、忘れてた。
 綾波の嬢ちゃんもだよな?」

 ……………(ポッ)

「勘弁して下さいよ、ボスさん。
 僕はまだ結婚なんて考える年じゃないです」

「冗談だよ、冗談。もしかしてその気になったのかな、シン坊は」

 思いっきり赤面する碇君は碇君らしからぬ様子で返答する。

「知りませんっ!
 アスカ達は向こうでしたね、お仕事頑張って下さい」

「おう、じゃあな!
 野郎共、日が暮れる前に片付けるわよーん!」

 ボスの威勢の良い言葉に工兵達もノリの良い反応を示した。

「「「「おーっ!!」」」」

 すっかり【ネルフ】の、というより、ボスの部下となってしまっているようだった。

        :

 ボスの言うとおり、少し離れたところでアスカとマナが居た。

 死力を尽くして体力を使い切ったのか、背中合わせになって地面に座り込んでいる。

「アスカ、マナ?」

 それまでぐったりとしていた少女達が気怠そうに碇君の方を向いた。

    ジィー 
「「シン   ‥‥‥‥‥‥」」
    ちゃん

「なに?」

「「おなか、すいた……‥‥・・・・」」

 ‥‥‥(ぷっ)‥‥‥

 私は彼女達らしからぬ様子に思わず、吹き出してしまったがそれは碇君も同じだった。
 違っていたのは、吹き出さずに少し苦笑した事ぐらいだ。

「…そういうと思って、アンパン買っておいたんだ………ぁ〜〜〜〜あ!?」

 アンパンと牛乳を買い物袋から出す碇君に、アスカとマナはようやく救助された漂流
者のような表情をして、抱きついた。

    ジっ
「「シン   、偉い!」」
    ちゃん

 …何処がへばっていたのだろう…

 先程まで疲れ切っていた筈の彼女達は、元気一杯に碇君を挟んで押し合いへしあいし
ていた。

「ちょ、ちょっと落ち着いて!
 パンを渡せないじゃないか」

 そんな彼女達の間で苦労(?)しながらも、食料配給する碇君。

 その手に渡されたパンを袋を破る間ももどかしげに、彼女達は口一杯に頬張った。

 バク、バク、バク、バク………‥‥‥・・・

 そんな擬音が何の違和感もなく辺り一面を埋め尽くす。

「うっ‥ぐぅっ!」

 …案の定、マナがパンを喉に詰まらせる。
  右手で喉元を押さえて、左手で胸を叩いている。が、効果を発揮していないようだ。
  真っ赤になっていた顔が、元に戻ったかと思うと青くなる。

「マナ、慌てなくてもパンは逃げないよ」

 そう言いつつ碇君はマナに渡されたまま、封を開けられていない牛乳パックを開いて、
マナに渡した。マナはそれを奪い取るようにして受け取り、勢い良く飲み干す。

「シンちゃん、あり………」
      「むぐーっ!

 マナの喉詰まりがおさまり、感謝の言葉と共に何かしようとした実に際どいタイミン
グでその様子をアスカが、マナと同じように藻掻き始めた。横を向いていた碇君の背中
を何度も何度も叩く。

 それを碇君は半ば予想していたようで少し苦笑するような顔をして、アスカのパック
を手に取り、開けた。

「はい、アスカ」

 差し出されたパックをアスカは、碇君の手ごと受け取った。そして、そのまま自分の
口元へと寄せた。アスカも碇君も真っ赤になっていた。

「「…アスカ、ズルい」」

 私とマナの呟きが綺麗にユニゾンした。

 その時思いも掛けない方向から声が懸かった。

「何がズルいんだい?」

 …えっ、誰?

 その声の主はごくごく平凡な大学生のような気楽な格好をしている。後ろにはやはり
女子大生のような少し地味だが可愛い服を着た、ロングヘアの女性を連れていた。見覚
えがあるような気がしたが記憶と現実が上手く結びついてくれない。そんなもどかしさ
を感じた。

「ショウさん?」

「やあ、シンジ君。
 今頃学校からのお帰りかい?」

 …確かにショウ・ザマだった。ただ格好がいつもの鎧兜姿では無いため、よく判らな
  かったのだ。では、後のもう一人は? 私がその疑問を口にするまでもなく碇君が
  聞いていた。やはり碇君も判らなかったらしい。

