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"Force Gate"

1st Session

 晴天の下、湖の側の森で戦いが繰り広げられていた。戦うのは身長170セ
ンチメートルに届かない背丈のどちらかといえば線の細い少年であり、その眼
前には、常識では化物としか思えないような巨大な人型の生物がその腕を振り
かざしていた。
 振り下ろされる腕を素速い動きで避けつつ、少年は背中に手を回し、背中に
括りつけていた大剣の柄を握る。そして、一瞬動きが止まるのを見逃さずに大
剣を両手で振り下ろす。
 肉の断ち切れる鈍い音がしたと思うと、次第に頭部と思われる部位から二つ
に別れていき、完全に真っ二つになると左右に分かれながら、その体躯は音を
立てて崩れ落ちた。
 よく見れば、外骨格のような堅い皮膚のようなものが体を覆っているほか、
体の中身は堅い肉のようなもののみで構成されており、骨、というものは存在
していなかった。
 少年は構えていた剣を無造作に鞘へと戻すと、クルリと振り返り、少年の背
後に集まっている鎧に身を固めた集団の元へと歩み寄る。その途中で、彼がか
ぶっていた兜を外す。
 やや長めの黒髪がつややかに光り、線の細い輪郭が少年を柔弱そうに見せて
いるが、その瞳は力強さを感じさせる。他に類を見ない、というわけではない
のだが、美少年と言える顔立ちである。
 少年が背負う剣は少年の体格にしては余りにも大きすぎるものであり、少年
の背丈を越えているものであった。そして、その剣が生み出した効果は、国家
騎士団一個大隊が成しえなかったものなのである。

「小僧、でかした。どうだ?正式に騎士に取り立ててやらんでもないが。」

 少年の目の前で兜を脱いだ騎士団のリーダーと思われる中年の男は報酬が入っ
ていると思われる子袋を手渡しながら言う。少年は袋を受け取ると中身を確認
し、軽くうなずき、腰のポーチに袋を投げ入れる。

「残念ですが遠慮させて頂きます。行く所がありますから。」

 少年はそれだけを言うと、騎士団に背を向けて歩き始めた。
 騎士団はあっけに取られたのか、その立ち去る姿を眺めているだけであった。
 少年の立ち去る姿を見て、騎士団は何か妙なものを感じつつも、彼が倒した
化物の死骸を眺めて、溜め息をついた。
 騎士団総掛かりで浅い傷しかつけられなかったことと、少年が真っ二つにし
たという事実。大剣の威力を考えても、到底無理である切断面なのである。
 少年の後ろ姿を見送っていた騎士団の中で最古参である、老齢に差し掛かっ
た騎士は何かを思い出したのか、呻くような声で呟いた。

「エヴァンゲリオン・・・」

First Session ジオフロント

「あの子、使徒を一刀両断だなんて、やるわね。」

 巨木の枝に腰掛けながら、ミサトは呟く。紫がかった黒髪は肩まで伸ばして
おり、絶世とは言えないが美女と言える顔立ち、豊満なバストを強調する革の
ビスチェ、デニム地のホットパンツと異性を刺激する出で立ちである。赤い革
のジャケットを羽織っているほか、左手にはたぶん、アルコール類が入ってい
るだろう、ボトルが握られている。

「ミサト、あなたも大して変わらないわよ。」

 ミサトの下方より声がする。ちょうど、巨木の幹によりかかるようにして、
金髪の女性が立っているのだった。金髪は染めているようで若干の違和感を感
じさせるが、整った輪郭と、左目の側の泣き黒子、ミサトに勝るとも劣らない
スタイルの良さは異性を刺激してやまないであろう。ただ、彼女の場合、白衣
を羽織っているのが妙といえば妙である。白衣の下にはブルーのシャツとタイ
トスカートという姿である。彼女の名前はリツコといった。

「うっさいわね。で、どうするの?接触する?」
「もう少し様子を見るわ。」
「ふーん、いつもは手早く済ませるというのに、今回は慎重だこと。」
「あの子は特別よ。この世界の住人ではないもの。ミサト、出番よ。」

