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Declination below adolescence!

第参話 Rei/Heart that is easy to get broken

授業が始まる。その風景はいつもより少し違う感じがした。
アスカという存在がそうさせるのと同時に、アスカの容姿、服装がそれを際だたせている。
栗色の髪と青い瞳で整った輪郭を持つ顔、まごうことなき美少女である。
そして、そのグラマラスな肢体をレモンイエローのワンピースで包み、細い足を真っ赤な
パンプスで覆っている。
日本という国では、同年代でそのような容姿を持った少女はまず、見かけることは無かっ
た。国際化が最も進んでいるこの第三新東京市においても、その状況はさほど変わらない
ものである。
アスカはシンジの左隣に座ることとなり、机に備え付けてある端末にシンジの端末のデー
タを転送していた。
レイはシンジからちょっと離れた窓際の席である。トウジはシンジの右斜め後ろ、ケンス
ケはシンジの前、ヒカリはトウジの左隣、シンジの後ろである。アスカがいることで教室
内は若干のざわめきを発生していたが、教壇に立つミサトが、

「はーい、始めるわよ。今日は一日中、私が授業することになったようだから授業内容は
その時になったら決めるわ。さて、最初は・・・」

ミサトは教室内を見回し、ニヤッと笑みを浮かべながら言う。

「今日授業を見学するアスカへの質問コーナーとしましょ。」
「ミサト先生っ!授業はどうするんですか。」

ヒカリは立ち上がり、ミサトに文句を言う。このへん、委員長という役柄を地の性格で演
じているのだろう。本人には自覚が無いのかもしれないが。

「テストの範囲はほとんど終わってるしぃ。たまには息抜きしたいじゃない。」
「ミサト先生の場合は逆ですっ。テスト範囲はプリント渡しただけじゃないですか。」

ヒカリの突っ込みにミサトは冷や汗をかきつつ、なんとか反論しようと考える。そこで一
ついい案が浮かんだようだ。

「それじゃあ、アスカに決めてもらいましょ。アスカはどっちがいいかしら?」

結局のところ、ミサトが打った手は逃げに属するものであったが、ヒカリは何も言い返せ
ない。実際は教師に授業の内容の選択権があるわけだし、その対象のアスカがどう答える
かが問題となる。

「わたしは、どっちでもいいけど。た、だ、し、私に仕切らせてもらうけど、いい?」
「いいわよん。じゃ、さっそくやっちゃって。」

ミサトの声にアスカは立ち上がると、教壇に立つ。そして黒板に向かうと、自分の名前、
惣流=アスカ=ラングレーを流麗なドイツ語で書き記す。

「私の名前は惣流=アスカ=ラングレー。呼ぶときは、惣流って呼んでね。名前を呼んで
いいのは私が許したときだけ。血筋は日本、ドイツ、アメリカのクォーター。年齢は14
歳。身長は163cm、体重とスリーサイズはシークレットよ。さぁて、他に質問は?手
を挙げて、指してくから。」

アスカの声に反応し、幾人かの生徒の手が挙がる。アスカは出される質問に一つ一つ、丁
寧に答えていく。内容がアスカの触れてほしく無い内容で無かった、というのがその丁寧
さの原因であろう。
そのうち、アスカは窓際の席で外を見続けるレイの姿が気になった。表情は空ろで心ここ
にあらず、という雰囲気だ。周りの騒がしさにも、全然反応すらしない。
なんだかんだ言ってるうちに、授業終了のチャイムが鳴り、アスカは席に戻る。

「ちょっと、シンジ。」
「何?アスカ。」
「レイ、どうしたの?ここに来るまでと全然様子が違うじゃない。」
「レイはいつもああだよ。何か原因があるんだろうけど、話してくれないし。」
「ふーん。ま、いいけど。」

