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Winter Song

SIDE MANA



















TIME
24th December 1998



















彼女は大きな欠伸をもらす。

うーん。眠いよぉ。寝たいよ。

壁にかかっている時計を見る。

もう、夜中の二時を回っている。

連日の徹夜でかなり頭が回んなくなってる。

どうしようかな?

今日はここまでにして休んだ方がいいのかな?

でも、今日のノルマはあと少しだし。

彼女の手の中にあるものを覗き込む。

うーん。

やっぱりもう少しだけ…

そして彼女は続きを始めた。



「ありがとうございました…」

シンジは元気良く挨拶をする。
お金をレジに閉まって、シンジは店内の清掃に戻る。
隣でレジの清算をやっていた店長がふと顔を上げシンジに話す。

「シンジ君、そろそろ上がりの時間だよ。」

シンジは時計を見て答える。

「そうですね…じゃ、僕はこれで…」

「はい、おつかれさん。」

シンジはカウンターから奥の部屋の入ろうとする。
と、部屋から一人の青年が出てくる。

「おつかれさん。」

「青葉さん。お疲れ様です。」

シンジはぺこりと頭を下げる。

「悪いね。日向の代わりに入ってもらって。」

青葉は近所に住んでいる大学生だ。
シンジは学校の先輩の日向の代わりに
このバイトを一週間だけ引き受けていた。

「いいえ。僕もアルバイト探してたんで、助かりました。」

「そうか。ま、一週間だけど、頑張って。」

「はい。」



This story based upon "Time-Capsule".
Time/98






「おふぁよ…」

欠伸をしながらシンジが現れる。
ユイはキッチンから返事をする。

「あら、今日は早いわね。どうしたの?」

シンジは椅子を引き寄せ座りながら答える。

「いや、なんとなくね…そーいえばマナは?」

味噌汁の具を入れてかき混ぜるユイ。
首をかしげてつつ答える。

「そうね、いつもならもう起きてきてるはずだけど…
でも、最近夜遅くまで何かしてるようだから。」

「ふーん。そういえば、昨日帰ってきた時にも起きてたみたいだし。」

シンジは昨日の夜のことを思い返す。
別に部屋を覗いた訳ではないが、
部屋から光が漏れていたのを見ている。

「シンジに起こしてきてもらう…わけにはいかないわね。
ちょっとこのお味噌汁見ててくれる?」

エプロンで手をぬぐって、シンジにおたまを渡すユイ。
受け取って、キッチンに立つシンジ。

「うん。わかった。」


ユイはマナの部屋のドアをノックする。
しかし、返事が無い。
ドアをゆっくりと開けて、部屋の中をそろそろと覗くユイ。
マナはまだ寝ているようだ。
と、テーブルの上に置いてあるものを見るユイ。
それは編みかけのセーターであった。
ユイは納得したようにうなづく。
一緒に広げられている本をみると、
難しそうな編み込みが入ったセーターが載っている。
ユイはすうすうと眠っているマナ軽く揺さぶる。

「ほら、マナちゃん。朝よ。起きなさい。」

「えー?もう朝なの。」

寝ぼけた声を出すマナ。
しかし、すぐぱっと目を覚ます。

「ユイおばさま?アタシもしかして。」

そして、起き上がって時計を見る。
ユイは慌てて答える。

「まだ、時間は大丈夫よ。」

ふうとため息をつくマナ。

「ねぇ、ちょっといいかしら?」

にっこり微笑むユイ。
マナのベッドの端に座る。

「いいですけど。朝食は?」

「シンジに任せてるから。」

ユイは首をかしげて見せる。

「違っていたのなら、いいけど。」

「はい。」

「もしかして、誰かさんへのプレゼントを作っているのかしら。」

そして、テーブルの上のものを指差す。

「…は、はい。」

真っ赤になってうつむくマナ。
そんなマナにユイは安心させるように微笑みかける。

「大変じゃない?アタシも覚えがあるけど、結構時間かかるのよね。」

「そうなんです。思ったより時間がかかって…」

ふう、と大きくため息を付くマナ。

「本当は手伝ってあげたいんだけど…
そういうものは自分でつくらないといけないし…
そうね、何か分からないところがあったら遠慮しないで聞いてね。
少しは時間の短縮になると思うから。」

「いいんですか?」

「もちろん。」

ユイも嬉しそうに微笑む。


「もう、二人とも遅いよ。朝ご飯作っちゃったよ。」

二人が戻ってくると、シンジがエプロンをつけておたまを持って立っていた。
テーブルではゲンドウがコーヒーを飲みながら、新聞に目を通している。

「あら、アナタ。ご飯は?」

ユイが不思議そうに声をかける。
ゲンドウは朝食後にコーヒーを飲むからだ。
その問いに新聞に目を通したまま答えるゲンドウ。
一度新聞を読み出すと、読み終わるまで新聞から目を話さないのだ。

「あぁ、もう食べたよ。君の目玉焼きもいいが、
シンジの目玉焼きもなかなかいいぞ。」

「そりゃ、母さん仕込みですから。」

シンジが苦笑する。
これからの男性は加持一般をこなせなければ駄目という
ユイの方針にしたがってシンジは家事一般は普通にこなしてしまう。
シンジは目玉焼きをマナと自分が座るテーブルの前に置く。
そして、マナににっこり微笑む。