 リツコの言葉にミサトは軽くうなずき、巨木より飛び降りた。その表情は戦
意が漲り、握りしめた拳からは淡い光芒が洩れていた。リツコは白衣のポケッ
トから小さな水晶球を5、6個取り出すと、体の周囲に浮かばせた。水晶球自
体が浮力を持っているようだ。
 ミサトの前方から鋭い閃光が走り、二人はパッと飛ぶ。もといた所には光が
走り、その光の軌跡は黒く焼き焦げている。二人が着地して、光の発した元を
見ると、その光を発した存在が姿を現した。
 その姿はさきほど、少年が一刀両断にした化物、彼女達が言う使徒であった。

「まったく、コアを破壊しないなんて、手抜きもいいところね。」
「そうかしら?彼はまだ、使徒の仕組みなんて知らないわよ。」
「そりゃそうか。じゃ、行くわよ。」

 ミサトは猛然と使徒に向けてダッシュする。リツコは水晶球を操り、自らの
目の前で六芒星を描かせる。
 使徒は声を発することが出来るかどうかが不明であるが、無言で左手をミサ
トに向けて突き出す。

「ミサト、避けてっ。」

 リツコの叫びに、ミサトはサッと身を屈める。その上を、使徒の左手の平か
ら発せられた、十字型の閃光が通り抜け、リツコの眼前にまで届こうとする。
その瞬間、リツコの目の前の空間が歪み、閃光を弾く。

「これがメインウェポンってわけね。」
「幸いコアが露出しているから、ミサト、任せたわ。」
「へいへい。」

 ミサトは答えると、使徒の正面に立ち、身構える。使徒は正面のミサトを認
識したようで、その左腕をゆっくりと振り上げる。そして、勢い良く振り下ろ
され、ミサトが繰り出した右の拳が交錯する。そこに激しい光芒が生まれた。

 少年は今歩いて来た道を振り返った。何か気配を感じたからなのだが、風景
に変わりはなかった。少年は少し首を傾げると、ふたたび歩き始めた。あと、
一時間ほどで街にたどり着くはずだ。強い日差しを見上げて、手を翳す。季節
はもう夏に差し掛かろうとしていた。
 不意にその日差しが遮られる。少年がその遮る方向を見ると、そこには騎馬
が一頭と、それに跨がる深紅の鎧に身を包んだ少女がいた。栗色の髪を肩の少
し下まで伸ばし、背中に流している。また、少し大きめの水色の瞳には強い意
志を感じさせる輝きがあった。少し尖り気味の顎が少女の気の強さを強調して
いるようであった。すっきりとした輪郭と、その顔を構成する部位の取り合わ
せは非常にすばらしく、まごうことなく、美少女と言えるであろう。ただ、全
体的に硬さというものが感じられ、表情も外見の年頃、と言うには少し乏しい
ようである。少女の鎧は非常に美しい物で、パーツのラインの引きに乱れや歪
みはなく、彼女専用として作られたことが一目で分かる。良く見れば、透明に
近い薄い紅色の材質を用いたサークレットを付けているのが分かった。少女は
少年を値踏みするような表情でジロジロ見ると、溜め息をつき、

「アンタが3人目のエヴァだとは信じられないわね。」

と呆れたような口調で言い放った。
 少年はその言葉を聞いて、しばらく首を傾げていたが、引っ掛かった部分が
あったようで、疑問を口にする。

「エヴァって何?」
「ハァ?まさかアンタ、知らないの?」
「うん・・・。」
「これだから、年増の二人には任せられないって言ったのに。いいわ、教えて
あげるから、乗りなさい。」

 少女はそう言うと、自分の乗っている鞍から腰を少し前にずらす。少年が跨
がる場所を空けているのだ。少年は黙って鞍に跨がる。その身のこなしは騎馬
に乗り慣れていると思えるくらいである。