結局、授業はミサトのいきあたりばったりの進行で進み、アスカ、シンジ、レイは帰宅の
途についていた。朝と同じで、帰りもアスカのバイク、『弐号機』に乗って、である。

「ねぇ、アスカ。途中のスーパーに寄って欲しいんだけど。いいかな?」
「いいわよ、それくらい。」

アスカはスーパーの駐車場にバイクを滑り込ませると、入り口付近で停止させる。

「ほら、行って来なさいよ。」
「うん。急いで買ってくる。」

シンジはスーパーの中に駆け込んでいく。
アスカとレイはバイクに跨がったまま、シンジを待つこととなる。

「レイ、アンタどうしたの?授業中の様子、変だったわよ。」
「別になんでもない。」
「なんでもないって言っても、気になるわよ。」

アスカはそう言うと、何かを思い出すようにして話しはじめる。

「アタシもね、ドイツにいた頃はレイと一緒だったの。小さい頃から、学校を早く出たく
て、必死に勉強して、大学卒業して。そのためには、周りを気に留めてなんかいられなか
ったわ。理由は早く大人になりたかったから。でもね、お父さんとお母さんが死んでから、
急にむなしくなっちゃったの。結局、両親がいたからこそ、そういう風に考えられたのか
もしれない。それで、今はその頃を思い出すとすごい後悔をしているわ。結局、ドイツで
は同年代の友人は一人もできなかったわ。レイにはそういうことになって欲しくないの。
できれば、理由を教えてくれない?」
「小学校時に、この髪の毛と瞳の色でいじめられたの。気にしないで普通に振る舞ってい
たら、もっとひどくなって。それからは、本当に親しい人だけでない限りはああいう風に
することにしたの。人に関らず、関れない、ということを目的に。」
「そうなの。髪の色と瞳の色で・・・。あ、ちょっと待ってて。」

アスカはそう言うと、ポシェットから携帯電話を取り出し、ダイアルする。

「もしもし。マヤ?カオルを呼び出して。うん、ちょっと話があるの。・・・・・・、あ、
カオル?アンタさ、いつまでこっちにいるの?・・・はぁ?そうなの。じゃあねぇ、こっ
ちの学校に入るんでしょ?・・・・うん、そうなの、じゃあ家に寄ってね。それじゃあ。」

アスカは携帯電話をしまうと、レイに、

「明日からは普通にしてて大丈夫よ。レイにとって味方になるのかな?とりあえず、そう
いうのがいるから。」

といい、レイの額をピンッと弾く。それにレイは顔をしかめつつ、

「何よ、もう。わけ分からないし、説明をちゃんとしてほしいものよ。」

と言い返す。そうしているうちに、シンジが買い物を終えて、二人のところに戻ってきた。

「あれ?どうかした?」
「なんでもない。帰りましょ。」

アスカはシンジの問いにそっけなく答えると、バイクを始動させる。買い物の袋はシート
後部のエクスパンションケースに入れられている。基本的にはバイクは最高で二人しか乗
れないのだが、3人を乗せることのできる理由がエクスパンションツールの存在である。
これによって、さまざまな機能を追加することのできるのが「エヴァンゲリオン」の特徴
である。
バイクを走らせて、碇家に帰宅すると、玄関に一人の少年が立っていた。
銀髪で紅い瞳、渚カオルである。

「カオル、はやかったじゃない。」
「君より遅く来たら、文句を言われるからね。で、用事というのは碇レイさんのことかな?
君が自分の相談で僕に言うわけはないからね。」
「アスカ、どういうこと?」

レイはそういうと、アスカに詰め寄る。シンジは鍵を開けて、中に入りかけ、

「立ち話もなんだから、中に入ってよ。カオルさんだっけ?」

と言い、全員を家の中に招きいれる。

「そうだね、シンジ君。君のことはいろいろ聞いているよ。」

カオルはそう言うと、招きに応じて家に入る。

「それでね、レイがその外見が気になるというなら、このカオルも同じでしょ?レイの場
合は同じような人が誰もいなかったから、そうなったと思うのよ。だから、他にも同じよ
うな人がいれば大丈夫だと思うの。」

居間でくつろぎながら説明するアスカ。シンジもその経緯を聞いて納得している。レイは
一人不満顔ではある。今までシンジにも隠していた経緯を知られたためでもあり、アスカ
に振り回されたこともあるのかもしれない。
それでも、笑みが自然と浮かんでいるのは、もう学校で無表情、無関心を装わなくてもよ
くなった、という安心感からなのかもしれない。その点では、アスカとカオルに感謝をし
ているようだ。