「おはよ。」

マナも微笑みかえす。
その挨拶はいつも二人の間で交わされるもので、
珍しくはない。
しかし、なぜかマナは恥ずかしくなり頬を染める。

「おはよ。シンジのエプロン姿似合ってるよ。」

「なんか、別に意味が有りそうだな。」

慌てて、手を振るマナ。
特に深い意味があった訳ではなかったし、
寝起きから、そんなに頭が回る訳でもない。

「ううん。そのひよこエプロンがかなり似合ってるって思ってから。」

「うーん…まぁいいや。母さんが来たんだったら、僕もご飯食べるね。」

シンジはエプロンを脱ぎマナの隣に座る。

「はいはい。」

ユイが代わりにエプロンをつける。
そして、ゲンドウがコーヒーを飲んだのを見て尋ねる。

「まだ、コーヒー飲みます?」

あいかわらず、新聞から目をそらさずに答えるゲンドウ。

「あぁ、問題無い。」

ユイはカップにコーヒーを注ぐ。

「いただきまーす。」

「いただきます。」

シンジ、マナの二人は朝食に取りかかった。


「寒いね。」

「そうね。」

二人は歩道を学校に向かって歩いていく。
歩道にはかなりの人達が歩いていた。
寒さは厳しいが、日差しが出ているので、少し暖かかった。

「なんか、人が多いね。」

マナが辺りを見回して話す。
道路にも自動車の列が出来ている。

「そうだね、でも、ここも来年、いよいよ遷都されるし、
人や物が増えてくるんだろうね。」

「そうね。」

二人は、いつものように並木道を抜けて歩いていく。
シンジはふと思い付いたようにマナに話し掛ける。

「そういえば、昨日遅くまで起きてたようだけど、何かしてたの?」

「え?何か聞こえた?」

マナは慌てて答える。
どうしよ。
ばれちゃってるのかな?

「ううん。僕が帰ってきた時に部屋から明かりが漏れてたから。」

「そう…ちょっとね。気になることがあって。」

「そうか。」

シンジは納得したようにうなづく。
マナはほっとしたようにため息を付く。
こういうのはナイショにしておかないと。
マナはどきどきしていた。


マナは授業中も編み物と格闘していた。
あーん。
もう、編み目の数、数え間違えたよ。
えーっと。
いくつだっけ?
本を取り出し、とあるページを開く。
ひとつ、ふたつ…
やっぱり、編みすぎちゃった。
もう。
ほどかないといけないし。
マナは慎重に編み目をいくつかほどく。
そして、もう一度、編み目を数える。
ひとつ、ふたつ…
あれ?
編み目が足りないよ。
どうして?
解きすぎちゃったのかな?
マナはため息をつく。
まぁ、いいや。
足りなくなった分はまた編めば…
と、後ろの女の子が背中をつつく。
マナはびくりと震えて、後ろを見る。

「どうかした?」

その女の子は小さく前をさして答える。

「多分、次の次ぐらいにマナちゃん当たっちゃうよ。」

マナは慌てて、教科書を取り上げる。

「えーと、今どこやってるの?」

その子は教科書のとある位置をさす。
今は英語のリーディングの時間で、
1人1パラグラフづつ英訳を行っていた。

「ここやってるの。」

「さんきゅ。ありがと。」

「どういたしまして。がんばってね。」

その女の子はぱちりとウィンクをする。
マナはそれにVサインで答える。

「うん。頑張る。」

振り返り、マナは教科書を読んで自分の当たるであろう個所をさっと和訳する。

「えっと…街灯がまたたく歩道を…私は…一人で歩いています…
あなたは…いま…誰と何処で過ごしているのでしょうか?…」

シンジは机に突っ伏して、爆睡していた。
別に睡眠不足という訳でもないが、
やはりバイト初日ということでいろいろと疲れが溜まっていたようである。
しかも、昼食後、午後一番目の授業である。
寝てしまったのも、無理はなかった。
英語の教師である、加持がシンジの隣にやってきて、頭を教科書でぽんと叩く。
しかし、シンジは全く起きない。
クラスの数名がくすくす笑う。
さらにぽんぽんと頭を叩かれると、シンジが小さな声で答える。

「うーん。もうちょっと寝かせてよ。」

クラス全員が爆笑する。
加持も苦笑してマナを見る。

「霧島君。彼は朝もこんな感じなのかい?」

加持としては冗談のつもりだった。
いきなり名前を呼ばれて、慌てて編みかけのセーターを隠すマナ。
慌てていて、つい素で答えてしまう。

「えぇ、いつもなかなか起きなくて、苦労してます。」

そのセリフにクラス中に歓声が上がる。

「おいおい、まさか本当じゃないよね。」

そう言われて、マナはきょとんとするが、慌てて答える。

「ええ、も、もちろんです。」

しかし、クラス中はどよめきに包まれていた。
その中でシンジはまだ眠りこけていた。


マナはリビングでユイに分からないところの編みかたを教わっていた。
女性二人で盛り上がっているため、かやの外のゲンドウ。
なんとなく、居場所が無い。
しかたなく、雑誌を読みふけっていた。
マナはユイの手元を見て、必至に編みかたをマスターしようとしていた。