「アンタ、乗ったことあるの?」
「無いけど、どうかした?」
「別に何でもない。行くわよ、掴まりなさい。」

 少女は手綱を引き、騎馬を走らせる。その時に、軽く風が吹き、少女の栗色
の髪がなびいて少年の顔に触れる。

「あ、いい匂い。」

 少年の呟きに少女は顔を真っ赤にすると、手綱を握っていない右肘で軽く少
年を小突く。

「バカ・・・。」
「ゴメン・・・。」

 反射的に少年は謝る。どうやら、少年の癖であるらしい。少年が正面に向き
直った時、目的地であった街はその姿を現していた。

 街の中央部にそびえる塔とその周囲に建てられている修道院。その礼拝堂の
神像の前では修道女と思える二人が跪き、祈りを捧げていた。一人は薄い水色
の髪の少女であり、もう一人は黒髪をショートカットにした女性であった。

「レイちゃん、どうしたの?」

 黒髪の女性はいつもとは様子が違う隣の少女に声をかける。少女は目を閉じ
たまま祈りの姿勢を崩さないが、

「マヤさん。私、行かなくちゃ。」

と呟く。
 そして、軽くシャギーのかかった薄い水色の髪の少女は閉じていた目を開け
る。その中にある瞳の色は真紅に輝いていた。少女は跪いていた姿勢から立ち
上がった。その時に、少女が身に纏っていた、修道女の通常の衣服であるオフ
ホワイトのローブがハラリと落ちる。そのローブの下にはブルーを基調とた鎧
姿が現れた。
 そして、レイの体がフワッと浮かび上がる。鎧の背中の部分から、光芒をと
もなった白い翼が出現する。ちょうど、背中の部分に埋めこまれている宝珠か
ら発生しているようである。

「ちょっと、レイ。やる気を出すのはいいけど、もう行かなくていいわよ。」

 真紅の鎧を身に纏った少女が、礼拝堂の入り口の扉によりかかるようにして
いる。その隣には一緒に来た少年が所在なげに佇んでいた。
 その二人の姿を認めると、レイの表情から緊張感が抜けたようである。

「そう、ならいいわ。」

 レイはそう呟くと地面へ降り立つ。翼もすでに消え去っていた。

「レイは天然だから気にしないほうがいいわ。」

 少女はそう少年に言うと、礼拝堂の中に入って行く。少年もそれについて行
く。レイは鎧の上にふたたびローブを纏い、礼拝用の席に腰掛けて少年をじっ
と見つめる。

「天然って?」
「そのままよ、天然ボケ。」

 少女はレイと通路を挟んだ席に腰掛ける。邪魔になるのだろうか、頭のサー
クレットを外して、机の上にそっと置く。

「アスカ、ミサトさんと先輩は?」
「さぁてねぇ、コイツが中途半端に倒した使徒の後始末をしてるんじゃない?」

 アスカと呼ばれた少女はマヤの問いに答えると、机に肘をつき、少年の顔を
じっと見つめる。少年は二人に見つめられて、何と無く、顔を赤くする。

「これで、3人目だっていうんだから信じられないわよね。」
「あのアスカさん?後始末って何?」

 少年はアスカに問うが、アスカは不満げな表情を示し、

「アスカ。」

とだけ答える。

「へ?」

 少年が困惑した表情でいると、マヤがそっと、

「アスカはさん付けされるのが嫌いなのよ。」

と言うと、少年は納得する。

「じゃあ、アスカ。後始末って一体何なの?」
「使徒っていうのは、体の何処かにあるコアを破壊しない限り、自己修復して
しまうのよ。アンタは一刀両断したけれど、コアは破壊しなかったから、ミサ
ト達が後始末をしているわ。」
「ふーん、あれって使徒と言うんだ。それで、エヴァの事も教えてほしいんだ
けど。」
「そうだったわね。アンタの剣は普通の人が持つとすごく重い。だけど、アン
タが持つと重さを感じない。そうじゃない?」
「うん、そうだね。」
「その剣がアンタをエヴァと証明するものなのよ。アタシの場合はこの双剣が
それに当たるわね。レイのは二叉の槍。今のところ、この三人だけ。でも、こ
の武器だけじゃないのよ。対になる防具が存在しているの。アタシとレイのは
この身に付けている鎧ね。多分、アンタのも鎧だと思うわ。詳しいことはここ
にいないリツコが知っているわ。」
「先輩はエヴァ研究の第一人者ですから。あ、戻ってきたみたいですよ。」