「さて、僕は戻るよ。呼ばれた理由も分かったし。」
「そう。じゃあ明日ね。朝はどうするの?」
「今はリツコさんの所にいるからね。大丈夫さ。」

カオルはそう答えると、黒い「エヴァンゲリオン」参号機で帰っていった。
そして、その夜・・・。
レイはバスタブに浸かりながら、ぼーっとしていた。今日1日の流れが今までにないほど
早く、疲れ気味だったこともあるのだろう。

(惣流=アスカ=ラングレー、私の従姉妹にあたる人。でも、今日逢った、渚カオルと言
う人のほうが私に近い何かを感じる。どうしてなんだろ。知っているとすれば、彼だけな
のかもしれない。お父さんにもお母さんにも聞くことはできないもの。それにしても、い
つも通りに振る舞えるのって嬉しいな。この点はアスカに感謝しないとね。アスカも似た
ような経験があったとは思わなかったけど。あの性格にあの行動力でそれは考えられない
な。)

「ふーん、そういう風に思ってるわけ?」

ガラッっと浴室のドアを開けてアスカが入ってくると、そう言った。レイは考えていたこ
とを自然に呟いていたようだ。

「アスカッ。なんで入ってくるのよ、もう。」

レイは文句を言いつつも、アスカを追い出すようなことはしない。アスカが軽く体を洗っ
た後にバスタブに入ってくると、

「アスカって綺麗ね。私と大違い。」

と呟く。

「何言ってるのよ。いつも通りのレイは綺麗よ。肌だって私より白いし、無駄な肉だって
全然付いてないじゃない。何も言うこと無いわよ。」
「アスカの方が綺麗だもん。スタイルだっていいし、髪の毛だってサラサラでうらやまし
いわ。モデルみたいですごい綺麗。」
「レイだって、髪は自然にシャギーが入ってるだけだから、ちゃんとセットすればいいの
よ。軽くお化粧してもいいかもね。とりあえず、自分に自信を持つこと。分かった?」
「うん。」
「よろしい。」

アスカは満足げに頷くと、バスタブから上がり、体を洗いはじめる。レイはその様子を見
ながら、

「ねえ、あのカオルって人、どういう人なの?」

と聞くと、アスカはウンザリ、というような表情で、

「シンジにも聞かれたのよね。まあ、いいわ。カオルはネルフのテストパイロットで私よ
り後に入ったの。家族構成とかは知らないわ。年齢が近い分、一緒にいることも多かった
わね。性格は悪いわ、頭がいいのか、細かいこともすぐに気づくし、それを口に出すもの
だからたまにムカツクこともあるわ。あと、意味不明な事を言い出したりするから、その
対応に困っちゃうのよ。あれでも、私と同じ学歴、というのが余計にね。年齢は私たちと
一緒だから、明日から同じ学校に通うことになるわよ。何か他に聞きたいことある?」

と一気に説明した。レイはその言葉を少し考えて、

「特に無い。でもネルフって大きい企業の割に中学生を使ったりって変なところなのね。」

と言う。アスカも少し考えて、

「そういえばそうね。でも、大人で私とカオルに勝てる人がいなかった、というのもある
かもしれないわ。」

と答えた。レイもバスタブから上がり、体を洗いはじめる。

「レイ、体洗ってあげよっか?」
「いい。」
「そんなこといわずに、ね?」
「しょうがないわねぇ。」

レイはアスカに背を向けて、体を洗うスポンジを渡す。アスカは力を入れすぎないように
して丁寧に洗いはじめる。

「カオルってわけわかんないのよ。確かに頭はいいし、腕も確かだけど。多分、私よりも
ネルフに深く関ってるのが原因だけど。」
「ふーん。」

体を洗いおわると、シャワーで流して、今度は髪を洗いはじめる。アスカは時間がかかる
ので、先にレイを洗うことにしたようだ。

「やっぱり、髪を整えればいい線いくわよ。」
「そうかな。」
「アタシが保証するんだから、安心しなさい。」

レイの髪を洗いおわり、シャワーで流すと、レイはアスカの髪を洗いはじめる。

「ホント綺麗な髪、アスカは髪型変える気は無いの?ポニーテールとかって、お兄ちゃん
結構好きみたいよ。まぁ、そういうのに気づくのは鈍いけど。」
「そうみたいね。」

アスカとレイはクスクス笑う。やや時間もかかったが、アスカの髪も洗いおわって、シャ
ワーで流すと、再びバスタブに浸かる。

「うーん、やっぱりお風呂はいいわねぇ。「命の洗濯」とはよくもいったものよね。レイ
はどう?」
「お風呂は一人でいると寂しいわ。何か深い闇に囚われそうな気がするの。」
「私も前はそうだったわ。結局、自分を偽ったときは心休まるときは無くなるのよ。」