「ね、ここは…こうして。」

ユイは手首をかえす。
マナは自分でもやってみる。

「あ、なるほど。こうやればいいんですね。」

「そうそう…で、今度は…こう。」

「はい。できました。」

こくこくうなづくマナ。
それをみて、ユイはにっこり微笑む。

「で、後はこれの繰り返し。編み目の数だけ気を付けてね。」

「はい。わかりました。」

マナはぺこりとお辞儀をして、ぱたぱたと部屋に戻っていく。
ユイはそれを見送る。

「嬉しそうだな。」

ゲンドウが雑誌ごしにユイを見る。
ユイは嬉しそうに微笑む。

「そうですよ。だって、シンジに編み物教えるわけにはいかないですし。」

「なるほど。」

「なんか、違う意味でお母さんの気分を味わわせてもらいました。」

「そうだな、子供も、男か女で違うからな。」

「でも、マナちゃんがうちの子になってくれれば。」

「おいおい、それは早計だろ。」

「あら、そうですか。」

「あぁ、決めるのは二人だからな。」

「へぇ、アナタもマナちゃんを気に入ってるんでしょ。」

「い、いや、ワタシは…」

「何、照れてるんですか。」

「い、いや。別に。」

ゲンドウは咳払いをして雑誌に目を移す。
ユイはおかしそうにその様子を見ていた。

マナは自分の部屋でセーターの袖と格闘していた。
両袖とも編んでみたのだが、長さが違う。
同じ数だけ編んだのに、胴も長さがびみょーに違う。
どうしよ。
おんなじ数だけ編んだのに。
うーん。
困った。
やっぱりおばさんに…
時計を見ると、もう夜中の三時を指していた。
あれ?
もうこんな時間。
まさか、こんな時間に聞く訳にもいかないし。
どうしよ。
しばらく考えるマナ。
そして、ふうとため息をつく。
ま、いいや。
予定より、少しだけ進んでるし。
今日は少し早いけど、もう寝ようかな。
マナはテーブルの上を片づける。
でも、最近シンジってバイトばっかりね。
たしか、24日で終わりって聞いてたけど。
どうしてバイトなんかやってるんだろ?
今までバイトって夏休みに少しだけやったくらいだよね。
そんな事を考えている間に片づけは終わり、ベッドに横になるマナ。
そして、電気を消す。
すぐに睡魔がやってきてマナはすうすうと寝息を立てはじめる。


数日後、マナのセーターは無事編みあがり、
シンジのバイトも最終日を迎えていた。
店の前の掃除をして、掃除があらかた終わった時に、
ふと、シンジは顔を上げた。
空から、白い結晶がゆっくりと舞い降りてくる。
それはみるみるうちに数を増やす。

「雪…か。」

シンジは店の中に入ろうときびすを返す。

「シンジ。」

その声に振り返るシンジ。
そこにはマナが立っていた。
白のロングコートを着て、少し大きめなかばんを持って、
手を振って、白い息を吐き駆け寄ってくる。

「どうしたの?マナ。」

シンジは笑みを浮かべて、マナがやって来るんもを待つ。

「ちょっと、用事があって…ねぇ、バイトって後少しで終わるんだよね。」

「うん。今日はこの掃除で終わりだよ。」

「じゃ、待ってていい?一緒に帰ろ?」

「うん。じゃ、急いで着替えてくるね。」

シンジはお店に入っていく。
マナは店の前に立ち雪が降ってくる様子をしげしげと眺める。
と、目の前をクリスマス用に飾られたバスが走っていく。
おかしそうに、そのバスを見つめるマナ。
そして、視線を舞い落ちる雪に戻す。
白い結晶はゆっくりと舞うように降ってきていた。
結晶はレンガの歩道にすこしづつ降り積もっていく。
大半は溶けていってしまうが、残っているものもある。
ふと、手を出してみる。
その手に雪の結晶が舞い落ちるが、すぐに溶けてしまう。

「ホワイトクリスマス…か。」

マナは微笑むとシンジがやってくるのを待った。

Fin.




NEXT
ver.-1.00 1998+12/24公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!


あとがき

作者のTIMEです。

クリスマス記念SS「Winter Song 」SIDE C MANAはいかがでしたか?
この作品はTime-Capsuleのサイドストーリーです。
クリスマスプレゼントって結構大変なんです。って話です。たぶん。
マナからのプレゼントはセーターですが、
当然シンジからのプレゼントもあったりするわけです。
で、何を渡したのかはそのうち本編で出てきます。
#でもいつになることやら。 かなり先です。

ところで、年明けの予定ですが、TimeCapsuleを、
そして、ずっと止まってたLove Passionを更新します。
来年の始めの頃は主に連載を更新していく予定です。

では他の連載もしくはSSでお会いしましょう。
まだの方はSIDE A,SIDE Bをお楽しみください。







  ここっここっっ





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