 マヤはそう言うと、礼拝堂の入り口に走っていく。丁度、ミサトとリツコの
二人が帰ってきたようで、入り口に二人の姿が現れる。リツコの姿はまるっき
り変わってなく、平然としたものだが、ミサトの姿は随分と薄汚れているよう
だ。着ていた革のジャケットが焦げて黒ずんでいるようであり、他にも、返り
血のような液体が体のあちこちに付着物としてくっついていた。

「アスカ、あなた年増って言ったわね?」
「う゛。」

 リツコの声にアスカの表情は引きつる。リツコの表情は平然としているよう
だが、こめかみがヒクついている。また、ミサトもその表情は怒りの形相を呈
してきているようであった。

「やぁねぇ、そんなこと言うわけないじゃない。お美しいお姉さまがた。」
「ばばあは用済み・・・。」

 アスカが必死にごまかそうとしている時に、レイがボソッと呟く。その言葉
にリツコとミサトの表情は凍り付く。

「ま、まあ、レイちゃんの口癖ですから、そんなに気にしない方が・・・」
「大人げないわね、二人とも。それより、使徒はどうしたの?」

 マヤの宥めの言葉と、アスカの言葉に二人は平静さを取り戻したのか、礼拝
堂の席に腰掛けると、ため息をつく。

「使徒は倒したけど、最後に自爆してミサトがこうなったのよ。」
「まったく、いい迷惑よ。」
「僕のせいですね、すみません。」

 少年の言葉にミサトはチラッと少年に目をやると、軽く手を振って、

「別にいいわよ、知らなかったんでしょ?」

と答える。

「さて、と。シャワーでも浴びてくるわ。マヤ、あとはよろしく。」

 ミサトとリツコは連れだって礼拝堂から、居住施設に向かっていく。

「よろしくって、何をどうするっていうのかしら?」
「まぁ、男子禁制のここの居住空間にコイツをどうやって潜り込ませるかって
ことじゃない?」
「そういえばそうね。どうしたらいいかしら。」

 マヤが考え込むような仕草をし、アスカはニヤニヤと笑みを浮かべている。
どうやら、考えつくことが予想できたらしく、それを言い出すのを待っている
ようなのだ。レイは黙って少年を見つめているだけで、特に何をする、という
様子ではない。
 少し経ち、マヤがポンッと手を叩き、妖しい笑みとともに少年を見て宣言す
る。

「女装、しかないわね。しかもこの子ったら中性的でとっても似合いそうだし、
あぁ、何かゾクゾクするものを感じるわぁ。」

 マヤはなぜかうっとりとした表情で、あらぬ方向を見つめながら両手を握り
しめている。アスカはその様子を見て、やれやれ、といった様子で首を軽く振
る。

「やっぱり。で、どうするの?」
「体型的にはレイのだとちょっとキツイわねぇ。アスカのを持ってきてくれる?」
「しょうがないわねぇ。お古でいいわよね?持ってくるわ。」
「あと、名前だけど、どうしよっか。」