「えぇ、まあそんなところです。
 ショウさん、後ろの女(ひと)は……?」

「何言っているんだい。
 シーラ様だよ。」

 ショウさんがそういうと、後ろの彼女が私たちによって挨拶した。

「今日はお互い奇妙なところで逢いましたね、碇シンジ、惣流・アスカ・ラングレー、
 綾波レイ、霧島マナ」

 姿はいつもと違うが、その鈴の鳴るような声で落ち着いた話し方をするその人は間違
いなくシーラ・ラパーナ女王だった。

「「「えーっ!! ホントにシーラ様だーっ!!」」」

 私たちの反応にシーラ様は少しはにかんだ表情をした。

「変、………でしたか。
 この服は似合いませんか?」

 その言葉を私たちは一様に首を横に振って否定した。
 私以外はそれに『力一杯』という修飾詞が必要なほどだった。

「そうですか、ありがとう」

 そういって、優しい微笑みを私たちに向けてくれる。

「ショウさん、でも今日はどうしたんですか?
 そんな大学生みたいな格好してますけど」

「みたいなじゃなくて、そうなんだ。
 知らなかったかい? 僕はこれでもバイストンウェルへ行くまではれっきとした大学
 生だったんだ。今でも籍は残っている。」

 それを聞いたアスカはショウに質問する。

「シーラ連れて、大学へ何しに行っていたのよ?」

「ん? ああ、シーラ様が”学校”と云うモノを見てみたいと言うからね、アルテイシ
 アさんの薦めもあって第三東京大学の聴講に行ってきたのさ」

「あら、そう。
 で、シーラはどうだったの?」

 流石はアスカ。一国の女王相手にタメ口である。恐れというモノを知らない。
 が、シーラさんは全く気にした様子はなく、ごく自然に応じている。

「ええ、とてもタメになる話を聴けましたわ。」

「でも、どうして?」

「どうして?
 …そうですね。色々ありますけど…」

 そういいつつショウに熱っぽい視線を送る。

「…バイストンウェルへは還れそうもありませんから」

 シーラは目を伏せた。

 地上へ現れた経緯から半ば予想されていた事だが、バイストンウェルへの道は一つを
除いて全て閉ざされているらしい。それが調査に協力したラングラン技術団の結論だっ
た。残る一つの道というのも生きては行けぬ道であったから、実質的に彼ら放逐された
バイストンウェルの民が故郷の土を踏むことは不可能だった。

「…ですから、臣のことを含めて作戦を終えた後のことも考えておく必要があります。
 その為には、もっとこちらのことを知らなければならないのです」

 それを聞いてマナが感心していた。

「さっすが、女王様。
 色んな事を考えているんですね」

 マナの賞賛に、シーラは微笑みつつ答えた。

「それが上に立ち、尽くされる者の義務です」

 そうこう話している間にも日はどんどん暮れていく。

「大分遅くなってきたな。
 そろそろ帰るとしよう。それじゃあ、シンジ君達も気を付けて」

 ショウがシーラを促す。

「それでは、また逢いましょう」

 シーラに、私たちは綺麗に声を揃えて返事をした。

「「「「それじゃあ、また」」」」

 立ち去るショウとシーラ。

 私たちも、アスカとマナが乗った自転車を碇君が曳かされるハメになるなどと言うこ
とがあったりはしたが、無事コンフォートへと帰り着いた。



− 19:30 夕食

「ホントにファーストはズルいわね。
 私がマナとヤリ合っている間にさっさと帰って、オマケに二人っきりでチェロを弾い
 て貰ったですって?」

 お風呂上がりでサッパリとした後にも関わらず、至極不機嫌な様子でアスカは怒って
いた。勢いよく口へ食事運びながら、憤懣やる方無いと云った様子だ。

「アスカ、食事中なんだからもう少し楽しく食べようよ」

 やや気圧されながらも碇君がアスカを注意した。
 が、碇君の努力も、マナの口出しによって無意味なものとなる。

「でも、アスカの言う通りね。
 シンちゃん、ここはやっぱり誠意を示して貰わないと…」

「マナ、好き勝手なこと云わないでよ!
 アンタが悪いんでしょう!!」

 アスカの怒声など、そよ風のように受け流してマナは碇君へ絡みつく。

「イヤン☆
 シンジぃ、アスカが私をイジめる」

 当然ソレはアスカの血圧を上昇させるに十分だった。

「なにバカ云ってンのよ!」

 いい加減碇君もウンザリしたのか、最後の切り札を出してきた。

「アスカ、マナ。
 いい加減にしないと絶交だよ」

 渋々大人しくなる二人。


     マナ
「…何よ、   が悪いんじゃない」
     アスカ


 ブツクサ、小声で抗議する二人に碇君は微笑みながら追い打ちを掛ける。

「そんなに絶交されたいかな、二人とも」

 今度こそ、彼女達は沈黙した。

「「…」」


 その時、私はどうしていたかというと

 …今日も碇君の漬けたお漬け物がおいしい。しあわせ…

 とっても”幸せ”していた。



−20:45 憩い

 楽しい食事も終わり、いつも通り皆で後片付けをした。

 当初はそれ自体がイベントであったが今は手慣れたものだ。私たち四人は、あたかも
神経接続されたかのようにスムーズな連携で、洗い・拭き取り・乾かしして、食器を在
るべき安息の場所へと柔らかに運ぶ。