アスカはそういうと、勢いよくバスタブから上がり、浴室の外からバスタオルを取り、体
に巻き付ける。そのまま浴室を出る。レイも追うようにして、浴室を出る。

「レイはパジャマなんだ。」
「うん。このまま寝ちゃうし。アスカはそのタンクトップとショートパンツなの?胸、見
えちゃわない?」
「大丈夫よ、ブラ付けてるし。」

アスカはそう言うと、タンクトップにショートパンツという出で立ちで、髪の水分をバス
タオルで取りながら居間に向かう。その後ろをレイがついていく。

「シンジ、上がったわよ。」
「うん、っわぁっ。」

シンジはアスカの方を振り返り、声を上げて、驚いた。

「ほら、アスカ。お兄ちゃんには刺激が強すぎるわ。」
「そうみたいね。ま、いいけどさ。」

アスカは冷蔵庫を開けて、中から牛乳の1リットルパックを取り出すと、コップに注ぎ、
一気に飲み干す。レイはバスタオルで髪の毛から水分を丁寧に取っている。アスカもコッ
プを流しに置いて、水ですすぐとレイと同じ行動をする。

「あれ?二人ともまだいたんだ。」

シンジが上がってくると、まだ二人はソファに座ったままである。二人で並んで座ってい
るところを見て、近づくと、少し様子が違うようだ。二人とも、肩を寄せるようにしてい
るのだが、全然動く気配が無い。正面に回り込んで、二人を見たシンジは苦笑する。

「寝ちゃったんだ。風邪引くよ、もう。」

シンジはタオルケットと毛布を持ってくると、二人にそっとかける。そして、

「おやすみ、アスカ、レイ。」

と言うと、自分は部屋へと戻っていった。
翌日、シンジがアスカとレイに、なんでおこさなかったのか、と詰め寄り、シンジはアス
カに再びKOされる、という事態になるのである。

It continues to the next time

NEXT
ver.-1.00 1998+02/13 公開
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後書き

BGM:Brand New Heart Byあっこ

トラウマ、というのは心的外傷といいますが、地球上の人間で持っていない人間はいない
のではないかな?と思います。生まれた段階での赤ちゃんだけが違うのかな?
まあ、そんな感じで誰もが持っているトラウマ、を題材としたかったのですが、どうもう
まくいかなかったようです(^^;
Mental external injuryってのが心的外傷の訳みたいで、そういう意味ではトラウマとは
違うんですね。はぁ、トラウマは難しいテーマです。
今回は新しいキャラは無し、ということで。
キャラ的にはレイは精神的にも行動的にもアスカの妹分、という感じになりますね。原作
見てても、そういう感じがしたんです。みなさんはどうでしょうか?
カオルが同じ学校に通うことになって、基本的なベースは出来上がりました。あとはマナ
の登場だけですから。予定上では(^^;

次回はこのストーリー上でなく、外伝的なものになるかと思います。めぞんEVAの1周
年記念になるように書いてますがどうなるでしょうか。頑張ってみます。
タイトルはWhite silver Messageという予定。ストーリー完結後の一つの形としてです。

それでわ、次の作品で。


 風奈さんの『Declination below adolescence!』第参話、公開です。



 学校にやってきたアスカ。


 たちまち注目の的。

 仕切っていますね。



 碇家にやってきたアスカ。


 閉じこもり気味のレイを癒やして、
 いい感じ。



 真ん中で、
 優しさを持って。



 僅かな期間で大きな存在のアスカですね。



 さあ、訪問者の皆さん。
 感じたことをメールにしましょう!


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