 アスカが礼拝堂を出ようとする時に、マヤが言い、アスカは歩みを止めて、
少年に聞く。

「アンタの名前聞いてなかったわね、名前は?アタシはアスカ、あとはレイと
マヤよ。さっきの二人はミサトとリツコ。とりあえずはこんなものね。」

 少年は困ったな、という表情で少し間を空けると口を開く。

「僕、ジオフロントに行かなきゃいけないんだけど。」
「ジオフロントのどこ?」
「ネルフって場所。」

 少年の言葉にアスカは満足げな表情を浮かべる。

「じゃあ、どこにも行く必要は無いわ。こ、こ、が、ジオフロントのネルフよ。」
「えぇっ?!」
「で、名前は?」
「シンジ、碇シンジ。」

 少年の名乗りにアスカを始め、3人が意外そうな表情を浮かべる。

「名字付きなんだ。しかも、よりによって碇、とはねぇ。」
「髭に祟られるわね。」
「レイちゃん、何言ってるのよ。でもこの街出身じゃなくて良かったわね。」
「え?僕、母さんに会いに来たんだけど。」

 少年、シンジの言葉にレイを除く二人の表情は青ざめた。レイは何が何のこ
とだが理解していないらしい。

「シンジ君、ひょっとしてお母さんの名前はユイさん?」
「そうですけど、何か?」

 アスカとマヤは少し離れると、二人で話し始める。表情はともに青ざめたま
まだ。

「ねぇ、シンジってユイさんの子供ってことでしょ?」
「そうなるわね。まぁ、先輩とミサトさんの判断を待ちましょう。」
「そうね、アタシ達は命令にしたがったってことにしましょ。」

 アスカとマヤはそう結論づけると戻ってくる。

「お母様は今日は出かけていらっしゃるから、明日になると思うわ。とりあえ
ず、今日は女装、してね?」
「はぁ。」

 アスカが自分の服でいらないものを持ってきて、シンジはそれに着替えるこ
とになった。アスカの服は修道院という施設にはそぐわないようなデザインが
多いのだが、これもたぶんに漏れない。アスカ自身がエヴァである、という事
もそれが許される理由であるのだろう。

「ねぇ、アスカァ、下着まで付けるの?」
「こういうのは細かいところまでやらなきゃダメなのよ。」
「この、ブ、ブラジャーは?」
「タオルとかで詰め物しときなさい。」

 しばらく経って着替えたシンジが3人の前に姿を現す。

「わぁ、思った通り似合うわぁ。」
「思ったより綺麗に見えるものね。レイはどう思う?」
「名前が問題ね。」
「そういえば、そうね。どうしよっか。」
「ここは裏をかいて、ユイ、でどうかしら?」
「いいかもね。シンジ、いいでしょ?」
「もう勝手にして。」

 シンジはもう諦めたようである。アスカとマヤは楽しんでやっているようで、
レイは無関心ながらも、聞かれたことにはしっかりと答えている。少しは興味
があるのだろう。

「お、女装したんだ。似合うじゃない。」
「でも、どこか不自然ね。この錠剤飲んで。」

 ミサトとリツコがシャワーから上がってきて、シンジを見て感想を述べるほ
か、リツコは錠剤をシンジに手渡す。

「リツコ、あれは何よ?」
「性転換薬よ。忍び込むならこれくらいはやらないと。」
「さすが先輩。」
「煩悩が生み出した業ね。」
「レイも分かってるじゃない。でも、楽しみね。」

 リツコ達の会話をよそにシンジはその錠剤を一息に飲み込んだ。しばらくは
何事もなく時間が経過していたのだが、急にシンジが汗を大量にかき始める。
熱を持っているのか、顔なども真っ赤になっている。

「体が熱い。これはなんなんですか。」

 シンジが体に起きた変化に叫ぶ。それにリツコは冷静に言葉を紡ぎ出す。

「新陳代謝を活発にして、その途中でDNA形成に割り込むことで性別を変化
させるのが今の薬よ。あと、アスカ。」
「何よ。」
「部屋はあなたと同じ部屋になったわ。一人でいるから自動的にね。」
「えぇーっ?!男と同じ部屋なのぉ。」
「今は、女よ。」
「なんか納得できないわね。」