 そして、その後には訪れるモノは憩いの時間。
 碇君はお風呂へ、私たち三人はリヴィングでくつろいでいる。

 寝転んでファッション誌を開いているアスカだが、多分読んでなど居ないのだろう。
何となくそわそわしている。

 そう私が思っていると、浴室の方からドアの開く音がした。

 その音に敏感に反応するアスカ。

 彼女は何かを待ちかねているようにして、一層落ちつかない様子。

 少しして碇君がバスタオルで頭を拭きながらリヴィングに現れた時には飛び上がらん
ばかりだった。

「遅いわよ、バカシンジ!」

 アスカにそう云われた碇君は壁に掛かっている時計へ目をやった。

「…たったの20分位じゃないか」

「煩いっ!
 シンジのくせして、生意気よ」

「自分は1時間以上入ってるくせに…」

 耳敏くそれを聞いていたアスカは碇君の口へ両手の人差し指を入れて、左右に引っ張った。

「いひゃい! いひゃいふぉっ、あふかっ! いひゃひっひゃら(訳:痛い。痛いよ、
 アスカ! 痛いったら)」

「そういう事を言うのはこの口ぃ!? この、この!」

 言葉だけ取り上げると怒っているようだが、実際には全然怒ってなどいない。むしろ
楽しそうにして、碇君の口を引っ張っているようにしか見えない。

「アスカ…」

「何よ、レイ」

「…勉強するのでしょう?」

 私はアスカの目を覗き込むようにして見た。
 アスカの目が泳ぐ。

「‥‥‥そうだったわね。じゃあ、シンジ。始めるわよ!」

 ようやく開放された碇君は少し涙目になって、アスカをジト目で見つつ答えた。

「…判ったよ」

 ここから先はアスカの時間。
 アスカはいつものように、碇君の家庭教師となり、私たちに相応しい人へと鍛える。
何かと手出し口出ししようとするマナにはヒュノプスより使者となり、必殺の専門書攻
撃で安らかな眠りへと誘う。

 私は頑張る碇君を無言で応援していた。

 …でも、碇君。どうして私の方を見る度にビクつくの?



− 23:30 就寝

 …今日はとっても楽しかった。

 …初めての学校
 …二人っきりの下校
 …二人っきりの演奏会
 …そして、二人っきりの買い物

 明日も今日みたいな日ならば…

 そんなことを願いつつ、私は日記を閉じて床についた。

 …明日も一緒に学校へ行きましょう、碇君………‥‥‥・・・・・・・・

<外伝1・了>



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ver.-1.01 1998+12/25 公開
ver.-1.00 1998+12/05 公開
感想・質問・誤字情報などは こちら まで!

<作者の独白>      

作者  「フォッフォッフォッフォッフォッフォ (Y)o\o(Y)


     ちかれた...(Y)o\o(Y)o\o(Y)
     ちかれた...(Y)o\o(Y)o\o(Y)




     とっても! メッチャクチャ! 比類無く! 完全無欠に! 
     疲れた!!!

          :

     苦手な綾波モノを書くから、苦労するとは思っていたけど、ここまで疲れる
     とは思わなかったぞ、クゾー

          :
          :
          :
          :
          :

     …思わず、取り乱してしまいましたが、次は本編を頑張ります」


ps.お詫び
    先日判った事なのですが作者が加入するプロバイダーメールホストの問題で一
    部のメールが届いていなかったということがありました。
    現在、作者宛に送られたメールは感想の有無に関わらず、全て返信しておりま
    す。「出したのに返事が来ない」といった方がおりましたら、お手数ですが再
    送を何卒お願いいたします。


ps.お詫び2
    あぁっ!
    ……………お誕生のお祝いをしてあげれない!
    しくしく (T-T)






 Gir.さんの『スーパー鉄人大戦F完結編』外伝1 Bパート、公開です。





 なんだかんだですけど
 いい生活してるよね(^^)


 美味しい様で、でも、気疲れしそうな状態なんだけど
 シンジもうまくやってるし。


 アスカにしたって、
 マナにしたって、

 ライバルとのごちゃごちゃ自体を楽しんでいるようだし。


 もちろん、レイちゃんも♪


 みんな豊かになっていっていて、
 こちらもHAPPY気分ですぅ



 学校が楽しくてよかったね〜





 さあ、訪問者のみなさん。
 初の外伝Gir.さんに感想メールを送りましょう!




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