 シンジの顔が赤くなくなり、平静さを取り戻したとき、シンジの姿は先ほど
までの中性、というイメージから完全な女の子に変化していた。アスカはその
効果を確かめるべく、胸の膨らみをギュッと掴む。そして、その感触に薄ら笑
いを浮かべた。

「マヤ、アンタよりおっきいわ。あら?髪の毛まで伸びて、ってユイさんそっ
くり。これはマズイかも。」
「えぇっ?先輩、どういうことなんですか?」
「簡単な事よ。もしも女として生まれてこの年齢になった時と同じ成長が体に
起きているだけよ。で、アスカ。ユイさんそっくりで何がマズイの?」
「シンジの名前は碇シンジ。で、お母さんの名前は碇ユイ。分かった?」
「えぇ、これは由々しき問題ね。」
「まさか、ユイさんの子供とはね。」

 リツコとミサトの顔色もいいとはいえないものになり、多少の冷や汗をかい
ているようだ。そこに礼拝堂の鐘が鳴り響く。

「ヤバ、宿舎に入る時間よ。アスカ、あとは頼んだわ。」
「それじゃ、よろしくね。」

 アスカを除いた女性陣は一斉に宿舎に走り始める。アスカはボーッとその様
子を眺めていたが、我に返ると、シンジの腕を取り、走り始める。アスカの部
屋は宿舎の最上階。距離は一番あるので、必死である。それもそのはず、宿舎
に入る時間に遅刻すると、寮長の部屋の掃除を1週間やらなくてはならないか
らである。連帯責任として、同室の者までその罰を受けることとなる。アスカ
の場合、シンジがその連帯責任に当たるため、その言動から男だと分かられる
可能性がある。それを避けるために急いで走っているのだ。
 結局、アスカとシンジは見回りギリギリの時間に部屋に入ることができた。

「ふぅ、何とか間に合ったわね。で、どう?女の子の体は。」
「何か変な感じがする。あと、アスカ、お尻の辺りがブカブカなんだけど。」
「うっさいわね、アタシのプロポーションに文句あるってぇの?」
「でも、胸もブカブカだからいいのかな?」
「いちいちうるさいわね。しかし、本当に女になるとわね。どれどれ・・・」

 アスカはシンジの体をジロジロと眺め回す。その後に思案し、シンジに話し
かける。

「明日、服を買いに出かけるわ。ついでに下着とかもね。当分は女の子でいる
と思った方がいいわ。リツコの薬は逆の効果をもたらすことができないのよ。
つまり、性転換の薬でも、女になる薬は男には絶対になれないわ。」
「じゃあ、母さんに会うときも女のまま?」
「そういうことになるわね。覚悟しといた方がいいわ。」

 結局、シンジは両手両足を縛られて眠ることになり、アスカは安心して眠る
ことができたようである。シンジももはや完全に諦めているようで、おとなし
くしていることもあるのだろう。
 翌朝、アスカは早起きするとともにシンジを叩き起こし、朝食を作らせ、そ
の手並みに驚いたりもした。そして着替えると、さっそく街に繰り出していっ
た。シンジはアスカの服を借りるとともに、軽い化粧を施されてアスカについ
ていく。二人の服装は共にアスカの服のため、似通ったものになる。アスカは
薄緑のジャケットと同色のフレアスカート、シンジは白の長袖Tシャツに黒の
ジャンパースカートである。
マヤもついていこうとしたのだが、あえなくリツコに捕まって断念し
たという。また、レイとミサトは朝からその姿を見せることはなかった。。
 アスカ曰く、

「どうせ昼まで寝ているんだから別にいいのよっ。」

とのことである。
 二人はまずは、ということで、下着などを買うことにしたようだ。シンジの
サイズを量っていなかったこともあり、サイズを量ることも兼ねているわけだっ
たりもする。そうすると、そのあとの服のサイズ指定が楽であるからだ。

「レイよりも全体のサイズが大きいわね。アタシとレイの中間か。で、お金持っ
てる?アタシも持つには持ってるけど。」
「うん、昨日の報酬で金貨50枚くらいだけど。」
「十分、身の回りの物全部買ったって、金貨1枚で足りるわ。服だって、舞踏
会のドレスだって買えちゃうわ。」

 アスカはシンジ、現状ユイの下着は簡単に済ませてしまうと、普段着を見る
ために店を移る。

「アスカ、修道院ってもっと厳格な所だと思っていたけど、そうじゃないの?」
「うちは特別ね。もともと修道院として機能する予定じゃなかったらしいし。
まぁ、3人目が男だとは思ってなかったしね。あ、この服いいじゃない。」
「えぇっ、そんなに胸開いてるの嫌だよ。」
「このくらいが、丁度いいのよ。」
「そうかなぁ。」

 シンジはどちらかといえばおとなしい、地味な服装を選ぶのに対し、アスカ
は派手なものを選ぼうとする。結果として、地味な物から派手な物まで様々な
種類の服を購入することになった。

「でも、シンジが男に戻ったら無駄になるのよね、この服。」
「そうだね。どうしよっか。」
「その時はその時に考えましょ。そろそろ、お昼ね。カフェテラスで軽く食べ
るわよ。」

 カフェテラスでは二人ともクラブサンドとミルクティというメニューを選び、
昼からの予定を話し始めた。

「服はまずこれくらいあれば足りるはずだから、あとは身の回りの小物よね。」
「そこまで徹底する必要あるの?」
「どっちにしたって、結構長い間ここにいることになるんだから、揃えておく
に越したことはないわ。」
「そうか、そうだよね。」
「あれ?アスカじゃない。」

 カフェテラスに面した通りから声がかかる。その声にアスカは振り返ると同
時に手を振る。

「ヒカリッ、買い物?まぁ、座ってよ。」

 声の主は黒髪をおさげにした少女で頬に少しそばかすが目立つ。おとなしい
印象がする他、服装も地味目なもので、白いブラウスとデニム地のスカートで
ある。

「うん。あら?この人は?」

 ヒカリがテーブルにつくと、アスカと一緒にいるシンジの方を見て、アスカ
に聞く。シンジが話そうとすると、アスカが制止する。

「この子はユイっていうの。昨日からうちの修道院に入ったのよ。」
「よろしく。」
「こちらこそ。私はヒカリ。」
「ヒカリのお父さんはこの街の駐留騎士団の団長なのよ。」
「うん、昨日ね、凄い剣士に会ったって興奮してたのよ、もう。あんな小柄な
少年が騎士団全体よりも強いって、今、探し回ってるはずよ。」

 ヒカリは困ったような表情で言い、そのことを聞いたシンジの表情は若干、
表情が硬くなる。それを見たアスカは、一応フォローしておくかな、といった
表情で、

「ふーん、そんなに凄いんだぁ。でも、探しても見つからないと思うな。」

と言う。
 ヒカリはその言葉に、

「どうして?」

と聞くが、アスカはわざとあらぬ方向を見るようにして、

「修道院の教典にあるもの。天命受けし剣士、使徒を貫きて大いなる福音をも
たらさん。ってね。」

 と言う。実際に教典にある内容ながら、それほど重要視されるような内容で
無かったため、一般には認知されることが少ない部分であった。だが、アスカ
がそこを覚えているのには、そのエヴァというものに対する知識として覚えて
いるからであり、教典の他の内容に関してはほとんど覚えていないのが実状と
いうところである。

「あら?アスカちゃん。今日はお買い物?ヒカリちゃんにあら?初めて見る子
ね。」

 再び、通りから声がかかる。その声にアスカは振り返り、顔を青くする。ま
た、シンジもアスカとほとんど同じ状態である。そこには、シンジの母である
ユイの姿があった。白衣の下に薄い紫のブラウスに黒い膝上のタイトスカート
という格好であり、その後ろには彼女の配下と思われる男性と女性がそれぞれ
6人ずつ付き従っている。全員が紙袋や段ボール箱を抱えているのが奇妙では
ある。

「か、母さん。」

 シンジの声にユイは首を傾げる。

「おかしいわねぇ、私は女の子を産んだ覚えは無いんだけど。」
「ユイさま、この子はシンジって言うんです。リツコの薬飲んで女の子になっ
てますけど。」
「まぁ。驚いたわ。でもこんなに綺麗な女の子になるなんて。可愛いじゃない、
シンジ。」

 シンジの顔をじっと見て、ニコッと笑うとユイはシンジを抱きしめる。

「もう、母さんは相変わらずなんだね。で、呼んだ理由はなんなの?」
「あら、私は呼んでないわよ。」

 ユイの言葉にシンジはひとしきり考えていると、

「きっと父さんだよ。村からもいなくなっちゃったんだ。」

と言い、ユイも同意を示すように頷く。

「あの人ったら何をしているのかしら。後で調べておきましょ。で、シンジは
今、どこにいるの?」
「修道院だけど。」
「一応、アタシと同じ部屋になってます。シンジもエヴァですし。」
「そうね。じゃあ、シンジをお願いね。」
「ふぇ?」
「それじゃ、私は帰るから。後は任せたわ、アスカちゃん。」

 ユイはそういうと、修道院に向かって歩いていってしまった。シンジもアス
カも呆気にとられてしまって、見送るだけになってしまった。

「はぁ。いつもこうなのよね。」
「ゴメン、母さんがいつもいつも。」
「今日はまだ軽い方よ。」
「で、アスカ。聞きたいんだけど、ユイさんていうのは本当は男の子なのね?」

 一人、話に取り残されたヒカリは事の次第を聞くために多少、キツイ感じを
出しながら聞く。それにアスカはビクッとした仕草でヒカリの方に振り返ると、

「う、うん。修道院に入るために仕方なく、ね。シンジじゃ名前が変だから、
お母さんの名前を借りてユイってしたんだけど。」

と答える。

「でも、本当に男の子だって信じられないわねぇ。ユイさまそっくりだし。」

 結局、シンジは修道院で女の子として暮らすことが確定した。なお、リツコ
は元に戻す薬品の合成に四苦八苦しており、男の姿に戻れるのは当分先のこと
だと思われる。
 こうして、シンジのジオフロントでの生活は始まった。ただし、ユイとして
の生活なのだが・・・。

「碇、あれでいいのか?」
「問題ない。外見が変わろうと魂が変わらなければ進行に遅れは無い。」
「しかし、ユイ君は昔と変わらないな。」
「ああ、それだけがイレギュラーだ。」

 二人の男は水晶球を前に嘆息した。


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ver.-1.00 1998+04/17 公開
感想・質問・誤字情報などは こちらまで!

あとがき

BGM:攻殻機動隊(PS)サウンドトラック

 随分と近代的なイメージのするファンタジー世界だと感じるかもしれません
が、実際にはちょっと違います。街中だけですね、こういう雰囲気があるのは。
 世界観とかにはTRPGの「Seven=Fortress」が参考になっていたりします。
最近、お気に入りのシステムです(^^;
 大剣を持ってたりと、FF7を感じさせるかも(^^;
 こっちの方は最後までの話数を考えているので、結構短いかもしれないです。
 僕なりのファンタジー観をまとめる意味でもあるので、まぁ、期待をあんま
りしないで下さい。(^^;





 風奈さんの新連載『Force Gate』1st Session、公開です。



 修道院で
 アスカと同室で
 女装して


 シンジ、流されるままにとんでもない事になっています(^^;


 体も女になっているので

  「不潔よ〜(© いいんちょ)」な事になる心配はないけど、

 なかなかなかなか美味しい状況だよね(爆)

 とにかく見かけは女だから、
 アスカも何かと油断して・・・

 なかなかなかなかなかなか美味しい・・・(爆爆)


 さらに−−−

 これ以上言うと18禁になってしまう(^^;




 さあ、訪問者の皆さん。
 新連載に貴方の感想を送りましょう!


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